国家管轄外の海域のガバナンス [2008年12月29日(Mon)]
2008年の11−12月にかけては、海洋に関する国際会議や国内の講演が集中し、忙しいスケジュールとなった。加えて、11月はじめに南国シンガポールの冷房の効きすぎた会議室でひいた風邪が長引いて、かかりつけの荻原医院に何度も通う破目になった。そんな事情で紹介が遅れていた国際会議や国内の講演について、年内に数回に分けて紹介したい。
11月3−5日にシンガポールで「海洋・沿岸・小島嶼に関する世界フォーラムGlobal Forum on Oceans, Coasts, and Islands (GF)」主催の「国家管轄外の海域のガバナンスを改善するための管理問題と政策の選択肢に関するワークショップ」が開催され、出席した。 会議の冒頭トミー・コー大使に "Securing the Oceans" を贈呈 国連総会は、2004年11月、「国家管轄外の海域の生物多様性保全および持続可能な利用に関する問題研究のための非公式作業グループ(WG)」の設置を決定した。これを受けて、GFは、このような国連のプロセスを支援するため、2005年から国家管轄外の海域のガバナンス問題を取り上げ、多くの関係者によるオープンで建設的な政策対話を通じて海洋政策研究を行い、問題点を明らかにし、様々な見方を整理し、オプションを議論し、対立する利害関係者間の合意形成の道を探る取組みを行ってきた。 2008年には、GFは、この問題について日本財団の支援を受けて3つのワークショップを開催した。今回のシンガポール・ワークショップは、1月のフランスのニース、4月のベトナムのハノイでの開催に続く第3回目のものである。 前2回の議論を踏まえて、今回のワークショップでは参加者の考え方が「生態系に基づく管理(ecosystem-based management(EBM)」の実施に収斂し、国家管轄海域、複数の国々の海域に関わる大規模生態系(LME)及び国家管轄外の海域を含む地域海をいくつか取り上げ、そこで生態系に基づく管理の適用可能性を試す実験を行うことが議論された。そのために世界環境ファシリティ(GEF)に次のフェイズ(GEF5)で資金支援を求めることが協議された。 今回の会議では、私も「Holistic Approach to Management of Ocean Space(海洋空間の管理への全体論的アプローチ)」と題するプレゼンテーションを行った。その中で、わが国が海洋基本法を制定して海洋の総合的管理に取り組んでいること、国家管轄外の海域とそれに隣接する沿岸国の排他的経済水域は、一体性が強く密接に連携して管理する必要があること、海洋の総合的管理には陸域や生態系に対する総合計画と同様の総合的海洋空間計画を策定する必要があり、海洋空間管理(MSP)に注目する必要があること、そのための第一歩として海洋管理に必要な海洋情報・データの収集整備を行って、国家管轄外の海域と沿岸国の排他的経済水域の双方で、海洋台帳の作成に取り組むべきことなどを述べた。 なお、これに関しては、昨年新設され、海洋の情報を収集し、海洋のマッピングなどに取り組んでいるというフランスの海洋保護区庁の発表が興味深かった。 今回のワークショップでもう一つ印象深かったのは、海洋問題に対するシンガポール政府の積極的な対応である。領海以上の海域を持たず、したがって従来は海事活動以外の海洋問題にはあまり積極的な関心を示さなかったシンガポールが、最近海洋問題の重要性に対する理解・認識を深め、海洋の持続可能な開発や生態系に基づく管理などの取組みに積極的に関心を示すようになった。それを端的に示したのが、今回のワークショップのシンガポール政府による共催である。ワークショップの共同議長をメアリー・シーチェン大使が務め、会議の冒頭には第3次国連海洋法会議及びリオ地球サミットの議長を務めたトミー・コー大使が記念講演を行うという熱の入れようであった。海洋問題へのシンガポールの新たな積極的姿勢が強く印象に残る会議となった。(了) PEMSEA、日本財団が共同出版した新刊 "Securing the Oceans" |
Posted by
寺島紘士
at 23:14