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公益財団法人 日本リハビリテーション協会’が発行する月刊誌「ノーマライゼーション 障害者の福祉 2014年9月号」
『【特集】 どこまで進んだか、交通バリアフリー』に、わたしたち
土浦バリアフリーネットのメンバーでもある今福義明さん、ならびに、当ネットと協働している土浦市都市計画課担当職員である室町和徳さんが執筆された文章が掲載されました。
室町さんの文章にも記されていますように、わたしたちの土浦市は2006年12月に施行された「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」いわゆる‘バリアフリー新法’に基づく住民提案(土浦バリアフリーネット提案)により、‘バリアフリー基本構想’を策定した全国初の自治体です。
発行元ならびに執筆者お二人から掲載快諾が得られました。以下に再掲し、ご紹介させていただきます。
なお、今回は特集の目次等ならびに室町さんが執筆された文章を掲載し、次回に今福さんが執筆された文章をご紹介します。
形式は、情報バリアフリーの視点から、雑誌の掲載ページをPDF化したものとテキストに起こしたものとを併載いたします。
(滝野・大脇(正)・大脇(香))
{記事PDF}
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《特集目次》・
《特集まえがき》と《室町和徳さん 記事》{記事テキスト}
-------------《特集目次》P6
発行所 公益財団法人 日本障害者リハビリテーション
「障害者の福祉『ノーマライゼーション』9月号 特集目次」
特集 どこまで進んだか、交通バリアフリー 9頁
・バリアフリーの現状と課題、今後の展望 秋山哲男 10頁
・交通バリアフリーの推進と障害当事者団体の役割 今福義明 13頁
・あらゆる障害者、高齢者や子どもにも快適で 利用しやすい富山市の「富山ライトレール」 八木勝自 16頁
・新法≠具体的にするために 五十嵐真幸 18頁
・「土浦市バリアフリー基本構想」の策定と当事者参加の取り組み 室町和徳 20頁
・創設2年目を迎えた『鉄道ホーム改善推進協会』の活動 今野浩美 23頁
・当事者からの評価 下記
地方農村部における重たい課題 頼尊恒信 26頁
弱視者にとっての「交通バリアフリー」とは? 並木 正 28頁
誰もが安心して利用でき、情報アクセスができるには 吉野幸代 30頁
障壁について(交通機関) 土本秋夫 32頁
・台北市の公共交通機関調査を行なって
〜どこかで間違った日本のバリアフリー〜 山名 勝 34頁
-------------《特集まえがき》P9
特集 どこまで進んだか、交通バリアフリー
2006年に施行された「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー新法)」は、従来のハートビル法と交通バリアフリー法を統合・拡充したもので、建築物や公共交通機関などのバリアフリー化を一体的に整備することにある。法律施行から8年が経ち、昨年6月に障害者差別解消法の成立、今年1月に障害者権利条約の批准と、今後ますます当事者の視点に立った施策の推進が求められる。
特集では、交通バリアフリーに焦点をあて、その整備がどこまで進んでいるのか、さまざまな方面から高い評価を得ている富山ライトレールの紹介をはじめ、事業所や自治体の取り組みや障害当事者の方々からの評価など、さまざまな立場の方からこ意見をいただき、現在の到達点と課題を探る。
-------------《室町和徳さん 記事》PP20-22
「土浦市バリアフリー基本構想」の策定と当事者参加の取り組み
室町 和徳(土浦市都市計画課 副参事兼課長補佐)
1 はじめに
高齢者や障害者などを含めたすべての人が暮らしやすいユニバーサル社会の実現を目指し、平成18年12月に「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー新法)」が施行されました。
従来は、不特定多数の人たちや、主に、高齢者や身体障害者などが使う建築物のバリアフリー化を進めるためのハートビル法、また、鉄道車両、バスなどの公共交通機関と駅などの旅客施設周辺の歩行者空間のバリアフリー化を進める交通バリアフリー法、この二つの法律が推進されていました。しかし、それらの法律が別々に作られているということから、バリアフリー化自体が施設ごとに独立して進められ、連続性が図られていないといった問題や、駅などの旅客施設を中心とした地区にとどまっている状況があり、利用者の視点に立った施策の必要性が求められていました。
このことからバリアフリー新法は、二つの法律のそれぞれの課題を踏まえて、統合・拡充されたものです。
また、バリアフリー新法では、住民などからの基本構想策定に対する提案制度が新たに盛り込まれ、土浦市バリアフリー基本構想は、その提案制度により策定された全国初のバリアフリー基本構想となっています。
そこで本稿では、基本構想策定に至るまでの過程やその後の取り組みを述べたいと思います。
2 基本構想策定の経緯
市では、これまで「すべての人が安全で快適に暮らせるバリアフリーの推進」を図るため、「人にやさしいまちづくり計画」に基づき、公共施設等のバリアフリー化を推進してきました。
このようななか、平成19年7月に「バリアフリー新法にもとづく基本構想の策定を実現させる会」より、バリアフリー新法における住民提案制度に基づいて、土浦駅周辺地区の基本構想策定の提案がなされました。
市では、これらの提案を受け、「人にやさしいまちづくり計画」や「土浦市第7次総合計画」との整合性を図りながら、土浦駅、荒川沖駅、神立駅の3駅を中心に基本構想を策定することとしました。
基本構想策定にあたっては、バリアフリー新法が施行され、より高い水準のバリアフリー化か求められていること、基本構想策定に対する住民提案があることを踏まえ、本市における総合的なバリアフリー化の推進を図るために、市民、関係団体、公共交通事業者、施設管理者等との協働により、基本構想を策定することとしました。
3 住民提案の基本構想への反映および住民の関わり
住民提案を基本構想にどのように反映し、住民はどのように関わったのかについて述べたいと思います。
住民提案のポイントは三つです。
原文では、@土浦市における一つ目の基本構想策定は、高齢者・障害者がよく利用し、観光客も多い土浦駅周辺〜土浦港、ショッピングモール505〜亀城公園までを一体的に整備するものであること。A「基本構想策定・推進」は、企画から現場の調査、施工、事後評価に至るまで高齢者・障害者等当事者が深く関与できる参画の仕組みをつくること。Bユーサーエキスパートや、参加したい人すべてが参加できる公募の仕組みをつくること。
言い換えますと、@重点的に整備が必要なルート設定、A当事者参画・スパイラルアップ、B協議会への公募委員の選出となり、これらの提案を以下のように反映しました。
(1)重点的に整備が必要なルート設定
・提案のあったルートについては、高齢者・障害者が多いという特性を生かしたまちづくりだけでなく、観光客による中心市街地活性化も十分考慮しました。なお、観光基本計画とも調整した結果、土浦駅周辺のルートについては複数のバリアフリー化されたルートを作り、かつ休憩スペースも設置することで観光客の回遊性の向上も考慮しました。
・他に、生活関連施設等の立地状況や、上位・関連計画を踏まえて重点整備地区を抽出し、最終的に、市内の3駅周辺を重点整備地区として設定しました。
(2)当事者参画・スパイラルアップ
・基本構想策定にあたり、外部の方々を交えた土浦市バリアフリー基本構想策定協議会を設置することになり、その基本構想策定協議会のメンバー22人のうち、関係団体からは4人、市民公募は2人、地域住民代表からは1人の委員選出のほか、住民提案団体からも2人がオブザーバーとしてご参加いただきました。
・協議会を3回実施し、ご意見をいただくとともに、生活関連施設や経路の検討のために、意見交換会およびワークショップを4回実施し、利用者意見の取りまとめも行いました。
なお、スパイラルアップについては、後述する策定後において説明します。
(3)協議会への公募委員の選出
関係団体からの参加のほか、市民公募については「土浦市審議会等委員公募要綱」に基づき、選考委員会で小論文・書類にて決定しました。
このように、住民提案のほとんどを基本構想に反映させ、さらに、当事者を含めた多くの住民の方々の意見を取り入れながら、バリアフリー基本構想を策定しました。
4基本構想策定後の現在の取り組み
(1)特定事業計画の策定
基本構想策定の後、策定協議会は発展的解散をし、策定した基本構想の適正な進行管理を行うために、平成21年度から新たに土浦市バリアフリー推進協議会を設置しました。この協議会のメンバーについても、基本構想策定協議会のメンバーがおおむね引き継いでいます。
この推進協議会において、まずはバリアフリー特定事業計画を策定しました。
この特定事業計画策定の目的は、基本構想に定められた特定事業の推進を図るため、基本構想に基づいて、実施する事業の内容や予定期間等を示す具体的な計画を定めるものとし、各特定事業者間の整合性を確保し、効果的かつ一体的なバリアフリー化の実現を図るため、各事業者と協議・調整の上、策定を行なったものです。
特定事業計画では、3駅周辺地区ごとにバリアフリーまちづくりの方針を定め、基本構想に位置付けた特定事業の具体的な内容および実施予定期間を定めました。
(2)特定事業計画の進行管理
特定事業計画の実効性を高め、効果的なバリアフリー化を推進していくためには、事業の適切な進行管理を行う必要があり、土浦市バリアフリー推進協議会を定期的に開催し、事業の進捗状況の把握や事業の内容・スケジュール等の調整を行なっています。
(3)意見交換会での計画・設計・実施・完了時の評価、スパイラルアップ
バリアフリー推進協議会のほかに、当事者と事業者を交えたバリアフリー意見交換会を実施しています。
この意見交換会は、実施予定、あるいは実施中の特定事業について、当事者側からは問題点や要望の提示を行い、事業者側からは工事の仕様やその理由を説明することにより、当事者と事業者の間で特定事業の内容に対する齟齬(そご)を減らし、その認識を共有するものです。
また、特定事業の実施後は、報告・検証を通じて、可能な範囲で修正・改善を行うとともに、修正が不可能な箇所については今後の特定事業に反省点を反映し、バリアフリー推進事業全体のスパイラルアップを図るものです。
(4)心のバリアフリーの推進
市民一人ひとりが自発的にバリアフリーへ取り組めることを目的として、車いす体験・高齢者疑似体験を行う 「バリアフリー教室」を毎年開催しています。この教室をとおして、多くの市民の方々に高齢者や障害者の皆さんが日常感じている困難を認識し、バリアフリーに関する理解を深めていただきたいと考えています。
5最後に
特定事業計画を進めて6年目になりましたが、まだまだ道半ばです。
今後も計画、設計の段階から、当事者参画で行うことを念頭に、バリアフリー推進協議会および意見交換会で協議・検討を行いながら特定事業計画を推進し、本市のバリアフリー施策の継続的な発展を目指していきたいと考えています。
(むろまち かずのり 土浦市都市計画課副参事兼課長補佐)
【参考資料】
土浦市バリアフリー基本構想(PDF形式/37.45MB)
ノーマライゼーション 9月号 2014年