樋口恵子と堀田力の対立 [2010年08月05日(Thu)]
私が専務理事をしているNPO法人市民福祉団体全国協議会は毎月3回のFax通信を発行している。それに、毎月1回、浅川澄一日経新聞記者が寄稿をしている。本日(八月五日号)は、注目すべき記事がでている。下記にご紹介する。
「介護保険を持続・発展させる1000万人の輪」は樋口恵子さんを共同代表とする団体であり、私も運営委員の一人だ。この組織は介護保険に関わりのある家族の会、ケアマネージャー協会、介護福祉士会、事業者、労働組合や市民協などのNPOも参画した幅広い市民団体だ。介護保険に関連のある人や団体が意見交換をし、できるだけ制度を良いものにしていく努力をしない限り、官僚の思うがままのコントロールされることがわかりきっているわけで、そのようにさせないために設立され、活発な行動を行っている。そして、介護保険制度の改革案を提起した。 http://1000man-wa,net http://www.1000man-wa.net/teigen/teigen.pdf これに対して、反論するために旗揚げされたのが「介護の社会化を進める一万人市民委員会2010」(堀田力、鳥海房枝代表)。どうもこの団体の立ち上げは胡散臭い。浅川氏は言う。「今回「再活動」した裏には、『厚労省の後押しがある』という声も聞かれる。さらに、厚労省が率先して動いた、という解説も聞かれる。」というわけだ。市民団体の名前をかたる厚生労働省の言いなり団体なのだろうか。そういえば、厚生労働省に文句を言えない人が主要なメンバーに並んでいる。 どのように判断するかは、下記の浅川氏の記事を読んで、読者が決めてください。それにしても手の込んだやり方をしてくるものだ。国民は、こうした変化球に騙されずに、介護保険の継続・発展のために真摯な議論をしよう。 《記者の目》 認定制度巡り市民運動が対立 日本経済新聞社 浅川 澄一 「1000万人」と「一万人」が対立状態に入った。共に「より良い介護保険制度」を作り上げようという市民団体である。2012年度の改訂作業に入ろうとしている介護保険の議論に早くも火がついた。 正しくは「介護保険を持続・発展させる1000万人の輪」(樋口恵子、白沢政和、高見国生共同代表)と「介護の社会化を進める一万人市民委員会2010」(堀田力、鳥海房枝代表)だ。 対立の争点は要介護認定の認定制度。 両団体が対立状態に入ったのは7月26日。この日に「一万人」の活動再開シンポジウムが東京で開かれ、「1000万人」の主張をはっきりと批判したことによる。この日、「一万人」は、「目指す方向」と題した活動方針のなかで「認定システムの廃止・空洞化(要介護度の簡略化等)の阻止」を謳いあげた。当日配られた資料集の中でも明記している。 そこでは、「社会保険は保険事故を明確に定義して、これに該当する場合、給付を行う仕組みであり、要介護認定は保険事故の定義に当たる。その廃止・空洞化は保険制度を根底から覆す」とある。 × × 要介護高齢者が介護保険サービスを利用するときに、その出発点となるのが要介護度の認定である。7段階のどのレベルに認定されるかで、一割負担で済む介護サービスの総量が決まってしまう。いわば介護保険制度の土台でもあるのが要介護認定。 これに疑問を抱き、市民団体や業界団体など介護保険関連組織の中で初めて異論を唱えたのが「1000万人」であった。制度の簡素化を図る観点から、7段階の認定について、即時廃止ではなく、「次の制度改正時には、現行の7区分を3区分(軽度、中度、重度)に粗く」とし、「将来的には要介護認定システムをなくし」としている。3月に提言した。 次いで、全面廃止を真っ向から唱える団体が登場した。 会員1万人を擁し、全国45都道府県に支部を持つ「認知症の人と家族の会」(本部京都市、高見国生代表)である。代表の高見氏は「1000万人」の共同代表の一人でもある。 6月5日に京都市で開催した総会の席上で要介護認定廃止を提言した。ここで見逃してはならないのが同時に、「保険者を加えたサービス担当者会議で介護サービスを決定する」と、認定制度に代わる代案をきちんと示したことだ。 認知症の人たちの中には、軽い認定のため1割負担内の支給限度額を上回るサービスを利用せざるを得ないと同会では訴える。その結果、全額負担部分が増えて支払い能力を超えるため、やむなく施設入所に至ってしまう。 この流れを改めるには、ケアマネジャーが主宰するサービス担当者会議を主役に据えることだという。現行の同会議に自治体からの出席を仰ぎ、客観性を保つことも提案している。この現場主導の代替案は、ケアマネジメントに詳しい白沢政和・大阪市立大学教授の認定見直し論に通じる。 白沢氏は、「利用者の家族状況や住環境の社会的要因を考慮すべき」とかねてから唱え、「一人暮らしや住環境の劣悪な者の要介護度は高くならないのが実態」と言う。匿名の高齢者について聞き取り調査と医師の意見書だけで認定を下す判定会議では、利用者の暮らしの実態が考慮されないのは確かだろう。 つまり「1000万人」の共同代表3人のうち2人が要介護認定の廃止を唱え、同会全体としては、当面、3段階への簡素化を打ち出していることになる。 × × こうした、市民運動の高まりに対して、やはり市民運動の名で反対活動に着手したのが「一万人」。同会は、介護保険発足時に先駆的な提案をしてきたことで知られる。措置制度からの大転換を促す有力グループとして機能し、介護保険を推進した厚労省にとっては「援軍」にもなった。一旦終焉した同会が、今回「再活動」した裏には、「厚労省の後押しがある」という声も聞かれる。 さらに、厚労省が率先して動いた、という解説も聞かれる。というのも「認知症の人と家族の会は、認知症ケアを推進していくためには欠かせない重要な組織。認知症サポーターの100万人養成運動もその一つ。同会が反旗を翻したことへの危機感が厚労省の背中を押した」とする読みだ。 確かに、同省幹部は「今の段階で要介護認定の是非を議論したくない」と明言している。 かつての「一万人」の共同代表は堀田力氏と樋口恵子氏だった。介護保険の市民リーダーともいえる2人がどうやら袂を分かつことになりそうだ。新たに共同代表になった鳥海氏は、NPO法人メイアイヘルプユーの理事で、かつて東京都北区の特養で「縛らない介護」を実践してきた現場の介護者だ。 × × 「一万人」の冒頭の挨拶で堀田氏は「何でも介護保険でやってもらおうという甘えた人たちは、特養の相部屋推進の人と同様に介護保険の抵抗勢力です」と断定。認定廃止派への対抗意識を明確に打ち出した。認定制度がなくなると、利用者が必要以上のサービスを要求すると危ぶんで、「甘え」と断じたようだ。 「医療は治れば終わりですけど、介護はそうではない。とりわけ生活支援サービスは際限がない。無限に要求する甘える子供と同じです。確かに認知症の方には不満がたまっているでしょう。認知症は軽度な人ほど手間がかかりますから。それへの対応がまだ確立していないのです。その不満が、認定制度全体がおかしいとなった」。「認知症の人と家族の会」を意識した発言である。 そして、「認定制度の廃止は介護保険の破壊につながる」と言う。「(廃止してしまうと)歯止めの役割をケアマネジャーが出来るかと言うと、そんな力はない」とも述べた。 同委員会のシンポジウム当日には、国の社会保障審議会介護給付費分科会の座長である大森弥・地域ケア政策ネットワーク代表幹事(東大名誉教授でもある)がフロアから発言し「介護保険の骨格をいじること」と認定廃止を非難した。 同分科会は次期改訂案を議論する重要な場である。審議を始めようという矢先に、進行・審判役がこのテーマに結論を下してしまった。双方の議論を戦わせる場が消えてしまうのであれば、その公平性が問われかねない。 × × 介護保険の次期改訂に向けて社会保障審議会では、介護給付費分科会と並んで介護保険部会(座長・山崎泰彦・神奈川県立保健福祉大学教授)が毎月開かれている。前者は制度見直しに伴う報酬や基準について答申し、後者は法律改正を含む制度見直しの基本的考えをまとめるものだ。 介護保険部会の今後のスケジュールが7月26日の同部会で示されたが、それによると、8月30日に要介護認定が議題になる。その検討内容は「不可欠な制度であるとの指摘がある一方で、認定事務が煩雑であり簡素化すべき、認定区分の簡素化や廃止を検討すべきなどの指摘があることについてどう考えるか」と書かれている。一応、両者の言い分を列記しており、中立的な装いをとっている。 この日に、同部会の28人の委員がどのような意見を表明するかが注目される。 |
Posted by
田中尚輝
at 14:04