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【ブックレビュー】弱者の居場所がない社会 [2015年10月27日(Tue)]
こんにちは、スタッフの佐藤(順)です。
毎週火曜日は、助成金情報、ブックレビュー、お役立ち情報などをお届けしています。
今回は社会的包摂の考えから貧困と格差社会の問題を論じた本です。 

書名 「弱者の居場所がない社会」貧困・格差と社会的包摂
編者 阿部 彩
  (国立社会保障・人口問題研究所 社会保障応用分析部長)
出版社 講談社(2011年11月20日発刊)


「社会的包摂」という言葉は、馴染みがない用語かもしれません。人が他者とつながり、互いに存在を認め合うことで生活困難を抱えた人を社会的に排除せず、社会で包み込もうというもの。貧困などを原因とする格差が広がる社会において「社会的排除」に相対する理念として生まれた考え方です。

本書では、まず貧困による生活崩壊の実態をデータで示しています。(2007年人口問題研究所ほか)例えば、この一年で暮らすのに必要な食料を買えなかったことがあるというのが8世帯に1世帯、必要な衣類が買えなかったのが5世帯に1世帯との回答結果には驚かされます。

しかし著者は、貧困が金銭的、物品的に欠乏している状態に対して、その不足をきっかけに社会の仕組みから脱落して、人間関係が希薄になり社会の一員としての存在価値が薄れているいく社会的排除をより問題視しています。
本書の論述にあたり印象深くとりあげていたのはホームレスの人と接触した例です。
@助け合いながら暮らしていた4人のグループのつながり方(一人が死亡したことで離散した) 
A駅に野宿する常連のAさんが、倒れた自転車を無償で直す「役割」を得て誇りを得ている話
B街路樹の下を頑なに「居場所」としてうずくまって寝ている仙人と呼ばれている人

これらホームレスが社会的排除をのがれて最後にすがった、つながり、役割、居場所へのこだわりを、社会的包摂を実現する基盤の姿と重ならせています。

もう一例は、やはり路上生活をしている身の丈180cm、スキンヘッドの元大工「かっちゃん」。
かっちゃんは、乱暴者で皆が公園清掃で汗を流している間、野次を飛ばしたり、芝生でごろごろしている非協力的な人物だが、路上生活の新参者の面倒見がよかったりなどのためか、仲間の間では受け入れられていたとのこと。(社会的な承認を得ていることの証)
※ただ、数年後、ダンボール小屋で泥酔中に火を付けられ焼死したとのこと。

著者は、社会保障制度の三本の柱である、社会保障、公的扶助、就労支援によって「かっちゃん」を救い上げられただろうかと制度の問題にも言及し、結論的には、問題の解決を貧困者や障がい者に求めず、支援の出口である労働市場や社会が変わらなければ解決しないと述べています。

また調査資料に基づき、格差が人間関係を劣化させ、互いの信頼関係を薄くし暴力事件など社会問題を引き起こしかねないことを懸念しつつ、地域コミュニティの役割にも期待しています。

まとめとして社会的包摂政策して「すべての人が暮らしやすい」ユニバーサルデザインの社会の実現を提案していました。読後「社会的排除」は目に見えにくいために、深刻に社会を蝕んでいることに気づかされます。よりよい地域作りをめざすNPOには一読の価値のある社会的包摂の入門書です。

たがさぽの貸し出し図書「たがさぽ文庫」にありますので、興味がありましたらぜひ借りてみてください。
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