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平和構築―プロジェクト準備中!<その3:オルタナティブ(コミュニティ)メディアのネットワーク化> [2010年04月02日(Fri)]
前置きが長くなりました。(すみません)

私は、南部3県の中心地であるパッタニーに数度出張し、コンタクトをたどって、紹介された現地団体や識者にヒアリングを行ったのですが、2004年以降情勢が緊迫していることもあり、また欧米からの大規模な資金援助が入っていないこともあり、私達SPFのような海外の助成財団が、海外から助成を行うような体制の整った(英語での報告書作成や会計事務など)団体の発掘は困難を極めました。また、当然のことながら、仏教徒とイスラム教徒の間の緊張関係に目を配って助成先を考えねばなりません。

しかし、ヒアリングを続ける中で、南タイでは、紛争地からの情報発信や、人々の(日々の生活上の)サバイバル、仏教徒とイスラム教徒との間の協力関係の構築等の分野で、ユニークで面白い活動を行っているウェッブサイトやコミュニティ・ラジオなどの小さなメディアが多く存在することがわかりました。現在、これらのメディアが力をつけて、紛争解決につながるような試みを実践していけるように支援を行えないかと考えています。まずは、これらの「オルタナティブ・メディア」、あるいは「コミュニティ・メディア」関係者を集めて、こうしたメディアが発信力を強化し、活動の質を向上させるにはどうすればよいのか議論を行ってもらいました。(2009年12月20日 於 CS パッタニーホテル)

会議は、南タイの紛争被害について定期的な調査を行い、また地元知識人の論考をウェッブ発信するウェッブメディア、Deep South WatchとSPFの共催の形で行い、南部3県で活動を行うコミュニティ・メディア、及びメディアを活用して活動を展開するNGOに広く参加を呼びかけました。



参加したのは、Deep South WatchAMAN News CenterIsra NewsPrachathaiFasai Center、あるいは各県に存在するコミュニティ・ラジオ等のメディア関係者や記者、またメディア関係者ではないが、ウェッブサイトやドキュメンタリー映画等を活用して活動を展開するNGO活動家、プリンス・オブ・ソンクラー大学内でキャンパスラジオを運営する教師や学生たち、等々24団体50名ほど。文学出版を志しているグループや、雑誌(「Same Heart」)関係者、平和をテーマに村々で公演を繰り返すキャンパスの演劇サークルの学生たちも顔を出しました。

Deep South Watch代表のSrisompob Jitpiromsi氏が会議開催の趣旨を説明した後、まずはそれぞれの参加団体の活動紹介の目的で、活動拠点と内容を記したカードを使って、地図を作成。



その後で、現在これら関係者が直面する課題や、解決策について議論が行われました。最も大きな論点は、自分たちが発信する情報は果たして十分に南タイの人々、そして南タイを越えてバンコク、タイの他地域、海外の人々に届いているだろうか、というもの。どうやって情報の質を向上させていけばいいのか、記者や市民ジャーナリスト研修の必要性や、翻訳、バンコクや海外の報道機関との連携強化、NGOとメディアの連携についても話し合われました。

この会議には、2008年にスタートしたタイの公共放送、PBSの「市民ジャーナリズム」番組のディレクターSomkiat Jantarasima氏もバンコクから参加しました。また、SPFの依頼により、事業評価のために出張してくださった塚本俊也氏(青山学院大学大学院Global Expert Programプロジェクト教授)も参加し、旧ユーゴスラビアでの平和構築事業の経験についてお話くださいました。他の紛争地域での活動経験についてあまり聞く機会の少ないという、南タイの関係者も、熱心に耳を傾けていました。



この会議は昨年12月に開催されたものですが、この後、南タイで活動する(オルタナティブ/コミュニティ)メディアの緩やかなネットワークを立ち上げたいとの参加者のイニシアティブで、2月に関係者間で会議が持たれたとの報告がありました。現在、ネットワークが中心となって、南タイのメディア向けの研修事業の企画があれこれ議論されている模様です。SPFとしても、内容によっては支援が検討できればと思っています。

(佐藤 万帆)



平和構築―プロジェクト準備中!
<その1:方針策定のプロセス>
<その2:南タイについて>
<その3:オルタナティブ(コミュニティ)メディアのネットワーク化>


平和構築―プロジェクト準備中!<その2:南タイについて> [2010年04月01日(Thu)]
具体的なプロジェクトについてお話しする前に、まず、南タイの紛争背景について。概略ですが、現在紛争地として問題となっているのは、タイ南部、マレーシアと国境を接する、パッタニー、ヤラー、ナラティワートの3県です。



より大きな地図で 南タイ を表示


この地域には、14世紀から港市国家として栄えたイスラム国家、パッタニー王国がありました。隣接するシャム、アユタヤ王朝への朝貢関係はあったものの独立を維持した王国であったのが、19世紀にチャクリー王朝に敗れ、1909年には秦英通商条約によりイギリスと秦との間で領土を割譲され、領土のうち北側がタイ国家に併合されます。その後、タイが近代国家として発展していく過程で、時々の政権がイスラム教徒に対し同化政策を行っていきますが、これに反発する形で、タイ政府の統治の正当性を問い、パッタニー王国の領土返還を目指す分離独立運動が脈々と続いてきました。

この旧パッタニー王国領土、南タイ3県は、仏教徒が多数派を占めるタイにおいてイスラム教徒が住民の大半を占める特別な地域です。(現在タイのイスラム教徒は人口の5%に過ぎませんが、この8割が南タイ3県に集中し、南部3県では地域によって多少異なりますがイスラム教徒が6-8割を占めます)、イスラム教徒の住民達は、自らをパッタニー王国の子孫ととらえ、仏教徒とは異なるアイデンティティを持ち、タイ語ではなく「パッタニー・マレー」と呼ばれるマレー語を母語としています。

とはいえ、これらの南部3県では仏教徒も一定数暮らしてきましたし、反政府運動が盛り上がる時期もありましたが、歴史的には仏教徒とイスラム教徒が平和裏に共存してきたことが知られています。その状況が急変したのが2001年以降で、特に2004年に衝撃的な暴力事件が起きてからは、民族対立を背景に事件が急増し、2004年から2010年1月までに、4100人が命を落とし、6,509人が負傷しています。(Deep South Watch

国際的にも大きく報道された事件としては、軍と警察の武器保管基地7箇所が武装集団に襲撃され、その同日に、200年前に建設された「クルセー・モスク(Kruze Mosque)」にイスラム教徒が人質を取り立てこもり、その32名全員が当局に射殺されたというクルセー・モスク事件(2004年4月/死傷者は武装派グループ105名、治安当局5名、市民1名)や、イスラム教徒の逮捕に対し抗議デモが発生し、群集による投石事件を阻止しようとした軍・警察が発砲して7名が射殺され、また逮捕された1,370名の住民のうち、78名が軍基地に移送される途中で圧死したという「タク・バイ(Tak Bai)事件」(2004年10月)などが知られています。その他、この南タイが歴史的にイスラム教育の拠点であり、現在でも「ポノー」と呼ばれるイスラム寄宿学校がイスラム教徒の子弟を集めていること、タイ政府が補助金支給等を通じ「ポノー」の管理・統制を行い、公立学校の建設を進めたこと、などから学校が暴力の対象となっており、これまで100人近い教師が犠牲となっています。現政権下でも暴力事件の数は減っておらず、昨年6月には、ナラティワート県のアル・フーカン(Al-Furqan)モスクで、お祈りをするイスラム教徒に何者かが発砲し、10名が死亡、12名が負傷するという事件が起きています。紛争下でイスラム教徒・仏教徒の住民間の猜疑心が強まり、治安当局が組織した民兵へ供給される武器も流通する中で、仏教徒とイスラム教徒の住民間の暴力(Communal Violence)の様相も強くなってきているという指摘もあります。(International Crisis Group Asia Report N°181 8 December 2009 )



クルセ・モスク(2009年6月撮影)


これらの暴力事件、及び南タイ紛争の真相には不明点が多く、また、分離独立を目指して活動を続けていると考えられている武装グループも、犯行声明を出さず、具体的な要求を中央政府に突きつけていないことから、解決への道筋もなかなか見えていないのが実情です。また、戒厳令・非常事態宣言下で、逮捕状なしの被疑者の拘留が37日間認められる中で、武装グループとの関係が疑われた地元の人々に対する軍・警察による不当な拷問や人権侵害の問題も批判されており、また、国際的にも知られたムスリム弁護士、ソムチャイ・ネラパイジット(Somchai Neelapaijit)氏など行方不明者の事件解明も進んでいません。

紛争の真相がなかなか見えてこない南タイですが、バンコクや南タイの地元識者の分析を総合すると、住民の大半は政治的独立を望んでいるわけではなく、また武装グループを支持してもいない、そうではなく「マレー・パッタニー」としての自らのアイデンティティの尊重と、統治システムの問題、具体的には自らの声が政治やガバナンスに反映されるための具体的施策(例えば、現在では中央政府の任命に基づいて決定される知事の選挙や、イスラム教徒の自治体職員への登用など)を求めているのだとの意見が多数でした。

(佐藤 万帆)




平和構築―プロジェクト準備中!
<その1:方針策定のプロセス>
<その2:南タイについて>
<その3:オルタナティブ(コミュニティ)メディアのネットワーク化>