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 笹川平和財団の松木です。
 私は職掌がら、主要経済・金融指標をフォローすると同時に、金融機関やマスメディアからの情報やレポートに丹念に目を通す毎日です。これは私の37年来のライフスタイルです。
 さて今般“Weekly Remarks”のタイトルのもとにブログを開設いたしました。経済・金融ニュースの中から、特に日本の将来に重要なimplicationを含むものや、その重要性にも関わらず日本のマスメディアが取り上げない情報などを中心に書き込んでいきたいと思います。
是非御一読ください。

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銀行貸出残高の減少と国債保有額の急増

[2010年07月27日(火)]
 7月27日の日経新聞は、日米欧の銀行貸出残高が減少すると同時に、銀行の国債保有残高が過去最高の水準に達したと報じています。


 日本の国内銀行143行の5月末の国債保有残高は前年同期比23.5%増の138兆円、米国銀行の6月末に於ける連邦債(含む政府機関債)保有残高は前年同期比14.6%増の1兆4,800億ドル(約129兆円)、ユーロ圏銀行の5月末の国債保有残高も同じく9.8%増の1兆5,600億円(約175兆円)と、いずれも過去最高水準に達したとしています。


貸出残高の数字を見ると日本では5月末国内銀行ベースで2.9%減、米欧の貸出残高も
企業・家計が債務残高の圧縮を進めるなかで伸びが急速に低下し、昨年秋にはそろって減少に転じました。足元を見ても、米国では前年同期比2%超の減少が続き、欧州ではゼロ近辺の伸びに留まっています。


 同記事は、こうした減少が続けば、経済全体にマネーが行き渡らない恐れがあり、成長分野の事業拡大に支障が生じるとの見方も出ているとしています。又、欧州の信用不安を受けて銀行がリスクの高い融資に消極的な点も見逃せず、更に今回のストレステストの結果、欧州主要10行が1,540億ユーロにのぼる南欧3カ国発行の国債を保有していることが判明している事から、今後の資産内容悪化懸念にも触れています。


 ところで、貸出残高の減少と、それに対応した国際保有残高の増加という現象は日米欧銀行のバランス・シートの資産サイドに於ける共通の現象ですが、その背景には重要な相違点があることに触れておきたいと思います。


 それは、日本が金融バブル崩壊により毀損したバランス・シートの修復を既に終えているのに対し、米欧はサブ・プライム・バブルの破裂により毀損したバランス・シートの修復過程にあるという点です。

米国の家計・企業セクターは消費・投資のために新たな借入れを起こすよりも、新たに手にしたキャッシュ・フローは先ず債務の返済(統計上債務返済は貯蓄)に充てる状況にあります。従って、基本的には需要が停滞するバランス・シート不況の最中にあるということになります。

欧州も米国と基本的には同様の状況にありますが、ユーロ統一通貨がもたらす副作用や、ギリシャ政府を中心としたソブリン・リスクの金融機関への伝播などがあり、米国よりも事態は複雑です。

民間セクターがバランス・シート修復途上にあって、消費や投資が不活発な状況下では、公共部門が民間貯蓄を国債発行により吸い上げて、景気刺激的に支出して行かざるを得ないことになります。ここで、ギリシャ以外のPIIGS諸国では、住宅バブル破裂後、家計・企業セクターの債務返済が進行中で、貯蓄率の上昇に起因する需要不足を財政支出が補っています。

ドイツでは、サブ・プライム・バブルの前のテクノロジー・バブルの崩壊により、家計・企業セクターのバランス・シートが著しく毀損し、その修復の為、両セクターは債務返済に邁進して対GDP比、大きく純貯蓄を増やしましたが、一方で、政府部門の債務が増加すると同時に、ドイツのユーロ域内諸国への輸出が増加して経常収支の黒字が増加(海外部門の対ドイツ赤字増加)して、民間部門の需要不足を補いました。

PIIG諸国ではドイツのテクノロジー・バブル後の不況に対応したECB の低金利政策下で住宅バブルが発生し、同時に単一通貨のもと、ドイツからの輸入を増加させ、結果的にドイツの回復を助けたことになりました。但し、サブ・プライム・ショック後、これら諸国に残ったのは、住宅バブルの破裂と、大きな財政赤字ということになります。


 少し寄り道をしてしまいましたが、バランス・シート修復を終えている日本で依然銀行貸出しが伸びないのは何故でしょうか。

日本では米欧のようにバランス・シート修復のための債務返済に注力する必要はもはやありません。この低金利下、企業は借金をして新たな投資を行い、ビジネスを拡大する積極性がありません。投資も基本的には自己資金の範囲内で、むしろ企業セクターの金融資産が微増している状態です。

一度バランス・シートの毀損と修復の為の債務返済を経験すると、バランス・シート修復後も企業行動は何年にもわたって、借入れに対して慎重な姿勢を崩さない傾向があるようです。


 民主党政権は財政再建、成長、福祉を目指す政策を打ち出したいようですが、企業セクターが積極的に借入れをしながら設備投資を増加させ、付加価値生産や雇用の増加に貢献する状況を如何に構築できるかを官民こぞって考えていかなければなりません。

多くのエコノミストが指摘するように、政府部門より、効率の良い民間企業セクターに資金その他の生産資源が振り分けられるべきだとの正論に最近は些かの疑問を持ちます。なにせ昨今の企業はバランス・シートの修復を終え、新たなキャッシュ・フローを得ても設備投資は限定的で、むしろ貯蓄を積み上げる状態なのですから。

ビジネス・チャンスを広げる規制緩和、法人税の減税などの加え、投資重点項目を明示し、投資を促す為に、高度成長期のような、あるいは中韓が積極的な産業政策の再導入が日本でも改めて必要なのかもしれません。

ギリシャ危機を考える

[2010年05月14日(金)]
 深刻な財政赤字を抱えるギリシャが自らの発行した国債の償還に対応できずにデフォルトを引き起こすのではないかとの懸念は昨年末以来、金融市場に於ける大きな懸念要因の一つでした。

いわゆるソブリン・リスク(主権国家への投融資に関するリスク)の高まりです。具体的にはギリシャやポルトガルなど財政赤字の大きな国の発行する国債の利回りが急騰し、同一通貨ユーロで発行されたドイツ国債の利回りとのスプレッドが急拡大すると同時に、これら諸国の国債の元利支払いに対する保証料が急騰(CDSの急騰)するといった現象が生じてきたわけです。又、これら諸国の国債を多く保有する金融機関に対する信認も揺らぎ始めていました。


 特に、日本の連休にあたった5月の第1週には、ギリシャ国債の利回りが急騰(価格は下落)し、ユーロ債券市場は実質的に機能停止に近い状況に追い込まれてしまいました。

又、ユーロ通貨の下落や世界的な株価下落も同時に引き起こし、ギリシャ危機が世界に拡大する様相を呈したわけです。その背景を確認しておきましょう。5月2日にユーロ圏及びIMFはギリシャの追加的財政赤字削減策を条件に、ギリシャ政府に対して1,100億ユーロの融資を決定し、4月11日時点で予定していた450億ユーロからの増額を決定しました。

これは2011年末までに償還を迎えるギリシャ国債が429億ユーロある為、当初の450億ユーロでは、2012年以降の円滑な償還に大きな不安が残る為でした。

しかしながら、1,100億ユーロへの融資枠拡大後も、10年ギリシャ国債の10年ドイツ国債との利回りスプレッドは拡大を続け、5月5日には未曾有の731bpを記録しました(ギリシャ国債の利回りはドイツ国債の利回りより7.3%も高い)。

ギリシャ国債の償還懸念は弱まるどころか一層強まってしまった訳です。その理由は幾つか考えられますが、最も影響の大きかったと思われる要因は、5月19日に到来する元本81億ユーロの国債償還前に本当にユーロ圏諸国及びIMFがギリシャに対して融資を実行できるかとの懸念が払拭できなかった為だと考えられます。

加えて、融資の条件となっているギリシャの財政赤字削減が予定通り進捗しなかった場合、
IMF及びユーロ圏諸国の融資が滞り、今後償還予定の国債が減額を含んだリストラに追い込まれるのではないかとの懸念も影響したと考えられます。


 ところが、この切迫した状況下、5月9日に欧州連合(EU)は財務相理事会を開催し、10時間を越える激論の末、あらゆる予想を上回る総額7,500億ユーロの金融安定化パッケージの創設を決定・発表し、市場の懸念を払拭することに成功しました。

概要は:
・欧州委員会は既存の国際収支ファシリティーの拡大を通じて600億ユーロを拠出
・ユーロ圏各国の債務保証を得て“特別目的基金”が市場から4,400億ユーロを調達
・IMFが全体の3分の1に当る2,500億ユーロを負担

となっています。

更に欧州中央銀行(ECB)はユーロ圏の政府債市場に介入し、国債買取りを実施すると同時に、銀行のドル資金調達の逼迫を緩和する為、米連邦準備制度理事会(FRB)や日銀を含む世界主要6中央銀行と通貨交換(スワップ)を再締結しました。

これらの効果に関する評価としては、あらゆる予想を上回る融資枠が設定された事、EU・IMF・世界の主要中央銀行を含んだ政策協調の実現した事、ECBの積極的な債券市場介入が決定されたこと等を考慮すると、短期的には資金調達市場の緊張を緩和させ、為替市場でユーロを落ち着かせるのに充分な効力を発揮すると考えられます。

しかしながら抜本的な問題解決に向けては幾つかの重要な不安要因も存在します。先ず資金の出し手となる国の議会がこれらの融資を全面的に支持するかどうかは依然不透明です。

ドイツの世論調査ではマジョリティーの国民が対ギリシャ融資には反対していますし、直近の
ノルトライン・ヴェストファーレン州の選挙に於ける連立与党の敗退も気になります。又、救済される国ギリシャは融資を得るための条件を満たして、更に財政再建を進める為に、過酷な緊縮財政を強いられますが、既に国民のストライキが頻発しているように、どこまで緊縮財政が持続可能かは定かではありません。

いずれにせよ、緊縮財政下で、自らの金融、為替政策に自由の無いギリシャが、如何に均衡を回復し、成長できるかは甚だ疑問です。


 ところで、ギリシャだけでなく、ポルトガル、スペイン、アイルランドも真剣な財政再建策を打ち出していますが、債務残務の対GDP比が断トツに高に我国で財政再建に向けた道程の策定すら軌道に乗っていません。

参院選を控え、票集め目的のばら撒き政策が拡大しないことを祈念していますが、最近は、
一般の人々の間で、ばら撒き的な諸施策が結局財政赤字一層悪化させるのではとのコメントを耳にするようになりました。

政府よりも市民の財政に対する認識が先行しだしたのかも知れません。もしそうであれば、来る参院選で、特に浮動票の多い都市部でどのような選挙結果が出るか大いに楽しみです。

議会制民主主義プロセスのコスト

[2010年03月29日(月)]
 日米のバブル崩壊とその後の混迷を目の当たりにしてきた私にとって、昨今改めて感じるのは、緊急施策や抜本的な施策に関する政治的なコンセンサスを速やかに確立することの難しさです。又、コンセンサスを得る事が困難な政策領域にも共通点があるようです。

一つは、問題金融機関の救済策についてです。個別金融機関の救済には流動性の供給や、資本注入がありますが、その目的はあくまでも、決済機構や信用創造機構を保全し、一国の金融システムの安定を計ることにありますが、日・米両ケースとも、金融機関経営者や職員の高額ボーナスや高い年収を理由に、当初は金融機関救済に対する一般大衆からの強い反対意見が存在し、マスメディアにも同調意見が多く見られました。

勿論、高額ボーナスや高い年収といっても、日米間では、桁が違いますが、90年代初頭の日本でも相対的に他産業より給与水準が高いと考えられていた(注入時はバブル期を大幅に下回り、米国の10分の1程度)金融機関に公的資金を注入するのは言語道断との拒絶反応がありました。

1992年には当時の宮沢首相が金融機関に対する公的資金の注入の必要性に言及しましたが、人気の高かったテレビ番組のニュース・キャスターも公的資金注入反対キャンペーンを張り、結果的に公的資金の導入が1998年―1999年まで大きく遅延したのは事実です。

米国では自己責任に基づいて経営される企業体である金融機関への公的資金の注入は市場経済に立脚した米国では、政治的な支持は極めて得難いというのが実情です。従って、自己資本を毀損した金融機関の貸し出し能力が減退し、実態経済の悪化が更に進捗した後、公的資金の注入が実施され、結果的には早期実施に比べ、遥かに高いコストを払うことになります。

金融システム安定化のために問題金融機関に公的資本の注入を行うには、事態の深刻さが広く納税者であり有権者である国民に理解されて、やっとその同意が得られると言う事です。

更に政治的コンセンサスが困難なのは増税を含む財政再建策についてです。日本ではバブル崩壊後の失われた15年の間に、景気対策としての財政支出の拡大と、減税措置が財政赤字の拡大に拍車を掛けました。

小泉政権以降、2012年のプライマリー・バランス(国債の元利支払いを除いた支出と、国債発行による収入を除いた収入のバランス)の均衡回復に向けて概ね財政再建が進捗していましたが、リーマンショック後の不況による税収の大幅減少と、民主党政権による社会保障関係費の膨張により財政赤字拡大が再加速しています。

今や、40兆円前後の税収に対し、歳出は100兆円に達する為、今後、新規国債発行は50−60兆円程度の攻防戦とならざるを得ない状況です。

一方、今までは、潤沢な過剰貯蓄が国内に存在したため、膨大な財政赤字は金利を大きく押し上げることなく国内市場でファイナンスされてきましたが、急速な高齢化の進捗に伴い、貯蓄率がマイナスに転じていけば、個人金融資産残高の減少が始まり、財政赤字の国内市場に於ける低利ファイナンスの条件が失われていきます。


従って、現政権も、足元の国家の財政状況を深く認識した上で、消費税増税を含む税制の見直しや、税収に影響を与える成長政策を含んだ中期的な財政再建の道筋を政策として示す必要があります。

福祉政策支出も、当然財政状況の制約下で考慮されるべきで、危機的な財政状況をまともに議論せず、ばら撒きが進捗する先には、破綻しかありません。現政権内や与党内では財政の深刻さをまともに議論するのはどうも難しいようです。

配分の恩恵に与かる国民も、こんな支払いを受けて国家財政は本当に大丈夫なのか大いに思案すべき時です。抜本的に解決すべき問題や、戦略的な課題を真摯に直視せず、目先の甘味料で国民を騙すような政策は、戦略無き我国のいつか来た道なのでしょうか。自分の任期中は増税をしないという首相は問題を先送りし、深刻化させるのみです。

米国でも、バランスシート問題を抱えた家計は、キャッシュフローを優先的に債務返済に充て続ける為、借り入れの基づく消費や住宅投資の低迷は続きます。従って、財政支出の削減は景気を落ち込ませるリスクを孕んでいる為、共和党による圧力にも関わらず、早期の財政赤字削減は容易ではありません。

日本の財政赤字と累積債務

[2010年02月25日(木)]
 世界経済は同時不況から立ち直りつつありますが、これまでに、公的資金を用いた民間債務の救済や、財政支出による景気浮揚策が多くの国で採られたため、世界的に財政収支が著しく悪化しています。

金融市場に於いても、財政赤字の拡大に対する懸念を背景に、国債のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のプレミアムが拡大しています。特に、ギリシャ国債のCDSスプレッドの拡大が顕著ですが、日本の財政もフロー、ストックの両面から極めて深刻な状態にあるため、日本国債のCDSプレミアムも、最も信用度の高い米・独2カ国に比べ大幅に拡大し、英国並みとなっています。

日本のストック・ベースの債務は、GDPの200%を超えており、世界の主要国の中でも圧倒的に高い状況にあるのは周知の事実ですが、2月の9日にフィナンシャル・タイムズは“日本の債務問題は誇張されている”との社説を掲載しており、その理由に以下の4点を挙げています:

 ◆日本の総債務から政府部門の保有する国債を指し引いた純債務はGDPの
   100%に留まる。
 ◆元利返済コスト(cost of debt servicing)はGDPの約1.3%で、米国の1.8%、
   英国の2.3%、イタリアの5.3%より低い。 
 ◆日本の消費税は5%と極端に低く、将来の増税による赤字削減余地が大きい。
 ◆日本国の債務の95%は国内でファイナンスされている。


 要するに、今日までは、潤沢な国内貯蓄の存在が、低コストでの財政赤字のファイナンスを可能にしてきたということですが、これらの要因が今後も継続的に財政赤字のファイナンスに有利に働く保証はありません。高齢化の進展は家計の貯蓄率低下要因であり、国債売却圧力に結び付きます。

又、投資対象は広く世界に存在する為、家計の貯蓄手段がいつまでも国債に留まると期待するのは幻想に過ぎません。公的年金も抜本的な改革が無い限り、給付原資捻出の為、保有国債を売却する時期が何れ到来します。このような進展は、財政赤字をファイナンスするコストの上昇をもたらします。

2011年度も国債増発と累積債務の増加に拍車が掛かる事態が想定されますが、現状では日本国債の利回りは安定しており、デフレ下の金融緩和が政府の資金調達を支えています。

将来の財政に投資家が大きな懸念と不安を抱いてれば、自ずと国債の利回りにそれなりのプレミアムが付いてきますが、現在の安定的な国債利回りは、将来の消費税の引き上げを不可避的な出来事として織り込んでいるのかも知れません。

グローバル市場経済と一国単位の政治の落差

[2010年02月12日(金)]
 やや旧聞に属する話題になりつつありますが、今年も世界経済フォーラムの年次総会がスイスのリゾート地ダボスで開催されました。
今後の世界経済の運営に極めて有益な提言がこの会議でなされたとは思っていませんが、同会議の“Economic Outlook Session”でモデレーターを努めたマーティン・ウルフ氏が2月3日のフィナンシャル・タイムズに“回復持続のために世界は何をなさねばならないか”とのタイトルで寄稿しています。
その中に、幾つか私の興味を引いた点をここで御紹介しておきます。

 ウルフ氏は先ず金融危機後、昨年までの、経済を以下のように総括しています。

 2008年から2009年に掛けての世界的な財政・金融政策刺激策の結果、金融危機後のリセッションは大方の予想より遥かに短く、又底も浅かった。更に今年の予想経済成長率は6−12ヶ月前よりも遥かに高いものになった。但し、クレジットバブルの激しかった米、英、スペイン等では、財政赤字が急拡大し、中国では資産価格のバブル化が懸念されている。

従って、今後世界的に、金融・財政政策の正常化、すなわち出口政策が模索されることになるが、米国においても共和党勢力を中心に、財政刺激策からの撤退圧力が強まっている。

今回の規模の財政刺激が無かったならば、米国経済は大恐慌に陥っていたはずであるといった反事実的条件表示は政治的には受け入れられず、現実は、逆に、これだけの財政出動をしても失業が減らず、雇用が回復していないという事実は明らかに政策の失敗であるから、とにかく財政政策を正常化すべきだというのが票に繋がる有権者の声になりつつある。

今後財政・金融政策の正常化のペースは当然国・地域の状況により異なって当然だが、現状では欧州が依然景気刺策の継続を必要とし、逆に元気のある途上国に於ける必要性がもっとも低いということになる。

いずれにせよ、バランスシート毀損の度合いが大きく、キャッシュ・フローを債務返済に回さざるを得ない家計・法人の多い国(米国など)では早期財政政策の転換はダブル・ディップ・リスクを著しく高めることになる。

先進諸国の民間最終需要に明確な自律的回復の根拠が無い現在、早期財政刺激策の撤収は依然大きなリスクを伴うことを忘れてはならない。


 やや長期的な視点から見ると、氏は世界経済には二つの克服すべき課題が存在すると指摘しています。

一つは“金融セクターのリフォーム”でありもう一つは“世界レベルでの需要の均衡”です。
前者については、ボルカー・ルール(中心課題は銀行に於ける自己勘定取引規制)の法制化や国際化がどこまで進捗するかがキーとなりますが、後者の需要の均衡に関しても先行きは決して平坦ではありません。

昨年9月のG-20 では各国が持続的な成長と需要の均衡に向けて政策を策定し、相互評価プログラムを作動させることに合意しましたが、現実は、余りにも多くの国が、財政刺激策の撤収後、輸出主導の成長に依存しようとしていますが、これは停滞への道です。地球は火星人に対して輸出を行い、地球全体として常収支の黒字を計上することは期待できないからです。

この事実から“開放的な世界経済の存続は果たして可能なのか”との命題に突きあたります。途上国のリーダーたちは開放経済の維持を支持していますが、サルコジ仏大統領がオープニング・スピーチで指摘した通り、今回の金融危機は、西側諸国の視点からも、世界市場経済の正当性を著しく傷つけるものであったとしています。

オバマ大統領の経済アドバイザーであるサマーズ氏は、“米国やその他地域で起こっているのは、統計上の回復と人的資源のリセッションだ。”と述べています。高い失業率と、重商主義的な輸出主導成長政策の並存する環境下では、政治的にも、知的にも自由貿易を擁護することは極めて困難だからです。回復が予想より遥かに強固なものでない限り、西側諸国に高い失業率が残り、それが多様な政治的リスクをもたらすとしています。

危機勃発に際して世界のリーダーは見事な協調性を示しましたが、今後事態が正常化していく過程で、世界的な協調はより難しくなっていくだろうと考えているわけです。特に、依然として世界の主導権を握っている米国が高い失業率と深刻な政治的分裂を抱えている現状ではなお更のことです。

EUもその能力には限界があり、ユーロ圏周辺諸国が、大幅な需要の拡大無しには財政トラップから逃れることが出来ないという事実に適切に対処出来ていません。又中国も基本的には内向きで、首相が均衡をコミットしてはいますが、それが現在の刺激策の終了後の状態なのかどうかは明確ではありません。

経済は大きくグロ−バル化しましたが、政治は依然として一国単位です。危機に際してはグローバル化経済に対処すべしとの圧力が優先しましたが、我々は危機の去った現在は異なったタスクに直面しています。それは回復の維持と、協調を維持しつつ、いつもながらの政治に回帰することです。この転移作業は決してやさしいものではありません。

一方世界の力の均衡は刻々と変化していきますし、新たな挑戦が発生します。さもなければ、世界経済や、世界の協調体は行き詰まってしまうのではないでしょうか。これがダボス会議から氏が得た教訓のようです。

日本経済から世界への教訓

[2010年01月15日(金)]
 暮れから正月に掛けて大分長い空白期間を置いてしまいましたが、本日、新年の第一弾をお届けします。今年も宜しくお願いいたします。

 さて、世界の経済は米国発の金融危機と世界同時不況からの回復途上にありますが、先進国と途上国の回復ペースには大きな差があり、今後も世界の回復は二極化の様相を強めそうです。

米国や欧州諸国はバランス・シートの修復過程に或る為、超低金利下でも回復は極めて緩慢なものにならざるを得ませんが、バランス・シート問題の無い中国を中心とした途上国においては、大規模な景気刺激策が有効に機能し、景気回復が顕著です。又、米国の超低金利政策が、自国ではなく、結果的にドル・キャリー・トレードを通じて途上国の回復を助長している側面もあるようです。

 2010年の前半は、今までの景気刺激策の効果剥落から、米国及び欧州経済の回復は踊り場に差し掛かると考えられますが、アジア向け輸出が好調な日本は今次局面では米国や欧州諸国より軽微な踊り場を通過することで済みそうです。
 
ところで、少し長いタイム・スパンの話になりますが、世界の日本経済に対する一般的な見方は20年前までは、“最も成功した高所得国”というものでしたが、今日では“長期衰退途上にある国”に変貌してしまったようです。

1月13日のFinancial Times にエコノミストでエディターのマーティン・ウォルフ氏が、”20年に亘る日本の苦悩から我々は何を学ぶべきか(What we can learn from Japan’s decades of trouble)”との記事を書いていますので、要点を御紹介しておきます。

日本は何を間違えたのか、今後日本の新政府は何をすべきか、我々はこの日本の経緯から何を学ばなければならないか、などの点に関し、先ず野村総研のリチャード・クー氏の考えを紹介した後、独自の見解を述べています。

先ず、紹介されたリチャード・クー氏の見方は以下のとおりです。

過剰債務状態に陥り、債務返済が最優先される経済では:
  ◆企業や家計が借り入れを行わない為、信用やマネーサプライの伸びがとまる。
  ◆従って、伝統的な金融政策が効力を失う。
  ◆民間セクターのバランス・シート改善努力故に、政府セクターが最後の
    借り手として登場せざるを得ない。

従って、民間セクターのバランス・シート調整が終了するまで、金融財政政策は有効に機能しない。日本の部門別I-Sバランスは1990年にはほぼ均衡状態にあったが、その後の危機を経て民間セクターの長期に亘る貯蓄超過が始まった。

この間家計貯蓄率は継続的に減少したため、このトレンドは基本的にはGDPに占める企業セクターの貯蓄比率の増加と投資比率の低下として説明される。又、企業セクターの貯蓄超過は資本流出(経常収支黒字)と財政赤字で吸収された。

更に累増した財政赤字への批判に対してクー氏は、財政出動による赤字の累増がなければ、日本は長期需要低迷の経験に代わって、大不況に陥っていただろうと反論している。その他の可能性としては莫大な経常黒字の累積があり得たが、これには円安が必要であった為米国が許容しなかったであろう。


ここで、マーティン・ウォルフ氏はリチャード・クー氏の議論に対し以下の点を弱点として指摘しています。
それは、“何故日本が過剰債務状態に陥ってしまったか”の説明と、“バランス・シート調整が完了しているにも関わらず、何故日本が今次世界ショックに対してかくも脆弱であったのか”という説明が欠落しているという点である。

 一方マーティン・ウォルフ氏は、持論として先進諸国をキャッチ・アップする成長を達成した日本経済の構造的な問題は、企業セクターの大きな貯蓄超過(利益剰余金)と投資機会の減少の組み合わせであるとしている。

1990年にGDPの20%あった設備投資はその後13%程度に落ち込んだが(2000年代に入ってややリバウンドした)、企業セクターの過剰貯蓄(利益剰余金)は設備投資の対GDP比率に見合って減少していない。1980年代の企業貯蓄削減行動は、異常金融緩和下、ゼロ借り入れコスト故に無駄で浪費的な投資拡大を支えた。

又、2000年代に入ると、企業貯蓄は中国向けを中心とした輸出増強の為の設備投資に向かったが、そこで今回の世界危機に直面した。輸出と設備投資は激減し深刻な景気後退に見舞われた。日本経済の落ち込みはG-7諸国で最も深刻だった。OECDによれば2009年の日本の純輸出の減少はGDPを1.8%縮小させた。

今後日本の目標は国内需要主導の成長でなければならないだろう。目的達成の為に最も重要な必要条件は大幅な企業セクター貯蓄の削減であらねばならない。この点に関しては“企業貯蓄はそもそも資本の消費で、過剰投資の歴史の産物である為、この目標は自然に達成されるであろう“とのスミザーズ氏の考えを紹介している。

マーティン・ウォルフ氏は更に、非活動的な経営者の手からキャッシュを取り上げなければならないとしており、日本の新政権は企業の行動を抜本的に変える政策を採用すべきだとしている。

又、日本はデフレを終焉させるべきで、そのためにも日銀は政府と協力して過度な円高を回避しなければならない。日本が明らかなインフレになれば(少なくとも2%程度)、日本が必要とするネガティブな実質金利状態となる(現状の実質金利は高すぎる)。

さて世界は日本経済の凋落からどんな教訓を学び取るべきだろうか。日本の経験が強く示唆しているは、過剰設備や債務過多のバランス・シートを抱えるポスト・バブル経済諸国(例えば現在の米国)では、継続的な財政赤字やゼロ金利、量的緩和政策をもってしてもインフレの亢進をもたらさないという事である。

又、債務過多の修正(unwinding of leverage)は実に時間の掛かるプロセスであるという点である。更に日本の経験は全く違う経済への示唆を含んでいる。先進国経済を追いかけて高度成長してきた国が高いレベルの企業貯蓄と設備投資を持ったままスロー・ダウンすると需要のコントロールが極めて困難になる。この教訓なら学ぶべき国は中国である。


 以上がマーティン・ウォルフ氏の記事の紹介です。金融危機の発生までは、潤沢な現金を抱えた企業は、株式市場でも海外投資家から有効に経営資源を利用していない非効率な日本企業として企業買収の対象として議論されて来ました。

現環境下、新技術、新商品への投資を促進し企業価値を高めて行くには大変な努力や創意工夫が必要なことに議論の余地はありませんが、企業セクターが長期に亘って貯蓄超過状態にあるという事実は一国経済の最適金融資源配分上も問題が大きいと考えるのは当然です。

デフレ・円高対策

[2009年12月01日(火)]
 先週は円の対米ドル・レートのじり高、日本株のじり安基調が続いていましたが、金曜日に突如アラブ首長国連邦(UAE)の構成国のひとつであるドバイの政府が、同政府系持ち株会社ドバイ・ワールドの債務返済猶予を申請したとのニュースが伝わり、円高トレンドに拍車がかかり、円の対米ドル・レートは14年ぶりに84円台を記録しました。

ドバイ・ワールドの債務残高は590億ドルで、ドバイの債務総額800億ドルの過半を占めており、欧州金融機関がドバイに対する主要な貸し手である為、ユーロも売られ、結果、円の独歩高の様相を呈してしまいました。

日本の金融機関は今次局面では、欧米銀行に比べ、バランス・シート上の問題が軽微で、現在の日本は金融システム問題を抱えていない為、消去法的に円が買われたようです。資産タイプ別に見ると世界的に株式や、クレジット・プロダクツが売られた一方で、リスク回避的な行動から、米連邦債や、欧州主要国の国債が買われ、結果、それらの利回りは低下しています。

今回のドバイ信用不安は、石油資源の無いドバイが、借り入れをベースに不動産、港湾、金融センター、レジャー施設等の開発を推進してきたプロジェクトが、金融危機以降の資金繰り悪化で中断や延期に追い込まれた結果ですが、ドバイ政府はドバイ・ワールドの債務を保証する意図は無いと言明しています。

潤沢な石油資源と金融資産を有するUAE構成国のアブダビのドバイ援助方針如何が今後の動向の鍵を握っています。ちなみにUAE主要4カ国の対外純資産残高は6,000億ドルあります。当分ドバイ問題に行方は注意深くフォローする必要がありますが世界的な金融不安に発展する可能性は低いはずです。

 足元の日本ですが、民主党政府がやっとデフレ、円高・株安対策に動きだしました。12月2日に鳩山首相、白川日銀総裁会談が持たれ、12月4日に閣議決定される第二次補正予算に円高・株安対策を織り込むことが決定されました。

従って、二次補正予算規模も大幅に増額されますが、真水ベースでは3兆円程度との報道が体勢です。 又、日銀も政府や市場の圧力に呼応して、デフレ及び円高対策として、追加金融緩和策を発表しました。

国債、社債、CPなどを担保に、0.1%で期間3ヶ月の資金を10兆円供給するとの内容ですが、刺激効果は極めて限定的なものに留まると思っています。物価下落が進行している最中に実質金利を低下させることは極めて困難で、又、マネーサプライの名目GDPに対する比率も、そのトレンドを考慮しても充分に大きい状態にあります。

従って、マネーに対する需要を中長期的に作り出す政策のほうが遥かに重要であると考えています。いずれにせよ、この政策効果が不十分な場合は、市場に再び催促されて追加策を要求されることになって行きます。

 円高のトレンドも今回の措置だけで落ち着くことは極めて考えにくく、基本的には米国の低金利状態が継続する環境下では大きな変化は期待しにくいと思っています。引き続き、米国、欧州の回復は極めて緩慢で、バランス・シート調整下の民間経済主体は債務返済に注力する為、低金利の景気刺激効果は限定的です。

さらに米国の相対的な低金利が継続する間、米ドル・ベースのキャリー・トレードが続きます。低金利ドルの借り入れによる調達、ドル売り、成長率の高い新興国への投資、新興国の成長(過熱)、資源価格の上昇といった連鎖が継続すると考えられます。従って、米国の低金利はドル安環境を継続させると同時に、新興国経済により刺激的に働くと考えられます。

回復上の懸念

[2009年11月19日(木)]
 リーマン・ブラザーズ破綻に端を発する金融危機の発生以来早くも1年2ヶ月が経過しました。

今年3月に入って金融市場や実体経済活動が一応の落ち着きを取り戻すまでの4〜5ヶ月間は金融機能停止状態の中で、実体経済活動がフリ−・フォールの状態の落ち込みをみせ、一体どこまで事態が悪化するのかとの恐怖に襲われたのは記憶に新しいところです。世界的に経済活動は底を打って回復過程に入っていますが、この先のコースは決して平坦なものではないようです。

 日本の実質GDPも今年に入り4−6月期には前期比年率で2.3%を記録し、4半期に及ぶ前期比マイナス成長の後に、プラス成長へ回帰し、16日に発表された7−9月期の数字も4.8%と2四半期連続の成長となりました。

しかしながら、今後も順調に経済活動の回復が続くと考えるのは早計で、日本経済が自律的な回復過程に入ったとは言えません。これまでの生産活動の回復は、大きく減少した在庫の一定レベルまでの積み増しに加え、内外の一時的な刺激をもたらす財政支出に負うところが大きく、輸出も今年1月を底に中国向けを中心に徐々に回復していますが、依然前年同期比では大きなマイナスで、9月現在、対米、対欧輸出は前年同期を30%以上下回っています。

民主党政府の施策も、短期的には追加的景気刺激効果は期待できません。95兆円の一般歳出概算要求と40兆円弱の税収見込みという現実の中で、不要不急の歳出を削って予算を捻出しつつ、マニフェストに基づき国民生活密着型の支出を増やそうとしているわけですが、財源の捻出に失敗すれば、国債の発行増に結び付きます。

国債発行増懸念は長期国債利回りを押し上げますが、一方でデフレ懸念が利回り上昇の抑制要因として働いています。今後の経済政策としては成長政策を含み、財政再建を念頭に置いた内需主導の経済運営が求められますが、所得の再分配による生活者支援策だけでは長期持続不能です。又、

財政再建の視点からは、名目成長率が国債利回りが低い状況から一刻も早く脱却する必要があります。

 ところで、今次のサブ・プライム・ローンの大量破綻がもたらした金融危機は慢性化していた国際的な収支不均衡(輸出競争力の強いアジア諸国と石油産出国の黒字、米国の赤字)の調整過程で起きた諸現象の一つです。

金融危機以前は、中国を中心とした黒字国の成長は、主に米国市場への輸出の増加に負うところ大でしたが、その外貨準備増加分をドル資産で維持してきた為、米国の赤字が輸出黒字国によりファイナンスされて来たわけです。

人民元の対ドルレート上昇を抑制する中国の市場介入はより一層中国の外貨準備増を加速させてきました。これは日本も経験してきた道です。

 ところが今回は、米国消費需要の回復を期待した対米輸出依存型の回復には、短期的にも、中長期的にも多くの制約や限界がありそうです。

先ず、危機以降、住宅価格の下落や住宅抵当証券の下落でバランスシートが毀損し、過剰債務状態に陥った民間セクター(家計、企業)が債務返済に走っている為、米国の貯蓄率は上昇しており、消費抑制的に働く状態が当分続くと考えられます。

又、中長期的な視点では米国の戦略的な経済政策の動向にも注目しておきたと思います。若干古くなりますが、今年7月17日の“The Peterson Institute for International
Economics”の講演会に於ける、国家経済会議(NEC)委員長で大統領の経済政策アドバイザーであるローレンス・サマーズ氏の講演内容です。

冒頭に昨年末・今年冒頭の経済・金融市場状況が如何に危機的であったかに触れた上、オバマ政権がとった諸施策を手短にまとめた後、再建後の米国経済のあるべき姿を熱く語っています。

それは、より輸出依存度が高く、消費依存度の低い経済、環境政策志向が高く、石化燃料依存度の低い経済、バイオやソフト・エンジニアリング志向が強く、より金融エンジニアリング依存の低い経済等です。特に氏は米国も中国のような輸出黒字国を目指すとまで言っています。

当面、再建途上の米国経済は過剰債務返済下にある家計の貯蓄率が上昇し、消費の回復は限定的にならざるを得ませんが、より長いタイム・スパンを考えても、サマーズ氏の講演の如く米国が輸出増加を主要な政策とすると、国際競争力の強いアジアの黒字国も危機以前米国の過剰消費を期待した輸出主導の成長期待は裏切られることになりそうです。

ところで、一国の通貨を国際通貨として用いる国際通貨体制には、昔から知られている根源的な矛盾ないし問題が存在します。それは、基軸通貨国は赤字を維持しないとその通貨をその他諸国に供給できません。

又、その他諸国は黒字を出さないと機軸国の通貨を取得できません。もし、米国の輸出が増加し、米国が経常黒字国にでもなるとその他諸国へのドルに供給はマイナスとなってしまいます。米国が本当に黒字国化するか否かは別にして、ぼつぼつ国際通貨体制の検討期に入ってきたようです。