アートディレクター、クリエイティブ・ディレクターは新種の職業でソフト経済の先端を行ってますが、それを知りたいと思い「佐藤可士和の超整理術」(日本経済新聞社)を読みました。
デザイナーは美的感性や直観力で仕事をしてるのかと思ってましたが、予想外なことに論理的な分析力がベースになってました。
佐藤さんは「ホンダのミニバン、ステップワゴン」と「キリンの極生」で当てたデザイナーです。
ホンダのミニバン、ステップワゴンの広告は96年にやった仕事で、「家族サービスのための安っぽい車」の固定観念を「子どもと遊びに行く楽しい車」に転換し、スタイリシュな新しい家族像を無理やり押し付けていたのを「家族で冒険に出かけるワクワク感のある車」に変えて大成功し、7年間ミニバンのナンバーワンの地位を獲得しました。
キリンの極生の仕事では、「安物」、「無理にビールに似せる」、「ビールの廉価版」のイメージをビールから切り離して発泡酒の独自な存在感を主張し、「カジュアルに楽しめる」、「ライトで爽やか」なイメージに変えて成功しました。
佐藤さんの手法は固定観念に染まった間違いを洗い流し、商品に隠れている本質を発見し、それをデザインで打ち出す手法です。
それを三段階で進めます。
第一段階:
クライアントへの問診を行って情報を集める、正しい答えはクライアントが知っている。
第二段階:
集めた情報を並べて俯瞰し、隠れた本質を見抜きプライオリティをつける、独自の視点を見つける。
第三段階:
こうして整理した情報をデザイン化する。
一番目は経営コンサルタントがやるのと同じです。二番目が情報整理術ですが、そのために題名に整理術がつけられ、類書の整理術とは違います。
整理とは余分な情報を削ることで、残った本質だけのものはシンプルなものになります。添付した画像は本の表紙ですが、下の帯を外してしまうとほとんど真っ白な表紙になってしまいますが、これが佐藤流デザインです。
無味乾燥で面白みはないが、本の表紙はにぎやかになってきているので並んだ本の中では目立ちます。
佐藤さんは「素質がいいが隠れてるモノは引き出せる、なければ何をやってもダメ」といいます。問診でいいものが隠れてるかどうか当たりをつけ、隠れてなければやらないのでしょう。
隠れている本質を直感し、情報整理では合理性を発揮して分析する、デザイナーにはこの二つの資質が必要です。
こうしたことは他の職業、コンサルタント、医者、エコノミストなどでもやっていることで、納得できます。
問題は三番目の集めた情報をデザインにすることですが、ここでの出来、不出来が勝敗を決します。これには美的な感性が必要でそれは説明できないのか、本ではその手法の記述はありません。
その代わり具体例が書いてあり、それでデザインについての考えを知ることができますので二例あげます。
タオル産地の今治市、商工会議所、四国タオル工業組合から今治タオルのブランディングの依頼がありました。Japanブランド育成事業(中小企業庁)の一環で、今治のタオルを世界に通用するブランドに育てるのが狙いです。
この仕事の依頼があったとき、当初はやる気が出なかったようですが、イギリスのブレア政権が「クールブリタニカ」を打ち出し、国家ブランディングに成功したことがあり、それと同じようにやればよいと気づき出口を見つけました。
クールブリタニカは、97年にブレアが打ち出したコンセプトですが、世界からかっこよく見られるイギリスに再び戻ろうというぐらいのコンセプトです。
イギリス経済は90年代の半ばに長い低迷を脱し経済成長を始めましたが、この新しい成長路線に乗り、クリエイティブ産業立国をかかげ、新産業では先ずEUの盟主になり、その先世界に新産業を広げようという野心に満ちたアイディアです。
イギリスは資本主義、議会制民主主義、福祉国家、国営化と民営化など、世界を変えたコンセプトを創造した歴史があります。この誇りを取り戻そうというのです。
今治のタオルも中国やベトナムに価格で負けて衰退一方でしたが、肌触りがよい、えもいわれない柔らかさがある、長持ちするなど高品質で、ニューヨークの高級百貨店や専門店で売れ始めてました。
そこで今治タオルの世界ブランドを確立するにはウールマークのようにタオルにタグをつければよいとそのデザインをやります。添付の画像がそれで、赤はチャレンジ、白抜きの白はタオル地、下の青の三本線は品質と伝統を現しており、全体がiの字になってます。iは今治のiです。
このマーク、説明を聞くとわかりますが、一見しただけではわかりません。わからなくても見てると自然にタグの精神が染み込んでくるのかどうか、世界ブランドになるものにはそれがあるんでしょう。
このタグのほか世界ブランド化のためにこれからいろんな作戦が展開されるんでしょうが、どんな手が出てくるのか興味深い。
次ぎは明治学院のシンボルマーク、少子化の時代になり学生を集めるためにデザインの依頼がありました。
この大学、調べて見ると「地味で存在感が薄い」「押しが弱い」「インパクトがない」という評判ですが、それを反転させて「控えめだけど芯が強い」「ボランティア精神に富んだ芯の強い強さがある」と読み替えて添付画像のようなデザインをつくりました。
黄色はこれを現すのにぴったりの色、黒の字体は品がありモダンな雰囲気を出したものだそうです。
これもそう思って見れば見えますが、一見しただけでは見過ごしてしまいます。
入学者を増やすには「控えめだけど、ボランティア精神に富んだ芯の強い強さがある」学生を養成する具体的なカリキュラムがあり、卒業生が新しい時代をつくるのに活躍するとか、就職率がよいとかで大学のブランドが確立する、シンボルマークはそれを支えるぐらいの役割でしょう。
佐藤さんはデザインだけでなく本質についていい線突いてますので、それもやらなくては実現しないことです。ボールは依頼主に突きつけられたのだと思います。
見つけた本質を依頼主に返すのもデザインの役割だとわかりました。