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「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」の報告書 [2018年08月21日(Tue)]
「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」の報告書を取りまとめました(平成30年7月30 日)8/21
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_00679.html
X 障害者が長く安心して安定的に働き続けられる環境整備に繋げる制度の在り方

2.障害者雇用納付金制度の在り方
(障害者雇用納付金財政の経緯等について)
・ 障害者雇用納付金制度、障害者雇用調整金の額
企業が法定雇用率を超えて新たに障害者を雇用するために通常追加的に必要となる特別費用の額を踏まえて、障害者雇用納付金の額は、企業が法定雇用率に達するまでの間に新たに障害者を雇用するために通常追加的に必要となる特別費用の額を踏まえて、決定することとされており、それぞれ独自に額が決定されるもの。障害者雇用情勢が進展を続ける場合には、障害者雇用納付金を納付する企業が減少し障害者雇用調整金の支給を受ける企業が増えることから、基本的には、法定雇用率が引き上げられる等の制度的要因が生じない限り、障害者雇用納付金財政は逼迫していくという課題が制度自体に内在しており、いわば「財政的に逼迫する方が望ましい制度」であるとの指摘もあった。
・ この点、同様の仕組みを導入しているフランスやドイツにおいては、法定雇用率が障害 者雇用の実態よりも高めに設定されていることや、障害者雇用調整金と同類の仕組みは存 在せず、障害者雇用納付金財源は個別の助成金や事業運営に充てられていること等が、日 本とは大きく異なる点である。 日本の場合、制度が創設された昭和 50 年代においては、障害者雇用義務を達成している企業割合が低かったこと等から、財政支出の多くを助成金が占め、障害者雇用調整金や報奨金の占める割合は極僅かであった。障害者雇用納付金財政はこれまでに三度、財政収支の赤字が二年度以上連続した時期があるが、最初の二度は障害者雇用納付金制度に基づく助成金によるところが大きく、障害者雇用納付金制度に基づく助成金の額を縮小させることで財政を健全化してきたという経緯がある。他方、直近においては、既に障害者雇用納付金制度に基づく助成金のメニューを縮小させてきたこと等もあって、財政支出の構造が変化しており、障害者雇用調整金や報奨金の占める割合が相当高水準となっている。年間の収支についても、平成 28 年度は 71 億円の黒字となっているが、障害者雇用納付金や障害者雇用調整金の額の動向を踏まえれば、仮に平成 30 年 4 月から法定雇用率が引き上げられなかった場合には、単年度収支が赤字に移行する可能性は非常に高かったものと考えられる。

(障害者雇用調整金について)
・ この点、障害者雇用納付金制度の持続性を確立する観点からは、フランスやドイツのよ うに障害者雇用調整金を支給する枠組み自体を廃止する方法もあり得るが、現に、障害者 雇用調整金の支給額を障害者雇用に必要な環境整備等に充ててきた企業もある中で、今後、 雇用している障害者に対する合理的配慮の提供等をさらに進めていくためには、慎重な対 応が必要と考えられる。 ○ 他方、障害者雇用納付金財政の状況について検討を行うにあたり、一部の大企業や法人 に障害者雇用調整金が集中しているのではないかという指摘もあった。 障害者雇用納付金と障害者雇用調整金について従業員規模別に納付・支給の割合を見ていくと、常用労働者の数が 1,000 人以下の企業であれば、その中で中小企業か否かといったことに関わらず、障害者雇用納付金の納付額と障害者雇用調整金の支給額の関係に大きな差は生じていないが、常用労働者 1,000 人超の企業については障害者雇用調整金の支給割合が非常に多くなっている。このため、構造的には常用労働者 1,000 人以下で障害者を雇用していない企業が、常用労働者 1,000 人超で障害者を雇用している企業の特別費用を負担しており、いわば、経営基盤の安定的な大企業の障害者雇用を、中小企業が支えるか のような構造となっている。
・ 就労継続支援 A 型事業所については、一般雇用が困難な障害者に対して雇用契約に基 づく就労の機会を提供するものであり、障害者の就労・社会参加を促進する観点から重要 な役割を担うものである。こうした就労の困難性等に対応しつつ、障害者の雇用環境を整 備する必要があること等から、利用者の数等に応じた利用料等に相当する障害福祉サービ スの報酬として、一事業所あたり年間で平均約 2,400 万円の報酬を支給されている。しかしながら、こうした報酬は、就労継続支援 A 型事業所の事業を行う上で必要となる人的配置や環境整備等に充てられることとなるところ、障害者雇用調整金についても、新たに障害者を雇用するために通常追加的に必要となる特別費用を踏まえて支給されているものであり、その目的が重複しているのではないかという指摘についてどのように 考えるかという課題がある。
・ 加えて、障害者雇用 1 人当たりに伴う費用は、事業所当たりの雇用障害者数が増えるごとに逓減する傾向にあることから、大企業や就労継続支援 A 型事業所等で障害者を多数 雇用しており、かつ障害者雇用調整金を集中的に支給されているようなケースにおいては、 企業同士の社会連帯に基づく範囲を超えて、負担の調整を受けているのではないかとの意 見も示された。 例えば大企業の場合は、雇用障害者 1 人が雇用率に対して与える影響が小さいこと等もあって、法定雇用義務を大きく超えて障害者を雇用しているケースも多く見られるが、結果として、常用労働者 1,000 人以上の大企業に支給されている障害者雇用調整金のうち 約4 割が、法定雇用義務に対して超過 20 人以上に関して支給されるものとなっている等、一部の大企業に対して障害者雇用調整金が集中して支給されている状況にある。 また、常用労働者数 300 人以下の法人に支給される障害者雇用調整金のうちの 3 割超が社会福祉法人に対して支給されており、そのうち約 4 割が、法定雇用義務に対して超過 20 人以上に関して支給されているが、このように集中して支給されている障害者雇用調整金の多くは就労継続支援 A 型事業所を運営する法人に対して利用者分として支給され ているものと考えられる。
このように、大企業の場合には、障害者を雇用する前提である経営基盤が比較的安定していること、就労継続支援 A 型事業所の場合には、利用者である雇用者数に応じて施設に対して障害福祉サービスの報酬が支給され必要な人的配置等に充てられていることを前提に、障害者を雇用する場合の追加的な特別費用が逓減していくことを考慮すると、障害者を多数雇用し、集中的に障害者雇用調整金の支給を受けている事業主に対する障害者雇用調整金については、一般的な中小企業への影響には配慮しつつ、法定雇用義務を一定以上超過した場合には支給額を逓減又は停止させる、障害者雇用調整金の単位調整額を一定程度減額するといった措置を講ずることが考えられる。
・ 今後については、これらの一部の法人に集中して支給されてきた障害者雇用調整金等の 原資を活用し、中小企業における障害者雇用の促進のための環境整備等を着実に進めてい くことで、障害者雇用ゼロ企業を減少させる等、「障害者と共に働くことが当たり前の社会」にしていくための取組を進めていくことが求められているものと言える。

(障害者雇用納付金について)
・ 障害者雇用納付金の額についても、実際に障害者を雇用した時にかかる費用と同水準に まで引き上げるべきとの意見や、障害者雇用ゼロ企業を含め実雇用率が特に低い場合には 障害者雇用納付金の額を引き上げるべきとの意見が示された。
・ この点、あくまで障害者雇用納付金は、企業同士の社会連帯に基づき、障害者雇用に当 たって特別にかかる費用に限定して調整する趣旨のものである。障害者を雇用した場合に 要する諸費用と同水準にまで障害者雇用納付金の額を引き上げることとする場合には、む しろ社会的義務を果たしたかのような感覚を企業側に起こさせ、結局、雇用促進の阻害に 繋がるのではないかという意見が示された。また、額を引き上げることによって、その性質が罰金的な要素を有するとするならば、障害者雇用納付金を納めればその後は雇用義務を免責されるという免罪符のような見方も生じ得ること等から、その影響を見極める必要がある。
・ また、障害者雇用ゼロ企業を含め実雇用率が特に低い場合には、障害者雇用納付金の額 を引き上げるべきとの意見も示されたところであり、障害者雇用ゼロ企業等による障害者 雇用への意欲を喚起し、その取組を促していこうというもの。現に、障害者雇用ゼロ企業等が新たに障害者を雇用する際には、通常想定される設備整備や人的配置等の費用に加え、障害者の従事する業務の決定やマニュアルの作成、就業規則の整備、周りで働く社員による障害者理解の促進等の「初めて雇用する企業」ならではの目に見えづらい追加的な費用や負担感等も想定されることから、障害者雇用ゼロ企業の場合には、新たに障害者を雇用するために追加的に必要となる特別費用の額も高くなる傾向にあると想定される。このような想定に従えば、障害者雇用ゼロ企業等に対する障害者雇用納付金の調整基礎額を、既に一定程度障害者雇用に取り組んでいる企業とは異なる水準とすることで、障害者雇用ゼロ企業による障害者雇用に取り組む意欲を喚起させるといった方法も考えられる。
○ ただし、ハローワークによる行政指導の成果等もあり、法定雇用義務が課されているに も関わらず障害者を全く雇用していない、いわゆる障害者雇用ゼロ企業のうち、約 99% が常用労働者 300 人以下の中小企業となっているように、こうした仕組みにより負担増 になる企業の多くが中小企業であることから、実現に当たっては慎重な検討が必要である。
・ 加えて、障害者雇用義務の数と現在雇用する障害者の差分や、法定雇用率と実雇用率の 差分に応じて、障害者雇用納付金の額の引上げ又は引下げを行うことで、企業における障 害者雇用への意欲を喚起し、その取組を促していくこととしてはどうかといった意見も示 された。

(障害者雇用納付金財政の調整機能について)
・ また、障害者雇用納付金、障害者雇用調整金及び報奨金の額については、前述のとおり 独自に決定される仕組みとなっていることから、過去にも三度財政赤字となっているが、 障害者雇用納付金による収入のみで自立的な運営を行ってきた障害者雇用納付金財政の 持続可能性を確立するためには、支出か収入のいずれか又は両方を、障害者雇用納付金財 政の状況と連動して決定される仕組みとすることも考えられる。
・ この点、現在の障害者雇用納付金財政の状況としては、制度創設時と比較して障害者雇 用調整金が相当広範囲にわたり支給される状況となっており、フランスやドイツでは障害 者雇用調整金の仕組み自体が設けられていないこと等も踏まえると、障害者雇用調整金の 支出を抑制的にすることが考えられる。具体的には、これまでも障害者雇用納付金財政の 単年度収支がひとたび赤字になると、制度要因等が大きく変化しない限りその状況が継続 する傾向が見られたことから、単年度財政が赤字になった時点で、赤字額の程度に応じて 翌年度以降の障害者雇用調整金の額を減額させる仕組み等をあらかじめ規定しておくこ と等も考えられるのではないかというものである。
・ ただし、障害者雇用調整金の支給額について一定の枠組みを設けることからすれば、ま ずはそうした制度改正の影響等も踏まえつつ、中期的に検討を進めていくことが望ましい との意見も示されたところであり、今後更なる検討を重ねる必要がある。

Y おわりに
・ 本報告内容については、労働政策審議会障害者雇用分科会に対して事務局より報告し、 制度の見直しに向けた議論に繋げていくとともに、予算措置等において対応し得るものに ついては、今後の事業や制度運営において円滑に実現していくことが望まれる。
・ そのほか、本研究会のヒアリングで示された意見については「関係者ヒアリングにおい て関係者及び委員から出された意見等の整理」(第 6 回研究会(平成 29 年 12 月 22 日) 事務局報告資料)において整理しているところであるが、このうち今回の取りまとめに含 まれない内容についても、厚生労働省においてしっかりと受け止めていくことが求められ る。
・ 本研究会では、就労を希望する障害者の希望や障害特性が多様化する中にあって、働き 方の選択肢の拡大や、長く安定的に働き続けられる環境整備に向けた対応や制度の在り方 のほか、中小企業における障害者雇用の推進等を図るための方策についての提言を行った。 私たちとしては、こうした取組の推進により、障害者雇用の量的側面・質的側面のいずれにおいても更なる改善が図られることを目指すものであるが、自らの希望や特性に応じて働き方を選択し、安心して安定的に長く働き続けられる環境が整備されていくことは、障害の有無に関わらず、全ての労働者にとっての働く上での基盤であるということも、改めて認識しておく必要があるのではないだろうか。
人生全体で考えれば、誰もが、自らの仕事と、育児・家事や介護、病気の治療、障害、 体力の低下等といった事情とを共存させていくこととなる可能性がある以上、お互いの抱 える事情を理解・配慮し、お互いの「できないこと」ではなく、お互いの「できること」「得意なこと」に目を向け、チームとしての成果物を作り上げていく姿勢は、全ての人にとって「自らの希望や特性に応じて働き方を選択し、安心して長く働き続けられる環境」が常に整えられているという状況に繋がるものである。
・ 今回提言した政策方針が実現されることによって、障害者雇用の質の向上が図られると ともに、全ての労働者にとって働きやすい環境が整備され、一億総活躍社会の実現に向け た取組が推進されるよう、祈念するものである。

○(参考) 今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会開催要綱
○(別紙) 今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会参集者
○今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会(開催状況)

次回は、新たに「平成30年版 子供・若者白書(概要版)(PDF版)」からです。
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