第14回社会保障審議会福祉部会福祉人材確保専門委員会資料(平成30年3月16日)
≪議事≫議論のとりまとめ(案)について
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000198349.html◎(資料1)ソーシャルワーク専門職である社会福祉士に求められる役割等について(案)
○はじめに・社会福祉士には、ソーシャルワークの専門職として、地域共生社会の 実現に向け、多様化・複雑化する地域の課題に対応するため、他の専門職や地域住民 との協働、福祉分野をはじめとする各施設・機関等との連携といった役割を担っていくことが期待されている。
・このため、その養成課程の中で、より実践的な 能力を習得できるような教育カリキュラムを検討するとともに、社会福祉士が地域の中で果たすべき具体的役割を明確化し、関係者に対し、社会福祉士への理解の促進を 図るなどの取組が求められている。
・当専門委員会では、平成 28 年 12 月以降、計5回にわたり、地域共生社会の実現に 向けて求められるソーシャルワークの機能やその中で社会福祉士が担うべき役割、多 様化・複雑化する地域の課題に対応できる実践力の強化のための方策等について議論 を行ってきたところであり、この報告書は、その議論の結果をとりまとめたもの。
○総論
1 社会福祉士の現状について・約 21 万人(平成 29 年 12 月末現在)が資格を取得し、その活躍の場は、高齢者支援、障害児・者支援、子ども・子育て支援、 生活困窮者支援といった広い分野にわたっており、各種制度において、それぞれの 制度趣旨を達成するため、社会福祉士が配置。支援対象者のニーズや置 かれている環境の違いを考慮しつつ、養成課程で習得したソーシャルワークの知識 や技術、社会保障制度や各種制度におけるサービスの知識等を活用し、生活の質(QOL) の向上に向けた支援やウェルビーイング(※)の状態を高めることを目指して相談援 助を中心に実践に取り組んでいる。
・その主な就労先は、高齢者福祉関係の割合が最も高く 43.7%、次いで、障害福祉関係 17.3%、医療関係 14.7%、地域福祉関係 7.4%、児童・ 母子福祉関係 4.8%、行政相談所 3.4%、様々な分野で就労している。 就労先での職種を見ると、相談員・指導員の割合が高く 34.0%、 次いで、介護支援専門員 13.8%、施設長・管理者 13.3%、事務職員 8.6%、生活支援員 6.6%、介護職員(ホームヘルパー含む)6.3%と多様な職種に従事している。
・生活困窮者自立支援法に基づく自立相談支援事業においても、その主任相談支援員の 42.3%(平成 29 年度)が社会福祉士の有資格者であるなど、多くの社会福祉士が活躍、行政分野で働く社会福祉士の資格保有者も増加してきており、福祉事務所におけ る生活保護担当現業員の 13.5%、生活保護担当査察指導員の 8.7%が社会福祉士の 有資格者である。
・教育分野においては、支援が必要な子どもを早期に発見し、関係機関につ なぐことができるよう、スクールソーシャルワーカーの役割が重要とされているが、 平成 27 年には、スクールソーシャルワーカーとして雇用した実人数のうち、50%が社会福祉士資格を有している。
・司法分野においては、刑事施設及び少年院の受刑者等の出所後の地域生 活支援のために、社会福祉士の活用や相談支援体制の整備等の必要性が指摘されて おり、平成 28 年度では、刑事施設において 99 人、少年院において 16人が配置され るなど、社会福祉士の有資格者の配置が増えてきている。
2 社会福祉士を取り巻く状況の変化について・社会状況の変化により、既存の制度では対応が難しい様々な課題が顕在化、例えば、制度が対象としていない生活課題への対応や複合的な課題 を抱える世帯への対応、外部からは見えづらい個人や世帯が内在的に抱えている課 題への対応など、ニーズの多様化・複雑化に伴って対応が困難となるケースや、
社 会保障分野だけでなく、教育分野や司法分野などの多様な分野においても対応が必 要な課題が顕在化、様々な課題に適切に対応していくにあたっては、福祉職のみならず、医師、 看護師、保健師などの医療職やスクールカウンセラーなどの心理職などとも連携していく必要があり、以前にも増して多職種と連携・協働する必要性が高まっている。
・このような中で、生活困窮者自立支援制度の創設をはじめとする各種制度改正が 行われ、「ニッポン一億総活躍プラン」では、「地域共生社会」 の実現に向け、複合化・複雑化した課題を受け止める市町村における総合的な相談 支援体制づくりや、住民に身近な圏域で、住民が主体的に地域課題を把握して解決を試みる体制づくりなどの対応の方向性が掲げられている。
・このような状況を踏まえると、ソーシャルワークの専門職である社会福祉士には、 地域住民等とも協働しつつ、多職種と連携しながら、課題を抱えた個人や世帯への 包括的な支援のみならず、顕在化していない課題への対応といった役割も担ってい くことが求められ、地域共生社会の実現に向けた各地での取組を見ると、社会福祉士が中心となって、 地域住民等と協働して地域のニーズを把握し、多職種・多機関との連携を図りなが ら問題解決に取り組み、必要な支援のコーディネートや地域住民が主体的に取り組んでいる活動の支援等を行っている事例もあり、ソーシャルワークの機能を発揮する人材である社会福祉士が活躍することで、地域づくりの推進が図られている。
・また、「社会福祉法等の一部を改正する法律」(平成 28 年法律第 21 号)により、 社会福祉法人の「地域における公益的な取組」の実施に関する責務規定が創設され、 社会福祉法人は、今後とも、社会福祉事業の中心的な担い手としての役割だけでな く、他の主体では対応が困難な福祉ニーズに対応していくことが求められている。 そうした中で、社会福祉法人に所属する社会福祉士は、ソーシャルワークの機能を 発揮し、地域の福祉ニーズを把握し、既存資源の活用や資源の開発を行う役割を担うことが期待される。さらに、社会保障審議会生活困窮者自立支援及び生活保護部会報告書(平成 29 年 12 月 15 日)においても、「現在進められている社会福祉士養成課程の見直し、職能 団体による現任者研修の状況なども踏まえながら、自立相談支援機関の相談支援員 に社会福祉士などの資格を求めることについても、検討を行うべき」とされている。
3 社会福祉士が担う今後の主な役割・人々が様々な生活課題を抱えながらも住み慣れた地域で自分らしく暮らしていけ るよう、地域の住民や多様な主体が支え合い、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、そして、地域を共に創っていく「地域共生社会」の実現に向けて、@複合化・複雑 化した課題を受け止める多機関の協働による包括的な相談支援体制やA地域住民等 が主体的に地域課題を把握して解決を試みる体制の構築を進めていくことが求めら れており、それらの体制の構築を推進していくに当たっては、社会福祉士がソーシ ャルワークの機能を発揮することが期待されている。@複合化・複雑化した課題を受け止める多機関の協働による包括的な相談支援体 制とは、福祉のみならず、医療、保健、雇用・就労、住まい、司法、商業、工業、 農林水産業、防犯・防災、環境、教育、まちおこし、多文化共生など、多様な分野 の支援関係機関が連携し、地域住民等が主体的に地域課題を把握して解決を試みる 体制とも連動しつつ、必要な支援を包括的に提供するとともに、既存のサービスでは対応が難しい課題等について、必要に応じて新たな社会資源を創出していく体制 である。 ○ この体制の構築に当たり、社会福祉士には、アウトリーチなどにより個人やその 世帯全体の生活課題を把握するとともに、分野別、年齢別に縦割りとなっている支 援を多分野・多職種が連携して当事者中心の「丸ごと」の支援とし、地域住民等が 主体的に地域課題を把握して解決を試みる体制づくりと連動して、必要な支援を包 括的に提供していくためのコーディネートを担うことが求められる。また、A地域住民等が主体的に地域課題を把握し、解決を試みる体制とは、多機 関協働による包括的な相談支援体制と連携を図り、地域住民等が、地域福祉を推進 する主体及び地域社会の構成員として、近隣住民による見守りや日常の地域活動の 中で身近な圏域に存在する多種多様な地域課題や表出されにくいニーズに気づき、 行政や専門機関とともにその解決に向けてそれぞれの経験や特性等を踏まえて支援を行う体制でる。
・この体制の構築に当たっては、地域住民だけではなく、社会福祉法人や医療法人、 ボランティア、特定非営利活動法人(NPO 法人)、教育機関、地元に根付いた商店や 企業等の主体も地域社会の構成員であるという意識を持ち、連携して取組を進めることが必要。 こうした中で、社会福祉士には、地域住民に伴走しつつ、「地域住民等と信頼関係を築き、他の専門職や関係者と協働し、地域のアセスメ ントを行うこと」、「地域住民が自分の強みに気づき、前向きな気持ちややる気を引き出すためのエ ンパワメントを支援し、強みを発揮する場面や活動の機会を発見・創出すること」、グループ・組織等の立ち上げや立ち上げ後の支援、拠点となる場づくり、ネットワーキングなどを通じて地域住民の活動支援や関係者との連絡調整を行うこと 等の役割を果たすこと」が求められ、加えて個別の相談援助のほか、自殺防止対策、成年後見制度の利用支援、虐待防止対策、矯正施設退所者の地域定着支援、依存症対策、社会的孤立や排除への対応、災害時の支援、多文化共生など、幅広いニーズに対応するとと もに、教育分野におけるスクールソーシャルワークなど、様々な分野においてソー シャルワークの機能を発揮していく役割を果たすことが求められる。
4 対応の方向性
・地域共生社会の実現に向けて求められる、複合化・複雑化した課題を受け止める 多機関の協働による包括的な相談支援体制や地域住民等が主体的に地域課題を把握 して解決を試みる体制の構築に必要なソーシャルワークの機能を社会福祉士が担う ために必要な実践能力を明らかにし、その能力を身につけることができるよう、社会福祉士の養成カリキュラム等の見直しを検討すべきである
(各論1)。 ・地域共生社会の実現に向けて、その担い手となる社会福祉士の育成に当たっては、 職能団体、養成団体、事業者、行政、地域住民等の地域の関係者が連携・協働して 学び合い、地域の実情を踏まえて取り組むことが重要であるため、職能団体 や養成団体等が中心となって地域でソーシャルワークの機能が発揮されるような取 組の推進を検討すべきである
(各論2)。・社会福祉士の地域共生社会の実現に向けた活動状況等を職能団体が中心となって 把握するとともに、社会福祉士が果たしている役割や成果の「見える化」を図り、 国民や関係者の理解を促進する方策を検討すべきである
(各論3)。○各 論
1 社会福祉士の養成について・【複合化・複雑化した課題を受け止める多機関の協働による包括的な相談支援体制を構築するために求められるソーシャルワークの機能】→ニーズ・課題の発見、アセスメント、地域づくりの提案、費用化、意識の醸成及び共有化。
・【地域住民等が主体的に地域課題を把握し、解決を試みる体制をつくるために求められるソーシ ャルワークの機能】→「包括的な相談支援体制」と「住民主体の地域課題解決体制」との関係性や役割等に関する 理解の促進、その他の必要なこと。
(1)養成カリキュラムの内容の充実
・社会福祉士が、個人及びその世帯が抱える課題への支援を中心として、分野横断的・業種横断的な関係者との関係形成や協働体制を構築し、それぞれの強みを発見して活用していくため、コーディネーションや連携、ファシリ テーション、プレゼンテーション、ネゴシエーション(交渉)、社会資源開発・社 会開発などを行うとともに、地域の中で中核的な役割を担える能力を習得できる内容とすべきであり、 また、自殺防止対策、成年後見制度の利用支援、虐待防止対策、矯正施設退所 者の地域定着支援、依存症対策、社会的孤立や排除への対応、災害時の支援、多 文化共生などの場面においても、社会福祉士に期待がされており、ソーシャルワークの基本を習得することを土台として幅広い福祉ニーズに対応できるようにするための実践能力を習得できる内容とすべき(ニーズの多様化に合わせて科目を積み上げたり、科目を細分 化したりするということではなく、社会福祉士として身につけておくべき普遍的な知識・技術は何かという観点から整理が必要との意見があった。)。
(2)実習及び演習の充実
・複合化・複雑化した個人や世帯の課題を適 切に把握し、現状のサービスでは解決できていない問題や潜在的なニーズに対応 するために多職種・多機関と連携や交渉を行い、支援をコーディネートしながら 課題を解決できるだけでなく、課題の解決に向けて地域に必要な社会資源を開発 できる実践能力を有する人材であり、こうした人材を実習を通して養成していく必要がある。
また、演習は、具体的な事例を用いて専門的援助技術を実践的に習得することをねらいとしており、この専門的援助技術について、総合的かつ実践的に習得するためには、講義で学 習したその理論や知識について、演習を通じて活用方法等を実践的に習得し、実習において利用者の状況に合わせた知識・技術の適切な活用や実践上の課題の発見など、「講義−演習−実習」の学習の循環を作り、確実にソーシャルワーク専門職である社会福祉士に必要な実践力を習得できるようにしていくべきとの指摘があり、実習及び演習に関する内容の充実や実施方法の見直しを行う必要がある。具体的には、現場での学習及びそれに資する教育の機会や時間を増やすため、 講義・演習・実習の充実を検討するとともに、アウトリーチ、ネットワーキング、 社会資源の活用・調整・開発に関する実践能力を習得し、実際に活用できるよう にするための教育内容について検討。
2 地域全体での社会福祉士育成のための取組について・地域共生社会の実現に向けて必要となる包括的な相談支援体制及び住民主体の地域課題解決体制を構築し、対象者の属性に関わりなく、複合化・複雑化 した課題に対応できる社会福祉士を育成するためには、職能団体、養成団体、事業者団体が協働して社会福祉士の育成に取り組むだけでなく、行政、地域住民など、 地域の様々な立場や分野の関係者が連携・協働して学び合いや活動の機会を設けて いくことが重要である。
・
社会福祉士の養成教育における「実習」と社会福祉法人の「地域における公益的な取組」を協働で展開することにより、養成校の資源(教員・学 生・施設)を活用しつつ、現任の社会福祉士にとっては、実習指導者として所属組織の承認のもと、実習生とともに地域における公益的な活動に取り組むことができ、 実習生にとっては、社会福祉法人が果たすべき地域アセスメントの方法等を学ぶこ とが可能となり、「
地域に強い」社会福祉士の育成・養成につながることに加え、法人側にとっても学生が社会福祉法人に就職しようとする動機付けにつながるなど、 相乗効果が期待できるとの意見があった。
・現任の社会福祉士の学び直しに関して、「所属組織において、職場の職務に加え、社会福祉士が地域に関わることについ ての理解が必要」「実習生の受入れや国家資格取得後の現任研修の強化等については、所属組織によるサポート体制の充実が必要」「現任社会福祉士の育成には、就労先の事業所(雇用者)が社会福祉士の自己研 鑽の意義を理解し、スーパービジョンへの理解が重要」といった意見があった。 こうした意見も踏まえ、職能団体や事業者団体が協力しつつ、経営者等への働き かけを通じて、所属組織による理解を促していく取組が必要である。
社会状況の変化やニーズの多様化・複雑化に伴い、社会福祉士の活躍の分 野は拡がってきており、実践力を向上させていくためには、資格取得後の不断の自 己研鑽が必要である。一方で、社会福祉士は、同一の職場に配置される人数が少な いため、OJTが難しいという実態もある。この点も含めて、職能団体が中心となって取り組んでいる認定社会福祉士制度を活用することが考えられる。また、社会福祉施設等で働く現任の社会福祉士については、所属先の専従要件が あるものの、社会福祉施設等の職員が取り組む地域活動について、利用者の自立等に資するものである場合、サービスの提供に従事する時間として取り扱うこととされている。 さらに、地域づくりに資する事業について、介護保険制度の地域支援事業や子ども・子育て支援制度の地域子育て支援拠点事業など、複数の事業を一体的に実施する場合、ある事業の担当職員が別の事業の対象者に支援を提供することも可能であり、その実施に要する費用を按分することも可能とされている。 このような柔軟な取扱いを通じて、社会福祉士が地域活動を積極的に取り組めるよう、環境を整えていくことも重要。○ 行政分野における社会福祉士の育成に関して、福祉事務所における社会福祉士の 資格を持つ生活保護担当現業員や査察指導員の割合は増えてきているものの、福祉 事務所職員のさらなるケースワークの能力向上等に向けて、社会福祉士の資格の取得促進や有資格者の活用を進めることが必要である。
3 社会福祉士の役割等に関する理解の促進について・社会福祉士の実態把握を行うことにより、その専門性や果たしている役 割が明らかになることで、所属組織において社会福祉士を任用することの意義が高 まり、社会福祉士の活動に対する理解も進むものと考えられる。また、行政機関に おいても、社会福祉士の専門性への理解が深まることによって、その任用や資格の 取得が促進されるものと考えられる。 ○ このため、社会福祉士が果たしている役割や成果等の「見える化」を図り、国民 の理解をより一層促進するため、職能団体が中心となって、多様な分野の施設・機 関等において実践している社会福祉士の業務実態や所属組織におけるサポート体制 などの実践環境等を把握すべきである。
○おわりに・社会福祉士の資格制度については、昭和 63 年に創設され、これまでに約 21 万人が 資格を取得している。社会福祉士の養成カリキュラムについては、平成 19 年度に見直され、平成 21 年度より施行されているところであるが、社会状況はこの 10 年間で更なる変容を遂げている。
・当委員会では、今後、政府が目指す地域共生社会の実現に向けて、ソーシャルワー クの専門職として社会福祉士に必要な実践能力を身につけ、その役割を担えるよう、 この 10 年間における制度改正の推移等も考慮しつつ、
養成カリキュラムの見直しや現 任の社会福祉士の実践能力の向上、社会福祉士に対する理解促進に向けて必要な取組を検討してきたところであり、国においては、このとりまとめの内容を踏まえて、必 要な対応をすべきである。次回は、「
(参考資料1) 社会福祉士の現状等(参考資料)」からです。