NPO法人農都会議 食・農・環境 グループは、4月19日(金)18:00から、シンポジウム『「ゲノム編集」〜その未来を考える 』を開催しました。
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イベント案内 簡便に遺伝子操作ができるゲノム編集技術が、現在、世界で急速に広まっています。
農作物の品種改良にも大きな貢献が期待される一方で、遺伝子に直接、手を入れることに対しての懸念もあります。
世界でのゲノム編集の統一的規制は、まだ確立されていません。
日本では、この2月、国としてのゲノム編集の技術利用に関しての通知が出ました。
この方針決定に関わる、「カルタヘナ法におけるゲノム編集技術等検討会」の座長を務められた大澤教授と、ゲノム編集に規制と表示を求める天笠氏に、講演いただきました。
会場の港区神明いきいきプラザには、44名の参加者が集まり、お二人の講演と活発な質疑応答・議論が行われました。
第1部 講演では、最初に、筑波大学 大澤教授から―
すべての品種が、今あるようなものが突然にでき上がったのもではなく、自然の変化、突然変異を利用して人間が選択する、ということを積み重ねてきたことで、有益な作物・家畜を作り上げてきた。
品種改良の三原則、私が作ったものだが、
@遺伝的変異の創出・拡大 (品種改良の素を作る)
A希望型の選抜・品種化 (欲しい性質を効率よく選び出す)
B品種の維持・増殖 (性質が変わらないように増やす)
変異を作って、いいものを選んで、それを維持すること、この3つが必須、一つでも欠けてはいけない、品種改良の大原則である。
遺伝子組換え、ゲノム編集は、それ自身が品種改良というのではなく、変異を起こす技術に過ぎない。@自然の突然変異、A化学品や放射線利用でこの突然変異の発生を高める、Bゲノム編集は、遺伝子がわかっているときに、そこにピンポイントで変異を作る方法― これら@ABのどの技術を使っても、最終的にできるものは同じ。
規制は、環境影響に対する規制と、食品安全性に対する規制の二つがある。
ゲノム編集は、従来育種技術により得られたものと判別・検知が困難なことから、法的な義務化は必要としないが、当面、開発者等から必要な情報届け出を求める。
続いて、天笠氏(ジャーナリスト、日本消費者連盟共同代表)から―
今のゲノム編集で一番多いのは、京都大学でマダイやトラフグの開発のような、ミオスタチンという筋肉の成長を抑制する遺伝子を壊す、意図的に生命体の調和を崩す応用がひじょうに多い。ゲノム編集で狙った遺伝子を壊すことで、生命のバランスを壊してしまい、意図的に病気や障害をもたらすことになる。
政府は、戦略的イノベーション創造プログラムのテーマの一つ「ゲノム編集」について、早く法律などの規制について決着をつけるよう、昨年6月、法律や指針などの規制の早期明確化、推進態勢の整備を行なう方針が出た。
これを受けて、まず環境省が動き、8月下旬にはカルタヘナ法での規制で結論が出た。この過程では、ほとんど、専門家以外の声を聞かないで、方針を決めてしまった。
中国では双子の赤ちゃんがゲノム編集で誕生したが、生命倫理の問題がある。インフルエンザが重症化しやすくなり、脳にも影響があることが分かり、一つの遺伝子を壊すことが、いろんな問題を引き起こすことを、この事例は示している。
遺伝子組み換えでは、特許を取って種子を制覇し、種子を制覇することで、食料を制覇する、ということが起きた。モンサントはこれを行なった。特許支配が食料支配につながっていった。今回のゲノム編集でも、この特許の問題が起きている。
ゲノム編集では、オフターゲット(標的外改変)で、様々な遺伝子を壊してしまう。
ゲノム編集の効率を上げれば上げるほど、発がん性を増す、という研究報告もある。がん抑制遺伝子を抑制してしまうことに起因している。
ゲノム編集以外にも、たくさんの技術が出てきている。これらにも今回の環境省、厚労省の考え方が、新技術の農水産物にも適用されていくことになるのではないか。規制の対象外の考え方が、拡大するのではないか、とひじょうに懸念している。
第2部の【質疑応答・議論】では、大澤教授から―
ゲノム編集技術により起こるターゲット変異以外の変異(オフターゲット)のリスクは、農作物では、それを取り除く術がある― バッククロス(戻し交雑)したり、交配して、そういう目的外変異を落としていくことができる、あるいは、変異を見て、それを捨てることもできるが、医療でのオフターゲットについては、慎重であるべき、と思う。
ゲノム編集によって生まれた植物・動物の野生化について、作物はほとんど野生的な要素を失っており、ゲノム編集で収量性を上げても、作物に限っては、野生化することはない。
ゲノム編集で太ったマダイや太ったフグが、狂暴化することは考えられないが、魚類においては経験が少ないため、食する魚のゲノム編集の取扱いは、私個人は、慎重であるべき、と考えている。
生態系のバランスや変異の影響のコントロールについて、微生物、動物の事例を待っていない。どのようなものができるかによっては、ひっかかるものがある。その場合は、制御、規制していくことは必要。
天笠氏からは―
実際問題として、どういう危険があるのかは、まだはっきりわからない。議論を得た上で、判断すべきが、それが行われないままに、どんどん進めてしまった。拙速すぎる判断だ。
このままでは切るだけのゲノム編集では、環境への影響評価とか、食品としての安全性評価もなくなる、表示もなくなるので、私たちが選択できなくなる。最低限、表示して選択できるようにすべきである。
EU、ニュージーランドでは、政府は推進の姿勢を示したが、農家などが訴えて裁判でゲノム編集を規制する判決が出た。
ゲノム編集で一つのDNAを切ると、複数の遺伝子を壊してしまう。生命の仕組みは、本当に複雑にできている。ゲノム編集でつくった農作物が、何世代か後に、大きな問題を起こしてしまうこともありうる。
欧州では環境保護の考え方が徹底している。遺伝子組み換え生物は環境を破壊する生物だから表示して「あなたは環境に良くないものを食べているのですよ」と分かるように、遺伝子組み換え食品は、欧州では全食品表示という、厳しい表示制度になっている。食用油のように、遺伝子組み換えのタンパク質、DNAが残らないものも、表示が義務付けされている。
また、米国の農薬の消費量は、1996年の遺伝子組換え作物導入時より、数倍に増えている。お母さん方の運動につながっていて、子どもたちのアレルギーや、発達障害が増えている。遺伝子組み換え作物への農薬使用量が増えている影響ではないか、ということで、取り組みが今、広がっている。
農薬が増えたのは、耐性雑草が広がったため。除草剤をかけても枯れない雑草が増えてしまって、いろんな除草剤を使うようになり、除草剤自体の使用量も増えている。
また、虫を殺す作物にも耐性害虫が増えており、殺虫毒素Bt毒素に耐性の害虫が増えている。このため、殺虫剤を使わざるを得なくなっている。米国で大きな問題になっている。
世界で開発が急速に広がっている「ゲノム編集」がテーマで、熱気の溢れるシンポジウムになりました。
講師の皆さま並びにご出席の皆さま、誠にありがとうございました。
以上