浅草の新年 撮影:服部考規
大晦日の除夜の鐘の響きも遠のき、澄みきった空に繭玉が色合いを添える初春。寺社を訪れる初詣の人々が、賽銭箱の上に下がる太い紐を揺らすと大きな鈴がガラガラと鈍い音を立てます。新年だけは若者たちも、この鈴の音を体に染み込ませるのです。
神社鈴 撮影:服部考規
> 神社鈴
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ところで寺などでは、賽銭箱 の上に鈴ではない別の金属の楽器が下がっているのをご存知でしょうか。平べったい形をした鳴り物「鰐口(わにぐち)」です。その形は、雅楽で用いる金属製の鉦(かね)「鉦鼓(しょうこ)」を、外側を凸面にして2枚くっつけたような姿をしています。
鰐口2種 撮影:服部考規
>鰐口
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鰐口は、古くは「金鼓」とも呼ばれ、もとは仏教寺院の鳴らしものでしたが、神社の社殿にも吊り下げられるようにもなりました。名前の由来は、口を開けた底辺部分が鰐の口に似ているからということらしいのですが・・。
鰐口の口の部分 撮影:服部考規
鰐口と呼ばれた最古の記録は宮城県大高神社のもので、1293年の銘が残っているそうです。
鰐口の表面には、太く編んだ紐が下がっていて、この紐を鉦の中央に打ち付けて音を出しますが、ガランゴロンと鳴る鈴よりももっと鈍い響きで「ボワン ボワン」と鳴ります。
神社鈴にしろ、鰐口にしろ、年始めの音は、なぜか、かなり控えめで自らを主張しない響きです。でも、低音域で複雑な音高と音質の混じり合ったこの音色は、なかなか味わい深く、体にも良さそうな響きです。この響きこそが日本古来の響きなのかもしれません。
鈴や鰐口の響きとは対照的に、新年には甲高い音も聞こえてきます。ムクロジの実が板を打つ響き〜羽根突きの音〜です。
>羽子板
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ボストンから来日したモースは、日本の羽根突きの響きを「クリック、クリック」と表現し、アメリカの故郷で遊ぶ羽子板に似た道具は「サムサム」という音なのにと、異なる響きに驚いています。この固く響く音も、日本の響きの代表です。
ところで、鈴を埋め込んだ珍しい羽子板を最近手に入れました。
鈴をはめ込んだ羽子板(左)と押絵の羽子板(右) 撮影:服部考規
絵の様子からして、昭和初期の羽子板でしょうか。飾りだけのためか、鈴は良く鳴りません。厄除けの象徴として埋め込んだのかもしれません。
もうひとつの押絵の羽子板にも、表面には見えませんが内部に鈴が埋め込まれ、羽を突くたびに、鈴が鳴ります。
木の音と鈴の音を混ぜて響かせる発想は、ほかにもあります。
昭和40年代までは、子どもたちの履くぽっくりの底にも鈴が取り付けられ、子供が歩くたびに木の音と鈴の音が鳴る仕組みになっていました。
ぽっくり 撮影:服部考規
鈴の音は厄除けの意味はもちろんですが、子供が何処にいるのかを確かめるためにも役立ったことでしょう。
>ぽっくり
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初春に、家々の門口を訪れる獅子舞の囃子。篠笛・締太鼓・桶胴・当り鉦の音に混じって、獅子頭が口をカツカツと打ち合わせ、福を招きます。この獅子頭の仕草を真似て作られたのが、板獅子という発音玩具です。
各地の板獅子の顔・顔・顔。ほんとうに多種多様で豊かな表情です。
様々な表情を見せる板獅子(日本玩具博物館所蔵) 撮影:竹内敏信
>板獅子
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控えめで深みのある鈴の響きと、遠くまで響きわたる木の響き。伝統的な新春の音風景です。
次回は「しんしんと」です。
文:茂手木潔子(日本文化藝術財団専門委員/聖徳大学教授)
音源制作:film media sound design
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