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2018年08月01日

第17回 鉦を打つ

1990年代、越後杜氏を多く輩出した長岡市越路町に、蔵人さんたちの酒屋唄の思い出話をお聞きするために、よく通っていました。お盆も近い8月、夕方になると遠くから笛と鉦太鼓の音が聞こえてきます。蔵人さんに案内されて、祭囃子の稽古場所に行ってみると、鉦の音は、板状の鉄を打っていた音でした。
このことを、越路町の中学校の先生に話したところ、「こんな鉦もあるんですよ」と下さったのがこの鉦。鉄製で実に良い音色がします。

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越後の屋根の滑り止めを切った鉦

>屋根の鉦


この鉦は、屋根に取り付けられていた雪かきの滑り止めを切ったものでした。越後の冬は豪雪に見舞われますから、屋根に積もった雪を定期的に降ろさないと屋根がつぶれてしまいます。でも、屋根の上で行う雪降ろしは危険を伴うので、屋根の端にこの形の長い金属を取り付けて、滑り落ちないようにするのです。

関東の祭り鉦は、小さな真鍮製の鉦です。
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当り鉦
赤い紐を左手の小指にかけて親指と小指で鉦を支え、凹面の中央や側面を、鹿角のバチで打ったり左右に擦って音を出します。
>当り鉦


以前は「擦り鉦」と呼んでいました。でも、縁起を担いで、「する」ではなく「当たる」と改名され、今は「当り鉦」と呼ばれます。越路町の鉦は、身近な材料で作った「当り鉦」の代替品でした。
夏祭の音といえば「笛、かね、太鼓」。「かね太鼓」の「かね」は、この鉦のことです。現在の「当り鉦」は、直径12cm〜18cmまで大きさはいろいろ。鉦の厚さで音色も異なります。

全国の祭囃子のルーツは7月に行われる京都の祇園囃子と言われます。厄除け、病魔退散を願って始まった祇園祭ですが、山鉾の中で演奏される祇園囃子では「コンチキ」という鉦が打たれます。
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コンチキ

当り鉦と比べてかなり厚い中型の鉦で、こちらは上から紐で吊るして凹面の下方を打ちます。
>コンチキ


故春風亭柳朝師が得意としていた落語に「祇園祭」という演目がありました。京都の祇園祭見物に出かけた江戸っ子が、揚屋の2階で同席した京都人の京自慢に辟易して口論になる話ですが、口喧嘩に使われるのが、神田囃子の唱歌(しょうが)と、祇園囃子の唱歌です。唱歌とは、「ピーヒャララ」とか「ドコドンドン」「テケテンテン」のように、楽器奏法をカタカナ語で唱える譜で、雅楽から三味線までジャンルごとに各種あります。落語では祇園囃子が「コンチキ」、神田囃子が「チャンチキチ」と表現されます。落語家のリズム感が物言う夏らしい演目です。

コンチキをもっと大型にしたのは「双盤(そうばん)」で、開口部が40cmを超える鉦もあります。大阪の天神祭(7月24日〜25日)や桑名の石取祭(8月3日〜5日)では、夏の暑さを吹き飛ばすほどの大音量で打たれています。
>双盤


東北地方の夏祭りでは、鉦ではなくシンバル型の「手振り鉦(てぶりがね)」を打ちます。このシンバルは、銅拍子(どうびょうし)、土拍子(どびょうし)、チャッパ、手平鉦(てびらがね)など、呼び方も地域によっていろいろ。歌舞伎でも中国風の演目(例えば《国性爺合戦》など)で使います。
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手振り鉦

青森のねぶた祭(8月2日〜7日)や弘前のねぷたまつり(8月1日〜7日)では、手振り鉦が大太鼓、竹笛とともに大活躍です。この楽器は仏教の銅製の鈸(はち)がルーツですが、雅楽の《迦陵頻》では、極楽浄土から舞い降りた鳥「迦陵頻伽(かりょうびんが)」の姿をした子どもたちが手に持って舞っています。神聖な音で辺りを浄め、災いを払う音として使われてきたのでしょう。
>手振り鉦


「ねぶた祭」には、「らっせーらっせー」の掛け声で踊る「ハネト」が腰に下げる「ガガスコ」という独自の道具もあります。昔は踊りながら「ガガスコガン ガガスコガンと打っていたよ」と、地元の方からお聞きしました。当り鉦に取っ手がついた形です。
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ガガスコ

夏は鉦の音ですね。
身近な道具が各地の夏の音を作っています。

次回は、「風を聴く」です。


文:茂手木潔子(日本文化藝術財団専門委員/聖徳大学教授)
楽器写真撮影:服部考規
音源制作:film media sound design
※スピーカー等の環境によって、再生されない場合があります。
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