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2018年07月01日

第16回 豆腐ラッパの不思議

毎日うだるような暑さが続くこの時期、仕事から帰って汗を流し「冷ややっこ」に枝豆、ビールでほっと一息という方も多いのではないでしょうか。冬の湯豆腐もいいですが、蒸し暑い夏に味わう冷たい豆腐は格別です。

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豆腐ラッパとオランダのキツネ狩りの笛

豆腐屋さんと言えば、「トーフー」と吹いて売り歩く「豆腐屋さんのラッパ」。昭和40年代までは、だれもが知っていた耳馴染みの音でした。
豆腐屋さんがラッパを吹き始めたのは日露戦争後とのことで、日露戦争前は朝顔形の鈴(レイ)を振っていたものが、日露戦争の勝ち戦さ気分でラッパを吹くようになったそうです。三谷一馬著『明治物売図聚』146・147頁(平成3年12月 立風書房)に、明治39年刊『風俗画報』の、手にラッパを持つ京都の豆腐屋さんが紹介されています。
平成10年代、寺泊港に近接する古物商の一軒で豆腐屋のラッパ(写真中央)を見つけた私は喜んで買い求め、音を出してみました。
>豆腐屋ラッパ(写真中央)

普通に吹くと一つの音しか出なかったので、どうしたら少し高めの音が出るのだろうといろいろ試したところ、少し強めに吹くと二つ目の「フー」の音になることが分かりました。その後、上町のボロ市で2本目のラッパを見つけました(写真右)。そして、自宅の楽器棚を整理していて、20年近く前にアムステルダム蚤の市で、旅行土産に何か…と買っていた小さなラッパを見つけ、このラッパが豆腐ラッパに酷似していることに気が付いたのです(写真左)。
ラッパに書かれている文字の意味をオランダ人の音楽学者に読んでもらったところ、オランダ〜アメリカ間を就航していた船客に配られた土産物だとのこと。

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オランダのキツネ狩りの笛に書かれた文字

さらに偶然でしたが、イギリスのTVドラマ「バーナビー警部」シリーズの中で、狐狩に出かける貴族がこの笛を吹いていたのも見ました。どうも玩具ではなくキツネ狩用の本物の笛のようです。
このラッパは同じように吹いても音が下がってしまいます。
>キツネ狩りの笛(写真左)

では豆腐ラッパのルーツはキツネ狩りの笛なのでしょうか? キツネ狩りの笛には2種類の形があり、こちらはその一つのようです。

ところで、ある日、豆腐屋ラッパを開発したハーモニカ会社の社長さんとお話しする機会があり、私が自慢げに吹いたところ、豆腐屋さんのラッパは「吹いたり吸ったりして音を出すのだから、このラッパは壊れているから直してあげましょう」という話になりました。びっくりして手元の資料やらいろいろ調べたところ、東京藝術大学の小泉文夫記念資料室の図版解説もネット解説もすべて、豆腐ラッパは「吹いたり吸ったりして」と書かれていることに気づきました。
そんなはずはない、吹いてだけ音を出すはずだと私がこだわった理由は、歩きながら音を出すのに、吸って音を出すだろうかということと、ラッパのリード構造です。

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豆腐ラッパのリード(上から)

豆腐ラッパのリードは、クラリネットのリードと同じ構造なので、吸って音は出さないと思うのです。

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豆腐ラッパのリード部分(横から)※最初の写真中央のラッパ

豆腐屋ラッパの起源を明治時代の「吹風琴(すいふうきん)」(ハーモニカのこと)とする説明もありますが、形も構造も違います。
ただ、私の記憶の中の「トーフ―」の音に切れ目はありませんでしたので、悩んでいたところ、先輩から小泉文夫氏が生前、豆腐ラッパ奏法について話していたことを聞くことができました。その方法では、片手でラッパを持ち、開いた部分に小指から人差指の数本の指をかざして息を吹き込み、そのままかざした指を開くのです。すると、指をかざすと低い音、指を開くと高い音が出て、確かに記憶の中にある「トーフ―」の音になりました。これなら切れ目なく音を変えることもできます。
吹いても吸っても音を出す豆腐ラッパも開発されていますが、やはりトーフーは、吹いてだけ音を出す楽器だったのでしょう。吸って音が出ないと壊れたと思っている豆腐屋さんもいるかも知れませんが、壊れていませんので安心してください。

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北海道から入手した豆腐ラッパとリード

北海道の豆腐屋ラッパとのことで入手したものは長さが43pもありました。全国でいろいろな豆腐ラッパが吹かれていたのですね。
>北海道の豆腐屋ラッパ


次回は「鉦を打つ」です。



文:茂手木潔子(日本文化藝術財団専門委員/聖徳大学教授)
楽器写真撮影:服部考規
音源制作:film media sound design
※スピーカー等の環境によって、再生されない場合があります。
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