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2018年02月01日

第11回 しんしんと

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雪景色 撮影:服部考規

暦の上では立春。でも、春を感ずるのは関東以西に住む人々だけのように思います。2月の日本海側は、まだまだ冬の季節なのです。特に今年は大寒に積もった大雪で、北陸や東北地方の春の訪れは先延ばしされてしまいましたから。
「深々と」積もった雪の朝は、生活音が全て吸い込まれて、「しーん」と静まり返った無音の世界になります。
この時期、各地の酒蔵では寒造りの終わりも近づいて大忙し。昔の酒造りの工程では、仕事ごとに唄が歌われていたことをご存知でしょうか。時計のなかった時代、撹拌時間を図るため、数人の作業の動作を揃えるためなど、酒造りの工程では唄が大事な役割を果たし、作業ごとに10種類ほどの唄が歌われていました。早朝の仕事始めは、その日に仕込む酒を入れる六尺桶を洗う「桶洗い唄」。桶の中に入ってササラを上下に動かしながら歌います。数人で櫂棒を手にして酒の「酛(もと)」を撹拌する時も、米を洗う足を揃える時も「酛すり唄」や「米洗い唄」を歌いました。ササラを擦る音は、歌う蔵人にとって大事な伴奏楽器でもありました。
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ササラ(酒造り用のササラは、もっと長い) 撮影:茂手木潔子
>ササラ

新酒が無事に出来上がるように願う時は、火打石を打って松尾神社の神様に祈ります。
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火打石と火打鉦(石はメノウ) 撮影:服部考規
>火打石

冷え込む蔵に響く蔵人の朗々とした歌声。時折聞こえる木桶を擦る音、水の音、そして石の音。酒を造る里の真冬の音風景です。

2月半ばになると、各地で春を待ち望む「春迎え」の行事も始まります。神奈川県山北町能安寺の「百万遍念仏」(2月中旬の土日)は、天井から吊り下げた長い数珠を、男性一人が何度も力強く引き下ろす数珠廻しで、滑車に掛けられた数珠がガラガラと豪快な音を立てます。
「百万遍」は京都知恩寺を発祥とする行事で、はやり病の治癒を願って大数珠を手にした人々が数珠を廻して100万回の念仏を唱えたことに始まり、東北から九州の各地に伝承されるようになりました。私が体験した新潟県村上市の「数珠繰り」は、硬い材質で作られた数珠が廻る(繰る)音が、あたかも石ころに当たる水の流れに似て、此岸と彼岸を隔てる川のようにも感じたことを覚えています。
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百万遍用の大数珠 撮影:服部考規
>数珠繰り

東北地方の春迎えの祭には、地域で独自に考案した楽器も登場します。
秋田県の六郷町の「竹打ち」(2月15日)では、戦いの合図に木で作った法螺貝「木貝(きがい)」を吹きます。木貝を作ったのは桶屋さん。音はほら貝と同じ音ですが、円錐形の部分は桶作り、吹き口は風呂桶の栓のようです。
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角館「竹打ち」の木貝 撮影:服部考規

青森県の八戸の伝統芸能「えんぶり」(2月17日〜20日)も、2月の風物詩です。「えんぶり」は農作業で使う「杁(えぶり)」が語源で、竹の鳴子と金属の輪を取り付けた板に長い棒のついた道具を地面に突き立てたり振って音を出しながら、黒い紋付きに華やかな烏帽子を被った男たちが春の到来を願い、豊かな実りを祈念して舞います。
「えんぶり」には短めの「どーさいえんぶり」と、写真の「長えんぶり」の2種類があり、「長えんぶり」の金属の輪は仏教の楽器「錫杖(しゃくじょう)」の円環を連想させます。鳴子は田畑の鳥追いのための楽器ですから、この楽器は仏教とアニミズムの共存した姿のようです。
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撮影:竹内敏信
>長えんぶり

次回3月は、「ひな祭り」です。


文:茂手木潔子(日本文化藝術財団専門委員/聖徳大学教授)
音源制作:film media sound design
※スピーカー等の環境によって、再生されない場合があります。
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