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2017年12月01日

第9回 木の音が呼ぶ年の暮

吊るし柿の風景.JPG
吊し柿 撮影:服部考規

12月に入り、冷たい空気にさらされて柔らかく飴色になった吊し柿を風通しのよい屋根裏の藁を敷いた床に並べると、暮には真白い粉が吹き美味しそうな干し柿となります。笛吹川沿いの故郷の思い出です。

>拍子木

師走の声を聞く夕暮れ時には、「火の用心」の拍子木の音。静けさとともに暮独特の情緒を感じたものでしたが、この音も年を追うごとに消えてゆきます。

拍子木は、欧米の人にとっては日本の音文化の代表的な存在だったようで、1870年代に来日した大森貝塚の発見者E.S.モースは、滞在中の日記の中で「夜中に時々、規則的なリズムを持つ奇妙なカチンカチンという音を聞くことがある。これは、私設夜警が立てる音で、時間を決めて一定の場所を巡回し、その土地の持ち主に誰かが番をしつつあることを知らせるために、カチン、カチンやるのである。」(E.S.モース著 石川欣一訳『日本その日、その日』1 pp.19-20 平凡社 東洋文庫172)と記して取り上げています。
江戸時代の戯作者、近松門左衛門も、拍子木の響きが好きだったようで、世話物浄瑠璃の中で拍子木の音を効果的に使って劇的効果を作り出しました。例えば『心中天の網島』の下の巻〈大和屋の段〉では、太棹三味線に拍子木と「ごようざ(ご用心)」の声を打ち交ぜて、心中覚悟で車戸を開けて廓を抜け出す小春と治兵衛の緊迫した情景を巧みに演出しています。

ところで、拍子木といっても、地域ごとに長さも形も様々ですが、私たちの音文化では、拍子木のように2本の木片を打ち合わせる打楽器が身近な音として多用されています。
拍子木いろいろ_No..jpg
@歌舞伎の木頭 A火の用心の拍子木 B仏教行事で用いる音木 C民間信仰で用いる音木
撮影:服部考規
※冒頭の拍子木の音はAの火の用心の拍子木


拍子木(長い).JPG
全長約43pの拍子木(地域不明) 撮影:服部考規

歌舞伎で開演ブザーの役割や開幕の音として打ち鳴らされる木頭(きがしら)、仏教行事で読経のリズムを整える小ぶりの音木(おんぎ)とか割笏(かいしゃく)と呼ぶ拍子木もあります。
>音木

また、神道の神楽歌で歌の拍子を取る板状の笏拍子(しゃくびょうし)は拍子木のルーツです。
笏拍子.JPG
笏拍子 撮影:服部考規

>笏拍子


モースはこれらの木を打ち鳴らす響きに強い関心を持ち、1877年6月の初来日時には下駄やぽっくりの音にびっくりし、日記には笏拍子の持ち方やいくつかの木製打楽器の絵を描き、帰国の時は拍子木、下駄、魚版、羽子板、笏拍子などを複数ボストンに持ち帰りました。そして、行事の開始や呼び鈴替わりに打ち鳴らす板状の盤木(ばんぎ)や魚板という打楽器については、 自国では木琴やカスタネットのような楽器として木を使う例はあるが、このような音信号として使う例はないと日本の音文化の独自性について記しています。
木を用いた工芸、建築など、木の加工では国際的に抜きん出た技術を持ち、芸術性の高い多くの作品を生み出してきた国として、木に関する国際学会でも一目置かれている日本。視覚的な作品だけではなく、木の響きにこだわって来た伝統にも注目してほしいところです。

2017年、地球の様々な場所で起こった事件や天変地異で、多くの人々の平穏な日常が失われました。新たな年が平和で穏やかな年になりますように、下関の「ふく笛」に願いを込めて。
フク笛_02.jpg
写真:竹内敏信 日本玩具博物館所蔵

次回は「新春の響き」です。

文:茂手木潔子(日本文化藝術財団専門委員/聖徳大学教授)
音源制作:film media sound design
※スピーカー等の環境によって、再生されない場合があります。
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