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2017年09月01日

第6回 雨の季節に

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彼岸花 撮影:服部考規

猛暑もやっと一段落、一雨ごとに秋の訪れを感ずるこの頃です。
9月も半ばを過ぎると、近くの遊歩道のあちらこちらから、突然、茎がひょろっと伸び出すので、「あぁ、ここに彼岸花があったんだ」と気づかされます。お彼岸が近づくと花開くので「彼岸花」と名付けられたはずですが、今年は1か月も早く8月半ばから咲き始めていました。
横笛演奏家の故寶山左衛門(たから・さんざえもん)氏(前名:6世福原百之助)の篠笛作品に、秋雨を表現した「秋霖(しゅうりん)」という作品があります。山左衛門氏によれば、竹笛は雨模様の日に良く鳴るとのこと。東アジアのモンスーン地帯で育つ植物ですから、風土が楽器を育てるのだなあと納得したものでした。

歌舞伎には、雨の音を表現するいくつかの方法があります。大太鼓を歌舞伎独特の長いバチで「ボロボロン ボロボロン」と打って、雨の降る様子を表す方法。また、「雨団扇(あめうちわ)」を使う方法です。

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雨団扇(岡田屋布施提供) 撮影:服部考規

「雨団扇」は明治35年頃に考案され、柿渋を塗った「渋団扇」に豆や小石(現在はビース)を取り付け、団扇を揺らして音を出します。ビーズ部分を下にして(写真右)上から手で団扇を細かく打つとパラパラ降る雨、ビーズ部分を上にして団扇を横揺れさせると、ザーザーとまでは行きませんが連続的に降り続く雨の音になります。

>>雨団扇

渋団扇だから出るこの音ですが、裏表で違った音を出す工夫はなかなかです。雨の音は、平安時代からの日本文学のキーワードでもあり、雨の音色の違いまでも聞き分ける耳は、日本人の自然音への強いこだわりを表しているのでしょうか。
ほかにも以前は、油紙を張った樋(とい)に豆を流して音を出す「雨樋(あまどい)」や、車型容器に豆を入れて回す「雨車(あまぐるま)」という道具も使っていました。

伝統芸能では、砧(きぬた)も秋を象徴する音です。砧は、葛飾北斎の浮世絵にもよく登場しますが、切株や石の上に布を置いて打った道具で、もとは打つ台のことだったようですが、その後は写真(左)のような、打つ道具をさすようになりました。

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砧の類(左)と歌舞伎の砧(右) 撮影:服部考規


能には「砧」(伝・世阿弥作)という作品があり、京に上った夫の帰りを待つ妻の打つ砧が孤独感を表現し、箏曲「岡安砧」では、「月の前の砧」「夜半の砧のしぐれの雨」と詠まれ、月、雨、砧で秋の情緒を描き、「トンテントンテン」(♩ ♩ ♩ ♩ )と、砧を打つリズムで聴覚からも秋を感じさせるのです。
歌舞伎で作られた独自の砧(写真右)は、欅(けやき)製で、大太鼓の「水音」(近くに川がある様子)の中で間をあけながら打ち、のどかな川辺の風景を表しますが、太鼓のリズムや拍子と微妙にずらす砧の一打ちが、なかなか難しいのです。

>>歌舞伎の砧

>>歌舞伎の砧(大太鼓の水音入り)


子供時代の記憶では9月15日がお月見でしたが、旧暦と新暦との誤差で十五夜の日は毎年変わるのだそうですね。2017年の「中秋の名月」は10月4日。十五夜の月に映る影が兎の餅搗きの姿に似ているということで、江戸時代には餅搗き兎の「からくり玩具」も登場しました。名古屋の「餅搗き兎」は明治初めごろの作だそうですが、糸を引くとペッタンペッタン餅を搗く小さな音が聞こえます。
秋雨前線が遠のいたら、いよいよ本格的な秋、美しい月の季節がやってくることでしょう。

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名古屋の餅搗き兎(日本玩具博物館所蔵) 撮影:竹内敏信

次回は、「虫の声」です。


文:茂手木潔子(日本文化藝術財団専門委員/聖徳大学教授)
音源制作:film media sound design
※スピーカー等の環境によって、再生されない場合があります。
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