せたがや災害ボランティアセンターのこれまでとこれから 3月11日で東日本大震災から5年目。被災地ではまだまだ復興とは言いがたい状況が続いています。私たちの生き方、価値観を根底から問い直さざるを得なかった震災のことは決して忘れない、と同時に、いつ来てもおかしくない首都直下型地震に私たち自身が備えておくことの重要性はますます高まってきています。
世田谷ボランティア協会内に「せたがや災害ボランティアセンター」が発足して11年。これまでの活動を振り返り、これからの課題を共有したいと思います。
災害ボランティアセンター受付の様子(2011年岩手県陸前高田市)
◆災害ボランティアセンターのこれまで 2004年1月に世田谷ボランティア協会は世田谷区と「災害時におけるボランティア活動に関する協定書」を取り交わし、それを契機として2005年3月に「せたがや災害ボランティアセンター」を常設の組織としてスタートさせました。
期待される役割は、災害時におけるボランティアの募集、受付、登録、受け入れ及び調整、平時における災害ボランティア活動についての情報収集、災害時の活動の体制づくり、マニュアル作成などです。これまでは災害時にボランティアセンターが一定期間設置されるというのが通例でしたが、常時、災害ボランティアセンター(以下、災害ボラセン)を設置するというのは世田谷が初めてです。
その後、2013年3月には、世田谷区との連携をさらに具体化した新協定を締結し、世田谷区社会福祉協議会との間でも、被災者支援活動に相互協力する旨の協定を結びました。
災害ボランティアセンター開設後、その目的にしたがって、「災害ボランティアコーディネーター養成講座」を実施し、人材の養成を図り、災害時のボランティア活動マニュアルを作成。その後は災害ボラセン運営委員会のもとに4部会を設置し(拠点運営部会、セミナー部会、ネットワーク部会、資材・財務部会)、災害時に想定される課題に取り組んできました。
区内での災害に備えて取り組みの最中に起こったのが、2011年の東日本大震災。組織を挙げて被災地支援活動を開始しました。募金活動、介護や看護の資格を持った専門ボランティアの登録・派遣、ボランティアバスによる一般ボランティアの派遣など行い、現在もその一部を継続しています。
被災地支援と平行して、かなりの確率で想定される首都直下型地震による世田谷での災害に備えて活動体制を刷新し、緊急課題として、2014年10月には『避難所における困りごと事例と解決のためのヒント集』を刊行しました。
それ以降、災害ボラセン運営委員会の中に、更に具体的な課題を検討するワーキングチームを組織し、世田谷で災害が起きた場合に、区の地域防災計画と連動して即座にボランティア活動を開始するための体制をつくる取り組みが行われています。
今、災害ボランティアセンターはどのような地平にいるのか。運営委員長の横山康博さんにお話をうかがいました。
◆災害に備えてボランタリーな地域をめざす 「私たち災害ボラセンの課題は、世田谷区が甚大な災害に見舞われたときに、ボランティアが少しでも活動しやすいように、また被災した人にボランティアの支援が行き届くように、コーディネート活動をいかに充実させるかということです。支援ニーズをしっかり集め、多くのボランティアを受け入れて、ボランティアに支援活動を紹介して現場に送り出すこと(マッチング)です。災害ボランティアの活動に関連したトラブルが起こらないよう、様々な点にも配慮しなければなりません。
ボランティア活動の内容や範囲を限定してしまえば、それだけコーディネーションも楽になりますが、様々なニーズが予想される中で、それは目指すところではありません。ニーズがある以上は、たとえうまくいかないケースが出るとしても、難しいことにもできるだけ取り組んでいこうと思っています。
災害ボラセンのもうひとつの大きな役割は、実際に災害が起ころうと起こるまいと、災害に備えた活動を通じて、どうすればお互いに助け合うことができるのかを、地域全体で考えるきっかけをつくっていくことです。災害時の地域の共助のあり方を提言し、こうやればうまくいくのではないかとそれぞれの地域で考えてもらうことです。災害時には、地域でのSOSの声が届いてこなければボランティアとつなぐことができません。町会組織などを通じて地域の人たちが連携して、たとえば隣家のお年寄りをこうしてほしいという声をボランティアセンターにうまく届ける方法をいっしょに考えていくことで、そういう取り組みのできるコミュニティを目指したいと思っています。
◆マッチングセンターとサテライト マッチングのやり方については、世田谷区の広さ、予想される被災者の数、全国から駆けつけてくれるボランティアの数などを考えて、ボランティアの受付窓口となるマッチングセンターを5地域(世田谷、北沢、烏山、砧、玉川)ごとに1か所ずつ開設することにしました。それぞれの地域にある大学とはすでに協定を結び、災害時には施設を使わせていただくことになっています。
1か所のマッチングセンターには数百人あるいは千人を超えるボランティアが集まることも想定されます。そこでマッチングセンターでは受付と一般的な注意事項の説明だけをして、ボランティアをスムーズに各地域内の避難所となっている学校(サテライト)に振り分け、このサテライトでニーズとのマッチングをするというシステム(サテライト方式)を考えました。このシステムだと、1か所のサテライトで50人〜70人程度のボランティアがマッチングを受けて、一部は避難所のお手伝いをし、他は被災者自宅からのニーズに応えることになります。
問題は、マッチングセンターから距離の遠いサテライトまでの移動方法です。歩いて1時間かかるところもありますので、ボランティアの大きな負担となってしまいます。車両を使った移動方法が確保できるかどうかという課題にも今後取り組まなくてはならないでしょう。
◆運営スタッフの養成が急務 サテライト方式のもとで、具体的なマッチングの仕組み、マニュアルもほぼできあがっています。現在は、災害ボランティア活動の意義、せたがや災害ボランティアセンターの活動、世田谷が被災した場合のマッチングシステム、コーディネーターの活動マニュアルなどをまとめた小冊子を制作しています。この小冊子がまもなく完成しますので、町会等の地域組織への説明や呼びかけに活用したいと思います。そうやって、理解を深めていただいてはじめて、地域の共助の活動が浮かび上がってくるのではないでしょうか。
この小冊子は、コーディネーター等の運営スタッフの養成、研修にも大いに活用して、災害発生時の運営スタッフの確保、拡充を図ろうと思います。システムを実働させるには、なんと言っても人の手が必要です。各マッチングセンターに30人、各サテライトに5人のコーディネーターが必要で、交代要員も考えるとその1.5倍の人数がほしいところです。世田谷ボランティア協会や災害ボラセン関係者、区内の有志の方、大学生、さらには区外からの応援者も含めて、コーディネーターとして協力していただける方を活動区域を分けて登録し、研修を繰り返し行っていきます。
マッチングコーディネーター養成研修の様子
◆地域がボランティアと触れ合えるような文化を 災害対策に関して、「自助・共助・公助」ということが言われます。ボランティアによる支援はこのどれとも同じではないのですが、強いて言えば、共助の一つと言えなくもありません。そう考えていくと、地域の力とボランティアの力がひとつになれば、それこそ本当の共助が生まれるという気がします。地域全体でボランティアを受け入れる体制を整える、ボランティアといっしょになって地域の共助を盛り上げる、という姿が理想です。
その意味でも、災害ボラセンの災害時の活動が区民の方々に理解され、マッチングセンターやサテライトの活動にたとえわずかでも参加していただけたら何よりだと思います。
災害はいつ来るか分からないのですから、今の私たちの到達点をこれからも少しずつ改善して深めていき、ボランティアと地域の連携という形を文化として根付かせていきたいものです」
(取材/編集委員 星野弥生)