オバマ大統領訪中に見る中国の期待と牽制
[2009年11月24日(Tue)]
11月15日から18日にかけて、オバマ米国大統領が中国を訪問した。オバマ大統領の中国訪問は1月の就任以来初めてであり、就任1年目に中国を公式訪問した初の米国大統領ともなった。
1.充実した滞在日程
まず15日に上海へ到着したオバマ大統領は、上海科学技術館で中国の青年たちを前に講演を行い、翌16日には兪正声・上海市共産党委員会書記と会談を行って、午後には北京へ移動した。北京首都国際空港では、習近平・国家副主席が出迎えたという。
北京に着いたオバマ大統領は、17日午前、胡錦涛・国家主席主催の歓迎式典に続いて公式会談を行い、会談後の共同記者会見で米中両国首脳は「米中共同声明」を発出した。その後も、オバマ大統領は北京で呉邦国・全人代常務委員会委員長や温家宝・国務院総理と会談したほか、故宮や万里の長城などの観光地も訪れるなど、実に充実した日程をこなした。
ジョン・ハンツマン(中国名:洪博培)駐中国米国大使が「中国は今回の歴訪で、特に重要な訪問国とみなされている」(2009年11月11日中国新聞社)と述べているとおり、4日間にわたる充実したオバマ大統領の中国訪問は、慌ただしく駆け抜けた日本訪問とは確かに対照的であった。
2.米中関係発展への期待
このオバマ大統領の中国訪問に先立ち、外交部の秦剛・報道官は、11月10日の定例記者会見で「オバマ大統領の訪中は中米関係の今後の発展にとって重要な意義を持つ」と、中国政府の期待を述べている。(2009年11月11日「人民網日本語版」)
この記者会見において、秦剛・報道官がオバマ大統領訪中に期待するものとして挙げたのは、(1)米中間の「積極的・協力的・包括的関係」構築の再確認と協力の具体化、(2)重大な国際問題に関する相互信頼の強化と協力の促進、(3)健全で安定した中米関係の発展促進であった。これに対してハンツマン駐中国米国大使も、同日、「オバマ大統領の訪中は間違いなく成功し、中米関係を新たな高度へと引き上げる」と記者団に語ったと、中国新聞社が伝えている。
また、オバマ大統領の中国訪問には、マーケットも大きな期待を寄せたようだ。大統領訪中を目前に控えた13日、中国株式市場では「オバマ関連株」が上昇したのである。「オバマ関連株」とは、オバマ大統領の中国訪問期間中に米中両国が達成したクリーンエネルギー分野での一連の合意により、利益を受けるとみられる銘柄を指す。低炭素技術、インテリジェント電力ネットワーク、再生可能資源の普及といった分野の関連銘柄が、今回のオバマ大統領の訪中により利益を受けると予想され、13日の市場では、これらの関連銘柄が相継いで上昇した。
実際、米中首脳が会談後に発表した共同声明は、戦略的相互信頼の構築と強化を強調するとともに、今後5年間に米中折半で1億5000万ドルを投じて「中米クリーンエネルギー共同研究センター」を両国に設置し、エネルギー効率の高い建築物、クリーン・コール、エコカーなどの研究に取り組むといった合意が盛り込まれた。中国側としても満足のいく内容と言えるだろう。
3.共同責任論への牽制
米中関係の発展に期待を示し、充実した日程でオバマ大統領を歓待した中国であるが、中国に国際的責任と負担を迫るアメリカへの牽制も忘れなかった。
胡錦濤国家主席との会見で「中国が国際舞台でさらに大きな役割を発揮することを歓迎する」と述べたオバマ大統領に対し、その翌日に会談した温家宝首相は「中米両国は世界に重要な影響を与える国。その中米関係が新たな段階に入ることを希望している」と述べる一方、国際問題を米中二国で取り仕切っていこうとする「G2」論は否定した。
その理由として、温家宝首相は、(1)中国は人口が非常に多い発展途上国で、国家の近代化への道のりは遠いこと、(2)中国は独立自主の外交政策を取り、どの国とも同盟関係は持たないこと、(3)国際問題は各国が共同で決めるべきで1、2カ国で決められないことを挙げたという(2009年11月19日「日本経済新聞」)。
経済発展に有利な国際環境を目指して全方位外交を進めている中国にとって、アメリカとの二強構造に向かうことは多くの国から反発を招きかねず不利であり、また、過度の負担を背負わされることも避けたい。そのため中国では従来からG2論を否定する専門家の声が聞かれたが、首脳レベルで直接これを否定したのは初めてだ。
また、共産党機関紙「人民日報」海外版の社説は、オバマ大統領が中国を発った18日こそ「新たな一歩を踏み出した中米関係」と今回の訪中を前向きに評価したが、実は前日の17日には、「オバマ大統領は訪問前のインタビューで、中国に「責任ある」大国になることを求めたが、我々も米国に「責任ある」大国になることを求める。」と牽制している。
この社説で人民日報海外版は、「米国が軽率に発動したイラク戦争が両国民と世界に与えた苦痛」や「ウォール街の無責任がもたらした世界的な経済・金融危機」といった表現でアメリカの責任を指摘したほか、「中国製タイヤに対する特別セーフガードや中国製鋼管への課税にせよ、中国製光沢紙やリン酸塩への反ダンピング調査にせよ、いずれも米国内の少数の利益集団のために両国関係の大局を犠牲にするものだ」と昨今のアメリカに見られる保護主義を痛烈に批判しているのだ。
前向きな期待と充実した歓待の一方で、批判と牽制を忘れないしたたかさ。この硬軟織り交ぜた外交に、日本も見習うところはないだろうか。
(東京財団HPより再掲)
1.充実した滞在日程
まず15日に上海へ到着したオバマ大統領は、上海科学技術館で中国の青年たちを前に講演を行い、翌16日には兪正声・上海市共産党委員会書記と会談を行って、午後には北京へ移動した。北京首都国際空港では、習近平・国家副主席が出迎えたという。
北京に着いたオバマ大統領は、17日午前、胡錦涛・国家主席主催の歓迎式典に続いて公式会談を行い、会談後の共同記者会見で米中両国首脳は「米中共同声明」を発出した。その後も、オバマ大統領は北京で呉邦国・全人代常務委員会委員長や温家宝・国務院総理と会談したほか、故宮や万里の長城などの観光地も訪れるなど、実に充実した日程をこなした。
ジョン・ハンツマン(中国名:洪博培)駐中国米国大使が「中国は今回の歴訪で、特に重要な訪問国とみなされている」(2009年11月11日中国新聞社)と述べているとおり、4日間にわたる充実したオバマ大統領の中国訪問は、慌ただしく駆け抜けた日本訪問とは確かに対照的であった。
2.米中関係発展への期待
このオバマ大統領の中国訪問に先立ち、外交部の秦剛・報道官は、11月10日の定例記者会見で「オバマ大統領の訪中は中米関係の今後の発展にとって重要な意義を持つ」と、中国政府の期待を述べている。(2009年11月11日「人民網日本語版」)
この記者会見において、秦剛・報道官がオバマ大統領訪中に期待するものとして挙げたのは、(1)米中間の「積極的・協力的・包括的関係」構築の再確認と協力の具体化、(2)重大な国際問題に関する相互信頼の強化と協力の促進、(3)健全で安定した中米関係の発展促進であった。これに対してハンツマン駐中国米国大使も、同日、「オバマ大統領の訪中は間違いなく成功し、中米関係を新たな高度へと引き上げる」と記者団に語ったと、中国新聞社が伝えている。
また、オバマ大統領の中国訪問には、マーケットも大きな期待を寄せたようだ。大統領訪中を目前に控えた13日、中国株式市場では「オバマ関連株」が上昇したのである。「オバマ関連株」とは、オバマ大統領の中国訪問期間中に米中両国が達成したクリーンエネルギー分野での一連の合意により、利益を受けるとみられる銘柄を指す。低炭素技術、インテリジェント電力ネットワーク、再生可能資源の普及といった分野の関連銘柄が、今回のオバマ大統領の訪中により利益を受けると予想され、13日の市場では、これらの関連銘柄が相継いで上昇した。
実際、米中首脳が会談後に発表した共同声明は、戦略的相互信頼の構築と強化を強調するとともに、今後5年間に米中折半で1億5000万ドルを投じて「中米クリーンエネルギー共同研究センター」を両国に設置し、エネルギー効率の高い建築物、クリーン・コール、エコカーなどの研究に取り組むといった合意が盛り込まれた。中国側としても満足のいく内容と言えるだろう。
3.共同責任論への牽制
米中関係の発展に期待を示し、充実した日程でオバマ大統領を歓待した中国であるが、中国に国際的責任と負担を迫るアメリカへの牽制も忘れなかった。
胡錦濤国家主席との会見で「中国が国際舞台でさらに大きな役割を発揮することを歓迎する」と述べたオバマ大統領に対し、その翌日に会談した温家宝首相は「中米両国は世界に重要な影響を与える国。その中米関係が新たな段階に入ることを希望している」と述べる一方、国際問題を米中二国で取り仕切っていこうとする「G2」論は否定した。
その理由として、温家宝首相は、(1)中国は人口が非常に多い発展途上国で、国家の近代化への道のりは遠いこと、(2)中国は独立自主の外交政策を取り、どの国とも同盟関係は持たないこと、(3)国際問題は各国が共同で決めるべきで1、2カ国で決められないことを挙げたという(2009年11月19日「日本経済新聞」)。
経済発展に有利な国際環境を目指して全方位外交を進めている中国にとって、アメリカとの二強構造に向かうことは多くの国から反発を招きかねず不利であり、また、過度の負担を背負わされることも避けたい。そのため中国では従来からG2論を否定する専門家の声が聞かれたが、首脳レベルで直接これを否定したのは初めてだ。
また、共産党機関紙「人民日報」海外版の社説は、オバマ大統領が中国を発った18日こそ「新たな一歩を踏み出した中米関係」と今回の訪中を前向きに評価したが、実は前日の17日には、「オバマ大統領は訪問前のインタビューで、中国に「責任ある」大国になることを求めたが、我々も米国に「責任ある」大国になることを求める。」と牽制している。
この社説で人民日報海外版は、「米国が軽率に発動したイラク戦争が両国民と世界に与えた苦痛」や「ウォール街の無責任がもたらした世界的な経済・金融危機」といった表現でアメリカの責任を指摘したほか、「中国製タイヤに対する特別セーフガードや中国製鋼管への課税にせよ、中国製光沢紙やリン酸塩への反ダンピング調査にせよ、いずれも米国内の少数の利益集団のために両国関係の大局を犠牲にするものだ」と昨今のアメリカに見られる保護主義を痛烈に批判しているのだ。
前向きな期待と充実した歓待の一方で、批判と牽制を忘れないしたたかさ。この硬軟織り交ぜた外交に、日本も見習うところはないだろうか。
(東京財団HPより再掲)