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GDP日中逆転 国民に冷静な対応促す中国 [2010年08月25日(水)]
内閣府が8月16日に発表した試算によると、今年第2四半期(4-6月)における中国の米ドル建て名目国内総生産(GDP)が遂に日本を上回った。

日中関係にとって新たな時代の転換点だが、これを機に両国が補完的なパートナーとして関係を成熟させるか対立するかは我々日中双方の一人一人の態度次第だ。

新たな転換点

日本の十倍の人口を持つ中国が経済規模で日本を上回るのは今さら驚くことではないが、日中関係の歴史においては新たな時代の転換点だ。

1972年の国交正常化以来の日中関係を振り返ると、約10年ごとに4つの時代に区分できる。

70年代は日中間の「関係構築期」として、72年の日中共同宣言以後次々と実務協定が結ばれるとともに、日中平和友好条約の交渉が続けられた。1978年には条約締結に至るとともに、中国が改革開放路線に舵を切ると、1979年には日本の中国への経済援助(ODA)供与も開始され、80年代は日中関係の「発展期」となった。

その後80年代末の冷戦終結は日中関係にも様々な形で影響し、90年代は「動揺期」となった。この時期、日本と中国は、中国における六四事件や地下核実験などを巡って外交関係が冷却化することもあったが、経済関係は着実に発展してきた。特に01年の中国WTO加盟を契機に日中間の経済関係は飛躍的に進展し、2000年代は「相互依存深化期」と呼ぶべき時期となった。

過去40年、日中関係は時に歴史認識などを巡って対立することもあったが、大局としては一貫して友好協力を拡大し、援助・被援助という非対称の関係からより対等な互恵関係へと発展してきた。

こうした流れの延長上で、新たな10年が始まる今年、中国の名目GDPが日本を追い抜いくことを契機に、2010年代が日中関係の「成熟期」となることを期待する。

技術力や社会発展度に比較優位のある日本と、経済規模や発展余地に比較優位のある中国とが補完的なパートナーとして、お互いの利害と立場を尊重し合いながら引き続き関係発展を続けられたら、10年代は日中関係の「成熟期」と呼ぶにふさわしい時代になるだろう。

関係成熟か対立か

しかし逆に、中国が日本を抜いて世界第二位の経済大国となることが、日中関係の「対立期」の幕開けとなってしまう危険性が日中両国内にくすぶっている。

日本側では、中国の経済規模が日本を追い抜くことによって、中国を潜在的な脅威と感じる人が増える可能性がある。

2000年前後に日本でよく使われた「中国脅威論」という言葉は最近あまり使われなくなり、むしろ中国の経済発展を好意的に捉える傾向が広まりつつある。

しかし、こうした傾向は、中国を脅威と感じる人がいなくなったことを意味するのではなく、むしろ中国を潜在的な脅威と感じることが一般化したために、改めて殊更に中国を脅威として騒ぎ立てることが少なくなったのだと考えられる。

事実、日本政府(内閣府)が毎年実施している世論調査によれば、中国に親しみを感じている日本人は1980年には78.6%を占めていたが、90年代には親しみを感じる人と感じない人が半々で拮抗するようになり、2004年以降は親しみを感じない人の割合が親しみを感じる人の割合を大きく上回るようになり、2008年には親しみを感じない人が66.6%と占めるまでになった。

2009年には親しみを感じる人の割合が若干上昇したが、日本人の約3分の2が中国に対して批判的であるという傾向に変わりはない。


日本人の中国に対する親近感
(出所:内閣府『外交に関する世論調査』2009年版)

一方の中国側では、世界二位の経済大国という自尊心が過度になれば、日本軽視につながりかねない。

もし中国の人々が周辺国を軽視する態度や周辺国の懸念に配慮しない態度を示せば、周辺国の人々は一層中国を脅威と感じることになるだろう。そうなれば、中国を取り囲む国際情勢を悪化させることにつながり、中国自身にとっても決して望ましいことではないはずだ。

この点につき中国政府は、商務部の姚堅報道官が「日本は中国にとって最大の輸入国であり、地域協力においても重要な協力パートナーだ」(商務部HP 2010年8月17日)と述べるなど、国民に冷静な対応を促す。

各種報道も、中国の一人当たりGDPは3800ドル(世界105位前後)で、一日収入1ドル未満の人も1億5千万人いることなどを強調し、慢心を戒める論調だ。これが功を奏したか、中国ネットメディア「環球網」によれば、ネット利用者の94%が「中国経済世界二位」という見方に反対だという(中国網日本語版2010年8月20日)。

ただし、世界第二の経済大国と見られたくない背景には、国際社会からより多くの責任を求められたくないという利己的な事情もあると思われる。

日本と中国はお互いにとって最重要パートナーの一つである。客観的に見れば、この日中関係の大局は向こう2010年代においても不変のはずである。日本と中国が今後の10年を「成熟期」とするか「対立期」とするかは、我々日中双方の一人一人がこうした大局を正しく理解し、お互いを対等なパートナーとして尊重し合うことができるかどうかにかかっている。

(東京財団HPより転載)
農産物価格高騰に見る中国社会 [2010年06月30日(水)]
5月27日、中国国家発展改革委員会、商務部、国家工商総局が連名で通知を出し、農産物に対する投機行為や価格吊り上げ行為を厳格に取り締まることが提起された。

ただちに調査を開始して、6月末までには取り締まりを終えるよう求め、農産物の投機行為や売り惜しみに対しては、不法所得を没収した上、不法所得の5倍ないし最大100万元(約1300万円)の罰金を科すとしている。

中国では、昨年10月頃から一部の農産物価格が高騰している。その背景として、金融緩和政策に伴う余剰資金の一部が商品市場に流れ込み、農産物市場でも投機目的の買い占めが発生しているのではないかとささやかれていた。中国政府による今回の厳罰方針発表は、こうした状況を踏まえたものである。

図1 中国農産物価格の推移

出所)中国国家発展改革委員会統計資料より筆者作成


農産物価格は季節的な変動があるものの、前年同期比で見て、確かにジャガイモが49.3%、ニンニクが45.7%、白菜が31.4%などと軒並み高騰している。

そもそも中国の農産物価格は近年上昇傾向にあり、特に野菜価格は穀物価格や消費者物価全体の伸びを上回るペースで上昇してきている。

その構造的な要因として、都市化の進展に伴い耕作地が減少するとともに需要量が増大していることが考えられる。

かつて各地の野菜農場は都市部の近郊にあり、「地産地消」されていた。ところが、近年の都市化により、多くの地方において耕作地が新興住宅地に転用されてきている。転用に伴う新規の代替耕作地の開拓も間に合わず、耕作地の減少を招いているとされる。

一方で、都市化はかつて野菜を自給自足していた農村住民を消費者に変え、市場での需要量が増大している。こうした都市化に伴う需給両面での影響が野菜価格の高騰の遠因となっているものと考えられる。

図2 中国耕地面積の推移

注)1996年、2007年、2008年は測量値。2001年は推計値。その他の年は公表なし。
出所)『中国統計年鑑』各年版より筆者作成


加えて、天候不順による減産の影響も無視し得ない。今年も広州などでは大雨が続き、野菜価格の上昇要因となっている。近年の中国では、こうした「異常気象」は毎年のように聞かれ、「異常気象」の発生が「常態化」している。

こうした状況に加えて、さらに野菜の投機的買い占めが発生しているのではないかといわれているのだ。すなわち、上に述べた構造的要因や天候不順などのために人々の値上がり期待が高まったニンニクや緑豆など一部の農産物が、不動産価格高騰の抑制や株価の低迷のために行き場を失った一部の余剰資金にとっての新たな投機先と化しているのではないかというのである。

 野菜価格高騰の原因を投機的買占めに求める見方については、中国政府内に異論がないではない。国家統計局のチーフエコノミストは、「目下、余剰資金が農産品分野に流入していることを裏付ける証拠はない。ニンニクや緑豆などの農産品の生育周期は決して長くないので、価格上昇に素早く反応して供給量も上昇するはずである。たとえ短期的に収益を上げたとしても、長期的に見れば生鮮農産品への投資などありえない」(『中国網』5月24日)と、投機説を真っ向から否定する。

 一方、農産物価格の監督強化を地方政府に指示した国家発展改革委員会の副主任(副大臣)は、「我々の調査では、悪意による買い占め、価格吊り上げ、価格カルテルなどの存在が認められる状況にある。国務院常務会議(筆者注:日本の閣議に相当)もこの問題について発展改革委員会の報告を取り上げている」(『中国広報網』5月28日)として、自らの厳罰方針を正当化している。

 実際に農産物の投機行為が農産物価格に深刻な影響を与える程度に存在しているかどうかは定かでないが、中国政府にとっては、その真偽よりも、農産物価格の高騰と投機説の存在そのものが放置できない問題だと考えられる。

 庶民の生活を直接に圧迫する農産物価格の高騰は、広範な大衆の不満や政府への批判につながりかねない種である。実際、今から遡ること21年前、1989年6月4日の天安門事件の基底には食料品価格の高騰に端を発した大衆の不満があったとされる。

折しも、前年比マイナスで推移してきていた中国の消費者物価指数(CPI)が、農産物価格の高騰とともに昨年秋からプラスに転じ、4月には前年同期比2.8%の上昇と発表されたばかりであった。こうした物価の上昇が、天候不順などの天災ではなく、一部の富裕層の投機による人災だという噂がまことしやかに大衆の間で広がっている以上、その真偽などを問うている場合ではない。中国政府としては、できる限りの対応をしていると大衆に見せることこそ肝要であろう。

 しかし、仮に投機が起こっているとしても、その背景には構造的な需給逼迫による値上がり期待があってのことである。その解決なくしては、農産物高騰は恒常的に繰り返されることとなり、今後も中国政府の頭を悩ませる社会不安要因の一つとしてくすぶり続けることになるだろう。

(三菱総研HPより再掲)
http://www.mri.co.jp/NEWS/report/review/__icsFiles/afieldfile/2010/06/25/er20100628_01.pdf
中国消費市場の現状と展望 [2010年05月31日(月)]
「中国は、過度の投資と輸出に依存した経済発展方式から、内需の拡大、特に消費需要に注目していく」。

中国マクロ経済政策の舵を取る国家発展改革委員会の張暁強副主任(副大臣)が、先月ボアオフォーラム年次総会で述べた言葉だ。

上海万博に史上最多の246国・機関が参加したことも、拡大を続ける中国の巨大市場へ益々大きな関心が集まっていることを物語っている。


1.輸出に振り回される中国経済

言うまでもなく、中国経済は近年目覚しい成長を見せている。特に2003年から2007年にかけては5年連続の二桁成長を記録したことは、ここで繰り返すまでもない。ところが、2008年以降はリーマンショックに端を発する世界同時不況の影響を受け、成長が鈍化してしまった。特に2009年は、純輸出の大きな落ち込みを投資が穴埋めする形で何とか政府目標の8%成長を維持した格好だ。

そもそも中国経済成長の歴史を振り返ると、その原動力は消費と投資による内需であり、輸出は安定成長の撹乱要因であった(【図1】参照)。

2005年から2007年あたりにかけては、8%程度と言われる内需の潜在成長率の上に好調な「輸出のボーナス」が乗っかって高い経済成長率を実現したが、一方でこの「輸出のボーナス」は内需だけでは吸収しきれない過剰な生産能力の蓄積を助長したとも言われる。

その後、2008年のリーマンショック以後世界中が不況に陥ると、むしろ輸出は中国経済成長の足を引っ張る要因になってしまったのである。1978年の改革開放以来、中国が過去に何度も繰り返してきたパターンを再び繰り返した格好だ。


【図1 中国GDP成長の寄与率】

出典)中国国家統計局HP


 輸出に振り回されない安定的な経済発展方式への転換。これが中国経済にとって目下の大きな課題である。内需主導の成長を考えた場合、特に近年は投資が内需を引っ張る形になっており、消費の伸びに勢いがない。「特に消費需要に注目」という冒頭の張副主任の言葉は、こうした背景から出てきたものだ。
 

2.勢い欠く民間消費

 中国では、過去15年ほどのトレンドとして、民間消費よりも政府消費の方が勢いよく伸びてきている。結果、95年には8対2であった民間消費と政府消費との比率が、今では7対3へと変化してきている。すなわち、政府消費に比べて、民間消費の伸びは勢いを欠いているのである。


【図2 中国最終消費支出の構成比】

出典)中国統計年鑑2009


では、中国で民間消費の伸びが勢いを欠いている理由は何か。

まず日々の生活に余裕がないのではとの仮説が浮かぶが、実際にはそうでもない。

中国のエンゲル係数は近年目覚ましい低下傾向にあり、95年に都市で50.1、農村で58.6であったものが、08年には都市で37.9、農村で43.7まで低下してきている。

日本のエンゲル係数は約23%、アメリカは約20%であるが、韓国は約33%であるから、中国の都市部はそろそろ韓国の水準に近づこうとしているのだ。

また、40%前後のエンゲル係数というと、日本では1960年代の水準であり、ちょうど東京オリンピック(1964年)から大阪万博(1970年)に向かう頃であった。やはり同じく2008年の北京オリンピックから今年の上海万博へと歩を進めている中国は、庶民の生活水準という点でも、当時の日本の似通っているのだ。


【図3 中国エンゲル係数推移】

出典)中国統計年鑑2009



3.消費伸び悩みの理由は社会保障未整備か?

中国人の生活に余裕が出てきていることは、01年以来GDPの伸びを上回るペースで民間貯蓄が伸びていることからもが分かる。

この点、中国において余力が消費に回らず貯蓄に向かう理由として、社会保障の不備による将来不安を指摘する向きがある。しかし、中国の貯蓄の半分が将来に心配のない上位2割の高所得者に集中しており、社会保障に頼らねばならない下位2割の低所得者の貯蓄は全体の3%に満たない(【表1】参照)。

つまり、生活に余裕があるのに消費をしていないのは、社会保障を必要とする庶民ではなく、お金が余っている高収入者なのである。決して、社会保障制度の不備から来る将来不安が中国民間消費伸び悩みの主たる理由ではない。


【図4 中国民間貯蓄推移】

出典)中国国家統計局資料


4.お金の使い道がない高収入者

では、なぜ中国の高収入者は消費しないのであろうか。

表1を見ると、各層の消費行動に大きな違いのないことが分かる。物価の安い中国において、先進国並み又はそれ以上の収入を得ている者なら、どれだけ贅沢をしても衣食にかかる費用は高が知れている。家電などの家庭用品についても、収入に比例してより高付加価値の高級品を買うとしても高が知れている。

すなわち、「衣食用」の分野では高収入者の消費力を吸収しきれないのである。

一方、住宅、医療保健、教育文化娯楽といった分野には高収入者に魅力的な「金の使い道」が不足しており、結果として高収入者の消費余力が貯蓄に向かっているのだと考えられる。

唯一、表のなかで高収入家庭の交通通信の支出が大きい点が特徴的だ。これは高収入者が自動車を持つようになっているためであり、彼らが世界最大となった中国自動車市場の担い手である。


【表1 中国収入別消費支出(2008)】

出典)中国統計年鑑2009


5.供給不足の「住行学」分野
 
王国剛・中国社会科学院金融研究所所長によれば、中国の民間消費は、「衣食用」と「住行学」の2種6項目に分類できるという。

「用」とは家庭用品等、「住」はもちろん住宅、「行」は人々が活発に行動するために必要な交通通信や医療保険、「学」とは教育文化娯楽だ。

これら各分野のうち、現在の中国では「住行学」の消費が伸び悩んでいる。中国都市住民の消費構成を時系列に並べて見ると、この間の収入増加に伴い「衣食用」の比率が低下し、「住行学」の比率が上昇してきていることが分かる。

諸外国の例を見ても、収入の増加に伴って医療保険や教育文化娯楽の消費は増えるものである。しかし、高収入者を中心に「衣食用」の消費が頭打ちになる一方で、「住行学」の消費が十分に拡大しない結果、余ったお金が貯蓄として積み上がっている状態なのだと考えられる。

では、なぜ中国では「住行学」の消費が眠ったままなのか。その理由は供給不足にあると筆者は考える。例を二つ挙げたい。一つは大学教育について、もう一つは住宅市場についてである。

中国の大学入試統一試験の受験者と合格者の推移を見ると、中国では1970年代末の大学入試正常化以来一貫して大学進学者希望者は実際の進学者を大きく上回っていることが分かる。

特に2000年代に入ってからは、大学合格者の飛躍的な増加にも関わらず、進学希望者と合格者との差はむしろ拡大しているのだ。2009年の例で言えば、1000万人以上の学生が大学入試に挑戦しながら、実際に大学へ進学できたのは6割程度にとどまり、残り4割は大学進学の希望(加えて恐らく経済力)を持ちながら、その需要が満たされていないのである。

また、中国の住宅市場も慢性的な供給不足にある。中国の住宅竣工戸数と販売戸数を見ると、毎年、竣工した住宅戸数以上の住宅が販売されていることが分かる。これは、住宅が常に供給不足にあり、竣工前から次から次へ予約販売で売れていっている状況を示している。

この供給不足を背景に中国住宅価格は高騰傾向が続いており、今や都市部の不動産価格は庶民の手の届く価格ではなくなっている。

「2010年中国経済形勢分析予測」(社会科学文献出版社)によれば、2009年の住宅価格対世帯年収比は全国平均で8.3倍に達する見通しであり、特に、出稼ぎ農民(農民工)にとっては住宅価格対世帯年収比が22.08倍、農村世帯にとっては都市部住宅価格年収比が29.44倍にも上るという。全国全世帯の85%はマイホームを購入するのに十分な収入がないのが現状である。

これだけの価格上昇が生じている背景には投機マネーの流入が疑われるが、そもそもなぜ投機マネーが流入するかといえば、それは住宅価格の右肩上がりが続くと信じているからだ。では、なぜ皆が住宅価格の右肩上がりを信じて疑わないか。その背景には、都市部住宅への膨大な潜在需要の存在と、これを満たしきれていない供給不足の存在があるからである。


まとめ

中国消費市場では、今後二つの「高度化」が進むだろう。一つは「質の高度化」であり、「衣食用」の分野では国民所得の増加に伴い、より高品質の財サービスへの需要が高まるものと考えられる。

もう一つは「分野の高度化」であり、従来必ずしも需要の掘り起こしが進んでいない住宅、医療保健、交通通信、教育文化娯楽の「住行学」分野での消費拡大である。すなわち、上海万博のテーマ「よりよい都市、よりよい生活」こそ、今後の中国消費市場のトレンドだと言える。

中国政府の課題は、その民間消費の拡大をどれだけ後押しし、確かなものとできるかだ。この点、温家宝総理も、3月22日の中国発展ハイレベルフォーラムにおいて、「内需拡大を長期的な戦略方針として堅持していき、住民消費の拡大に努める」との方針を明らかにしている。

今年は2011年から2016年を対象期間とする次期5ヵ年計画の策定年であるが、その5ヵ年計画の策定を担う国家発展改革委員会の高官や中央指導層が繰り返し強調している民間消費の拡大は間違いなく次期5カ年計画に盛り込まれ、今後中長期にわたって中国経済政策の基本方針の一つとるものと考えられる。

(三菱総研HPより再掲)
http://www.mri.co.jp/NEWS/report/review/__icsFiles/afieldfile/2010/05/28/er20100528_02.pdf
気候変動問題に対する中国の考え方 [2010年02月16日(火)]
本稿は、気候変動問題の国際交渉や温室効果ガス削減目標策定の事情に通じた中国の政府関係者・専門家等へのヒアリング結果を踏まえて、温室効果ガス排出削減問題に関する中国の考え方につき分析を試みるものである。

昨年12月にコペンハーゲンで開催された国連気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP15)は、英国ガーディアン紙(12月22日)などが伝えるように、中国の非協力的な態度によって法的拘束力のある合意に至る道をふさがれたという認識が、国際社会では広まっている。

COP15に同行した英国気候変動研究者マーク・ライナス氏が同紙で告白しているところによれば、交渉の大詰めで二十数ヶ国の首脳(オバマ、サルコジ、鳩山、LDC代表、アフリカ代表等)が合意点を模索しようと少人数会合を二夜続けて開催した中、中国だけが温家宝総理ではなく交渉権のない一外交官を出席させ、どんな些細な論点についても不同意を繰り返した結果、「コペンハーゲン合意」はほとんど見るべき内容のないものなってしまったというのだ。

COP15を前に、国際社会へGDP単位当たりの温室効果ガス排出量を40%〜45%削減する目標を早々と表明した中国に対しては、COP15の首脳交渉でも法的拘束力のある形の野心的な合意形成に向けた積極的な行動を期待する向きがあったが、ふたを開けてみれば、その期待は完全に裏切られた格好だ。

一方で、中国の温家宝総理は、「今年末にメキシコで開かれる第16回締約国会議(COP16)で、各国が国連気候変動枠組条約と京都議定書を強化する法的拘束力のある合意を達成できるよう、中国は積極的に取り組んでいきたい」との立場を表明している(「中国国際放送局 日本語部」 2010年2月2日)。

日本としては、現行の京都議定書において排出削減義務を負っていない中国と、同議定書未批准の米国も参加する「すべての主要国による公平かつ実効性のある国際枠組みの構築及び意欲的な目標の合意」を目指しているものの、「中国が何を考えているのか分からず、どう中国を取り込んでいったらいいか正直アイデアがない」(交渉筋)という状況だ。

一体、中国は温室効果ガス排出削減に本気で取り組む用意があるのだろうか。

結論から言えば、中国は、国際交渉の如何にかかわらず粛々と自らの削減目標の達成に向けて具体的取り組みを重ねてくる。日本は、中国を批判するだけで自らは取り組みを進めていなければ、今年末のCOP16は乗り切れないだろう。

1.持続可能な発展戦略としての「低炭素経済」

胡錦濤主席は昨年9月の国連気候変動サミットにおいて、「2020年までに中国はGDP単位当たりのCO2排出量を05年より顕著に削減」するとの目標を示し、「低炭素経済を大いに発展させる」と述べた。

COP15の中国代表団団長を務めた解振華・国家発展改革委員会副主任も、「低炭素経済の道を歩み、最終的には人と自然の調和のとれた発展を実現する」との見解を表明している(「人民網日本語版」2009年12月17日)。

この「低炭素経済」こそ、気候変動問題ないし温室効果ガス排出削減に対する中国の考え方を読み解くキーワードである。

中国の温室効果ガス排出削減目標の決定プロセスを知る政府系研究機関の研究者Aは、「低炭素経済の実現は、環境保護政策ではなく、省エネ・省コストを目指す産業戦略だ」と言い切る。

すなわち、国際的な気候変動問題への対応を目的として温室効果ガスの削減に取り組むという発想ではなく、自国の持続可能な発展の実現を目的として省エネ・省コストの「低炭素経済」を目指し、その結果が温室効果ガスの削減につながるという発想だ。

「中国エネルギー発展青書2009」によれば、中国エネルギー資源の総量は世界の約1割にとどまり、一人当たりの資源量は世界平均レベルの40%にすぎない。加えて、資源の可採年数も短く、中国に残る石炭資源の可採年数は100年未満、石油の可採年数は約15年、天然ガスの可採年数も約30年未満だという。

今のままでは中国経済の持続的発展を支えることはできず、したがって、省エネ・省コストは不可避という危機感が「低炭素経済」を目指す背景にある。

中国にとって、一次的な関心事はまず自国の持続的発展の実現であって、国際的な持続的発展の実現は二次的関心であるように見える。政府関係者、専門家、大学生、政府に批判的な環境NGO代表に至るまで気候変動問題について意見を聞いてみたところで、中国が国際的な「大国の責任」を負わねばならないという声を聞くことは稀である。

COP15にも同行した環境問題専門家Bは、「中国には、『天が落ちてきたら背の高い人が支える』ということわざがある」と語った。国際的な気候変動問題は最終的には先進国という『背の高い人』が資金と技術を提供して解決すべき問題であって、中国は「天が落ちてくる」心配をする前にまず自分の心配をしているのだという。

2.経済発展を前提とする削減目標

しかし、そうは言っても、GDP単位当たりの温室効果ガス排出量を2020年までに2005年比40%〜45%削減する目標は、経済発展にマイナスの影響を与えないのであろうか。

この目標を達成したとしても、総排出量では2005年比で127%〜149%増となることは、12月21日付レポート「COP15の真の勝者は誰なのか」において指摘したが、中国の専門家に言わせると、この40%~45%の目標でも達成は非常に困難だという見方が多い。

この点、筆者が「温室効果ガスを40%〜45%削減する目標は、やはり経済発展にはマイナスだと思うか」と問うたのに対し、この目標決定の裏事情を知る前出Aは、「それは話があべこべだ」と言った。

すなわち、その目標は「2020年まで年平均7%〜8%の経済成長を維持するという前提を置いた場合に、仮に産業構造の調整が順調に進んだとすれば、実現可能な数字」として国家発展改革委員会内で見積もられたものであって、そもそも経済成長を犠牲にするという視点には立っていないというのである。

政府系研究機関の環境エコノミストCによれば、この数値目標の設定にあたっては複数の研究グループが参加し、同氏の所属する研究機関では2005年比で45〜50%削減という目標を見積もって上層部に上げたそうであるが、結果としてはより手堅い目標である40〜45%が打ち出された。

他方、IPCCを担当する気象問題の関係者によれば、2050年での温室効果ガスの半減などIPCCでの科学的議論については、同目標の設定には反映されておらず、科学的見地から国際的な気候変動を食い止めるために逆算された排出削減目標ではないのだという。

したがって、この目標が達成困難だという認識も、経済成長と排出削減のトレードオフによるリスクから出るのではなく、そもそも経済成長が本当に2020年まで年平均7〜8%を維持できるか、また、産業構造の調整が予定どおり進むのか、という前提条件にかかる不確定要素のリスクから出る認識のようである。たしかに年平均成長率が1%変わるだけで、GDP単位当たりの温室効果ガス排出量は大きく異なりうる。

中国にとって経済発展の行方は社会の安定と政権の存続に直結する死活問題である。その中国経済の先行きに不確定性を否定できない以上、これとリンクする温室効果ガスの削減目標を国際的な法的義務として受け入れて、経済政策について自らの手足を縛るのは、中国にとっては避けたいだろう。まして、米国が主張するような測定・報告・検証可能(MRV)な形での国際的な査察によって、自国の経済政策について海外から注文をつけられるのは、中国にとって受け入れがたいのだと想像される。


3.具体策の積み上げに走る

1月28日、29日の両日、国家発展改革委員会で初となる気候変動問題対応工作会議が開催され、地方の各発展改革委員会担当者に低炭素経済の実現に向けて具体的計画作りを進めるよう指示が下りた。ある地方の担当者によれば、今後は、4月ごろまでには計画をドラフトし、2010年中に政策の実施に移るタイムスケジュールだという。

この低炭素経済の推進について、実は中央よりも地方の方が積極的だという。地方政府としては、低炭素経済の推進をスローガンに地元の産業構造を調整し、さらなる発展につなげようという機運が高まっているのだ。既に幾つかの都市では英国などの協力を受け、地方都市における低炭素経済の研究が進められており、今後、国は低炭素モデル都市、低炭素モデル省を指定することも検討しているという。

日本において産業界の一部が主張するように、中国でも、産業構造の調整によって時代の要請に合わなくなった古い産業が被る不利益を心配する声がないわけではない。しかし中国では、低炭素経済の推進を省エネ・省コストによる新たな投資と発展の機会と捉える声の方が大きいのである。

前出の政府系エコノミストCは言う。「中国は、まだ高度経済成長期にあるのだから、産業調整による不利益も限定的に抑えられる。ただし、この高成長もいつまで続くか分からない以上、今のうちに産業構造の調整を進めねばならない。我々は、そのためのアプローチとして低炭素経済の推進を利用するつもりなのだ。」

低炭素経済の推進による温室効果ガスの削減は、自国の持続的発展戦略として中国自身が欲している以上、気候変動問題の国際交渉の如何にかかわらず、これを推し進めることになるだろう。

COP交渉にも関わる政府系研究者Dは真剣な眼差しで語った。「中国が表明した排出削減目標は、国内での慎重な検討を経た真摯なものである。これは、先進諸国の多くが各種前提条件付きのコミットメントで逃げ道を作っているのとは違い、『実現すると言った以上実現させる』目標だ。」

たしかに日本の削減目標も、「すべての主要国による公平かつ実効性のある国際枠組みの構築及び意欲的な目標の合意」ができることを実施の前提条件としている。

今年末にメキシコで開かれるCOP16を想像してみよう。恐らく中国は、COP15以来の一年間で、自らの排出削減目標の達成に向けて具体的な計画作りや政策を進めてきた実績をアピールするだろう。

そして、「先進国こそ、口先ばかりで何も具体的な取り組みをしていない。もっと積極的に排出削減に取り組むべきではないか。」との主張を展開して、先進国を追い詰めるのではないだろうか。

温家宝総理の言う「COP16で、各国が国連気候変動枠組条約と京都議定書を強化する法的拘束力のある合意を達成できるよう、中国は積極的に取り組んでいきたい」との言葉は、そういう意味ではないかと筆者は考える。

その時、日本はいったい何を国際社会に向かって叫ぶのか。具体的な取り組み実績をアピールする中国を「法的義務を負ってない」と批判するばかりで、日本自身の排出削減に向けた具体的取り組みがそれに見劣るものであったとすれば、他の先進国や途上国を含む国際社会の理解は得られるのだろうか。

こうした中国の出方を踏まえた日本自身の取るべき道については、稿を変えて改めて検討したい。

(東京財団HPより再掲)
中国マクロ経済政策の方向性(2010〜2016年) [2009年12月08日(火)]
1.2010年:足元の景気対策と経済構造調整

12月7日、中国指導部が翌年のマクロ経済政策の基本方針を話し合う「中央経済工作会議」が3日間の日程を終え、今年の基本方針である「積極的な財政政策」と「適度に緩和的な金融政策」を来年も継続する方針が決定された。

「積極的な財政政策」と「適度に緩和的な金融政策」の長期継続は健全なマクロ経済政策ではないが、いまだ金融危機の影響により世界経済が完全には回復しきれていないなか、中国としても当面は景気対策を重視する姿勢を鮮明にしたわけだ。

一方で、同会議では「来年の経済活動の重点は発展方式の転換にあり、内需の拡大、特に住民の消費拡大を重点に都市化プロセスを推し進め、産業構造を健全化し、経済構造の調整を図っていく。」(「中国国際放送局日本語部」2009年12月7日)との方針も確認されたという。

すなわち、足元の景気対策に万全を期しながら、世界経済の変動に強い内需主導の安定的な経済成長を実現するための構造改革を急ぐ考えだと言えよう。

こうした方針に基づき、会議では、来年の経済活動における主要任務として次の6項目を挙げたとされる(「中国網」2009年12月8日)。

・マクロ調整を強化し、経済の安定的かつ比較的速い発展を維持する。
・経済構造調整を強化し、経済発展の質と効率を高める。
・「三農(農業、農村、農民)」の発展の基礎を打ち固め、内需拡大の余地を広げる。
・経済体制改革を深化させ、経済発展の原動力と活力を強める。
・輸出の安定した成長を促し、国際収支の均衡を図る。
・民生の保障と改善に力を入れ、社会の安定を全力で維持する。

改革開放以来の30年間、中国の高成長を牽引してきたのは都市化に伴う内需であり、外需は経済成長率を上積みするボーナスだったが、知らず知らずにこのボーナスに頼った産業構成や経済構造となってしまっていた。

その結果、今年1−8月に中国の輸出が対前年比で−22%まで落ち込むと、経済成長率も今年第一四半期には6.1%と、08年第一四半期の10.6%から4.5ポイントも低下してしまった。過度に外需を頼った歪みが今回の世界金融危機に伴う輸出の急ブレーキで露呈したのである。


2.2011〜2016年:内需主導の持続可能な経済成長実現へ

この外需に過度に依存した経済構造を調整し、外的ショックに強い内需主導の経済構造に作りかえようという方針は、2011〜2016年を対象期間とする第十二次五カ年規画(「十二・五」)の基調にもなりそうだ。

筆者が中国政府当局者や政府系シンクタンク研究員などにヒアリングをしたところでは、消費を中心とする内需拡大によって安定期な経済成長を実現することが「『十二・五』期間における経済政策の出発点」(中国マクロ経済官庁高官X)だという。

別の中国マクロ経済当局者Yも、「今後の成長は内需主導を目指しており、貿易依存度を現在の60〜70%から50%以下に引き下げることが当面の数値目標だ」と語る。

外需のボーナスを頼りにしない以上、経済成長率も近年のような二桁成長は望まない。ただし、潜在成長率とされる8%を割り込むようなことになると過剰労働や過剰設備などの問題が露呈することから、「当面は8%以上の成長を堅持する方針は変えられない」とYは言う。

また、「十二・五」期間のもう一つの大きな課題は、資源と環境の保護だ。コペンハーゲンで開催中のCOP15を持ち出すまでもなく、中国自身の持続可能な発展のためには資源と環境の保護が不可欠であるとの認識は、中国の政策立案者の間で日に日に高まっている。

2020年までに単位GDPあたりのCO2排出量を2005年比で40〜45%削減するとの中国の宣言は、8%成長を前提とする限りCO2排出総量の削減につながらない見せかけの国際貢献にすぎないが、資源環境保護による持続可能な発展の実現は、「十二・五」の重点項目となることは間違いないようである。

問題は、どうやって資源環境保護を図りながら、内需主導で8%以上の高度経済成長を実現するかだ。

この点、中国政府当局者や政府系シンクタンク研究員などへのヒアリングからは次の4つの政策が見えてくる。

・「農民工」(出稼ぎ農民)の都市定住促進
・不動産市場の活性化
・サービス業の振興
・「主体功能区」(地域別開発政策)の形成促進

(1)「農民工」(出稼ぎ農民)の都市定住促進
現在の中国の戸籍制度では、農村住民を短期の労働力として都市部へ受け入れる一方、彼らの都市定住を認めないという「半都市化」政策を行っている。その不安定な身分がゆえに、彼らは低賃金に抑えられ、都市部で住宅購入することもできず、積極的な消費も行えない状況にある。

そこで、この戸籍制限を徐々に緩和し、農村住民の都市定住を促進することによって、個人消費の拡大を図ろうという考えが中国の政策立案者の間で広まっている。実際、こうした考えは、今月の「中央経済工作会議」でも「中小都市や都市部で戸籍制限を緩和する」との方針が示された(「人民網日本語版」2009年12月8日)。

一方で、低賃金労働者としての「農民工」は、労働集約型産業の競争力を支える原動力であるし、そもそも6億人以上いる農民に比して都市部のキャパシティは依然として不足していることから、その受け入れは漸進的なものとなろう。

具体的には、都市部で既に安定的な職に就いている農民籍の住民や土地収用により都市部への転居を迫られた住民などから都市戸籍の取得を認めていくようだ。

(2)住宅市場の活性化
農村戸籍から都市戸籍への転換を促進したとしても、都市部に住居を入手することができなければ、彼らが新たな消費者群として育っていくことはない。

しかし、現在都市部の不動産価格は庶民の手の届く価格ではなくなっている。「2010年中国経済形勢分析予測」(社会科学文献出版社)によれば、2009年の住宅価格対世帯年収比は全国平均で8.3倍に達する見通しであり、特に、農民工にとっては住宅価格対世帯年収比が22.08倍、農村世帯にとっては都市部住宅価格年収比が29.44倍にも上るという。

全国全世帯の85%はマイホームを購入するのに十分な収入がないのが現状であり、今や住宅を購入できる層は既に住宅を持っており、これから住宅を必要とする層には手が届かない状態なのだ。

そこで、中国政府は、供給面において都市部の低・中所得者用住宅の価格引き下げを模索し、需要面において農民工の住宅購入資金確保の道を拡大することを考えている。

農民工に住宅購入資金を確保させるために最も有望と考えられるのは、農地や農村宅地の使用権転売だ。

周知のとおり、社会主義国家の中国では全ての土地が公有であり、企業や個人は土地の使用権を貸与されているだけで、自由な売買は制限されている。2003年3月に施行された「農村土地請負法」では農民が農地を譲渡できると規定されており、2008年の中国共産党第17期中央委員会第3回総会中では農地使用権譲渡解禁の表明が期待されたが、いまだ完全には実現していないと見られる。

今後、農民工や農村住民の都市定住を促し、新たな消費者群として育てていくために、農地使用権譲渡の完全実施は避けて通ることのできない改革だと言えよう。

(3)サービス業振興
中国の産業構造は、2008年時点のGDP比で第一次産業が11.3%、第二次産業が48.6%、第三次産業が40.1%と、サービス業が未発達な状態にある。

一方で、これまでの中国の経済発展を主導してきた第二次産業では、鉄鋼、アルミ、セメントなどの業種で過剰生産能力が生じていると言われており、その調整が大きな課題となっている。

そこで、中国政府としては、「十二・五」期間に投資の重点を第二次産業から第三次産業へと誘導し、一部製造業における過剰生産能力の解消とサービス業の発展を促したい考えだ。

特に、サービス業は労働集約的な業種が多く雇用吸収力が高いため、就労問題こそ国内安定の鍵である中国にとっては是非とも発展させたい分野である。

(4)「主体功能区」(国土計画)の設定
さて、ここまでの政策では、どうやって資源環境の保護と高度経済成長の実現を両立するのかが見えてこない。

この相反する目標を同時に実現する方策として中国政府が考えているのが、「主体功能区」の設定による地域別開発政策の実施である。

「主体功能区」とは一種の国土計画であり、それぞれ異なる資源環境条件や開発条件にあわせて、中国全土を「優先開発区」、「重点開発区」、「開発制限区」、「開発禁止区」の4区域に分けて、それぞれ異なる「功能」(機能)を果たすべく開発政策を行おうとするものだ。

例えば、環渤海地域、長江デルタ地域、珠江デルタ地域は「優先開発区」の候補であり、これら地域は中国の総合経済力増強をリードするべく開発を進め、それぞれ人口1億人規模の大都市群を形成するとされる。

次に、台湾海峡地域、中原地域、長江中流域などは「重点開発区」の候補であり、これら地域では「優先開発区」同様に総合経済力の増強に向けて工業化や都市化を進めるべく開発が行われ、人口1000〜5000万人規模の都市群の形成を目指すという。

また、東北平原、黄准海平原、華南、甘粛、新疆などは農業生産を主たる「功能」とする「開発制限区」として、大規模な都市化や工業の高度化は制限して農業生産能力の維持向上を目指すことになる。

最後に、青蔵高原や黄土高原、東北森林帯や重要水系などは、生態と自然環境の保護を目的に開発を厳しく制限しつつ持続可能な範囲での資源利用にとどめる「開発禁止区」となろう。

こうした各地域の「功能」ごとに異なる開発基準を立て、それを地方指導者の業績評価に反映させる仕組みを考えているという。

この「主体功能区」の仕組みは、開発政策を司る国家発展改革委員会によって2006年に第十一次五カ年規画綱要草案に盛り込まれたものの、その後開発を制限されて発展の機会を奪われることを心配する一部地方などから大きな論争が巻き起こり、いまだ実現の陽の目を見ないでいる。

国家開発委員会は「主体功能区」を改めて「十二・五」に盛り込むことを考えているようであり、これが実施される場合には中国に進出している日本企業にも大きな影響が及ぶ可能性があることから、その動向には今後も注目が必要であろう。
大陸中国に呑み込まれる香港 [2009年08月27日(木)]
「香港では、いまや大陸中国の存在感がますます増大している」。8月17日から23日の間、夏休みを利用して香港の現状視察に出かけた筆者に、ジェトロ香港企業支援部長の普家弘行氏が強調した。

街を歩けば、そこら中で「国語」と呼ばれる大陸中国の言葉が飛び交う。香港人が生活上使う広東語とは異なる北京語ベースの標準語である。筆者が香港大学に留学していた10年ほど前には街中でほとんど通じることのなかったこの「国語」が、いまやタクシーでも、レストランでも、土産物屋でも、不自由なく通じるようになったのには驚いた。

筆者の香港視察に先立つ8月14日、香港政庁は、2009年第2四半期(4−6月)の実質域内GDPが対前期比で3.3%増であったと発表した。

香港経済は、日本を含む他のアジア経済と同様に世界経済危機の影響を大きく受け、2008年第2四半期以来マイナス成長に陥っていた。2009年第2四半期も、対前年同期比で見ればなおマイナス3.8%にとどまっている。

しかし、前期比3.3%の成長は年率換算では13%を超える伸びであり、1年3カ月ぶりにV字回復を実現したと言っても過言ではない。

香港実質GDP対前期比推移
(出所:香港政府統計処)

V字回復を見せているのはGDPばかりではない。第2四半期には香港株式市場も8割近く上昇し、8月11日にはハンセン指数が終値で約1年ぶりに21000ポイント台を回復して、リーマンショック以前の水準に戻してきている。また、不動産市場も活況を呈しており、住宅価格は上半期に20%近く上昇している。

この不況とV字回復の背景にあるのが近年顕著な大陸中国への経済依存である。

今回の現地視察を通じて筆者は、まさに香港が大陸中国に飲み込まれるがごとき存在感の高まりを強く感じた。

1.大陸に依存する香港経済
そもそも香港経済はGDPの約9割がサービス産業で占められているのだが、そのなかでも貿易物流業(付加価値ベースでGDPの25.8%(2007年))、金融業(同19.5%)、観光業(同3.4%)、専門業その他(11.0%)が4本柱である(数値の出所は香港政府統計処。以下別段の断りのない限り同じ。)。

このうち、輸入においては大陸中国が全体の46.6%(2008年)を占め、日本(同9.8%)、台湾(同6.3%)が続く。輸出においても大陸中国が48.5%(2008年)を占め、アメリカ(同12.7%)、日本(4.3%)が続いている。

観光業においても大陸中国の存在感は圧倒的であり、大陸中国人は全旅行客の57.1%(2008年)を占め、2位の台湾(7.6%)の約8倍、4位の日本(4.5%)の約13倍となっている。加えて大陸中国人は、筆者のような庶民の日本人観光客と違い、富裕層が多くて香港での一人当たり消費額でも他を圧倒しているという。

すなわち香港は、大陸中国と海外とを結ぶ物流と金融のハブとして機能しており、それを支える弁護士、会計士、コンサルタントなどの専門家が大勢いて、そこに百万ドルの夜景や安いブランド品を求める観光客が大陸中国から押し寄せて、経済全体が回っている構図だ。

2.大陸頼みの景気回復
昨年第2四半期以来香港を襲った景気後退は、世界的な景気後退の結果、大陸中国から欧米などへ向かう最終消費財の流れが細ると同時に、その最終消費財の生産のために日本や台湾から大陸中国へ向かう中間財の流れも減速したことによる。大陸中国と海外を結ぶ物流ハブの香港は、双方向からダブルパンチを食らったのである。

逆に今年第2四半期にGDPがV字回復した主要因は、海外から大陸中国へ向かう物流の回復によるところが大きい。香港から大陸中国への輸出は、昨年10月の1394億香港ドルをピークに急減していたが、今年2月の747億香港ドルで底をつき、3月以降順調な回復を見せて、6月には1132億香港ドルまで戻している。

日欧米がマイナス成長にあえぐ中、大陸中国は4−6月期に7.9%の高成長を達成しており、香港もその恩恵にあずかったのである。2009年第2四半期のGDP成長に対する対中輸出の寄与度は23.2%に上り、他の要因が成長の足を引っ張る中ひとり気を吐いた。

香港対中国輸出額推移
(出所:香港政府統計処)

3.流れ込む大陸マネー
GDPばかりでなく、香港株式市場や不動産市場のV字回復の裏にいるのも大陸中国のようである。

香港金融管理局(HKMA)の統計によれば、7月末のマネーサプライは7710億ドルで、1年前の3240億ドルの倍以上となっている。この過剰流動性が株式市場と不動産市場に流れ込んでバブル的な活況を見せているのだが、中国社会科学院金融研究所の易憲容氏は、「その多くは中国本土の資金だ」と指摘している(8月11日付「香港経済日報」)。

不動産市場では低金利に刺激されて住宅建設が活発化しており、今年上半期の住宅物件取引量は前期比64%増(土地註冊処)となったが、その買い手として大陸中国人が目立つ。特に高級物件では大陸中国の富豪が投資目的に購入を進めていい、前出ジェトロ香港の普家氏によれば「大陸中国人がツアーを組んで投資物件を漁りに来ている」状況だ。

これに伴い住宅価格や家賃も上昇しており、住宅価格の指標である中原城市領先指数は1−7月に19.45%の上昇、家賃相場の指標であるミッドランドリアルティー統計は1−7月に15%の上昇を見せている(8月12日付「文匯報」)。

4.進む一体化
実体経済の回復を上回るペースの資産市場急騰に対して、香港金融管理局も「この状況が続けば資産と消費物価のインフレをもたらし、マクロ経済と金融システムの安定を脅かす」(同局HP)と懸念を表明しているが、香港ドルを米ドルとペッグさせている香港は、アメリカが金融緩和政策を採っている以上、自分だけ金融引き締めに走るのは難しい。

そもそも貿易の約50%が大陸中国を相手にするものであり、大陸中国から他を圧倒する投資や観光客を受けて入れている香港にとっては、もはや米ドルではなく人民元にペッグさせるほうが望ましい現状だ。

いまのところは人民元自体が米ドルに対して小幅な変動に調整されていることによって矛盾が抑え込まれているが、人民元と米ドルとの乖離が拡大すれば、香港ドルも早晩米ドルペッグから人民元ペッグへと移行することになろう。

マーケットもこうした事情は織り込み済みとみられる。前出の中国社会科学院金融研究所・易憲容氏も、香港に流れ込む大陸マネーの背景を「香港ドルが米ドルペッグ制をやめ、人民元にペッグすることによって切り上げられるとみているため」と解説している(8月11日付「香港経済日報」)。

まだ中国返還後の香港について見方が定まっていなかった2002年、筆者は香港大学に提出した修士論文において香港の一国二制度の現状と展望を分析し、「香港は、まず第一段階で大陸中国との経済一体化が否応なく進展し、これによって社会面や政治面での統合が進んで、ついに大陸中国との統合が完成することになるだろう」と結論づけた。

今回の香港視察中、街中を飛び交う「国語」を耳にし、闊歩する多くの大陸中国人を目にし、かつて「香港人」であることに誇りを持っていた友人が「我々は中国人」と言うのに接して、私の予測は徐々に現実になりつつあることを感じた。

(東京財団HPより再掲)
梁光烈・中国国防相、北朝鮮、核削減、空母を語る [2009年06月22日(月)]
6月8日、笹川平和財団の交流事業として訪中した佐官級自衛官13名が梁光烈・国防部長を表敬し、中国人民解放軍が直面する諸問題について意見交換を行った。

今年で9回目となるこの日中防衛交流は、両国間の政治情勢が低調だった時期にも途絶えることなく、日中の防衛当局間の信頼醸成に貢献してきている。この点、梁光烈・国防部長も高く評価し、今後の末永い継続に期待を表したという。

表敬後に日本側代表者によって行われた記者ブリーフによれば、北朝鮮の核実験、オバマ大統領の核兵器削減呼びかけ、空母の導入など、中国人民解放軍が直面するさまざまな問題について、梁光烈・国防部長は1時間の時間を割いて自衛官各位に率直な見解を述べたという。

以下、この記者ブリーフで明らかにされた梁光烈・国防部長を紹介しつつ、筆者なりの分析を加えてみたい。


1.北朝鮮の核実験
国際社会の非難を省みず2度目の核実験を敢行した北朝鮮について、欧米諸国には「北朝鮮に対して影響力を有する中国が、北朝鮮の自制に向けてもっと積極的な役割を果たすべきではないか」とする向きが少なくない。

こうした国際社会の言い分に対して、梁部長は声を荒げながら以下の3点を指摘したという。

「中国は北朝鮮に影響力を発揮していないというが、北朝鮮問題は関係国が多く複雑な問題であり、その解決を中国だけに押し付けるのは不公平だ。」

「中国は当初から北朝鮮の核開発に反対の立場を明確にしてきており、その解決に向けては引き続き6カ国協議を重視している。中国が6カ国協議で果たしてきた役割については国際社会も理解しているだろう。」

「北朝鮮は主権国家であり、他国の指示を受けるものではない。中国といえども、何かを言えば北朝鮮がすぐに従うというものではない。この問題の解決には辛抱強い交渉が必要であり、6カ国協議各国には冷静な対応を呼びかけている。」

こうした発言からは、暴走する北朝鮮の扱いに手を焼いている様子が伺える。北朝鮮に本気で制裁を加えて体制崩壊させれば、大量の難民が中国に流れ込むなど、その混乱の影響は深刻に中国へ跳ね返る。

一方で、北朝鮮の暴走を放置して軍事的緊張が高まるような事態も避けたい。その足元を見透かすように強硬策を繰り返す北朝鮮に、梁部長も苛立ちを隠せないといったところだろう。


2.オバマ大統領の核兵器削減呼びかけ
核兵器については、米国のオバマ大統領が国際社会に削減を呼びかけている。この点、核保有国の中国はこの呼びかけに応じる用意はあるのか?

この質問について、梁部長の回答は以下のとおりであったという。

「オバマ大統領の呼びかけは歓迎する。」

「ただし、中国は多少の核兵器を有するものの核大国ではない。核を有する他の各国がオバマ大統領の呼びかけに応じるようであれば、中国もこれに対応していく。」

なるほど中国は核保有国ではあるが、その保有量は米国やロシアに遠く及ばない。核兵器削減を叫ぶなら、まず米国自身が大幅削減をして範を示するとともに、ロシアを説得して同様に大幅削減させるべきというのが中国の言い分だ。

そうした点を踏まえれば、梁部長の発言は、米ロの核兵器保有量が大幅削減されて中国の現状に近づき、他の核保有国もこうした流れに追従する状況になってはじめて中国も核兵器削減を考えるということを意味しているように聞こえよう。


3.空母の保有
中国軍に関するホットイシューは、空母保有の可能性である。今年3月、浜田靖一防衛大臣が訪中した際、梁部長は浜田大臣との会談中に「中国が永遠に空母を持たないというわけにはいかない」と語ったと日本のメディアでは伝えられた。この点、改めて梁部長に問うたところ、以下のように述べたそうだ。

「日本では、正式会談終了後に浜田大臣と交わした会話が曲解されて報道されたようだが、私の認識では、中国が空母を持つか持たないかを騒ぎ立てる必要はないと考える。」

「中国は広い領海を有し、その主権を守らねばならないが、一方で海軍の近代化は遅れてる。空母の導入は、そうした様々な要因を総合的に勘案すべき話であり、具体的には現在検討中である。結論が出れば、もちろん公表する。」

日中関係筋によれば、3月の報道は日本側による少々ミスリーディングな記者ブリーフが招いたものであって、梁部長は浜田大臣にも同様に「空母の保有については、まだ検討中である」と伝えたそうだ。

ただ、いずれにせよ、空母保有を決して否定しない梁部長の言葉からは、その保有は既に規定路線であるが公式発表する段階にないだけだという含意が感じられる。

中国と東シナ海で接し、一部では「主権」争いを有する日本としては、中国海軍による空母建造の行方は安全保障上の重大な関心事である。決して「騒ぎ立てる必要はない」問題ではなかろう。


4.中国軍の行く末と日本
空母に代表されるとおり、中国軍の行く末は日本の安全保障に重大な影響を与えるものである。梁部長が、1時間にわたる表敬の最後に、中国軍の発展方向について以下のように語ったそうだ。

「中国は、自国を取り巻く安全情勢に鑑みて、必要な軍事力を発展させていく。特に、情報化への対応が遅れていると認識しており、その対応を急がねばなるまい。」

朝鮮半島、東シナ海、南シナ海、中央アジアなど、中国の周辺は安全情勢の不安定要素に囲まれている。これに対応するに十分な軍事力の近代化を進めていくということだが、それは多くの安全保障問題で中国と対立的な利害を有する日本から見れば潜在的脅威の増大に他ならない。

日本は、東アジアの不安定な安全環境に自らも身を置いているという現実を見据えて、少なくともアメリカによる直接介入の期待が薄い局地的な衝突には自国で対応しうる実力を備え、もって海外からの敵対的な行動を抑止することが極めて重要であることは言を待たない。

一方で、北朝鮮によるミサイル発射や核実験を受けて日本でも策源地攻撃能力を巡る議論がにわかに盛り上がっているが、こうした日本の動きが東アジアの安全情勢に波紋を投げかけ、「安全保障のジレンマ」を起こすのも事実である。

したがって、日本の安全確保のためには周辺の安全環境に対応した実力を整備していくと同時に、周辺国との間で「安全保障のジレンマ」の連鎖的高まりを防ぎ、相互の情報不足による誤解や計算違いが不測の衝突につながることのないように日ごろから信頼醸成に努めることが欠かせない。

日中両国の国防当局が、民間団体の仲立ちにより、政治環境の浮き沈みに左右されることなく佐官級幹部の交流を続けているのも、こうした信頼醸成の重要性を双方が理解しているからだろう。「継続は力なり」である。来年で10周年を迎える同事業が、引き続き継続されていくことを期待したい。
中国経済、09年は消費の行方次第 [2009年01月29日(木)]
1月26日、中国では旧正月(春節)を迎え、新たな一年が幕を開けた。振り返れば、中国にとって昨年は「21世紀に入ってから最も困難な一年」(馬建堂・中国国家統計局局長)だった。

それは春節前の22日に中国国家統計局が発表した経済データにも表れている。数々の自然災害や国際金融危機に見舞われて昨年の中国は経済成長率が9.0%にとどまり、2003年以来続いていた二桁成長をついに割り込む結果となった。

こうしたなか、中国メーカーに部品や工作機械などを供給する日系企業もあおりを受けたり、中国市場向けの販売を手掛ける日系企業も自動車や薄型テレビといった高額耐久消費財の販売が不振になってきたりしているという。

しかし、世界を見渡せば、9%成長とは依然として目をみはるばかりの高成長である。IMFの最新データによると、昨年の世界経済の平均成長率は3.7%で、08年の世界全体の経済成長に対する中国の貢献率は20%を超えたという。

世界は今厳しい経済危機の最中にあり、日米欧は軒並みマイナス成長へ落ち込むことが危惧されている。中国もこうした世界経済危機と無縁ではなく、また国内にもさまざまな政治経済上のリスクを抱えてはいるものの、日系企業としては唯一の頼みの綱として中国経済の力強い成長に期待せざるをえまい。

そこで以下では、中国国家統計局発表の最新統計データに基づいて08年の経済状況を回顧したうえで、09年の中国経済を展望してみたい。

1.08年の回顧: 減速しつつも内需主導で底堅い成長

08年の中国経済を振り返ると、「経済成長の減速」、「消費の堅調な拡大」、「中西部の成長加速」、「物価上昇傾向の反転」という4つの特徴を指摘することができよう。

すなわち、世界的な経済危機の影響を受けて輸出が伸び悩んだ結果、中国経済全体としての成長率は近年の水準から比べて減速し、その影響は輸出志向型産業が集中する沿海部で色濃く見られるが、一方で個人消費は堅調な伸びを見せ、中西部では沿海部を上回るペースの成長が見られるなど、中国経済は内需中心に底堅い成長を達成した。

ただし、08年の成長を牽引した内需にも10月以降個人消費の伸びも鈍り、消費者物価も年末頃から急速な落ち込みを見せるなど、今後の先行きに不安が残る兆候も見られる点には注意を要するだろう。

(1)経済成長の減速
08年第1四半期には10.6%、第2四半期には10.1%を記録していた中国のGDP成長率も、第3四半期には二桁を割り込み、第4四半期には遂に6.8%まで減速した。この結果、08年通年のGDP成長率も5年ぶりに二桁成長を割り込んで9.0%にとどまった。

経済成長が減速した背景には、世界的な経済危機による輸出の減少がある。

中国の輸出総額は、08年第3四半期まで前年同期比20%超の伸びを見せていた。しかし、10月以降、リーマンブラザーズの破たんをきっかけにアメリカ発の金融危機が顕在化するにつれて世界各国に向けた中国の輸出にも急ブレーキがかかり、第4四半期の輸出は前年同期比4.3%の伸びにとどまった。こうした外需の減退が中国の経済成長を鈍らせた最大の要因として指摘できる。

(出所:中国国家統計局)


(2)消費の堅調な拡大
08年を通して見ると、外需の低迷が経済成長の足を引っ張る一方、内需は底堅さを見せた。特に、消費財小売総額は前年同期比21.6%の伸びを見せており、5.9%の物価上昇を差し引いても個人消費が大きく伸びていることがうかがえる。

好調な個人消費の背景には、都市と農村に共通する所得の伸びがある。都市住民の一人当たりの平均可処分所得は前年比14.5%増の年間1万5781元となり、価格変動の要素を除いた実質増加率でも8.4%であった。農村住民の一人当たりの平均純収入は前年比15%増の年間4761元で、こちらも実質増加率は8%である。こうした所得の伸びが消費意欲を喚起し、内需を中心に底堅い成長を実現する原動力となったものと考えられる。

ただし、10月以来消費の伸びにも減速が見られる。中国においても経済の先行きに対する不安は高まりつつあり、消費者景気指数が毎月低下してきていることから、今後消費の更に低迷する可能性も否定できない。

(出所:中国国家統計局)


(3)中西部の成長加速
08年の中国経済を地域別に振り返ると、これまで輸出志向型産業を牽引役としながら目覚ましく発展してきた沿海地域に比べて、中西部地域の付加価値工業生産額の伸びが目覚ましい点が特徴的である。また、都市部の固定資産投資の伸びについても、東部が前年比21.3%であるのに対して、中部が33.5%、西部でも26.7%と、中西部の伸びが目立つ。

(出所:中国国家統計局)


(4)物価上昇傾向の反転
07年後半から見られた一次産品の国際価格高騰や中国国内での需給関係の逼迫などにより、中国の物価は07年下半期以来急速に上昇し、消費者物価指数(CPI)の上昇率は08年2月には8.7%のピークに達した。

しかし、その後、中国政府が供給増加・需要調整・流通改善・中低所得者補助などの一連のインフレ防止策を採ったことや物価高騰傾向が一巡したことによりCPIはほどなく5%以下まで落ち着つき、08年通年では5.9%におさまった。

むしろ12月のCPIは前年同期比1.2%、生産者物価指数(PPI)も前年同期比1.1%という水準まで下がってきており、この傾向が続けばインフレよりもデフレの懸念すら聞かれる状況になっている。

(出所:中国国家統計局)


2. 09年の展望:ポイントは個人消費の行方

昨年、中国経済は、減速しつつも内需を中心に底堅い成長を見せたが、今後の先行きには不安が残る兆候も見られる。

今年6月頃には生産過剰で余った在庫が調整され、経済も持ち直すと見る向きもあるが、一方で、投資引き締めが緩んだことによって、調整されつつあった生産能力が再び過剰になると懸念する向きもある。

在庫が解消されるか生産能力が過剰となるかは、裏を返せば、消費の問題である。

09年の中国経済は、輸出は回復が見込めず、内需のうち投資は刺激策である程度下支えが見込めるとすれば、残るポイントは消費の行方である。

1年前、アメリカ発の金融危機が世界経済をここまで冷え込ませることを正確に予測していた識者はほとんどいなかったように、この年初に09年の中国経済を展望しても信頼に足る予測をすることは現実的ではないであろうが、ここでは08年の中国経済を下支えした個人消費の先行きについて、「雇用情勢の悪化」、「消費者心理の悪化」、「デフレ懸念の台頭」という3つのリスクを指摘したい。

(1)雇用情勢の悪化
中国の雇用情勢は08年から世界的な経済危機による影響を受けており、08年末時点で当局が発表する登録ベースの統計でも失業率は4.2%となり、昨年より0.2ポイント悪化した。世界的な不況と中国自身の成長鈍化の影響により、今後失業者数は全産業で増えることが危惧される。

これまで中国の経済成長を牽引してきた製造業は最も多くの就業者を抱えているが、今後、世界的な経済危機の大きな影響を受けることは確実だ。特に沿海部の輸出産業は大打撃を受け、労働集約型の輸出企業が集中している広東省では08年1月から9月までに5万社以上が倒産したという。

大部分の産業が調整を迫られることになり、多くの企業で収益の悪化が懸念される。特に、世界経済の後退および人民元の小幅の切り上げは、引き続き中国の輸出主導型の産業構造に大きな打撃を与えるだろう。

(2)消費者心理の悪化
家計と経済全体について足元の心理を表す消費者自信指数と先行きに対する予測を反映する消費者予測指数の動向を見ると、昨年秋以来明らかな消費者心理の冷え込みが観測できる。

昨年の中国経済は個人消費を牽引役として底堅い成長を見せたが、雇用情勢の悪化などで消費者心理が冷え込んでいると見られることから、消費者の財布の口が今後固くなる可能性が懸念される。

     消費者心理指数
(出所:中国国家統計局)


(3)デフレ懸念の台頭
1年前にはインフレの進行が心配された中国であったが、年後半にかけて物価は落ち着き、12月の商社物価指数(CPI)は前年同期比1.2%、生産者物価指数(PPI)も前年同期比1.1%という水準まで下がった。

CPIとPPIは今年も低水準での推移が見込まれる。消費者心理の冷え込みが見られるなか、自動車や家電などの高額耐久消費財の売れ行きが落ち込んできており、今後個人消費がさらに先簿そるようなことになればデフレの発生すら懸念される。一部には、CPIは通年で1%前後、PPIにいたってはマイナスに転じるという予測もある。(チャイナ・ネット1月24日)。

物価の低下が消費者の購買意欲を引き出す方向で作用すればよいが、売れ残りによる値崩れが企業収益を押し下げ、それが雇用や所得の悪化につながり、さらに個人消費を冷え込ませるような悪循環のデフレ・スパイラルに陥る可能性も排除できない。

3.おわりに

中国指導部は翌年の経済運営について毎年12月の中央経済会議で議論するが、昨年12月上旬に開かれた中央経済会議では、雇用吸収と社会安定に必要な最低線とされる8%成長を09年でいかに確保するかが最大のテーマであったという。中国国際金融有限会社(CICC)のレポートによれば09年の自律的な経済成長率は約6%にとどまるとも言われ、中国経済の見通しは決して明るくはない。

輸出の回復が見込めない09年の中国経済は、たしかに07年の13.0%といった驚異的な成長を記録することはないだろう。

しかし、改革開放以来中国経済の急速な成長を支えてきた都市化や工業化という基本的な成長トレンドに変化はなく、その潜在成長率は引き続き8〜10%程度あると見込まれる。

直近の2008年第4四半期の成長率が6.8%まで落ち込んでいる中国経済が09年に潜在成長率の水準を回復するためには政府の対策も重要であり、2010年末までの2年間で4兆元(約56兆円)にのぼるという景気刺激策の効果に期待がかかる。

その成否は、中央財政だけでは賄いきれない投資資金がどれだけ銀行などからファイナンスされるかにかかっていると筆者は見ており、拡張的な財政政策と緩和的な金融政策の組み合わせが欠かせない。

この点、中国政府は、金融政策の目標を従来の「成長維持、インフレ抑制」から「成長維持、デフレ防止、リスク抑制」へと転換するとしており、その行方に注目したい。報道では、中国人民銀行(中央銀行)が今年3、4回にわたり0.27ポイントずつ金利引下げを行い、「超低金利時代」を迎えるとも予測されている(1月22日チャイナ・ネット)。

これら施策が功を奏して中国が本来有する潜在成長力を発揮すれば、政府の目標とする年率8%という成長も決して不可能な数字ではないだろう。
「中国発展モデル」をどう見るか [2008年10月03日(金)]
先日、新華社から「『中国発展モデル』をどう見るか?」というインタビューを受けた。

中国共産党にとって、目覚ましい成長を達成した「中国発展モデル」こそ自らの政権担当を正当化する最大の柱となっている。

改革開放の開始から30周年の節目となる今年、中国では、この「中国発展モデル」を賞賛する議論が盛んに行われている。

1.中国発展モデル
今年は、中国が1978年12月の中国共産党第11期中央委員会第3回全体会議(三中全会)において「改革開放政策」を採用してから、ちょうど30年である。

この30年間の間に、中国のGDPは70倍に成長し、いまや世界第4位の経済大国となった。さらに、IMFの予測によれば、2011年には中国が日本を抜き、アメリカに次ぐ世界第2位となるという。

一方で、中国では地方間・住民間での大きな格差があり、また、急速な成長がもたらした環境の破壊や資源エネルギーの浪費は中国自身のみならず世界にも大きな影響を与えているのも事実である。

こうした「中国発展モデル」をどう見るか?

2.一般的な見方
多くの専門家が、従来のように単純な労働集約型産業だけに頼る中国発展モデルは、ますます難しくなると指摘している。

実際、繊維産業や組立産業など労働集約的な単純加工業については、日本企業や韓国企業が中国から生産拠点を東南アジアなどへシフトする動きが出ており、中国政府自身も、こうした産業に対する外資優遇策を廃止してきている。

そもそも、経済成長をもたらす長期的な要因は、労働力の増加と技術の革新である。1970年代末以来「一人っ子政策」を採用してきた中国では、2015年頃には労働力人口が減少を始め、2020年頃には高齢化問題が深刻化すると言われている。

一方、技術革新について、中国は改革解放以来長らく主に外資による技術移転によって生産性を向上させてきたが、人件費の高騰により価格競争力を失う中では、外資の二番煎じの技術だけでは国際競争に勝てない時代となるだろう。

3.底堅い中国の成長力
しかし私は、中国の潜在的な経済成長力はまだまだ非常に力強いと見ている。中国は、短期的には当然景気の浮き沈みを経験するであろうが、中長期的には政府による積極的な介入なくしても高成長を続けていくことができるだろう。

まず、労働力について、近い将来に労働力人口の総数が減少するといっても、まだ農村には1億人とも2億人とも言われる余剰労働力が存在しており、彼らが農業以外の分野へ移動していけば、まだまだ労働力の新規供給の余地がある。

また、過去30年間、中国発の技術革新があまり出てこなかったのは、安価で豊富な労働力に支えられた中国製品は国際社会において十分な競争力を維持してきたため、コストとリスクをかけてわざわざ技術革新をする必要がなかったからである。

今後は中国も過去と比較すれば価格競争力が落ちてくることを考えれば、技術革新の必要性が高まるだろう。その必要性に応える人材を中国は十分に抱えている。中国には理系の高等教育を受けた人材が豊富に存在しており、その研究開発の潜在能力は極めて高いと思われる。そもそも中国では、文系中心の日本と異なり、高校生の過半数が理系を選択する。その後、清華大学を頂点とする理系の大学で高等教育を受け、少なからぬ卒業生が欧米へ留学して世界最先端の技術と教育を身につけている。

経済成長という点において、中国政府がすべきことは、景気が過度に浮き沈みすることのないように平準化する努力と、中国が本来持つ成長力を十分に発揮する努力くらいである。

4.解決すべきは再分配問題
むしろ、中国政府が今後真剣に取り組むべき中国発展モデル上の問題は、格差や環境破壊などである。

これらは、経済成長の果実の再配分に関する問題と言い換えることができよう。政府の積極的な介入が求められる問題とは、市場の資源配分メカニズムに任せておいては解決できない問題である。この点、格差の是正や環境保護は、自由な市場競争が生み出す負の影響であり、まさに市場の資源配分メカニズムに任せておいたのでは解決できない問題である。

特に格差の問題は深刻である。なぜなら、政権の有効性や正当性に対する疑問を大衆に抱かせる最も典型的な要因は庶民の生活苦だからである。

ここで注意すべきは、格差の存在や拡大そのものが問題ではない点である。

日本でも、多くの専門家や識者が「中国では格差が広がって社会不安が高まっている」と解釈している。しかし、都市世帯も農村世帯も「昨日より今日、今日より明日の生活がよくなる状態」にあり、この傾向が続く限りは、格差が開いたところで下層の人々も現体制の有効性や正当性を否定してまで現状を変えたいとは望まないだろう。事実、今年第1四半期の都市住民世帯の可処分所得は対前年同期比11.5%、農村住民世帯の可処分所得は対前年同期比18.5%も上昇した。

ただし、最近の中国では、物価上昇や景気の減速によって一部の人々が「昨日より今日、今日より明日の生活がよくなる状態」を享受できなくなっていると私は見ている。明日の生活に失望した人間は自暴自棄になって何をするか分からない。これこそ、今の中国発展モデルが抱えている最大のリスクであろうと私は考えている。

したがって、明日の生活に対する希望を失いかねない困窮者の救済こそ、中国政府が取り組むべき最も重要な課題であろう。そのためには、中国政府は、低所得者への生活保障提供、全国民への社会保障提供、資産家に対する相続税導入、内陸部への財政援助など、経済成長によってもたらされた所得を従来以上に積極的に再分配していくことが必要だと私は考える。
NATOの東方拡大に不安募らす中国 [2008年09月30日(火)]
「NATOの東方拡大は、ロシアにとってのみならず、中国にとっても潜在的な脅威だ。これが、グルジア紛争に対する中国の立場を難しくしている。」
指導部にも通じる中国政府系シンクタンクの著名な国際政治学者が筆者に語った。

1.グルジア紛争に対する中国の公式見解
8月、ユーラシア大陸の東端で北京五輪が世界の耳目を集めるなか、ユーラシア大陸のもう一端ヨーロッパとロシアに挟まれたグルジアでは国際社会に大きな不安を与える事件が起こっていた。グルジア紛争である。8月7日にグルジア軍と南オセチア軍が衝突を始め、ロシアのプーチン首相が北京で華やかな五輪開幕式に出席していた翌8日には、ロシア軍が紛争に介入し、グルジア領内の軍事拠点への攻撃を開始した。

パンドラの箱を開けたのは、国内の親ロシア派独立勢力たる南オセチア自治州とアブハジア自治共和国を武力で押さえ込もうとしたグルジアである。しかし、そこにロシアが軍事介入して両国の独立を承認する一方、北大西洋条約機構(NATO)がグルジアの支援に回ったことから、事態はロシアと欧米との対立の様相を呈した。

このグルジア紛争に対して、中国外交部の秦剛報道官は8月27日の定例会見で、「中国は南オセチアとアブハジア情勢の最近の変化に注目している。わたしたちは南オセチアとアブハジアの問題の複雑な歴史と現状を理解している。こうした問題における中国の一貫した原則的立場に基づき、わたしたちは関係各方面が対話と協議を通じて問題を適切に解決することを希望する」(「人民網日本語版」 2008年08月28日)との見解を表明している。

秦剛報道官のいう「こうした問題」とは「国内紛争」を指し、「中国の一貫した原則的立場」とは「他国による内政不干渉の原則」である。そもそも中国は内政不干渉を外交の大方針としていることから、グルジア紛争についても特定の勢力を支持することなく中立を保つのは規定路線どおりとも言える。


2.グルジアへの同情
しかし、グルジア紛争の背景にある諸問題について中国の置かれた戦略的立場は、それほど単純ではない。

自らも台湾、ウイグル、チベットといった独立勢力を抱える中国としては、武力をもってしても国家統一を堅持しようとするグルジアの「国内紛争」にロシアが干渉することに賛成できないのは当然である。グルジア紛争へロシアの干渉を許すロジックは、台湾問題、チベット問題、ウイグル問題へ他国の干渉を許すロジックにつながるからである。

では、なぜ中国は、自国と同様に国家統一に取り組むグルジアとそれを支持するNATOの立場をより積極的に支持しないのであろうか?
それは、グルジア紛争の背景にある「NATOの東方拡大」という問題について、中国は潜在的な不安を感じているからである。


3.NATO東方拡大に募る不安
もともと旧ソ連の脅威に対抗する軍事同盟であったNATOは、旧ソ連の崩壊と冷戦の終結により、その存在意義の重点を域外地域における紛争予防と危機管理に移してきた。さらに、1999年のチェコ、ハンガリー、ポーランドの加盟以来、かつて旧ソ連の強い影響下にあった東欧諸国が相次いでNATOへ加盟し、その版図はユーラシア大陸の東方へと拡大を続けている。いまや旧ソ連を構成していたウクライナやグルジアまでNATOに加盟する可能性が高まっており、気がつけば中国の裏庭である中央アジアの鼻先までNATOの版図は拡大してきているのである。

「昨日は東欧、今日はグルジア・ウクライナ。明日は中央アジアやモンゴルがNATOに加盟しないとは誰が断言できようか。」前出の中国人国際政治学者は、冷静に、しかし鋭い眼光で問うた。
もしNATOが中央アジアやモンゴルまで及ぶこととなれば、中国西部のウイグルやチベットの独立問題は、地理的にはNATOによる「域外地域における紛争予防と危機管理」の対象範囲となりうる。NATOによるボスニア・ヘルツェゴビナ紛争への介入やコソボ紛争でのセルビア空爆は、中国にとっても対岸の火事ではなくなるのである。

ところで、モンゴルがNATOの東方拡大についてどう考えているか。モンゴルは、NATO主導のアフガニスタンへ兵力派遣を行っており、米国との合同軍事訓練も行っている国である。
この点、モンゴル国立大学外交学院のある教授は「モンゴルのNATO加盟はありえない」と語る。モンゴルは、冷戦中の旧ソ連一辺倒外交から、現在ではロシアと中国との間のバランス外交を大方針としている。中露という両大国の間で押しつぶされることのないように日欧米との関係強化にも熱心に取り組んでおり、NATOやアメリカとの緊密な関係構築もそうした路線の一環であるが、NATO加盟は「ロシアを刺激しすぎる行動」なのである。
ロシアを脅威と感じつつも過度に刺激したくないのは中央アジアも同様であろう。そもそも、欧州とはあまりに異質な中央アジアやモンゴルをNATOが受け入れることも極めて考えにくい。

しかし、それでも中国の不安は消えない。当の中国人国際政治学者によれば、NATOの東方拡大を潜在的な脅威と考える向きは、中央の指導部から在野の学者まで広く存在するのだという。
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