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アジア外交演説に見るオバマ大統領のしたたかさ [2009年11月14日(Sat)]
11月14日、来日したオバマ大統領が東京サントリーホールで行ったアジア外交演説は、無駄のないしたたかさを感じさせるものであった。

まず日本やアジアとの個人的つながりへの言及で話を起こし、日米関係を持ち上げたうえで、日本、韓国、オーストラリアなどの伝統的パートナーとの協力や、中国などの新興国の取り込み、さらにはASEANや東アジアサミットなど地域内の多国間枠組みとの連携について、その重要性を指摘し、取り組むべき課題として貿易自由化、気候変動対策、核不拡散などを挙げた。

すなわち、アジア太平洋地域の各国と共に国際課題解決に取り組んでいきたいとの姿勢を鮮明にした内容である。

その背景には、金融経済安定、気候変動対策、核不拡散といった米国の優先的国際課題の解決に向けて、日本も、中国も、東南アジアも、APECのような多国間枠組みも、使えるカードは全て使いたいという意図が読み取れる。

特に、これら課題解決に中国の協力は不可欠だ。この点、オバマ大統領が、中国に言及した部分でも、域内の人権問題に言及した部分でも、中国国内の人権問題には一切触れなかったことは興味深い。

これは、オバマ政権は同じ民主党のクリントン政権などとは異なり、中国の人権問題を殊更に批判するようなことはせず、むしろ協力パートナーとして密接な関係を築いていきたいという考えの表れだ。

ただし、日本の頭越しに拙速な米中関係強化へ走れば、ジャパン・パッシングを危惧する日本の協力を得にくくする。この点でも、オバマ政権はクリントン政権とは異なり、日本への配慮を欠かさない。

実際、オバマ大統領は就任以来一貫して日本重視の姿勢を鮮明にしてきた。演説の中でも言及したとおり、クリントン国務長官の最初の訪問国として日本を選んだり、その直後にオバマ大統領がホワイトハウスに招く最初の外国要人として麻生総理を受け入れたりと、日本を安心させるパフォーマンスをく繰り返してきている。

今回の東京演説の中でも、日米同盟の重要性を強調し、北朝鮮の拉致被害者問題にも配慮を見せるなど、日本への配慮がにじむ。

そもそも今回、短い滞在日程になろうとも日本からアジア外遊を始め、就任後初のアジア外交演説を東京で行うパフォーマンスにも、オバマ大統領のしたたかな戦略を感ぜざるをえない。

アメリカが、多くの国際課題の解決において日本の協力も中国の協力も不可欠だと考えているのであるから、日本も、アメリカや中国のどちらか一方に肩入れするのではなく、いずれとも冷静で良好な関係を維持したうえで、必要に応じてアメリカ、中国、さらにはASEANやEUなどの間で距離感を調整しながら、日本自身の利害を踏まえた協力や妥協を引き出していく戦略が望まれるところだ。
オバマ米国大統領来日の注目点 [2009年11月06日(Fri)]
11月12日、アメリカのオバマ大統領が初めて来日する。

昨今のぎくしゃくした日米関係を背景に、数日前までキャンセルの噂も流れていたが、アメリカとしてアジア重視・日米関係重視の姿勢を示すためにも予定どおり日本を訪れるようだ。

1.日米関係の現状
民主党の鳩山政権の下で、日米関係が動揺していることは周知の事実である。

その最大の原因は、鳩山政権の対米外交方針が未だ定まっておらず、左右に揺れ動いているからだ。

民主党内には、日米同盟を支持する自民党に近い現実主義者と、日米同盟に消極的なリベラル派の双方が混在している。

また、民主党が衆議院で過半数をとっても、参議院では過半数を保持していないため、日米同盟に反対する社会民主党と連立を組まなければならない。

このように対米外交方針について政権内で意見が統一されていないために、民主党の対米外交方針は右に左に大きく揺れ動き、予測しにくい状態が続いている。

そして、先が見えないだけに、これまで日本が進めてきた米国との緊密な同盟関係に急激な変化が生じるのではないかとの不安が広がっているのが、日米関係の現状だ。

2.オバマ来日の注目点
今回のオバマ大統領の訪日は、シンガポールで開催されるAPEC首脳会議出席のついでにアジアを歴訪する一環に過ぎず、特に注目すべき課題があるわけではない。

日本のメディアは、沖縄普天間基地移設問題の決着に注目しているが、鳩山首相が同問題の解決を急がないと言っている以上、これについても大きな進展はないだろう。

私が注目しているのは、今回の訪日中にオバマ大統領が対アジア外交の方針に関するスピーチを行うかどうかだ。

オバマ政権は、発足後一貫してアジア重視の姿勢を鮮明にしてはいるが、実はオバマ大統領自身が包括的な対アジア外交方針を語ったことは今までほとんどない。

したがって、今回のアジア歴訪中にオバマ大統領が対アジア外交の方針に関するスピーチを初めて行うのではないかと注目している。

さらに、もしスピーチを行うとすれば、その場所も注目だ。

オバマ大統領が初めてのアジア政策スピーチを東京で行うか北京で行うかは、アジアにおけるパートナーとして日本と中国のどちらをより重視しているかを計る目安になるだろう。

また、気候変動問題について、日米でどのような合意がなされるかも注目される。

気候変動問題を重視している鳩山政権にとって、アメリカから具体的なCO2排出削減の約束を引き出せれば大きな成果である。国民受けも総じて言えば悪いはずはなく、低迷傾向にある支持率の浮揚効果も期待できよう。

しかし現実には、残念ながら世界の二大CO2排出国である米中の間で今後のCO2排出削減の国際枠組みの基本ルールが決められてしまう可能性が高い。

米中の間で日本がどれだけ存在感を発揮できるか、それが今回のオバマ大統領訪日の注目点だと言っても過言ではなかろう。



オバマ政権の東アジア政策プライオリティ [2009年03月01日(Sun)]
「スマートパワーを利用して、長年の同盟国や新興国と協力し、共通の全世界的な問題への解決策を見つける」。

2月13日、アジア歴訪を控えたクリントン国務長官は、ニューヨークのアジア・ソサイエティーで新政権下のアジア外交の方針についてこう語った。

オバマ大統領が就任して約一カ月が経ち、その外交方針も輪郭が見えてきたところである。

ここでは、オバマ大統領やクリントン国務長官の文章や講演などを手掛かりにオバマ政権の東アジア政策の行方を展望するとともに、これに対する各国の反応を概観してみたい。

1.オバマ政権の東アジア政策プライオリティ
クリントン国務長官が最初の外遊先として東アジアを選んだことからすれば奇異に聞こえるかもしれないが、オバマ政権が取り組む課題として東アジア外交の占めるポジションは決して大きくない。

そもそも、オバマ大統領は、これまで東アジア政策について公式な方針を示したことが非常に少なく、就任後初の国務省演説でも北東アジアには言及していない。

クリントン国務長官が最初の旅でアジアに来たのも、アジアが何より重要だからというよりは、隣国カナダにはオバマ大統領が出向き、ヨーロッパにはバイデン副大統領が挨拶に行き、複雑な問題が絡む中東には易々と足を運べないなか、消去法的に選択されたと考える方が自然である。

オバマ政権の東アジア外交は、むしろ優先課題であるイラク・アフガン問題、金融経済問題、気候変動問題との関係で見てみると、大きな絵の中の位置付けが捉えやすい。その概要を箇条書きすれば、以下のようなものとなろう。

(1)中国
イラク・アフガン、金融経済、気候変動いずれも中国の協力不可欠

(2)日韓との同盟維持
中国と日韓を天秤にかけず、日韓には応分の責任と負担を要求

(3)朝鮮半島の非核化(6カ国協議)
地域協力の実験場。北朝鮮問題はオバマ政権にとって当面プライオリティ高くない

以下、こうした点を各国毎に掘り下げてみる。


2.中国
まず第一に、オバマ政権にとって東アジアでのトップ・プライオリティは中国との協力関係強化にあると言えよう。

多国間主義に基づき国連や関係国と足並みそろえてイラク・アフガン問題はじめ国際社会の問題を切り抜けたいオバマ新大統領にとって、安保理常任理事国たる中国の協力は不可欠であるし、未曾有の金融危機で国債を乱発するアメリカにとって最大債権国となった中国がいわばアメリカの安定的国債消化の鍵を握っているのは言うまでもない。

気候変動問題についても、中国抜きでは実効性ある枠組みとはならないし、そもそも中国抜きの枠組みにはアメリカ国内の了解が得られまい。いずれの優先課題解決においても、中国の協力は不可欠なのである。

では、中国側は、オバマ政権の対中政策をどう見ているのか。

中国共産党中央の外交筋は筆者に、「クリントン国務長官の最初の外遊日程に中国を含めたことは中国重視の現れと評価している」と語った。アメリカの国務長官が最初の外遊先に日本を選ぶことに驚きはないが、最初の外遊日程に中国を含めてきたことは大きな意味があるというのだ。

一方、中国国内の世論では「バイ・アメリカン条項」に代表されるアメリカの保護主義的な動きを強く警戒する声が広く聞かれる。

実際、オバマ大統領は胡錦濤国家主席との電話会談で対米貿易黒字削減を迫ったとされるし、ガイトナー財務長官も「中国が為替操作をしているとオバマ大統領は信じている」と批判している。「90年代のクリントン政権が当時の日本に強硬姿勢で経済開放や貿易摩擦解消を迫ってきたように、オバマ政権が今度は中国をやり玉にあげるのではないか」(吉林大学教授)と心配する向きは少なくない。

実際のところ、今後の米中関係はどのように展開していくのか。クリントン国務長官の訪中時に米中戦略対話の範囲を従来の経済問題から政治・安保問題へと範囲を拡大することが合意されたが、今後はこうした枠組みを使いつつ、お互いの利害を綱引きしながらも関係強化の方向へ向かうと筆者は見ている。


3.日本
クリントン国務長官が上院外交委員会指名承認公聴会で「日米同盟はアジア政策の要石」と持ち上げれば、オバマ大統領も日米首脳会談で「東アジアの安全保障の礎石」と日米同盟堅持を約束する。

クリントン国務長官の最初の訪問国も日本であるし、オバマ大統領がホワイトハウスに迎える最初の外国首脳も麻生総理だという。

オバマ政権が気持ち悪いほど日本重視の姿勢を繰り返し打ち出すのは何故だろうか。こうした一連の対日重視姿勢について筆者は、中国との協力関係強化の布石として、まずはJapan Passing(日本はずし)を心配する日本を安心させるためのJapan Flattering(日本おだて)だと見ている。

金融経済問題やイラク・アフガン問題など喫緊の課題に各国の協力を得たいと考えているオバマ政権にとって、ひと筋縄ではいかない中国から協力を引き出すことは東アジアの最優先である一方、中国との関係強化を焦ることで日本のひがみを買い、織り込み済みの日本の協力を失うことは避けたい。日本は、中国に次ぐ米国債保有国であり、非常任ながら向こう2年は国連安保理メンバーなのである。

中国と関係強化しつつ日本もつなぎとめておけるなら、国務長官外遊日程の最初に日本を持ってくること、日本で拉致被害者家族に会うこと、ホワイトハウスに来たいというレームダックの麻生総理を迎えること、各種発言で日本に耳触りのよい美辞を並べること、そのいずれの外交パフォーマンスもオバマ政権にとってはお安い御用だと言える。

日本としては、その外交パフォーマンスの先に来る同盟国としての責任と負担に耐えうるかをきちんと議論せねばなるまい。


4.朝鮮半島
朝鮮半島については、オバマ政権発足後、関連人事がなかなか固まらず、対北朝鮮政策の方向性が出てくるのにも時間がかかっていた。先のアジア・ソサイエティーでの演説において、ようやくクリントン国務長官が「北朝鮮が核計画を完全廃棄する用意があれば、国交正常化や平和条約に応じる」と語り、恒久的な平和条約を締結にも言及した。

多国間協力により国際問題を解決していくアプローチを採るオバマ政権は、北朝鮮問題においても6カ国協議の枠組みは踏襲していく見通しだ。

ただし、「人事停滞の最大の理由はオバマが北朝鮮どころではないため」(日系紙ワシントン駐在員)という見方もあり、オバマ政権にとって、北朝鮮問題は決してプライオリティの高い問題とは言えない。

これに対して、北朝鮮も韓国も、それぞれ期待と不安をもってオバマ政権の朝鮮半島政策の出方を注意深く観察しているようだ。

北朝鮮強硬路線を採る李明博政権の韓国は、同盟国重視の姿勢を示すオバマ政権が、自国とともに北朝鮮への圧力をかけることを期待している。

しかし一方で、アメリカが6カ国協議の枠組みを維持すると言いながら、実際には自分達の頭越しに北朝鮮と二国間協議を行って経済協力などのツケだけを払わされるのではないかという懸念もあるという。

クリントン前民主党政権下で自国に有利な米朝交渉を勝ちとった北朝鮮は、再びオバマ政権からも有利な条件を引き出そうとチャンスを伺っているのだが、一方で、米国の対北朝鮮政策における李明博政権の影響力が増すことを恐れているという(中国朝鮮半島観測筋)。

北朝鮮が最近ミサイル発射に向けた動きを明らかにしているのも、こうした思惑のなかでの精一杯の揺さぶりと見ることができ、実際の発射にいたるかどうかも、アメリカの出方を伺いながらになるであろう。

実際、オバマ政権下の北朝鮮問題は「壊れたテープレコーダー」のように、クリントン政権時代と似た交渉をまた繰り返す可能性も高く、その場合の焦点はやはり軽水炉提供の行方である。
オバマ大統領の施政方針演説 [2009年02月25日(Wed)]
2月24日夜、オバマ大統領が議会上下両院合同会議で就任後初の施政方針演説を行った。

まず最初に、外交に比べて圧倒的に経済に関する内容が多いことが印象的だ。

本来、施政方針演説は経済だけをテーマにするものではないにも関わらず、これだけ経済に関する内容が多いのは、やはり国内経済に対するオバマ大統領の危機感の現れと見ることができる。

オバマ政権の最優先課題は「経済対策」ということを改めてアピールしたことになるだろう。

その内容については、合格点と言える良い演説だったと評価できるのではないか。

【良い点その1:経済政策のプライオリティ明確化】
まず、これから取り組む経済政策のプライオリティを明確にしている点が評価できる。

(1)演説の冒頭で、雇用対策や勤労者減税に言及して、庶民の生活に配慮していることをアピールし、

(2)次に金融システムの再生に取り組む姿勢を強調し、

(3)さらに将来の成長力向上につながる投資を約束した。

目新しい政策はないが、オバマ政権が取り組む経済政策のメニューが明確に示されたと言えよう。

【良い点その2:世論や議会の批判の芽を排除】
演説のなかでオバマは、これから足元の景気対策と長期的な財政赤字削減を両立させていくうえで、世論と議会から出てくるであろう不満や批判の芽を巧みに摘んでいる。

例えば金融再生について、オバマは、あえて「今銀行を助けるように見られることが、どれほど不人気であるかも承知している」を認めている。

その上で、「私はウォール街の重役たちの利益のために、1セントたりとも支出するつもりはない。ただ、私は、従業員の給与を支払えない小企業や、貯蓄しても住宅ローンを組めない家族を助けるためには、あらゆることをするつもりだ」と述べているが、これは議会からの批判を意識した内容だ。

【良い点その3:共和党も巻き込む雰囲気作り】
オバマが、演説のなかで共和党を攻撃するようなことはせず、むしろ政府と議会が一致して経済危機に挑む雰囲気作りに努めているのも印象的だ。

例えば、オバマは、財政再建において「民主党員であれ、共和党員であれ、この部屋にいるすべての人が、予算がないためにいくつかの価値ある優先課題を犠牲にしなければならない」と指摘し、超党派の取り組みを呼びかけている。

こうした超党派の雰囲気作りは、今後早期に予算を成立させ、関連法案を議会で通過させるためには、重要なことだ。

【良い点その4:将来に目を向けさせる未来志向】
演説の中でオバマは、「私の予算は米国のためのビジョンであり、我々の未来への青写真だと考える」と述べ、3年後、5年後、10年後を見据えた未来志向の政策を強調している。

5年後、10年後にアメリカは復活するというビジョンを示すことで、当面の景気低迷や予算切り詰めへの支持を得ようとしている現れだ。

アメリカ国民が、この演説をどう評価するのかは興味深いが、私の知人に聞く限りでは概ね評判は良いようである。


では、オバマ氏の演説によって、アメリカ経済が再生できると信じることができるか?

それは、オバマ政権の今後の行動にかかっているのは言うまでもない。

上述したとおり、この演説によって、オバマ政権が取り組むべき経済対策のメニューとプライオリティが明確に示された以上、あとは、これに従って実行に移せるかどうかである。
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