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オバマ大統領訪中に見る中国の期待と牽制 [2009年11月24日(火)]
11月15日から18日にかけて、オバマ米国大統領が中国を訪問した。オバマ大統領の中国訪問は1月の就任以来初めてであり、就任1年目に中国を公式訪問した初の米国大統領ともなった。

1.充実した滞在日程
まず15日に上海へ到着したオバマ大統領は、上海科学技術館で中国の青年たちを前に講演を行い、翌16日には兪正声・上海市共産党委員会書記と会談を行って、午後には北京へ移動した。北京首都国際空港では、習近平・国家副主席が出迎えたという。

北京に着いたオバマ大統領は、17日午前、胡錦涛・国家主席主催の歓迎式典に続いて公式会談を行い、会談後の共同記者会見で米中両国首脳は「米中共同声明」を発出した。その後も、オバマ大統領は北京で呉邦国・全人代常務委員会委員長や温家宝・国務院総理と会談したほか、故宮や万里の長城などの観光地も訪れるなど、実に充実した日程をこなした。

ジョン・ハンツマン(中国名:洪博培)駐中国米国大使が「中国は今回の歴訪で、特に重要な訪問国とみなされている」(2009年11月11日中国新聞社)と述べているとおり、4日間にわたる充実したオバマ大統領の中国訪問は、慌ただしく駆け抜けた日本訪問とは確かに対照的であった。


2.米中関係発展への期待
このオバマ大統領の中国訪問に先立ち、外交部の秦剛・報道官は、11月10日の定例記者会見で「オバマ大統領の訪中は中米関係の今後の発展にとって重要な意義を持つ」と、中国政府の期待を述べている。(2009年11月11日「人民網日本語版」)

この記者会見において、秦剛・報道官がオバマ大統領訪中に期待するものとして挙げたのは、(1)米中間の「積極的・協力的・包括的関係」構築の再確認と協力の具体化、(2)重大な国際問題に関する相互信頼の強化と協力の促進、(3)健全で安定した中米関係の発展促進であった。これに対してハンツマン駐中国米国大使も、同日、「オバマ大統領の訪中は間違いなく成功し、中米関係を新たな高度へと引き上げる」と記者団に語ったと、中国新聞社が伝えている。

また、オバマ大統領の中国訪問には、マーケットも大きな期待を寄せたようだ。大統領訪中を目前に控えた13日、中国株式市場では「オバマ関連株」が上昇したのである。「オバマ関連株」とは、オバマ大統領の中国訪問期間中に米中両国が達成したクリーンエネルギー分野での一連の合意により、利益を受けるとみられる銘柄を指す。低炭素技術、インテリジェント電力ネットワーク、再生可能資源の普及といった分野の関連銘柄が、今回のオバマ大統領の訪中により利益を受けると予想され、13日の市場では、これらの関連銘柄が相継いで上昇した。

実際、米中首脳が会談後に発表した共同声明は、戦略的相互信頼の構築と強化を強調するとともに、今後5年間に米中折半で1億5000万ドルを投じて「中米クリーンエネルギー共同研究センター」を両国に設置し、エネルギー効率の高い建築物、クリーン・コール、エコカーなどの研究に取り組むといった合意が盛り込まれた。中国側としても満足のいく内容と言えるだろう。


3.共同責任論への牽制
米中関係の発展に期待を示し、充実した日程でオバマ大統領を歓待した中国であるが、中国に国際的責任と負担を迫るアメリカへの牽制も忘れなかった。

胡錦濤国家主席との会見で「中国が国際舞台でさらに大きな役割を発揮することを歓迎する」と述べたオバマ大統領に対し、その翌日に会談した温家宝首相は「中米両国は世界に重要な影響を与える国。その中米関係が新たな段階に入ることを希望している」と述べる一方、国際問題を米中二国で取り仕切っていこうとする「G2」論は否定した。

その理由として、温家宝首相は、(1)中国は人口が非常に多い発展途上国で、国家の近代化への道のりは遠いこと、(2)中国は独立自主の外交政策を取り、どの国とも同盟関係は持たないこと、(3)国際問題は各国が共同で決めるべきで1、2カ国で決められないことを挙げたという(2009年11月19日「日本経済新聞」)。

経済発展に有利な国際環境を目指して全方位外交を進めている中国にとって、アメリカとの二強構造に向かうことは多くの国から反発を招きかねず不利であり、また、過度の負担を背負わされることも避けたい。そのため中国では従来からG2論を否定する専門家の声が聞かれたが、首脳レベルで直接これを否定したのは初めてだ。

また、共産党機関紙「人民日報」海外版の社説は、オバマ大統領が中国を発った18日こそ「新たな一歩を踏み出した中米関係」と今回の訪中を前向きに評価したが、実は前日の17日には、「オバマ大統領は訪問前のインタビューで、中国に「責任ある」大国になることを求めたが、我々も米国に「責任ある」大国になることを求める。」と牽制している。

この社説で人民日報海外版は、「米国が軽率に発動したイラク戦争が両国民と世界に与えた苦痛」や「ウォール街の無責任がもたらした世界的な経済・金融危機」といった表現でアメリカの責任を指摘したほか、「中国製タイヤに対する特別セーフガードや中国製鋼管への課税にせよ、中国製光沢紙やリン酸塩への反ダンピング調査にせよ、いずれも米国内の少数の利益集団のために両国関係の大局を犠牲にするものだ」と昨今のアメリカに見られる保護主義を痛烈に批判しているのだ。

前向きな期待と充実した歓待の一方で、批判と牽制を忘れないしたたかさ。この硬軟織り交ぜた外交に、日本も見習うところはないだろうか。

(東京財団HPより再掲)
米中戦略・経済対話―米中関係は「世界で最も重要」になったのか? [2009年07月31日(金)]
7月27、28日の両日、ワシントンDCで「第1回米中戦略・経済対話」が開催され、アメリカからはオバマ大統領の特別代表としてクリントン国務長官とガイトナー財務長官が、中国からは胡錦濤国家主席の特別代表として王岐山副総理と戴秉国国務委員が対話を主宰した。

27日の開会式には、オバマ大統領も出席し、「米中関係は世界中のどの2国間関係にも劣らず重要だ」と述べたという。これに対して、中国の胡錦濤国家主席も「世界で最も影響力のある国として、両国は人類の平和と発展に重要な責任を負っている」との声明を発表して応じている。

こうした米中の動きを受けて、日本国内では日本の頭越しに米中が歩み寄ることを懸念する報道が目立つ。たとえば日本経済新聞は、28日朝刊の一面で「両国が2国間だけでなく、世界規模の課題を広く話し合う『G2』の枠組み構築に動き出した」と評しているが、この「米中戦略・経済対話」は果たして本当にそれほど大騒ぎをすべきものなのだろうか?


1.初めてではない米中対話
実は、アメリカと中国は、ブッシュ政権時代から既に何度も「戦略対話」や「戦略経済対話」を重ねてきており、2005年8月から2008年12月までに6回の戦略対話、2006年12月から2008年12月までに5回の戦略経済対話が実施されている。出席者レベルについても、ブッシュ政権における戦略経済対話でも両国元首の特別代表が主宰する形で、中国からは今回と同じ王岐山副総理が、米国からは当時のポールソン財務長官が出席していた。

すなわち、今回の「米中戦略・経済対話」は、オバマ政権においては初めての米中間ハイレベル対話であるが、その実は、従来の「米中戦略経済対話」に「・」が加わった(正式には、中国語名称「中美戦略与経済対話」には「与」の字が、英語名称「The China-U.S. Strategic and Economic Dialogue」には「and」が付け足された)だけだと言っても過言ではない。

28日付け「人民網日本語版」は、こうした見方に対して、「(今回の)新たな対話メカニズムはこれまでの中米戦略対話と中米戦略経済対話を統合し、両国の協力を新たなレベルに引き上げるものだ」と反論しているが、ブッシュ政権時代の対話と今回の対話の間で実質的な変化を見出すのは難しい。


2.成熟した日米関係
ただし、見方を変えれば、こうした対話がアメリカの政権交代にかかわらず発展的に継続されているということは、アメリカが引き続き中国を重視している表れでもある。だからこそ、日本の頭越しに米中が歩み寄ることを懸念する向きがあるわけだ。

ただ、こうしたジャパン・パッシングの懸念について、筆者が6月にワシントンDCで聞き込んできた限りでは、アメリカ自身の思惑は違うようである。

国務省日本担当者は、この米中戦略・経済対話の開催について、「日米関係と米中関係を比較すると、日米関係は既に成熟しており、80年代や90年代のように摩擦が生じる状況ではないが、米中関係はこのレベルに達していない。したがって、米国が中国と(副首相クラスの)ハイレベル対話を実施し、日本とは(閣僚クラスの)下位レベルだからと言って、それで日本軽視というわけではない。」と日本側の懸念を笑い飛ばした。

日系人で初めての下院議員や閣僚としてアメリカ政界で長年活躍してきたノーマン・ミネタ氏も「日本は民主主義など多くの価値観をアメリカと共有しており、アメリカが信用する国である。一方、中国とは価値観を共有しておらず、信用できない。いくら中国の経済が急成長しているからと言って、米中関係が日米関係のようなレベルに発展することはないだろう。」との見方を筆者に語った。

また、共和党系シンクタンクの日本専門家は、より端的に「日米間に残された課題は多くない。ジャパン・パッシングとは、アメリカが日本を軽視しているのではなく、日米関係が安定している裏返しだ。」と述べていた。

クリントン国務長官が「日米同盟はアジア政策の要石」と持ち上げて、最初の外遊先として日本を訪れたり、オバマ大統領も日米首脳会談で「東アジアの安全保障の礎石」と日米同盟堅持をうったえて、ホワイトハウスに迎える最初の外国首脳として麻生総理を招いたりしたのは記憶に新しい。

「米中関係は世界中のどの2国間関係にも劣らず重要」であることは否定しないが、裏を返せば、アメリカにとっては中国も日本も同じように重要だと言えよう。オバマ政権の発足にあたって外交政策の政権移行チームはアジア重視を進言したといい、前出とは別の国務省日本担当者は「オバマ政権の日本重視の姿勢は、こうしたアジア重視の流れの中にある。国連安保理やG8など多くの国際会議においても、アメリカは日本の積極的な役割を頼りにしている。」と日本への期待を筆者に述べた。


3.中国も歓迎していないG2
米中のG2構想については、実は中国側でも政府に近い主流派の間ではあまり歓迎されていない。国内きっての国際政治学者として中国共産党の外交ブレーンとも言われる北京大学国際関係学院の王緝思院長は、「安定的な周辺環境のなかで調和のとれた発展を目指す中国にとっては、多くの国との互恵関係の構築こそ目指すべき方向だ」とG2構想に否定的だ。

同様に、中国社会科学院アメリカ研究所の黄平所長も、G2構想が日本、韓国、インドなど中国の周辺国に与える影響に鑑みて、「中国がアメリカとG2の形で世界の業務を取り仕切るという構想は検討に値しない」とする。黄平所長は、アメリカ、日本、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダからなるG7も既に時代遅れであるとして、「中国やインドなどの発展途上国を含むG20の枠組みにおいて、より重要な役割を演じ、グローバルな対話と協力を促進していかなければならない。」という考えを表明している(チャイナ・デイリー2009年3月19日)。

中国外交にとって米国が最も重要な外交相手であることは間違いないだろうが、王緝思院長は、「日本こそ中国にとって二番目に重要な国だ」と主張する。なぜ日本が米国に次いで重要なのか。端的に言えば、日本が中国にとって米国に次いで重要な(単体の)経済パートナー国だからである。加えて、日本には中国が学ぶべき点が数多く存在する。かつて中国は日本の高度成長に学んだ。いまや、成長スピードでは中国が日本を上回るようになったが、例えば、農業効率、環境保護、省エネ・新エネ、ガバナンス、公衆衛生、社会保障など多くの点で日本は世界最先端の技術やノウハウを有しており、「米国以上に学ぶべき点が多い」と王緝思院長は言う。


4.問題は日本自身の政治不安定
ただし、筆者が6月に北京とワシントンDC双方で意見交換をしてきたところでは、安倍政権以来日本の国内政治が安定しないことで対話の相手としての日本への信用が下がっているように感じた。

たとえば、ノーマン・ミネタ氏も「日本経済は不調だが、引き続き日米関係は重要だが、日本の国内政治が安定せず、首相がコロコロ変わることは、日米関係の安定にとっても悪影響だ。」との見方を示した。

前出の共和党系シンクタンクの日本専門家も、「ブッシュ政権は日本を重視していたが、日本の政治的停滞に嫌気がさしているムードがDCにある」と指摘したうえで、「今やアジアの中で中国というカードもあり、マルチの枠組みも利用できるので、日本が頼りにならなければ、そちらを使うことになる。日米安保も、他の手段が有効に働かない時の保険にすぎない。民主党政権になっても、日本の政治的停滞に変化がなければ、日米関係再重視の流れにはならないだろう。」と警告していた。

こうした海外からの声を聞くと、8月30日の総選挙後どんな政権が形成されるにせよ、安定的な政権であってほしいと望むばかりである。それは外交にとって重要であるばかりでなく、国内の生活対策を実施するためにも必要な条件ではないか。

(東京財団HPより再掲)
オバマ新政権、不安と期待つのる中国、やきもちやく日本 [2009年01月23日(金)]
世界中の注目を集めて就任したアメリカのオバマ新政権。

そのオバマ新政権について、中国の人々はどう見ているのであろうか。

「China bashing(中国たたき)」への不安

「アメリカ経済が未曾有の危機にあるなか、オバマ新大統領率いる民主党政権が保護主義的な貿易政策を採り、その矛先が最大の貿易赤字相手である中国に向くのではないかと心配している」

中国・吉林大学で北東アジア情勢を研究する知己の教授は、チャイナ・バッシングの可能性について率直な不安を筆者に語った。

振り返れば、単独主義的な外交政策で世界中の不評を買ったジョージ・W・ブッシュ大統領であったが、中国人にとっては「朋友」であった。

米国ロサンゼルスタイムズは、「多くの中国人はブッシュ政権の自由貿易政策を称賛しており、この政策は中国経済が過去8年間に繁栄を遂げる手助けとなった。ブッシュ政権が台湾の陳水扁前「総統」に対して加えた圧力も称賛している。また、ブッシュ大統領が北京オリンピックに出席したことはさらに多くの中国人を感動させた」と、ホワイトハウスを去りゆく前大統領への中国人の評価を報じている(ロサンゼルスタイムズ2009年1月15日)。

過去8年間ジョージ・W・ブッシュ大統領の下で米中関係が大きく発展しただけに、その揺り戻しがあるのではないかという不安が少なからぬ中国人のなかにあるようだ。

実際、オバマ新大統領は、不公正な取引慣行を取る国に対して是正の働きかけを強め、通商代表部を強化する方針を大統領選の公約にしていた。

選挙期間中に全米繊維団体協議会から受けた質問に対しても、「中国は、輸出よりも内需依存の経済成長に向けて、為替を含め政策を変更しなければならない。だからこそ私は、中国に変化を促すため、あらゆる外交手段を行使する」と書簡で回答している(ロイター2008年10月29日)。

そこに加えて、中国に対して厳しい批判を繰り返してきたヒラリー・クリントン氏が国務長官となり、日米安保の役割を「アジア・大平洋地域の安定維持」と再定義したジョセフ・ナイ教授が駐日大使に就いて中国に睨みを利かせることとなれば、「中国人として心地よいことではない」(前出の吉林大学教授)だろう。

さらなる米中関係発展への期待

しかし、未曾有の経済危機への対処とイラク・アフガン問題の適切な処理が急務のオバマ新政権にとって、その両者いずれの成功にとっても中国との関係強化は欠かせない

この点、中国にも冷静に見ている人間はいるようである。

中国共産党の情報筋は、「個人的見解ながら」と断りながら分析する。

「いまや中国の経済力と政治的影響力は日増しに増大しており、アメリカも中国を重視し関係を強化せざるをえまい。一方、日米同盟はアメリカのアジア戦略の要であり、オバマ新大統領もその重要性は十分認識していよう。畢竟、オバマ新政権のアジア政策は対中関係と対日関係のバランスを考慮したものとなる。」

こうした見方は、中国政府の公式見解にも見て取れる。

中国外交部の姜瑜報道官は1月15日の定例会見で、「中米両国は、人類の平和と発展という崇高な事業に対して共同責任を担っている。中国は、新たな時期における中米の建設的協力関係の長期的で健全な安定した発展を促進することを望んでいる。」と述べ、オバマ新政権下での米中関係のさらなる発展に期待を表している(人民網日本語版2009年1月16日)。

米中関係に「喫酢(やきもちをやく)」日本

翻って、日本ではどうか。

麻生太郎首相は1月21日、オバマ米新大統領の就任を受けて「手を携えて日米同盟を一層強化し、アジア太平洋地域と世界の平和と繁栄に向けて力を尽くしていきたい」との談話を発表したが、巷にはオバマ新政権が見せる対日・対中政策の一挙手一投足に一喜一憂する論調が多すぎはしないだろうか。

こうした日本の世論を皮肉って、前出の中国共産党情報筋は「アメリカの態度をいちいち心配する態度は、およそ独立国の態度ではなかろう。日本は中米関係に『やきもちをやく』必要は全くない」と持論をぶった。
オバマ新政権の「Japan flattering(日本おだて)」 [2009年01月22日(木)]
オバマ新政権の対日姿勢

「アメリカは平和と尊厳を求めるすべての国、男性、女性、子どもの友人である」。1月20日、バラク・オバマ氏は就任演説でこう述べて、第44代アメリカ大統領となった。

これに先立つ1月8日、ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授が駐日大使に指名されるという報道が日本でなされた(読売新聞2009年1月8日夕刊)。

ナイ教授といえば、価値観や文化なども国力の源泉とみなす「ソフトパワー」という概念を打ち立て、クリントン政権では国防次官補も務めたことで知られる日本でも有名な国際政治学者だ。

国防次官補時代の96年には日米安保のいわゆる「再定義」を担当し、ブッシュ政権でもアーミテージ元国務副長官とともに対日政策の戦略文書「アーミテージ・ナイ・リポート」をまとめるなど、これまでも日米関係に深くかかわってきた。

ナイ教授が報道どおりに駐日大使となるかどうかを現時点で予断するのは、「premature(時期尚早)」(日本の防衛当局者)と思われる。ただ、ナイ教授の起用が決まった場合、従来の駐日大使が大口献金者などに対する功労賞的ポストであったことからすれば、大物実力者の駐日大使誕生となる。

また、1月13日には、新国務長官に指名されたヒラリー・クリントン氏が、上院外交委員会の指名承認公聴会で、日米同盟について「アジア・太平洋地域の平和と繁栄維持のため不可欠で、米国の対アジア政策の礎」と発言した(読売新聞2009年1月14日)。

一方、中国に関して、ヒラリー・クリントン氏は、大統領選挙中に中国の貿易政策を厳しく批判しており、この日の公聴会でも、米中関係の今後については「中国が内外でどんな選択を行うか次第」と慎重な姿勢を示した(同上)。

オバマ新政権が見せるこれら一連の姿勢は、一見日本重視ともとれる。


「Japan flattering(日本おだて)」?

しかし、筆者は、オバマ新大統領が見せる一連の日本寄りの姿勢に別の含意を感じている。

そもそも、オバマ新大統領にとって当面最大の課題は、国内的には未曾有の経済危機への対処であり、外交的にはイラク・アフガン問題の適切な処理である。

その両者いずれの成功にとっても中国との関係強化は欠かせない

経済面で言えば、日米欧が今年軒並みマイナス成長すら懸念されるなか、中国だけは過去数年と比べて減速するとはいえ高成長を実現すると予想され、その巨大市場を如何に取り込むかがアメリカ経済にとっても重要である。また、中国から輸入する廉価な衣類や日常品も、不景気の時だからこそありがたみが増す。

現在の米中経済関係は、90年代のクリントン政権に激しいバッシングを受けた頃の日米経済関係とは構造が違うのである。

外交面で言えば、多国間主義に基づき国連や関係国と足並みそろえてイラク・アフガン問題はじめ国際社会の問題を切り抜けたいオバマ新大統領にとって、安保理常任理事国たる中国の協力は不可欠である。

オバマ新大統領が積極的な取り組み姿勢を見せている気候変動問題についても、アメリカとともに世界最大の温室効果ガス排出国たる中国の協力なくしては何も成し遂げられない。

しかし、ここでアメリカが軽々に中国との関係強化を推し進めれば、90年代にクリントン政権が見せた「Japan passing(日本はずし)」の再来を危惧する日本が過敏な反応をしかねない。

多国間主義を掲げるオバマ新大統領にとっては、中国とともに日本からの協力ももちろん必要である。拙速な対中関係強化を打ち出して日本の機嫌を損ね、織り込み済みの日本からの協力を得にくくすることは避けたいところだろう。

オバマ政権による「Japan passing(日本はずし)」を危惧する論調は日本国内に溢れており、こうした日本の状況はオバマ新大統領の対アジア政策スタッフにも届いているに違いない。賢明な彼らが、戦略的に日本への配慮を考えても何ら不思議はない。

したがって、オバマ新政権は、まず日本重視の姿勢を鮮明にし、日本を安心させることで、次の一手の対中関係強化の環境を整えようとしているのではないか。

ジョセフ・ナイ教授という有名人の駐日大使指名やヒラリー・クリントン氏のリップ・サービスも、こうした「Japan flattering(日本おだて)」の一環ではないかと筆者は見ている。

ただ、仮に「おだて」だとしても、「おだて」られているうちが花である。それを「おだて」だと知った上で、冷静に対応すればよいだけである。

巷にはオバマ新政権が見せる対日・対中政策の一挙手一投足に一喜一憂する論調が多すぎるように感じるが、日本は中米関係に「やきもちをやく」必要はないのだから、日中米のトライアングルのなかで堂々と自国の利益を主張していくことを政府に期待したい。
オバマ新大統領下の米中関係 [2008年11月22日(土)]
世界金融危機の本格化とアメリカ大統領選挙。今、世界中の政府関係者、経営者、ビジネスマン、エコノミスト、政治学者といった人々が、この2つの出来事が今後のアメリカ外交と国際政治経済に与える影響を注意深く観察していることだろう。その影響は、日本を含む東アジアにも当然及ぶものであるが、ここでは、特に米中関係の今後の動向について検討する。

1.世界金融危機とアメリカ大統領選挙
未曾有の金融危機とそれに続くアメリカの不況の影は、アメリカの大統領選挙と今後の外交政策の方向性を規定する最大の要因といえよう。

大統領選挙は、今年9月に民主・共和両党の党大会を修了した時点で、共和党のマケイン候補がややリードし、僅差での接戦が予想されていた。しかし、リーマン・ブラザーズの破綻をきっかけに本格化した世界金融危機の中で、経済政策が苦手で政策的立ち居地が不安定だったマケイン候補に対し、政策姿勢が終始安定し冷静な態度を崩さない振る舞いをみせたオバマ候補が支持を大きく伸ばした。

渡辺研究員は、「今回の危機ではアメリカ自身が世界の金融危機の発生源となっただけでなく、これらの世界規模での危機への対処においても十分なリーダーシップを発揮できず、かつ独力では対処できなかった。このことにより、世界の信任と尊敬を完全に失ったブッシュ政権への大きな「ノー」の反映が、オバマ候補の地すべり的勝利に繋がったのだ。」と分析する。

では、世界金融危機とオバマ新大統領の誕生は、米中関係の行方に如何なる影響を与えるのだろうか?

2.歴史から見た米中関係
そもそも米中関係においては、1972年のニクソン大統領訪中による米中関係正常化しかり、中国側の政策イニシアティブというより、アメリカ側の対中政策の影響を強く受けてきたという側面が強い。

ここで歴史を振り返ると、ニクソンによる米中関係正常化後、多くの歴代アメリカ大統領は、共和党か民主党かにかかわらず、就任直後は中国に対して強い姿勢をとる傾向が見て取れる。これは、「人権を蔑にする共産主義国家・中国」への強気な姿勢が、アメリカ国内で大衆の支持を得やすいためだと考えられる。

一方で、米中関係正常後のアメリカは少なからぬ政治経済上の利益を中国と共有するようになったため、これら各大統領も、就任後しばらくすると大衆迎合的な対中強硬政策を続けることが難しい現実に直面する。その結果、秋田浩之氏が著書「暗流」で指摘しているとおり、アメリカの歴代大統領は、就任後おおむね2年以内には対中政策を軟化させてきた。

(例)
カーター(民主):人権外交を掲げて77年1月就任
⇒78年12月、米中国交正常化を発表

レーガン(共和):親台湾派として81年1月就任
⇒ 82年8月、3つ目の米中共同声明を発表

クリントン(民主):中国の人権問題を非難して93年1月就任
⇒ 94年5月、人権問題と通商問題の切り離しを決定

ブッシュ(共和):中国を「戦略的競争国」としてライバル視して01年1月就任
⇒ 02年10月、江沢民をテキサス州の私邸に招待

逆にいえば、現職大統領は現実のしがらみのために大衆受けのよい対中強硬策を維持しにくいだけに、新たな大統領(候補)にとっては、前任者の政策を批判し、その違いをアピールするための材料として、強硬な対中政策が便利なのである。

現在アメリカの経済が不調であることから考えれば、来年1月に就任するオバマ次期大統領も、国内政治上の配慮から、廉価な工業製品を大量に輸出して大幅な対米貿易黒字を計上している中国に対して批判の矛先を向ける可能性は否定できない。

実際、オバマ氏は、不公正な取引慣行を取る国に対して是正の働きかけを強め、通商代表部を強化する方針を公約にしており、大統領選挙期間中に全米繊維団体協議会からの質問に回答した書簡のなかで、「中国は、輸出よりも内需依存の経済成長に向けて、為替を含め政策を変更しなければならない。だからこそ私は、中国に変化を促すため、あらゆる外交手段を行使する」との主張を展開している。

3.米中関係の現状と今後
しかし、私は、オバマ次期大統領は、むしろ歴代大統領の就任時と比較してより抑制的な対中政策を取るのではないかと予想している。

まずオバマ新大統領の外交方針について、渡辺恒雄研究員は前出のレポートの中で「多くの難しい課題に継続して取り組まざるを得ないオバマ政権は、関与政策を中心にした外交政策をとっていくことになるだろう」との見方を示している。

世界を巻き込む金融危機と実体経済の悪化、ならびにアメリカ内の経済と財政赤字の累積という状況が、オバマ候補に勝利をもたらした要素であると同時に、新政権が真っ先に取り組まざるを得ない課題であり、それこそが新政権の外交政策を穏健な現実主義とプラグマティズムに引っ張っていく環境を作り出すことになるだろう。

さらに、中国との関係についてより詳しく分析すれば、いまやアメリカにとって中国は、歴代いずれの大統領就任時と比較しても一層重要なパートナーとなっており、もはや強硬路線を取りうる余地は非常に少ない。

たとえば、ブッシュ大統領就任時の2001年には、日本が第3位(全体の7.9%)の輸出相手国であり、中国は9位(同2.6%)でしかなかったが、2007年には、中国がアメリカの第3位の輸出相手国(同5.6%。1位カナダ、2位メキシコ)となっている。輸入でも、2001年に中国は日本(同11.0%)に次ぐ第4位(同9.0%)にとどまっていたが、2007年ではアメリカにとって最大(同16.5%)の輸入相手国だ。いまや中国なくしてアメリカ経済は成り立たないのである。

また、外交的にも、北朝鮮の非核化にも中国の協力は必要であり、ここにきてロシアが強硬な態度に変化してきていることからも、アメリカが中国を味方につけておく戦略的な必要性が高まっていると言えよう。

ライス国務長官の言葉を借りれば、アメリカにとって中国は、「価値観は共有しないが、利益は共有する」大国であり、「アメリカと同様に特別な責任を負っている」重要なパートナーである(ライス国務長官、Rethinking the National Interest、Foreign Affairs7-8月号)。

したがって、オバマ次期大統領が、仮に歴代大統領と同様に中国に対して批判的な言動を取るとしても、それは対中強硬派のガス抜き程度で終わり、実際の対中政策は、穏健なものになると予想されるのである。先の全米繊維団体協議会への回答も、選挙民の感情を強く意識せざるをえない選挙中におけるリップサービスの域を出ないのではないか。

むしろオバマ候補は、選挙中に出した対中政策に関する文章のなかで「アメリカは中国との長期的かつ積極的な建設的な関係を築かなければならない。両国がいかに挑戦に対応し、また、どれほど共通点を見つけることができるかが、両国およびアジアないし世界ほかの国にとっても極めて大きな意義がある」と述べており、中国に対して協調的な政策を採っていくものと考えられる。

一方の中国も、オバマ次期大統領との間で米中関係を発展させたい考えだ。11月5日にオバマ候補当選が明らかになると、中国の指導者はその日のうちに祝電を打った。

胡錦涛国家主席は、祝電のなかで「(米中間の)建設的な協力関係を新しいレベルに引き上げ、両国民ないし世界各国の人民に利益をもたらしたい」と述べたとされる。また、温家宝首相も祝電を送り、「良好な中米関係は両国民が共に望んでいるもので、アジア太平洋地区ないし世界の平和、安定、繁栄を維持する上で必要である。双方の努力によって、建設的な協力関係は必ず新しい発展を遂げるだろう」との前向きなメッセージを発したという。

加えて、オバマ次期大統領と胡錦涛国家主席が11月8日に電話会談した際にも、胡錦涛国家主席は、「今後は両国のハイレベルまた各クラスの交流を維持し、戦略的対話を進め、各分野における協力を拡大し、重大な国際・地域問題などをめぐって協調性を強化するとともに、両国間の敏感な問題、特に台湾問題を適切に処理し、建設的な協力関係をさらに高いレベルへと引き上げていきたい」と述べたとされる。これに対して、オバマ次期大統領も「米中両国は発展に向けて多くのチャンスを有しており、協力を強化することで両国関係がさらに進展し、両国民に恩恵がもたらされるよう希望している」と前向きに応じている。

4.まとめ
以上の話を日本との関係を踏まえてまとめれば、オバマ次期大統領は、内外の情勢により多国間協力体制を志向すると考えられ、東アジアにおいては、ブッシュ政権の初期に見られたような日米同盟で中国に対峙していくという立場ではなく、またクリントン政権の初期に見られたような日本パッシングでもなく、日米中の多国間の協力体制で、北朝鮮などの地域の地政学リスクを管理(マネージ)しようと考える傾向にある。世界的な金融危機は、中国との経済協力の重要性を増し、ますますそのような傾向を高めていくことになろう。

ひるがえって、こうした国際政治経済情勢の流れの中で、日本はいかに立振舞うべきなのだろうか?その鍵は「自国の立場の明確な主張」という点にあるのではないかと私は考える。

アメリカも中国も協調的なマルチラテラリズム(多国間主義)のアプローチを重視する流れにあるからこそ、日本は自国にとっての利害を意識しつつ自らの立場を明確して、この流れに乗ることが重要であろう。言い換えれば、協調的な国際環境のなかで臆することなく自国の利益の最大化を図ることである。たとえば、北朝鮮の問題で言えば朝鮮半島の非核化と拉致被害者問題の解決の両立なくして北朝鮮への協調支援には参加しえないとの立場を堅持することであり、今後の国際金融システム改革の問題で言えば日本の経済規模に見合った発言権の確保を貪欲にでも追及することだ。

こう主張すると、「日本が自国の利益に固執すれば、米中協調の影に置いて行かれるだけではないか」と心配する向きがあるが、私はそうは思わない。北朝鮮の問題にせよ、国際金融危機の問題にせよ、日本の協力なくして米中だけで解決できる問題ではないのである。アメリカが必要とするのは中国だけではなく、中国が重視するのもアメリカだけではない。両国にとって日本との協調も劣らず不可欠であり、日本が自国の立場を堅持すれば、米中もこれを無視するわけにはいかないのが今の国際政治経済情勢である。

戦後長らく、日本の外交政策は、米中関係のディペンデント・バライアブル(従属変数)であった。いまや世界金融危機により国際政治経済情勢が変わりつつあるなか、これまでの国際政治経済を牽引してきたアメリカでは、オバマ候補がチェンジ(変革)を訴えて大統領選に勝利した。日本も、国際政治経済のなかで自らをディペンデント・バライアブル(従属変数)からインディペンデント・バライアブル(独立変数)へとチェンジする千載一遇のチャンスが来ていると私は考える。
アメリカ次期大統領の対中政策 [2008年08月26日(火)]
あるメディアから、アメリカ次期大統領の対中政策について取材を受けた。

私は、アメリカ次期大統領は、それがオバマであれマケインであれ、歴代大統領の就任時と比較して抑制的な対中政策を取るのではないかと予想している。

米中関係正常化後、多くの歴代アメリカ大統領は、共和党か民主党かにかかわらず、就任直後は中国に対して強い姿勢をとってきた。

カーター(民主):人権外交を掲げて77年就任
レーガン(共和):親台湾派として81年就任
クリントン(民主):中国の人権問題を非難して93年就任
ブッシュ(共和):中国を「戦略的競争国」としてライバル視して01年就任

たしかに、「人権を蔑にする共産主義国家・中国」への強気な姿勢は、アメリカ国内で大衆の支持を得やすい。

一方で、アメリカは少なからぬ政治経済上の利益を中国と共有しており、現役大統領は、大衆迎合的な政策は取りにくい。実際、上記の歴代大統領も、秋田浩之氏が著書「暗流」で指摘するように、就任後おおむね2年以内には対中政策を軟化させてきた。

それだけに、新たな大統領(候補)としては、前任者の政策を批判し、その違いをアピールするための材料として、強硬な対中政策は便利なのである。

現在アメリカの経済が不調であることから考えれば、来年1月に就任するアメリカ次期大統領も、国内政治上の配慮から、廉価な工業製品を大量に輸出して大幅な対米貿易黒字を計上している中国に対して批判の矛先を向ける可能性は否定できない。

しかし、いまやアメリカにとって中国は、歴代いずれの大統領就任時と比較しても一層重要なパートナーとなっており、もはや強硬路線を取りうる余地は非常に少ない。

たとえば、ブッシュ大統領就任時の2001年には、日本が第3位(全体の7.9%)の輸出相手国であり、中国は9位(同2.6%)でしかなかったが、2007年には、中国がアメリカの第3位の輸出相手国(同5.6%。1位カナダ、2位メキシコ)となっている。輸入でも、2001年に中国は日本(同11.0%)に次ぐ第4位(同9.0%)にとどまっていたが、2007年ではアメリカにとって最大(同16.5%)の輸入相手国だ。いまや中国なくしてアメリカ経済は成り立たないのである。

また、外交的にも、北朝鮮の非核化にも中国の協力は必要であり、ここにきてロシアが強硬な態度に変化してきていることからも、アメリカが中国を味方につけておく戦略的な必要性が高まっていると言えよう。

ライス国務長官の言葉を借りれば、アメリカにとって中国は、「価値観は共有しないが、利益は共有する」大国であり、「アメリカと同様に特別な責任を負っている」重要なパートナーである(ライス国務長官、Rethinking the National Interest、Foreign Affairs7-8月号)。

したがって、アメリカ次期大統領が、仮に歴代大統領と同様に中国に対して批判的な言動を取るとしても、それは議会の対中強硬派のガス抜き程度で終わり、実際の対中政策は、現政権の路線からいずれの方向にも大きくぶれることはないだろう。