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人民元切り上げ問題の展望と日本への影響 [2010年04月01日(木)]
「米国財務省からは一貫して人民元切り上げ要求を受けている」。3月下旬、食事を供にした中国の国際金融当局関係者は筆者にそう語り、「切り上げ幅について具体的な数字の提示こそないが、『2005年のような調整を再度行うべきだ』との要求を受けている」と述べた。

中国は、従来1ドル約8.3元に固定していた人民元レートを2005年7月から2008年7月まで緩やかに上昇させてきていたが、世界金融危機の顕在化のために現在は1ドル約6.8元で再び固定している。

「元の過小評価が米国の実業界や労働者に及ぼす経済的影響は非常に大きい」。3月15日、米国下院議員130名は、中国が人民元を切り上げないならば中国製品に輸入関税を課すよう求める書簡をガイトナー財務長官とロック商務長官に送った。書簡は、米財務省が4月15日に公表する報告書で中国を「為替操作国」として認定し、対抗策を講じることも求めている。

これに先立つ3月11日には、オバマ大統領も「中国が、より市場原理に沿った為替レートを目指せば、世界経済の不均衡解消に向けた努力に重要な貢献となる」と指摘している。米国が人民元の切り上げを強硬に要求する背景には、大統領の支持率低下や失業率の高止まりといった国内事情があるものと考えられる。

一方の中国は、2005年7月から2008年7月までに人民元が21%上昇したことで、温家宝総理が「人民元レートは過小評価ではない」と反論している。

そもそも現在の人民元レートが適正であるか否かにかかわらず、海外からの圧力に屈して切り上げを行うことは、中国国内の反発を招く恐れがある。人民銀行の周小川総裁も「中国も雇用創出という極めて困難な任務に直面している」として、「人民元切り上げを要求する(海外からの)雑音は、この問題の解決にとって何の役にも立たない」と述べている。


1.人民元の適正レートは
ピーターソン国際経済研究所のフレッド・バーグステン所長は、3月24日の下院歳入委員会の公聴会において、「人民元相場は米ドルに対して40%過小評価されている」と指摘した。

これは購買力平価で考えれば人民元の適正レートは40%程度過小評価されているということだろうが、購買力平価は長期的な為替の均衡水準を示す一つの考え方にすぎない。現在1ドル90円台にある日本円も購買力平価で言えば1ドル160円程度が適正レートとされるが、多くの資源エネルギーや食料を輸入に頼る日本にとって、本当にこれほどの円安水準が「適正」なのかは疑問である。

一方では、1995年から2005年までの10年間、中国は10%近い高成長を続けていたにもかかわらず、人民元レートを1米ドル=約8.3元に人為的に固定してきたことによって、実質実行レートでは10〜15%程度過小評価されていたという見方がある(清水2006)。2005年から21%上昇した現在の人民元レートは、この5年間の経済成長などを加味しても、決して過小評価されている訳ではないとも言える。

結局、適正レートを人為的に定めることは大変難しい。なぜなら、世界全体の長期的な均衡にとって適正なレートと、中国経済の短期的な安定にとって適正なレートとは、必ずしも一致しないからである。経済学でも為替の適正レート算出について従来から盛んに研究されてきているが、立場等の違いから複数の理論が存在している。

一つ言えることは、人民元レートを米ドルに対して人為的に固定しておくことは、世界的な貿易不均衡を招く可能性があるばかりでなく、名目為替レートが中国の国内均衡(完全雇用や低インフレ)を満たす均衡実質為替レートから乖離が進む可能性が高いということである。こうした状況を避けるためには、市場メカニズムによって自然に人民元レートが調整されるようにせねばなるまい。

したがって、今の人民元は急激な切り上げこそ必要としないにせよ、2008年7月以来米ドルに対して人民元レートを人為的に固定している政策をできる限り早く終了し、以前のように市場メカニズムを通じた緩やかな調整を許すような為替政策へ復帰することが中国の安定的発展にとって重要だ。

この点、中国も、人民銀行を中心に世界金融危機に対する緊急対応から脱し、人民元レートを再び柔軟化するタイミングを図っていると聞く。一時に大幅な切り上げが行われることはないにせよ、2005年7月のように静かに人民元レートを柔軟化させるのは時間の問題だろう。


2.日本への影響は
仮に人民元レートが上昇した場合、日本に影響を与えるルートは主に3つある。すなわち、(1)日本円レートに与える影響、(2)中国から日本への輸入に与える影響、(3)在中国日系企業から第三国(欧米)への輸出に与える影響の3つである。

このいずれのルートにおいても、2005年7月以来の人民元レート上昇が日本に与えた影響は、ほとんどなかったと言ってよかろう。

人民元レートの上昇が始まった頃は、経済的につながりの深い日本の円も、人民元相場の上昇につれて急激な円高になることが危惧されたが、こうした現象は実際には発生しなかった。

また、中国から日本への輸入や在中国日系企業から第三国(欧米)への輸出についても、人民元レートの上昇が大きな影響を与えることはなかった。輸出と輸入をトータルで見れば、人民元レート上昇の影響は相殺され、日本企業への影響はほとんどなかったと言える。

人民元切り上げを強硬に主張する米国と比較すると、日本では今のところ人民元切り上げを求める声は大きくない。その背景には、(1)米国が中国に対して巨額の貿易赤字を計上しているのに対し、日本は中国に対して貿易黒字を上げていること、(2)多くの日本企業が中国の工場から欧米市場に製品を輸出していることなどの理由が指摘できる。

ただし、日本においても、人民元レートを人為的に管理すべきでなく、できる限り市場の調整に委ねる方が好ましいという見方が支配的である。なぜなら、市場メカニズムを通じた人民元レートの適切な変動こそ、中長期的には世界全体の貿易不均衡や中国自身の安定的発展に有利だからである。例えば、野田佳彦財務副大臣も、3月15日の記者会見で、「基本的には人民元の柔軟化が世界経済、中国経済にとってもプラスと思う」と述べている。

米国が人民元の切り上げを強硬に要求する背景が、オバマ大統領の支持率低下や高失業率の継続といった国内事情である一方、中国が易々と米国の要求に応じることができない理由も主に国内事情である。

どこの国の外交政策や通商政策も、国内事情から独立ではいられない。この点においては、米国も、中国も、日本も、みな同様である。国内事情を背景に不合理な要求をしてくる相手国を罵るだけでは、問題解決はしない。重要なのは、お互いの国内事情を理解し合い、冷静な対話を通じて、相互に受け入れ可能な解決策を探る努力である。

「中国も、現状の経常黒字の積み上がりを決して快くは思っていない。できれば米国とは冷静に話し合いたいのであって、自国の国内事情を全て中国に押し付けるのはやめてもらいたい。」冒頭の中国国際金融当局者も、そう語っていた。


【参考文献】
清水聡(2006)「人民元の均衡実質為替レートの推計」『アジア経済』第47巻第11号、2-28
白井早百合(2004)『人民元と中国経済』日本経済新聞出版社


(東京財団HPより再掲)
鳩山首相「東アジア共同体構想」の背景と展望 [2009年10月26日(月)]
問1.鳩山首相の「東アジア共同体構想」について、その由来や詳しい内容を教えてください。

民主党政権は、アジア外交強化の方針を打ち出している。鳩山首相が提案している東アジア共同体も、アジア外交を強化する枠組みとして、民主党のマニフェスト(政権公約)に書き込まれたものだ。そのマニフェストによれば、(1)中国、韓国などアジア諸国との信頼関係強化、(2)通商金融、エネルギー、環境、災害救援、感染症対策の各分野における協力体制確立、(3)投資、労働、知的財産分野を含む経済連携協定(EPA)交渉の推進などが、民主党政権の進める東アジア共同体構築に向けた取り組みである。

東アジア共同体という概念そのものは、決して目新しいものではない。皆が知っているとおり、東アジア共同体構想は、90年代初にマレーシアのマハティール首相が提唱した東アジア経済グループ(East Asia Economic Group)が始まりである。

日本でも、自民党の小泉政権下において既に東アジア共同体の構築が長期目標として掲げられていた。早くも02年のASEAN首脳会議の際には、当時の小泉首相が共同体構築を呼びかけ、続く03年の日ASEAN特別首脳会議東京宣言においても将来の東アジア共同体構築に向けた決意が表明された。さらに、小泉首相は04年の国連総会でもASEAN+3の基礎の上に立った東アジア共同体の構築を提唱している。

民主党が東アジア共同体構築に向けた具体的取組として挙げている個別の内容についても、それぞれ従来から検討されてきたものばかりであり、取り立てて目新しいものはないと言ってよい。

むしろ鳩山首相は、マニフェストや一連の国際会議において東アジア共同体構築に言及することによって、自民党政権下で日本が進めてきてた方針を民主党政権も承継することを明確するとともに、その取り組みをさらに推し進める決意を示して小泉首相等の自民党政権との違いをアピールしようとしたものと解釈できる。

問2.東アジア共同体の実現可能性について、いかがお考えですか。

鳩山首相は、ASEAN首脳会議終了後の10月25日、記者団に対して「東アジア共同体構想は長期的なビジョンだ。5年や10年で簡単に実現できるという話ではない。一歩一歩積み重ねていく話だ。」と述べている。

つまり、東アジア共同体構想は、鳩山首相自身が明確に述べているとおり短期的な目標ではなく、長期的な理想にすぎない。したがって、その実現の可能性を議論するのは時期尚早であろう。

国際政治学の地域統合理論にspill overという概念がある。欧州において、戦後石炭共同管理などの実務的な協力の継続が、関係国間の信頼醸成に貢献し、やがて他分野へも波及(spill over)して協力を促進し、経済統合から統一安全保障や政治統合へと発展していくと唱える概念だ。

東アジアにおいても、自由貿易、金融、通貨、エネルギー、環境、災害救援等、東アジア各国自身のために協力が必要な分野が少なくない。分野によっては協力が容易な分野もあれば、難しい分野もあるが、実現可能な分野から一つ一つ協力を積み重ねていくことで、徐々に包括的な協力へとspill overしていくことが期待される。

少なくとも東アジアの「経済」共同体は、現在の国際情勢の前提を根底から覆すような大変動が発生しない限り、実務的な協力を長年積み重ねた先に自然と出来上がっていくであろう。実際、東アジアにおいては、97年のアジア金融危機への対応をきっかけに地域協力が進み、いまや自由貿易、金融、防災など多くの分野へとspill overが進んでいる。

問3.東アジア共同体は誰がイニシアティブを握るでしょうか。

東アジア共同体のイニシアティブについては、誰がイニシアティブを取る「べき」かという問題ではなく、誰がイニシアティブを取ることが「できる」かという問題だ。

東アジア共同体が具体的な実務協力の積み重ねの先にある以上、「べき」を議論するのではなく、「できる」ことから協力を進めていかなければ、共同体は実現しない。

したがって、中国でも、日本でも、ASEANでも、東アジアの地域協力を推進する意思と能力があるならば、誰がイニシアティブを取っても良かろう。誰かが主導する協力が地域各国にとっての利益になるならば、それが東アジア共同体に向けたイニシアティブとなる。

ただし、どこか一国が東アジア共同体に向けた全ての分野で協力を主導できるとは考えにくい。実際には、中国、日本、韓国、ASEANなどが、自由貿易、金融、安全保障など、それぞれの特徴を活かした分野でそれぞれ協力を主導していくこととなろう。言い換えれば、東アジア共同体は日中韓ASEANの共同イニシアティブで進めていくのが現実的であり、かつ実現可能性が高いと考える。

問4.東アジア共同体構想が第三国に与える影響については、どうお考えですか?

他の地域へ目を移すと、現在世界で起こっている動きの一つは、地域統合の競争である。東アジアに先行して地域協力が進んでいた欧州や北米では、90年代後半に協力の進展が鈍化したものの、東アジア地域協力の進展に刺激され、地域統合に向けた動きが加速した。

ここで我々が気をつけなくてはならないのは、こうした地域統合が相互に閉鎖的となってしまうことである。地域間で閉鎖的な統合が進み、相互に競争するようになれば、人類は20世紀前半に犯した世界大戦の過ちを繰り返すことになりかねない。

したがって、東アジア共同体に向けた様々な取り組みは、インド、ロシア、オーストラリアなどの周辺国との協力や欧州や米国との地域間協力の道を排除することなく、開放性と包容力を持って相互に開かれた関係の構築を目指し、実現可能な分野から一つ一つ協力を積み重ねていかねばなるまい。
羽田国際ハブ空港化問題−羽田を「アジアへの窓口」に [2009年10月14日(水)]
「(成田が国際線、羽田が国内線という)内際分離の原則を基本的に取っ払って、羽田の24時間国際空港化を徐々にめざす。」(日本経済新聞2009年10月13日夕刊)

10月12日、前原誠司国土交通相は、羽田空港の国際化を進め、航空網の拠点となる「ハブ空港」にする方針を表明した。

羽田空港の国際線は、現在アジアとのチャーター便に限られているが、来年10月の第4滑走路供用開始を契機に、昼間はアジア、深夜・早朝は欧米にそれぞれ定期便を飛ばす計画となっている。前原大臣の発言は、こうした「羽田空港の国際化」をさらに推し進める意向を示したものだ。

ただし、この前原構想の具体策は不明であり、その後の混乱した議論の解決も見えない。この点、筆者は、今月上旬に刊行した轟木一博氏との共著「航空機は誰が飛ばしているのか」(日本経済新聞出版社)のなかで、この羽田空港国際化問題について、空港運用の技術的な制約や日本の成長戦略などの視点から検討を行った。

本稿は、そこでの検討を踏まえ、羽田空港国際化問題について、「成田空港に就航しているアジア便の一部を羽田空港に移転させ、『日本の玄関・成田、アジアへの窓口・羽田』という新たな棲み分けの下で、首都圏空港全体の効率を向上させることを目指していくべき」との提言を行うものである。

1.羽田空港の発着枠は限られたリソース
「羽田空港の国際化」すなわち国際便の増加を望む声は多く、自民党時代の経済財政諮問会議や規制改革会議などでも国際線増加の必要性が議論されてきた。彼らに言わせれば、更なる国際便の増加が望まれるところであろう。

他方、地方の知事会等からは地方路線に優先的に配分するよう要望書も出されるなど、国内基幹空港としての羽田空港の役割を期待する声も大きい。各地方空港から羽田空港との直行便の就航の要望は大きく、既に就航しているところでも多頻度化の要望が多数寄せられている。

日本の国内航空ネットワークは羽田空港が支えている状況であり、その発着枠を単純に国際線に切り替えてしまえば、多くの地方空港の経営が成り立たなくなる。こうした状況に対して、願わくば羽田空港の発着枠をどんどん増やして国際便も国内便も増加させられればよいのであるが、現実はそれほど甘くはない。詳細な説明は、前出の拙著をお読みいただくとして、結論から述べれば、羽田の発着枠をさらに増加させることは空港運用の現実からして難しい。

すなわち、羽田空港の発着枠は限られたリソースであり、したがって「羽田空港の国際化」とは、日本の政治経済の中心地たる東京への近接アクセスという優良なリソースを、国内線と国際線との間で分けあわねばならないゼロサム・ゲームなのである。

したがって、「羽田空港の国際化」は、日本の航空インフラ全体を視野に入れて、羽田空港と成田空港との役割分担の見直し、関西国際空港や中部国際空港という他の国際空港の積極活用、全国の地方空港の開放などと一緒に考えなくてはならない問題なのである。羽田空港をどう活用するかは、単に東京近郊に住む住民や出張者に影響する問題ではない。

2.アジア便で活きる羽田の優位性
羽田空港と成田空港の間では、成田空港の建設経緯を背景に、これまで伝統的な内際分離策が原則として維持されてきた。すなわち、国内線は羽田空港、国際線は成田空港という棲み分けである。しかしながら、羽田空港再拡張事業を契機に国際定期便が就航することとされており、とりあえず昼間時間帯に3万回分の国際線の枠が用意されることとなる。

その増枠分について、首都圏の空の限られた容量をより効果的に利用する観点からは、アジア域内での近距離便を羽田空港に集中させるのが合理的だと筆者は考える。

10時間以上のフライト時間を要する欧米便に比べて、数時間のフライト時間で済むアジア諸国との路線については、羽田空港の最大のメリットである東京都心への近さが相対的に活きるからである。また、羽田空港には豊富な国内線ネットワークがあることから、羽田空港をハブにアジア諸国の主要空港と日本の地方空港とがスムーズにつながるようにもなる。

実際、2003年10月から羽田空港と韓国ソウルの金浦空港との間に国際旅客チャーター便が就航しており、例外的な取り組みとして羽田空港はアジアへの玄関として利用されつつある。最初は一日に4往復であったが、日韓両国のビジネス客にも観光客にも大変好評であったことから、今では一日8往復に倍増されている。

東京都心部から羽田空港までは30分から1時間、金浦空港からソウル中心部もやはり30分から1時間である。これが成田・仁川間のフライトを利用するとすれば、両国内の陸上移動だけでそれぞれ1時間ずつ合計2時間以上はロスすることになろう。東京・ソウル間のフライト時間が約2時間強であるから、このロスは相対的に言って大きい。

もし、羽田・金浦間のフライトなら、朝9時の大韓航空に乗ってソウルに向かい、ソウル市内でランチを食べ、午後をまるまる商談にでもショッピングにでも使い、さらに夕食を韓国で食べたとしても、20時半の大韓航空に乗って東京へ日帰りすることが可能となる。

金浦空港に加えて、今では中国上海の国内向け空港である虹橋空港と羽田空港の間にもチャーター便が就航しており、北京国際空港との間でも北京オリンピック時の臨時チャーター便の成功を踏まえてその定例化が実現した。

加えて、政府は、2010年の第四滑走路完成以後、東アジア各国・地域への国際定期便を1日当たり40便就航させる予定であり、金浦空港との間のフライトもチャーター便から定期便に引き上げるとしている。現在の羽田・金浦間のフライトは、チャーター便であるがゆえに乗客の預かり荷物以外は運べず、基本的に胴体部分の荷物置き場は空の状態で飛んでいるのだが、定期便となれば、このスペースに貨物を載せることも可能となる。また、チャーター便であるがゆえのチケット販売制限もなくなる。

さらに国際線を増加させようとすれば、国内線発着枠を国際線に当てる必要があることとなる。国内の地方空港が羽田空港との路線で何とか存続している事実を踏まえれば、その調整は簡単ではないと考えられるが、その第一の候補として考えられるのは、全国に新幹線網が整備と高速化が進むにつれて国内移動における航空路線と新幹線との代替性が高まってきている路線ではないかと考えられる。なにせ、日本国内の近距離移動は鉄道でも可能だが、島国の日本にとって国際的な移動は航空以外には選択肢がないのである。

羽田空港が東京エリアの住民・ビジネスマンからみてアクセスがよいという特性を有効に活用し、近距離のアジア地域との間でさらに密接なネットワークを構築するという目的の重要性を踏まえれば、例えば「新幹線を初めとする地上交通により3時間以内で東京にアクセスできる地点」などのルールを定め、順次国際線に代替していくということが考えられる。

3.成田と羽田の新たな棲み分け
羽田空港をアジアへの窓口として広く開放した場合、成田空港はどうなるのか?筆者としては、現在成田空港に就航しているアジア便の一部を羽田空港に移転させ、全体の需要を掘り起こした上で、「日本の玄関・成田、アジアへの窓口・羽田」という新たな棲み分けの下で、首都圏空港全体の効率を向上させることを目指していくべきだと考えている。

成田空港には、北京や上海などの中国各都市、バンコクやシンガポールなどの東南アジアのハブ空港、さらにインドやパキスタンなどの南アジアの主要空港など、現時点で年間約10万回のアジア便が発着している。

この10万回分のアジア便の多くを、発着枠の増大や国内線からの振り分けにより国際便の発着枠が新たに増える羽田空港で受け入れ、その都心への近接アクセスという優位性を発揮してもらう方が、限られた首都圏空港発着枠の有効活用としては望ましいのではないか。
さらに、羽田空港に就航するアジア便を増加させたとしても、成田空港に参入を求める国は全世界になお40国ほどあり、その重要性は低下するどころかむしろ引き続き非常に高いというべきであろう。

このような役割を成田空港に期待することとしたときに、取り組むべきことはなんであろうか?まず、発着容量の拡大はいうまでもない。既に、成田空港株式会社(NAA)が呼びかけ、周辺自治体との間で検討会を開催し、増枠の可能性の検討が始められている。そもそも成田空港は、飛行経路が全て陸地上空となることから騒音問題による発着容量の制限がある。

また、その設置に関する歴史的な経緯から空港内にも未買収地があり、滑走路と誘導路が近接していて、本来の容量を活かしきれていない。したがって、こうした点について、周辺住民等の理解が得られる方法により運航改善を行うことができれば、現在よりも発着容量を拡大する余地は残されている。

政府は、現在予定されている22万回の発着回数を30万回までは増加可能との目標を立てて検討が進めているが、本当に右の制限を撤廃することが可能となれば、管制運用の観点からみても現実的な数字であると考えられる。

既に述べているように、成田空港が全世界への窓口として機能した場合に、その恩恵は日本全体に及ぶのに対して、一定の範囲の住民が深刻な騒音影響を受け入れる必要に直面するという事実を忘れてはならず、そのような視点を持って、調整や対策を見守らなければならないが、個人的にはこのような取組みが結実することを期待している。

4.なぜアジアか
少子高齢化が進行する日本は、アジア諸国や新興経済国との経済一体化により成長を目指す道が避けられない。

2007年5月に政府がまとめた「アジア・ゲートウェイ構想」も、「アジアの成長と活力を日本に取り込み、新たな『創造と成長』を実現する」ための「重要な戦略インフラ」として羽田空港の国際化を打ち出していた。

たしかに周囲を海に囲まれている日本にとって、貿易や観光など国境を越えた経済活動を陸路で行うことはできず、特にヒトの移動においては、時間がかかる海路よりも、空路が圧倒的に重要である。

なかでも日本の政治経済の中心たる東京に位置する羽田空港は、その国際化を含む効率的な活用の成否が、経済集積の形成や地方経済の活性化など日本経済全体に関わると言える。

したがって、「羽田空港の国際化」の必要性は、単に羽田空港に国際便を何本飛ばすかという範囲の話ではなく、今後の日本経済の発展戦略の観点から、日本の航空インフラ全体を視野に入れて考えねばなるまい。

今後の少子高齢化・人口減少社会は、労働力人口と投資の減少を通じて経済成長にマイナスの影響を与えてしまう。

こうした少子高齢化・人口減少社会を迎え、我が国経済は長期的には低成長にとどまる一方で、東アジア経済は今後も力強い成長を続けていく見通しである。実は中国、NIES(韓国、台湾、香港、シンガポール)、ASEAN4(タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン)といった東アジアの国々も少子高齢化に直面しているのだが、中国などでは農村に1億人はいると言われる過剰労働人口を都市部へ移動させ有効活用することが可能であるし、まだまだインフラ整備の途上にあることから日本に比べて投資の限界効率が高いことから、その成長余地はなお大きい。

少子高齢化・人口減少に対処するため、少子化対策、技術革新、女性や高齢者の就労促進、社会保障改革など、政府が取り組まねばならない課題は多い。しかし、これら課題に全力で取り組んだとしても、それだけで少子高齢化・人口減少による低成長の圧力を完全に克服できるとは思えない。

したがって、もしも日本が今後も引き続き経済的繁栄を享受したいと望むのであれば、高成長によるマーケットの拡大と資本の蓄積を進める東アジアや新興経済国と日本との経済一体化を図る道は避けられないだろう。

羽田空港を「アジアへの窓口」とし、都心への近接アクセスという優位性を十分活かすことは、こうした日本の成長戦略から見ても必要だと筆者は考える。
日本こそG4構築を目指すべき [2009年10月05日(月)]
アメリカが、今後の国際経済を議論する枠組みとして、G4(アメリカ、EU、日本、中国)の構築を模索しているという。

その実現可能性や見通しは未だ不透明だが、筆者は、かねてから、日本こそG4の枠組みを積極的に目指していくべきものと考えていた。そうでなければ、国際経済の趨勢は、むしろ日本を除いたG3(アメリカ、EU、中国)で決められて行きかねないからだ。

1.米中G2論?
つい2か月ほど前の7月27、28日の両日、ワシントンDCで「第1回米中戦略・経済対話」が開催された際には、日本経済新聞が、朝刊の一面で「両国が2国間だけでなく、世界規模の課題を広く話し合う『G2』の枠組み構築に動き出した」と評していた。

しかしながら、実は、このG2論は、米中の主流派のなかでは真剣に取り扱われていない。

むしろ、オバマ政権の東アジア政策は、日本とも、中国とも、東南アジアとも、APECのような多国間枠組みも、使えるカードは全て使って、自国の戦略を遂行していくことが基本方針である。

一方の中国においても、米中G2構想については、一部の人にとっては大国としての自負心をくすぐる魅力的な構想だとしても、実は政府に近い主流派の間ではあまり歓迎されていない。

2.中国台頭は不可避
アメリカが「日本も、中国も、ASEANも、マルチも」というアプローチを取り、中国も全方位外交を進めている以上、日本も「アメリカ重視かアジア重視か」といった二者択一の外交方針を議論したり、他国に「日本を取るか中国を取るか」といった二社選択を迫ったりすることなく、「アメリカも、アジアも、EUも、マルチも」という方針の下で日本の国際課題解決に必要な協力を必要なところから引き出せる国際環境を構築する努力をすべきであろう。

過去四半世紀にわたって、世界第二の経済大国として世界経済をアメリカと共同統治し、東アジア地域の安定についても日米同盟に基づきアメリカとともに共同統治してきたと信じていた日本人がいるとすれば、その人たちにとっては、アメリカが日本だけでなく「日本も、中国も、ASEANも、マルチも」というアプローチを鮮明にしてきたことが、ジャパン・パッシングに見えたり、米中G2構想に見えたりするのかもしれない。

しかし、あくまでアメリカにとっても中国にとっても多くの国際課題の解決において日本の協力は不可欠だと考えているのであるから、日本も、アメリカや中国のどちらか一方に肩入れするのではなく、いずれとも冷静で良好な関係を維持したうえで、必要に応じてアメリカ、中国、さらにはASEANやEUなどの間で距離感を調整しながら、日本自身の利害を踏まえた協力や妥協を引き出していく戦略が今後は必要となろう。

中国の台頭は、日本が憂慮しようと反対しようと止められるものではない以上、それに応じて日本自身の対応を変化させていかねばなるまい。

3.日本こそG4構築を目指すべき
この点、私は、日本の外交が当面目指すべきは、アメリカ、中国、EU、そして日本のG4で国際経済を話し合う枠組みの構築だと考えている。

先日、ピッツバーグでG20サミットが開催された。昨年のリーマン・ショック以来、国際金融危機を話し合う枠組みとして、従来の中国などの新興国が含まれていないG8に変わって、このG20という枠組みが定着しつつある。

ただし、私もこれまで何度も多国間協議に出席したことがあるのだが、10カ国も20カ国も参加する大会議場では難しい協議はなかなかまとまらず、結局一部のコアメンバーの非公式協議によって大勢が決まることが多い。

G20も、今後国際経済のかじ取り役としてものを決めていくには参加国が多すぎる以上、コアメンバーができていかざるを得ない。

そのコアメンバーとして、アメリカは不可欠、欧州諸国はEUでまとまってもらうとして、為替にせよ通商交渉にせよ気候変動にせよ今後の国際経済でものを決めていくのに中国の意向は無視できまい。

ここで、もし「日本はアメリカに追従する」と各国に思われれば、今後の国際経済の趨勢はアメリカ、中国、EUの三者で決めていかれかねない。むしろ、その三者に日本を加えたG4という枠組みの構築を、日本が積極的に提唱していくべきではないかというのが私の考えだ。

日本政府のなかには、中国を加えると主導権を奪われるのではないかと心配する声があり、今のところG8への中国の参加を頑なに拒む方針を採っているが、日本が好むと好まざるとにかかわらず、また中国自身も必ずしも望んでいないにもかかわらず、今後の国際経済の枠組み作りに中国は入れていかざるをえない。

それにもかかわらず、日本が中国の参加を拒否していると、かえって日本を除いたアメリカ、中国、EUの三者で趨勢が決まりかねない。昨年末にまとまりかけたWTOのド−ハ・ラウンド交渉など、まさにこうした様相を呈してきている。

実は、G4の重要性を真剣に考えているグループも日本政府内には存在するので、今後は日本もG4作りに積極的に動いていくことを期待したい。

G20ロンドン金融サミットの評価 [2009年04月04日(土)]
4月3日にロンドンで開催された第二回G20金融サミット。サミット後の記者会見で、アメリカのオバマ大統領は「世界経済再建に向けた転換点」と評価し、「歴史的な会議」だったと述べた。

オバマ大統領の評価は誇張し過ぎかもしれないが、昨年12月に開催された前回の金融サミットに比べれば中身の充実した会議だったのではないだろうか。

1.危機再発防止に重点おいたコミュニケ
現在世界を襲う金融危機に対して、世界の首脳が行わなければならないことは大きく分けて二つある。一つは危機からの脱却であり、もう一つは危機の再発防止だ。

危機の最中にある我々は、将来のことを考える余裕がなく、ついつい危機脱却のための財政措置に注目しがちである。この点、各国は自国の経済を守るため、既に多額の財政措置を決定・実施している。

今、世界の主要経済国の首脳が一堂に会して議論すべきことは、各国が行う財政措置の規模ではなく、世界全体で取り組むべき危機の再発防止策である。再発防止策を準備することで金融システムの信頼回復につながり、最終的な危機からの脱却につながるとも言える。

こうした観点からロンドン金融サミットが発出したコミュニケを見てみると、財政措置については、たしかに5兆ドルという金額は各国が既に決定済みの金額を足し上げただけの数字であるが、今後世界が取り組むべき危機の再発防止策については、金融監督規制の強化や国際金融機関の強化などの分野で多くの具体的な計画が合意された。

今回の世界金融危機を招いた構造的な要因は、信用バブルの発生を許した「行き過ぎた金融自由化」にあると考えられる。特に、従来の制度では十分な規制の枠に入っていなかった投資銀行、ヘッジファンド、格付け機関に対して、適切な規制を加えることが必要だろう。

加えて、グローバル化した金融取引に対応する国際的な規制監視の枠組みを欠いたため、問題を世界規模に深刻化させる結果となった。また、世界の為替取引額が1日1兆8000億ドルにも上る現在、世界的な金融危機から小国を救済するには、2500億ドルという現行IMFの出資総額では少額にすぎる。

今回の首脳コミュニケでは、これらの問題への対応方針が盛り込まれている。これらは積極的に評価すべきものであろう。

2.ドル機軸体制への反省
さらに、今回の危機発生の直接原因ではないものの、アメリカ一国の経済金融状況が世界中に大きな影響を与えうる状況も反省されねばなるまい。

すなわち、今回の金融危機によって、特定国の通貨を基軸通貨とする国際経済システムは、その基軸通貨国の経済金融情勢から影響を受けやすく脆弱であることが改めて認識されたといえる。

この点、私はコミュニケにIMFのSDRの積極活用が盛り込まれたことに注目している。

SDRは、いわば世界共通通貨の卵のようなものである。かつて欧州において、ECUという共通通貨の卵からユーロという実際の共通通貨が生まれたように、SDRの積極活用によって、世界経済も将来的にはドル基軸通貨制から脱却していくことが可能となるかもしれない。

3.日米中欧がG20のコアメンバー
ただし、今回のコミュニケは対応策の計画と方向性が示しただけである。本当に世界が今回の危機を脱却し、危機の再発を防げるかは、この計画に従って各国政府や国際機関が実際に行動できるかどうかにかかっているのは言うまでもない。

国際社会における合意形成は、参加国が増えれば増えるほど困難になるものである。20カ国が参加する現在の金融サミットでは、全員そろって合意を形成するには大きすぎる。したがって、計画を実行していくにあたっては、強いリーダーシップが必要である。

この点、かつて第二次世界大戦後にブレトン・ウッズ体制の構築をリードしたアメリカは、既に相対的な力を落としており、新たな制度構築を単独でリードする力はもはやない。

私は、アメリカ、日本、中国、EUの四極体制がG20のコアメンバーとなって今後の世界経済を当面リードしていくものと見ている。したがって、コミュニケに示された計画がどこまで実行に移されるかは、これら日米中欧の四極がどこまで協調しあえるかにかかっているだろう。

一方で、我々がWTOのドーハ・ラウンドで目撃したとおり、新興国や発展途上国への配慮なくしては、今の国際社会で合意を形成するのは難しい。この点、今回のサミットの最大の勝者は誰かと問われれば、私は、新興国や発展途上国であると答える。

アメリカやイギリスは、確かに自分達の主張の一部を首脳コミュニケに盛り込むことに成功したかもしれないが、何か新しいメリットを得たわけではない。一方、新興国や発展途上国は、このサミットによって様々な支援を得られる可能性が高まり、世銀やIMFなどの国際機関における発言権の向上にも道が開いた。今回のサミットで一番得をしたのは、新興国や発展途上国である。

こうした新興国や発展途上国の立場を代弁する中国が果たした役割は非常に大きい。名目GDP世界第三位であり、世界最大の外貨と米国債の世界最大保有国であり、また現在唯一内需主導の力強い成長が可能な大市場である中国は、今回の金融サミットでも大きな影響力を有していた。

首脳コミュニケが新興国や発展途上国の立場を非常に重視した内容となったのも、彼らの立場を代弁する中国が影響力を発揮した結果であると考えられる。

アメリカ主導で構築された現在の国際金融経済体制を、より民主的で安定的なものに改革していくために、中国が果たすべき役割は重要である。しかし、中国だけでは国際金融経済体制を改革する力はなく、他のG20コアメンバーとの協力が必要である。特に、現状の国際金融経済体制の改革はアメリカの利益に反する場面が多いことからすれば、日本、中国、EUで協力して、アメリカを説得していかなければ改革は進まないだろう。

特に日本と中国は、いずれもアメリカへの輸出に大きく依存しており、世界最大規模の米国債を有するなど、お互いに共通の利害が少なくなく、実は協力しやすい土壌があると私は考えている。アメリカへの過度の依存を改め、より安定的な制度を作るためには、まず日中で協力し、そこにEUや他の主要経済国や発展途上国を巻き込んでいくのが良いのではないだろうか。
日本 戦後最大の衰退期に陥る [2009年03月11日(水)]
2月26日付の中国紙「参考消息」12面において、「日本 戦後最大の衰退期に陥る」というタイトルで筆者のインタビュー記事が掲載された。以下は、記事の日本語訳である。

「日本 戦後最大の衰退期に陥る―東京財団研究員 関山健 インタビュー」

中国紙「参考消息」(2月26日、12面)


(参考消息)日本政府公表の統計によれば、昨年第4四半期のGDPはマイナス12.7%だったそうだが、貴職にとって、このニュースは意外だったか、それとも予想の範囲内だったか?

(関山健)内閣府が2月16日に発表した08年第4四半期(10〜12月)の国内総生産(GDP)速報によると、物価変動の影響を除いた実質GDP(季節調整済み)は前期比3.3%減、年率換算では12.7%減と急激な落ち込みとなった。

日本では、08年第2四半期の実質GDPが3.6%減、第3四半期が2.3%減と、08年はマイナス成長が続いており、第4四半期もマイナス成長が予想された。

民間調査機関も軒並み大幅マイナス成長を予想していたが、その直前予測平均値は11.8%減であり、実際の堕ち幅がここまで大幅なものになったのには、正直驚きを隠せない。

(参考消息)与謝野馨・経済財政担当大臣は、今回の危機を「ちょっと蜂に刺されたようなもの」だと言っていたが、最近では戦後最大の危機に直面していると発言している。また、少なからぬメディアも、今回の危機は「過去35年で最大の縮小」と報じている。現在の日本経済の衰退の程度について、貴職はどう見ているか。

(関山健)日本は、欧米が被害を受けた「信用バブル崩壊」という金融危機の第一波からの影響は比較的軽微だった。しかし、昨年9月のリーマンブラザーズ破綻以来、世界同時不況が急速に深刻化するなか、日本の国内企業の輸出や生産が、かつてないスピードで減少した結果、戦後未曾有の景気後退に直面することとなった。

実質GDPが年率換算で2ケタのマイナスとなるのは、第1次石油危機の影響を受けた74年第1四半期(1〜3月)の13.1%減以来、戦後2度目だ。

また、統計が存在する1955年以降、実質GDPが3四半期連続でマイナスとなったのは、バブル景気崩壊後の1993年とITバブル崩壊後の2001に2度あるだけであり、09年第1四半期も回復の目処が立たないことから、このままいけば戦後最長のマイナス成長となる可能性もある。

(参考消息)金融危機震源地の米国や欧州などは、統計データを見る限り、経済の落ち込みは日本ほど深刻でないようであるが、日本の経済収縮は欧米のレベルを超えていると言うことができるのか?

(関山健)08年第4四半期の実質GDP年率成長率は、米国が3.8%減と27年ぶりの低水準、欧州も1999年のユーロ圏設立以来最悪の5.7%減であった。

しかし、日本の12.7%減という落ち込みは米欧をはるかに上回っており、現時点において日本は欧米を更に上回る速度で経済収縮が進んでいると言わざるをえない。

近年の日本経済はアメリカや欧州を最終市場とする輸出に大きく依存していた。しかし、そのアメリカと欧州の双方が同時に景気後退に見舞われた結果、欧米向けの輸出減少はもちろん、同様に欧米向け輸出を前提とした中国・アジア向けの輸出も減少し、さらに、輸出減少によって国内企業も大幅な減産に見舞われた。

域内・国内の需要主導で成長してきた欧米以上に日本の景気後退が深刻なのは、日本が近年欧米を最終市場する輸出に大きく依存していた反動なのである。

08年第4四半期の実質GDP内訳では、輸出は13.9%減となり、その減少幅は1975年第1四半期の9.7%減を上回り過去最大であった。輸出から輸入を差し引いた外需は成長率を3.0%分押し下げ、戦後最大級の落ち込みであった。

輸出の減少により大規模な減産を余儀なくされた国内企業は設備投資を減少させ、08年第4四半期の設備投資は5.3%減となった。さらに、国内企業の不調により雇用情勢が悪化した結果、消費者心理が一段と冷え込み、自動車などの高額品を中心に買い控えの動きが広がった。08年第4四半期の個人消費は0・4%減と2期ぶりのマイナスとなった。

(参考消息)他の先進国と比較して、日本経済には強みも弱みもあろうが、日本経済が比較的脆弱な点はどこか?

(関山健)日本経済の弱点といえば、資源エネルギーが国内に乏しく、輸入に頼らざるをえないことである。さらに近年においては、経済成長の輸出依存が高いことも問題である。

06年のデータによれば、日本の輸出依存度は14.8%で、これを下回る主要国はアメリカの7.9%だけであり、G7平均の22%や中国の36.6%よりも低位にある。

しかし、日本は名目GDPが殆ど増えない中で輸出依存度が上昇している一方、他の国々はGDPが安定的に増えつつ輸出がそれを上回って伸びる形で依存度が上がっている。すなわち、日本経済全体の外需依存が決して高くないものの、個人消費などの内需が伸び悩む中、輸出増で辛うじて経済成長している状態が続いていたのである。

近年の日本経済にとっては、資源エネルギーと需要という二つの不足を国内に抱え、それを海外に依存しなければならないことが弱点であると言えよう。

(参考消息)現在の状況に直面して、日本の発展モデルに疑義は生じているか?改革は必要だろうか?今後、日本政府はいかなる措置を取るべきだと考えるか?貴職は、日本が景気の谷を抜けるのにどの程度の時間がかかると考えるか?

(関山健)短期的に見れば、日本経済の回復には、やはり輸出の回復が必要であり、欧米諸国の景気回復を待たねばならない。

アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)は、アメリカ経済が09年後半に徐々に回復を始め、10年は2.5〜3.3%、11年は3.8〜5.0%の成長を実現すると予想している。もし、このFRBの予想どおりにアメリカ経済が回復するとすれば、日本経済もこれに伴って少しずつ持ち直していくだろう。

しかし長期的に見れば、やはり日本経済は外需依存の成長から内需主導の成長へと転換するために、各種改革が必要である。例えば、少子高齢化による労働力人口の減少を補うために、女性、高齢者、外国人などが、これまで以上に日本の労働力市場で活躍できるように規制緩和や支援をすべきであると考える。

(参考消息)多くの中国人は、日本の経済収縮とその中国への影響を心配している。貴職は、その中国への影響をどのように見ているか?主にどの方面で影響が出るだろうか?

(関山健)日本の景気後退の中国への影響としては、日本の中国製品輸入の減少と、日本の対中投資の減少が懸念される。

日本財務省の貿易統計によれば、日本の中国からの輸入は2008年11月に対前年同期比12.0%減、12月に同12.4%減と2ヶ月連続でマイナスとなった。

輸入品目別に見ると、餃子問題によって日本市場での信頼が落ちた食料品のみならず、原料品、鉱物性燃料、化学製品、鉄鋼・非鉄金属、一般機械、電気機器など、広範な分野において輸入が減少している。

日本の対中投資について、中国商務部の統計によれば、2005年が65.30ドル、2006年が47.59ドル、2007年が35.89ドルと毎年大幅減額が続いたあと、2008年は36.52ドルと下げ止まったが、数年前の水準は未だ回復していない。輸出減少により日本企業の収益が急速に悪化しており、対外投資の余力がなくなれば、2009年の対中投資は更に落ち込む可能性も否定できない。

(参考消息)足元の中国経済も困難に直面しているが、貴職は、中国も日本のような厳しい経済収縮に見舞われると考えるか?中国の経済発展にとって参考となる日本の経験や教訓はあるか?

(関山健)堅調な内需によって底堅い成長が可能な中国は、当面、日本のような経済収縮を経験することはないだろう。

しかし、中国でも資源エネルギーや輸出依存が高まりつつあることは注意が必要である。

こうした傾向が続けば、中国も将来的には外部ショックに弱い経済構造となってしまう。中国が日本の経験に学ぶならば、少しでも資源エネルギーの外部依存を下げるように省エネを推進したり、内需の大部分を占める個人消費を振興するために社会保障を充実したりすることが必要となるだろう。
金融危機の「第二波」、中国が注目する日本の対応 [2009年02月05日(木)]
欧州では最近、局地的な金融危機が世界規模の経済危機へと発展する「金融危機の第二波」を心配する声があがっているという。

これを受けて、中国でも「金融危機の第二波」を巡る議論は活発だ。

こうした「金融危機の第二波」と日本の対応について、先日、中国紙「参考消息」のインタビューを受け、2月5日の紙面で「世界を襲う金融危機第二波、一足先に衝撃受ける日本」というコメント記事が掲載された。

以下は、その時のインタビュー概要である。

(インタビュワー)
世界金融危機の「第二波」から日本はいかなる影響を受けていると見ているか。

(小職) 
世界金融危機の「第一波」から日本が受けた影響は欧米に比べれば軽微であるが、その「第二波」の影響は非常に大きい。

「第二波」の影響の大きさは最近の統計にも表れており、08年9ー12月のGDPは対前年同期比でマイナス10%以上の減速となるだろう。

日本が金融危機の「第二波」から受けている影響には、「外国人投資家の資金回収」、「サブプライムローン関連商品の価格下落」、「輸出の減退」という三つのルートがある。その結果は、「金融機関の自己資本毀損」、「企業の資金繰り悪化」という形で実体経済に影響を与えている。

近年日本では、外国人投資家が株式や不動産の相場を引っ張り、欧米を最終消費地とする輸出が経済成長を下支えしてきた。しかし、欧米の投資銀行や投資ファンド等が資金を引き揚げた結果、日本でも株式や不動産が暴落することとなった。これに各種金融商品の価格下落が重なって、日本の金融機関では、自己資本の時価評価が毀損している。

製造業にとっては、輸出の不振により売り上げが減少するなか、金融機関からの融資も受けにくい環境にあることから、資金繰りが極めて厳しい。多くの中小企業は破綻の縁にある。特に、大多数の日本企業が決算期を迎える年度末(3月末)は、決算のために企業の資金需要が高まる時期であり、この時期を日本企業が無事に乗り切ることができるかは、今後の日本経済にとって大きな鍵となる。

日本政府による一連の経済政策も、これら「金融機関の自己資本毀損」と「企業の資金繰り悪化」に対応したものだ。
 
「金融機関の自己資本毀損」に対して、日本は「金融機能強化法」を制定し、今回の危機による影響が比較的大きい地方金融機関や政府系金融機関に資本注入を行えるように制度を準備した。さらに、銀行が保有する株式を日本銀行が買い取る方針を決めたのも、金融機関の自己資本確保を支援するためである。

また、「企業の資金繰り悪化」に対しては、日本銀行が企業の資金繰り対策として社債の引き受けを行うこととしている。さらに、政府系金融機関の日本政策投資銀行が一時的な事業不振により赤字に陥った企業に資本注入する方針を決めている。


(インタビュワー)
歴史的(例えば1997年アジア金融危機のとき)な経験や教訓の両面から、日本の対策は中国にとって参考にできる点はあるのか。

(小職)
現在は、国際的な流動性不足という金融危機と、世界同時不況という経済危機が同時に発生している状態にある。

世界同時不況の際には、内需主導の成長を実現し、不況に苦しむ外国企業にビジネスチャンスを与えることが最大の国際貢献である。

第二次大戦後の歴史を振り返ると、世界同時不況の経験としては、1973年および1979年の石油危機が思い出される。

石油を中東からの輸入に頼っていた日本も1973年の第一次石油危機から大きな影響を受けたが、(1)競争力を失った分野から成長分野に資源を振り向ける「積極的調整政策」、(2)新規採用の停止、残業時間の短縮などの雇用調整、(3) 官民挙げた省エネ対策などを行った結果、諸外国に先駆けて不況を脱出し、1979年の第二次石油危機の影響も比較的軽微であった。

今年、IMFの予測によれば日米欧が軒並みマイナス成長が危惧されるが、中国だけは依然底堅い高成長を遂げだろう。

石油危機当時の日本は、主要国の中で比較的早く不況を脱出したものの外国企業に対して閉鎖的であったと批判されることもある。中国には、ぜひ自国の成長市場を海外にも開いて、世界経済の牽引役をなることを期待したい。

次に、国際的な流動性不足の状態にあっては、国家間の資金融通が国際金融システムの安定に役立つ。

日本は、1997年のアジア通貨危機後に、東アジア地域で外貨融通のネットワーク「チェンマイ・イニシアティブ(CMI)」構築を牽引した。そのネットワークには中国も入っている。

現在の危機に際して、日本は中国や他のアジア諸国とともに、このCMI強化を進めようとしている。中国は、いまや日本を抜いて世界最大の外貨準備保有国であることから、地域の通貨安定のために従来以上に積極的な協力を期待したい。

(インタビュワー)
今回の金融危機に臨む日本の対策の効果をどう評価するのか。中国の参考になるようなことはあるのか。

(小職)
日本は、今回の金融危機に際して、

(1)IMFに対する1000億ドルの融資
(2)途上国銀行資本増強ファンドの設立提案と20億ドルの出融資
(3)チェンマイ・イニシアティブの強化

など、様々な国際協力策を表明している。

これらは、欧米の金融危機が世界中の中小国へ伝播することを防ぐための対策として評価してもよいだろう。

ただし、一部欧米諸国の金融危機は既に世界中に伝播し、世界各国で深刻な景気後退を招いているのが現状である。

この状況に至っては、むしろ必要とされるのは世界経済を牽引するような力強い経済成長である。

麻生総理も、先日のダボス会議で「世界第2位の日本経済が活力を取り戻すことが、何よりも日本の責務」との考えを表明している。

そのために、日本は総額75兆円(約8400億ドル)に上る景気対策を表明しており、うち財政措置が12兆円(約1350億ドル)、金融措置が63兆円(約7050億ドル)だという。

12兆円の財政措置は日本のGDPの約2%に相当する額であり、米国の同1.1%、英国の同1.4%、欧州の同1.5%と比較しても更に大きな景気対策であると言うことができる。

ただし、現在の日本には成長を支える力強い内需は存在せず、こうした景気対策も「焼け石に水」で、09年の日本経済がマイナス成長となることは避けがたい。

この点、世界のなかで唯一中国だけは09年も底堅い高成長を実現できる可能性が高い。世界同時不況のために輸出の伸びが期待できないため、07年の13%ほど高成長はしないだろうが、8%成長は十分に可能だと私は見ている。

繰り返しとなるが、中国には、ぜひ自国の成長市場を海外にも開いて、世界経済の牽引役をなることを期待したい。