中国の安保理イラン制裁決議支持をどう見るか
[2010年07月12日(月)]
去る6月9日、国連安保理は、国際社会の非難に耳をかさずウラン濃縮活動を続けるイランに対し、制裁決議を採択した。アメリカが主導したこの制裁決議採択、当初は消極的だった中国とロシアが最終的には支持した結果、賛成多数での可決となった。
なぜ中国とロシアは、当初の消極姿勢から制裁決議支持へと回ったのであろうか。本稿では、特に中国に注目して、その思惑を考察する。
1.中国外交のキーワード
中国は、「現代化建設」、「祖国統一」、「世界平和と共同発展」を国家の三大任務としており、なかでも「国家の根本任務」として憲法前文にも謳われている「現代化建設」こそ、現在の中国にとって最上位の国家目標となっている。
「現代化建設」とは、突き詰めれば経済発展の追求であり、経済発展による国力の増強があってはじめて、「祖国統一」や「世界平和と共同発展」もなしうるという発想だ。
外交安保政策も、この最上位の国家目標たる「現代化建設」に寄与すべきものとして、自国の経済発展に有利な「和諧世界」(各国が平和裏に共同繁栄する国際環境)作りを目標としている。
具体的には、平和共存五原則(主権と領土保全の相互尊重、相互不可侵、相互内政不干渉、平等互恵、平和共存)の基礎の上に、あらゆる国と友好協力を発展させることを外交政策の基本としている。
ところが、この「あらゆる国と友好協力を発展」するという全方位外交は、言うのは容易いが行うのは難しい。
なぜなら、こちらの顔を立てればあちらが立たないという人間社会の道理が、外交の世界にも当てはまるからだ。
90年代までの中国のように国際社会からある程度距離を置いた存在であれば、一部の国の非難や圧力を意に介せず、世界中と薄く広い「全方位外交」を進めることもできただろう。
しかし、今や国際社会の相互依存の網の目の中にいる中国にとっては、市場国たる欧米との関係、近隣周辺諸国との関係、資源提供国たる途上国との関係など、こちらの顔もあちらの顔も立てねばならない。
こうした八方美人のバランス外交こそ、現在の中国外交を理解するうえでのキーワードである。自国の経済発展に邁進するためには、敵を作っている暇はなく、全方位のバランスを取っていかねばならないということだ。
2.緊密な中国イラン関係
この点、中国は、イランとも近年急速に関係を深めてきている。
かつてイランにとっては日本が最大の貿易相手国であったが、2006年には、中国が日本を抜いてトップに立った。投資の面でも中国は積極的であり、2007年にはシノペック社がイランのヤダバラン油田へ20億ドルの投資契約を締結している。
イラン制裁を強めるアメリカの意向に沿って、2006年に日本がイランのアザデガン油田への出資比率を大幅に引き下げたのとは極めて対照的である。
中国がイランとの関係を深めているのは、言わずもがなイランの石油資源を狙ってのことである。急速な経済発展に伴いエネルギー需要が急増している中国にとって、石油と天然ガスに恵まれたイランは大変重要な資源供給国だ。
日本や欧米がイランから手を引いてくれているうちに、「全方位外交」の中国がイランで石油の確保に走っている構図である。実際、今や中国にとって、イランはサウジアラビアに次ぐ第2位の石油輸入相手国だ。
一方、欧米諸国の経済制裁下にあるイランにとっても、中国は大事なパートナーだ。イランは、原子炉関連品、電気機器、自動車などを中国から輸入している一方、多額の石油を中国に輸出して大幅な貿易黒字を稼がせてもらっている。その貿易黒字額は、2009年には54億ドル、2008年には116億ドルにも上る(中国商務部統計)。
中国の対イラン貿易概要(2009)(単位:億ドル)
輸出
総額 79.2
原子炉関連 18.2
電気機器 11.2
自動車等 9.5
自動車等部品 7.1
スチール製品 5.6
輸入
総額 132.9
鉱物燃料等 105.7
鉱砂等 8.2
有機化学品 8.2
プラスチック 6.3
銅 1.6
出所)中国海関統計HP
そもそも中国とイランとはシルクロードで結ばれた長い交流の歴史がある。
イランのアフマディネジャド大統領も、中国に送った春節(旧正月)のメッセージの中で「中国とイランは古代文明国であり、文化も近い。中国の人々と中国政府に特別の祝福を送りたい」と中国との友好関係を強調したうえで、「中国とイランは共通の脅威にさらされている。一部の強権国家は中国が世界的な影響力を持つ大国化することを望んでいない。我々はそのようなやり方に断固反対し、中国を全力で支持する。なぜなら我々には共通のビジョン、信念、利益があり、共通の敵がいるからだ」と、アメリカという「共通の敵」に対する一致団結した抵抗を呼びかけている(『鳳凰網』2010年2月17日)。
こうした緊密な関係を背景に中国も、イランの核問題について5月末の時点では「外交努力により対話と交渉のプロセスを維持促進し、関係各方面の歩み寄りによる全面的で永続的な解決を望む」と外交交渉による平和的解決を主張していた(2010年5月27日中国外交部発表)。
ところが、その僅か2週間後には中国も安保理イラン制裁決議の賛成に回ったのである。これは一体どうしてであろうか。
3.無視しえぬ対米配慮
ここに、現在の中国外交のキーワードたる「バランス外交」の難しさが伺える。すなわち、イランとの関係が大事だからと言って、イラン制裁を強く主張するアメリカなどからの働きかけを無視し続けて、外交交渉による解決ばかりを主張している訳にもいかないのである。
いまや中国にとってアメリカの重要性は言を俟たない。貿易額で言えば、アメリカとの貿易額は2008年で3337億ドルに達し、今や中国にとって最大の貿易相手国である。イランが重要だと言っても、2008年の貿易額は278億ドルにすぎず、アメリカとの貿易額には足元にも及ばない。
中国の主要貿易相手国(2008) (単位:億ドル)
1 アメリカ 3337
2 日本 2667
3 香港 2036
4 韓国 1861
5 台湾 1292
6 ドイツ 1150
7 豪州 597
8 ロシア 569
9 マレーシア 536
10 シンガポール 525
・・・
23 イラン 278
出所)『中国統計年鑑2009』
貿易関係に限らず、中国にとってアメリカとの良好な関係は、自国の国家目標達成に有利な国際環境作りに必要不可欠である。先に触れた中国三大任務の一つ「祖国統一」、すなわち台湾問題についても鍵を握るのはアメリカである。
また、アジア太平洋からインド洋さらに中東まで、中国のシーレーンで制海権を握っているのもアメリカである。加えて、ダライ・ラマ問題、人権問題、人民元問題など、米中間には中国にとって触れられたくない問題が少なくない。こうした敏感な問題をアメリカに持ち出されれば、中国政府としては愛国的傾向を強めている国内世論との板挟みにも遭う。
ところが、年初以来、米中間ではぎくしゃくした関係が続いていた。オバマ政権は、グーグル問題に絡めた表現自由制限への批判、台湾への武器輸出、ダライ・ラマとの会見、人民元切り上げ要求など、年明け以来矢継ぎ早に中国に耳障りの良くない言動を繰り返していた。
4.中国が支持に回った理由
以上のような背景を踏まえて、中国が安保理でイラン制裁決議の賛成に回った理由を考えてみると、以下の3点に要約できよう。
(1)対米関係の重視
まず、中国が安保理でイラン制裁決議の賛成に回った第一の理由が、制裁決議を主導したアメリカとの関係を考えてのことであるのは当然だ。
中国としは、4月13日の核安保サミットへオバマ大統領の招きに応じて胡錦濤主席が出席したことにより、年初来続いていた米国とのいざこざをやっと手打ちにしたばかりであった。イラン制裁問題でアメリカとの関係をもう一度こじらせるような事態は努めて避けたいところであったろう。
一方、イラン制裁を急ぐアメリカとしては、安保理で拒否権を持つ中国の協力が是非とも欲しいところだ。人民元切り上げ要求問題などでアメリカとのいざこざの火種がなおくすぶっている中、中国にしてみれば、イラン制裁決議でアメリカとの対立を深めるよりは、むしろアメリカへ貸しを作っておくほうが得策だろう。
(2)骨抜きの制裁決議
ただし、いくら対米関係が重要だからと言って、全方位外交を進める中国としては、イランを見捨てるようなことはできない。
中国が安保理でイラン制裁決議の賛成に回った第二の理由として、制裁決議の中身を骨抜きにすることに成功し、イランに対する制裁の実効性が薄まったことが挙げられよう。
資産凍結などの制裁対象には、革命防衛隊傘下15団体や国営海運会社傘下の3団体が含まれ、個人ではイラン原子力エネルギー機構のイスファハン原子力技術研究所長が指定されるなど、核・弾道ミサイルの開発にかかわる組織、企業、個人の活動に打撃を与えることが意図された。
しかし、米国が当初示した制裁対象リストからは、対中貿易に密接に絡む「イラン輸出開発銀行」は除かれたという(『読売新聞』WEB版2010年6月9日)。ほかにも、米国が望んだ石油製品やガスの禁輸など、イラン経済に打撃を与えるエネルギー部門は制裁対象から外されている。
こうした骨抜きの制裁決議案だからこそ、中国も賛成に回れたのだと考えられる。
(3)強固な中国イラン関係
第三に、制裁決議を支持したところで、強固な中国イラン関係の大局には影響がないことを指摘できる。
中国も国際社会のなかでバランスを取らねばならぬことはイランも理解しよう。むしろ、難しいバランスの中で中国やロシアは、アメリカ主導の強硬な制裁決議を骨抜きにするために尽力したのであり、この点はイランからすれば感謝に値するものと思われる。
安保理の場で最終的に制裁決議の支持に回ったからと言って、中国が対イラン政策に根本的な変更を加えるわけではない。制裁決議採択翌日の6月10日、中国イラン関係への影響を問われた中国外交部報道官は、「イラン核問題の処理において中国は、イランを含む関係各方面と緊密で良好なコミュニケーションを維持してきており、今後とも同様に継続していくつもりだ。中国はイランとの関係を重視していることを強調しておきたい」(中国外交部HP2010年6月10日)と、対イラン政策に変更のない考えを示している。
そもそも欧米諸国がイランへの経済制裁を強めれば、イランは中国への依存度を一層深めざるをえないのであって、中国にとっては決して悪いことではない。骨抜きの経済制裁の下で中国は、日本や欧米が去ったイランにおいて、石油を中心とする経済権益をさらに拡大することだろう。
5.おわりに
ところで、難しいバランス外交を必要とするのは中国ばかりでなく、本来は日本もイランとアメリカの間で慎重なバランス外交を展開すべき立場であろう。もともとイランは日本にとって重要な石油供給国なのであり、2005年まではイランにとって最大の貿易相手国であった。
ところが、イラン制裁を強めるアメリカの意向に沿って自らイランとの関係を細らせてきている。この点中国は、一方でアメリカに貸しを作りつつ、他方でイランとの関係も発展させるという一挙両得を実現しており、そのコントラストは鮮明だ。
対米追従でも独立外交でもないバランス外交を日本にも期待したい。
(東京財団HPより転載)
なぜ中国とロシアは、当初の消極姿勢から制裁決議支持へと回ったのであろうか。本稿では、特に中国に注目して、その思惑を考察する。
1.中国外交のキーワード
中国は、「現代化建設」、「祖国統一」、「世界平和と共同発展」を国家の三大任務としており、なかでも「国家の根本任務」として憲法前文にも謳われている「現代化建設」こそ、現在の中国にとって最上位の国家目標となっている。
「現代化建設」とは、突き詰めれば経済発展の追求であり、経済発展による国力の増強があってはじめて、「祖国統一」や「世界平和と共同発展」もなしうるという発想だ。
外交安保政策も、この最上位の国家目標たる「現代化建設」に寄与すべきものとして、自国の経済発展に有利な「和諧世界」(各国が平和裏に共同繁栄する国際環境)作りを目標としている。
具体的には、平和共存五原則(主権と領土保全の相互尊重、相互不可侵、相互内政不干渉、平等互恵、平和共存)の基礎の上に、あらゆる国と友好協力を発展させることを外交政策の基本としている。
ところが、この「あらゆる国と友好協力を発展」するという全方位外交は、言うのは容易いが行うのは難しい。
なぜなら、こちらの顔を立てればあちらが立たないという人間社会の道理が、外交の世界にも当てはまるからだ。
90年代までの中国のように国際社会からある程度距離を置いた存在であれば、一部の国の非難や圧力を意に介せず、世界中と薄く広い「全方位外交」を進めることもできただろう。
しかし、今や国際社会の相互依存の網の目の中にいる中国にとっては、市場国たる欧米との関係、近隣周辺諸国との関係、資源提供国たる途上国との関係など、こちらの顔もあちらの顔も立てねばならない。
こうした八方美人のバランス外交こそ、現在の中国外交を理解するうえでのキーワードである。自国の経済発展に邁進するためには、敵を作っている暇はなく、全方位のバランスを取っていかねばならないということだ。
2.緊密な中国イラン関係
この点、中国は、イランとも近年急速に関係を深めてきている。
かつてイランにとっては日本が最大の貿易相手国であったが、2006年には、中国が日本を抜いてトップに立った。投資の面でも中国は積極的であり、2007年にはシノペック社がイランのヤダバラン油田へ20億ドルの投資契約を締結している。
イラン制裁を強めるアメリカの意向に沿って、2006年に日本がイランのアザデガン油田への出資比率を大幅に引き下げたのとは極めて対照的である。
中国がイランとの関係を深めているのは、言わずもがなイランの石油資源を狙ってのことである。急速な経済発展に伴いエネルギー需要が急増している中国にとって、石油と天然ガスに恵まれたイランは大変重要な資源供給国だ。
日本や欧米がイランから手を引いてくれているうちに、「全方位外交」の中国がイランで石油の確保に走っている構図である。実際、今や中国にとって、イランはサウジアラビアに次ぐ第2位の石油輸入相手国だ。
一方、欧米諸国の経済制裁下にあるイランにとっても、中国は大事なパートナーだ。イランは、原子炉関連品、電気機器、自動車などを中国から輸入している一方、多額の石油を中国に輸出して大幅な貿易黒字を稼がせてもらっている。その貿易黒字額は、2009年には54億ドル、2008年には116億ドルにも上る(中国商務部統計)。
中国の対イラン貿易概要(2009)(単位:億ドル)
輸出
総額 79.2
原子炉関連 18.2
電気機器 11.2
自動車等 9.5
自動車等部品 7.1
スチール製品 5.6
輸入
総額 132.9
鉱物燃料等 105.7
鉱砂等 8.2
有機化学品 8.2
プラスチック 6.3
銅 1.6
出所)中国海関統計HP
そもそも中国とイランとはシルクロードで結ばれた長い交流の歴史がある。
イランのアフマディネジャド大統領も、中国に送った春節(旧正月)のメッセージの中で「中国とイランは古代文明国であり、文化も近い。中国の人々と中国政府に特別の祝福を送りたい」と中国との友好関係を強調したうえで、「中国とイランは共通の脅威にさらされている。一部の強権国家は中国が世界的な影響力を持つ大国化することを望んでいない。我々はそのようなやり方に断固反対し、中国を全力で支持する。なぜなら我々には共通のビジョン、信念、利益があり、共通の敵がいるからだ」と、アメリカという「共通の敵」に対する一致団結した抵抗を呼びかけている(『鳳凰網』2010年2月17日)。
こうした緊密な関係を背景に中国も、イランの核問題について5月末の時点では「外交努力により対話と交渉のプロセスを維持促進し、関係各方面の歩み寄りによる全面的で永続的な解決を望む」と外交交渉による平和的解決を主張していた(2010年5月27日中国外交部発表)。
ところが、その僅か2週間後には中国も安保理イラン制裁決議の賛成に回ったのである。これは一体どうしてであろうか。
3.無視しえぬ対米配慮
ここに、現在の中国外交のキーワードたる「バランス外交」の難しさが伺える。すなわち、イランとの関係が大事だからと言って、イラン制裁を強く主張するアメリカなどからの働きかけを無視し続けて、外交交渉による解決ばかりを主張している訳にもいかないのである。
いまや中国にとってアメリカの重要性は言を俟たない。貿易額で言えば、アメリカとの貿易額は2008年で3337億ドルに達し、今や中国にとって最大の貿易相手国である。イランが重要だと言っても、2008年の貿易額は278億ドルにすぎず、アメリカとの貿易額には足元にも及ばない。
中国の主要貿易相手国(2008) (単位:億ドル)
1 アメリカ 3337
2 日本 2667
3 香港 2036
4 韓国 1861
5 台湾 1292
6 ドイツ 1150
7 豪州 597
8 ロシア 569
9 マレーシア 536
10 シンガポール 525
・・・
23 イラン 278
出所)『中国統計年鑑2009』
貿易関係に限らず、中国にとってアメリカとの良好な関係は、自国の国家目標達成に有利な国際環境作りに必要不可欠である。先に触れた中国三大任務の一つ「祖国統一」、すなわち台湾問題についても鍵を握るのはアメリカである。
また、アジア太平洋からインド洋さらに中東まで、中国のシーレーンで制海権を握っているのもアメリカである。加えて、ダライ・ラマ問題、人権問題、人民元問題など、米中間には中国にとって触れられたくない問題が少なくない。こうした敏感な問題をアメリカに持ち出されれば、中国政府としては愛国的傾向を強めている国内世論との板挟みにも遭う。
ところが、年初以来、米中間ではぎくしゃくした関係が続いていた。オバマ政権は、グーグル問題に絡めた表現自由制限への批判、台湾への武器輸出、ダライ・ラマとの会見、人民元切り上げ要求など、年明け以来矢継ぎ早に中国に耳障りの良くない言動を繰り返していた。
4.中国が支持に回った理由
以上のような背景を踏まえて、中国が安保理でイラン制裁決議の賛成に回った理由を考えてみると、以下の3点に要約できよう。
(1)対米関係の重視
まず、中国が安保理でイラン制裁決議の賛成に回った第一の理由が、制裁決議を主導したアメリカとの関係を考えてのことであるのは当然だ。
中国としは、4月13日の核安保サミットへオバマ大統領の招きに応じて胡錦濤主席が出席したことにより、年初来続いていた米国とのいざこざをやっと手打ちにしたばかりであった。イラン制裁問題でアメリカとの関係をもう一度こじらせるような事態は努めて避けたいところであったろう。
一方、イラン制裁を急ぐアメリカとしては、安保理で拒否権を持つ中国の協力が是非とも欲しいところだ。人民元切り上げ要求問題などでアメリカとのいざこざの火種がなおくすぶっている中、中国にしてみれば、イラン制裁決議でアメリカとの対立を深めるよりは、むしろアメリカへ貸しを作っておくほうが得策だろう。
(2)骨抜きの制裁決議
ただし、いくら対米関係が重要だからと言って、全方位外交を進める中国としては、イランを見捨てるようなことはできない。
中国が安保理でイラン制裁決議の賛成に回った第二の理由として、制裁決議の中身を骨抜きにすることに成功し、イランに対する制裁の実効性が薄まったことが挙げられよう。
資産凍結などの制裁対象には、革命防衛隊傘下15団体や国営海運会社傘下の3団体が含まれ、個人ではイラン原子力エネルギー機構のイスファハン原子力技術研究所長が指定されるなど、核・弾道ミサイルの開発にかかわる組織、企業、個人の活動に打撃を与えることが意図された。
しかし、米国が当初示した制裁対象リストからは、対中貿易に密接に絡む「イラン輸出開発銀行」は除かれたという(『読売新聞』WEB版2010年6月9日)。ほかにも、米国が望んだ石油製品やガスの禁輸など、イラン経済に打撃を与えるエネルギー部門は制裁対象から外されている。
こうした骨抜きの制裁決議案だからこそ、中国も賛成に回れたのだと考えられる。
(3)強固な中国イラン関係
第三に、制裁決議を支持したところで、強固な中国イラン関係の大局には影響がないことを指摘できる。
中国も国際社会のなかでバランスを取らねばならぬことはイランも理解しよう。むしろ、難しいバランスの中で中国やロシアは、アメリカ主導の強硬な制裁決議を骨抜きにするために尽力したのであり、この点はイランからすれば感謝に値するものと思われる。
安保理の場で最終的に制裁決議の支持に回ったからと言って、中国が対イラン政策に根本的な変更を加えるわけではない。制裁決議採択翌日の6月10日、中国イラン関係への影響を問われた中国外交部報道官は、「イラン核問題の処理において中国は、イランを含む関係各方面と緊密で良好なコミュニケーションを維持してきており、今後とも同様に継続していくつもりだ。中国はイランとの関係を重視していることを強調しておきたい」(中国外交部HP2010年6月10日)と、対イラン政策に変更のない考えを示している。
そもそも欧米諸国がイランへの経済制裁を強めれば、イランは中国への依存度を一層深めざるをえないのであって、中国にとっては決して悪いことではない。骨抜きの経済制裁の下で中国は、日本や欧米が去ったイランにおいて、石油を中心とする経済権益をさらに拡大することだろう。
5.おわりに
ところで、難しいバランス外交を必要とするのは中国ばかりでなく、本来は日本もイランとアメリカの間で慎重なバランス外交を展開すべき立場であろう。もともとイランは日本にとって重要な石油供給国なのであり、2005年まではイランにとって最大の貿易相手国であった。
ところが、イラン制裁を強めるアメリカの意向に沿って自らイランとの関係を細らせてきている。この点中国は、一方でアメリカに貸しを作りつつ、他方でイランとの関係も発展させるという一挙両得を実現しており、そのコントラストは鮮明だ。
対米追従でも独立外交でもないバランス外交を日本にも期待したい。
(東京財団HPより転載)



