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中国環境政策の特徴 ー廃棄物リサイクルの日中比較― [2013年12月25日(Wed)]
中国は、循環経済の構築を目指し、中国版家電リサイクル法ともいうべき廃棄電器電子製品回収処理管理条例(Regulation on the Disposal of Waste Electrical and Electronic Equipment)を制定するなど、日本などの先進国と比較しても遜色のない内容の廃棄物リサイクルの法規制整備を進めているように表面上は見える。

その意味において、中国では廃棄物リサイクル規制の国際的な調和が見られるとも言える。

中国における廃棄物リサイクル規制の国際的調和が事実ならば、多くのリサイクル技術を有する日本や他の先進国にとっては、一層のビジネスチャンスや国際協力の可能性をもたすことになろう。

そのため、中国のリサイクル政策の現状については国際的な関心が寄せられており、ここ数年少なからぬ研究が蓄積されてきている(神鋼リサーチ、2003;メタル経済研究所、2004;イー・アンド・ソリューションズ、2005;アジア経済研究所、2007;JFEテクノリサーチ、2009;高偉俊、高永志、2011;小島、2012など)。その多くは、中国における廃棄物リサイクルの目覚ましい進展を報告するものである。

しかし、一人当たりGDPの水準で見れば中進国の水準にやっと追い付いてきたばかりの中国において、本当に先進国並みの廃棄物リサイクル規制が進んできているのであろうか。経済社会の発展段階という点から見た場合、我々は中国の廃棄物リサイクル規制の現状をどのように評価しうるのであろうか。

本稿では、こうした問題意識を背景に、中国の廃棄物リサイクル規制の現状を日本の経験と比較することを通じて、その評価を行うことにしたい。

以下では、まず第1節において、日本と中国について、経済社会の発展と廃棄物リサイクルの進展の相関関係について検討する。

その結果、「中国は、経済社会の発展水準が十分でないことから、廃棄物排出量の増大による環境負荷への対策が日本などに比べれば進んでいないのではないか」との仮説が直観的に得られる。

続く第2節から第4節においては、この仮説を検証するべく、日中の廃棄物リサイクル規制の展開を確認したうえで、その比較から中国の廃棄物リサイクル規制の特徴を探る。

中国の廃棄物リサイクル規制は、未だ包括性や総合性という点で不十分な面を残しており、日本などの先進国並みの規制となっているとは必ずしも言えない。

また、中国の廃棄物リサイクルは、廃棄物排出量のリデュースによる環境負荷の低減を第一の目的とするものではなく、むしろ経済発展のための資源の有効利用を目指したリユースやリサイクルが中心である。

中国には、日本の廃棄物リサイクルの歴史と関連技術に学ぶことを期待する。また、日本には、中国の廃棄物リサイクルの発展を官民連携して助けることで、国際貢献と経済利益の両立を実現してもらいたい。

第1節 日中の経済発展と廃棄物リサイクル

(1)環境クズネッツ曲線

先進国と発展途上国の環境負荷を比較する際にしばしば用いられる考え方に、環境クズネッツ曲線仮説というのがある。

環境クズネッツ曲線とは、縦軸に何らかの環境負荷指標、横軸に国民所得水準をとったとき、ある所得水準までは右上がりの関係が認められるが、ある転換点を超えると右下がりの関係になるというものである(Selden and Song, 1994; Grossman and Krueger, 1995; Cole et al., 1997)。

環境クズネッツ曲線は、SO2排出量などに関する実証的な研究から経験的に得られた仮説であり、そもそもその存在に疑問を抱く経済学者もいる(Arrow et al, 1995など)。また、なぜそのような曲線を描くのかも十分には解明されてはいない。

ただし、先行研究では、所得水準の向上に伴い上級財である環境に対する需要が高まることや、環境保全のための投資を促すような制度が構築されることなどが、環境クズネッツ曲線仮説を支持する背景要因として指摘されている(Andreoni,J.and A.Levinson, 2001など)。

廃棄物排出量については、国民所得水準の向上に伴い増大する傾向が一般的に見られるため、環境クズネッツ曲線仮説は成り立たないようにも思える。しかし、各国で廃棄物リサイクルが進んできている状況を考えると、環境負荷として問題なのは廃棄物全体の量では必ずしもなく、むしろ再利用されずに処理される廃棄物の量だろう。

(2)日中の一人あたり不再利用産業廃棄物排出量

ここでは、経済社会の発展と廃棄物リサイクルの進展について日中比較を行うために、再利用されずに処理される産業廃棄物の一人当たり排出量と一人当たりGDP(購買力平価ベース)との相関関係について検討する。

一般廃棄物ではなく、産業廃棄物を検討対象とするのは、日本と中国の双方において、産業廃棄物の方が比較的長期の統計が利用可能だからである。

経済社会の発展に伴う所得水準の向上を比較する指標としては、購買力平価ベースのGDPを用いた。また、排出量やGDPについて、人口規模が大きく異なる日中間で国際比較を行うために、総量ではなく一人当たり値で比較する。

再利用されずに処理される産業廃棄物の一人当たり排出量を縦軸に、一人当たりGDP(購買力平価ベース)を横軸にとってみる。

日本では1990年以前の産業廃棄物排出量について入手可能な統計がないため図では完全な逆U字カーブとはならないが、一人当たりGDPが約2万5000ドルに達したあたりから明らかな右下がりへと転じている。時期的に言えば、日本がこの転換点を経験したのは1990年代中頃のことである。

 一方、一人当たりGDP(購買力平価ベース)が未だ1万ドルに満たない中国では、経済社会の発展に伴い急速に一人当たり不再利用産業廃棄物排出量が増大しており、図のとおり反転の気配は見られない。

(3)仮説

この事からは、日本と中国の廃棄物リサイクル規制について、二つの仮説が直観的に得られよう。

まず日本については、経済社会の発展に伴い、廃棄物排出量の増大による環境負荷への懸念が高まり、その対策が進められた結果、一人当たり不再利用廃棄物排出量が減少してきているのではないかという仮説である。

一方、中国については、経済社会の発展水準が十分でないことから、廃棄物排出量の増大による環境負荷への対策が日本など先進国に比べれば進んでいないのではないかという仮説である。
 

以下では、この二つの仮説を検証すべく、日本と中国における廃棄物リサイクル規制の実際の進展状況を確認することにしたい。

第2節 日本の廃棄物リサイクル規制の展開

日本では、1960年代になると、経済の高度成長に伴う人口の都市集中と産業活動の発展によって、廃棄物の質の多様化と量の加速度的な増加が生じた。こうした状況において、1970年に制定されたのが廃棄物処理法(Waste Management and Public Cleansing Law)である。

同法は、廃棄物の排出抑制や適正処理などを通じて、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的としており、そのために国民、事業者、国、地方公共団体が負うべき責務や、廃棄物処理のルール等について定めたものである。

その後も1970年代から1980年代を通じて、経済活動のさらなる活発化や国民のライフスタイルの変化などに伴い、廃棄物の発生量は増加を続け、その種類も多様化していった。

一方で、廃棄物処理施設の確保はますます困難となり、また、廃棄物の増大が環境を損なうおそれについても広く認識されるようになり、廃棄物の不法投棄等の不適正な処理が大きな社会問題となるようにもなった。

このような状況に対応するため、1990年代以降、日本では、環境への負荷の低減のため、廃棄物のrecycleと再生資源の回収・利用を促進する動きが政策面で見られるようになった。

たとえば、1991年には、廃棄物の減量化や再生の推進、廃棄物の適正処理の確保などを主な目的として、廃棄物処理法が改正された。その後も廃棄物処理法は、廃棄物の種類や関連する問題の多様化に伴い、頻繁に改正が積み重ねられ、現在に至っている。

また、同じく1991年には、資源の有効活用、廃棄物の発生抑制および環境の保全を図るために、再生資源利用促進法(Law for the Promotion of Utilization of Recycled Resources)が制定された。

同法は、主に企業におけるリサイクルの促進を目的としており、企業に対してその製品の設計段階から再生利用を考えて製品づくりを促すとともに、製造工程での再生資源の利用促進を求めるものであった。また、廃棄物の再生利用を促進するためには、アルミやスチールなど材質ごとの分別回収が必要となるため、再生資源利用促進法では、分別回収を容易にするために、材質表示のルールについても定められた。

こうした流れを受けて、1990年代には、容器包装リサイクル法(Law for the Promotion of Sorted Collection and Recycling Containers and Packaging)および家電リサイクル法(Law for the Recycling of Specified Kinds of Home Appliances)が制定され、recycle対策の法整備が進んだ。

容器包装リサイクル法(1995年制定)は、分別回収されたガラス瓶やペットボトルなどの容器包装廃棄物を原材料や製品として再商品化することにより、廃棄物の減量と資源の有効利用を図るものである。また、家電リサイクル法(1998年)とは、一般家庭や事務所から排出された家電製品(エアコン、テレビ、 冷蔵庫、洗濯機など)から、有用な部分や材料をリサイクルし、廃棄物を減量するとともに、資源の有効利用を推進するための法律である。

このように日本の廃棄物リサイクルは、経済活動やライフスタイルの変化に伴い、1990年代までは廃棄物処理法などの個別の法律によって規制されてきた。

しかし、個別法による場当たり的な対策では廃棄物の発生量増大を食い止めることができず、廃棄物の最終処分場の確保が年々困難になっていった。また、不法投棄の増大などによる環境負荷の問題も複雑化していった。

そこで日本政府は、このような廃棄物リサイクル問題の解決のため、従来のrecycle対策の更なる強化に加え、2000年代に入る頃からは、廃棄物のreduceおよびreuse対策を本格的に実施するようになった。

すなわち、(1) 製品の省資源化・長寿命化等による廃棄物の発生抑制(リデュース)対策、 (2) 回収した製品からの部品の再利用(リユース)対策、(3)事業者による製品の回収・リサイクルの実施などリサイクル対策の強化、という“3R”(=reduce、reuse、recycle)を総合的に講じようというものである。

まず2000年には、廃棄物リサイクル対策の基本的な法的枠組みを形成するものとして、循環型社会形成推進基本法(The Basic Law for Establishing the Recycling-based Society)を新たに制定した。

同法は、廃棄物リサイクルに関する個別の法律に対して上位に位置する法律であり、(1)3R実施の法制化、(2)拡大生産者責任(Extended Producer Responsibilities)の規定、(3) 政府による循環型社会形成推進基本計画の策定などについて定めている。

この基本法の制定とともに、個別の廃棄物リサイクル関連法が一体的に整備された。まず2000年には、再生資源利用促進法が抜本的に改正され、資源有効利用促進法(Law for Promotion of Effective Utilization of Resources)へと名称も変更された。

同法においては、廃棄物等の発生抑制(reduce)の観点から、(1)製品(自動車、家電製品、パソコン、ガス・石油機器等)の製造に使用される原材料の削減、(2)耐久性の向上を図る設計、(3)部品の統一化・共通化、(4)修理等による長期間の利用の促進などを事業者に義務付けた。また、リサイクル促進の観点からは、(1)工場等で発生する副産物(スラグ、汚泥等)の利用促進に計画的に取り組むことを事業者に義務付けた。

そのほか、個別の廃棄物リサイクルについても、従来の容器包装や家電に加え、建設リサイクル法(Construction Material Recycling Law)(2000年)、食品リサイクル法(Law for Promotion of Recycling and Related Activities for Treatment of Cyclical Food Resources)(2000年)、自動車リサイクル法(Law for the Recycling of End-of-Life Vehicles)(2002年)などが相次いで整備されてきている。

第3節 中国の廃棄物リサイクル規制の展開  

中国では、廃棄物全般に関する基本法として、1995年に、工業廃棄物、生活ごみ、危険廃棄物の処理に関する規則を定めた固体廃棄物汚染環境防治法(Law on the Prevention and Control of Environmental Pollution by Solid Waste)が制定されている。

同法は、2004年に改正され、製品の生産者が廃棄物から発生する汚染を防止する義務を負うことが明文化されることになった。

 また、2002年に制定された清潔生産促進法(Cleaner Production Law)は、企業に対して、汚染物質の排出が少ない生産過程の採用とともに、production life cycleにおいて回収、リサイクル、リユースしやすい製品の生産を求めている。

また、2008年に制定された循環経済促進法では、廃棄物リサイクルに関する拡大生産者責任を規定しており、工業廃棄物の総合利用、リユースと再生資源のリサイクルなどについて定めている。

こうした基本法の下で、中国では、特に発生量の増大が見込まれ、かつリサイクルによって得られる経済利益の大きな自動車廃棄物や電子廃棄物について、個別のリサイクル規制が進んできている。

自動車のリサイクルについては、2001年に廃自動車回収管理弁法(Regulation on the Disposal of End-of-Life Vehicles)が制定されている 。

中国では、違法な廃自動車の転売や劣化部品の再利用によって交通安全上の問題が発生している。このため同法では、政府の監督下で自動車やオートバイなどの回収および再生利用を行うことが規定されている。

具体的には、主要部品(エンジン、方向指示器、変速器、サスペンション、フレーム)についてはリユースが禁止されており、解体企業はこれらの部品を鉄くずとしてリサイクルしなければならないとされている。

電子廃棄物に関しては、2004年に条例案が公表されてパブリックコメントに付された後、紆余曲折を経て、2009年に廃棄電器電子製品回収処理管理条例(Regulation on the Disposal of Waste Electrical and Electronic Equipment)が公布された。いわゆる中国版家電リサイクル法である。

同条例は、洗濯機、冷蔵庫、テレビ、エアコン、パソコンの5品目を対象とし、これら家電廃棄物について、(1)家電販売店等に回収の義務があること、(2)生産者から基金を集め、解体企業に費用助成すること、(3)解体企業は許可制とすること、などが規定されている。

また、2007年から施行されている電子情報製品汚染防治管理弁法(Regulation on the Restriction of the Use of Certain Hazardous Substances in Electrical and Electronic Equipment)は、EUのRoHSと同様に、広範な電子・電器製品を対象とし、製品中の鉛や水銀などの有毒物質の含有量を安全基準以下に低減させることを企業に求めている。

第4節 廃棄物リサイクル規制の日中比較

以上見てきたとおり、日本では、第2次世界大戦後から今日に至るまで、経済社会情勢の変化及びそれに伴う廃棄物の質および量の変化に応じて、様々な廃棄物リサイクル規制が講じられてきた。

一方、中国においても、2000年代から資源の有効活用や環境の保全に対する意識が高まるようになり、廃棄物リサイクルに関する法規制の整備も進んできている。

こうした日中の廃棄物リサイクル規制の展開を比較してみると、以下の相違点を指摘できる。

(1)規制の対象品目

 まず、第一に、規制の対象となる品目の相違である。

日本の廃棄物処理法や中国の固体廃棄物汚染環境防治法は、いずれも廃棄物全般を対象としている基本法であり、この限りにおいては日中の間で規制対象品目の相違はないように見える。

しかし、こうした基本法の下で具体的な廃棄物リサイクルについて定める個別法において、その規制対象品目が日中の間で異なるのである。

日本では、1990年代に容器包装リサイクル法および家電リサイクル法が制定され、分別収集されたガラス瓶やペットボトルなどの容器包装廃棄物および家電製品(エアコン、テレビ、 冷蔵庫、洗濯機など)のrecycle対策の法整備が始まった。さらに2000年代になると、廃棄物リサイクル関連法の整備が一層進み、その規制対象品目は、従来の容器包装や家電に加えて、建築廃棄物(コンクリート、アスファルト、木材など)、食品廃棄物、廃棄自動車などに広がっている。

一方、中国では、特に発生量の増大が見込まれ、かつリサイクルによって得られる経済利益の大きな自動車廃棄物や電子廃棄物(洗濯機、冷蔵庫、テレビ、エアコン、パソコン)については個別のリサイクル規制がなされているものの、日本のような容器包装、建築廃棄物、食品廃棄物のリサイクル規制は未整備のままである。

(2)規制の包括性

また、日中の間では、廃棄物リサイクル規制の包括性についても相違がある。

日本では、1990年代以降、環境への負荷の低減のため、廃棄物のrecycleと再生資源の回収・利用を促進する動きが政策面で見られるようになった。

特に2000年代に入る頃からは、循環型社会形成推進基本法の制定に見られるとおり、廃棄物発生量増大を食い止めるために、従来のrecycle対策の更なる強化に加えて、廃棄物のreduceおよびreuse対策という“3R”を総合的に講じることを重視するようになっていった。

一方、中国でも、再生資源の有効活用という意識は普及しており、清潔生産促進法や循環経済促進法に見られるとおり、廃棄物のリユースやリサイクルなどについてはルール作りが進んできている。

しかし、廃棄物発生量のリデュースによる環境負荷の低減という意識は未だ十分には普及しておらず、日本の“3R”ように廃棄物のreduce、reuse、recycle対策を総合的に講じるような包括性は未だ有していない。

結論

中国は、日本などの先進国と比較しても遜色のない内容の廃棄物リサイクルの法規制整備が進んできているように表面上は見える。

しかし、一人当たりGDPの水準で見れば中進国の水準にやっと追い付いてきたばかりの中国において、果たして本当に先進国並みの廃棄物リサイクル規制が進んできているのであろうか。

第1節で明らかにしたとおり、日本では、一人当たりGDP(購買力平価ベース)が2万ドルを超えた1990年代中頃から、再利用されない産業廃棄物(不再利用産業廃棄物)の一人当たり排出量が減少に転じ、現在に至っている。

一方、一人当たりGDP(購買力平価ベース)が未だ1万ドルに満たない中国では、経済社会の発展に伴い急速に一人当たり不再利用産業廃棄物排出量が増大しており、反転の気配は見られない。
 
この調査結果から二つの仮説が直観的に得られよう。

まず日本については、経済社会の発展に伴い、廃棄物排出量の増大による環境負荷への懸念が高まり、その対策が進められた結果、一人当たり不再利用廃棄物排出量が減少してきているのではないかという仮説である。

一方、中国については、経済社会の発展水準が十分でないことから、廃棄物排出量の増大による環境負荷への対策が日本など先進国に比べれば進んでいないのではないかという仮説である。

 こうした仮説を検証するべく、第2節から第4節においては、日本と中国における廃棄物リサイクル規制の実際の進展状況を比較してきた。

その結果、中国の廃棄物リサイクル規制には、以下の二つの特徴が浮かび上がった。

第一に、中国では、自動車廃棄物や電子廃棄物については個別のリサイクル規制がなされているものの、日本のように広範な廃棄物のリサイクル規制は未整備のままである。

第二に、中国の廃棄物リサイクル規制は、廃棄物のリユースやリサイクルなどについてはルール作りが進んできているものの、日本の“3R”のように廃棄物発生量のリデュースによる環境負荷の低減という点では対策が進んでいない。

 これら二つの特徴から言えることは、まず、中国の廃棄物リサイクル規制は、未だ包括性や総合性という点で不十分な面を残しており、日本などの先進国並みの規制となっているとは必ずしも言えないという事である。

また、中国の廃棄物リサイクルは、廃棄物排出量のリデュースによる環境負荷の低減を第一の目的とするものではなく、むしろ経済発展のための資源の有効利用を目指したリユースやリサイクルが中心だという事である。

中国では、廃棄物処理に積極的に取り組む姿勢を政府が見せてはいるものの、いまだ一人当たり国民所得が購買力平価ベースでも1万ドルに満たない状況において、現実には経済発展が優先されているものと考えられる。

中国では、人口の都市集中と産業活動の発展によって廃棄物の量も増え、2005年には都市ごみの量が世界一となった。人口増が進む北京市では都市ごみの量も一日約1.8万トンに達し、現在も年8%の割合で増加しているとされる(環境省2011)。しかも、これらの都市ごみの多くは埋立処理されているため、埋立場の不足も懸念されている。

しかし、こうした天然資源の大量消費と廃棄物の大量排出によって成り立つ「一方通行」型の社会経済システムは、将来に亘って環境に悪影響を与える。一方通行型の社会から生じる環境負荷の低減を図り、持続可能な社会を実現するためには、日本のように廃棄物のReduce、Reuse、Recycleの3Rを総合的に進める必要がある。

この点、日本は、本稿で述べたとおり、経済発展の段階に応じて、さまざまな廃棄物問題を経験し、解決してきた歴史がある。

また、こうした歴史を前提に、日本の静脈産業には、必要最低限の技術から高水準の技術まで、多様な技術の蓄積がある。

中国も、日本の歴史に学び、技術を取り入れることで、より包括的な廃棄物リサイクルを行い、真の循環型社会の構築を目指してもらいたい。また、日本も、循環型社会の構築に向けた法整備等のシステムに係る国際協力を中国に続け、日本の静脈産業の中国進出を積極的に支援することで、国際貢献と経済利益の両立を実現してもらいたい。


※ 本稿の内容は、Western Economic Association InternationalのThe 10th Biennial Pacific Rim Conference(Tokyo, March 15, 2013)において口頭発表されたものである。
※ 本稿は、大幅な加筆修正と英訳の後、Takashi Sekiyama (2013), “A Paradox in China’s Environmental Management: An argument from a comparative study on waste recycling policies between China and Japan,” Chinese Business Review, Vol. 12, No.6, PP. 425-434として発表されている。



参考文献
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神鋼リサーチ株式会社(2003)『平成14年度廃棄物等処理再資源化推進(循環ビジネスシステム調査)中国のリサイクル関連の法制度及び産業の実態調査』経済産業省産業技術環境局リサイクル推進課。
日本家電製品協会(各年版)『家電リサイクル年次報告』(平成16〜21年度版)。
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