CANPAN ブログ検索
Loading
  • もっと見る

大陸中国に呑み込まれる香港 [2009年08月27日(Thu)]
「香港では、いまや大陸中国の存在感がますます増大している」。8月17日から23日の間、夏休みを利用して香港の現状視察に出かけた筆者に、ジェトロ香港企業支援部長の普家弘行氏が強調した。

街を歩けば、そこら中で「国語」と呼ばれる大陸中国の言葉が飛び交う。香港人が生活上使う広東語とは異なる北京語ベースの標準語である。筆者が香港大学に留学していた10年ほど前には街中でほとんど通じることのなかったこの「国語」が、いまやタクシーでも、レストランでも、土産物屋でも、不自由なく通じるようになったのには驚いた。

筆者の香港視察に先立つ8月14日、香港政庁は、2009年第2四半期(4−6月)の実質域内GDPが対前期比で3.3%増であったと発表した。

香港経済は、日本を含む他のアジア経済と同様に世界経済危機の影響を大きく受け、2008年第2四半期以来マイナス成長に陥っていた。2009年第2四半期も、対前年同期比で見ればなおマイナス3.8%にとどまっている。

しかし、前期比3.3%の成長は年率換算では13%を超える伸びであり、1年3カ月ぶりにV字回復を実現したと言っても過言ではない。

香港実質GDP対前期比推移
(出所:香港政府統計処)

V字回復を見せているのはGDPばかりではない。第2四半期には香港株式市場も8割近く上昇し、8月11日にはハンセン指数が終値で約1年ぶりに21000ポイント台を回復して、リーマンショック以前の水準に戻してきている。また、不動産市場も活況を呈しており、住宅価格は上半期に20%近く上昇している。

この不況とV字回復の背景にあるのが近年顕著な大陸中国への経済依存である。

今回の現地視察を通じて筆者は、まさに香港が大陸中国に飲み込まれるがごとき存在感の高まりを強く感じた。

1.大陸に依存する香港経済
そもそも香港経済はGDPの約9割がサービス産業で占められているのだが、そのなかでも貿易物流業(付加価値ベースでGDPの25.8%(2007年))、金融業(同19.5%)、観光業(同3.4%)、専門業その他(11.0%)が4本柱である(数値の出所は香港政府統計処。以下別段の断りのない限り同じ。)。

このうち、輸入においては大陸中国が全体の46.6%(2008年)を占め、日本(同9.8%)、台湾(同6.3%)が続く。輸出においても大陸中国が48.5%(2008年)を占め、アメリカ(同12.7%)、日本(4.3%)が続いている。

観光業においても大陸中国の存在感は圧倒的であり、大陸中国人は全旅行客の57.1%(2008年)を占め、2位の台湾(7.6%)の約8倍、4位の日本(4.5%)の約13倍となっている。加えて大陸中国人は、筆者のような庶民の日本人観光客と違い、富裕層が多くて香港での一人当たり消費額でも他を圧倒しているという。

すなわち香港は、大陸中国と海外とを結ぶ物流と金融のハブとして機能しており、それを支える弁護士、会計士、コンサルタントなどの専門家が大勢いて、そこに百万ドルの夜景や安いブランド品を求める観光客が大陸中国から押し寄せて、経済全体が回っている構図だ。

2.大陸頼みの景気回復
昨年第2四半期以来香港を襲った景気後退は、世界的な景気後退の結果、大陸中国から欧米などへ向かう最終消費財の流れが細ると同時に、その最終消費財の生産のために日本や台湾から大陸中国へ向かう中間財の流れも減速したことによる。大陸中国と海外を結ぶ物流ハブの香港は、双方向からダブルパンチを食らったのである。

逆に今年第2四半期にGDPがV字回復した主要因は、海外から大陸中国へ向かう物流の回復によるところが大きい。香港から大陸中国への輸出は、昨年10月の1394億香港ドルをピークに急減していたが、今年2月の747億香港ドルで底をつき、3月以降順調な回復を見せて、6月には1132億香港ドルまで戻している。

日欧米がマイナス成長にあえぐ中、大陸中国は4−6月期に7.9%の高成長を達成しており、香港もその恩恵にあずかったのである。2009年第2四半期のGDP成長に対する対中輸出の寄与度は23.2%に上り、他の要因が成長の足を引っ張る中ひとり気を吐いた。

香港対中国輸出額推移
(出所:香港政府統計処)

3.流れ込む大陸マネー
GDPばかりでなく、香港株式市場や不動産市場のV字回復の裏にいるのも大陸中国のようである。

香港金融管理局(HKMA)の統計によれば、7月末のマネーサプライは7710億ドルで、1年前の3240億ドルの倍以上となっている。この過剰流動性が株式市場と不動産市場に流れ込んでバブル的な活況を見せているのだが、中国社会科学院金融研究所の易憲容氏は、「その多くは中国本土の資金だ」と指摘している(8月11日付「香港経済日報」)。

不動産市場では低金利に刺激されて住宅建設が活発化しており、今年上半期の住宅物件取引量は前期比64%増(土地註冊処)となったが、その買い手として大陸中国人が目立つ。特に高級物件では大陸中国の富豪が投資目的に購入を進めていい、前出ジェトロ香港の普家氏によれば「大陸中国人がツアーを組んで投資物件を漁りに来ている」状況だ。

これに伴い住宅価格や家賃も上昇しており、住宅価格の指標である中原城市領先指数は1−7月に19.45%の上昇、家賃相場の指標であるミッドランドリアルティー統計は1−7月に15%の上昇を見せている(8月12日付「文匯報」)。

4.進む一体化
実体経済の回復を上回るペースの資産市場急騰に対して、香港金融管理局も「この状況が続けば資産と消費物価のインフレをもたらし、マクロ経済と金融システムの安定を脅かす」(同局HP)と懸念を表明しているが、香港ドルを米ドルとペッグさせている香港は、アメリカが金融緩和政策を採っている以上、自分だけ金融引き締めに走るのは難しい。

そもそも貿易の約50%が大陸中国を相手にするものであり、大陸中国から他を圧倒する投資や観光客を受けて入れている香港にとっては、もはや米ドルではなく人民元にペッグさせるほうが望ましい現状だ。

いまのところは人民元自体が米ドルに対して小幅な変動に調整されていることによって矛盾が抑え込まれているが、人民元と米ドルとの乖離が拡大すれば、香港ドルも早晩米ドルペッグから人民元ペッグへと移行することになろう。

マーケットもこうした事情は織り込み済みとみられる。前出の中国社会科学院金融研究所・易憲容氏も、香港に流れ込む大陸マネーの背景を「香港ドルが米ドルペッグ制をやめ、人民元にペッグすることによって切り上げられるとみているため」と解説している(8月11日付「香港経済日報」)。

まだ中国返還後の香港について見方が定まっていなかった2002年、筆者は香港大学に提出した修士論文において香港の一国二制度の現状と展望を分析し、「香港は、まず第一段階で大陸中国との経済一体化が否応なく進展し、これによって社会面や政治面での統合が進んで、ついに大陸中国との統合が完成することになるだろう」と結論づけた。

今回の香港視察中、街中を飛び交う「国語」を耳にし、闊歩する多くの大陸中国人を目にし、かつて「香港人」であることに誇りを持っていた友人が「我々は中国人」と言うのに接して、私の予測は徐々に現実になりつつあることを感じた。

(東京財団HPより再掲)
トラックバック
ご利用前に必ずご利用規約(別ウィンドウで開きます)をお読みください。
CanpanBlogにトラックバックした時点で本規約を承諾したものとみなします。

この記事へのトラックバックURL:
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
http://blog.canpan.info/tb/187977
コメント