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オバマ米国大統領来日の注目点 [2009年11月06日(Fri)]
11月12日、アメリカのオバマ大統領が初めて来日する。

昨今のぎくしゃくした日米関係を背景に、数日前までキャンセルの噂も流れていたが、アメリカとしてアジア重視・日米関係重視の姿勢を示すためにも予定どおり日本を訪れるようだ。

1.日米関係の現状
民主党の鳩山政権の下で、日米関係が動揺していることは周知の事実である。

その最大の原因は、鳩山政権の対米外交方針が未だ定まっておらず、左右に揺れ動いているからだ。

民主党内には、日米同盟を支持する自民党に近い現実主義者と、日米同盟に消極的なリベラル派の双方が混在している。

また、民主党が衆議院で過半数をとっても、参議院では過半数を保持していないため、日米同盟に反対する社会民主党と連立を組まなければならない。

このように対米外交方針について政権内で意見が統一されていないために、民主党の対米外交方針は右に左に大きく揺れ動き、予測しにくい状態が続いている。

そして、先が見えないだけに、これまで日本が進めてきた米国との緊密な同盟関係に急激な変化が生じるのではないかとの不安が広がっているのが、日米関係の現状だ。

2.オバマ来日の注目点
今回のオバマ大統領の訪日は、シンガポールで開催されるAPEC首脳会議出席のついでにアジアを歴訪する一環に過ぎず、特に注目すべき課題があるわけではない。

日本のメディアは、沖縄普天間基地移設問題の決着に注目しているが、鳩山首相が同問題の解決を急がないと言っている以上、これについても大きな進展はないだろう。

私が注目しているのは、今回の訪日中にオバマ大統領が対アジア外交の方針に関するスピーチを行うかどうかだ。

オバマ政権は、発足後一貫してアジア重視の姿勢を鮮明にしてはいるが、実はオバマ大統領自身が包括的な対アジア外交方針を語ったことは今までほとんどない。

したがって、今回のアジア歴訪中にオバマ大統領が対アジア外交の方針に関するスピーチを初めて行うのではないかと注目している。

さらに、もしスピーチを行うとすれば、その場所も注目だ。

オバマ大統領が初めてのアジア政策スピーチを東京で行うか北京で行うかは、アジアにおけるパートナーとして日本と中国のどちらをより重視しているかを計る目安になるだろう。

また、気候変動問題について、日米でどのような合意がなされるかも注目される。

気候変動問題を重視している鳩山政権にとって、アメリカから具体的なCO2排出削減の約束を引き出せれば大きな成果である。国民受けも総じて言えば悪いはずはなく、低迷傾向にある支持率の浮揚効果も期待できよう。

しかし現実には、残念ながら世界の二大CO2排出国である米中の間で今後のCO2排出削減の国際枠組みの基本ルールが決められてしまう可能性が高い。

米中の間で日本がどれだけ存在感を発揮できるか、それが今回のオバマ大統領訪日の注目点だと言っても過言ではなかろう。



鳩山首相「東アジア共同体構想」の背景と展望 [2009年10月26日(Mon)]
問1.鳩山首相の「東アジア共同体構想」について、その由来や詳しい内容を教えてください。

民主党政権は、アジア外交強化の方針を打ち出している。鳩山首相が提案している東アジア共同体も、アジア外交を強化する枠組みとして、民主党のマニフェスト(政権公約)に書き込まれたものだ。そのマニフェストによれば、(1)中国、韓国などアジア諸国との信頼関係強化、(2)通商金融、エネルギー、環境、災害救援、感染症対策の各分野における協力体制確立、(3)投資、労働、知的財産分野を含む経済連携協定(EPA)交渉の推進などが、民主党政権の進める東アジア共同体構築に向けた取り組みである。

東アジア共同体という概念そのものは、決して目新しいものではない。皆が知っているとおり、東アジア共同体構想は、90年代初にマレーシアのマハティール首相が提唱した東アジア経済グループ(East Asia Economic Group)が始まりである。

日本でも、自民党の小泉政権下において既に東アジア共同体の構築が長期目標として掲げられていた。早くも02年のASEAN首脳会議の際には、当時の小泉首相が共同体構築を呼びかけ、続く03年の日ASEAN特別首脳会議東京宣言においても将来の東アジア共同体構築に向けた決意が表明された。さらに、小泉首相は04年の国連総会でもASEAN+3の基礎の上に立った東アジア共同体の構築を提唱している。

民主党が東アジア共同体構築に向けた具体的取組として挙げている個別の内容についても、それぞれ従来から検討されてきたものばかりであり、取り立てて目新しいものはないと言ってよい。

むしろ鳩山首相は、マニフェストや一連の国際会議において東アジア共同体構築に言及することによって、自民党政権下で日本が進めてきてた方針を民主党政権も承継することを明確するとともに、その取り組みをさらに推し進める決意を示して小泉首相等の自民党政権との違いをアピールしようとしたものと解釈できる。

問2.東アジア共同体の実現可能性について、いかがお考えですか。

鳩山首相は、ASEAN首脳会議終了後の10月25日、記者団に対して「東アジア共同体構想は長期的なビジョンだ。5年や10年で簡単に実現できるという話ではない。一歩一歩積み重ねていく話だ。」と述べている。

つまり、東アジア共同体構想は、鳩山首相自身が明確に述べているとおり短期的な目標ではなく、長期的な理想にすぎない。したがって、その実現の可能性を議論するのは時期尚早であろう。

国際政治学の地域統合理論にspill overという概念がある。欧州において、戦後石炭共同管理などの実務的な協力の継続が、関係国間の信頼醸成に貢献し、やがて他分野へも波及(spill over)して協力を促進し、経済統合から統一安全保障や政治統合へと発展していくと唱える概念だ。

東アジアにおいても、自由貿易、金融、通貨、エネルギー、環境、災害救援等、東アジア各国自身のために協力が必要な分野が少なくない。分野によっては協力が容易な分野もあれば、難しい分野もあるが、実現可能な分野から一つ一つ協力を積み重ねていくことで、徐々に包括的な協力へとspill overしていくことが期待される。

少なくとも東アジアの「経済」共同体は、現在の国際情勢の前提を根底から覆すような大変動が発生しない限り、実務的な協力を長年積み重ねた先に自然と出来上がっていくであろう。実際、東アジアにおいては、97年のアジア金融危機への対応をきっかけに地域協力が進み、いまや自由貿易、金融、防災など多くの分野へとspill overが進んでいる。

問3.東アジア共同体は誰がイニシアティブを握るでしょうか。

東アジア共同体のイニシアティブについては、誰がイニシアティブを取る「べき」かという問題ではなく、誰がイニシアティブを取ることが「できる」かという問題だ。

東アジア共同体が具体的な実務協力の積み重ねの先にある以上、「べき」を議論するのではなく、「できる」ことから協力を進めていかなければ、共同体は実現しない。

したがって、中国でも、日本でも、ASEANでも、東アジアの地域協力を推進する意思と能力があるならば、誰がイニシアティブを取っても良かろう。誰かが主導する協力が地域各国にとっての利益になるならば、それが東アジア共同体に向けたイニシアティブとなる。

ただし、どこか一国が東アジア共同体に向けた全ての分野で協力を主導できるとは考えにくい。実際には、中国、日本、韓国、ASEANなどが、自由貿易、金融、安全保障など、それぞれの特徴を活かした分野でそれぞれ協力を主導していくこととなろう。言い換えれば、東アジア共同体は日中韓ASEANの共同イニシアティブで進めていくのが現実的であり、かつ実現可能性が高いと考える。

問4.東アジア共同体構想が第三国に与える影響については、どうお考えですか?

他の地域へ目を移すと、現在世界で起こっている動きの一つは、地域統合の競争である。東アジアに先行して地域協力が進んでいた欧州や北米では、90年代後半に協力の進展が鈍化したものの、東アジア地域協力の進展に刺激され、地域統合に向けた動きが加速した。

ここで我々が気をつけなくてはならないのは、こうした地域統合が相互に閉鎖的となってしまうことである。地域間で閉鎖的な統合が進み、相互に競争するようになれば、人類は20世紀前半に犯した世界大戦の過ちを繰り返すことになりかねない。

したがって、東アジア共同体に向けた様々な取り組みは、インド、ロシア、オーストラリアなどの周辺国との協力や欧州や米国との地域間協力の道を排除することなく、開放性と包容力を持って相互に開かれた関係の構築を目指し、実現可能な分野から一つ一つ協力を積み重ねていかねばなるまい。
羽田国際ハブ空港化問題−羽田を「アジアへの窓口」に [2009年10月14日(Wed)]
「(成田が国際線、羽田が国内線という)内際分離の原則を基本的に取っ払って、羽田の24時間国際空港化を徐々にめざす。」(日本経済新聞2009年10月13日夕刊)

10月12日、前原誠司国土交通相は、羽田空港の国際化を進め、航空網の拠点となる「ハブ空港」にする方針を表明した。

羽田空港の国際線は、現在アジアとのチャーター便に限られているが、来年10月の第4滑走路供用開始を契機に、昼間はアジア、深夜・早朝は欧米にそれぞれ定期便を飛ばす計画となっている。前原大臣の発言は、こうした「羽田空港の国際化」をさらに推し進める意向を示したものだ。

ただし、この前原構想の具体策は不明であり、その後の混乱した議論の解決も見えない。この点、筆者は、今月上旬に刊行した轟木一博氏との共著「航空機は誰が飛ばしているのか」(日本経済新聞出版社)のなかで、この羽田空港国際化問題について、空港運用の技術的な制約や日本の成長戦略などの視点から検討を行った。

本稿は、そこでの検討を踏まえ、羽田空港国際化問題について、「成田空港に就航しているアジア便の一部を羽田空港に移転させ、『日本の玄関・成田、アジアへの窓口・羽田』という新たな棲み分けの下で、首都圏空港全体の効率を向上させることを目指していくべき」との提言を行うものである。

1.羽田空港の発着枠は限られたリソース
「羽田空港の国際化」すなわち国際便の増加を望む声は多く、自民党時代の経済財政諮問会議や規制改革会議などでも国際線増加の必要性が議論されてきた。彼らに言わせれば、更なる国際便の増加が望まれるところであろう。

他方、地方の知事会等からは地方路線に優先的に配分するよう要望書も出されるなど、国内基幹空港としての羽田空港の役割を期待する声も大きい。各地方空港から羽田空港との直行便の就航の要望は大きく、既に就航しているところでも多頻度化の要望が多数寄せられている。

日本の国内航空ネットワークは羽田空港が支えている状況であり、その発着枠を単純に国際線に切り替えてしまえば、多くの地方空港の経営が成り立たなくなる。こうした状況に対して、願わくば羽田空港の発着枠をどんどん増やして国際便も国内便も増加させられればよいのであるが、現実はそれほど甘くはない。詳細な説明は、前出の拙著をお読みいただくとして、結論から述べれば、羽田の発着枠をさらに増加させることは空港運用の現実からして難しい。

すなわち、羽田空港の発着枠は限られたリソースであり、したがって「羽田空港の国際化」とは、日本の政治経済の中心地たる東京への近接アクセスという優良なリソースを、国内線と国際線との間で分けあわねばならないゼロサム・ゲームなのである。

したがって、「羽田空港の国際化」は、日本の航空インフラ全体を視野に入れて、羽田空港と成田空港との役割分担の見直し、関西国際空港や中部国際空港という他の国際空港の積極活用、全国の地方空港の開放などと一緒に考えなくてはならない問題なのである。羽田空港をどう活用するかは、単に東京近郊に住む住民や出張者に影響する問題ではない。

2.アジア便で活きる羽田の優位性
羽田空港と成田空港の間では、成田空港の建設経緯を背景に、これまで伝統的な内際分離策が原則として維持されてきた。すなわち、国内線は羽田空港、国際線は成田空港という棲み分けである。しかしながら、羽田空港再拡張事業を契機に国際定期便が就航することとされており、とりあえず昼間時間帯に3万回分の国際線の枠が用意されることとなる。

その増枠分について、首都圏の空の限られた容量をより効果的に利用する観点からは、アジア域内での近距離便を羽田空港に集中させるのが合理的だと筆者は考える。

10時間以上のフライト時間を要する欧米便に比べて、数時間のフライト時間で済むアジア諸国との路線については、羽田空港の最大のメリットである東京都心への近さが相対的に活きるからである。また、羽田空港には豊富な国内線ネットワークがあることから、羽田空港をハブにアジア諸国の主要空港と日本の地方空港とがスムーズにつながるようにもなる。

実際、2003年10月から羽田空港と韓国ソウルの金浦空港との間に国際旅客チャーター便が就航しており、例外的な取り組みとして羽田空港はアジアへの玄関として利用されつつある。最初は一日に4往復であったが、日韓両国のビジネス客にも観光客にも大変好評であったことから、今では一日8往復に倍増されている。

東京都心部から羽田空港までは30分から1時間、金浦空港からソウル中心部もやはり30分から1時間である。これが成田・仁川間のフライトを利用するとすれば、両国内の陸上移動だけでそれぞれ1時間ずつ合計2時間以上はロスすることになろう。東京・ソウル間のフライト時間が約2時間強であるから、このロスは相対的に言って大きい。

もし、羽田・金浦間のフライトなら、朝9時の大韓航空に乗ってソウルに向かい、ソウル市内でランチを食べ、午後をまるまる商談にでもショッピングにでも使い、さらに夕食を韓国で食べたとしても、20時半の大韓航空に乗って東京へ日帰りすることが可能となる。

金浦空港に加えて、今では中国上海の国内向け空港である虹橋空港と羽田空港の間にもチャーター便が就航しており、北京国際空港との間でも北京オリンピック時の臨時チャーター便の成功を踏まえてその定例化が実現した。

加えて、政府は、2010年の第四滑走路完成以後、東アジア各国・地域への国際定期便を1日当たり40便就航させる予定であり、金浦空港との間のフライトもチャーター便から定期便に引き上げるとしている。現在の羽田・金浦間のフライトは、チャーター便であるがゆえに乗客の預かり荷物以外は運べず、基本的に胴体部分の荷物置き場は空の状態で飛んでいるのだが、定期便となれば、このスペースに貨物を載せることも可能となる。また、チャーター便であるがゆえのチケット販売制限もなくなる。

さらに国際線を増加させようとすれば、国内線発着枠を国際線に当てる必要があることとなる。国内の地方空港が羽田空港との路線で何とか存続している事実を踏まえれば、その調整は簡単ではないと考えられるが、その第一の候補として考えられるのは、全国に新幹線網が整備と高速化が進むにつれて国内移動における航空路線と新幹線との代替性が高まってきている路線ではないかと考えられる。なにせ、日本国内の近距離移動は鉄道でも可能だが、島国の日本にとって国際的な移動は航空以外には選択肢がないのである。

羽田空港が東京エリアの住民・ビジネスマンからみてアクセスがよいという特性を有効に活用し、近距離のアジア地域との間でさらに密接なネットワークを構築するという目的の重要性を踏まえれば、例えば「新幹線を初めとする地上交通により3時間以内で東京にアクセスできる地点」などのルールを定め、順次国際線に代替していくということが考えられる。

3.成田と羽田の新たな棲み分け
羽田空港をアジアへの窓口として広く開放した場合、成田空港はどうなるのか?筆者としては、現在成田空港に就航しているアジア便の一部を羽田空港に移転させ、全体の需要を掘り起こした上で、「日本の玄関・成田、アジアへの窓口・羽田」という新たな棲み分けの下で、首都圏空港全体の効率を向上させることを目指していくべきだと考えている。

成田空港には、北京や上海などの中国各都市、バンコクやシンガポールなどの東南アジアのハブ空港、さらにインドやパキスタンなどの南アジアの主要空港など、現時点で年間約10万回のアジア便が発着している。

この10万回分のアジア便の多くを、発着枠の増大や国内線からの振り分けにより国際便の発着枠が新たに増える羽田空港で受け入れ、その都心への近接アクセスという優位性を発揮してもらう方が、限られた首都圏空港発着枠の有効活用としては望ましいのではないか。
さらに、羽田空港に就航するアジア便を増加させたとしても、成田空港に参入を求める国は全世界になお40国ほどあり、その重要性は低下するどころかむしろ引き続き非常に高いというべきであろう。

このような役割を成田空港に期待することとしたときに、取り組むべきことはなんであろうか?まず、発着容量の拡大はいうまでもない。既に、成田空港株式会社(NAA)が呼びかけ、周辺自治体との間で検討会を開催し、増枠の可能性の検討が始められている。そもそも成田空港は、飛行経路が全て陸地上空となることから騒音問題による発着容量の制限がある。

また、その設置に関する歴史的な経緯から空港内にも未買収地があり、滑走路と誘導路が近接していて、本来の容量を活かしきれていない。したがって、こうした点について、周辺住民等の理解が得られる方法により運航改善を行うことができれば、現在よりも発着容量を拡大する余地は残されている。

政府は、現在予定されている22万回の発着回数を30万回までは増加可能との目標を立てて検討が進めているが、本当に右の制限を撤廃することが可能となれば、管制運用の観点からみても現実的な数字であると考えられる。

既に述べているように、成田空港が全世界への窓口として機能した場合に、その恩恵は日本全体に及ぶのに対して、一定の範囲の住民が深刻な騒音影響を受け入れる必要に直面するという事実を忘れてはならず、そのような視点を持って、調整や対策を見守らなければならないが、個人的にはこのような取組みが結実することを期待している。

4.なぜアジアか
少子高齢化が進行する日本は、アジア諸国や新興経済国との経済一体化により成長を目指す道が避けられない。

2007年5月に政府がまとめた「アジア・ゲートウェイ構想」も、「アジアの成長と活力を日本に取り込み、新たな『創造と成長』を実現する」ための「重要な戦略インフラ」として羽田空港の国際化を打ち出していた。

たしかに周囲を海に囲まれている日本にとって、貿易や観光など国境を越えた経済活動を陸路で行うことはできず、特にヒトの移動においては、時間がかかる海路よりも、空路が圧倒的に重要である。

なかでも日本の政治経済の中心たる東京に位置する羽田空港は、その国際化を含む効率的な活用の成否が、経済集積の形成や地方経済の活性化など日本経済全体に関わると言える。

したがって、「羽田空港の国際化」の必要性は、単に羽田空港に国際便を何本飛ばすかという範囲の話ではなく、今後の日本経済の発展戦略の観点から、日本の航空インフラ全体を視野に入れて考えねばなるまい。

今後の少子高齢化・人口減少社会は、労働力人口と投資の減少を通じて経済成長にマイナスの影響を与えてしまう。

こうした少子高齢化・人口減少社会を迎え、我が国経済は長期的には低成長にとどまる一方で、東アジア経済は今後も力強い成長を続けていく見通しである。実は中国、NIES(韓国、台湾、香港、シンガポール)、ASEAN4(タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン)といった東アジアの国々も少子高齢化に直面しているのだが、中国などでは農村に1億人はいると言われる過剰労働人口を都市部へ移動させ有効活用することが可能であるし、まだまだインフラ整備の途上にあることから日本に比べて投資の限界効率が高いことから、その成長余地はなお大きい。

少子高齢化・人口減少に対処するため、少子化対策、技術革新、女性や高齢者の就労促進、社会保障改革など、政府が取り組まねばならない課題は多い。しかし、これら課題に全力で取り組んだとしても、それだけで少子高齢化・人口減少による低成長の圧力を完全に克服できるとは思えない。

したがって、もしも日本が今後も引き続き経済的繁栄を享受したいと望むのであれば、高成長によるマーケットの拡大と資本の蓄積を進める東アジアや新興経済国と日本との経済一体化を図る道は避けられないだろう。

羽田空港を「アジアへの窓口」とし、都心への近接アクセスという優位性を十分活かすことは、こうした日本の成長戦略から見ても必要だと筆者は考える。
日本こそG4構築を目指すべき [2009年10月05日(Mon)]
アメリカが、今後の国際経済を議論する枠組みとして、G4(アメリカ、EU、日本、中国)の構築を模索しているという。

その実現可能性や見通しは未だ不透明だが、筆者は、かねてから、日本こそG4の枠組みを積極的に目指していくべきものと考えていた。そうでなければ、国際経済の趨勢は、むしろ日本を除いたG3(アメリカ、EU、中国)で決められて行きかねないからだ。

1.米中G2論?
つい2か月ほど前の7月27、28日の両日、ワシントンDCで「第1回米中戦略・経済対話」が開催された際には、日本経済新聞が、朝刊の一面で「両国が2国間だけでなく、世界規模の課題を広く話し合う『G2』の枠組み構築に動き出した」と評していた。

しかしながら、実は、このG2論は、米中の主流派のなかでは真剣に取り扱われていない。

むしろ、オバマ政権の東アジア政策は、日本とも、中国とも、東南アジアとも、APECのような多国間枠組みも、使えるカードは全て使って、自国の戦略を遂行していくことが基本方針である。

一方の中国においても、米中G2構想については、一部の人にとっては大国としての自負心をくすぐる魅力的な構想だとしても、実は政府に近い主流派の間ではあまり歓迎されていない。

2.中国台頭は不可避
アメリカが「日本も、中国も、ASEANも、マルチも」というアプローチを取り、中国も全方位外交を進めている以上、日本も「アメリカ重視かアジア重視か」といった二者択一の外交方針を議論したり、他国に「日本を取るか中国を取るか」といった二社選択を迫ったりすることなく、「アメリカも、アジアも、EUも、マルチも」という方針の下で日本の国際課題解決に必要な協力を必要なところから引き出せる国際環境を構築する努力をすべきであろう。

過去四半世紀にわたって、世界第二の経済大国として世界経済をアメリカと共同統治し、東アジア地域の安定についても日米同盟に基づきアメリカとともに共同統治してきたと信じていた日本人がいるとすれば、その人たちにとっては、アメリカが日本だけでなく「日本も、中国も、ASEANも、マルチも」というアプローチを鮮明にしてきたことが、ジャパン・パッシングに見えたり、米中G2構想に見えたりするのかもしれない。

しかし、あくまでアメリカにとっても中国にとっても多くの国際課題の解決において日本の協力は不可欠だと考えているのであるから、日本も、アメリカや中国のどちらか一方に肩入れするのではなく、いずれとも冷静で良好な関係を維持したうえで、必要に応じてアメリカ、中国、さらにはASEANやEUなどの間で距離感を調整しながら、日本自身の利害を踏まえた協力や妥協を引き出していく戦略が今後は必要となろう。

中国の台頭は、日本が憂慮しようと反対しようと止められるものではない以上、それに応じて日本自身の対応を変化させていかねばなるまい。

3.日本こそG4構築を目指すべき
この点、私は、日本の外交が当面目指すべきは、アメリカ、中国、EU、そして日本のG4で国際経済を話し合う枠組みの構築だと考えている。

先日、ピッツバーグでG20サミットが開催された。昨年のリーマン・ショック以来、国際金融危機を話し合う枠組みとして、従来の中国などの新興国が含まれていないG8に変わって、このG20という枠組みが定着しつつある。

ただし、私もこれまで何度も多国間協議に出席したことがあるのだが、10カ国も20カ国も参加する大会議場では難しい協議はなかなかまとまらず、結局一部のコアメンバーの非公式協議によって大勢が決まることが多い。

G20も、今後国際経済のかじ取り役としてものを決めていくには参加国が多すぎる以上、コアメンバーができていかざるを得ない。

そのコアメンバーとして、アメリカは不可欠、欧州諸国はEUでまとまってもらうとして、為替にせよ通商交渉にせよ気候変動にせよ今後の国際経済でものを決めていくのに中国の意向は無視できまい。

ここで、もし「日本はアメリカに追従する」と各国に思われれば、今後の国際経済の趨勢はアメリカ、中国、EUの三者で決めていかれかねない。むしろ、その三者に日本を加えたG4という枠組みの構築を、日本が積極的に提唱していくべきではないかというのが私の考えだ。

日本政府のなかには、中国を加えると主導権を奪われるのではないかと心配する声があり、今のところG8への中国の参加を頑なに拒む方針を採っているが、日本が好むと好まざるとにかかわらず、また中国自身も必ずしも望んでいないにもかかわらず、今後の国際経済の枠組み作りに中国は入れていかざるをえない。

それにもかかわらず、日本が中国の参加を拒否していると、かえって日本を除いたアメリカ、中国、EUの三者で趨勢が決まりかねない。昨年末にまとまりかけたWTOのド−ハ・ラウンド交渉など、まさにこうした様相を呈してきている。

実は、G4の重要性を真剣に考えているグループも日本政府内には存在するので、今後は日本もG4作りに積極的に動いていくことを期待したい。

日ベトナム経済連携協定(JVEPA)発効で何が変わるか [2009年10月05日(Mon)]
10月1日、日本とベトナムとの間で「経済上の連携に関する日本国とベトナム社会主義共和国との間の協定」が発効した。

日本にとっては11番目の経済連携協定(EPA)であり、ベトナムとしては初の二国間EPAとなるこの日越EPAは、2007年1月から約1年8ヶ月に及ぶ政府間交渉の末に昨年9月に大筋合意に至り、その後のテキスト確定作業や批准手続きなどを経て、このたび発効の運びとなったものである。

政府は、「往復貿易額の約92%を協定発効後10年間で関税撤廃」し、あわせてサービス貿易の自由化や関連分野の連携強化を図ることによって、「日・ベトナム間の貿易の拡大、投資活動の促進及び経済関係全般の強化に貢献する」と、その意義を強調している。

しかしながら、これまでに日本が各国と結んできた各EPAを見てみると、どれも政府が言うほどの効果をあげているようには見えない現実がある。実際のところ、この日越EPA発効の意義はどこにあるのか、また、日本企業にとってどのような影響があるのか。本協定の交渉に携わった一人として、自省を込めて検討してみたい。

1.日越EPAの意義
まず率直に認めなければならない点は、この日越EPAによって関税面で大きなメリットが生まれるとは言い難い点である。

ベトナムは、この日越EPAによって、日本からの輸入品については現在の貿易額ベースで約93%を最終的に関税撤廃するとしているが、それが実現するのは16年も経ってからのことである。

特に、自動車部品、鉄鋼、電気電子部品など、日本企業にとって関心の高い物品については、ほとんどが関税即時撤廃の対象とはなっておらず、その多くが10年から15年という長い時間をかけて徐々に関税を下げていくと約束しているにすぎないのである。

こうした物品は、日系企業がベトナムを生産基地として活用する際に日本から持ち込まれる中間財であり、その多くについて関税撤廃のメリットが大きくない以上、日越EPAによる関税撤廃の意義を殊更に強調することはできようもない。

加えて、一部の物品については、EPA交渉の間にベトナムが既に一般的な関税率(実行最恵国税率)を引き下げたため、すでに日越EPAで日本に約束した関税率よりも低くなっているものまである。

また、取引ロットの大きくない中小企業にとっては、原産地規則証明書取得のための手間ひまや発行手数料(従来のEPAの例で言えば、2000円/件+500円/品)も加味すれば、大筋合意された関税削減のメリットも相殺され、大きな効果は期待できない。

強いて言えば、日本がEPA・FTAを締結していないものの、ベトナム(ASEAN)とは締結(見込み)している有望市場国(中国、韓国、インドなど)に対して、ベトナムは関税優遇のハブとしての位置付けが期待されうるが、いずれにせよ日越EPAによる関税引き下げに過度な期待は持たないほうがよく、すぐに日系企業に大きな恩恵をもたらすとは言い難い。

2.日越EPAに期待する点
こうした状況ではあるものの、日本に何の恩恵ももたらさないわけではない。エビや熱帯果物など、ベトナム特産の一部の農林水産品が即時関税撤廃されることから、これら農林水産品の輸入業者や消費者にとっては多少のメリットがあるだろう。

また、知的財産保護について、日越当局間で協議メカニズムが構築され、またベトナム当局による取り締まりのエンフォースメント強化に日本が協力を約束したことも進歩と言える。

さらに「ビジネス駆け込み寺」として、ベトナム進出日系企業からの問い合わせを一元的に受け付ける連絡窓口がベトナム政府内で指定されるとともに、その連絡窓口と進出日系企業との間のコミュニケーションを大使館や指定機関(JETRO現地事務所と予想される)が取り次いでくれるようになるという。

また、ベトナムでの(電気電子や自動車関連の)部品・中間財の調達に貢献する現地裾野産業の育成に日本が協力を約束した点も評価できる。この点については、すでに昨年12月の協定署名の段階で、二階俊博経済産業大臣とヴー・フィー・ホアン・ベトナム商工大臣との間で、関係文書が交わされており、裾野産業育成にかかるアクション・プランの作成と、同プランで特定された優先的プロジェクトが実施されることになっている。

ほかにも、ベトナムからエビ・イカなどの食品を輸入する日本にとって、その安全と密接な関係のあるベトナムの動植物検疫行政について情報交換や協議のメカニズムが日越EPAによって構築されることもメリットだと言えよう。

まとめ
以上をまとめれば、主要産品の関税撤廃などの即効性を日越EPAに期待することはできないものの、むしろ「ビジネス駆け込み寺」制度の構築といった関税以外のメリットを活用しつつ、税関手続き円滑化や知的財産保護、裾野産業育成など、日越EPAの枠組下で今後進むであろうビジネス環境の向上に期待したい。

(東京財団HPより再掲)
大陸中国に呑み込まれる香港 [2009年08月27日(Thu)]
「香港では、いまや大陸中国の存在感がますます増大している」。8月17日から23日の間、夏休みを利用して香港の現状視察に出かけた筆者に、ジェトロ香港企業支援部長の普家弘行氏が強調した。

街を歩けば、そこら中で「国語」と呼ばれる大陸中国の言葉が飛び交う。香港人が生活上使う広東語とは異なる北京語ベースの標準語である。筆者が香港大学に留学していた10年ほど前には街中でほとんど通じることのなかったこの「国語」が、いまやタクシーでも、レストランでも、土産物屋でも、不自由なく通じるようになったのには驚いた。

筆者の香港視察に先立つ8月14日、香港政庁は、2009年第2四半期(4−6月)の実質域内GDPが対前期比で3.3%増であったと発表した。

香港経済は、日本を含む他のアジア経済と同様に世界経済危機の影響を大きく受け、2008年第2四半期以来マイナス成長に陥っていた。2009年第2四半期も、対前年同期比で見ればなおマイナス3.8%にとどまっている。

しかし、前期比3.3%の成長は年率換算では13%を超える伸びであり、1年3カ月ぶりにV字回復を実現したと言っても過言ではない。

香港実質GDP対前期比推移
(出所:香港政府統計処)

V字回復を見せているのはGDPばかりではない。第2四半期には香港株式市場も8割近く上昇し、8月11日にはハンセン指数が終値で約1年ぶりに21000ポイント台を回復して、リーマンショック以前の水準に戻してきている。また、不動産市場も活況を呈しており、住宅価格は上半期に20%近く上昇している。

この不況とV字回復の背景にあるのが近年顕著な大陸中国への経済依存である。

今回の現地視察を通じて筆者は、まさに香港が大陸中国に飲み込まれるがごとき存在感の高まりを強く感じた。

1.大陸に依存する香港経済
そもそも香港経済はGDPの約9割がサービス産業で占められているのだが、そのなかでも貿易物流業(付加価値ベースでGDPの25.8%(2007年))、金融業(同19.5%)、観光業(同3.4%)、専門業その他(11.0%)が4本柱である(数値の出所は香港政府統計処。以下別段の断りのない限り同じ。)。

このうち、輸入においては大陸中国が全体の46.6%(2008年)を占め、日本(同9.8%)、台湾(同6.3%)が続く。輸出においても大陸中国が48.5%(2008年)を占め、アメリカ(同12.7%)、日本(4.3%)が続いている。

観光業においても大陸中国の存在感は圧倒的であり、大陸中国人は全旅行客の57.1%(2008年)を占め、2位の台湾(7.6%)の約8倍、4位の日本(4.5%)の約13倍となっている。加えて大陸中国人は、筆者のような庶民の日本人観光客と違い、富裕層が多くて香港での一人当たり消費額でも他を圧倒しているという。

すなわち香港は、大陸中国と海外とを結ぶ物流と金融のハブとして機能しており、それを支える弁護士、会計士、コンサルタントなどの専門家が大勢いて、そこに百万ドルの夜景や安いブランド品を求める観光客が大陸中国から押し寄せて、経済全体が回っている構図だ。

2.大陸頼みの景気回復
昨年第2四半期以来香港を襲った景気後退は、世界的な景気後退の結果、大陸中国から欧米などへ向かう最終消費財の流れが細ると同時に、その最終消費財の生産のために日本や台湾から大陸中国へ向かう中間財の流れも減速したことによる。大陸中国と海外を結ぶ物流ハブの香港は、双方向からダブルパンチを食らったのである。

逆に今年第2四半期にGDPがV字回復した主要因は、海外から大陸中国へ向かう物流の回復によるところが大きい。香港から大陸中国への輸出は、昨年10月の1394億香港ドルをピークに急減していたが、今年2月の747億香港ドルで底をつき、3月以降順調な回復を見せて、6月には1132億香港ドルまで戻している。

日欧米がマイナス成長にあえぐ中、大陸中国は4−6月期に7.9%の高成長を達成しており、香港もその恩恵にあずかったのである。2009年第2四半期のGDP成長に対する対中輸出の寄与度は23.2%に上り、他の要因が成長の足を引っ張る中ひとり気を吐いた。

香港対中国輸出額推移
(出所:香港政府統計処)

3.流れ込む大陸マネー
GDPばかりでなく、香港株式市場や不動産市場のV字回復の裏にいるのも大陸中国のようである。

香港金融管理局(HKMA)の統計によれば、7月末のマネーサプライは7710億ドルで、1年前の3240億ドルの倍以上となっている。この過剰流動性が株式市場と不動産市場に流れ込んでバブル的な活況を見せているのだが、中国社会科学院金融研究所の易憲容氏は、「その多くは中国本土の資金だ」と指摘している(8月11日付「香港経済日報」)。

不動産市場では低金利に刺激されて住宅建設が活発化しており、今年上半期の住宅物件取引量は前期比64%増(土地註冊処)となったが、その買い手として大陸中国人が目立つ。特に高級物件では大陸中国の富豪が投資目的に購入を進めていい、前出ジェトロ香港の普家氏によれば「大陸中国人がツアーを組んで投資物件を漁りに来ている」状況だ。

これに伴い住宅価格や家賃も上昇しており、住宅価格の指標である中原城市領先指数は1−7月に19.45%の上昇、家賃相場の指標であるミッドランドリアルティー統計は1−7月に15%の上昇を見せている(8月12日付「文匯報」)。

4.進む一体化
実体経済の回復を上回るペースの資産市場急騰に対して、香港金融管理局も「この状況が続けば資産と消費物価のインフレをもたらし、マクロ経済と金融システムの安定を脅かす」(同局HP)と懸念を表明しているが、香港ドルを米ドルとペッグさせている香港は、アメリカが金融緩和政策を採っている以上、自分だけ金融引き締めに走るのは難しい。

そもそも貿易の約50%が大陸中国を相手にするものであり、大陸中国から他を圧倒する投資や観光客を受けて入れている香港にとっては、もはや米ドルではなく人民元にペッグさせるほうが望ましい現状だ。

いまのところは人民元自体が米ドルに対して小幅な変動に調整されていることによって矛盾が抑え込まれているが、人民元と米ドルとの乖離が拡大すれば、香港ドルも早晩米ドルペッグから人民元ペッグへと移行することになろう。

マーケットもこうした事情は織り込み済みとみられる。前出の中国社会科学院金融研究所・易憲容氏も、香港に流れ込む大陸マネーの背景を「香港ドルが米ドルペッグ制をやめ、人民元にペッグすることによって切り上げられるとみているため」と解説している(8月11日付「香港経済日報」)。

まだ中国返還後の香港について見方が定まっていなかった2002年、筆者は香港大学に提出した修士論文において香港の一国二制度の現状と展望を分析し、「香港は、まず第一段階で大陸中国との経済一体化が否応なく進展し、これによって社会面や政治面での統合が進んで、ついに大陸中国との統合が完成することになるだろう」と結論づけた。

今回の香港視察中、街中を飛び交う「国語」を耳にし、闊歩する多くの大陸中国人を目にし、かつて「香港人」であることに誇りを持っていた友人が「我々は中国人」と言うのに接して、私の予測は徐々に現実になりつつあることを感じた。

(東京財団HPより再掲)
米中戦略・経済対話―米中関係は「世界で最も重要」になったのか? [2009年07月31日(Fri)]
7月27、28日の両日、ワシントンDCで「第1回米中戦略・経済対話」が開催され、アメリカからはオバマ大統領の特別代表としてクリントン国務長官とガイトナー財務長官が、中国からは胡錦濤国家主席の特別代表として王岐山副総理と戴秉国国務委員が対話を主宰した。

27日の開会式には、オバマ大統領も出席し、「米中関係は世界中のどの2国間関係にも劣らず重要だ」と述べたという。これに対して、中国の胡錦濤国家主席も「世界で最も影響力のある国として、両国は人類の平和と発展に重要な責任を負っている」との声明を発表して応じている。

こうした米中の動きを受けて、日本国内では日本の頭越しに米中が歩み寄ることを懸念する報道が目立つ。たとえば日本経済新聞は、28日朝刊の一面で「両国が2国間だけでなく、世界規模の課題を広く話し合う『G2』の枠組み構築に動き出した」と評しているが、この「米中戦略・経済対話」は果たして本当にそれほど大騒ぎをすべきものなのだろうか?


1.初めてではない米中対話
実は、アメリカと中国は、ブッシュ政権時代から既に何度も「戦略対話」や「戦略経済対話」を重ねてきており、2005年8月から2008年12月までに6回の戦略対話、2006年12月から2008年12月までに5回の戦略経済対話が実施されている。出席者レベルについても、ブッシュ政権における戦略経済対話でも両国元首の特別代表が主宰する形で、中国からは今回と同じ王岐山副総理が、米国からは当時のポールソン財務長官が出席していた。

すなわち、今回の「米中戦略・経済対話」は、オバマ政権においては初めての米中間ハイレベル対話であるが、その実は、従来の「米中戦略経済対話」に「・」が加わった(正式には、中国語名称「中美戦略与経済対話」には「与」の字が、英語名称「The China-U.S. Strategic and Economic Dialogue」には「and」が付け足された)だけだと言っても過言ではない。

28日付け「人民網日本語版」は、こうした見方に対して、「(今回の)新たな対話メカニズムはこれまでの中米戦略対話と中米戦略経済対話を統合し、両国の協力を新たなレベルに引き上げるものだ」と反論しているが、ブッシュ政権時代の対話と今回の対話の間で実質的な変化を見出すのは難しい。


2.成熟した日米関係
ただし、見方を変えれば、こうした対話がアメリカの政権交代にかかわらず発展的に継続されているということは、アメリカが引き続き中国を重視している表れでもある。だからこそ、日本の頭越しに米中が歩み寄ることを懸念する向きがあるわけだ。

ただ、こうしたジャパン・パッシングの懸念について、筆者が6月にワシントンDCで聞き込んできた限りでは、アメリカ自身の思惑は違うようである。

国務省日本担当者は、この米中戦略・経済対話の開催について、「日米関係と米中関係を比較すると、日米関係は既に成熟しており、80年代や90年代のように摩擦が生じる状況ではないが、米中関係はこのレベルに達していない。したがって、米国が中国と(副首相クラスの)ハイレベル対話を実施し、日本とは(閣僚クラスの)下位レベルだからと言って、それで日本軽視というわけではない。」と日本側の懸念を笑い飛ばした。

日系人で初めての下院議員や閣僚としてアメリカ政界で長年活躍してきたノーマン・ミネタ氏も「日本は民主主義など多くの価値観をアメリカと共有しており、アメリカが信用する国である。一方、中国とは価値観を共有しておらず、信用できない。いくら中国の経済が急成長しているからと言って、米中関係が日米関係のようなレベルに発展することはないだろう。」との見方を筆者に語った。

また、共和党系シンクタンクの日本専門家は、より端的に「日米間に残された課題は多くない。ジャパン・パッシングとは、アメリカが日本を軽視しているのではなく、日米関係が安定している裏返しだ。」と述べていた。

クリントン国務長官が「日米同盟はアジア政策の要石」と持ち上げて、最初の外遊先として日本を訪れたり、オバマ大統領も日米首脳会談で「東アジアの安全保障の礎石」と日米同盟堅持をうったえて、ホワイトハウスに迎える最初の外国首脳として麻生総理を招いたりしたのは記憶に新しい。

「米中関係は世界中のどの2国間関係にも劣らず重要」であることは否定しないが、裏を返せば、アメリカにとっては中国も日本も同じように重要だと言えよう。オバマ政権の発足にあたって外交政策の政権移行チームはアジア重視を進言したといい、前出とは別の国務省日本担当者は「オバマ政権の日本重視の姿勢は、こうしたアジア重視の流れの中にある。国連安保理やG8など多くの国際会議においても、アメリカは日本の積極的な役割を頼りにしている。」と日本への期待を筆者に述べた。


3.中国も歓迎していないG2
米中のG2構想については、実は中国側でも政府に近い主流派の間ではあまり歓迎されていない。国内きっての国際政治学者として中国共産党の外交ブレーンとも言われる北京大学国際関係学院の王緝思院長は、「安定的な周辺環境のなかで調和のとれた発展を目指す中国にとっては、多くの国との互恵関係の構築こそ目指すべき方向だ」とG2構想に否定的だ。

同様に、中国社会科学院アメリカ研究所の黄平所長も、G2構想が日本、韓国、インドなど中国の周辺国に与える影響に鑑みて、「中国がアメリカとG2の形で世界の業務を取り仕切るという構想は検討に値しない」とする。黄平所長は、アメリカ、日本、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダからなるG7も既に時代遅れであるとして、「中国やインドなどの発展途上国を含むG20の枠組みにおいて、より重要な役割を演じ、グローバルな対話と協力を促進していかなければならない。」という考えを表明している(チャイナ・デイリー2009年3月19日)。

中国外交にとって米国が最も重要な外交相手であることは間違いないだろうが、王緝思院長は、「日本こそ中国にとって二番目に重要な国だ」と主張する。なぜ日本が米国に次いで重要なのか。端的に言えば、日本が中国にとって米国に次いで重要な(単体の)経済パートナー国だからである。加えて、日本には中国が学ぶべき点が数多く存在する。かつて中国は日本の高度成長に学んだ。いまや、成長スピードでは中国が日本を上回るようになったが、例えば、農業効率、環境保護、省エネ・新エネ、ガバナンス、公衆衛生、社会保障など多くの点で日本は世界最先端の技術やノウハウを有しており、「米国以上に学ぶべき点が多い」と王緝思院長は言う。


4.問題は日本自身の政治不安定
ただし、筆者が6月に北京とワシントンDC双方で意見交換をしてきたところでは、安倍政権以来日本の国内政治が安定しないことで対話の相手としての日本への信用が下がっているように感じた。

たとえば、ノーマン・ミネタ氏も「日本経済は不調だが、引き続き日米関係は重要だが、日本の国内政治が安定せず、首相がコロコロ変わることは、日米関係の安定にとっても悪影響だ。」との見方を示した。

前出の共和党系シンクタンクの日本専門家も、「ブッシュ政権は日本を重視していたが、日本の政治的停滞に嫌気がさしているムードがDCにある」と指摘したうえで、「今やアジアの中で中国というカードもあり、マルチの枠組みも利用できるので、日本が頼りにならなければ、そちらを使うことになる。日米安保も、他の手段が有効に働かない時の保険にすぎない。民主党政権になっても、日本の政治的停滞に変化がなければ、日米関係再重視の流れにはならないだろう。」と警告していた。

こうした海外からの声を聞くと、8月30日の総選挙後どんな政権が形成されるにせよ、安定的な政権であってほしいと望むばかりである。それは外交にとって重要であるばかりでなく、国内の生活対策を実施するためにも必要な条件ではないか。

(東京財団HPより再掲)
北朝鮮核開発問題の経緯と展望 [2009年06月22日(Mon)]
6月13日、北朝鮮外務省は、同国が5月25日に実施した2度目の核実験に対する国連安保理制裁決議について「断固として糾弾排撃する」と非難し、(1)新たに抽出するプルトニウム全量の兵器化(2)ウラン濃縮作業への着手、(3)制裁への軍事的対応という三項目の措置を実施するとの声明を発表した。

03年以来北朝鮮核開発問題の解決を模索してきた六カ国協議は暗礁に乗り上げ、問題の行方は非常に不透明だ。いったい、どこでボタンの掛け違いが始まり、何が事態を深刻化させ、今後どこへ向かうのか。


1.米朝相互不信が引き起こしたエスカレーション
北朝鮮核開発問題の発端は90年代前半までさかのぼる。当時すでに北朝鮮が保有を始めていた原子力発電所は黒鉛減速炉によるものであったが、この黒鉛減速炉からは核兵器の原料となる純度の高いプルトニウムが生成されることから、米国政府はその放棄を強く要求したことに端を発する。

北朝鮮が原子力発電所にこだわるのには事情がある。同国の経済発展において電力不足は大きなボトルネックとなっているが、水力発電では冬に水不足となり発電量が落ち、火力発電では石炭がない。この点、北朝鮮は埋蔵量2600万トン、採掘可能量400万トンといわれる世界有数のウラン鉱山を有する(日本経済新聞2002年10月17日)ことから、畢竟、原子力発電に期待がかかるのである。

黒鉛減速炉による原子力発電の放棄を飲まない北朝鮮に対して、米国政府は空爆も辞さない姿勢を見せたが、結局1994年6月、プルトニウムを生成しにくい軽水炉型の原子力発電所を日韓の支援(日本30%、韓国70%)によって提供するとともに、その完成までは米国が火力発電用の重油を提供することで関係国(北朝鮮、米国、日本、韓国、中国、ロシア)の間に合意(いわゆる「枠組み合意」)が成立し、北朝鮮は黒鉛減速炉による発電を中止した。

そのまま枠組み合意にそって進んでくれれば良かったのだが、事はそれほど単純でない。2003年の稼動開始を予定していた軽水炉は、韓国型軽水炉の導入に北朝鮮側が反発したことなどにより工期が大幅に遅れた。

そうした状況下で、2002年10月、訪朝したケリー米国国務次官補が核兵器開発につながるウラン濃縮を北朝鮮が行っていると指摘したことで、事態は暗転する。ケリー国務長官が訪朝初日に核開発疑惑を強く主張したことに対し、北朝鮮側は協議2日目に「われわれは高濃縮ウラン(HEU)計画を推進する権利があり、さらに強力な兵器も作ることができる」と強がりを見せたのである。

結局、米国側の非難に反発した北朝鮮はIAEA査察チームを国外退去させ、黒鉛減速炉による発電を再開して、IAEAから脱退してしまった。1994年に続く第2次北朝鮮核危機である。

「第2次核危機は米国が招いたと言っても過言ではない」と、中国の元駐北朝鮮武官は言う。02年時点で、米国は北朝鮮の核開発について100%の確証を握っていたわけではない。にもかかわらず、ケリー国務次官補は訪朝するなり「北朝鮮は核開発を行っている」と強く非難したことが事態を複雑化させた発端だったと、この元武官は分析する。

実際、北朝鮮は2002年10月25日に「米国は何の証拠もなくわが国がウラン濃縮による核兵器開発を推進していると言いがかりをつけている」との外務省代弁人談話を発表している。ボタンの掛け違いは、このあたりから始まったといえよう。

2005年2月には、北朝鮮政府は核拡散防止条約 (NPT) からの脱退し、核兵器保有宣言を行った。これを受けてKEDOは、11月に軽水炉建設事業を廃止することで合意したが、これが北朝鮮のさらなる反発を招いて、「ブッシュ政権はわが国に対する軽水炉提供を放棄した」と米国を非難、黒鉛減速炉と軽水炉の独自開発路線を打ち出した。

その後、2005年9月には、六カ国協議での交渉の末、北朝鮮が「すべての核兵器と核開発計画を放棄する」一方、米国は北朝鮮を攻撃する意思がないことを確認したことで、いったん事態が好転するのだが、それも束の間であった。この合意の裏側で米国がマカオの銀行バンコ・デルタ・アジアに北朝鮮が保有する資金を凍結したことで、六カ国協議は再び膠着局面に入る。

こうした米朝間の相互不信の積み重ねの結果、北朝鮮は2006年10月に核実験の断行へと踏み切り、今年5月25日には2度目の核実験まで断行するに至るのである。


2.北朝鮮の戦略変化
北朝鮮の外交にとって最も重要なのは、言うまでもなく、米朝関係である。もともと北朝鮮外交は、(1)米国との直接交渉により自国の安全を確保するとともに、(2)これによって国際社会への扉を開いて各国から支援を得ることを当面の目的にしていたと考えられる。

前出の元武官によれば、02年頃の北朝鮮は核開発について二つの選択肢の間で揺れていたという。一つは核保有による安全確保。歴史を振り返っても核保有国が攻め込まれたことはなく、北朝鮮は、イラク戦争でフセイン政権が転覆させられた過程を見て核保有の考えを強めたとされる。もう一つの選択肢は、核放棄による安全確保と支援確保だ。

この二つの選択肢について、当時、中国は「北朝鮮の持ちうる核兵器は米国にとって直接的な脅威とはならず、したがって核抑止による安全確保には役立たない」「むしろ核を持つことによって、危険国として米ロに攻撃の口実を与える」と北朝鮮に核保有を思いとどまるように説得したそうだ。

しかし、もともと金正日と軍は核保有に傾きがちであったなか、先に見たとおり02年10月以降米朝間の相互不信が急速に高まるにつれて、北朝鮮は核保有の方向へと自らを追い込んでいくことになる。

北朝鮮は、2006年の第一回核実験の頃には「朝鮮半島の非核化を実現」するために米国との直接交渉を望む声明を出し、まだ対立回避の姿勢を見せていた。しかし、今回の核実験に際しては、6月12日に「「制裁」には報復で、「対決」には全面対決で断固立ち向かうのがわれわれの先軍思想に基づいた対応方式である」と、米国との対立も辞さない姿勢を打ち出している。

すなわち、北朝鮮は、核開発をカードに米国を交渉のテーブルに座らせて自国の安全確保と経済封鎖の打破を図ろうとする戦略から、核兵器の抑止力により自国の安全を図ろという戦略へと変化させつつあるように見えるのである。それは、北朝鮮にとってもより危険な立場へと自らを追い込む道にも思えるが、周辺国とりわけ韓国と日本にとっては無視し得ない脅威が裏庭に出現する道でもある。


3.今後の展望
北朝鮮核開発問題の行方を予想するに当たっては、同国の国内要因を意識せざるを得ない。韓国の国家情報院は、金正日氏の後継として三男の金正雲氏が指名されたとの観測を明らかにした上で、今年に入って以来一連の核開発の急転は政権承継のために「慎重な検討」を経て決定されたものだと分析している。

国内での権力掌握のために強硬な対外政策が必要になるとすれば、北朝鮮が事態をエスカレートさせてくる可能性は高い。逆に言えば、北朝鮮が核開発の中止ないし放棄の引き換えに提示する条件は、かなりハードルが高くなるだろう。軽水炉の提供、米国との国交正常化に加え、韓国に対する「核の傘」も取り払うよう要求することが予想される。

これに対して日米韓は、北朝鮮の核開発を阻止するため、国連安保理が6月12日に採択した新制裁決議を厳格に履行し、関連禁輸物資に関する貨物検査や開発資金に関する金融制裁などを実施することになっている。

こうした経済制裁は、たしかに北朝鮮の核開発を遅らせることには効果があるかもしれないが、これだけでは北朝鮮に核開発を断念させることは難しいように思う。

では、米国がミサイルによって北朝鮮の核開発施設を破壊すればよいかと言えば、事はそれほど単純ではない。もし北朝鮮の核開発施設を破壊するとすれば、北朝鮮は日本や韓国にミサイル攻撃などで報復する可能性がある。すなわち、北朝鮮の抑止力は米国には遠く届かないとしても、米国の同盟国たる日本や韓国は人質に取られている状況にあると言える。

この点、日本や韓国の国内世論は、北朝鮮の報復リスクを甘受してでも北朝鮮の核開発施設を破壊することを望む状況にはなく、米国にとっても経済危機とイラク問題への対応に忙しいなか極東を混乱に陥れるような手段を取る合理的理由は持ち合わせていない。

また、北朝鮮に対して天然ガスなどのライフラインを供給している中国が、同国に核開発断念を迫るべく制裁を強めるべきとする向きもあるが、実際には、中国に大きな期待をかけることは現実的でない。

確かに北朝鮮の核開発は、暴発すれば中国東北部にも影響が及ぶ上、これに刺激されて北東アジアで核軍拡が進む恐れもあることから、中国にとっても大きな懸案ではある。しかしながら、北朝鮮に本気で制裁を加えて体制崩壊させれば、大量の難民が中国に流れ込むなど、その混乱の影響は深刻に中国へ跳ね返る。両者のリスクと比較考量すれば、中国にとって、北朝鮮の息の根を止めることも辞さないほどの強い働きかけは合理的選択肢ではなかろう。

北朝鮮にしてみれば、米中ともに最後のカードを切る勇気を持ち合わせていない状況を見越して、核開発を急いでいるのだと考えられる。


4.結語
では、日本にとって深刻な脅威である北朝鮮の核開発を、我々は指をくわえて見ているしかないのであろうか。

ここで、北朝鮮の外交目的を今一度思い起こしてみたい。北朝鮮にとって核開発は、06年当時から現在にかけて使い方が変化しつつあるとはいえ、自国の安全を米国に約束させつつ、国際社会への扉を開いて支援を得るための外交ツールであることに変わりはない。

しかしながら、この外交目的は今なお達成されておらず、それは仮に核保有に成功したとしても自動的に達成されるものではない。北朝鮮の外交目的が達成されるのは、米国が北朝鮮の威嚇外交に屈するか、北朝鮮が自らエスカレーションの階段を下りてくるか、どちらかのシナリオしかないのだ。

したがって、残念ながら北朝鮮に今すぐ核開発を断念させる決め手がないのが現実である以上、日米サイドとしては、決して北朝鮮の威嚇外交に屈して妥協することなく、その強硬路線が功を奏しないというメッセージを有形無形に発し続け、北朝鮮国内情勢の変化のような事態冷却化のきっかけを待つほかないように思える。
梁光烈・中国国防相、北朝鮮、核削減、空母を語る [2009年06月22日(Mon)]
6月8日、笹川平和財団の交流事業として訪中した佐官級自衛官13名が梁光烈・国防部長を表敬し、中国人民解放軍が直面する諸問題について意見交換を行った。

今年で9回目となるこの日中防衛交流は、両国間の政治情勢が低調だった時期にも途絶えることなく、日中の防衛当局間の信頼醸成に貢献してきている。この点、梁光烈・国防部長も高く評価し、今後の末永い継続に期待を表したという。

表敬後に日本側代表者によって行われた記者ブリーフによれば、北朝鮮の核実験、オバマ大統領の核兵器削減呼びかけ、空母の導入など、中国人民解放軍が直面するさまざまな問題について、梁光烈・国防部長は1時間の時間を割いて自衛官各位に率直な見解を述べたという。

以下、この記者ブリーフで明らかにされた梁光烈・国防部長を紹介しつつ、筆者なりの分析を加えてみたい。


1.北朝鮮の核実験
国際社会の非難を省みず2度目の核実験を敢行した北朝鮮について、欧米諸国には「北朝鮮に対して影響力を有する中国が、北朝鮮の自制に向けてもっと積極的な役割を果たすべきではないか」とする向きが少なくない。

こうした国際社会の言い分に対して、梁部長は声を荒げながら以下の3点を指摘したという。

「中国は北朝鮮に影響力を発揮していないというが、北朝鮮問題は関係国が多く複雑な問題であり、その解決を中国だけに押し付けるのは不公平だ。」

「中国は当初から北朝鮮の核開発に反対の立場を明確にしてきており、その解決に向けては引き続き6カ国協議を重視している。中国が6カ国協議で果たしてきた役割については国際社会も理解しているだろう。」

「北朝鮮は主権国家であり、他国の指示を受けるものではない。中国といえども、何かを言えば北朝鮮がすぐに従うというものではない。この問題の解決には辛抱強い交渉が必要であり、6カ国協議各国には冷静な対応を呼びかけている。」

こうした発言からは、暴走する北朝鮮の扱いに手を焼いている様子が伺える。北朝鮮に本気で制裁を加えて体制崩壊させれば、大量の難民が中国に流れ込むなど、その混乱の影響は深刻に中国へ跳ね返る。

一方で、北朝鮮の暴走を放置して軍事的緊張が高まるような事態も避けたい。その足元を見透かすように強硬策を繰り返す北朝鮮に、梁部長も苛立ちを隠せないといったところだろう。


2.オバマ大統領の核兵器削減呼びかけ
核兵器については、米国のオバマ大統領が国際社会に削減を呼びかけている。この点、核保有国の中国はこの呼びかけに応じる用意はあるのか?

この質問について、梁部長の回答は以下のとおりであったという。

「オバマ大統領の呼びかけは歓迎する。」

「ただし、中国は多少の核兵器を有するものの核大国ではない。核を有する他の各国がオバマ大統領の呼びかけに応じるようであれば、中国もこれに対応していく。」

なるほど中国は核保有国ではあるが、その保有量は米国やロシアに遠く及ばない。核兵器削減を叫ぶなら、まず米国自身が大幅削減をして範を示するとともに、ロシアを説得して同様に大幅削減させるべきというのが中国の言い分だ。

そうした点を踏まえれば、梁部長の発言は、米ロの核兵器保有量が大幅削減されて中国の現状に近づき、他の核保有国もこうした流れに追従する状況になってはじめて中国も核兵器削減を考えるということを意味しているように聞こえよう。


3.空母の保有
中国軍に関するホットイシューは、空母保有の可能性である。今年3月、浜田靖一防衛大臣が訪中した際、梁部長は浜田大臣との会談中に「中国が永遠に空母を持たないというわけにはいかない」と語ったと日本のメディアでは伝えられた。この点、改めて梁部長に問うたところ、以下のように述べたそうだ。

「日本では、正式会談終了後に浜田大臣と交わした会話が曲解されて報道されたようだが、私の認識では、中国が空母を持つか持たないかを騒ぎ立てる必要はないと考える。」

「中国は広い領海を有し、その主権を守らねばならないが、一方で海軍の近代化は遅れてる。空母の導入は、そうした様々な要因を総合的に勘案すべき話であり、具体的には現在検討中である。結論が出れば、もちろん公表する。」

日中関係筋によれば、3月の報道は日本側による少々ミスリーディングな記者ブリーフが招いたものであって、梁部長は浜田大臣にも同様に「空母の保有については、まだ検討中である」と伝えたそうだ。

ただ、いずれにせよ、空母保有を決して否定しない梁部長の言葉からは、その保有は既に規定路線であるが公式発表する段階にないだけだという含意が感じられる。

中国と東シナ海で接し、一部では「主権」争いを有する日本としては、中国海軍による空母建造の行方は安全保障上の重大な関心事である。決して「騒ぎ立てる必要はない」問題ではなかろう。


4.中国軍の行く末と日本
空母に代表されるとおり、中国軍の行く末は日本の安全保障に重大な影響を与えるものである。梁部長が、1時間にわたる表敬の最後に、中国軍の発展方向について以下のように語ったそうだ。

「中国は、自国を取り巻く安全情勢に鑑みて、必要な軍事力を発展させていく。特に、情報化への対応が遅れていると認識しており、その対応を急がねばなるまい。」

朝鮮半島、東シナ海、南シナ海、中央アジアなど、中国の周辺は安全情勢の不安定要素に囲まれている。これに対応するに十分な軍事力の近代化を進めていくということだが、それは多くの安全保障問題で中国と対立的な利害を有する日本から見れば潜在的脅威の増大に他ならない。

日本は、東アジアの不安定な安全環境に自らも身を置いているという現実を見据えて、少なくともアメリカによる直接介入の期待が薄い局地的な衝突には自国で対応しうる実力を備え、もって海外からの敵対的な行動を抑止することが極めて重要であることは言を待たない。

一方で、北朝鮮によるミサイル発射や核実験を受けて日本でも策源地攻撃能力を巡る議論がにわかに盛り上がっているが、こうした日本の動きが東アジアの安全情勢に波紋を投げかけ、「安全保障のジレンマ」を起こすのも事実である。

したがって、日本の安全確保のためには周辺の安全環境に対応した実力を整備していくと同時に、周辺国との間で「安全保障のジレンマ」の連鎖的高まりを防ぎ、相互の情報不足による誤解や計算違いが不測の衝突につながることのないように日ごろから信頼醸成に努めることが欠かせない。

日中両国の国防当局が、民間団体の仲立ちにより、政治環境の浮き沈みに左右されることなく佐官級幹部の交流を続けているのも、こうした信頼醸成の重要性を双方が理解しているからだろう。「継続は力なり」である。来年で10周年を迎える同事業が、引き続き継続されていくことを期待したい。
「アジア通貨基金」の意義と課題 [2009年05月12日(Tue)]
5月3日、インドネシアのバリ島で開かれたASEAN+3財務大臣会議は、事実上の「アジア通貨基金」設立に向け具体的な行動計画に合意した。

現在の世界金融危機に対して、4月に行われた金融サミットでは国際通貨基金(IMF)の強化を議論した。IMFは、加盟国のマクロ経済監視による「金融危機の予防機能」と外貨不足に陥った加盟国への融資による「金融危機の対応機能」を担っている。

確かに、国際金融の安定にとってIMFが果たすべき役割は重要なのであるが、しかし、IMFだけでは万全でない可能性もある。IMFを補完して、アジア域内の外貨不足に対処するために、アジア諸国が協力する枠組みが存在することは好ましいことだ。

韓国メディアも、去年の10月に、「豊富な外貨準備を持つ韓国、中国、日本の3カ国が軸となり、輸出低迷などによるドル資金不足に対応し、外貨準備の共有チャンネルを確保すべきだ」とアジア通貨基金の創設を一斉に取り上げていた。

そもそも、アジア通貨基金構想は、97年のアジア通貨危機の際に、日本が積極的に提唱した考えである。しかし、当時は、東アジアにおける自国とIMFの影響力低下を恐れたアメリカがアジア版IMF構想に反対し、また、通貨金融危機の影響を受けていなかった中国も日本の影響力拡大を好ましく思わず消極的であったため、結局アジア版IMFは実現しなかったと日本では理解されている。

日本は、97年にアジア版IMF構想が頓挫した後、これに代わるものとして、対外債務の返済が困難になった国にドルを融通する「チェンマイ・イニシアチブ(CMI)」の構築を主導し、現時点では16本の二国間協定がASEAN+3諸国の間で締結されている。

今年2月に開催されたASEAN+3財相会議において、(1)CMIの総額を800億ドルから総額1200億ドルへ増額すること、(2)域内の経済や為替、金融監督を一元的に監視する独立した事務局を設立すること、(3)二国間協定の内容を一本化し、支援決定時に関係国が1カ所に集まって意思決定する仕組みを整えることを既に合意していた。いわゆる「CMIのマルチ化」である。

先日インドネシアで開催されたASEAN+3財相会議では、この計画を年内に実現するために、(1)資金総額1200億ドルのうち、日中韓で全体の8割を負担すること、(2)監視活動の基盤となる専門家会合することが合意された。

これらの計画が実現すれば、事実上「アジア通貨基金」ができることになる。従来の二国間協定に基づく外貨融通の仕組みの下では、危機に陥った国が各国と個別に支援交渉をしなければならないため、機動性に欠ける。しかし、CMIのマルチ化によって、支援決定時に関係国が1カ所に集まって意思決定する仕組みが構築されれば、支援の規模と速度は大きく向上する可能性がある。すなわち、IMFの「金融危機の対応機能」を補完することになる。

また、域内の経済や為替、金融監督を一元的に監視する独立した事務局が設置されれば、危機の予兆を事前に察知し、その深刻化を防ぐことが可能となる。これは、IMFの「金融危機の予防機能」の補完である。

しかし、97年当時に「アジア通貨基金」設立に反対したアメリカは、今回再びアジアで生じているこの動きを妨害することはないのであろうか?筆者は、アメリカが反対することはないと考えている。日本や中国の台頭を過度に警戒していた90年代のアメリカとは異なり、近年のアメリカはアジアの域内協力の進展に寛容である。また、97年当時のアメリカは自国経済が好調であり、アジア通貨危機から特段の影響を受けなかったが、現在のアメリカは、もしもアジアで金融危機が発生すれば、その信用不安が自国経済にも悪影響を受ける可能性がある。したがって、金融危機の予防と対応のためにアジア諸国が協力してコストを払うなら、アメリカとして反対する理由はないだろう。

むしろ、「アジア通貨基金」の障害は域内にこそ潜んでいる。もしも支援決定時の意思決定が関係国の全会一致方式となれば、関係国間の意見や利害がそろわず、かえって支援の機動性と効率性を損ねる可能性がある。意思決定の方式は今後の協議で決定されるが、多くの資金を提供する日中韓の三国は互いに意思決定における重大な権限を要求するだろう。こうした域内国の意見がまとまらなければ、「CMIのマルチ化」または「アジア通貨基金」の実現は難しい。仮に制度が実現しても、その運用過程において、日中韓を中心とする関係国の意見が対立すれば、支援の効率性は著しく失われるだろう。

また、ASEANの中にはマクロ経済統計の作成能力が低い国や経済情勢の公表を拒む国もある中、域内の経済や為替、金融監督を一元的に監視する独立した事務局が、どれほど有効に機能できるかについても疑問が残る。これも、今後の協議における課題であると同時に、制度発足後の運用面の課題でもある。

「アジア通貨基金」の成否は、この地域で実効性ある地域協力が可能かどうかの試金石であると言えよう。