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北朝鮮核開発問題の経緯と展望 [2009年06月22日(月)]
6月13日、北朝鮮外務省は、同国が5月25日に実施した2度目の核実験に対する国連安保理制裁決議について「断固として糾弾排撃する」と非難し、(1)新たに抽出するプルトニウム全量の兵器化(2)ウラン濃縮作業への着手、(3)制裁への軍事的対応という三項目の措置を実施するとの声明を発表した。

03年以来北朝鮮核開発問題の解決を模索してきた六カ国協議は暗礁に乗り上げ、問題の行方は非常に不透明だ。いったい、どこでボタンの掛け違いが始まり、何が事態を深刻化させ、今後どこへ向かうのか。


1.米朝相互不信が引き起こしたエスカレーション
北朝鮮核開発問題の発端は90年代前半までさかのぼる。当時すでに北朝鮮が保有を始めていた原子力発電所は黒鉛減速炉によるものであったが、この黒鉛減速炉からは核兵器の原料となる純度の高いプルトニウムが生成されることから、米国政府はその放棄を強く要求したことに端を発する。

北朝鮮が原子力発電所にこだわるのには事情がある。同国の経済発展において電力不足は大きなボトルネックとなっているが、水力発電では冬に水不足となり発電量が落ち、火力発電では石炭がない。この点、北朝鮮は埋蔵量2600万トン、採掘可能量400万トンといわれる世界有数のウラン鉱山を有する(日本経済新聞2002年10月17日)ことから、畢竟、原子力発電に期待がかかるのである。

黒鉛減速炉による原子力発電の放棄を飲まない北朝鮮に対して、米国政府は空爆も辞さない姿勢を見せたが、結局1994年6月、プルトニウムを生成しにくい軽水炉型の原子力発電所を日韓の支援(日本30%、韓国70%)によって提供するとともに、その完成までは米国が火力発電用の重油を提供することで関係国(北朝鮮、米国、日本、韓国、中国、ロシア)の間に合意(いわゆる「枠組み合意」)が成立し、北朝鮮は黒鉛減速炉による発電を中止した。

そのまま枠組み合意にそって進んでくれれば良かったのだが、事はそれほど単純でない。2003年の稼動開始を予定していた軽水炉は、韓国型軽水炉の導入に北朝鮮側が反発したことなどにより工期が大幅に遅れた。

そうした状況下で、2002年10月、訪朝したケリー米国国務次官補が核兵器開発につながるウラン濃縮を北朝鮮が行っていると指摘したことで、事態は暗転する。ケリー国務長官が訪朝初日に核開発疑惑を強く主張したことに対し、北朝鮮側は協議2日目に「われわれは高濃縮ウラン(HEU)計画を推進する権利があり、さらに強力な兵器も作ることができる」と強がりを見せたのである。

結局、米国側の非難に反発した北朝鮮はIAEA査察チームを国外退去させ、黒鉛減速炉による発電を再開して、IAEAから脱退してしまった。1994年に続く第2次北朝鮮核危機である。

「第2次核危機は米国が招いたと言っても過言ではない」と、中国の元駐北朝鮮武官は言う。02年時点で、米国は北朝鮮の核開発について100%の確証を握っていたわけではない。にもかかわらず、ケリー国務次官補は訪朝するなり「北朝鮮は核開発を行っている」と強く非難したことが事態を複雑化させた発端だったと、この元武官は分析する。

実際、北朝鮮は2002年10月25日に「米国は何の証拠もなくわが国がウラン濃縮による核兵器開発を推進していると言いがかりをつけている」との外務省代弁人談話を発表している。ボタンの掛け違いは、このあたりから始まったといえよう。

2005年2月には、北朝鮮政府は核拡散防止条約 (NPT) からの脱退し、核兵器保有宣言を行った。これを受けてKEDOは、11月に軽水炉建設事業を廃止することで合意したが、これが北朝鮮のさらなる反発を招いて、「ブッシュ政権はわが国に対する軽水炉提供を放棄した」と米国を非難、黒鉛減速炉と軽水炉の独自開発路線を打ち出した。

その後、2005年9月には、六カ国協議での交渉の末、北朝鮮が「すべての核兵器と核開発計画を放棄する」一方、米国は北朝鮮を攻撃する意思がないことを確認したことで、いったん事態が好転するのだが、それも束の間であった。この合意の裏側で米国がマカオの銀行バンコ・デルタ・アジアに北朝鮮が保有する資金を凍結したことで、六カ国協議は再び膠着局面に入る。

こうした米朝間の相互不信の積み重ねの結果、北朝鮮は2006年10月に核実験の断行へと踏み切り、今年5月25日には2度目の核実験まで断行するに至るのである。


2.北朝鮮の戦略変化
北朝鮮の外交にとって最も重要なのは、言うまでもなく、米朝関係である。もともと北朝鮮外交は、(1)米国との直接交渉により自国の安全を確保するとともに、(2)これによって国際社会への扉を開いて各国から支援を得ることを当面の目的にしていたと考えられる。

前出の元武官によれば、02年頃の北朝鮮は核開発について二つの選択肢の間で揺れていたという。一つは核保有による安全確保。歴史を振り返っても核保有国が攻め込まれたことはなく、北朝鮮は、イラク戦争でフセイン政権が転覆させられた過程を見て核保有の考えを強めたとされる。もう一つの選択肢は、核放棄による安全確保と支援確保だ。

この二つの選択肢について、当時、中国は「北朝鮮の持ちうる核兵器は米国にとって直接的な脅威とはならず、したがって核抑止による安全確保には役立たない」「むしろ核を持つことによって、危険国として米ロに攻撃の口実を与える」と北朝鮮に核保有を思いとどまるように説得したそうだ。

しかし、もともと金正日と軍は核保有に傾きがちであったなか、先に見たとおり02年10月以降米朝間の相互不信が急速に高まるにつれて、北朝鮮は核保有の方向へと自らを追い込んでいくことになる。

北朝鮮は、2006年の第一回核実験の頃には「朝鮮半島の非核化を実現」するために米国との直接交渉を望む声明を出し、まだ対立回避の姿勢を見せていた。しかし、今回の核実験に際しては、6月12日に「「制裁」には報復で、「対決」には全面対決で断固立ち向かうのがわれわれの先軍思想に基づいた対応方式である」と、米国との対立も辞さない姿勢を打ち出している。

すなわち、北朝鮮は、核開発をカードに米国を交渉のテーブルに座らせて自国の安全確保と経済封鎖の打破を図ろうとする戦略から、核兵器の抑止力により自国の安全を図ろという戦略へと変化させつつあるように見えるのである。それは、北朝鮮にとってもより危険な立場へと自らを追い込む道にも思えるが、周辺国とりわけ韓国と日本にとっては無視し得ない脅威が裏庭に出現する道でもある。


3.今後の展望
北朝鮮核開発問題の行方を予想するに当たっては、同国の国内要因を意識せざるを得ない。韓国の国家情報院は、金正日氏の後継として三男の金正雲氏が指名されたとの観測を明らかにした上で、今年に入って以来一連の核開発の急転は政権承継のために「慎重な検討」を経て決定されたものだと分析している。

国内での権力掌握のために強硬な対外政策が必要になるとすれば、北朝鮮が事態をエスカレートさせてくる可能性は高い。逆に言えば、北朝鮮が核開発の中止ないし放棄の引き換えに提示する条件は、かなりハードルが高くなるだろう。軽水炉の提供、米国との国交正常化に加え、韓国に対する「核の傘」も取り払うよう要求することが予想される。

これに対して日米韓は、北朝鮮の核開発を阻止するため、国連安保理が6月12日に採択した新制裁決議を厳格に履行し、関連禁輸物資に関する貨物検査や開発資金に関する金融制裁などを実施することになっている。

こうした経済制裁は、たしかに北朝鮮の核開発を遅らせることには効果があるかもしれないが、これだけでは北朝鮮に核開発を断念させることは難しいように思う。

では、米国がミサイルによって北朝鮮の核開発施設を破壊すればよいかと言えば、事はそれほど単純ではない。もし北朝鮮の核開発施設を破壊するとすれば、北朝鮮は日本や韓国にミサイル攻撃などで報復する可能性がある。すなわち、北朝鮮の抑止力は米国には遠く届かないとしても、米国の同盟国たる日本や韓国は人質に取られている状況にあると言える。

この点、日本や韓国の国内世論は、北朝鮮の報復リスクを甘受してでも北朝鮮の核開発施設を破壊することを望む状況にはなく、米国にとっても経済危機とイラク問題への対応に忙しいなか極東を混乱に陥れるような手段を取る合理的理由は持ち合わせていない。

また、北朝鮮に対して天然ガスなどのライフラインを供給している中国が、同国に核開発断念を迫るべく制裁を強めるべきとする向きもあるが、実際には、中国に大きな期待をかけることは現実的でない。

確かに北朝鮮の核開発は、暴発すれば中国東北部にも影響が及ぶ上、これに刺激されて北東アジアで核軍拡が進む恐れもあることから、中国にとっても大きな懸案ではある。しかしながら、北朝鮮に本気で制裁を加えて体制崩壊させれば、大量の難民が中国に流れ込むなど、その混乱の影響は深刻に中国へ跳ね返る。両者のリスクと比較考量すれば、中国にとって、北朝鮮の息の根を止めることも辞さないほどの強い働きかけは合理的選択肢ではなかろう。

北朝鮮にしてみれば、米中ともに最後のカードを切る勇気を持ち合わせていない状況を見越して、核開発を急いでいるのだと考えられる。


4.結語
では、日本にとって深刻な脅威である北朝鮮の核開発を、我々は指をくわえて見ているしかないのであろうか。

ここで、北朝鮮の外交目的を今一度思い起こしてみたい。北朝鮮にとって核開発は、06年当時から現在にかけて使い方が変化しつつあるとはいえ、自国の安全を米国に約束させつつ、国際社会への扉を開いて支援を得るための外交ツールであることに変わりはない。

しかしながら、この外交目的は今なお達成されておらず、それは仮に核保有に成功したとしても自動的に達成されるものではない。北朝鮮の外交目的が達成されるのは、米国が北朝鮮の威嚇外交に屈するか、北朝鮮が自らエスカレーションの階段を下りてくるか、どちらかのシナリオしかないのだ。

したがって、残念ながら北朝鮮に今すぐ核開発を断念させる決め手がないのが現実である以上、日米サイドとしては、決して北朝鮮の威嚇外交に屈して妥協することなく、その強硬路線が功を奏しないというメッセージを有形無形に発し続け、北朝鮮国内情勢の変化のような事態冷却化のきっかけを待つほかないように思える。
梁光烈・中国国防相、北朝鮮、核削減、空母を語る [2009年06月22日(月)]
6月8日、笹川平和財団の交流事業として訪中した佐官級自衛官13名が梁光烈・国防部長を表敬し、中国人民解放軍が直面する諸問題について意見交換を行った。

今年で9回目となるこの日中防衛交流は、両国間の政治情勢が低調だった時期にも途絶えることなく、日中の防衛当局間の信頼醸成に貢献してきている。この点、梁光烈・国防部長も高く評価し、今後の末永い継続に期待を表したという。

表敬後に日本側代表者によって行われた記者ブリーフによれば、北朝鮮の核実験、オバマ大統領の核兵器削減呼びかけ、空母の導入など、中国人民解放軍が直面するさまざまな問題について、梁光烈・国防部長は1時間の時間を割いて自衛官各位に率直な見解を述べたという。

以下、この記者ブリーフで明らかにされた梁光烈・国防部長を紹介しつつ、筆者なりの分析を加えてみたい。


1.北朝鮮の核実験
国際社会の非難を省みず2度目の核実験を敢行した北朝鮮について、欧米諸国には「北朝鮮に対して影響力を有する中国が、北朝鮮の自制に向けてもっと積極的な役割を果たすべきではないか」とする向きが少なくない。

こうした国際社会の言い分に対して、梁部長は声を荒げながら以下の3点を指摘したという。

「中国は北朝鮮に影響力を発揮していないというが、北朝鮮問題は関係国が多く複雑な問題であり、その解決を中国だけに押し付けるのは不公平だ。」

「中国は当初から北朝鮮の核開発に反対の立場を明確にしてきており、その解決に向けては引き続き6カ国協議を重視している。中国が6カ国協議で果たしてきた役割については国際社会も理解しているだろう。」

「北朝鮮は主権国家であり、他国の指示を受けるものではない。中国といえども、何かを言えば北朝鮮がすぐに従うというものではない。この問題の解決には辛抱強い交渉が必要であり、6カ国協議各国には冷静な対応を呼びかけている。」

こうした発言からは、暴走する北朝鮮の扱いに手を焼いている様子が伺える。北朝鮮に本気で制裁を加えて体制崩壊させれば、大量の難民が中国に流れ込むなど、その混乱の影響は深刻に中国へ跳ね返る。

一方で、北朝鮮の暴走を放置して軍事的緊張が高まるような事態も避けたい。その足元を見透かすように強硬策を繰り返す北朝鮮に、梁部長も苛立ちを隠せないといったところだろう。


2.オバマ大統領の核兵器削減呼びかけ
核兵器については、米国のオバマ大統領が国際社会に削減を呼びかけている。この点、核保有国の中国はこの呼びかけに応じる用意はあるのか?

この質問について、梁部長の回答は以下のとおりであったという。

「オバマ大統領の呼びかけは歓迎する。」

「ただし、中国は多少の核兵器を有するものの核大国ではない。核を有する他の各国がオバマ大統領の呼びかけに応じるようであれば、中国もこれに対応していく。」

なるほど中国は核保有国ではあるが、その保有量は米国やロシアに遠く及ばない。核兵器削減を叫ぶなら、まず米国自身が大幅削減をして範を示するとともに、ロシアを説得して同様に大幅削減させるべきというのが中国の言い分だ。

そうした点を踏まえれば、梁部長の発言は、米ロの核兵器保有量が大幅削減されて中国の現状に近づき、他の核保有国もこうした流れに追従する状況になってはじめて中国も核兵器削減を考えるということを意味しているように聞こえよう。


3.空母の保有
中国軍に関するホットイシューは、空母保有の可能性である。今年3月、浜田靖一防衛大臣が訪中した際、梁部長は浜田大臣との会談中に「中国が永遠に空母を持たないというわけにはいかない」と語ったと日本のメディアでは伝えられた。この点、改めて梁部長に問うたところ、以下のように述べたそうだ。

「日本では、正式会談終了後に浜田大臣と交わした会話が曲解されて報道されたようだが、私の認識では、中国が空母を持つか持たないかを騒ぎ立てる必要はないと考える。」

「中国は広い領海を有し、その主権を守らねばならないが、一方で海軍の近代化は遅れてる。空母の導入は、そうした様々な要因を総合的に勘案すべき話であり、具体的には現在検討中である。結論が出れば、もちろん公表する。」

日中関係筋によれば、3月の報道は日本側による少々ミスリーディングな記者ブリーフが招いたものであって、梁部長は浜田大臣にも同様に「空母の保有については、まだ検討中である」と伝えたそうだ。

ただ、いずれにせよ、空母保有を決して否定しない梁部長の言葉からは、その保有は既に規定路線であるが公式発表する段階にないだけだという含意が感じられる。

中国と東シナ海で接し、一部では「主権」争いを有する日本としては、中国海軍による空母建造の行方は安全保障上の重大な関心事である。決して「騒ぎ立てる必要はない」問題ではなかろう。


4.中国軍の行く末と日本
空母に代表されるとおり、中国軍の行く末は日本の安全保障に重大な影響を与えるものである。梁部長が、1時間にわたる表敬の最後に、中国軍の発展方向について以下のように語ったそうだ。

「中国は、自国を取り巻く安全情勢に鑑みて、必要な軍事力を発展させていく。特に、情報化への対応が遅れていると認識しており、その対応を急がねばなるまい。」

朝鮮半島、東シナ海、南シナ海、中央アジアなど、中国の周辺は安全情勢の不安定要素に囲まれている。これに対応するに十分な軍事力の近代化を進めていくということだが、それは多くの安全保障問題で中国と対立的な利害を有する日本から見れば潜在的脅威の増大に他ならない。

日本は、東アジアの不安定な安全環境に自らも身を置いているという現実を見据えて、少なくともアメリカによる直接介入の期待が薄い局地的な衝突には自国で対応しうる実力を備え、もって海外からの敵対的な行動を抑止することが極めて重要であることは言を待たない。

一方で、北朝鮮によるミサイル発射や核実験を受けて日本でも策源地攻撃能力を巡る議論がにわかに盛り上がっているが、こうした日本の動きが東アジアの安全情勢に波紋を投げかけ、「安全保障のジレンマ」を起こすのも事実である。

したがって、日本の安全確保のためには周辺の安全環境に対応した実力を整備していくと同時に、周辺国との間で「安全保障のジレンマ」の連鎖的高まりを防ぎ、相互の情報不足による誤解や計算違いが不測の衝突につながることのないように日ごろから信頼醸成に努めることが欠かせない。

日中両国の国防当局が、民間団体の仲立ちにより、政治環境の浮き沈みに左右されることなく佐官級幹部の交流を続けているのも、こうした信頼醸成の重要性を双方が理解しているからだろう。「継続は力なり」である。来年で10周年を迎える同事業が、引き続き継続されていくことを期待したい。
「アジア通貨基金」の意義と課題 [2009年05月12日(火)]
5月3日、インドネシアのバリ島で開かれたASEAN+3財務大臣会議は、事実上の「アジア通貨基金」設立に向け具体的な行動計画に合意した。

現在の世界金融危機に対して、4月に行われた金融サミットでは国際通貨基金(IMF)の強化を議論した。IMFは、加盟国のマクロ経済監視による「金融危機の予防機能」と外貨不足に陥った加盟国への融資による「金融危機の対応機能」を担っている。

確かに、国際金融の安定にとってIMFが果たすべき役割は重要なのであるが、しかし、IMFだけでは万全でない可能性もある。IMFを補完して、アジア域内の外貨不足に対処するために、アジア諸国が協力する枠組みが存在することは好ましいことだ。

韓国メディアも、去年の10月に、「豊富な外貨準備を持つ韓国、中国、日本の3カ国が軸となり、輸出低迷などによるドル資金不足に対応し、外貨準備の共有チャンネルを確保すべきだ」とアジア通貨基金の創設を一斉に取り上げていた。

そもそも、アジア通貨基金構想は、97年のアジア通貨危機の際に、日本が積極的に提唱した考えである。しかし、当時は、東アジアにおける自国とIMFの影響力低下を恐れたアメリカがアジア版IMF構想に反対し、また、通貨金融危機の影響を受けていなかった中国も日本の影響力拡大を好ましく思わず消極的であったため、結局アジア版IMFは実現しなかったと日本では理解されている。

日本は、97年にアジア版IMF構想が頓挫した後、これに代わるものとして、対外債務の返済が困難になった国にドルを融通する「チェンマイ・イニシアチブ(CMI)」の構築を主導し、現時点では16本の二国間協定がASEAN+3諸国の間で締結されている。

今年2月に開催されたASEAN+3財相会議において、(1)CMIの総額を800億ドルから総額1200億ドルへ増額すること、(2)域内の経済や為替、金融監督を一元的に監視する独立した事務局を設立すること、(3)二国間協定の内容を一本化し、支援決定時に関係国が1カ所に集まって意思決定する仕組みを整えることを既に合意していた。いわゆる「CMIのマルチ化」である。

先日インドネシアで開催されたASEAN+3財相会議では、この計画を年内に実現するために、(1)資金総額1200億ドルのうち、日中韓で全体の8割を負担すること、(2)監視活動の基盤となる専門家会合することが合意された。

これらの計画が実現すれば、事実上「アジア通貨基金」ができることになる。従来の二国間協定に基づく外貨融通の仕組みの下では、危機に陥った国が各国と個別に支援交渉をしなければならないため、機動性に欠ける。しかし、CMIのマルチ化によって、支援決定時に関係国が1カ所に集まって意思決定する仕組みが構築されれば、支援の規模と速度は大きく向上する可能性がある。すなわち、IMFの「金融危機の対応機能」を補完することになる。

また、域内の経済や為替、金融監督を一元的に監視する独立した事務局が設置されれば、危機の予兆を事前に察知し、その深刻化を防ぐことが可能となる。これは、IMFの「金融危機の予防機能」の補完である。

しかし、97年当時に「アジア通貨基金」設立に反対したアメリカは、今回再びアジアで生じているこの動きを妨害することはないのであろうか?筆者は、アメリカが反対することはないと考えている。日本や中国の台頭を過度に警戒していた90年代のアメリカとは異なり、近年のアメリカはアジアの域内協力の進展に寛容である。また、97年当時のアメリカは自国経済が好調であり、アジア通貨危機から特段の影響を受けなかったが、現在のアメリカは、もしもアジアで金融危機が発生すれば、その信用不安が自国経済にも悪影響を受ける可能性がある。したがって、金融危機の予防と対応のためにアジア諸国が協力してコストを払うなら、アメリカとして反対する理由はないだろう。

むしろ、「アジア通貨基金」の障害は域内にこそ潜んでいる。もしも支援決定時の意思決定が関係国の全会一致方式となれば、関係国間の意見や利害がそろわず、かえって支援の機動性と効率性を損ねる可能性がある。意思決定の方式は今後の協議で決定されるが、多くの資金を提供する日中韓の三国は互いに意思決定における重大な権限を要求するだろう。こうした域内国の意見がまとまらなければ、「CMIのマルチ化」または「アジア通貨基金」の実現は難しい。仮に制度が実現しても、その運用過程において、日中韓を中心とする関係国の意見が対立すれば、支援の効率性は著しく失われるだろう。

また、ASEANの中にはマクロ経済統計の作成能力が低い国や経済情勢の公表を拒む国もある中、域内の経済や為替、金融監督を一元的に監視する独立した事務局が、どれほど有効に機能できるかについても疑問が残る。これも、今後の協議における課題であると同時に、制度発足後の運用面の課題でもある。

「アジア通貨基金」の成否は、この地域で実効性ある地域協力が可能かどうかの試金石であると言えよう。
攻守所を変えて泥沼化するタイのデモ [2009年04月17日(金)]
「アピシット首相は退陣せよ」、「ASEAN会議を中止しろ」。

タクシン元首相を支持する反政府デモ隊が現政権の退陣を叫ぶ。4月11日、タイ中部のパタヤ市内で予定されていたASEAN諸国と日中韓の首脳会議や豪印との首脳会議が、反政府デモによる混乱を受けて延期に追い込まれた。

反政府デモ隊はその後活動の拠点を首都バンコクへ移して首相府を包囲したが、12日にアシピット首相が非常事態宣言を出して治安当局による強制排除に乗り出した結果、15日には反政府デモ隊も撤収を余儀なくされるに至った。

1.レッドシャツ対イエローシャツの対立
周知のとおり、今回の混乱は、昨年10月から続くタイ国内のデモ騒ぎの延長線上にある。以下に経緯をおさらいしたい。

事の発端は06年9月、医療制度改革や貧困対策で地方の農民や貧困層を中心に絶大な支持を得ていたタクシン元首相が軍事クーデターにより追放されたことに始まる。クーデターの背景には、王室を十分顧みない華人系のタクシン元首相が地方を中心に強固な支持を固めていたことに対する王室擁護派の反発があったと言われる。その後、軍による暫定政権を経て、07年12月に総選挙が行われた際にはタクシン派が勝利した。

しかし、これを不服とする反タクシン派の「民主主義市民連合」(PAD)は、08年10月に国会前でデモを起こして警官隊と衝突、500名規模の死傷者を出した。さらにPADは、バンコク近郊の主要2空港を占拠して機能不全に陥れ、多くの外国人旅行客やビジネスマンに足止めを食らわした。そもそもASEAN+3首脳会議や東アジア首脳会議は昨年12月に予定されていたのだが、このPADによる空港占拠のために延期されたものである。

結局、12月にはタクシン派のソムチャイ政権が混乱の責任をとって崩壊し、PADが支持するアピシット首相が政権についた。

ところが、話はこれで終わらない。PADのデモによる政権転覆に反発するタクシン派「反独裁民主同盟」は、今年1月にアシピット首相退陣を求めて3万人規模の集会を開催、2月には1万人のデモ隊が首相府を包囲したこともあった。こうした経緯を経て、「反独裁民主同盟」は4月9日に東アジア首脳会議等の妨害を宣言し、今回の混乱に至った次第である。

反タクシン派のPADが国王のシンボルカラーである黄色のシャツを着てデモを行ったのに対し、タクシン派の「反独裁民主同盟」は赤色のシャツで今回のデモに臨んだ。

地方の農民や都市の貧困層を支持者とするタクシン派に対し、バンコクの中間層や官僚などのエリートは反タクシン派を支持していることから、レッドシャツ(タクシン派)対イエローシャツ(反タクシン派)の対立は、こうした地域格差・階級格差の対立とも言える。


2.混乱許した治安当局内の分裂
ところで、「反独裁民主同盟」がパタヤで首脳会議の妨害を行った際、なぜ治安当局は各国首脳が滞在する会場ホテルへの侵入を易々と許したのか、その理由がいま一つ解せない。

各種報道によれば、当日パタヤには大勢の兵士や警官が配備されていたにもかかわらず、デモ隊が中韓首脳の滞在するホテルを取り囲んでも、ASEAN首脳の滞在するサミット会場ホテルに侵入しても、治安当局はデモ隊を強制排除することなく、ただただ見つめるばかりであったという。

治安当局がパタヤにおいて反政府デモ隊を排除できなかった理由として、現政権には昨年末に国会を包囲したり空港を占拠したりしたPADの責任追及をしていない弱みがあると指摘する向きがある。「PADの無法を放置した政府と軍は、今回、「反独裁民主同盟」が首脳会議の妨害に動いても、強く出ることができなかった」というのである(4月12日の朝日新聞朝刊)。

また、アシピット首相が「反独裁民主同盟」を力ずくで封じ込めるようなことをすれば、「反独裁民主同盟」に同情的な世論が形成され、アシピット首相としては自身の政治的立場を危うくすることも考えられる。実際、昨年10月にPADが国会包囲した際には、当時のタクシン派政権が強制排除を敢行したために大勢の死傷者が出て、政権批判が強まる結果となった。

これら要因に加えて、筆者は、治安当局が内部で分裂しているのではないかと見ている。

バンコクの中間層や軍・官僚などのエリートを支持層に持つ反タクシン派の現政権は、そのお膝元たるバンコクの軍や警察に対するコントロールは効いているにせよ、地方の治安当局は十分に掌握しきれていないという。

また、今回パタヤにおいては警察を中心に治安回復にあたり、軍は警察の補佐としての配備であったが、もともとタクシン元首相は警察官僚の出身であることから、警察内部には彼に同情的な人間も少なくないとも聞く。

東南アジア情勢に詳しい早稲田大学アジア研究機構のキム・ベン・ファー客員研究員は「バンコクの治安当局は王室と現政権に忠誠的だが、タクシン派の中には、地方の軍・警察はバンコクと足並みが揃っていないと見て、そこにデモ遂行のチャンスを見出している向きもある」と筆者に語った。

こうした治安当局内部の分裂のために、反政府デモはパタヤにおいて言わば見逃され、バンコクに至ってはじめて強制排除されたのではないだろうか。


3.今後の展望
4月16日現在、首相府を包囲していたタクシン派「反独裁民主同盟」の反政府デモ隊は撤収し、首都バンコクは落ち着きを取り戻したかのように見える。

しかし、同幹部は「決して負けたわけではなく、再び帰ってくる」と行動再開を明言している(東京新聞4月15日朝刊)。政府もバンコクと近県に出した非常事態宣言を当面解除しない方針だ。

昨年10月以来攻守所を変えて続く一連のデモ騒動は、今後も当面沈静化が見込めないのではないかと筆者は危惧する。

まず、一連のデモは単なる少数派の跳ね返りではなく、地方の農民や都市の貧困層を支持者とするタクシン派と、バンコクの中間層や官僚などのエリートを中心とする反タクシン派との間の、地域格差・階級格差の対立という様相を呈しており、度重なる混乱と死傷者発生の結果、その溝は一層深まっていると見られる。

また、治安回復を担うはずの軍や警察も一枚岩ではないのも問題だ。タクシン派も反タクシン派も、それぞれが治安当局の一部を味方につけていると信じており、それが事態を一層複雑化させる。

さらに、最大の懸念は、本来なら仲裁役を担うべきはずのプミポン国王が、騒動の一方の立場(すなわち王室擁護を掲げる反タクシン派の立場)に近すぎることだ。タイは過去に何度もクーデターを経験してきたが、そのたびに国民の尊敬を集める国王が事態を収拾してきた。

しかし、今回は、王室に対する立場の違いが対立争点の一つになっている。タクシン元首相は、3月27日、海外からのビデオ演説において自分を追い落とした06年9月のクーデターの黒幕としてプレム枢密院議長と名指しした。プレム議長はプミポン国王の側近中の側近とされる元陸軍司令官であり、彼を黒幕として名指しで批判するということは、クーデターを仕掛けたのが王室であると言っているに等しい。実際、反タクシン派はタクシン元首相の発言を「議長を批判する形をとった王室批判だ」として激しく反発している(朝日新聞4月12日朝刊)。

こうした状況にあっては、国王としても仲裁に乗り気でないか、そもそも仲裁に乗り出しても事態を収拾しきれない可能性すらある。

日系企業が東アジアで築き上げてきたサプライチェーンの要であるタイで政情の不安定が続けば、日本においても対岸の火事と涼しい顔はしていられない。デモ合戦泥沼化の可能性にも備えておかねばなるまい。
東アジア首脳会議に向けた日本の立場 [2009年04月07日(火)]
4月10日から12日にかけて、タイで第4回東アジア首脳会議、ASEAN+3首脳会議等が開催される。

05年にマレーシアで開催された第1回東アジア首脳会議には、当時外務省に勤務していた小職も随員の一人として出席した。

今回、同会議に臨む日本の立場はいかなるものか?

これに関する小職の考えとして、先日中国新華社から受けたインタビューのやり取りを以下に紹介したい。

(新華社)日本は、今回の東アジア首脳会議で一番大きな関心事は何でしょうか。

(関山)
議長国タイのアピシット・ウェチャチワ首相は「今回の会議では、G20首脳会議で合意された内容をどう発展させ、成果を出すことができるかを論議する」と語っている(4月5日APF)。

日本にとっての一番の関心事も、やはり世界金融経済危機の脱却に向けて東アジア諸国が如何に協力していけるかという点にある。

G20首脳会議において、麻生首相は「わが国の財政状況で許される最大級の景気刺激策を考えている」との考えを表明し、アジア向け政府開発援助(ODA)を五千億円積み増して総額二兆円規模とするほか、新興国・途上国への追加貿易金融支援として総額二百二十億ドル(約二兆二千億円)を拠出する方針などを打ち出した。

10日からタイで開かれる東アジア首脳会議においても、こうした日本の方針を改めて東アジアの隣国に伝えることになる。欧米諸国のマイナス成長が見込まれる中、日本も経済情勢が厳しいが、東アジアが世界経済の牽引役として力強く成長できるように最大限の貢献をする意向だ。

また、地域の安全問題も重要なテーマになるだろう。日本としては、北朝鮮によるロケット発射について強い懸念を有しており、この点について東アジア各国の理解を得て、国際社会で一致した批難を北朝鮮に送りたい考えだ。


(新華社)日本は、現在の「ASEAN 10ヶ国+日中韓」枠組みでの地域協力をどう評価し、どんな期待を持っているのか。

(関山)
二国間首脳会談、日中韓首脳会談、日CLV首脳会談、日ASEAN首脳会談、ASEAN+3首脳会談、東アジア首脳会談(ASEAN+6)、APEC首脳会談と、東アジアには様々な地域協力の枠組みが存在しているが、それらを重層的に組み合わせて活用するのが日本の方針である。

枠組みが異なれば関心事や共通利害も少しずつ異なることから、それぞれの特徴を活かしながら具体的な協力を一つ一つ積み重ねていくことで、東アジアの地域協力を促進させていくことを日本は望んでいる。

昨年12月にASEAN+3とは独立に日中韓首脳会議が開催され、今後も継続が見込まれていることから、日本にとってはASEAN+3の重要性が低下したのではないかという意見もあるが、ASEANは東アジア地域協力のdriverとして引き続き重要である。


(新華社)「ASEAN+3」の地域協力を推進するのに、どうすればいいでしょうか。ご提言を。

(関山)
地域協力の進め方には、先に政府間協定や合意を結んでから実際の協力を始めるde jure方式と、先に実際の協力を進めてから制度を整えるde facto方式とがある。

比較的均質的なヨーロッパと異なり、東アジアには、政治体制、経済発展レベル、宗教文化の全く異なる国々が存在している。こうした状況で、先に政府間協定や合意を結ぼうとしても、利害や意見の対立ばかりが目立ち、なかなか進まない。

そこで、ASEAN+3にせよ東アジア首脳会議にせよ、機能主義の観点に立って、具体的な協力を実施可能なものから実施していくことが地域協力推進の最良の方策である。

実際、90年代初にマレーシアのマハティール首相が東アジア経済グループ(East Asia Economic Group)の創設を提唱した際には域内外に様々な意見の相違があって実現しなかったが、97年のアジア金融危機に対処するためにASEAN+3での具体的な協力が進んだ結果、東アジアでの地域協力はde facto方式で大きく進展してきた。

今後も、日本や中国を含む東アジア諸国は、金融経済、防災、環境保護、地域安全など、共通利益のある分野で一つずつ具体的な協力を進めていくことを期待したい。


(新華社)去年の10月に、韓国メディアは「豊富な外貨準備を持つ韓国、中国、日本の3カ国が軸となり、輸出低迷などによるドル資金不足に対応し、外貨準備の共有チャンネルを確保するのが狙い」の「アジアIMF」の創設をいっせいに取り上げました。これに対し、日本はどう考えているのか。日本の立場と態度を教えてください。

(関山)
アジア版IMF構想は、もともと97年のアジア通貨危機の際、日本が積極的に提唱した考えである。

しかし、当時は、東アジアにおける自国とIMFの影響力低下を恐れたアメリカがアジア版IMF構想に反対し、また、通貨金融危機の影響を受けていなかった中国も日本の影響力拡大を好ましく思わず消極的であったため、結局アジア版IMFは実現しなかったと日本では理解されている。

現在の世界金融危機に対して、日本はIMFの強化を主導しているが、IMFだけでは万全でない可能性もある。IMFに加えて、アジア域内の金融危機にアジア諸国が協力して対処する枠組みが存在することは好ましいことである。

実際、日本は、97年にアジア版IMF構想が頓挫した後、これに代わるものとして、対外債務の返済が困難になった国にドルを融通する「チェンマイ・イニシアチブ(CMI)」の構築を主導し、現在では16本の二国間協定がASEAN+3諸国の間で締結されている。

今年2月に開催されたASEAN+3財相会議では、(1)CMIの総額を800億ドルから総額1200億ドルへ増額すること、(2)域内の経済や為替、金融監督を一元的に監視する独立した事務局を設立すること、(3)二国間協定の内容を一本化し、支援決定時に関係国が1カ所に集まって意思決定する仕組みを整えることを合意した。これらの計画が実現すれば、事実上アジア版IMFができることになる。

こうした取り組みも、東アジア地域協力におけるde facto方式の典型例であろう。
G20ロンドン金融サミットの評価 [2009年04月04日(土)]
4月3日にロンドンで開催された第二回G20金融サミット。サミット後の記者会見で、アメリカのオバマ大統領は「世界経済再建に向けた転換点」と評価し、「歴史的な会議」だったと述べた。

オバマ大統領の評価は誇張し過ぎかもしれないが、昨年12月に開催された前回の金融サミットに比べれば中身の充実した会議だったのではないだろうか。

1.危機再発防止に重点おいたコミュニケ
現在世界を襲う金融危機に対して、世界の首脳が行わなければならないことは大きく分けて二つある。一つは危機からの脱却であり、もう一つは危機の再発防止だ。

危機の最中にある我々は、将来のことを考える余裕がなく、ついつい危機脱却のための財政措置に注目しがちである。この点、各国は自国の経済を守るため、既に多額の財政措置を決定・実施している。

今、世界の主要経済国の首脳が一堂に会して議論すべきことは、各国が行う財政措置の規模ではなく、世界全体で取り組むべき危機の再発防止策である。再発防止策を準備することで金融システムの信頼回復につながり、最終的な危機からの脱却につながるとも言える。

こうした観点からロンドン金融サミットが発出したコミュニケを見てみると、財政措置については、たしかに5兆ドルという金額は各国が既に決定済みの金額を足し上げただけの数字であるが、今後世界が取り組むべき危機の再発防止策については、金融監督規制の強化や国際金融機関の強化などの分野で多くの具体的な計画が合意された。

今回の世界金融危機を招いた構造的な要因は、信用バブルの発生を許した「行き過ぎた金融自由化」にあると考えられる。特に、従来の制度では十分な規制の枠に入っていなかった投資銀行、ヘッジファンド、格付け機関に対して、適切な規制を加えることが必要だろう。

加えて、グローバル化した金融取引に対応する国際的な規制監視の枠組みを欠いたため、問題を世界規模に深刻化させる結果となった。また、世界の為替取引額が1日1兆8000億ドルにも上る現在、世界的な金融危機から小国を救済するには、2500億ドルという現行IMFの出資総額では少額にすぎる。

今回の首脳コミュニケでは、これらの問題への対応方針が盛り込まれている。これらは積極的に評価すべきものであろう。

2.ドル機軸体制への反省
さらに、今回の危機発生の直接原因ではないものの、アメリカ一国の経済金融状況が世界中に大きな影響を与えうる状況も反省されねばなるまい。

すなわち、今回の金融危機によって、特定国の通貨を基軸通貨とする国際経済システムは、その基軸通貨国の経済金融情勢から影響を受けやすく脆弱であることが改めて認識されたといえる。

この点、私はコミュニケにIMFのSDRの積極活用が盛り込まれたことに注目している。

SDRは、いわば世界共通通貨の卵のようなものである。かつて欧州において、ECUという共通通貨の卵からユーロという実際の共通通貨が生まれたように、SDRの積極活用によって、世界経済も将来的にはドル基軸通貨制から脱却していくことが可能となるかもしれない。

3.日米中欧がG20のコアメンバー
ただし、今回のコミュニケは対応策の計画と方向性が示しただけである。本当に世界が今回の危機を脱却し、危機の再発を防げるかは、この計画に従って各国政府や国際機関が実際に行動できるかどうかにかかっているのは言うまでもない。

国際社会における合意形成は、参加国が増えれば増えるほど困難になるものである。20カ国が参加する現在の金融サミットでは、全員そろって合意を形成するには大きすぎる。したがって、計画を実行していくにあたっては、強いリーダーシップが必要である。

この点、かつて第二次世界大戦後にブレトン・ウッズ体制の構築をリードしたアメリカは、既に相対的な力を落としており、新たな制度構築を単独でリードする力はもはやない。

私は、アメリカ、日本、中国、EUの四極体制がG20のコアメンバーとなって今後の世界経済を当面リードしていくものと見ている。したがって、コミュニケに示された計画がどこまで実行に移されるかは、これら日米中欧の四極がどこまで協調しあえるかにかかっているだろう。

一方で、我々がWTOのドーハ・ラウンドで目撃したとおり、新興国や発展途上国への配慮なくしては、今の国際社会で合意を形成するのは難しい。この点、今回のサミットの最大の勝者は誰かと問われれば、私は、新興国や発展途上国であると答える。

アメリカやイギリスは、確かに自分達の主張の一部を首脳コミュニケに盛り込むことに成功したかもしれないが、何か新しいメリットを得たわけではない。一方、新興国や発展途上国は、このサミットによって様々な支援を得られる可能性が高まり、世銀やIMFなどの国際機関における発言権の向上にも道が開いた。今回のサミットで一番得をしたのは、新興国や発展途上国である。

こうした新興国や発展途上国の立場を代弁する中国が果たした役割は非常に大きい。名目GDP世界第三位であり、世界最大の外貨と米国債の世界最大保有国であり、また現在唯一内需主導の力強い成長が可能な大市場である中国は、今回の金融サミットでも大きな影響力を有していた。

首脳コミュニケが新興国や発展途上国の立場を非常に重視した内容となったのも、彼らの立場を代弁する中国が影響力を発揮した結果であると考えられる。

アメリカ主導で構築された現在の国際金融経済体制を、より民主的で安定的なものに改革していくために、中国が果たすべき役割は重要である。しかし、中国だけでは国際金融経済体制を改革する力はなく、他のG20コアメンバーとの協力が必要である。特に、現状の国際金融経済体制の改革はアメリカの利益に反する場面が多いことからすれば、日本、中国、EUで協力して、アメリカを説得していかなければ改革は進まないだろう。

特に日本と中国は、いずれもアメリカへの輸出に大きく依存しており、世界最大規模の米国債を有するなど、お互いに共通の利害が少なくなく、実は協力しやすい土壌があると私は考えている。アメリカへの過度の依存を改め、より安定的な制度を作るためには、まず日中で協力し、そこにEUや他の主要経済国や発展途上国を巻き込んでいくのが良いのではないだろうか。
中国外交ブレーンが語る国際戦略と日本 [2009年03月30日(月)]
中国が改革開放政策を始めて30年。この間、中国は目覚ましい発展を遂げ、名目GDPの規模で言えば、07年には世界第三位の経済大国となった。数年内には日本を抜くことは間違いがない。

一方、政治面でも、中国は国連安全保障理事会の常任理事国として、国際政治に大きな影響力を有する。米国にとっても、オバマ政権の重要課題であるイラク・アフガン問題、金融経済問題、気候変動問題のいずれも中国の協力が必須であるのが現状だ。

そうした中国が、今後の国際社会においてどういう道を進むのか。中国外交のなかで日本はどう位置付けられるのか。

以下では、日本滞在中の王緝思・北京大学国際関係学院院長との対話を通じて、中国の国家戦略と日本との関係について検討する。

王緝思院長は、国内きっての国際政治学者として中国共産党の外交政策にも強い影響力を有する外交ブレーンと言われており、その発言は中国内外で常に注目されている。

1.中国の国際戦略
国際戦略を考える際の要素は、(1)守るべき国家利益、(2)その国家利益に対する外部リスク、(3)その外部リスクに対する対応策の3点である。

王緝思院長は、中国にとって守るべき国家利益として、(1)主権独立、(2)安全保障、(3)経済発展の3点を挙げる。それぞれの順位付けについて様々な見方をする向きもあるが、王緝思院長は、これら3点すべてが中国にとって同列に最重要の国家利益であるという。

台湾、チベット、新疆などの独立問題を抱える中国にとって、主権独立の大きな要素として国家統一が含まれる。また、安全保障については、伝統的脅威に対する安全保障のみならず、テロなど非国家主体による非伝統的脅威に対する安全保障も当然含まれる。さらには、中国に限らず、現代の安全保障は、経済安全保障、エネルギー安全保障、食糧安全保障など、その内容が多様化していることにも注意が必要だ。

さらに、経済発展についても、現在の中国は、従来のような盲目的な経済成長の追求を改め、環境や社会との調和を重視した「科学的発展」を目指そうとしている。これら全てが、中国にとって優劣なく重要な国家利益なのである。

次に、これら国家利益を脅かしうるリスクは何か。

中国にとって国家利益に対する最大のリスクは建国以来常に国内の不安定要素にこそあるとも言えるし、国際関係においてはアメリカとの対立こそ最大のリスクだとする向きもあろう。

しかし、王緝思院長は、外部リスクの源泉は特定の国家ではなく具体的な問題だと指摘する。すなわち、アメリカやロシアが中国の国家利益を脅かすのではなく、例えば、世界的な経済不安、エネルギー危機、環境破壊といった具体的な問題が中国の国家利益を脅かすのだというのだ。

国際戦略とは、そうした外部リスクに対応するために、いかに大国との二国間協力を進めたり、周辺諸国と協調したり、国連などのマルチ外交を展開したりするかを考えるものである。

この点、アメリカのフレッド・バーグステンは、その論文「対等な協力関係」(A Partnership of Equals)の中で、アメリカと中国の対等な協力関係の下で今後の世界を主導すべきとする主張を唱えている(「フォーリン・アフェアーズ」2008年7/8月号)。

こうした米中のG2構想について、王緝思院長は否定的だ。安定的な周辺環境のなかで調和のとれた発展を目指す中国にとっては、多くの国との互恵関係の構築こそ目指すべき方向だという。

同様に、中国社会科学院アメリカ研究所の黄平所長も、G2構想が日本、韓国、インドなど中国の周辺国に与える影響に鑑みて、「中国がアメリカとG2の形で世界の業務を取り仕切るという構想は検討に値しない」とする。黄平所長は、アメリカ、日本、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダからなるG7も既に時代遅れであるとして、「中国やインドなどの発展途上国を含むG20の枠組みにおいて、より重要な役割を演じ、グローバルな対話と協力を促進していかなければならない。」という考えを表明している(チャイナ・デイリー2009年3月19日)。

中国が今後どのような国際レジームを目指すのかも多くの人々の関心事である。この点、王緝思院長は、「既存の国際レジームは中国の国家利益にとって基本的には有利に働いている」との認識を示しつつも、しかし、「一部に不利な部分があることも事実であり、そこは中国として変更を求めていかねばなるまい」という。王緝思院長の言葉からは、既存の国際レジームを盲目的に擁護していくのではなく、あくまで中国に有利な形へ変えていこうという中国の意図が読み取れる。

ただし、王緝思院長は「世界の覇権を目指すことは決して中国発展の道ではない」とも言う。中国は、現在アメリカが覇権を握っている現状に挑戦する意図もなければ、自らが覇権を目指すこともないというのだ。

ここまで聞いていると、中国の国際戦略とは、安定と平和を志向して全方位外交を展開することのようである。しかし、本当に中国は、そのような「平和台頭」(中国語:和平崛起)の道を進むのであろうか。

この点、王緝思院長は「中国の台頭は他国にとっての脅威であるし、国家統一を阻む台湾独立などの動きには断固とした態度を採ることになるのであって、完全な平和台頭はありえない。」と率直に認める。

さらに、話が毎年二桁の伸びを続ける軍事費に及ぶと、「中国が軍事を考える際には、例えばモンゴルのような国と比較で考えるのではなく、アメリカとの比較で考える。それも、アメリカ単体ではなく、その同盟国の力量も併せて比較するのである。この点、中国の軍事力や軍事費はアメリカに遠く及ばない。今後空母を持つことにもなるだろう。いずれにせよ、中国はあくまで自国にとっての必要性に応じて軍事を考えており、決して海外の意見によって軍事費を減らすことはないだろう。」という国際政治学でいう現実主義的な見解を淡々と、しかし力を込めて語った。


2.中国にとって二番目に重要な国、日本
中国外交にとって最も重要な二国間関係はどの国との関係か。この点、米国が最も重要な外交相手であることは間違いない。

では、二番目に重要な国はどこだろうか。ロシアであろうか。EUであろうか。台頭著しいインドであろうか。この点、王緝思院長は、「日本こそ中国にとって二番目に重要な国だ」と主張する。

なぜ日本が米国に次いで重要なのか。

端的に言えば、日本が中国にとって米国に次いで重要な(単体の)経済パートナー国だからである。加えて、日本には中国が学ぶべき点が数多く存在する。かつて中国は日本の高度成長に学んだ。いまや、成長スピードでは中国が日本を上回るようになったが、例えば、農業効率、環境保護、省エネ・新エネ、ガバナンス、公衆衛生、社会保障など多くの点で日本は世界最先端の技術やノウハウを有しており、「米国以上に学ぶべき点が多い」と王緝思院長は言う。

日米同盟は、中国にとって脅威ではないのだろうか。これについて、王緝思院長は、「中台関係さえ安定していれば、中米日の間で大きな対立は生じないだろう」と楽観的だ。日本は中国の国家利益のすべてに多かれ少なかれ関わっており、東シナ海や台湾周辺で摩擦はあるものの、どれも中国の国家利益を脅かすほどのリスクではないというのが王緝思院長の認識だ。また、日本は中国とイデオロギーこそ違うが、欧米ほど人権問題など中国にとって敏感な問題を強調したりはしない分、良好な関係を築きやすいという。

中国は数年内に日本のGDPを抜くだろう。そうすれば、日本人としては快くないかもしれない。しかし、むしろ中国としては、「今後一層、日本と協力関係を強化していきたいのだ」と王緝思院長は力を込める。

主権独立、安全保障、経済発展という国家利益を追求する中国の国際戦略において、日本の重要性は今後も決して失われることはない。むしろ中国としては、科学的発展を実現するために、日本の農業、環境保護、省エネ・新エネ、ガバナンス、公衆衛生、社会保障などに関する技術やノウハウを学んでいく必要があり、そのためには「両国政府間の関係強化はもとより、民間主導の協力を今以上にもっともっと増えていくことを希望する」というのが王緝思院長の持論である。

最後に、王緝思院長は、「自分は日本に対する理解が深くないが、それにしても、日本の国際戦略は見えてこない。」とつぶやいた。お互い自分の思うところを率直に語り合って、はじめてウィン・ウィンの関係ができる。月並みではあるが、やはり日本に問われているのは、日本自身の戦略を明確に持って行動できるかどうかであるようだ。
日本 戦後最大の衰退期に陥る [2009年03月11日(水)]
2月26日付の中国紙「参考消息」12面において、「日本 戦後最大の衰退期に陥る」というタイトルで筆者のインタビュー記事が掲載された。以下は、記事の日本語訳である。

「日本 戦後最大の衰退期に陥る―東京財団研究員 関山健 インタビュー」

中国紙「参考消息」(2月26日、12面)


(参考消息)日本政府公表の統計によれば、昨年第4四半期のGDPはマイナス12.7%だったそうだが、貴職にとって、このニュースは意外だったか、それとも予想の範囲内だったか?

(関山健)内閣府が2月16日に発表した08年第4四半期(10〜12月)の国内総生産(GDP)速報によると、物価変動の影響を除いた実質GDP(季節調整済み)は前期比3.3%減、年率換算では12.7%減と急激な落ち込みとなった。

日本では、08年第2四半期の実質GDPが3.6%減、第3四半期が2.3%減と、08年はマイナス成長が続いており、第4四半期もマイナス成長が予想された。

民間調査機関も軒並み大幅マイナス成長を予想していたが、その直前予測平均値は11.8%減であり、実際の堕ち幅がここまで大幅なものになったのには、正直驚きを隠せない。

(参考消息)与謝野馨・経済財政担当大臣は、今回の危機を「ちょっと蜂に刺されたようなもの」だと言っていたが、最近では戦後最大の危機に直面していると発言している。また、少なからぬメディアも、今回の危機は「過去35年で最大の縮小」と報じている。現在の日本経済の衰退の程度について、貴職はどう見ているか。

(関山健)日本は、欧米が被害を受けた「信用バブル崩壊」という金融危機の第一波からの影響は比較的軽微だった。しかし、昨年9月のリーマンブラザーズ破綻以来、世界同時不況が急速に深刻化するなか、日本の国内企業の輸出や生産が、かつてないスピードで減少した結果、戦後未曾有の景気後退に直面することとなった。

実質GDPが年率換算で2ケタのマイナスとなるのは、第1次石油危機の影響を受けた74年第1四半期(1〜3月)の13.1%減以来、戦後2度目だ。

また、統計が存在する1955年以降、実質GDPが3四半期連続でマイナスとなったのは、バブル景気崩壊後の1993年とITバブル崩壊後の2001に2度あるだけであり、09年第1四半期も回復の目処が立たないことから、このままいけば戦後最長のマイナス成長となる可能性もある。

(参考消息)金融危機震源地の米国や欧州などは、統計データを見る限り、経済の落ち込みは日本ほど深刻でないようであるが、日本の経済収縮は欧米のレベルを超えていると言うことができるのか?

(関山健)08年第4四半期の実質GDP年率成長率は、米国が3.8%減と27年ぶりの低水準、欧州も1999年のユーロ圏設立以来最悪の5.7%減であった。

しかし、日本の12.7%減という落ち込みは米欧をはるかに上回っており、現時点において日本は欧米を更に上回る速度で経済収縮が進んでいると言わざるをえない。

近年の日本経済はアメリカや欧州を最終市場とする輸出に大きく依存していた。しかし、そのアメリカと欧州の双方が同時に景気後退に見舞われた結果、欧米向けの輸出減少はもちろん、同様に欧米向け輸出を前提とした中国・アジア向けの輸出も減少し、さらに、輸出減少によって国内企業も大幅な減産に見舞われた。

域内・国内の需要主導で成長してきた欧米以上に日本の景気後退が深刻なのは、日本が近年欧米を最終市場する輸出に大きく依存していた反動なのである。

08年第4四半期の実質GDP内訳では、輸出は13.9%減となり、その減少幅は1975年第1四半期の9.7%減を上回り過去最大であった。輸出から輸入を差し引いた外需は成長率を3.0%分押し下げ、戦後最大級の落ち込みであった。

輸出の減少により大規模な減産を余儀なくされた国内企業は設備投資を減少させ、08年第4四半期の設備投資は5.3%減となった。さらに、国内企業の不調により雇用情勢が悪化した結果、消費者心理が一段と冷え込み、自動車などの高額品を中心に買い控えの動きが広がった。08年第4四半期の個人消費は0・4%減と2期ぶりのマイナスとなった。

(参考消息)他の先進国と比較して、日本経済には強みも弱みもあろうが、日本経済が比較的脆弱な点はどこか?

(関山健)日本経済の弱点といえば、資源エネルギーが国内に乏しく、輸入に頼らざるをえないことである。さらに近年においては、経済成長の輸出依存が高いことも問題である。

06年のデータによれば、日本の輸出依存度は14.8%で、これを下回る主要国はアメリカの7.9%だけであり、G7平均の22%や中国の36.6%よりも低位にある。

しかし、日本は名目GDPが殆ど増えない中で輸出依存度が上昇している一方、他の国々はGDPが安定的に増えつつ輸出がそれを上回って伸びる形で依存度が上がっている。すなわち、日本経済全体の外需依存が決して高くないものの、個人消費などの内需が伸び悩む中、輸出増で辛うじて経済成長している状態が続いていたのである。

近年の日本経済にとっては、資源エネルギーと需要という二つの不足を国内に抱え、それを海外に依存しなければならないことが弱点であると言えよう。

(参考消息)現在の状況に直面して、日本の発展モデルに疑義は生じているか?改革は必要だろうか?今後、日本政府はいかなる措置を取るべきだと考えるか?貴職は、日本が景気の谷を抜けるのにどの程度の時間がかかると考えるか?

(関山健)短期的に見れば、日本経済の回復には、やはり輸出の回復が必要であり、欧米諸国の景気回復を待たねばならない。

アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)は、アメリカ経済が09年後半に徐々に回復を始め、10年は2.5〜3.3%、11年は3.8〜5.0%の成長を実現すると予想している。もし、このFRBの予想どおりにアメリカ経済が回復するとすれば、日本経済もこれに伴って少しずつ持ち直していくだろう。

しかし長期的に見れば、やはり日本経済は外需依存の成長から内需主導の成長へと転換するために、各種改革が必要である。例えば、少子高齢化による労働力人口の減少を補うために、女性、高齢者、外国人などが、これまで以上に日本の労働力市場で活躍できるように規制緩和や支援をすべきであると考える。

(参考消息)多くの中国人は、日本の経済収縮とその中国への影響を心配している。貴職は、その中国への影響をどのように見ているか?主にどの方面で影響が出るだろうか?

(関山健)日本の景気後退の中国への影響としては、日本の中国製品輸入の減少と、日本の対中投資の減少が懸念される。

日本財務省の貿易統計によれば、日本の中国からの輸入は2008年11月に対前年同期比12.0%減、12月に同12.4%減と2ヶ月連続でマイナスとなった。

輸入品目別に見ると、餃子問題によって日本市場での信頼が落ちた食料品のみならず、原料品、鉱物性燃料、化学製品、鉄鋼・非鉄金属、一般機械、電気機器など、広範な分野において輸入が減少している。

日本の対中投資について、中国商務部の統計によれば、2005年が65.30ドル、2006年が47.59ドル、2007年が35.89ドルと毎年大幅減額が続いたあと、2008年は36.52ドルと下げ止まったが、数年前の水準は未だ回復していない。輸出減少により日本企業の収益が急速に悪化しており、対外投資の余力がなくなれば、2009年の対中投資は更に落ち込む可能性も否定できない。

(参考消息)足元の中国経済も困難に直面しているが、貴職は、中国も日本のような厳しい経済収縮に見舞われると考えるか?中国の経済発展にとって参考となる日本の経験や教訓はあるか?

(関山健)堅調な内需によって底堅い成長が可能な中国は、当面、日本のような経済収縮を経験することはないだろう。

しかし、中国でも資源エネルギーや輸出依存が高まりつつあることは注意が必要である。

こうした傾向が続けば、中国も将来的には外部ショックに弱い経済構造となってしまう。中国が日本の経験に学ぶならば、少しでも資源エネルギーの外部依存を下げるように省エネを推進したり、内需の大部分を占める個人消費を振興するために社会保障を充実したりすることが必要となるだろう。
オバマ政権の東アジア政策プライオリティ [2009年03月01日(日)]
「スマートパワーを利用して、長年の同盟国や新興国と協力し、共通の全世界的な問題への解決策を見つける」。

2月13日、アジア歴訪を控えたクリントン国務長官は、ニューヨークのアジア・ソサイエティーで新政権下のアジア外交の方針についてこう語った。

オバマ大統領が就任して約一カ月が経ち、その外交方針も輪郭が見えてきたところである。

ここでは、オバマ大統領やクリントン国務長官の文章や講演などを手掛かりにオバマ政権の東アジア政策の行方を展望するとともに、これに対する各国の反応を概観してみたい。

1.オバマ政権の東アジア政策プライオリティ
クリントン国務長官が最初の外遊先として東アジアを選んだことからすれば奇異に聞こえるかもしれないが、オバマ政権が取り組む課題として東アジア外交の占めるポジションは決して大きくない。

そもそも、オバマ大統領は、これまで東アジア政策について公式な方針を示したことが非常に少なく、就任後初の国務省演説でも北東アジアには言及していない。

クリントン国務長官が最初の旅でアジアに来たのも、アジアが何より重要だからというよりは、隣国カナダにはオバマ大統領が出向き、ヨーロッパにはバイデン副大統領が挨拶に行き、複雑な問題が絡む中東には易々と足を運べないなか、消去法的に選択されたと考える方が自然である。

オバマ政権の東アジア外交は、むしろ優先課題であるイラク・アフガン問題、金融経済問題、気候変動問題との関係で見てみると、大きな絵の中の位置付けが捉えやすい。その概要を箇条書きすれば、以下のようなものとなろう。

(1)中国
イラク・アフガン、金融経済、気候変動いずれも中国の協力不可欠

(2)日韓との同盟維持
中国と日韓を天秤にかけず、日韓には応分の責任と負担を要求

(3)朝鮮半島の非核化(6カ国協議)
地域協力の実験場。北朝鮮問題はオバマ政権にとって当面プライオリティ高くない

以下、こうした点を各国毎に掘り下げてみる。


2.中国
まず第一に、オバマ政権にとって東アジアでのトップ・プライオリティは中国との協力関係強化にあると言えよう。

多国間主義に基づき国連や関係国と足並みそろえてイラク・アフガン問題はじめ国際社会の問題を切り抜けたいオバマ新大統領にとって、安保理常任理事国たる中国の協力は不可欠であるし、未曾有の金融危機で国債を乱発するアメリカにとって最大債権国となった中国がいわばアメリカの安定的国債消化の鍵を握っているのは言うまでもない。

気候変動問題についても、中国抜きでは実効性ある枠組みとはならないし、そもそも中国抜きの枠組みにはアメリカ国内の了解が得られまい。いずれの優先課題解決においても、中国の協力は不可欠なのである。

では、中国側は、オバマ政権の対中政策をどう見ているのか。

中国共産党中央の外交筋は筆者に、「クリントン国務長官の最初の外遊日程に中国を含めたことは中国重視の現れと評価している」と語った。アメリカの国務長官が最初の外遊先に日本を選ぶことに驚きはないが、最初の外遊日程に中国を含めてきたことは大きな意味があるというのだ。

一方、中国国内の世論では「バイ・アメリカン条項」に代表されるアメリカの保護主義的な動きを強く警戒する声が広く聞かれる。

実際、オバマ大統領は胡錦濤国家主席との電話会談で対米貿易黒字削減を迫ったとされるし、ガイトナー財務長官も「中国が為替操作をしているとオバマ大統領は信じている」と批判している。「90年代のクリントン政権が当時の日本に強硬姿勢で経済開放や貿易摩擦解消を迫ってきたように、オバマ政権が今度は中国をやり玉にあげるのではないか」(吉林大学教授)と心配する向きは少なくない。

実際のところ、今後の米中関係はどのように展開していくのか。クリントン国務長官の訪中時に米中戦略対話の範囲を従来の経済問題から政治・安保問題へと範囲を拡大することが合意されたが、今後はこうした枠組みを使いつつ、お互いの利害を綱引きしながらも関係強化の方向へ向かうと筆者は見ている。


3.日本
クリントン国務長官が上院外交委員会指名承認公聴会で「日米同盟はアジア政策の要石」と持ち上げれば、オバマ大統領も日米首脳会談で「東アジアの安全保障の礎石」と日米同盟堅持を約束する。

クリントン国務長官の最初の訪問国も日本であるし、オバマ大統領がホワイトハウスに迎える最初の外国首脳も麻生総理だという。

オバマ政権が気持ち悪いほど日本重視の姿勢を繰り返し打ち出すのは何故だろうか。こうした一連の対日重視姿勢について筆者は、中国との協力関係強化の布石として、まずはJapan Passing(日本はずし)を心配する日本を安心させるためのJapan Flattering(日本おだて)だと見ている。

金融経済問題やイラク・アフガン問題など喫緊の課題に各国の協力を得たいと考えているオバマ政権にとって、ひと筋縄ではいかない中国から協力を引き出すことは東アジアの最優先である一方、中国との関係強化を焦ることで日本のひがみを買い、織り込み済みの日本の協力を失うことは避けたい。日本は、中国に次ぐ米国債保有国であり、非常任ながら向こう2年は国連安保理メンバーなのである。

中国と関係強化しつつ日本もつなぎとめておけるなら、国務長官外遊日程の最初に日本を持ってくること、日本で拉致被害者家族に会うこと、ホワイトハウスに来たいというレームダックの麻生総理を迎えること、各種発言で日本に耳触りのよい美辞を並べること、そのいずれの外交パフォーマンスもオバマ政権にとってはお安い御用だと言える。

日本としては、その外交パフォーマンスの先に来る同盟国としての責任と負担に耐えうるかをきちんと議論せねばなるまい。


4.朝鮮半島
朝鮮半島については、オバマ政権発足後、関連人事がなかなか固まらず、対北朝鮮政策の方向性が出てくるのにも時間がかかっていた。先のアジア・ソサイエティーでの演説において、ようやくクリントン国務長官が「北朝鮮が核計画を完全廃棄する用意があれば、国交正常化や平和条約に応じる」と語り、恒久的な平和条約を締結にも言及した。

多国間協力により国際問題を解決していくアプローチを採るオバマ政権は、北朝鮮問題においても6カ国協議の枠組みは踏襲していく見通しだ。

ただし、「人事停滞の最大の理由はオバマが北朝鮮どころではないため」(日系紙ワシントン駐在員)という見方もあり、オバマ政権にとって、北朝鮮問題は決してプライオリティの高い問題とは言えない。

これに対して、北朝鮮も韓国も、それぞれ期待と不安をもってオバマ政権の朝鮮半島政策の出方を注意深く観察しているようだ。

北朝鮮強硬路線を採る李明博政権の韓国は、同盟国重視の姿勢を示すオバマ政権が、自国とともに北朝鮮への圧力をかけることを期待している。

しかし一方で、アメリカが6カ国協議の枠組みを維持すると言いながら、実際には自分達の頭越しに北朝鮮と二国間協議を行って経済協力などのツケだけを払わされるのではないかという懸念もあるという。

クリントン前民主党政権下で自国に有利な米朝交渉を勝ちとった北朝鮮は、再びオバマ政権からも有利な条件を引き出そうとチャンスを伺っているのだが、一方で、米国の対北朝鮮政策における李明博政権の影響力が増すことを恐れているという(中国朝鮮半島観測筋)。

北朝鮮が最近ミサイル発射に向けた動きを明らかにしているのも、こうした思惑のなかでの精一杯の揺さぶりと見ることができ、実際の発射にいたるかどうかも、アメリカの出方を伺いながらになるであろう。

実際、オバマ政権下の北朝鮮問題は「壊れたテープレコーダー」のように、クリントン政権時代と似た交渉をまた繰り返す可能性も高く、その場合の焦点はやはり軽水炉提供の行方である。
オバマ大統領の施政方針演説 [2009年02月25日(水)]
2月24日夜、オバマ大統領が議会上下両院合同会議で就任後初の施政方針演説を行った。

まず最初に、外交に比べて圧倒的に経済に関する内容が多いことが印象的だ。

本来、施政方針演説は経済だけをテーマにするものではないにも関わらず、これだけ経済に関する内容が多いのは、やはり国内経済に対するオバマ大統領の危機感の現れと見ることができる。

オバマ政権の最優先課題は「経済対策」ということを改めてアピールしたことになるだろう。

その内容については、合格点と言える良い演説だったと評価できるのではないか。

【良い点その1:経済政策のプライオリティ明確化】
まず、これから取り組む経済政策のプライオリティを明確にしている点が評価できる。

(1)演説の冒頭で、雇用対策や勤労者減税に言及して、庶民の生活に配慮していることをアピールし、

(2)次に金融システムの再生に取り組む姿勢を強調し、

(3)さらに将来の成長力向上につながる投資を約束した。

目新しい政策はないが、オバマ政権が取り組む経済政策のメニューが明確に示されたと言えよう。

【良い点その2:世論や議会の批判の芽を排除】
演説のなかでオバマは、これから足元の景気対策と長期的な財政赤字削減を両立させていくうえで、世論と議会から出てくるであろう不満や批判の芽を巧みに摘んでいる。

例えば金融再生について、オバマは、あえて「今銀行を助けるように見られることが、どれほど不人気であるかも承知している」を認めている。

その上で、「私はウォール街の重役たちの利益のために、1セントたりとも支出するつもりはない。ただ、私は、従業員の給与を支払えない小企業や、貯蓄しても住宅ローンを組めない家族を助けるためには、あらゆることをするつもりだ」と述べているが、これは議会からの批判を意識した内容だ。

【良い点その3:共和党も巻き込む雰囲気作り】
オバマが、演説のなかで共和党を攻撃するようなことはせず、むしろ政府と議会が一致して経済危機に挑む雰囲気作りに努めているのも印象的だ。

例えば、オバマは、財政再建において「民主党員であれ、共和党員であれ、この部屋にいるすべての人が、予算がないためにいくつかの価値ある優先課題を犠牲にしなければならない」と指摘し、超党派の取り組みを呼びかけている。

こうした超党派の雰囲気作りは、今後早期に予算を成立させ、関連法案を議会で通過させるためには、重要なことだ。

【良い点その4:将来に目を向けさせる未来志向】
演説の中でオバマは、「私の予算は米国のためのビジョンであり、我々の未来への青写真だと考える」と述べ、3年後、5年後、10年後を見据えた未来志向の政策を強調している。

5年後、10年後にアメリカは復活するというビジョンを示すことで、当面の景気低迷や予算切り詰めへの支持を得ようとしている現れだ。

アメリカ国民が、この演説をどう評価するのかは興味深いが、私の知人に聞く限りでは概ね評判は良いようである。


では、オバマ氏の演説によって、アメリカ経済が再生できると信じることができるか?

それは、オバマ政権の今後の行動にかかっているのは言うまでもない。

上述したとおり、この演説によって、オバマ政権が取り組むべき経済対策のメニューとプライオリティが明確に示された以上、あとは、これに従って実行に移せるかどうかである。
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