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レッドデータブックは警告する No.39[2016年01月21日(Thu)]
日本生態系協会 会報「エコシステム」No.39
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絶滅のおそれのある動物や植物のようすをまとめた「レッドデータブック」という本があります。
それをみると、メダカやホタルなど、かつてはごく普通にみられていた生きものまで次々と姿を消し、絶滅に向かっていることがわかります。
この生きものたちからの、死をもった警告を無視してはなりません。
一刻も早く自然を守る必要があります。


音をたてて崩れていく日本の自然

ごく普通に見られた生きものまでが絶滅の危機に!

●消える生きものたちと崩れゆく自然

日本産の哺乳類の3種に1種、鳥類の5種に1種、爬虫類の3種に1種、両生類の3種に1種、淡水魚類の4種に1種、そして植物の4種に1種が、いまや絶滅または絶滅の危機にさらされています。
これは、環境庁でまとめている「絶滅のおそれのある野生生物の現状―レッドデータブック―」最新データからの結果です。
けれども本当は、この数字よりもっと大変なことになっています。
なぜならこれは全国的にみての話であり、レッドデータに名前がのっていない生きものでも、ある県やある町ではすでに絶滅していたり、絶滅しそうになっているものが少なくないからです。
様々な種類の野生の生きものが、次々と絶滅していくということは、日本の自然が、各地で今、音をたてて崩れていることの証明です。

●絶滅はまず地域から起こる

例えばミズアオイという植物は、全国版のレッドデータでは「絶滅危惧U類」にランクされています。
しかし、水田の減少や水路を造りかえた影響、除草剤などの影響で近年激減し、神奈川県ではすでに県内すべての生育地がなくなってしまいました。
このため神奈川県のレッドデータでは「絶滅種」と書かれています。
野生の生きものたちは、なにも全国でいっぺんに姿を消していくのではありません。
このようにまず各地域で絶滅がおこり、それが積み重なった結果、全国どこにも見られなくなるという順序をたどるのが普通です。
そのため、全国版のレッドデータからだけでは、野生の生きものたちが直面している危機は十分にはわかりません。
むしろ全国的に危機が追ってから守ろうとしても、遅すぎるのです。
子どものことを考えない日本の大人たち No.38[2016年01月20日(Wed)]
日本生態系協会 会報「エコシステム」No.38
−身も心も痛んでいる日本の子どもたち−
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子どもたちの身体と心は、温かな家庭と豊かな自然体験に支えられながら成長します。
しかし、身近な自然は豊かさや便利さを追い求める大人の都合により、その多くが失われてしまいました。
残りわずかな自然でさえ「危険」だという理由から立ち入りを禁止にされたり、人工的につくりかえられることで、子どものまわりからどんどん遠ざけられています。


自然が遠ざけられる理由のひとつ「危険」

「危険」は自然を遠ざければ解決するのか?

●危険だからといって遠ざけるのは逆効果

「危険だから」といってありのままの自然が子どもたちから遠ざけられてしまうのは問題です。
そもそも自然は多様で変化に富み、そのためにある程度の危険もあるのが自然だからです。

危険だからといって身近な自然を遠ざけ、よかれと思いながら身近な自然を人工的に造り変えることは、子どもたちのためになるどころか、ますます子どもたちから自然のなかでの危険をさける能力を奪ってしまうことになります。
こうしたことにより、自然の川や海へ出かけたときに事故を起こしやすくなってしまうのです。

●危険な生きものは殺せばいいのか?

自然にはさらに、クマ、ハチ、ヘビなど毒や力で人間に危害を加える可能性をもつ生きものも存在します。
そのため、人里に出てきたというだけで、子グマが銃で撃ち殺されてしまうことすらあります。
しかし、私たちに都合の悪い生きものは殺してしまえばよいのでしょうか?
彼らも自然生態系の維持には、なくてはならない存在です。
今、世界中で守ろうとしている「生物の多様性」や「生態系の多様性」とは、決して都合のよい生きものだけを守るという意味ではありません。
そうした生きものからうまく身を守る方法を身につけることも大切なのです。
輝くフロリダ No.37[2016年01月19日(Tue)]
日本生態系協会 会報「エコシステム」No.37
−子どもたちのために自然を買ってあげよう−
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将来の子どもたちの暮らしを支える「自然」を守る最も確実な方法は、国や地方公共団体が、自然を守ることを目的に土地を買い上げることです。
日本の約4割の面積をもつ米国フロリダ州では、すでに州全体の23%以上(東京、千葉、神奈川、埼玉、群馬、栃木、茨城県を足した面積に相当)が自然を守る土地として確保され、現在も次々と買い上げが行われています。


輝くフロリダ 〜土地を買って自然を守る〜

自然を守るためすでに州全体の23%を確保

●目標は州全体の面積の30%以上

私たちの会では、世界の国々を訪れ自然を守る様々な取組を参考にしていますが、米国フロリダ州は、そのなかでも進んだ地域のひとつです。
特に自然を守るために土地を着実に買い上げているという点では、最も積極的といってもよいでしょう。
フロリダ州は、日本のおよそ4割の広さをもっています。
州の面積は約1,400万ha、そのうちの約326万ha、全体の23%が自然を守り残す土地としてすでに公共の土地となっています。
もともと所有していた国有地なども含んでいますが、その大半はあとから民有地を買い上げた面積です。
こうした買い上げの背景には、国有地の自然を守るだけでは不十分であり、民有地に多く存在する多様な生きものの生息地を、開発から守る必要があるとの理解があります。
土地の買い上げは今後も続けられるため、近い将来30%をこえる土地が確保される見通しです。

自然生態系の悪化が土地を保全する引き金に

●土地の開発利用で自然生態系が危機に

世界最大の湿地帯エバーグレイズがあるフロリダ州は、生物の多様性も全米一高いといわれています。
しかし、同時に植物の絶滅危惧種の多さも全米一となっており、脊椎動物も高い割合で激減し、フロリダパンサーなどは、現在、数十頭ほどしか生きていないと考えられています。
このような生物の絶滅の危機に象徴される自然破壊の大きな原因のひとつが、近年の急激な人口の増加と土地の開発利用です。
生きものが暮らしている自然地域が、無くなったり縮小したり分断されたりしているのです。
南フロリダに広がるエバーグレイズでも、かつて160万ha以上あった湿地が約半分にまで埋め立てられてしまいました。
人口の急増に伴う宅地化や農業活動の影響は、水の汚染や流れの分断も引き起こし、自然生態系に大きな打撃を与えています。
日本の川が変わる No.36[2016年01月18日(Mon)]
日本生態系協会 会報「エコシステム」No.36
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  • 痛めつけられてきた日本の川

  • 日本の川がいよいよ変わる

  • これからの日本の川

  • 川のあり方の見直しは世界的な流れ

  • 人と自然が調和する川をめざして


川の管理の憲法ともいうべき河川法が、昨年大幅に改められました。
新しい法律ではその目的のなかに川の環境を守ることが入り、日本の川が自然に戻っていくことが決まりました。


これからの日本の川

日本の川をとりまく環境はなぜこれほど悪くなったのか
<川のあつかい近代の特徴>

@治水のために川を無機質な河道に押しこめた

日本は降水量が多く、川も欧米に比べて急流なため、近代の治水では、災害を防ぐために、洪水をできるだけ早く安全に海まで流そうとする考え方が基本でした。
労力を省きながらできるだけ経済的にその目的を実現するために、川はコンクリート護岸に代表されるような、無機質で直線的な水の通路にされ、自由な動きを奪われました。
その結果、それぞれの川の自然の特徴は失われ、独自の生態系も失われ、地下水などとのつながりも断たれるようになりました。

A排水処理をきちんとせずに水を利用してきた

特に高度経済成長期のころ、産業排水などがきちんと処理されないまま川に垂れ流しにされてきました。
さらに、農業に利用した水や生活雑排水が未処理のまま川に流し込まれ続けた結果、水質がどんどん悪くなりました。
また、水力発電施設などでは、利用した水を取水したところより離れた下流に戻すことが多く、両区間の間にほとんど水がながれなくなるなど川の水量のバランスが崩れ、生態系に悪影響をおよぼしてきました。

Bダムなどに頼った治水・利水政策をすすめてきた

現在、日本には農業用のダムも含め2.600基を超えるダムがあります。
ダムの水は、飲料水や田畑をうるおす灌漑用水、発電などに使われ、また洪水を防止するなど、私たちの生活にとって全く不用というわけにはいきません。
しかし多くのダムや堰等により、水や生きもの、土砂や有機物など、川の上流から下流なで流れていた様々なもののつながりが断ち切られました。
ダムの下流側では川の流れが途切れたり、季節ごとの流れの変化が消えたり、また水温が下がるなどして、川の自然生態系は貧弱になり、これからの子どもたちの財産が減少してきました。
新しい農業の法律は自然と調和したものに! No.35[2016年01月17日(Sun)]
日本生態系協会 会報「エコシステム」No.35
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日本の水田地帯には、かつてはガンが安心して羽を休めることができる豊かな自然がありました。
しかし、農業の近代化とともに、そうした豊かな自然は消え失せ、ガンのような渡り鳥をはじめ、多くの野生の生きものが姿を消しつつあります。
農業は、自然と調和したものにしなくてはなりません。


新しい農業の法律は自然と調和したものに

●環境基本計画と農業政策

環境基本法が平成5年に制定されたことをきっかけに、この数年、地方自治体で環境基本条例の制定が急ピッチで進められています。
そしてこれに基づいて環境基本計画といって、生態系の観点から見た地域全体の環境の将来像づくりも、急ピッチで進められています。

ところで、地域全体の環境を再び良好なものによみがえらせる上でまず重要なことは、森や湿地や小川など一定のまとまりのある良好な自然環境を守ることです。
そしてそこを地域の生態系の核として、次に周辺の農地を守ることです。
さらには農協や地方自治体がリードして、たとえば、地域の生態系を回復するうえでポイントとなる区域の中にある水田を特に選んで、化学合成農薬等を使わない農業を特に奨励したり、多くの野生の生きものが生活することができるような形で生産調整を促し、自治体がそれを助成するといったことが重要です。
また、耕作放棄地があれば自治体が率先してこれを買ったり借りたりしてビオトーブ化するといった考えも重要です。
もちろん、市街地ですでに宅地化されている土地についても、容積率を抑えるなど生態系回復の観点から、農地同様、規制をかけていく必要があります。

●地域の自然は地域の責任で守る

大切なことは、地域の環境をどうよくするかという目標を各自治体でしっかり立てることです。
そのあと、農林部はもちろん、環境部も公園部も、さらに建設部も、目標の実現を目指して様々な施策を打ち出していく必要があります。
土地の利用を規制したり、助成金を出すなど、地域の自然を回復させるためにできることは多くあります。

自然生態系の保全は農業にとっても必要なこと
自然生態系を守ることを農業基本法の目的に位置づけよう!


●農業基本法がかわる

昨年から、「農業基本法」※の見直し作業が行われています。
食糧自給率の問題、株式会社が農地を取得できるようにしてもよいものかどうかなど、いろいろなことが議論されています。
しかし、自然生態系のことは、ほとんど議論されていません。
農業は、自然生態系に支えられて営まれる産業です。
いろいろな生きものを守っていくことは、環境部局の課題であることは勿論ですが、ある意味でそれ以上に、農業部局こそが率先して取り組むべき課題といえます。

持続可能な農業を実現するための鍵は、殺虫剤や除草剤で農作物以外の生きものを排除するのではなく、農地をとりまく生きものたちとうまくつきあいながら、それをどうプラスに活かすのかにあります。
新しい農業基本法では、自然生態系と共存する持続可能な農業をつくりあげることを目標に掲げることが大切です。

●「農業基本法」の次は「土地改良法」を自然と調和する形に改めよう

戦後日本は、大型機械が使えるように、土地改良法※に基づいて、土の水路をコンクリートやパイプラインにし、一つの田の大きさを50m×50m以上の大きさにする大規模ほ場整備を進めてきました。
しかし、こうすると水田環境が単調になります。
クモやトンボなどいろいろな生きものの住みかがなくなり、天敵がいないために害虫が発生しやすくなるなど、21世紀の農業を考えた場合、問題があります。
大規模ほ場整備など、地域の生態系を一変させる事業を計画する際には、野生の生きものの多様性を守ることを考えに入れながら、環境アセスメントを行う必要があるでしょう。
そして地域の自然生態系を回復するために、小川沿いや樹林地の周りの土地などをねらって自然を大規模に復元するということが、これからは重要です。

※農業基本法

日本の農業政策の目標を定めた法律で、昭和36年につくられました。
昭和30年代、経済が高度に発展するなか、農業を行う人の所得が他の産業で働く人と比べて低くなり、さらにまたその差がますます拡大する傾向にありました。
農業基本法は、こうした状況を改善するため、労働生産性をあげ、その差を縮めることを最大の目標として制定されました。
当時はそれがこの法律の最大の目標だったのですが、そうして確立された現在の農業の行われ方が、決して持続可能なものでないとわかった今、農業を永続的なものに導く指針となる新たな農業基本法が求められています。

※土地改良法

農地という生産基盤の整備を通じて、労働生産性をあげることを主な目的として昭和24年に制定された法律です。
基盤の目のように整備されたほ場(農地)を、私たちはよく目にしますが、それがこの法律に基づいて行われた「ほ場整備」の結果です。
生物相が著しく単調になるなど、自然環境に悪影響が及ぶことから、土地改良法に基づいたほ場整備のあり方が全国各地で問題にされてきました。

消費天国と地球温暖化 No.34[2016年01月16日(Sat)]
日本生態系協会 会報「エコシステム」No.34
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  • 温室効果ガスの異常な排出

  • 限度を忘れた大量消費社会

  • 未来を選択する京都会議

  • 自然を回復させる暮らしへ


日本を襲うぜいたく病。増えるクルマ、のびる道路。
次々と現れる新製品、増え続ける電力需要。国外から大量に運び込む、燃料、木材、食料、鉱物資源。
夫婦に子ども2人の家庭で使うエネルギー量は、石油にすると4日でドラム缶1本、1年間で使う物質の量では180トン以上にもなります。
このぜいたくこそが地球温暖化を進め、私たちを様々な大災害に巻き込む大きな原因となっています。


資源を奪うからゴミがでる

●日本における物質の出入り(マテリアル・バランス)

平成7年度の私たちの国の国際貿易は、金額でみると輸入31.5兆円、輸出41.5兆円と大幅な黒字を記録しました(「平成9年度版通商白書」)。
しかし、物質量の出入り(マテリアル・バランス)の点では、この一年に日本国内に持ち込まれた石油、重化学工業品、食料等の海外資源は7.5億トン。
それに対して製品等の形で輸出されたのはわずか0.95億トン。
重さでは大幅な輸入のしすぎであり、輸出入の差約6.5億トンは、国内に捨てられるゴミとなります(「平成9年度版通商白書」)。
6.5億トンのうち約4億トンは原油、石炭等のエネルギー源です。

●日本は資源を大量に奪う国

ゴミは鉱物を掘るときなど、資源採取の現場でも発生しています。
しかも資源採取現場での自然破壊、ゴミの発生量は、時に商品として社会に投入される資源量の数倍にも達します。
平成7年に私たちの国に輸入された資源を掘るときに発生した捨石・不用鉱物等の量は、22.9億トン。日本に輸入される食料を生産するときに発生した土壌浸食量は、1.4億トン。
海外でのこうした不用物等の総量は、25.2億トン。国内での資源採取時等に発生した不用物等と合わせると37.4億トンに達しました。
また、夫婦に子ども2人を一世帯として、一年間に一世帯が必要とした物質の総量は183トンにもなり、しかもこれがすべてゴミになっているのです。

●リサイクルの前に物の消費量を減らす

それでは、リサイクルで資源の再生利用を進めるようにしたらどうでしょうか?
しかし今の日本の状態は、リサイクルを進めてゴミを減らす成果を消費の増大がだいなしにしているのが事実です。
また不用物となったものからのリサイクルにあまりとらわれると、大量消費・大量リサイクルに陥ったり、またエネルギー消費の増加すら招きかねない場合もあり問題があります。
平成7年度の我が国の一次エネルギー総供給量は、原油換算で約5億9,000万キロリットル。一人一日で12.8リットル、夫婦に子ども2人の四人家族で、わずか4日で石油のドラム缶1本を消費するというスピードです。
エネルギーの消費はCO2の排出そのものです。
今の日本の経済や私たちのライフスタイルを根本的に改めない限り、温室効果ガスは大量に排出され続け、地球温暖化は止まりません。
その流れを変える大きなきっかけとなる得るのが、今回日本で開かれる「地球温暖化防止京都会議」です。
メキシコの花コスモス No.33[2016年01月15日(Fri)]
日本生態系協会 会報「エコシステム」No.33
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  • 全国に広がるコスモスの輪

  • コスモスはメキシコの花

  • コスモスでは日本の自然が壊れてしまう

  • 地域の自然をまちの誇りに

  • 正しい自然観で豊かな生態系を

写真は、メキシコの自然のなかに咲くコスモスです。
日本の秋の風物詩のように思われがちなコスモスですが、実は日本の花ではなく、もともとメキシコからの外来の花です。
近年、日本各地で自然草地にコスモスを大量に植えるまちが増えていますが、そのため日本に本来ある自然生態系が壊れつつあります。


地域の自然をまちの誇りに

誤解されたアメニティ

一昔前、アメニティを重視したまちづくりという言葉がよく聞かれました。※1
アメニティとは、場所や気候など本来そこにあるものについての心地よさ、快適さなどを意味し、自然や歴史文化財、公共サービスなど、簡単に値段をつけて評価しきれないようなことを含めた「住み心地のよい生活環境」を指します。※2
しかし、わが国では、快適さや便利さの部分のみが強調されるあまり、いままであった本当の自然や文化を壊してまで、見た目の美しさなど一面的な快適性を得るための人工空間づくり、まちづくりがもてはやされてきました。
こうした誤解は、自然環境の価値がより重要視されるようになってからも続き、「自然と共生するまちづくり」といいながら、内容は前ページに挙げたような外来種の大規模な導入や自然のモノカルチャー化という例が後を絶ちません。
※1わが国でアメニティ議論が本格化したのは、1977年にOECD(経済協力開発機構)が"日本は公害問題の解決には目ざましい成果をあげたものの、快適環境(アメニティ)においては欧米諸国に比べて著しく立ち遅れている"と指摘されて以来といわれています。
※2(『日本の環境政策』宮本憲一,1987)

花とみどりのまちづくりコンクール
1990年の「国際花と緑の博覧会」の精神や理念を継承し、その輪を全国または国際的に広げることを目的に1991年から毎年行われているのが、このコンクールです。
審査のポイントのなかのひとつ「環境との調和」にあげられた項目は、

  • 花と緑の調和

  • 空間の有効利用

  • 屋外広告物等の地域環境と整合性

  • 環境美化への対応

  • アメニティー


となっており、コンクールの審査基準に自然生態系の視点はありません。
また、審査のポイントは第1回目から現在まで同じです。
こうした大規模なコンクールや催しものは、人々に自然の意味を教えることができる大切な場です。
コンクールの中で上位入賞を目指そうとする人々に、守り育てるべき自然とは何なのか、具体的に提示する必要があるといえます。
自然が激減している現在、ささやかに庭先に植えた園芸種で心をなごませたり、植物の成長を観察する程度ならそれほど大きな害はありません。
しかし、自然のなかを外来の園芸品種で埋めつくすことは大きな問題です。
地域の自然生態系に目を向けるべきだという世界の潮流をくみ、むしろ日本に回復させるべき自然の姿を明確に示し、日本に本来の豊かで多様な自然を取り戻すきっかけづくりとなる、コンクールが開かれることが望まれます。

地域の野草をまちの誇りに

地域の草といわれても、何を植えたらいいのかわからないという人が、日本にはたくさんいます。
それが地域の植物でなくとも、鳥などがやって来るピラカンサのような実のなる木を植えれば、自然生態系に配慮したことになると思っている人も少なくないでしょう。
しかし鳥の種類も地域によって特徴をもっていますから、エサとなる植物も昔からその土地にあった植物を植える必要があります。
現在、多くの市町村が「○○市の植物」といった本を出しています。
また、各県版のレッドデーターブックも続々とつくられるようになりました。
地域の生きものや自然の状況を多くの人々が正しく理解していくためには、こうした資料の内容の充実と活用、地方自治体の積極的なPRなども必要です。
見た目にきれいな草を植えることを地域の売りものにする時代はもう終わりを告げました。
地域色豊かな植物やその生息地を守り、自分のまちの自然を大切にすることが将来のために必要なのです。
干潟から公共事業のあり方を問う No.32[2016年01月14日(Thu)]
日本生態系協会 会報「エコシステム」No.32
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  • 干潟がなくなる!

  • 日本の干潟はここまで消滅

  • 失って気づく干潟の価値

  • 湿地の破壊はとまらない?

  • 生態系保全・復元型の公共事業を

  • 湿地の破壊は時代に逆行

  • 自然を守る社会に向けて


国営諌早湾干拓事業で長崎県に造られた全長7.05kmの潮受堤防。
そして干上がっていく干潟。
多くの生きものがすむ干潟という将来世代の大切な財産が、今年4月14日、この堤防によってまた破壊された。


湿地の破壊はとまらない?

■国内法では

絶滅の危機に瀕している野生生物とその生息地を守るための法律としてまずあげられるのは、1992年に制定された「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(通称:種の保存法)です。
諫早湾(いさはやわん)には、ムツゴロウ(危急種)やシオマネキ(希少種)をはじめ、環境庁のレッドデータブックに掲載された保護を急がなければならない野生生物が数多く生息しています。
この法律でそうした生きものを守ることはできないのでしょうか?
この点について、環境庁に伺ったところ、「今回の諫早湾の事情対象地には、この法律の政令で指定されている生物(国内希少野生動植物等)がいなかったため、法律に基づいて事業を止めることには限界がありました。
レッドデータブックに記載された野生生物と政令の指定種が一致しているわけれはありません。
またそれらの種は諫早湾だけにしかいないのではなく、有明海の他の場所にもいるので、干拓事業で致命的な打撃を受けるというものではありません。
レッドデータブックに掲載されている生きものについては、今後、さらに詳しい調査を進め、順次、政令の指定種に加えていきたい」との回答でした。
レッドデータブックでたとえ「絶滅危惧種」にランクされていても、法律で改めて指定種に指定されていなければ、法的には何の保証もありません。
また「種の保存法」には、仮に指定種になったとしても、生息地の確保等に必要な予算が、自動的に保証されるわけではありません。
予算的な裏付けを確保することによって、「種の保存法」を真に実効性のあるものにしていくことが求められます。

■国際条約では

日本は、日ロ・日中・日豪・日米の各渡り鳥条約、ラムサール条約、生物多様性条約など野生生物とその生息地の保護を目的とした各種国際条約の締結国として、生物多様性確保に向けた行動を率先して行う責務があります。
具体的には、諫早湾等の世界的にみても重要な野生生物の生息地については、国内の法律で保護区に指定するなどの措置を講じる責務が、国際法上、国にはあるはずです。
しかし、条約締結以前にはすでに開発の予定がある場所については、いくら生態学的に重要な価値があっても、締結した条約に基づいて開発計画の見直しが行われるということはほとんどありません。
また、条約締結後、今日に至るまで、ラムサール条約や生物多様性条約が求める水準の、湿地保全、生物多様性保全に関する措置が、国内法上整備されていません。
表土が危ない! No.31[2016年01月13日(Wed)]
日本生態系協会 会報「エコシステム」No.31
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  • 土壌はなぜ大切か

  • 土壌とは何か

  • 表土がなくなる

  • 危機はさらに

  • 表土なしに未来はない

  • 表土の保全に向けて

  • 土壌憲章

  • 身近なところから


作物を育てたり、雨水を浄化しきれいな水を与えてくれるなど、古くから私たちの生活になくてはならないものである土壌。
実は人間の役に立っているばかりではなく、生態系全体を根底から支えています。
しかもそうした働きの多くは、土壌の地表に近い部分の「表土」が担っているのです。
しかし、この大切な表土が今、世界中で急速に失われています。
ところが日本では表土のことを気にとめる人はわずかで、日常生活の中で土に触れることすらなくなってきているのです。
表土が失われ、生態系が根本から崩れていく状況をこのまま見過ごして、果たして私たちの未来はあるのでしょうか?


土壌はなぜ大切か

土壌には3大機能がある

土壌には私たちの生活との関わりから考えると、生産・分解(浄化)・養水分の保持という3つの大きな働きがあります。

1.生産

緑色植物が育つには大気からの二酸化炭素、太陽からの光のほかに、養分や水などが必要です。
その養分や水は主に土壌から与えられています。
つまり土壌には植物を育てる働きがあるといえますが、この働きが、植物を餌とする動物やさらにそれらを食べて生きるものたちすべてに恵みを与えているといってよいでしょう。
もちろん、それは人間にもあてはまります。
人類は古くから農業や林業、牧畜などの生産手段として、また、育った植物を食料や、医薬品の原材料にするなど、この生産機能を利用してきました。
人間を含めた生き物は、土壌の生産機能に大きく頼っているため、土壌が衰えたり失われてしまっては、生き続けることができません。
特に、世界の人口をこれから養っていくためには、食料生産を可能としている土壌の役割は、きわめて重要です。

2.分解(浄化)

毎年、秋になると森のなかにはたくさんの落ち葉が降り積もりますが、落ち葉が無制限に増えないのはなぜでしょうか?
それは落ち葉が、ヤスデ、トビムシ、ササラダにといった土壌動物に食べられて細かくなり、また、キノコやカビなどの菌類、そして細菌類によって分解され、最後には植物の養分などの無機物になるからです。
落葉が仮に動物の遺体などであっても分解の過程は同じで、土壌生物を育む土壌には分解機能があるといえるのです。
また、土壌粒子は他の物質を吸いつけたり、溶かしだしたりする性質をもっています。
地表から浸みこんできた汚水の汚染物質などは、この性質によって土壌中にとどめられ、あるものは土壌微生物によって分解されます。
そして水はさらに下へと浸透し濾過され、きれいな地下水になっていきます。
井戸水などが飲めるのもこの土壌の浄化作用のおかげです。

3.養分、水分の保持

よく発達した土壌では、スポンジのように大小さまざまな孔やすき間がたくさんあり(団粒構造)、水や空気の通りがよいと同時に養分や水を貯えておくことができます。
大雨の後、グラウンドなどでは水たまりがなかなか消えないのは、団粒構造がないためで、逆に豊かな森林をもつ山に大雨が降っても水たまりができにくいのは、森林の土壌がもっている団粒構造のおかげなのです。
土壌は養分や水を貯えると同時に、地下にゆっくり水を通し、地下水を豊かにしています。
土壌は、以上のような3つの働きを中心に私たちの生活と深く関わっていますが、そのほかにも酸性雨など様々な影響を和らげたり消したりする働きがあり、この働きにより酸やアルカリなどは中和されます。
また、たとえばコンクリートの上では温度が急激に変化していますが、土壌ではある程度一定しています。

自然生態系と文明の盛衰 No.30[2016年01月12日(Tue)]
日本生態系協会 会報「エコシステム」No.30
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吉野ヶ里遺跡や三内丸山遺跡の発見。
お隣の中国では、黄河文明よりも約1000年も古い文明が長江(揚子江)上流で発見され、話題となっています。
繁栄を極めた古代文明の多くは、遺跡だけを残して忽然と滅び去っています。
それ故に人々は、古代の生活や文化に一層の興味を覚えるのでしょうか?
「神々の指紋」が、科学的説得力に欠けるところが多いにもかかわらず、ベストセラーを続けているのも、”絶滅したという超古代文明”に現代文明との対比の中で興味を引かれるからではないでしょうか。
しかし、文明の滅亡は、そこに暮らした多くの人々の生活基盤を根底から奪い去ったはずです。
古代文明は、なぜ絶滅したのでしょうか?
現代文明が同じ道をたどる恐れはないのでしょうか?


古代文明はなぜ滅びたのか

孤島で起こった悲劇

イースター島には、悲惨な歴史が隠されていました。
かつては樹木で覆われていたはずの島に、今ではわずかの草しか生えていないことと関係がありそうです。
イースター島に移り住んだ人々は、森林を伐採して燃料やカヌーの材料にし、その森林がつくった土壌を利用して畑を造りました。
暮らしは豊かになり、何百と造ったモアイを運ぶために更に樹木を伐採し、"コロ"を敷きました。
森林の過剰な伐採は、島民の暮らしを一変させました。
海に出るカヌーがつくれず、漁網や布を作った繊維を採ることもできなくなりました。
そして決定的だったのが、伐採後の裸地や農地の土壌流出でした。
食料不足に陥った島民は争いを続け、敗れた者は奴隷となり、人肉さえ食べたと伝えられています。
頭部が欠けたり目が潰されているモアイが多いことは、集落ごとの争いの跡だと考えられています。
島を抜け出すカヌーさえ持たない島民の人口は、かつての10分の1となり、原始生活を余儀なくされたのです。

文明滅亡の原因

生態系破壊が原因のイースター文明の滅亡は、孤島という隔離された環境で起こった特異な例ではなく、同じことが多くの古代文明で起こっています。
その原因は複数です。
例えば、世界四大文明は、地球規模の気候の寒冷化によって始まったとされていますが、その1つのインダス文明は、約3800年前にユーラシア大陸の気候が再び温暖化を始めた時期に、衰退を開始したといわれています。
ヒマラヤの積雪量が減少し、インダスに恵みをもたらした春先の水量が減少したからです。
他にも、異民族の侵入や大洪水、川筋の移動などが衰退の原因にあげられています。
中南米で発達した、マヤやアステカ、インカ文明などは、ヨーロッパ人の侵略と、彼らが持ち込んだ天然痘をはじめとした伝染病によって滅亡したとも考えられています。
また、ポンペイに代表される火山の噴火などの天災も、古代都市を破壊しました。
そして、何よりも大きな原因と考えられるのが、文明自身により自然生態系の破壊です。
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