すべてのまちに生物の多様性を守る戦略を No.129[2016年04月20日(Wed)]
日本生態系協会 会報「エコシステム」No.129
生物の多様性を守り、増加させる地域戦略の役割
世界の多くの地域で生物多様性を重視したまちづくりが進められる一方、これまでの日本のまちづくりのほとんどは、健全な生物多様性を確保する視点がない、持続不可能なものがほとんどでした。
しかし、自然と共存したまちづくりに取り組んできた地域もあります。
地域の生物多様性を守る「生物多様性地域戦略」をつくり、地方公共団体のまちづくりの計画を組み入れて、「自然との共存」をまちづくり計画の基盤にすることが必要です。
地域の生物多様性を守るためにすべての市やまちに「生物多様性地域戦略」が必要
生物多様性が豊かであればあるほど、より高い質とより多くの量の生態系サービスを受けることができます。
逆に、生物多様性が乏しい場合は、お金を出すなどして他の地域からサービスを買う必要が出てきます。
日本では、目先の利益を優先し、豊かな生物多様性を失ってきました。その結果、不足した生態系サービスを他の地域から買うといった、持続可能でないまちづくりが、都市部だけでなく、ほとんどの農村部でも進められてきました。
その一方で、地域が主体となり、地域の生物多様性を守り育て、得られる生態系サービスをまちづくりに生かそうとする取り組みが行われてきた地域もあります。
そこでは、地方公共団体や民間団体が生物多様性の保護・再生を目的として土地を買い上げたり、学校ビオトーブをつくって活用したり、農薬や化学肥料を使わない、環境にやさしい農業などを行ってきました。
生物多様性を守り、生態系サービスを持続して受けられるようにすることと、土地をどのように利用していくかということには、密接な関係があります。
そのため、土地を利用する方法を決めるまちづくり計画に、地域の生物多様性を守るために「生物多様性地域戦略」を入れ込むことが求められます。
しかしながら、2012年度までに地域戦略をつくっている地方公共団体はごく少数です。
都道府県レベルでも公表済みなのは23ですが、市区町村レベルでは約1,740市区町村のうち、公表済みは30であり、これは全体の約2%※だけです。
また、すでにつくられた一部の地域戦略は多くの問題を抱えており、日本の各地域の生物多様性を守るためには不十分です。
※平成25年3月末段階、市区町村は政令指定都市を含みます。これに加え、現在27市区町村が「生物多様性地域戦略」を策定中ですが、これを含めても全体の約3%にしかなりません。
土地の確保を柱としていない
生物多様性を保護・再生するうえで最も重要なのが、土地を確保することです。
しかし、今までにつくられた地域戦略では、最も重要な「土地の確保」が柱になっていません。
これは、地域戦略がまちづくり計画の根幹ではなく、枝葉のような位置づけになっている、またはそのような認識でつくられているということの証拠です。
生物多様性を守ることについて関心の低かった、昭和の時代につくられたまちづくり計画は、いまだに強い力を持っています。
そのため、このまちづくり計画によって生じた生態系サービスの低下について、仮に地域戦略で課題としてとらえていたとしても、対策をはっきりと打ち出せない、また、十分な予算がつかないという状況となっています。
地域の生物多様性を守る取り組みへの国の支援が不十分
国には、地域戦略をつくるための支援制度はありますが、地域戦略を実行するための支援は不十分です。
このため、現在の地域戦略の多くは、目標となる数値などの具体性に乏しいだけでなく、規模も小さいものになっています。
開発によって消失しそうな民有地のまとまった森があるとします。
地方公共団体の視点に立てば、森を開発して利用することで得られる利益を選ばずに、森を保護して持続可能に利用することで得られる利益を選ぶということは、大変な決断力を要します。
国は、地方公共団体が後者を選びやすくするために、財政的な支援等で後押しする必要があります。
- 人々のくらしを支えている生物多様性
- 失われる生物多様性
- 生物多様性を向上させる世界のまち
- 生物の多様性を守り、増加させる地域戦略の役割
- 生物の多様性を地域で守り、豊かな暮らしを実現する
生物の多様性を守り、増加させる地域戦略の役割
世界の多くの地域で生物多様性を重視したまちづくりが進められる一方、これまでの日本のまちづくりのほとんどは、健全な生物多様性を確保する視点がない、持続不可能なものがほとんどでした。
しかし、自然と共存したまちづくりに取り組んできた地域もあります。
地域の生物多様性を守る「生物多様性地域戦略」をつくり、地方公共団体のまちづくりの計画を組み入れて、「自然との共存」をまちづくり計画の基盤にすることが必要です。
地域の生物多様性を守るためにすべての市やまちに「生物多様性地域戦略」が必要
生物多様性が豊かであればあるほど、より高い質とより多くの量の生態系サービスを受けることができます。
逆に、生物多様性が乏しい場合は、お金を出すなどして他の地域からサービスを買う必要が出てきます。
日本では、目先の利益を優先し、豊かな生物多様性を失ってきました。その結果、不足した生態系サービスを他の地域から買うといった、持続可能でないまちづくりが、都市部だけでなく、ほとんどの農村部でも進められてきました。
その一方で、地域が主体となり、地域の生物多様性を守り育て、得られる生態系サービスをまちづくりに生かそうとする取り組みが行われてきた地域もあります。
そこでは、地方公共団体や民間団体が生物多様性の保護・再生を目的として土地を買い上げたり、学校ビオトーブをつくって活用したり、農薬や化学肥料を使わない、環境にやさしい農業などを行ってきました。
生物多様性を守り、生態系サービスを持続して受けられるようにすることと、土地をどのように利用していくかということには、密接な関係があります。
そのため、土地を利用する方法を決めるまちづくり計画に、地域の生物多様性を守るために「生物多様性地域戦略」を入れ込むことが求められます。
しかしながら、2012年度までに地域戦略をつくっている地方公共団体はごく少数です。
都道府県レベルでも公表済みなのは23ですが、市区町村レベルでは約1,740市区町村のうち、公表済みは30であり、これは全体の約2%※だけです。
また、すでにつくられた一部の地域戦略は多くの問題を抱えており、日本の各地域の生物多様性を守るためには不十分です。
※平成25年3月末段階、市区町村は政令指定都市を含みます。これに加え、現在27市区町村が「生物多様性地域戦略」を策定中ですが、これを含めても全体の約3%にしかなりません。
土地の確保を柱としていない
生物多様性を保護・再生するうえで最も重要なのが、土地を確保することです。
しかし、今までにつくられた地域戦略では、最も重要な「土地の確保」が柱になっていません。
これは、地域戦略がまちづくり計画の根幹ではなく、枝葉のような位置づけになっている、またはそのような認識でつくられているということの証拠です。
生物多様性を守ることについて関心の低かった、昭和の時代につくられたまちづくり計画は、いまだに強い力を持っています。
そのため、このまちづくり計画によって生じた生態系サービスの低下について、仮に地域戦略で課題としてとらえていたとしても、対策をはっきりと打ち出せない、また、十分な予算がつかないという状況となっています。
地域の生物多様性を守る取り組みへの国の支援が不十分
国には、地域戦略をつくるための支援制度はありますが、地域戦略を実行するための支援は不十分です。
このため、現在の地域戦略の多くは、目標となる数値などの具体性に乏しいだけでなく、規模も小さいものになっています。
開発によって消失しそうな民有地のまとまった森があるとします。
地方公共団体の視点に立てば、森を開発して利用することで得られる利益を選ばずに、森を保護して持続可能に利用することで得られる利益を選ぶということは、大変な決断力を要します。
国は、地方公共団体が後者を選びやすくするために、財政的な支援等で後押しする必要があります。