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世界を平和にみちびくチベットの人々 No.161[2019年03月21日(Thu)]
日本生態系協会 会報「エコシステム」No.161
−持続可能な生き方−
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  • チベットの人々の、自然とともにある暮らし

  • チベットの暮らしの根底にあるもの

  • 日本に息づく自然観 自然・生きものに対する敬意

  • 地球の限界を超えたわたしたちの暮らし

  • 新しい時代にふさわしい 自然に寄り添った生き方


広大な草原で身の丈にあった伝統的な暮らしをおくるチベットの遊牧民の人々。
一つしかない地球の一員としての責任を持ち、持続可能な生き方を探すとき、チベットをはじめとする自然とともに培った伝統的な知恵と文化は、さまざまな手がかりを与えてくれます。



チベットの暮らしの根底にあるもの

伝統的な 暮らしが今も続けられているチベット。
チベットの人々に根差すものは何なのでしょうか。
人々との出会いの中で、チベット高原ならではの自然のもと、長い年月をかけて培われてきた価値観や独自の文化を垣間見ることができました。

厳しくもろい自然、そこでの暮らし

「世界の屋根」と称されるチベット高原は、総面積約250万kuのユーラシア大陸の中央に広がる世界最大級の高原です。
南にヒマラヤ山脈、北はクンルン山脈などに囲まれ、高標高のため寒く乾燥し、気温差が大きく1日の中に四季があると言われるほどです。
またこの厳しい気候に適応した地域固有の動植物が数多く生息・生育しています。
黄河、長江、メコン川、インダス川など大河の源流を有することから、「アジアの給水塔」とも呼ばれています。

かつては、豊かな草原や、特に南部や東部では原始の森が広がっていましたが、近年深刻な自然破壊が進んでいると言われています。
森林は乱伐により、1950年の面積2,520万haから、1985年には1,357万haと約半分にまで減少しました。
また森林や草原の劣化によって、土壌流出や、砂漠化、動植物の絶滅などが危惧されています。
寒冷で乾燥した環境での森や草地の再生は困難であるため、チベット高原の自然破壊はより深刻と言えます。

とはいえ、中国の国務院報道弁公室が2018年に発表した白書「チベット高原における生態文明建設状況」には、「希少野生動物が自然に生息している場所で高原生物種の遺伝子バンクであると同時に、中国ひいてはアジアにとって重要な生態安全バリアでもある」とされ、チベット高原は依然として、地球で最もクリーンな地域の一つであることが記されています。

チベットの人々は、厳しくも豊かで、そして脆い唯一無二の自然を生き抜くなかで、この土地に合った募らし方や生活文化を築いてきました。そしてそれは今もなお強く息づいています。

無用な殺生はしない

慈悲深いと言われるチベットの人々。
テーブルに虫がとまっていたらどうするかを聞いてみると、ほとんどの人が追い払うだけで殺さないと答えます。
赤ちゃんを連れたある若い男性は、「大人は絶対に殺しません。子どもが殺そうとしたら、学校や家族の大人が、命あるものは平等で大切であることを教えます」と話しました。
カム地方の小さな街では、車に礫かれないようにと、毎朝、道路の虫たちを手で拾い、草原に戻す人たちにも出会いました。
チベットの人々は昔から自分より他人や生きものを大切にする利他の精神を持っていました。
さらに、すべての命は死ぬと別の人間や生きものに生まれ変わる輪廻転生という仏教の考え方も加わり、命を大切にする習慣が先祖代々身についているのです。

チベットの人々の心を支えるもの

チベットの人々は聖地巡礼に熱心な民族だと言われています。
チベットには多くの聖地が存在し、中でもチベット自治区の中心の街ラサには、ベチット高原全域から巡礼者が訪れます。
ジェクンドの近くで出会った4人組の家族は、チベット高原北東部の甘粛省から巡礼の旅を続けていました。
4人のうち2人は初めての巡礼で、ーか月前に出発したと言います。
ジェクンドから巡礼の目的地ラサまでは約1,000kmほどの道のりがあります。
おそらく、これからさらに1か月以上歩き続けるのでしょう。

私たちと話している途中、4人は通りかかった車を止めました。
少し話をして、その車に4人分の大きな荷物を乗せると、車は4人を置いて走り去りました。
知り合いかと尋ねると、初対面だが、荷物を15km先の町まで運んでもらうよう頼んだと言います。
4人が休んでいた道ばたのテントも、自分たちで用意したものではなく、目の前に住んでいる人が巡礼者のために立てたものでした。
チベットの人々にとって、巡礼者に対して協力することはごく当たり前の習慣になっているのです。

チベット仏教特有の祈りの形式に「五体投地」があります。
合掌した手を額、喉、心臓の三か所につけたのち、うつぶせになり、また立ち上がり、自分の身の丈だけ足を踏み出す一、これを繰り返しながら祈ります。

聖地では、五体投地をして祈るチベットの人々を多く見ます。
また、人々の祈りは、さまざまな形で風景の中に見ることができます。
多くの寺院はもちろんのこと、川の両岸に積まれた経文などが彫られたマニ石や、山の中腹に無数にはためく、タルチョという経文が書かれた五色の旗も、人々の祈りの形の一つです。
政治的に複雑な問題を抱えるなかでも、伝統的な価値観や考え方、そして人と人との支え合いが見られます。
これからのゴルフ場 No.160[2018年11月28日(Wed)]
日本生態系協会 会報「エコシステム」No.160
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  • 自然破壊の代名詞だったゴルフ場

  • ゴルフ場は生きものにやさしいの?

  • 生物の多様性を守るゴルフ場とは?

  • 生物多様性保全に力を入れる

  • ドイツのゴルフ場

  • 地域の人々に愛される自然豊かなゴルフ場


自然破壊の代名詞とも言われてきたゴルフ場。
数十ヘクタール規模の広大な敷地は、その利用や管理の内容によって、地域の生態系ネットワークを強化するものにも、健全な地域づくりにも大きく貢献できます。



自然破壊の代名詞だったゴルフ場

自然破壊や農薬汚染が全国的問題となったゴルフ場開発

かつて、ゴルフ場は自然破壊の代名詞のように扱われていました。
それは、ゴルフ場開発のために森林伐採や地形改変が行われ、芝生維持のために散布される農薬や化学肥料が周辺に流出して水が汚染されるというイメージのためです。

実際、1980年代から1990年代には各地でゴルフ場開発に反対する市民運動が立ち上がり、関連するシンポジウムや書籍も多数、開催、出版されました。

失われた森などの面積は東京23区以上

ゴルフ場開発によって、どれほどの自然が失われてきたのでしょうか。
はっきりとしたデータはありませんが、国が出している地図情報をもとに試算したところ、現在ゴルフ場のホール(ゴルフをプレーする区域)として利用されている部分の合計面積は全国で約13万haでした。

ゴルフ場開発がブームとなる直前の約40年前にその場所がどうだったか調べてみると、森林が約7万ha、湖沼・河川が約1,700ha、荒地(草はらや湿地帯)と水田がそれぞれ約4,000haなどであり、建物用地はわずかに300ha程度、畑やその他用地は約5万haでした。

つまり、日本ではこの40年の間に、ゴルフ場開発だけで東京23区の1.3倍ぐらいの面積に匹敵する8万ha程度の森林や湿地などが失われたことがわかりました。
建設後、ゴルフ場内に、まったく異なる地域の植物や園芸種が導入される例も多くあります。
波力発電 No.159[2018年10月18日(Thu)]
日本生態系協会 会報「エコシステム」No.159
−海のエネルギーが地域を豊かにする −
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  • 持続不可能なエネルギー戦略

  • 海という貴重な資源

  • 波力発電をめぐる課題

  • 波力発電に関わる国の支援

  • 地産地消エネルギーで地域活性化

  • 賢い海の利用を


周りが海に囲まれた日本において、有望なエネルギー源と考えれるのが海のもつ波の力です。
自然を壊さず、地域に利益をもたらす再生可能なエネルギー源として、波力発電の技術開発を進めていく必要があります。



海という貴重な資源
電気などのエネルギーを安定して確保できるようにすることは、日本の大きな課題の一つです。
日本が持つ貴重で大きな資源である「海」を、持続可能な社会の実現に向け、どのように利用していくのかを考えていく必要があります。
長い海岸線をもつ日本で波の力を有効活用することができれば、多くのエネルギーを生み出す財産になります。

世界中で進む海を利用した発電方法

海が持つ力は非常に大きなものです。
現在、潮汐や潮流のように、さまざまな海の力を発電に利用する取り組みが進んでいます。
海の力の中でも、とくに、暮らしに近い場所で得られるエネルギーとして、「波の力」があります。

1989年の運輸省港湾技術研究所(当時)の調査資料によると、「日本周辺の波パワーの総平均量は3,600万kW」にものぼります。
仮にこのエネルギーをすべて電力に変えられれば、1年間で3,154億kWhとなり、日本の総発電量(平成28年度は1兆444億kWh)の約30%にもおよびます。
実際は、波エネルギーをすべて発電に利用できるわけではありませんが、その一部を利用できるようになるだけでも、地域にとっては大きな財産となります。

波力発電の大きなメリットの一つとして、同じ面積当たりで得られるエネルギーの量が大きいことが挙げられます。
同じ面積から得られるエネルギーで見た場合、波力は風力の約5倍、太陽光の20〜30倍もの力があると言われています。

また、波は常に発生していることから、時間帯などによらず安定して発電ができることもメリットとして挙げられます。

海という資源に囲まれる日本

日本は海まで含めてみた場合、世界でも非常に広い国であるという特徴があります。
日本の海岸線の長さは、世界第6位の3万3,889kmで、アメリカやオーストラリアよりも長い海岸線を持っています。
こうした国土の特徴を活かして海の力を利用することで、多くのエネルギーを生み出すことができます。

また、日本人は昔から、海を利用してきました。
日本には2,866もの漁港があり、現在も多くの人々が海とかかわりながら暮らしています。
つまり、海は、電気を必要とする生活の場に近いという利点があります。

陸地が狭い日本には資源がないとよく言われます。
しかし、持続可能な社会を実現するためのエネルギー源はすぐ近くにあるのです。

波力発電の歴史

波力を使った発電方法は、非常に古くから研究が進められてきました。
フランスでは1799年に特許申請が出されています。
実際の発電の事例としては、1910年にフランスのボルドーに近い海岸に出力1kWの波力発電機が取り付けられたことが最初です。

日本でも1964年に開発された、船が安全に航行するための目印となるブイ(益田式航路標識用ブイ)の電源として波力発電は活用されています。
今や、波力を電源とするブイは、世界中に広がっています。

国内でとくに関心が高まったのは、1970年代に国際的な紛争の影響で世界的に石油の価格が上昇した時期(オイルショック)です。
その際、エネルギー不足への危機感を背景に研究が本格化し、1978年、本格的な波力発電の実証実験が始まりました。
しかし、石油価格が安定してからは消極的になり、2003年以降しばらくは大規模な波力発電の実証実験は途絶えました。

その後、地球温暖化の問題が深刻化するのに伴い、波力発電の開発も再開され、2016年10月には、岩手県久慈市の久慈港に、防波堤を利用した実証実験設備である「久慈波力発電所」が設置され、日本で初めての波力発電の商業運転が行われました。

このほかにも、福井県越前町において、海岸の岩場を掘り取って潮吹き穴を開け、その中で波の動きが引き起こす風を使って発電を行うブローホール型の波力発電の実験が行われています。
そこで得られた電力は、電気自動車の充電に使われるなど、実用に向けた取り組みが進んでいます。

日本では波力発電の本格的な商業利用はいまだ実現していませんが、今後の発展が期待されます。
お花見の姿〜ソメイヨシノの弱み〜 No.156[2018年04月06日(Fri)]
日本生態系協会 会報「エコシステム」No.156
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  • 画一性より多様性

  • お花見も多様に楽しむ

  • 大量植栽が生みだす問題

  • 自然との共存を目指した並木

  • 在来種によるエコロジカル・ネットワークを


桜は日本の春の代名詞な存在ですが、将来のまちに本当に必要とされるのはサクラ並木ではなく、さまざまな在来な植物によって取り戻された自然の生態系です。


画一性より多様性

春の観光の柱、サクラ

今年もサクラの季節がやってきます。ソメイヨシノがあたりを美しく薄紅色に染める時期は、日本の四季のなかでも最も心躍る時期であるという人も多いことでしょう。
今やサクラの人気は世界的なものです。
サクラの美しさそのものに加えて、いわゆる「お花見」‐咲き誇るサクラの下でにぎやかに飲食する‐が、日本独特の風習として海外にも広く知られるようになっています。

訪日外国人の数は大幅に増加を続けていて、この10年間で約2倍になっています。サクラの季節である3月から4月は夏のバカンスシーズンと並ぶ人気のシーズンとなっていて、4月だけで250万人以上が日本を訪れています(日本政府観光局調べ、2017年月別訪日外客数)。
日本を訪れる人たちは1回の滞在で1人あたり平均13万円ほどを支出し、日本の経済に貢献しています。

さらに、お花見シーズンを含む4月から6月にかけて日本を訪れた観光客に観光庁が実施したアンケートの結果によると、お花見などの「四季を体感できる活動」を「今回した」人の割合は21.6%。一方で、そのような活動を「次回したい」と答えた人の割合は29.7%と、より大きな割合となっています。
大多数の訪日外国人たちが体験する「日本食を食べる」、「ショッピング」などは「今回した」人の割合に比べ「次回したい」と回答した人の割合が大幅に少なくなることとは対照的な結果です。
日本の春は、外国人たちにとって非常にエキゾチックかつ魅力的なもので、次こそは楽しみたい、あるいは何度でも楽しみたいものと思われているようです。

特に最近はSNSの発達もあり、一面に咲き誇るサクラの名所を訪れるだけでなく、サクラに彩られた田園風景や、歴史や伝承をもつサクラを探訪し、背景にある物語をサクラのある風景と共にインターネット上に掲載するなど、外国人たちによるサクラの楽しみ方が急速に多様化しているようです。
お花見の文化を発達させてきた日本人自身はもちろんのこと、外国から訪れる観光客にとっても、サクラは日本の春の代名詞的な存在であるようです。

サクラとのうまい付き合い方を考えたい

サクラとお花見を世界的な観光資源に押し上げたのは、ソメイヨシノの働きによるところが大きいことは間違いありません。
ソメイヨシノの美しさは一種類を大量に植えてこそのものですが、まちの魅力づくりを大量のソメイヨシノに頼っていていいものかという疑問があります。

全国の街路樹の本数集計を続けている国土政策総合研究所によると、全国に500種以上ある高木の街路樹のなかでサクラ種はイチョウに次いで2番目に多く、全体の約8%を占めています。
一方、日本植木協会などの調べでは、植木として出荷可能なサクラの約3分の2がソメイヨシノです。
この二つのことから、日本の街路樹の5%程度がソメイヨシノであるといえます。
多様な気候風土のもと、地域性に富んだ非常に豊かな植物相を育む日本ですが、まちの中を見ている限りではソメイヨシノの国であるという印象があります。

これほどに多く用いられているソメイヨシノですが、多くの人の目を引き付ける期間は1週間足らずしかありません。
その一方で、ほかの季節にも多様な魅力を発揮する樹木が日本にはたくさんあります。
将来世代にとって本当に必要なのは本来の自然を構成する在来種です。
ソメイヨシノという単一種が並ぶまちから、地域在来のさまざまな草木が見られるまちにする必要があります。

※平成29年4‐6月度訪日外国人消費動向調査
「生態特区」で接続可能な地域づくり No.155[2018年01月18日(Thu)]
日本生態系協会 会報「エコシステム」No.155
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自然再生を進めるうえで問題となる「法律にもどづく規制」を改革する方法の一つとして、国に対して直接提案を行うことができる「特区制度」は、有効なしくみです。


自然がつくりあげた私たちのくらし

自然によってつくられた文化と景観

日本は国土が南北に長いことから、地域ごとに気候も異なり、全国各地でそれぞれの自然環境に影響を受けた文化が息づいています。
お正月の飾り、おせちやお雑煮も自然の影響を受け地域ごとに発展をとげています。

鏡餅の下に置く飾りも地域によって、ユズリハやウラジロなどその地域に分布する植物を使っています。
ともすれば何もないと見られがちな日本の農産村地域ですが、その独特の自然や歴史、文化を活かして産業・観光振興を行い、活性化に成功している地域があります。

徳島県上勝町では、どこにでもある葉っぱを料理などのつまものとして販売するビジネスを展開し、町おこしに大きく貢献しています。
埼玉県の飯能市は、観光・エコツーリズム推進課を設置し、伝統的な里山の景観を活かしたエコツアーを数多く展開して町おこしにつなげています。

韓国、中東、南米、欧米諸国など海外からの視察も多数受け入れています。
岐阜県飛騨市の、里山を自転車で巡るツアーでは、ガイドがその歴史や文化を丁寧に説明し、海外の旅行者から人気を得ています。

雇用の創出や外国からの観光客の取り込みといった地方創生を進めるうえでも、日本の多様な文化を育んできた自然は重要な役割を果たしています。

自然の価値を見直す

また、近年の人口減少等によって税収が減少し、費用のかかる従来のコンクリートなどによる大規模な防災施設の維持が難しくなっていくなかで、生態系のさまざまな機能と回復力を活かした防災・減災(Eco-DRR)が注目されています。
町おこしや防災・減災に限らず、日本人のくらしは昔から、自然の恩恵(生態系サービス)を受けています。

世界を見ると、2010年10月に報告書が公表された「自然の恩恵を経済的に評価する国際的な取り組み(生態系と生物多様性の経済学(TEEB))」の試算によれば、生態系の破壊による世界の経済的損失は、進行する生態系の破壊を抑制する対策を取らなかった場合、年間で約162〜365兆円にのぼるとされています。
一方で、熱帯雨林やサンゴ礁、マングローブ林などさまざまなタイプの自然が各国で保護地域に指定され守られていますが、そこから得られる生態系サービスは年間約405兆円にものぼるとされています。

そして、この額の約百分の一、年間約3.6兆円をかければ、これらの保護区を守ることができるという報告がされています。
古代から「豊葦原の瑞穂国」と言われる日本で、湿地は国を特徴づける自然の一つです。

環境省の試算では、全国の湿地が有するレクリエーション等への利用価値だけで年間約106〜994億円にのぼるとされています。
水質の浄化や二酸化炭素の吸収・固定などほかのさまざまな機能まで含めると、年間約8,391〜9,711億円にもなります。

つまり、知らず知らずのうちに私たちは毎年約1兆円分の生態系サービスを湿地から受け取っているのです。
くらしや財産を守るという視点からも、自然の価値を見直す必要があります。

※当時のレート(1ドル=約81円)で計算
空いた土地 使わない土地 No.154[2017年11月14日(Tue)]
日本生態系協会 会報「エコシステム」No.154
−もとの自然を取り戻す −
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人口減少を迎える今こそ、くにづくり、地域づくりの基盤となる自然を、自治体が買い取り、自然再生することが大切です。


人口が減ることはいいことも、困ることも

人口減少も、さまざまな形があります。
また、人口減少から派生する問題や可能性はどこにあるのでしょうか。
国に求められている持続可能なくにづくり、地域づくりの良い機会を迎えます。

人口減少にあわせた社会を

現在、日本では、全国的に少子高齢化となり、また地方ではさらに過疎化という理由も加わり、人口減少が進んでいます。
急速な高齢化は社会保障に関する費用が増えるため、大きな財政負担となります。

社会保障として給付している費用は年間2.6兆円のペースで膨らんでいます。
一方で、少子化に伴う生産人口の減少によって、税収が減り、財政状況が今以上に悪化することが懸念されます。

また、過疎地域のために必要な道路づくりなどを継続しようとすると、その分、国や地方自治体の財政負担も大きなものとなります。
例えば、雪国における市町村道の年間維持管理費は、1kmあたり90万円程度かかります。

このように、地域の人々にとって最低限の生活環境を維持することだけでも、多くのお金がかかります。
ところが、人口が減少していくことで、さまざまな設備を維持し続けるための予算を確保することが、年々難しくなってきています。

現在の日本全体の財政は、不足する税収を補うために借金を重ねることで支えられています。
2016年時点の国の借金は対GDP比で232.4%となっており、2010年以降、危機的な財政に苦しむギリシャの200%よりも高い比率になっています。
このような財政赤字をいつまでも続けていくことはできません。

そのため、社会や経済のしくみや、まちづくりなどの土地の使いかたを、人口減少という現実をふまえ、すぐに考えなおす必要があります。

少子高齢化による人口減少

では、現在の日本における人口減少はどのような状況なのでしょうか。
日本全体でみると、平成17年(2005年)に死亡数が出生数を上回り、以後、同じ状態が続いています。

平成23年(2011年)には死亡数が出生数よりも20万人以上多くなり、その差はさらに開き続けています。

こうした人口減少の一方で、高齢者の割合が高まっています。
2014年現在における、65歳以上の高齢者人口は3,300万人で、日本全体の約4人に1人の割合です。

これが2060年には、2.5人に1人が65歳以上になるとも言われています。
国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、日本の人口減少傾向は今後も続き、2053年にはI億人を割り、2065年には約8,808万人(現在の約7割)になると推測されています(出生中位(死亡中位)推計)。

過疎化による人口減少問題

日本全体の人口が減少していることに加えて、都市への人口集中こよる周辺地域の過疎化が進むことが問題となっています。
特に東京圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)への人口の移動が進んでおり、2016年の東京圏への転入超過は11万7,868人となっています。
2015年および2016年において、人口の転出よりも転入が多かった都道府県は、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、大阪府、福岡県の1都1府5県にすぎません。

国上交通省『国土の長期展望』(平成23年2月)によると、2005年に比べて2050年時点で人口が増加するのは、東京や名古屋周辺など全国の1.9%の地点に限られているとされています。
さらに、2005年時点で人の居住のあった地点のうち、21.6%が居住する人のいない場所になると推定されています。

都市部に人口が集中するとともに、現実に、かつて人の住んでいた地域から人がいなくなっているところもあります。

総務省と国土交通省の調査によると、2010年から2015年の5年間で99市町村にあった190集落がなくなったとされています(うち27集落は東日本大震災被災に伴うもの)。
人が住まなくなることで今後10年以内になくなる可能性のある集落は570集落とも言われており、今後も増えていくと考えられます。
大型水鳥と地域振興 No.153[2017年11月13日(Mon)]
日本生態系協会 会報「エコシステム」No.153
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大型水鳥をシンボルにエコネットを構築し、環境と経済が共鳴する新しいまちづくりが全国各地で始められています。


自然との共生がつくり出す風景

自然と共生して暮らしてきた先人たちの知恵が、まちの文化となり、特色ある風景をつくってきました。
しかし、経済発展を求めるなかで、地域らしさを象徴する文化、美しい風景が失われていきました。
外国からの訪問者が増加するなか、自然とともにあった美しい風景を取り戻し、それをまちの活性化につなげていく動きが始まっています。

まち中の風景

日本は南北に長く、気候区分は北海道から南西諸島まで六つに分けられています。
その土地の気候、地形、自然環境が、生活様式に影響し、街並みをつくりあげ、個性となりました。

たとえば夏は暑く、台風が多い沖縄の伝統的な家屋は、強風に耐えることに重きを置いてつくられています。
サンゴでできた石垣、赤土を焼いたオレンジ色の瓦屋根は軒が長く、家は平家で低いなど-。

家の周りに植えられたふくぎが防風林の役割を果たし、また辻々にある緑は、暑さの中で心地よい風を生み出します。
あるいは豪雪地帯の北陸では、重く湿った雪が滑り落ちるよう釉(うわぐすり)が塗られた丈夫な能登瓦が黒々と光っています。

散居村として知られる砺波平野では、雪の吹き溜まりで家が埋もれないよう、垣入(かいにょ)と呼ばれる防雪・防風林が見られます。

ここに挙げたものはほんの一例にすぎませんが、このような地域ごとの特徴ある「風景」は、その地に住む人が自然と付き合いながら生きていくための知恵や工夫から生まれたものでした。
同時にこの特色こそが旅人を楽しませる魅力の一つとなっていました。

しかし近年さまざまな技術が開発され、また、便利さや経済発展を求めるなかで、こうした風景が失われつつあります。

農村の風景

まちの中だけでなく、郊外や農村の風景も変わりました。
かつての農地や農業水路、川は生物の多様性に富み、コウノトリやニッポニア・ニッポンの学名をもつトキといった大型水鳥が、人々とともにくらしていました。

着物や伝統的な工芸品には、しばしば大型水鳥が描かれており、その存在が人にとってとても身近だったことがわかります。

しかし、乱獲のほか営巣木となる大木が切られたり、採食場である水田地帯に毒性の強い農薬が使われるようになったり、田や水路の構造が変わったことで教を減らし、コウノトリやトキのいる風景は、30〜40年以上前に日本から失われました。

近年、地域のさまざまな人が協力し、国とも連携しつつ、自然との共生が生み出したかつての美しい風最を取り戻し、それを経済の活性化など、まちの社会経済面での課題解決につなげていこうという動きがあります。
生きている海岸線 No.152[2017年08月07日(Mon)]
日本生態系協会 会報「エコシステム」No.152
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コンクリートで固められた海岸線とは対象に、エコトーンがあり、さまざまな生きものがくらす海岸線…。
生きている海岸線は命を守り、経済と社会の発展になくてはならないものです。



「生きている海岸線」を取り戻そう

コンクリートではなくエコトーンを

海から陸へと移り変わる海辺のエコトーンは、多様な野生の生きものを育み、豊かな漁業資源の源となってきました。
これらは私たちの文化を育み、美しい景色と共に地域の観光資源ともなり、また同時に高波などの自然災害を和らげてくれる場でもありました。
一方、平地が少ない日本では、波による浸食から国土を守り、新たに広げることが必要とされてきた面もあります。
その結果、波を防ぐ堅い構造物が広範囲に設置され、より海に近い場所まで開発が進められました。
また新たに土地を生み出すために、大規模に埋め立てが行われてきました。
利用可能な土地は、確かに増えました。
しかし、その影で多くの海岸では、海辺のエコトーンは分断され劣化し、あるいは消失し、エコトーンが残る本当の自然の海辺はわずかとなってしまいました。
今、日本の人口は減少に向かい、また温暖化による海面上昇も進みつつあります。
海の前面に設置したコンクリートの構造物は、いずれ確実にゴミになります。
またその前の段階で維持していくのに多くのコストがかかってきます。
私たちは、持続可能な海岸管理を考えていく必要があります。

埋め立てをやめる

まず、産業や農業のために、これ以上、海岸を埋め立てることはやめるべきです。
そして、現在使われなくなった農地や利用されなくなった工業用地は自然に戻していく必要があります。
また、港に出入りする船の航路確保のための土砂の浚渫に対しては、その土砂を活用して干潟を再生する事業が有効な場合があります。
その際は、場所選びを慎重に行い、それ自体も重要な浅瀬の環境の新たな埋め立てにならないよう注意する必要があります。
今後は、長期的な視点から沿岸の土地利用を見直し、維持管理にコストがかかる場所では、かつての埋立地に海の水を引き入れることにより土地を海に帰していくことも考えるべきです。

川と海のつながりを取り戻す

砂浜は、山の土砂が川の流れによって運ばれることにより、また海に面した崖の海岸が波で少しずつ削られることにより、長い時間をかけてつくられます。
しかし、かわにの上流につくられたダムにより、本来は山から流れてくる土砂がダムの中で溜まってしまったり、堤防などの海岸の構造物によって砂が移動しなくなったりすることで、砂浜がやせていく状況が日本の各地で見られます。
今後、ダムの本体の老朽化が進み、維持管理費は増大していきます。
構造物によって土砂も波も「止める」ことを主眼としてきたこれまでのやり方に対して、これからは川から海への土砂の移動、また波による海の中の土砂の移動など、広域での土砂の移動を維持・管理する観点から、砂浜も再生していくことが求められています。
維持可能な地域社会・地域経済をどう実現するかは全国的な課題ですが、海辺の自然再生、すなわち、多様な生きものがくらし、常に変化する「生きている海岸線」を再生することは、その有力な答えとなるものです。
世界との約束 No.149[2017年01月30日(Mon)]
日本生態系協会 会報「エコシステム」No.149
−環境諮問会議の創設を −
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接続可能な国をつくることは世界との約束。
環境と経済の両立こそが健全な日本へのただ一つの道です。


国土全体で自然環境の保護・再生を

いろいろな省庁がそれぞれ国土を管理

重要な自然、具体的には野生の動物や植物を守る仕事は、国レベルでは環境省の仕事とされています。
例えば、環境省が運用を担当している「自然環境保全法」では、原生的な自然として奥山を中心に国内15か所を原生自然環境保全地域などに指定し、開発されないようにしています。
また同じく「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」では、175種類の動植物を国内希少野生動植物種に指定し、捕獲や採取がされないようにしています。
一方で環境省が2015年に発表した資料では、3,596種もの野生の生きものが絶滅のおそれがあるとされています。
準絶滅危惧種なども含めると5,643種にのぼりますが、これらの生きものが生息・育成している場所は、奥山の保護区域ばかりではありません。
例えば絶滅のおそれのある汽水・淡水魚類の多くは里地里山・田園地域に生息しています。
また、藻場・干潟・砂浜などの沿岸地域も生態系の中で多くの生きものを支える大切な場所となっています。
保護地域でない場所も同様に重要なのです。
こうした場所でどのように自然を守るのか、またどの場所を利用するのかなど、土地利用の仕方がとても重要になりますが、国土の約66%を占める森林については林野庁が、また国土の約12%を占める農地については農水省が政策を考えています。

省庁ごとの取り組み

1997年に改正された河川法では、川の自然環境を保護・再生することが、治水や利水とならんで重要な目的と位置づけられました。
この河川法改正に代表されるように、現在、多くの省庁で野生の生きものへの配慮が始まっています。
森林については現在、地球温暖化をやわらげたり、土砂災害を防いだり、希少な野生の生きものを守ったりする多面的な機能が発揮されるような森づくりが始まっています。
農地についても「多面的機能の発揮」と言う言葉が使われ、農地を生息の場とする野生の生きものを守る取り組みも始まっています。
しかし、森林にせよ農地にせよ、省庁にはそれぞれの土地利用に目的や目標があります。
人口減少・高齢化の時代を迎え、管理できなくなった人工林や農地を自然に戻していくというような大局的な考えはなく、そうした場所での自然再生について環境省がリーダーシップをとって進めることもできません。
地球サミットから四半世紀が過ぎましたが、こうした背景もあり、自然を保護・再生する取り組みのスピードは遅く、日本の自然環境をめぐる危機的な状況はほとんど改善されていません。
地方創生 No.148[2016年12月06日(Tue)]
日本生態系協会 会報「エコシステム」No.148
−自然を再生して活かす −
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  • 新しいまちづくりの機会が到来

  • 地方が抱える課題

  • 自然の機能を活かしたグリーンインフラ

  • 地方にあるものを磨く

  • 資源をつむいで高める地方の魅力

  • 豊かな自然で地方創生を


人々のくらしを接続可能なものとしていくためには、中長期的な視点に立ったまちづくりのビジョンが必要となります。
そのためには、その地域本来の自然を守り育てていくことが重要です。


地方が抱える課題

日本では赤字財政が続き、国と地方を合わせた借金の額は平成26年には1,000兆円を超え、なおも毎年30兆円を超えるペースで借金の額が増え続いており、決して、持続的な経済とは言えません。
これからのまちづくりにおいて、これまでのように人工構造物に偏ったインフラ整備を続けていては、維持・管理のために財政負担がさらに増え続け、かえって地方の負担が増えてしまいます。

危機に瀕まる国や地方の財政

平成26年度(2014年度)には、教育や福祉などの歳出を歳入でまかなうことができない「赤字」状態の都道府県や市区町村はありませんでした。
では、本当に地区自治体にとっての財政危機は存在しないのでしょうか。
平成25年度の市区町村の経常収支比率をみると、80%を超えている自治体が全体の約9割(1,488自治体)を占めています。
経常収支比率とは、収入に対して、人件費や公債費などの必ず支払いをしなければならない支出がどれだけの割合であるのかを示すものです。
一般に、市の経常収支比率は75%程度が望ましいとされ、80%を超えると財政構造は弾力性失いつつあると評価されます。
経常収支比率が高いということは、その分、財政が硬直化して、政策などで自治体が自由に使えるお金が少なくなり、地域活性化のための取り組みのような新規の事業実施が難しくなるとともに、社会や経済状況の変化などのような新たに生じる問題への対応が低下していることを意味します。
ほとんどの地方自治体は、財政的に余裕があるわけではないのです。
また、内閣府が2016年8月に発表した報告書『地域の経済2016』によると、高齢化によって働き手が減少するとその地域の生産力・供給力は低下する一方で、食費の支出などの需要の低下はそれほど減ることはないため、2030年度には38道府県で、消費のような需要の方が地域の生産能力よりも大きくなり、生産力が赤字となると推測されています。
さらに、経済活動の変化は地方の税収額にも影響します。
現在、地方自治体間の財源の不均衡を調整し、すべての地方自治体が一定の水準を維持しうるよう財源を保障する見地から、国が税金を徴収して、そのお金を地方に再分配する地方交付税制度が実施されています。
上述の内閣府の報告書によると、地域の差が大きくなることで、2030年には現在の1.5倍の地方交付税が必要となると推測されています。
一方、国の債務は急速に増加を続けており、2015年の政府総債務残高は対GDP比で248%となっており、世界で最も深刻な債務国となっています。
政府総債務残高の対GDP比率で世界第2位のギリシャでも178%に過ぎません。
借金を重ねることで、現在の日本の財政はかろうじて支えられているのです。
このような社会情勢の変化や財政事情なども考慮して、それぞれの自治体はどのように持続可能な地域社会をつくっていくのかを模索していく必要があるのです。

地方が抱える問題

現在、多くの自治体では、住民サービスの確保と財政問題対策の両立に頭を悩ませています。
今後、財政悪化に伴う住民サービスの質の低下をきっかけにして、自分が住む地域に魅力を感じなくなった住民が、より魅力的なせいかつかんきょうを求めてほかの自治体に転出するケースが増えることが懸念されます。
ほかの自治体への人口流出が進むと、自治体の財源(税収)が減少し、それに伴う住民サービスの低下、さらには、そのことが住民の転出をさらに加速させる、といった負の循環に陥る可能性もあります。
また、人が減ることで、管理のされない土地が増える可能性も懸念されます。
人口の減少などの理由で放置されたり、所有者がわからなくなる土地は30年間で約300万haに上るとも言われています。
このような土地をいかに持続的な形で維持・管理していくかが大きな課題となっています。

重い財政負担となるグレーインフラ

人々が暮らしていくためには、インフラの整備も必要です。
しかし、コンクリートなどの地下資源を利用してつくったグレーインフラは、建設時点だけでなく、維持・管理にも継続して費用を必要とし、自然環境や景観への影響も懸念されます。
さらに、耐用年数を超えたグレーインフラは、いずれ解体処分をする必要があります。
例えば、コンクリートの耐用年数は50年〜60年程度とされています。
仮にコンクリートでインフラをつくったとしても、徐々に老朽化することで機能が低下し、いずれは解体撤去を行わねばなりません。
総務省が全国の自治体を対象とした平成25年の調査では、解体撤去の意向のある公共施設の数は全国で1万2,251件で、平均築年数は41年、費用は4,039億円程度(1件当たり約3,500万円)となっています。
グレーインフラをつくる際には、いずれ解体撤去を行い、大量に生み出されるゴミを処分したうえで、同じものを新たにつくることが可能かどうかを考える必要があります。
このように、グレーインフラをつくる際には、いずれ解体や撤去のような、後始末のための負担が生じることを考慮する必要があります。
さらに解体・撤去の後に生じるゴミの処分も考えなければなりません。
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