日本生態系協会 会報「エコシステム」No.115
草はらを取り戻すために現在、自然環境を取り戻す一環で、全国各地でビオトープがつくられています。
しかし、その多くは池などの水辺や樹林地であり、草はらは少ないのが現状です。
一方イギリスでは、草はらの生態系における重要性を理解し、森を再生する際、草はらも同時に再生するプロジェクトが行われています。
今後日本で草はらの環境を増やすために、どのような方法があるのでしょうか。
市民により草はら保全の取り組みから自然公園へ千葉県白井市は、県北部に位置し、平安時代から江戸時代にかけて馬の放牧地、明治から昭和初期にかけて茅場として利用さてていましたが、高度経済成長期以降、千葉ニュータウンの建設により多くの草はらが失われました。
そのようななか、谷田地区などでは、地権者が現状維持のために刈り取り管理をしていたため、良好なタチフウロなどの希少な植物の生育を確認したことから、保全の重要性を市に働きかけました。
市はその重要性を認め、市民と協働して、周辺の雑木林や谷津の湿地部を含めて多様な生きものがすめる自然公園をつくる計画を進めています。
まちに草はらを取り戻す−草地のビオトープをつくる堤防、公園、鉄道敷、道路法面、校庭などの公共スペースは、管理の手を適度にゆるめれば、半自然草地を再生できる空間であり、場所によってはすでに希少性の高い在来植物が生育しています。
特に、鉄道敷は、通常、人の立ち入りや盗掘の心配も極めて少ないことから、希少な動植物を守るために利用できる場所です。
ただ、今まであまり調査が行われていないため、どこにどのような動植物が生息・生育しているのかほとんど知られていません。
まずは調査を行い、現状を把握することが望まれます。
堤防、鉄道敷、道路法面は、縦横に延長して広がっている特性から、草地のビオトープをネットワークするためのツールとしても重要です。
道路沿いの街路樹帯は、普通狭い枡の中に木が1本ずつ植えられていますが、これを連続したスペースとして確保し、チガヤなどの草を生育させることでネットワーク化を進めることができます。
私たちの身近な草地としては公園の緑地がありますが、多くの場合一律に過剰な草刈り管理をしているため、単調なジバ草地になっています。
このことから、国はもとより、県、市町村それぞれにおいて、草刈り頻度を変えたり、刈り残す場所をつくったりするなど、多様な草地環境を創出し、特有の生きものがすめるようにする管理手法の導入が求められます。
草はらの保全・再生に向けた制度づくりまちのなかの樹木や樹林については、条件が合えば、樹木保存法という法律やこれに準ずる条例で「保存樹木」、「保存樹林」として守られ、管理費用についても、行政が一部負担しています。
しかし、草はらについては「保存草地」という制度はなく、開発により消滅しやすい状況にあります。
草地は、樹林、水辺と同様に、特有の生物相をつくりあげる貴重な生態系の一つとして保全・再生する価値があります。
都市近郊や農山村地域では、ドイツの例のように、質の高い二次草原の維持・再生による生物多様性の保全への貢献に対して助成する制度の導入が望まれてます。
また森を再生する場合、はじめから木を植えるのではなく、草はらからの自然な遷移によって長期的にかたちづくっていかせる方が、より自然に近い状態になります。
林野庁では人工林を伐採したあと、放置して自然林へ移行させる事業を始めることにしました。
自然に草はらが維持されるには草はらは、自然の状態では木が生育できないような厳しい環境条件のほか、山火事や川の氾濫、高潮や津波などによって木が失われた場所などに出現します。
人間が住めば火害と呼ばれる自然の営みが、自然界においての変化、あるいは維持といった役割を担っているのです。
都市近郊や農村集落に二次草原を増やすことも重要ですが、それ以上に重要なことは、まず人が住んでいない、草はらが出現するような広大な環境を確保することです。
河川の堤防を堤内地側につくり替えて河川敷を広げる(引き堤)事業などは今後、国として全国各地で取り組むべき重要な課題ですし、人口減少に伴う土地利用の見直しも必要です。
草はらを彩る一つひとつの野草こそが、私たちをはじめ多くの生きものの生命を支える重要な存在であることを、忘れてはなりません。