• もっと見る
« 絶滅に向うクマ No.15 | Main | 自然を壊す鉄道・自然をつくる鉄道 No.17 »
生き物の移入・野生化 No.16[2015年12月29日(Tue)]
日本生態系協会 会報「エコシステム」No.16
−人の手が乱す生き物の分布−
no16.jpg

  • 生き物の世界も国際化?

  • だれが移入生物を運んだのか?

  • なぜいけない 移入・野生化

  • 地域の生物相を取り戻すために

  • 生き物にとって 本当に良いことを


野生の生き物は、それらが生活している地域の気候や地形、それが成り立った歴史、他の生き物との関係などによって何億年という時間をかけて多種多様に変化してきました。
そして、さまざまな姿かたちや習性を獲得しながら、地球上のあらゆる地域に広がりました。
現在みられる多種多様な野生の生き物は、原始的な大自然から私たちの身近にある雑木林や湿地まで、それぞれの地域でかけがえのない貴重な財産といえます。
ところが、自然地域の人口化や自然の過剰な利用、環境汚染などによって、私たち人類の生存に欠かせない野生の生き物が世界各地で絶滅しています。
そして、多様な生き物を絶滅させている大きな原因の一つが、今回取り上げる『人の手を介して移動・野生化した生物』です。



なぜいけない移入・野生化

1000種以上が海外から

移入生物の自然生態系への影響を考える前に、移入ルートと種類数を整理しました。

1.随伴

物資や輸送手段、導入生物、人の行き来に紛れ込んだもの。

2.天敵

他の生き物を駆除するために導入したもの。

3.ペット

ペットが逃げ出したもの。

4.産業資源

家畜や食料資源などとして導入し、自然界へ放出したり養殖場から逃げ出したもの。


種類数についての正確な調査は行なわれていませんが、外来生物だけで植物が700種以上、哺乳類が22種以上、鳥類102種以上、魚類29種以上、昆虫232種以上、両生爬虫類その他32種以上に達し、在来種さえ十分に知られていないダニなどに至っては全く不明です。
外来生物の総種類数は1000種を軽く越えています。

1.混血化 遺伝的汚染

ある生き物にごく近縁の種類が、外国や他地域から移入されると、混血化によって純粋な系統が失われる例があります。
中国から導入されたソウギョなどに紛れ込んだタイリクバラタナゴとニッポンダラタナゴは絶滅寸前です。
世界最北限のサルとして貴重な下北半島のニホンザルと、逃げ出したタイワンザルの混血化も危惧されています。
本誌’94年5月号のメダカのように、生き物は同じ種類でも地域ごとに遺伝的な違いがあります。
例えば、ゲンジボタルは西日本と東日本では、発光の間隔が異なりますが、神奈川県では発光パターンが東日本型とは考えられないタイプが確認されており、安易な放流による遺伝的汚染といわれています。
遺伝的特性の破壊は、生き物の遺伝子を活用するバイオテクノロジー(本誌'93年11月号)の張った地に悪影響を与えます。
移入種の影響

2.食害 捕食者の出現

自然界の生き物は、常に「食う・食われる」という関係にありますが、バランスを保っていた自然生態系への移入種の出現は、初めて見る捕食者に無抵抗のまま大量に捕食されるという事態を引き起こします。
例えば、釣り人が無責任に放流したオオクチバス(ブラックバス)によって、在来の淡水魚やエビなどが激減しています。
また、ノネズミの駆除にわずか20頭の雄イタチを導入した三宅島では、非公式に雌雄のイタチを放した者がいたため、10年を経たずにオカダトカゲやアカコッコといった、島中の至る所で見られた固有種が激減しました。
アカコッコは地上に巣をつくる習性があり、イタチに巣を襲われることが少なくありません。
アカコッコの卵が雛に育つ割合を調べたところ、1980年頃は70〜85%だったものが、1991年には7%にまで激減しました。
移入種の影響

3.食害と害虫の増加

植物が移入種によって食べ尽くされた例もあります。
小笠原諸島の兄島に自生していたオオハマギキョウは、人間が放したヤギによって絶滅しました。
元来、大型の草食動物がいない小笠原諸島では、植物たちも食べられることに無抵抗だったのです。
また、帰化昆虫には害虫が多いという事実もあります。
外来昆虫232種類の内、72%の167種が農作物などの害虫だといわれています。
移入種の影響

4.駆逐 生息地の独占

生息地や生育地を奪われる被害もあります。
例えば"くつぼそ"の名で親しまれているモツゴが、釣り用のヘラブナに紛れて移入されたため、関東から東北地方に生息していたシナイモツゴは、秋田県のごく一部などに残るだけになりました。
また、国の天然記念物として知られる埼玉県浦和市のサクラソウ自生地には、北米原産のオオブタクサが侵入しており、貴重な植物群落が危機に陥っています。
移入種の影響

5.自然生態系の崩壊

移入種による在来生物への影響は、絶滅や激減を引き起こすだけでなく、自然生態系全体へと広がります。
例えば、移入生物が植生を破壊すると、その植物を餌としていた昆虫の多くは死滅し、昆虫を餌としていた野鳥や小動物にも深刻な影響が及びます。
時には植物が食べ尽くされ、剥き出しの表土が雨や風で失われ、不毛の土地になってしまった例もあります。
また、アカコッコやオカダトカゲが激減した三宅島では、今後これらが餌にしていた昆虫などが大発生して、三宅島全域の植物相などに悪影響を与える可能性も指摘されています。

原風景と文化の破壊

移入生物による影響には、【遺伝子の汚染】【種の絶滅】【自然生態系の破壊】の三つがあり、全て私たち人類存続に関わることばかりです。
更に、これらから派生する影響に、数千年に渡って築かれた日本の原風景と、それが育んできた文化の破壊があります。
例えば、誤ったワイルドフラワー緑化は、感性の鈍化を進めます。古来、野の草花や野鳥を歌に詠み、絵に描き、文学作品に認めることで、日本の豊かな文化の一端が築かれてきました。
しかし、外来種や園芸種の赤や黄色の派手な色の花は、日本の伝統的な"わび"や"さび"といった感性を喪失させます。

環境破壊のバロメータ

移入生物は、自然生態系のバランスの崩れを示すバロメータでもあります。
帰化植物が繁茂するのは、造成地や道端、農地などの自然が破壊された場所であることは前述しました。
サクラソウ自生地への帰化植物の侵入も、当時の乾燥化などと無縁ではなさそうです。
動物にも同じことがいえ、ハクビシンは里山には生息しますが、自然度が高いブナ林では定着していません。
また、琵琶湖のオオクチバスは、渇水による沿岸部の水草帯の衰退後に、激増したことが知られています。
つまり、移入生物は生態系のバランスが崩れている所に入り込み、更にそれを進行させる生物だともいえます。

※公園の池や堀割りなどに放流される錦鯉は、野生の生き物でないうえに、雑食性の大食漢であるため、生態系に大きな悪影響を及ぼします。特に、水草と動物プランクトンを食べ尽くし、水質汚濁を進めることがあります。
この記事のURL
https://blog.canpan.info/seitaikeikyokai/archive/16
トラックバック
ご利用前に必ずご利用規約(別ウィンドウで開きます)をお読みください。
CanpanBlogにトラックバックした時点で本規約を承諾したものとみなします。
この記事へのトラックバックURL
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
トラックバックの受付は終了しました
 
コメントする
コメント
プロフィール

日本生態系協会さんの画像
<< 2024年04月 >>
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30        
最新記事
月別アーカイブ
カテゴリアーカイブ
にほんブログ村 環境ブログへ

https://blog.canpan.info/seitaikeikyokai/index1_0.rdf
https://blog.canpan.info/seitaikeikyokai/index2_0.xml