エコロジカル・ネットワーク No.144[2016年05月18日(Wed)]
日本生態系協会 会報「エコシステム」No.144
−社会・経済の土台をつくる −
- 重要性を増すエコロジカル・ネットワーク
- エコネットとは
- 海外のエコネット事情
- さまざまな資金確保
- エコネットの「実現」に向けて
私たちの生存の基盤である自然環境が損なわれています。
接続可能な国づくり・まちづくりの最重要テーマとして、エコネットを実現する必要があります。
重要性を増すエコロジカル・ネットワーク
エコロジカル・ネットワークの考えが1998年に日本の国土計画に示されてからもうすぐ20年を迎えます。
しかし、実現にはまだまだ課題があり、そのための新たな取り組みが求められています。
将来像の検討に取り入れられるようになったエコネット
国の政策においてエコロジカル・ネットワーク(略称「エコネット」)の考えが、国の将来像に関係する計画や戦略に取り入れられるようになっています。
国の動きを受け、多くの自治体もエコネットの考えを取り入れています。
エコネットとは、人間の土地利用と自然環境との間のバランスに関する1960-70年代の研究に基づき、80年代にまずヨーロッパで取り入れられ、90年代以降に一気に世界各国に広まっていった土地の使い方に関する考え方です。
日本では当協会が90年代の初めに国際シンポジウムの開催などを通じて紹介し、埼玉県などいくつかの自治体で取り組みが始まった後、1998年の国土計画に取り入れられ、全国に普及していきました。
それからもうすぐ20年になります。最近では地方創生、国土強靭化といった国や地方の主要課題にも直結することから、改めてエコネットの重要性が注目されています。
「考え」の段階で足踏み?
このように国や自治体の将来像の検討に取り入れられるようになったエコネットですが、「考え」として示されただけで、実際に森や湿地帯の保護や再生を行うという「実現」の段階にうまくいっていない例が多くあります。
理由はいくつか考えられます。
「考え」を現実のものとするために、国や自治体において、こうした課題の解決に向けた取り組みが必要になっています。
国の政策において高まるエコネットの重要性
- 森や湿地が減っても、多くの人はその意味に気づかず、それを取り戻す努力をしなくても、生活は今後も成り立つと思っている。
- 国や自治体におけるもっとも重要な政策であるにもかかわらず、具体的な取り組みとなる環境部局など一部の部局の仕事とされ、行政全体が取り組むべきものとして位置付けられていない。
- エコネットの実現によって私たちの社会、特に経済面でのメリットが説明されてこなかったため、森や湿地の保護・再生にお金をかけることにまだ十分な理解が得られていない。このため財源確保に関する話し合いもほとんどされてこなかった。
「考え」を現実のものとするために、国や自治体において、こうした課題の解決に向けた取り組みが必要になっています。
国の政策において高まるエコネットの重要性
エコネットの考えが、日本でも以下のように国の重要な計画や戦略に取り入れられるようになってきました。
1998年 | 国土計画(「21世紀の国土のグランドデザイン」)においてエコネットの考えが示される |
---|---|
1998年 | 林野庁が奥山での良好な森林の連続性を確保するために「緑の回廊」づくりを発表 |
2002年 | この年発表された「生物多様性国家戦略」に生態系ネットワークの形成が示される(2007年、2010年にそれぞれ改訂された生物多様性国家戦略も同じ) |
2007年 | 農林水産省生物多様性戦略に「水田や水路、ため池等の水と生態系のネットワーク」が示される |
2008年 | 国土形成計画法の成立後初めて策定された「国土形成計画(全国計画)」に、エコネット推進が示される |
2008年 | 「生物多様性基準法」成立。国、地方自治体はエコネット形成に必要な措置を講ずべきとされる |
2009年 | 環境省の検討会において「全国エコロジカル・ネットワーク構想(案)」が作成される |
2011年 | 国土交通省が都市緑地法の運用指針を改訂し、都市におけるエコネットの推進を打ち出す |
2012年 | 「生物多様性国家戦略2012-2020」で引き続き、生態系ネットワークの推進が示される |
2015年8月 | 新しい「国土形成計画(全国計画)」で森里川海の連環による生態系ネットワークの形成が示される |
2015年9月 | 新しい「社会資本整備重点計画」で河川を軸とした生態系ネットワークの形成が示される |