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「生活保護の経済分析」阿部彩、國枝繁樹、鈴木亘、林正義 [2008年11月25日(Tue)]
生活保護についての実証的、経済理論的研究の書。生活保護だけで完結するのでなく、年金、医療、就労支援など、他の制度とのかかわりの中で議論が進められるので非常に実用的だ。日本の社会保障制度を考える際の基礎理論として必読の一冊だ。

特に年金制度とのかかわりの部分は極めて重要だ。本書で分析がなされているが、日本の社会保障制度による所得移転は、諸外国と比較して貧困層に厳しく、非貧困層に潤沢になっている。以前ご紹介した「現代の貧困」にも書いてあったが、日本の社会保障は保険原理に偏り過ぎているためだ。たとえば国民年金の第一号被保険者の保険料は収入が少ないフリーターであっても、一律だ。このような逆進的な制度は世界でも珍しいのではないか。結局、ワーキングプア層は保険料を納められず、その分だけもらえる年金給付が減ってしまう。

また、無年金者に生活保護が支給されるため、あらかじめそれを予測して公的年金に加入しない者もあらわれるだろう。本書でもそのようなモラルハザードが起こっている可能性が高いとする論文が紹介されている。

基礎年金と生活保護は制度の目的が異なる。基礎年金はあくまで老後生活の「基礎部分」であるにすぎない。一方、生活保護は最低生活保障である。だから本来は別々に考えるべきなのだが、上記のようなモラルハザードの可能性がある限りはセットで考えなければ制度設計はできない。

本書を読んでみて、個人的にはやはり基礎年金部分は全額税方式でまかない、現在の給付水準(一人あたり約6万6千円)を維持するのが良いのではないかというふうに思えた。そして二階部分は任意加入の制度(積立方式か賦課方式かは要検討)とする。その上で、収入が基礎年金のみで、それだけでは生活ができない方には、生活保護として最低生活費と基礎年金の差額を給付する。

このようなやり方で初めて「国民皆年金」と言えるのではないか。国民年金の空洞化がすすみ、年金制度への不信感が揺らいでいる今、現在の路線(「給付を減らして保険料を値上げ」をくり返す)でいくことには納得が得られないのではないか。

また、本書では就労支援と生活保護についても述べられている。いったん生活保護制度内に入ることで就労意欲が損なわれる、いわゆる「貧困の罠」現象も実際にみられるようだ。生活保護からジャンプするためのインセンティブ設計が必要だろう。今後はこちらも考えてきたい。