
今月号特集の「日本人の「働き方」はどう変わるか」を読もうと買ったのだが、その中でこの連載記事がふと目にとまった。水産物の偽装がなぜ後を絶たないかを経済理論的に分析している。
消費者は通常、偽装(たとえば産地偽装)を見破れない。一方で、「大間のマグロ」や「関サバ」には非常に高い評価を加える。
消費者にとっては、「産地」はおいしさや安全性のシグナルである。逆に言うと他に魚の品質をチェックする手段がない。だから、「国産」や有名産地を選ぶ。当然、売る立場の人間には偽装のインセンティブがある。
しかし、さらにすすんで、売り手がウソをついているかどうかは見破れないことを認識した消費者は防衛策としてできるだけ値切って買おうとする。結果として市場には安物しか出回らなくなる。
これは経済学でいう「逆選択」という現象で、もともとは中古車市場に出回るのは粗悪品(英語で「レモン」という)だけになるという事例で説明された。
これを、いま研究中の建築基準法の問題にあてはめると、
消費者は通常、建物の耐震性能を見破れない。通常の消費者どころか、いったん建ててしまえばプロでもわからない。設計図面が正しくとも、施工段階で偽装があるかもしれない。一方、売る立場の人間は、鉄筋量などを減らし、強度を下げるほどコストが削減でき儲かるので、偽装のインセンティブがある。
建築基準法は耐震強度についての「最低基準」を定めている。これは、「震度6強の地震がきてもとりあえず建物の中の人は死なない」といった程度の極めて頼りない基準なのだが、日本のマンションのかなりの部分がこの最低基準で建てられている。
消費者はいくら耐震強度にお金をかけても、本当に高い耐震性能があるかどうかはわからないので、「最低基準」で良いから安いマンションを求める。結果として市場には最低基準しか出回らなくなる。
これはかなり当てはまっているように思える。実際には現実はもう少し複雑で、建設業の業界の構造の問題や、そもそも消費者が「最低基準」の意味を理解していないこと、地震と建物の倒壊リスクの把握は難しいことなど、問題は多い。解決への道は容易ではないが、なるべく実効性のある政策として提言していきたい。