「50万人が不妊治療を受ける現実」
―里親・特別養子縁組にも目を―
国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査(2015年)によると、5.5組の夫婦のうち1組が不妊に悩み、約50万人が何らかの不妊治療を受けているという。また日本産科婦人科学会調査では、同じ年、42万4000件に上る高度不妊治療(体外受精、顕微授精)が行われ、新生児の20人に一人に当たる5万1000人の赤ちゃんが生まれたとされている。
一方で人工妊娠中絶件数は減少傾向にあるものの2016年、16万8000件(厚生労働省統計)と依然高く、把握されていないケースも多数に上り、少子化が進む日本社会に、子供を求め不妊治療に励む夫婦と妊娠したものの生まないカップルが同居する形となっている。何よりも優先されるべきは子どもの幸せである。里親制度や特別養子縁組をもっと活用できないものか、数字を前に、そんな思いを強くする。
6月18日付日経新聞朝刊に掲載された「ドキュメント日本 少子社会の静かな渇望」には、1993年に東京都内で初めて日帰りで体外受精ができる個人医院として開業したクリニックの賑わいが紹介されている。女性患者の平均年齢は38歳、9割が働きながらの通院で、不妊治療の初診は最大9ヵ月待ちという。
背景には、晩婚化などで不妊に悩む女性の増加があると見られ、Webで調べると、費用も半端ではない。「体外受精や顕微授精の費用は一回当たり最低でも30万円」、「日本で不妊治療を受ける夫婦が支払う金額は概ね130万円以上」などの数字が踊り、数字の裏に「何としても実子」を願う夫婦の一途な姿が見てとれる。
誰もが血のつながりのある実子を望むのは当然として、子供ができない場合の対応には国により大きな差がある。例えば戸籍上、実子となる特別養子縁組。日本でもここ数年増加傾向にあるものの2015年は544件にとどまり、2001年時点で早くも12万件を超えた米国とは、あまりにも大きな差がある。
血族主義の伝統を持つ日本と移民国家米国との文化の違いといえばそれまでだが、「全ての子どもは家庭環境の下で成長すべきである」と宣言した国連子どもの権利条約を見るまでもなく、子どもの健全な生育に家庭的な環境が望ましいのは言うまでもない。
日本では何らかの理由で生みの親が育てられない子どもが約4万6000人に上る。うち8割近くが乳児院、児童養護施設で暮らし、年間50人近くの日本の子供が養子縁組で外国に渡っているとの情報もある。
米国では養子縁組で複数の子供と暮らす夫婦も多い。養子縁組を希望する家庭間の競争も激しく、アジアの国から養子をもらうためのツアーまで登場していると聞く。日本財団では里親制度や特別養子縁組の普及拡大を目指してきた。
子どもの幸せ第一に里親家庭、特別養子縁組が大きく普及する日を望みたい。