「春の定例記者会見」
―挨拶―
新年度開始の恒例の記者会見には、69社89名、約10台のカメラが入り、盛会でした。
以下は冒頭挨拶です。
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2017年4月3日(月)
於:日本財団ビル2階大会議室
日本財団の笹川でございます。今日はお忙しい中お集まりを頂きまして恐縮でございます。
我々日本財団は、事業の透明性と説明責任をきちんと果たしていくということを大きな柱として仕事をしております。今日は新年度でございますので、予算その他の説明もあろうかと思いますが、まずは私から簡単にご挨拶させて頂きます。
今や国家は1千100兆円を超える財政赤字を抱えており、国民一人ひとりが約870万円ともいわれる借財を背負った形になっているわけです。そのため日本のように成熟した社会の中でも様々な社会課題が顕在化しており、その解決は国家、行政、あるいはNPOだけでは解決ができない時代に入ったと私は認識をしております。
日本財団では職員がそのような社会課題を発掘し、行政、政治家、学者、皆様方のようなメディアの代表の方、市民社会からもご参加頂き、時には当該大臣にもお出ましいただき、その問題について議論し、ある程度の方向性が出たら即、日本財団が実行し、モデルケースを作ることによって全国に波及させていきたいと、それを私は「日本財団という方法」という言葉で表現させて頂いております。
ご高承のとおり、既に特別養子縁組に対しても何度も議論を重ね、「日本財団という方法」で行動に移し、その結果「養子縁組斡旋法」が成立しました。また、非常に困難を極めました「児童福祉法」の改正にもお役に立てたのではないかと思います。
また、私が新聞紙上で何度も論陣を張ってきました「休眠預金」も、時間はかかりましたが、成立することが出来ました。これは、皆様の1万円以下の小額預金や10年間出し入れのない資金というものが実は膨大なものがございまして、10年間出し入れがないと自動的に銀行協会の、驚いたことに「内規」で、全てを雑収入として計上してきたという歴史があります。恐らく数千億円を超えると予測されています。リーマンショック以降は国家資金が導入されたにもかかわらず、庶民の浄財が雑収入として計上されていることに気が付き、国民のお金を国民にお返し願いたいということで、3年かけて休眠預金法という法律を制定されました。年間約1千億円程と発表されているこのお金がどのように活用されるのか、注目したいところです。
実は、国民一人当たり12冊の預金通帳があります。なぜ人口1億2千万人の日本に12億口座もあるのでしょうか。これは以前、預金獲得運動ということで口座獲得が行われた成果です。これらのほとんどは仮名で、中には犬や猫の名前がついたものもあったようです。従いまして、そういうお金、あるいは既にお亡くなりになった方のものは、相続のきちんとした書類がなければ返せないわけで、「申請があればすぐに国民に返す」といいながら、ほとんど銀行の雑収入として計上されてきたわけです。
今後は年間約1千億円といわれているうちの5百億円が地方の様々な活動資金、小額で担保の取れないような方々、あるいはNPOに利用されるのではないかと期待しておりますが、どういう形になるかは私共の知るところではなく行政の内部で検討されていることですが、来年度にはこれがスタートするわけで、期待を持って見つめていきたいと思っております。
また最近では、犯罪者の再犯率が非常に上がっているという報道が頻繁になされています。第一次安倍内閣の時にはあった「再チャレンジ」という言葉が今の政権では無くなってしまいましたが、罪を犯した人が再チャレンジできる社会にしていくことも課題の一つとして取り組んでおります。
再犯をいかにして防止していくかということを「日本財団という方法」で取り組んでおります。その間法務大臣は3人替りましたが、そのたびに説明させて頂き、これは早急に取り組む必要があるということで「再犯防止推進法」という法律を制定するに至り、行政、あるいは法律の改善にも多少お役に立ってきたのではないかと思っております。
一方で今私たちは、特に障がい者就労支援に力を入れております。障がい者の施設での賃金は1ヶ月間に1万円ちょっとでございます。障がいの度合いにもよりますが、これでは生活は困難です。これに対して、その人たちを預かっている社会福祉法人等では14〜18万円のお金が入ります。皆様、この話を聞いて少しおかしいと思われないでしょうか。障がい者たちがきちんとした仕事に就ければ、国の保護から、いわゆる社会に税金を納める立派な社会人になりうる可能性すらがあります。活動する能力があるにもかかわらず、社会福祉法人等では14〜18万円の収入を得ながら、働く障がい者が1万円ちょっとの収入しか得ないというのはおかしな話でございます。
日本財団はこのように障がいを持ちながら就労する方たちに3倍の給料を払えるようにしようということで、盛んに努力を致しております。文京区には全く耳の聞こえない人たちのレストランが出来ました。また、こういう方たちは大変集中力がありますので、才能を発揮してチョコレートを製造し、デパートを含め既に7ヶ所に販売網を広めて大変好評を博しており、製造が追いつかず、追加の支援を考えているところです。さらに近々は、花屋をオープンする予定もございます。
日本財団はこれまで2,000〜3,000件の社会福祉法人等の障がい者就労支援に助成してきました。印刷所、クリーニング店、パン屋を営んでいる事業所等、私も全国を歩き回りましたが、正直に申し上げると、社会福祉法人等の経営者は障がいを持つ就労者をどううまく使うかということについてはあまり熱心ではなかったように思えました。仕事を与えていますということで満足し、皆様懸命に働いていらっしゃるのですが、賃金はそのままで、もっと稼いでこの人たちに1円でも多く給料を払おうという姿勢は残念ながら見られませんでした。
このような長きに亘る我々の失敗、反省を踏まえ、これからは起業家マインドを持って運営して下さる福祉事業者を選び、日本財団も共に考え、共に汗を流して障がい者の賃金3倍増を実現したいと思います。当財団にはカリスマ指導者・竹村利道がおりますので、後ほど彼の話を聞いて頂ければと思います。
昨年10月にはソーシャルイノベーションフォーラムを開催致しました。ご高承の通り、今一流大学を出て一流企業に就職した人の約3割は3年以内に退職しています。これは生き方が変わってきたのでしょうか。人生に対する考え方が変わってきたのでしょうか。大きな企業の中で、果たして自分はどういう存在なのだろうかということを意識した時、もう少し社会と密着したところで、自分のかいた汗が見えるようなところで仕事したいという人が各地に沢山現れてきております。そういう意味で、私は日本の未来は明るいと思うと同時に、こういう青年たちをどのようにして激励と支援をしていくのかを考えることが大切だと思っております。
今年もこのフォーラムの開催を予定しております。全国の過疎地や中山間地域の人口が減少したところ、あるいは日本全国の小さな市や町で活躍している志の高い若者たちが東京に参集します。お互いの情報を交換し、ネットワークを組んで新しい日本を作っていこうじゃないかと、意欲に燃えている方ばかりです。私たちはそのモデルケースとして、優勝賞金1億円、最大3年間で3億円の資金を提供することによって、成功例をいくつか作っていくべく、今、ソーシャルイノベーターを募集しております。最大3年間で3億円ということですが、3年間で使う必要はございません。10年かけてやった方がもっと効果的なこともあろうかと思います。それは日本財団と相談してやって頂ければ結構です。ソーシャルイノベーターの募集に是非、ご協力を頂きたいと思います。昨年度の3人は既に大変意欲的に仕事を始めており、いずれご報告の機会があろうかと思います。
話題は変わりますが、1つは日本財団の話、もう1つは公的な話でございます。
日本財団は40年の長きに亘って世界のハンセン病の制圧に尽力して参りました。そして、これは大成功をおさめました。日本財団が世界に薬を5年間無償配布した結果、500〜700万人が病気から解放されたました。WHOが制圧の基準とする「人口1万人当たり患者1人未満」達成まで、あとブラジル1カ国のみというところまで参りました。しかし、私はよくモーターバイクに例えてこの病気を説明するのですが、前輪は病気を治すこと、後輪は社会的な差別から解放すること。病気が治っても社会の側に差別や偏見が消えたわけではございません。この差別、偏見に対する取組みにあたっては、日本政府の協力を得て、国連総会で193カ国全てが賛成をして、驚かれるかもしれませんが、日本の人権問題では常に中国やキューバが反対するのですが、私たちの提案には中国もキューバも日本の共同提案国になって下さいました。今、病気の最終段階であると同時に差別の法律もきちんと国連で原則とガイドラインが作成され、実行について具体的な検討に入っているところでございます。
もう1つは、ミャンマーにおける活動についてです。私はミャンマーの少数民族武装勢力とミャンマー政府との停戦和平、ミャンマー統一のための紛争解決の日本政府代表を務めさせて頂いております。3年間で51回現地に入りました。懸命な努力を続けておりまして、ついに一昨年8組織との停戦合意するに至り、その地域には世界で日本財団だけに復興支援活動が許可されました。現在1,250戸の住宅建設に着手しております。ヤンゴンから車に乗って10時間、そしてバイクに乗って2時間、その先は道がありませんから象に乗って2時間、象が木材や建設資材を運んでくるという困難な場所もございますが、ご興味のある方がいらっしゃいましたらお知らせ下さい。ご案内させていただきます。これは日本政府の資金ですが、現在のところ世界でも日本財団だけにしか和平が実現した少数民族武装勢力地域での復興支援の許可がおりていませんので、私共のみが活動しているという状況でございます。いずれ我々の成果が評価されればJICA等、他の組織が入るようになり、復興支援の中で日本が大きな役割を果たせるのではないかと思っております。