国連法務部海洋法課奨学生による報告会(2009年4月)
「海の憲法:国連海洋法条約」
少し固い話で恐縮だが、海を守る憲法「国連海洋法条約」をご存じだろうか。
国連海洋法は1994年に発効し、日本は1996年に批准した。
いわば世界の海の憲法である。
ウィキペディアから引用すると、「海洋に関する従来の慣習法の法典化と最近の新事態に対応する新たな立法を内容とする」とし、「12海里の領海、国際海峡、200海里の排他的経済水域、その外側の公海を規定し、閉鎖海、深海底、海洋環境の保護、海洋の科学的調査、紛争の手続きも含む」と、固い文章になる。
私流に申せば、歴史的に人類は陸を中心に生きてきた。したがって海に生活の場を得ている人々以外、海洋にはあまり関心がなかった。しかし、グローバリゼーションのこの時代、海洋をめぐるさまざまな権益についての整理が必要となり、権利と義務を明確化する必要性が出てきた。
海洋法成立でルールは出来たものの、発展途上国には海洋に関する人材はゼロに等しい。まさに「仏(海洋法)作って魂(人材)入れず」の状態であった。
日本財団では2004年4月より、国連の海洋法の窓口である海洋法課と協議して人材の育成に乗り出した。毎年10人の発展途上国の中堅どころの人材を海洋法課に派遣。海洋法課では世界18ヶ国、38の著名な大学、研究所と連携し、教育、訓練を実施している。
この5年間で41ヶ国、50人の卒業生が、各国で海洋法の専門家として活躍している。
日本財団は世界中でさまざまな人材養成を行っているが、最大の特徴は、単に学費や研究費を提供するだけでなく、学業や研究修了後に同窓会を組織してネットワーク化をはかることであり、今後起こりうるグローバルな課題の処理に尽力してもらいたいと願っている。
今回、4月13〜16日の4日間、インドネシア、フィリピン、ソロモン、タイ、ベトナム、バングラディッシュ、ブルガリア、カンボジア、グルジア、インドから15名の卒業生が海洋法課のバイレット博士共々、日本においでいただいた。ほとんどが初来日であるが、春爛漫、華やかな外気をよそに、毎日、日本財団の会議室で真剣な議論を展開している。
15名の奨学生が議論を展開(国連法務部海洋法課・報告会)
しかし、若干の都内探訪もあるようなので、日本に親しみを持ってもらいたいものである。
私は1年の3分の1近くを発展途上国でハンセン病制圧を中心に活動しているが、それらの大多数の国々では、生活によるさまざまな廃棄物が河川から海に流れ込んでいる。
17世紀、オランダの法学者・グロチウスは「海は無限であり、海洋の利用は自由だ」とした。以来400年、今や海は有限の時代である。
2050年には世界の人口は100億人に達するとの予測もあり、今のまま海洋管理が放置されると、海は人類のゴミ箱化し、母なる海の悲鳴はさらに深刻化していく。
海洋の健全性が失われれば地球上の全ての生物は死滅する。
海洋に守られてきた人類は、海洋を守る人類にならなければならない。
下記は、日本財団の海洋に係る人材養成の一覧表である。
1.世界海事大学(スウェーデン):407名
2.国際連合法務部海洋法課(アメリカ):50名
3.カーディフ大学国際船員研究センター(イギリス):18名
4.大洋水深総図委員会(アメリカ): 30名
5.国際海洋管理ネットワーク(カナダ):7名
6.国際海洋法裁判所(ドイツ): 5名
7.国際海事法研究所(マルタ): 56名
8.国際海洋観測機構(カナダ):10名
合計 583名