「知行合一」API(Asian Public Intellectuals)ワークショップ 挨拶
原文英語以下要旨を掲載
この12月には、マレーシアで、東アジアサミットが行われる予定になっていることは皆様ご承知のとおりです。その際、新しい地域的共同体の実現に向けた議論がなされることと思います。アジアには、現在テロや鳥インフルエンザのような喫緊の問題を筆頭に貧困、環境破壊、移民労働者、民族対立、宗教対立など、社会や人々の生活を脅かす、国境を越える共通の課題が数多くあり、そしてそれが今の世界を取り巻くグローバリゼーションの流れと複雑に絡み合っています。
アジアには様々な政府間の地域的つながりや国際機関が存在しています。しかし、それらのメカニズムが、それぞれの国の国益、法律、官僚制度など様々な理由から、地域の問題解決にあたって必ずしも万能ではないということが明らかになっています。
アジアの人々がアジアの隣人について知らないことが多すぎるというのが、問題への対応を難しくさせているということも否めない事実です。これまで私達は、隣人についての知識を西欧が蓄積した知識や研究成果を第一の情報源として、実際隣国で何が起こっているか、その地へ赴いて直接知識を得ることに貪欲ではありませんでした。
APIフェローシップは、まず、私たちが、隣人を良く知り、西欧経由でない知識や情報を自分達のものとすることを目的としています。そして、アジアの社会や人々の生活を脅かす様々な共通の問題を、「民」の立場にたって考え、「公」の心をもって解決の方法を模索し、独自にあるいは政府機関などの活動を補完しながら実践への道を開くということをもう一つの目的としています。
ですから、私は、このAPIコミュニティに参加している人々は、立場は違え、「公」の心を持つパブリック・インテレクチュアルとして、アジアの隣人をよく知り、アジア社会の公益を常に考え、自らが蓄積した知識や経験を実践につなげることでより良い変化をもたらす人々であって欲しいと考えています。
日本では、「知行合一」という言葉があります。これは、知識は、実践的に使われてこそ意味を成すというものです。APIフェローに期待されているのは、パブリック・インテレクチュアルとして、獲得した知識や考えをパブリックに供することです。つまりその知識や考えを、実際の社会変革のために実践的に使う道を開くことが重要です。
それには、パブリック・インテレクチュアル自身が先頭に立って活動を行うという方法もありましょうし、その知識や考えを公にし、組織や人を動かしてゆくという方法もあるでしょう。いずれにせよ、パブリック・インテレクチュアルには、「変化を作り出す人Change Agent」となることが求められているのです。
これまでの5年間に150名のAPIフェローが誕生しました。その中には、APIフェローシップで隣国に行ったことによる知識や経験などを糧に、社会に変化をもたらす活動をしている人たちがいます。現在タイの南部では大きな宗教対立の問題が起きています。
その問題への解決策を模索する委員会がタクシン首相によって設置されましたが、その副委員長はAPIの顧問であるプラウェイ・ワシ先生ですし、事務局長はスリチャイ先生、そしてそのメンバーには、1期生でパスカット寺の僧侶であるプラ・パイサンと、同じく社会活動家のピボップ・ドンチャイ氏など、APIの関係者が多数参画しておられます。この人々は、APIによって得られた知識と経験を共有し、地域の「公益」のために協働を実践されています。
他にも、APIフェローの1人1人の活動には顕著なものがあり、私も皆様からいただく報告書や新聞報道、作品などを通じて、その社会的な貢献を知り、大きな成果に喜んでおります。しかし、1人1人のパブリック・インテレクチュアルの活動にはおのずと限界があります。APIコミュニティは、社会をよりよくするという共通の目的意識とコミットメントをもつ、パブリック・インテレクチュアルの国境を越えた集まりです。
今150人を超えたそのメンバーは、様々な国、文化、専門性、世代を超えて「lifetime commitment」をもってコミュニティに参加しています。このコミュニティのもつ集合的な力には、大きなポテンシャルがあります。新しい考えや理論を生み出すフェローがいる一方で、実践を得意とするフェローもおり、それを社会に発信し、人々の支持を得る活動を助けるメディアやアーツの専門家もいるこの複合的はユニークなコミュニティは、同じ目的のためにcollective forceとして、地域の問題について、考え、発信し、実践する大きな影響力ある集団となることができます。このAPIコミュニティは、その参加者の多様性ゆえに、think-tankともなり同時にdo-tankともなりえるのです。
このユニークなパブリック・インテレクチュアルのコミュニティをどのように発展させてゆくかが、これからの私達の課題です。どのようにすれば、このAPIコミュニティが、そのもてる潜在的な力を十分に発揮し、よりよい社会の構築のための地から強い組織となれるのかをぜひ皆さんに真剣に考えていただくことをお願いいたします。
「知行合一」をわれわれのモットーとして、アジア社会のよりよい未来を築くためにAPIコミュニティをさらに発展させていこうではありませんか。