「悪化する基礎研究をどう強化するか!」
―30年超えた笹川科学研究助成―
文部科学省科学技術・学術政策研究所の調査によると、日本の基礎研究の状況が悪化しているという。大学・研究機関のトップや研究者、産業界の有識者ら約2500人からの回答を数値化し過去と比較をした結果、「国際会議などで日本の研究者のプレゼンスが低下している」との結果が出たというのだ。
わが国では近年、ノーベル賞受賞が相次いでいる。しかし、他方で国立大学への運営交付金、私立大に対する私学助成金が縮小し、基礎研究に対する取り組みの弱さと、基礎研究の重要性があらためて指摘される事態となっている。
そうした中、日本財団では1988年から公益財団法人「日本科学協会」(大島美恵子会長。かつては湯川秀樹先生も理事長を勤められた)と協力して、若手研究者の育成と基礎的研究の支援を目的にした笹川科学助成研究事業に取り組み、毎年300人を超す若手研究者に2億円以上の研究費を支援してきた。30周年を迎えた2017年度までの支援件数は8971件に上る。
助成の対象は人文・社会系、数物・工学系、化学系、生物系、複合系に海洋・船舶科学研究と実践研究を加えた計7分野。研究課題終了後であっても海外で研究発表する際の旅費支援など、事業の拡充強化を目指している。
4月19日に2019年度の笹川科学助成と笹川スポーツ研究助成の「研究奨励の会」が港区内のホテルで開催され、「資源も何もないこの国が、未来志向、世界に存在感ある日本を作っていくためには、あらゆる分野でソーシャルチェンジを図っていかなくてはならない」と挨拶した。渡邊一利笹川スポーツ財団理事長も「これからの共生社会、健康長寿社会の実現にスポーツがどのように貢献できるか、真価が問われている」と取り組み強化の考えを述べた。
研究奨励の会では若手研究者が親しく交流した
また大島会長は「科学者が分かりやすい言葉で社会に語り掛け、社会と会話する姿勢を常に持ち続けてほしい」と語り掛けた。実は私も、基礎研究を社会に広めていく上で、この点は極めて重要と考えている。福島原発事故では、被災地の人々が放射線の人体影響を冷静に判断する材料を持たないまま、いまだに恐怖心が独り歩きしている現実がある。
事故が起きた2011年3月11日の6カ月後の9月に、日本財団が世界の第一線で活動する放射線科学者を集め福島で開催した「国際専門家会議」でも、科学者たちから、人々に分かりやすい言葉で放射線被害を説明し理解してもらう努力と能力が欠けていた、と反省する声も出た。人々の理解なくして研究は成り立たない。研究奨励の会では、若い研究者がそうした点を理解した上で、時にはリスクを承知でチャレンジし、日本の科学の発展に貢献してくれるよう願っている。