「熊本地震救援報告」その2
―よろず災害救援引受人―
日本財団の活動の大きな柱は、災害復興支援と、障がい者、子供、老人など、社会的弱者といわれる人たちへの支援である。
災害については、阪神淡路大震災より40数回、日本各地で起こった地震、台風、ナホトカ号の油流出事故など、ほとんどの現場に出動している。
主役は日本財団の黒澤司である。東日本大震災での活躍は、被災地の行政官で彼の名前を知らない人はいないといわれるほどで、全国の災害ボランティアの教祖的存在でもある。
4月16日には地震による道路遮断もあり、介助犬を引きつれフェリーで東京を出発。18日には最大の被災地・益城町に入り、日本財団の前線基地を設営して救援活動に入る。
被災者からは、大切なものを取り出して欲しいとのたっての要望が黒澤のところに多数寄せられる。彼はこれこそ自分の任務とばかり、危険極まりない家屋に入り、頼まれた位牌、土地の権利書、入れ歯などを取り出してくる。中にはタンス預金の100万円を取り出して感謝されたとのエピソードもある。時間の経過とともに、車輌や農機具の搬出まで依頼されるという。
数々の大規模自然災害現場でノウハウを有する災害支援のエキスパート、黒澤司
このように文字にすれば簡単に思われるかもしれないが、継続的に続く余震と強い風雨にさらされて崩壊寸前の家屋に入る作業は、下手をすると倒壊家屋の下敷きになる可能性もあるが、彼は長年の経験から危険度を判断し、場合によっては家屋内に支柱を何本も持ち込み、安全を確認して作業に入るが、万全といえることはない。しかし、被災者の苦しみを共有する黒澤は、少しでも助けになりたいとの一念から、まさに寝食を忘れて活動している。
黒澤は、これからの災害ボランティアは建設重機の免許証が必要だという。日本財団の渡辺瑛子は、女性ながら現場でシャベルカーを操り、被災者を驚かせた。これに触発され、東京都教育委員会から日本財団で研修している川路美沙は、夏期休暇中に重機の免許を取得し、被災地での活動を夢見て腕をさすっているそうだ。
シャベルカーを操る若く美しく力強い乙女、渡辺瑛子さん
先般は、九州各県から救援活動に集まった心ある消防士57名に、倒壊家屋への入り方や余震からの安全確保、倒壊防止のための柱立て作業、命綱を共に結び合い屋根で活動、余震に備え危険な瓦を予め落とす作業、熊本地震で初めて使うチェーンソーの使い方などの講習会を開いたそうだ。消防士は火災に対処するのが仕事で、阪神淡路大震災では大規模火災が発生して消防士が大活躍したことは記憶に新しいが、建設重機は勿論のこと、チェーンソーやジャッキなどを扱える人はほとんどいないという。
ボランティアで駆けつけた若手消防士たちにチェーンソーの使い方を講習
黒澤は、災害ボランティアには建設重機といわれるブルドーザー、ユンボ、パワーシャベル、さらにはトラクタショベルと2〜3トンのダンプカーの免許状のある人が参加してくれると大いに作業がはかどるという。先般はお盆を前に、重機を駆使して倒壊した墓石を立て直し、立派な墓地に整備したという。
災害発生当初は自衛隊、消防、警察の人命救助が優先であるが、次は食料配布や炊き出しボランティアの出番で、その後はガレキの処理となる。少し落ち着いてくるとマッサージ師、美容師、心理カウンセラーや悩み事相談係り、倒壊家屋からの被災者の依頼品の搬出等、専門的な知識や技能を要求される救援活動となり、多種多様な専門的知見と技能をもったボランティアの参加が望まれるようになってきた。
国も地方自治体も災害大国日本の将来を考える時、災害発生時に被災者の生活環境の変化と共にどのような支援が必要になるのかを具体的に想定し、少なくとも三年間位の計画書を準備しておく必要があるのではないだろうか。
もう想定外という言葉は死語にしたいものである。