「ちょっといい話」その63
―夢の奨学金―
3月から4月の初めは、四季の中で最も鮮やかな季節の変わり目であると同時に、若者にとっては希望あふれる入学・卒業・就職のシーズンでもある。
3月30日、安倍首相は予算成立を受けた記者会見で、教育支援に向けて、返済不要の給付型奨学金制度の創設を発表した。大いに歓迎すべきことである。従来の返済を必要とする奨学金では、卒業して就職した途端に数百万円の借金を抱えて社会人として旅立つわけで、時代にマッチしていないとの議論が湧き上がっていた。
日本財団は未来を担う人材養成のために、各種の奨学金制度を実施しているが、全て給付型である。今回新設された『夢の奨学金』とは、何かの理由で養護施設で育った子供たちが対象である。
養護施設には両親を知らないで育った子供も多く、中には幼児期から18歳まで施設で育ち、18歳になった途端に社会的経験も友人もないまま社会に出されてしまうことになる。そのため大学レベルでは、一般家庭の子供の進学率が77%に対し、施設からの大学進学率は23%と極端に少なく、中途退学者も3割と多い。働きながらの大学生活であるからである。
日本財団では養護施設出身者の進学や就職を支援するため、奨学金、生活費、住居費を給付すると共に、精神的ケアをはじめとした悩み事の相談にソーシャルワーカーをつけて協力することになった。
この仕組みを考えた財団の芳川龍郎君によると、高校、大学、大学院、専修学校などにおける卒業までの費用を下記の通り支援することにしたそうだ。
住宅補助 月額7万円
生活補助 月額 3.5万円
授業料 年額 124万円
となっている。
又、職人見習いを希望する人には
住宅補助 月額 7万円
生活補助 月額 3.5万円
を支給する。
応募資格は養護施設出身者で、進学、就職をして自立を目指す
※明確で現実的な人生プランが示せる。
※決めたことは行動に移す実行力ある。
※人生プラン実現への強い情熱を持っている。
以上3点を中心に、今回11名の方が選考された。
笑顔で実にハキハキと明確に自身の夢を語る姿は、厳しい環境にもめげず成長した素敵な若者ばかりで、久しぶりに強い感動を覚えた。私は「あなた達の父親として何でも相談してほしい。これから一生のお付き合いをしましょう」と挨拶、激励。今回は第1回目なので、施設や里親とつながりを持ち、社会的養護出身者を支援する団体があり、協力が得やすい環境の愛知県から選考したが、いずれ早期に全国レベルで行いたいと考えている。
大半の大学生は、2年生の終わり頃になって初めてどこに就職しようかと考え、あわてて資料を集め始めて就活に汗を流すことになる。この現実への反省から、かつて日本財団が支援した『NPOカタリバ』の女性は各地の高校を訪ね、「大学生になってからでは遅い。将来何になりたいか、どのような職種に勤めたいかは高校時代から明確にする必要がある」と諭し、議論した結果を報告してくれた事がある。
それに比べ、今回の学生はまことに立派。10名(1名欠席)全てが明確な人生設計を立て、何よりも明るく笑顔で目が輝いていた。
約束した以上、私も父親の役目を果たしたいものだ。
詳細は下記の通りです。