【正論】日本財団会長・笹川陽平
NPO法人は情報公開の徹底を
2012年11月26日
産経新聞 東京朝刊
特定非営利活動促進法(NPO法)の施行から14年、NPO法人(特定非営利活動法人)として認証された団体は全国で4万5000を超えた。「民」が少しでも「公」の領域を担うためにも、NPOの増加それ自体は望ましい。
しかし「認証団体の過半は活動していない」とまでいわれるNPOの現状は如何(いかが)なものか−。信頼、安心感がなければ、「民」の社会貢献を支える寄付文化も育たない。情報公開の徹底など改善すべき点は多い。
≪市民の手で育てる≫ 内閣府によると、NPO法施行後、全国の都道府県や政令指定市などが認証したNPO法人は9月末現在で4万6327団体。ここ数年は毎年3000前後、増加している。これに対し認証の取り消しを受けた法人は全国でわずかに1112団体、1万団体を超す法人を所轄する東京都でも338件にとどまる。理事長が刑法犯に問われたような特殊な事例を除くと、99%以上は3年間、事業報告書の提出を怠ったケースだ。
NPO法人の認証は準則主義で行われ、定められた書類に不備がなければ簡単な審査で法人格を取得できる。「市民の手で育てる」とのNPO法の趣旨を受け、各団体に積極的な情報公開を求める一方、一般の許認可事項と違い行政の介入は抑制的。法律違反や改善命令に従わない場合も認証取り消しは可能だが、態勢が手薄なこともあって適用されたケースはほとんど見当たらない。
しかしNPO法人と認められれば、誰もが「所轄庁からお墨付きを与えられた」と見る。連絡先が分からないばかりか、所在地さえ不明な法人が多数存在する現状は、情報公開の徹底に反し、NPO法人を正常に発展させる上で大きな足かせとなっている。
≪現状は“玉石混交”≫ 名刺の肩書代わりに立ち上げられた形ばかりのNPO法人も少なくなく、誤解を恐れずに言えば、現状は玉石混交、ひょっとすると“石”の方が多いかもしれない。法人格を与えた以上、行政には最低限、各団体のその後をフォローする責任がある。事業報告書は毎年の提出が義務付けられており、怠る団体には警告書を送り、それでも応じない場合、3年を待たず自動的に認証を取り消せるよう法改正も検討すべきである。
あえてこの点にこだわるのは、問題のある団体が結果的に、真摯(しんし)に活動する多くのNPO法人の足を引っ張る結果を招いているからだ。NPO活動には当然、資金が要る。われわれも活動資金確保に向け、日本ファンドレイジング協会の立ち上げや活動資金集めを担当するファンドレイザーの育成を支援しているが、助成金や事業収入には限りがある。NPO活動を活性化させるには、その多くを寄付に頼らざるを得ない。
総務省の統計によると、わが国の1世帯当たりの年間寄付額は東日本大震災が起きた2011年を除き、ここ十数年、二、三千円台で推移しており、1人当たり10万円を超す米国などと比べ大きな差がある。税制など社会の仕組みの違いが原因で、日本人の寄付意識が低いわけではない。現に東日本大震災では4000億円を超す義援金も寄せられた。赤い羽根など共同募金が主な寄付先となっているのは、NPO活動を支援しようにも、どのような団体がどうした活動をしているのか、判断材料が不足しているのが原因だ。
CSR(企業の社会的責任)活動を目指す企業にとっても事情は同じ。彼らが必要としているのは「この団体に寄付すれば間違いなく有意義に活用される」といった情報だ。日本財団ではこれまでの支援実績を踏まえ、1万を超えるNPO団体の情報を公益コミュニティーサイト「CANPAN」で公開しているが、こうした試みを公的な第三者機関を含め、さらに充実させれば、個人寄付、CSRを含め日本の寄付文化は確実に拡大する。
昨年の法改正ではNPO法人への寄付金に対する税額控除制度も導入された。寄付をすれば国や自治体から一定の税金が戻され、わずかとはいえ、税金の使い道を納税者自身が選択できる道が開かれたことになる。こうした流れは、NPO法人が寄付の使途も含め全ての情報開示を徹底し、世論の信頼を高めることで加速される。
≪民が民を支える新しい社会≫ 日本は今、政治、経済が低迷し、国の借金は1000兆円の危険水域に迫りつつある。国の予算の40%を赤字国債に頼らざるを得ない状況では、国や自治体の公共サービスの縮小は避けられない。その分、「民」が担う役割は大きくなるが、幸いわが国には、社会貢献にかける若者たちの熱意の高まりがある。
ボランティアが力を合わせて津波で破壊された車を撤去
健全なNPO醸成で寄付文化の拡大を
私は今年2月、本欄で休眠口座預金をNPO活動の支援資金に活用するよう提案し、近く超党派の議員による促進連盟が立ち上がる見通しとなった。こうした公的資金の活用は、国民の理解があって初めて可能になる。それが実現できたとき、「民が民を支える新しい社会」が見えてくる。(ささかわ ようへい)