【正論】日本財団会長・笹川陽平
小沢さん、故郷復興の先頭に
政治家 小沢一郎氏に対しての提言です。
小沢氏とは、二、三度の面識はありますが、挨拶程度のことで、したがってこの論は勿論私怨にもとづくものではありません。
読者の筆者に対するご批判は大いに歓迎致します。
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2012年3月30日
産経新聞 東京朝刊
政局の混迷が続いている。その中心には今も20年前も小沢一郎さんの姿があり、政治の低迷で未曽有の被害を出した東日本大震災の復興も滞っている。小沢さんはなぜ、故郷の復興の先頭に立たないのか。あえて申し上げたい。あなたは政局を離れて故郷に帰り、その剛腕をもって被災地復興の先頭に立つべきだと。
≪国の存亡かけた国難の時≫
あなたの著作を何点か読み返してみました。『小沢主義』の中であなたは、人々の家から煙が立ち上がっていないのを見た仁徳天皇が国民の困窮に気付き租税を免除した、との日本書紀のエピソードを引き、「みんなが幸せな生活を、豊かで平穏な生活を送れるようにするために、何をすべきか。それを考えるのが政治の役割、政治家の役割であって、それ以上でもそれ以下でもない」と言い切っておられます。
誠にその通りだと思います。東日本大震災では、あなたの故郷の岩手県も甚大な被害を受けました。国の存亡をかけた国難の時であり、あなたが「オヤジ」と尊敬する田中角栄元首相なら、壮大なプランを描き復興の先頭に立ったのではないでしょうか。
しかし、あなたが釜石市や陸前高田市など沿岸の被災地を初めて訪問したのは震災から10カ月後でした。どう被災地を復興させるのか、『日本改造計画』を書いたあなたには復興に向けた深い造詣、多くの知恵があるはずなのに、何のビジョンも聞こえてきません。
新聞の政治面にはあなたの名前が連日のように登場します。大半は政局関連記事で、具体的な政策論議は乏しく、政局を弄んでいる感すら覚えます。
最近も、野田首相が政治生命を懸ける消費税率引き上げ関連法案に対するあなたの動向が注目されています。あなたが消費増税より優先させるべきだという行財政改革や経済の立て直しはもちろん必要です。しかし1000兆円にも膨らんだ国の借金を前にすれば「どれが先か」といった悠長な議論をしている時間はありません。
≪政策総動員で取り組むべき≫
税金は安いほうがいいに決まっています。にもかかわらず各種調査で40%近い人が消費税増税を「やむなし」としているのは、巨額な財政赤字が医療や年金を後退させ、次世代への過重な負担になるのを心配してのことです。
これ以上、増税を先延ばしにするのはいかがなものでしょうか。可能な政策を総動員して、喫緊の課題である財政再建に直ちに取り組むのが、あるべき政治の姿と思うのです。
あなたは著書で、日本のマスコミは“リーダー潰し”に躍起となってきた、と批判した上で「アメリカのマスコミには、新しい大統領が生まれたときは最初の1年目に限って、その政策を批判しないという不文律があると聞いたことがある」と指摘、「リーダーをいったん選んだ以上は、その人の考えるとおりに任せる覚悟が国民の側にも必要だ」と述べています。その言やよし。ならば早々に消費税増税に反対を打ち出したあなたの姿勢は矛盾すると思います。仮に若手の多いあなたのグループ議員の選挙への悪影響を憂慮してのことであれば論外であり、「大多数の人たちに幸せをもたらす」ことを目指す大政治家、小沢一郎さんらしくありません。
4月26日には資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐり、あなたが政治資金規正法違反(虚偽記入)の罪で強制起訴された事件の判決が出ます。結論がどうなろうと国民が最も知りたいのは、会社を経営したこともなく政治家一筋で来られたあなたが1600平方メートルを超す東京都世田谷区の豪邸に住み、4億円もの現金や不動産を持てるような富をどのように作ったのか、この一点に尽きます。
相続した土地や著書の印税収入、議員歳費などを収入源として説明されているようですが、過去の納税額など詳細な資料が全て明らかにされない限り、国民の納得は得られないでしょう。最近は目にしなくなったとはいえ、国民が求める政治家像は今も昔も、私財をなげうって政治に命を懸け、最後は井戸と塀しか残さないような“井戸塀政治家”なのです。だから余計、あなたの巨額の財産に不審の目が向けられるのです。
≪今も名声残す後藤新平≫
あなたと同じ、岩手県出身の後藤新平は89年前の関東大震災で内務大臣兼帝都復興院総裁として大胆な震災復興計画を立案、幹線道路網などを整備し、今もその名声を残しています。今回の大震災の被災地はもともと深刻な過疎に直面していました。若者が魅力を感じる21世紀にふさわしい未来都市に再生すれば、震災の教訓も生き、あなたが限界を指摘する東京一極集中を解消し、地方とのバランスを取り戻す道筋も見えて来ると思います。
著書でこの国の改造計画を描いた小沢さんほど被災地復興の先頭に立つのにふさわしい人物は見当たりません。これこそが、あなたのこの国に対する「最後のご奉公」でもあると信じています。
(ささかわ ようへい)