※10月10日、インド・ニューデリーで「ササカワ・インド・ハンセン病財団設立記念式」において、私が挨拶をいたしましたので掲載いたします。
ハンセン病財団の事務所がある建物
「ササカワ・インド・ハンセン病財団」設立記念式挨拶
2007年10月10日
WHOハンセン病制圧特別大使
笹川陽平
本日は、アブドゥル・カラム前インド大統領などご来賓の皆様、関係者の方々の祝福をいただき、ここにササカワ・インド・ハンセン病財団の設立記念式をとりおこなうことができましたことを心から嬉しく思っております。
あわせまして、この財団に対するハンセン病回復者をはじめとするインド社会からの期待を考えますと責任の重大さを感じております。
インドと日本は、文化、経済をはじめさまざまな分野で友好的な関係を築いてきました。今年は、日印文化協力協定締結の50周年に当たり、第二次世界大戦後、急速な発展を遂げアジアの経済大国として、世界に重要な役割を持つようになった両国にとって、ひとつの節目の年と言えるでしょう。
日本とインドが互いの立場を認識し、更に強い結びつきを作ることができましたならば、飢餓や蔓延する病気の克服、教育の不平等など人々を悩ます諸問題を地球規模で解決することに貢献できると信じております。
私は、40年の歳月をかけて、ハンセン病の制圧に心血を注いできたと自負しております。特にインドにおきましては、世界におけるハンセン病制圧のキーポイントとして、政府の方々、医療関係者、患者・回復者の方々とのパートナーシップを重視しながら、各地をまわり、ハンセン病制圧の意義を訴えるとともに、療養所やコロニーをまわり対話を進めてまいりました。この3年間にインドを訪れた回数は20回を超えております。
インドでは、マハトマ・ガンジーやマザー・テレサといった偉大な先人達が、ハンセン病患者や回復者の幸福のために多大な貢献をしてきました。
その意思を受け継いだ関係者の方々の努力により、WHOが衛生学的に制圧の基準とする「人口1万人に患者が1人以下」を達成しました。1980年代以降、インドでハンセン病が治癒した回復者は1,100万人にもなります。
インドにおいてハンセン病が制圧されたことは、WHOをはじめとした関係機関においても賞賛され、世界中のハンセン病と闘っている人々に勇気と希望を与えました。また、ハンセン病は、“治る病気である”ということを、あらためて世界中の人々に知らしめることができました。
しかし、私は、訪問先のコロニーや街角で、ハンセン病回復者たちの置かれている悲惨な状況を見る度に、慄然とした気持ちになります。本来、病気が治癒し、幸せな暮らしに戻れるはずの回復者たちの生活環境は、なんら改善されていません。多くの回復者たちは、今なお社会から隔離され暮らすことを余儀なくされています。
ハンセン病を患ったという過去を持つため、回復者のみならず、その家族までもが、社会の偏見の目にさらされ、職に就くこともできず、愛する子供たちに教育を受けさせることもできません。
ハンセン病回復者たちは、自立して社会に受け入れられる環境ができてはじめて、この病気から解放されるのです。このようにハンセン病には、病気としての医学的側面と差別という社会的側面があります。
私は、インド各地を訪問し、ハンセン病回復者たちの、働く意欲と情熱、そして、社会への参加を熱望する声を聞いてきました。2年前からは、ナショナルフォーラムと呼ばれるインド国内のハンセン病コロニー代表者による大会を開催し、回復者が自らの声を社会に発信できる場を作ってきました。
しかし、未だに彼らに与えられたチャンスは、極めて少ないのが実情です。ササカワ・インド・ハンセン病財団は、回復者の方々の声を汲み上げ、回復者自らの手による社会参加と経済的自立に向けた活動のチャンスをつくり、その活動を持続的に支えるために作られた財団です。
私は、この新しく設立された財団を通じ、社会に対してハンセン病に関する正しい知識の普及を行い、回復者たちが自らの力で生きて行くための職場を確保し、彼らの子供たちが普通の子供たちと共に教育を受けることができるような社会にするための努力を続けます。
2006年1月、このインド・ニューデリーで発表されました「ハンセン病患者に対する社会的烙印と差別の撤廃を求めるグローバルアピール」には、元米国大統領ジミー・カーター氏、ノーベル平和賞受賞者であるダライ・ラマ氏、デスモンド・ツツ大司教、元インド大統領のR. ヴェンカタラーマン氏らをはじめ、世界の指導者11人がわたくしとともに署名し、ハンセン病制圧活動に対しエールを送っています。
今年1月に開催した「グローバルアピール2007」では、出席した回復者を代表してサクダランさん(10歳)がアピールを読み上げた
今年1月、フィリピンでは、世界各国のハンセン病回復者の代表が一堂に、自らの声で社会問題としてのハンセン病からの脱却を誓いあいました。
インド国内の企業や個人の皆様も、ぜひ、このインドにおいて衛生学的にハンセン病を制圧しただけでなく、社会的問題としてのハンセン病を制圧する活動に対し、ご理解とご助力を賜りますようお願い申しあげます。
私は、ハンセン病回復者が差別を受けず人権を認められ、同時に生活が改善され、真の意味でハンセン病から解放されるまで、私の人生をこの仕事に奉げる所存です。
終わりになりますが、ここにお集まりの方々のご多幸と世界中のハンセン病患者・回復者に明るい陽の光が注ぎますことを祈念し私の挨拶とさせていただきます。