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産経新聞【正論】内部留保を「CSR」に活用せよ [2018年11月05日(Mon)]
一内部留保を「CSR」に活用せよ―

産経新聞【正論】
2018年10月23日

 財務省が先に公表した法人企業統計によると、2017年度の日本企業の内部留保は446兆円と6年連続で過去最高を更新し、企業が利益を抱え込む構造が依然続いている。

 欧米各国に比べ労働分配率(賃上げ)や株主への配当率、国内投資も低く、個人消費が低調で「経済の好循環」が実現しない一因ともみられ、企業に賃上げや設備投資を促す方策として「内部留保課税」を検討する動きも出ている。

 ≪日本経済の活性化を奪う≫
 しかし、内部留保は課税後に積み立てた利益剰余金であり、「二重課税に当たる」とする反対論も根強い。そんな中、ハンセン病制圧活動で毎年、訪れるインドでは、企業にCSR(企業の社会的責任)活動を義務付ける世界でも珍しい法律が施行されている。内部留保を有効活用する妙案として、わが国でも検討に値すると考える。

 内部留保は途上国経済の減速を懸念して欧米各国でも増加傾向にある。しかし、わが国の場合は企業投資も国内より海外に偏る傾向にあり、賃金も上昇しているものの企業が生み出した付加価値に占める割合を示す労働分配率でみると、17年度は66.2%と43年前の水準に逆戻りしている。

 企業の国際競争力維持に向けた法人税率の引き下げも加わり内部留保が一層膨張し、現預金に限っても国内総生産(GDP)の約40%にも相当する222兆円に上る。先進7カ国(G7)でも例を見ない数字で、企業が過剰な現預金を抱える現状が日本経済の活性化を奪っているとの指摘も多い。

 経済界からは「内部留保は経営に自由度を与える源泉」(16年、日本商工会議所・三村明夫会頭)といった反論も出ているが、「そんなにためて何に使うのか」「企業収益が上がるのは良いことだが、設備投資や賃金が上がらないと消費につながらない」(麻生太郎副総理兼財務相)といったいらだちも聞こえる。

 ≪インドは利益の2%義務付け≫
 これに対しインドでは、13年に改正された新会社法で、「純資産が50億ルピー以上」「総売上高が100億ルピー以上」「純利益が5000万ルピー以上」の3要件のうち1つ以上を満たす会社に上場、非上場を問わず過去3年の平均純利益の2%以上をCSR活動に費やすよう義務付けている。

 「飢餓および貧困の根絶」「子供の死亡率減少」などCSR活動の具体的内容も定められ、現地日系企業も含め16年時点で約1500社が計約830億ルピーを医療や衛生など幅広い分野に費やしている。為替レートで換算すると、5000万ルピーは7700万円、830億ルピーは1278億円となるが、インド経済の躍進で対象企業は急速に広がる気配だ。

 わが国が経済の好循環を達成するためにも膨大な内部留保はまず賃上げや配当、投資に充てられるべきであろう。その上でインドと同じ2%をCSR活動に回すことができれば、現預金に絞っても5兆円近い額になり、山積する社会課題の解決に大きく貢献できる。国の借金が1000兆円を超すわが国は今後の公的財政投資に限界があり、なおさら効果は大きい。

 ≪求められる「社格、社徳」≫
 インドの企業がCSR活動に前向きな背景には「自分の資産などを貧しい人々やお寺などに寄付すれば幸福になれる」とするヒンズー教の教えがあり、タタ財閥などでは新会社法の制定以前から慈善活動や社会貢献活動に熱心に取り組んできた伝統があるという。

 米国にも「Give Five」の掛け声の下、企業が税引き前利益の5%を公益的な寄付に拠出する取り組みがあり、筆者は1989年、新聞投稿で米国の取り組みを紹介、企業に積極的な公益的寄付を呼び掛けたことがある。

 これに対し経団連は翌年、「1%(ワンパーセント)クラブ」を設立。現在、法人226社、個人850人が会員となり、それぞれ経常利益や可処分所得の1%以上を社会貢献活動に拠出している。

企業は積極的に寄附を.jpg
1989年の新聞投稿記事


 現時点では十分、期待に応えているとは言い難いが、わが国には江戸初期から続く近江商人の「三方良し」(売り手良し、買い手良し、世間良し)に代表される社会貢献に熱心な企業風土がある。CSR元年と呼ばれた2003年から15年と欧米に比べ歴史は浅いが株主利益最優先の欧米系企業と違い、従業員や顧客、地域社会まで幅広いステークホルダー(利害関係者)を大切にする伝統もある。

 国の財政が逼迫(ひっぱく)する中、企業には税金を納めるだけでなく深刻化する少子高齢化や地方創生、障害者雇用、里親制度の拡充など社会課題解決への積極的な取り組みが求められている。人に人格、人徳があるように企業にも一層の「社格」や「社徳」が求められる時代となった。

 内部留保をどう使うか、最終的な判断は企業の決断に委ねられるが、CSR活動への積極的な取り組みは間違いなく企業に対する国民のイメージを好転させ、企業・経済界の発展、ひいては景気の上昇にもつながる。

(ささかわ ようへい)

産経新聞【正論】一億総活躍の取り組みこそ先 [2018年09月26日(Wed)]
一億総活躍の取り組みこそ先―

産経新聞【正論】
2018年9月5日

 政府は6月に閣議決定した「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針)で、これまで原則禁止としてきた「単純労働」分野での外国人就労を受け入れる方針を打ち出した。

 建設や介護分野などの人手不足は深刻で、新方針を否定するつもりはない。しかし、外国人労働者の受け入れだけで急速な少子高齢化・人口減少に対応するのは不可能。政府が掲げる「一億総活躍社会」こそ、この国が目指す新しい社会の姿であり、実現に向けた取り組みが急務である。

 ≪多くを期待できない外国人就労≫
 安倍晋三首相はその姿を「若者も高齢者も、女性も男性も、障害や難病のある方々も、一度失敗を経験した人も、みんなが包摂され活躍できる社会」と説明している。外国人労働者の受け入れも、その一環として位置付けられるべきで、拙速な対応は「その場しのぎ」「付け焼き刃」になりかねない。

 日本財団では2015年、「はたらくNIPPON!計画」を立ち上げ、誰もが参加し活躍できる多様性のある社会のモデルづくりを目指してきた。関連して学識者らが行った試算では、障害や難病、ひきこもりなどが原因で「働きづらさ」を抱え、就業を希望しながら職を得ていない人は、15〜64歳の生産年齢人口に絞っても1600万人を超す。

 労働力は国の要であり、国の安定的発展を図る上でも、こうした潜在労働力の有効活用は何にもまして必要である。骨太方針では、最長5年の技能実習訓練を終えた外国人がさらに5年間、日本で働ける新たな在留資格を来春までに設け、25年までに人手不足が特に深刻な建設など5分野で50万人超の外国人労働者を受け入れるとしている。

 日本で働く外国人は昨年10月時点で約128万人。10年間で2.6倍に増え、産業界の需要も高い。しかし、労働力不足は不法移民問題で揺れる欧州連合(EU)も含め先進国共通の課題で、言語や生活習慣の違いなど他の先進国に比べ日本のハードルは高い。技能訓練生の多くを期待する東南アジア各国も高度成長に伴う国内の労働需要の高まりで早晩、外国への労働力供給は難しくなる。

 わが国の生産年齢人口は今年1月時点で7484万人と初めて全人口の60%を切り、国立社会保障・人口問題研究所によると、高齢人口がピークとなる40年には5787万人とさらに20%以上減る。5分野以外の食品加工や水産、物流分野などでも人手不足が進み、「2025年には583万人が不足する」(パーソル総合研究所)といった分析もある。

 ≪1600万人を超す潜在労働力≫
 一億総活躍社会の実現こそ抜本的な解決策につながる。前述した1600万人には障害者や難病患者のほか、職を持たない若者や2年以上の失業者など幅広い層が含まれる。今や国民の4人に1人を占め、近年、健康寿命が延びている高齢人口を例にとると、70%が定年後の就労を希望しているのに対し現実に職を得ているのは6人に1人に留(とど)まり大きな余力がある。

 現在、150万人が働く看護の世界も、職を離れている潜在看護師が約60万人存在する。今後、人工知能(AI)ロボットや遠隔操作で動く分身ロボットが発達すれば、寝たきりの患者や育児や介護で自宅を離れられない主婦らが就労する道は広まる。

 NIPPON計画では「身体」「知的」「精神」を合わせ約860万人に上る障害者の就労支援に取り組んできた。障害者総合支援法に基づき全国で約26万人が働く就労継続支援事業は、労働契約を結んで働くA型事業所が約3600カ所、障害の程度が重いB型が約1万700カ所整備され、現時点では、働く意欲を持つ人々の就労を促進する上で最も充実した受け皿となっている。

 A型の月平均賃金が7万3000円、最低賃金制の適用を受けないB型の工賃が同1万5000円と、その低さが問題となっていたが、高単価の事業の発掘を中心にモデル事業所づくりを進めた結果、賃金や工賃が増え、生活保護から脱却、自立する障害者も出始めている。

 ≪人口減少社会の世界モデルに≫
 計画では、障害者支援事業を参考に、より多くの人が働ける就労モデルの確立に向け、今秋にも学識者や経済界、厚生労働省の協力を得て、その在り方を研究するプラットホームを立ち上げる予定だ。試算では、少なくとも対象者の30%、500万人近い新たな労働力が期待できるという。

 最終的には、より広範な人々の就労−社会参加を実現する「ダイバーシティ就労促進法」(仮称)の制定が目標となる。こうした活動が「働き方改革」につながり、多くの人が生活保護から脱却すれば社会負担の抑制も期待でき、タックスイーターから一転してタックスペイヤーになる人も出よう。

 多くの国が日本と同様、高齢化と人口減少を迎える。一億総活躍社会が実現すれば、間違いなく新たな世界モデルとなる。
(ささかわ ようへい)


産経新聞【正論】二階幹事長殿 海の日の固定を [2018年07月25日(Wed)]
二階幹事長殿 海の日の固定を 

産経新聞【正論】
2018年7月19日

 ≪祝日には託された意味がある≫
 7月16日に今年の「海の日」を迎えた。秋にかけ全国で約1500に上る関連企画や催しが開催され、青少年を中心に延べ200万人以上が参加する。全国47都道府県の地方テレビ局にも取り上げられる予定で、文字通り全国的な一大イベントとなる。

 海の日は平成8(1996)年、国民の祝日として7月20日に固定された。明治天皇が地方巡幸を終え横浜港に帰着された日に由来し、祝日化を求め2276自治体(当時)が意見書を採択し、1038万人の署名も集まった。

 しかし土曜、日曜日に月曜日を加え3連休とするハッピーマンデー制度の導入に伴い15年から「7月の第3月曜日」となった。現在、海の日のほか、成人の日、敬老の日、体育の日がこの制度の対象となっているが、毎年、日にちが変わるこの制度には、どうしても違和感がある。国民の祝日は、その日を固定してこそ、託された意味が国民に共有されるからだ。

 ハッピーマンデー制度の創設には、全国旅行業協会(ANTA)の会長でもある自民党の二階俊博幹事長が尽力された。“失われた20年”で経済が低迷するなか、3連休が観光振興、ひいては地方創生に成果を挙げたのは否定しないし、その功績に敬意も表する。

 しかし6月の記者会見で早々に、海の日固定に反対する考えを表明されたのは感心しない。政権政党の幹事長の立場にあるとはいえ、海の日の扱いは総合海洋政策本部のテーマであり、その本部長は安倍晋三首相だからだ。

 しかも海の日をめぐっては、2つの議論が並行して進んでいる。ひとつは日本旅行業協会(JATA)、日本ホテル協会など観光業界の動きだ。関係7団体でつくる「働き方改革など休暇制度を考える会議」は4月、ハッピーマンデー制度の維持を決議し、3連休に伴う経済効果を前面に打ち出している。

 もうひとつは200人を超す超党派の国会議員でつくる「海事振興連盟」(衛藤征士郎会長)の活動だ。ハッピーマンデー制度では海の日の趣旨が損なわれるとして再固定化に向け、秋以降、祝日法改正案の国会提出を目指している。6月、自民党内閣第一部会で行われたヒアリングでは海の日固定を求める議員が圧倒的多数を占めた。

 ≪環境や防災面からも急を要する≫
 筆者が海の日固定にこだわる一番の理由は、海の劣化が一刻の猶予もならない深刻な段階に来ている点にある。先月、本欄に投稿した「海洋の危機に国際的統合機関を」でも触れたように、海は現在、人口が76億人に達した人類の社会・経済活動に伴い漁業資源の枯渇、海の温暖化・酸性化やプラスチックごみの流入が進み、このまま放置すれば早晩、人類の生存にも影響する状態にある。

 さらに防災面からも海の日の固定は急を要する。今回の西日本豪雨災害を見るまでもなく異常気象に伴う災害の巨大化が目立ち、南海トラフ地震など大型地震の発生も懸念されている。防災強化には、異常気象や大地震、さらに大地震の際に予想される大津波など海底を中心にした構造解析が必要となる。

 次いで資源面だ。わが国は総面積で世界6位となる領海、排他的経済水域(EEZ)を持ち、そこにはメタンハイドレートやマンガン団塊、レアアースなど豊富な資源の存在が確認されている。資源小国である日本の将来はこうした資源の活用にかかり、海底調査や技術開発など海の研究が欠かせない。

 観光業界は海の日の3連休に伴う経済効果を約400億円と見込んでいるが、日本近海に眠る資源は数兆円に上ると推計され、資源開発に向け新しい産業の創出も期待できる。

 ≪海洋国家として存在感を示せ≫
 海に関しては国連が6月8日を「世界海洋デー」(World Oceans Day)と定め、国際海事機関(IMO)も9月最終週の1日を「世界海事日」(World Maritime Day)とし、米国や中国にも海の日がある。

 こうした中、唯一、祝日とする日本の海の日には、海の恵みを受け、海に守られてきた海洋国家として、国際社会の先頭に立って海の危機に取り組む決意が込められている。

 “待ったなし”の海の危機に対し、国際社会はなお陸中心の発想が強く、国連中心に海を守る動きがようやく始まったとはいえ、全体の危機感はなお希薄である。誰かが世界の先頭に立って行動を起こす必要があり、その可能性を持つのが日本である。行動することが国際社会での日本のプレゼンスにもつながる。

 こうした点を総合的に踏まえれば、国民、何よりも次代を担う青少年に海の大切さを伝えるためにも、海の日の再固定化が急務である。海にどう向き合うか、それこそが国家の大計である。二階幹事長には大所高所からこの問題に対処し、今以上の名幹事長になっていただきたく思う。
(ささかわ ようへい)




「支援金と義援金・救援金との違い」―寄付先の選定について― [2018年07月18日(Wed)]
「支援金と義援金・救援金との違い」
―寄付先の選定について―


私は、東日本大震災の時に支援金と義援金・救援金の相違点を指摘し、日本財団への支援金のご寄付をお願いした。

近頃は支援金、義援金、救援金の他に、単に募金募集とか、志ある寄付者には判断がつきにくい言葉もある。要は、支援金はいち早く現場で活動するNPO、ボランティアの必要資金のことである。

それ以外の寄付金は、集まった募金を検討委員会にかけ、それぞれの自治体に一括寄付したり奨学金を設置したり、東日本大震災の例のごとく、決定して配布されるまで6ヵ月以上、一年近く時間がかかるものまである。

日本財団は支援金募集である。どうぞ、ご寄付の意思のある方は、透明性と説明責任を大切にしている日本財団の下記をご利用願います。

なお「支援金と義援金の相違」ついては、こちらをクリックしてください。

*平成30年7月豪雨
銀行振り込み先:三菱UFJ銀行
支店名 :きよなみ支店
預金種別:普通
口座番号:2443179
口座名(漢字):公益財団法人日本財団
口座名(カナ):ザイ)ニッポンザイダン

***************

改めて支援金の重要性を訴える


産経新聞【正論】
2016年4月21日

 災害寄付には「義援金」と「支援金」という、ふたつの形がある。連日の激しい揺れで日を追うごとに被害が拡大する熊本地震を前に、どちらにするか迷っている方が多いかもしれない。義援金は大災害での被災者にお悔やみや応援の気持ちを込めて贈られる見舞金を指し、支援金は被災地で活動する民間非営利団体(NPO)や災害ボランティアを支えるために寄付される浄財をいう。 

 ≪ニーズに応じ柔軟、迅速に≫
 どちらも重要である点に変わりはないが、義援金は公平・平等を検討した上、被害の特定を待って配分額を決定するため、過去の例では被災者の手元に届くのに10カ月以上かかる。大災害の発生当初や熊本地震のように現在進行形の災害では、現地のニーズに柔軟、迅速に対応できる支援金がまずは必要ということになろう。

 しかるに日本では、義援金が圧倒的に多く、支援金は全体の1割程度にとどまる。熊本地震の被災地復興活動が本格的に始まるのを前に、改めて支援金の重要性を訴えたい。

 大災害では、被災者の救出や水道、道路など基幹インフラの復旧を国や自衛隊、自治体など「公」が担い、食料や飲料、生理用品など被災者が必要とする物資の募集や仕分け、全半壊した家屋の片付けなどを「民」が担う役割分担が定着しつつある。

 寄付文化が未成熟といわれた日本でも1995年の阪神淡路大震災以後、民間から寄せられる浄財は増加傾向にあり、東日本大震災の寄付額は海外も含め6000億円を超えた。しかし大半は義援金で、支援金は700億円前後にとどまったとされる。

 民が果たす役割の大きさに比べ、バランスを欠くともいえるが、ひとたび大災害が発生すれば、支援金の拡大こそ不可欠で、それが被災地の復興をいち早く軌道に乗せることにもなる。

 熊本地震では14日の前震発生以降も連日、最大震度5強の揺れが続き、10万人近くが現在も自宅に戻れないでいる。食料や水はようやく届き始めたものの高齢者や障害者に対する専門的ケアや、大きな余震を恐れて狭い車中泊を続け、体調を崩すエコノミー症候群に対するケアも手付かずに近い状態にある。

 強い揺れで災害ボランティアセンターの開設が遅れていることもあって、各地から駆け付けたNPOは一部を除き県外で待機状態となっているが、余震が終息すれば活動も本格化する。被災地の必要物資を再点検して全国から募り、各被災地に的確に届けられる態勢や、NPO団体が効率的に活動できる拠点施設の整備も急務となる。

 ≪民の活動へ多くの善意を≫
 強い揺れが何度も重なった被災地では、熊本県だけで倒壊家屋が3000棟を超えたと報じられているが、家屋の片付けや泥土の排出・清掃などは自衛隊や警察、消防の活動対象外。NPOや災害ボランティアに頼るしかない。そうした民の活動を支えるのが支援金であり、熊本地震で民の活動が本格化する今こそ、多くの人の善意を支援金に寄せてほしいと思う。

 日本財団は東日本大震災でNPOなど計695団体に7億円を支援し、被災地の復興に一役買った。熊本地震でも1団体当たり100万円を上限に活動資金を支援する方針だ。

 寄せられた支援金はすべてNPOや災害ボランティアの活動資金に充て、不足した場合は、将来の災害に備えて2013年に独自に立ち上げた災害復興特別基金を充てる考えでいる。

 支援金は「赤い羽根」で知られる中央共同募金会などにも受付窓口が設けられているが、歴史的に言えば義援金に比べ明らかに後発で、いまひとつ国民に浸透していない現実もある。NPO活動を活発化させる一方、支援金の使途に対する説明責任を徹底し、活動実績のない名ばかりのNPOが多数存在する現状を早急に見直し、NPOに対する信頼を高める工夫や、寄付金を希望する団体が、義援金、支援金のどちらを求めるのか、あらかじめ明示するような方法も検討する必要があろう。

 ≪国民へいっそうの浸透を図れ≫
 わが国は災害復興も官と民が共同して進める時代を迎えている。支援金は寄付を通じて国民が復興に参加する形とも言え、民の活動を活発化させる上でも、その存在はもっと重視されていい。近年は専門知識を身に付けたNPOも多く、国や自治体との連携を進めることで、新しい社会を切り開く力も増す。

 ただし、民の活動を活性化するには、資材や備品からメンバーの生活を支える手当まで豊富な資金が欠かせない。義援金に偏った現状は、被災者個人に対する支援と被災地全体の復興を両立させる上でも、やはりバランスを欠く。

 少なくとも義援金と支援金が同等の重みを持って社会に迎えられることが必要と考える。そうした認識が広く国民に共有されたとき、わが国の災害対策にも新たな可能性が出てくる。
(ささかわ ようへい)

「ちょっといい話」その99―両陛下のハンセン病療養所訪問― [2018年07月11日(Wed)]
「ちょっといい話」その99
―両陛下のハンセン病療養所訪問―


2018年6月22日付毎日新聞に、以下のような記事が掲載された。

「一つ、心残りです」。天皇陛下は日本財団会長、笹川陽平さん(79)にそう語られた。2015年1月13日、皇居・御所の一室でのこと。笹川さんが、ハンセン病への差別撤廃を訴える「グローバル・アピール」の東京開催を前に、ハンセン病を巡る各国の事情を説明していた時だった。「一つ」とは、国内に14ある国立と私立のハンセン病療養所のうち、唯一、大島青松園(高松市)への訪問が実現していないことを指す。
 陛下は皇太子時代の1968年4月、鹿児島県の奄美大島にある療養所「奄美和光園」を訪ねた。以降、地方の行事出席の機会を利用するなどして13カ所の療養所に出向いた。療養所ではいつも患者たちの手を取り、語りかけた。皇后さまも常に一緒だった。
 社会の強い差別意識を背景に、療養所の多くは集落を離れた場所に建てられた。大島青松園は瀬戸内海の大島にある。04年、全国豊かな海づくり大会が香川県で開かれた機会に、陛下は同園の訪問を望んだという。だが移動に使われた大型船は小さな島の港に入港できないなどの事情があり、かなわなかった。入所者たちが島から高松市街に出向き、陛下と面会した。
 全ての療養所の入所者との面会は実現した。しかし訪問していない施設がある。それを「心残り」と話した陛下は、笹川さんとの面会の中で治療薬や療養所の現状も話題にした。笹川さんは理解と関心の深さに驚いたという。「グローバル・アピールに参加した各国の元患者たちに面会していただけませんか」。笹川さんの願い出にも陛下は応じた。
 2週間後の1月28日、元患者たちが御所に招かれた。その中に、04年に高松市街で陛下と面会した大島青松園の入所者、森和男さん(78)がいた。陛下と思い出を語り合ったという森さんは「家族や社会から追いやられた入所者を気に掛け、会いたいと思ってくださることがうれしかった」と振り返る。

※正しくは、両陛下に世界のハンセン病の情況説明をさせていただいた中で、両陛下は「香川県の大島青松園を訪問の折は海が荒れて着岸できず、船から出迎えの皆さんに手を振って挨拶しました」とのご発言でした。

両陛下.png

◇ハンセン病
 らい菌による感染症。国の隔離政策が1907(明治40)年に始まった。戦後は完治する病気になったが、96年のらい予防法廃止まで強制隔離は続き、患者への偏見や差別を助長した。日本財団は2006年から毎年、差別撤廃を訴える声明「グローバル・アピール」を発表。関連行事を開いている。

産経新聞【正論】海洋の危機に国際的統合機関を [2018年06月25日(Mon)]
海洋の危機に国際的統合機関を


6月20日、日本経済新聞の夕刊は、一面トップでプラスチックゴミによる海洋汚染が深刻で、欧州連合(EU)は今後、使い捨てのプラスチック容器などの使用を禁じる方針であり、地球環境を脅かすプラスチックゴミの削減へ「海洋大国日本も積極的な対応が閉迫られる」とした上で、6月中旬にカナダで開かれたG7首脳会議で、「カナダ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアは海洋プラスチック憲章を採択したが、日本は人口一人当たりのプラスチック包装によるゴミ発生量がアメリカに次いで多いにも関わらず、アメリカと共に署名しなかった」と報じた。

以下は海洋危機に対する正論での私の意見である。

産経新聞【正論】
2018年6月13日


≪これ以上の負荷に耐えられない≫
 海洋環境の悪化が急速に進んでいる。漁業資源の枯渇、海の温暖化、酸性化、プラスチックごみの流入−。どれも人口が急膨張した人類の社会・経済活動が原因である。海はこれ以上の負荷に耐えられず、このままでは早晩、人類の生存が危ぶまれる事態となる。にもかかわらず国際社会の危機感はなお希薄で、肥大化した国際機関も十分に対応できていない。

 海には毎年1000万〜2000万トンのごみが投棄され、80%をプラスチックごみが占める。世界のプラスチック生産量は2014年時点で3億1100万トン、50年前の20倍を超す。海を漂ううちに紫外線や波の力で5ミリ以下のマイクロプラスチックとなり、食物連鎖を通じて小型魚から大型魚さらに人間の体内にも取り込まれる。

 汚染は地球規模に広がり、欧州連合(EU)は5月、ストローなどプラスチック製品の製造禁止と25年までにプラスチックボトルの90%を回収する方針を加盟各国や欧州議会に提案した。国連も今年1月、代替品の開発などを検討する専門家グループの設置を決め、わが国もプラスチックの大量削減に向けプラスチック資源循環戦略の策定に乗り出した。

 ようやく取り組みが始まった形だが、一方で途上国を中心に現在も年間800万トンを超すプラスチックごみが海に流れ込んでおり、持続可能な海を保つために一刻の猶予も許されない状況にある。

 漁業資源も然りだ。この半世紀で世界の人口、1人当たりの魚介類消費量とも2倍以上伸び、結果、世界の魚介類消費量は50年前の5倍に膨らんだ。世界人口は60年には100億人に達すると推計され、魚介類の消費量は途上国を中心にさらに増える。

 ≪ばらばらで実効性乏しい組織≫
 世界の海洋生物はこの40年間で50%も減少したといわれ、国連食糧農業機関(FAO)によると、わが国の周辺海域を含む北西太平洋海域では既に24%の魚介類が生物学的に持続不可能な状態となっている。資源の減少が高値を呼び、違法操業が増える悪循環も深刻化している。

 温暖化に伴う海面上昇も深刻である。太平洋の島嶼(とうしょ)国キリバス共和国では水没の危機が叫ばれ、キリバス政府は将来の国民の海外移住を視野に、同じ島嶼国のフィジーに広大な農地を購入している。現在のペースで温暖化が続くと今世紀末までに海面が約1メートル上昇するとの研究報告もある。

 1994年に発効し、現在、世界168カ国・地域が批准する海の憲法・国連海洋法条約は、海の3分の2を占める公海を「人類の共同財産」としている。しかし、新たに発見された海洋資源をめぐり各国の利害が衝突し、どう管理していくか、有効な知恵はいまだに出されていない。

 国連にはFAOや国際海事機関(IMO)、国連環境計画(UNEP)など海洋に関する9機関があり、それぞれが条約や協定、議定書を管理している。だが採択されても条約や行動規範に強制力や実行の担保はなく、違法操業などに効果的な対応を取れていない。

 多省庁にまたがり縦割りの弊害が指摘されている日本の海洋政策と同様、各機関が独立・分散している現状にも問題がある。このため筆者は昨年6月、海をテーマに初めて開催された国連海洋会議で海洋問題を国際的に総合管理する政府間パネルの設立を提案し、具体化に向け多くの国の賛同を得た。

 ≪1万年先を見据えた保存活動を≫
 海は地球の70%を占める。しかし人類は太古から陸を中心に生活を築いてきたが故に、海に対する関心は低い。海の危機は、17世紀オランダの法学者グロチウスの「自由海論」そのままに海を野放図に使ってきた結果である。

 海洋資源の活用が現実化するにつれ激しさを増す領海や排他的経済水域(EEZ)をめぐる紛争を前にすると、国際社会にはなお、海を無限と見る風潮が根強く残っているような気がしてならない。海の再生が二の次となる事態を憂慮する。

 スウェーデンの港町マルメにある世界海事大学(WMU)では途上国の海事関係の人材育成に取り組み、日本財団も運営に協力。これまでに140カ国、1200人を超す海洋専門家を育て、今回、新たな付属機関として「笹川海洋研究所」を設立することになった。

 5月、その開所式に当たり、昨年秋に死去した伝説的なアメリカン・インディアンの指導者デニス・バンクス氏の「われわれは7代先の子どもたちのために今何をしなければならないかを決めている」との言葉を借り、1000年、1万年先を見据えた海の保存を訴えた。

 健全な海を後世に引き継ぐのは人類共通の責務である。国際社会は“母なる海”の厳しい現実を直視する必要がある。その上で海洋保全に向けた新たな国際的統合機関の設置を、各国に強く訴えたい。海に守られてきた海洋国家・日本が、その先頭に立つべきは言うまでもない。
(ささかわ ようへい)

産経新聞【正論】日中間の災害防衛交流を進めよ [2018年05月14日(Mon)]
日中間の災害防衛交流を進めよ

産経新聞【正論】
2018年4月27日

 日中平和友好条約締結40周年に当たる今年、関係改善の兆しが見えてきた。2012年の尖閣諸島国有化以来、厳しい緊張が続いてきた両国関係を「戦略的互恵関係」に戻す好機と考える。

 ≪6年ぶりに佐官級事業を再開≫
 東シナ海などでの偶発的衝突を回避するため、日中防衛当局間で進められている「海空連絡メカニズム」の協議も大詰めを迎えている。われわれも尖閣諸島問題で中止した自衛隊と中国人民解放軍の佐官級交流事業を今年、6年ぶりに再開した。

 日中関係は先の大戦など、とかく難しい隣国関係の中で推移してきた。近年は尖閣諸島問題以降、冷え切った関係にあり、「戦略的互恵関係」の原点に戻るには、なお時間がかかる。

 中国側が日本への挑発を自重するよう求めるが、何よりも誤解が紛争や衝突を生むような事態は避けなければならない。そのためにも佐官級交流の再開を契機として、災害発生時の自衛隊、中国人民解放軍の相互派遣、第三国で大災害が発生した場合の合同救援隊の派遣を、新たに提案する。

 人命救助や復興支援を目的とする自衛隊と中国人民解放軍の災害交流は両国民の理解を得やすく、合同救援隊の派遣は「世界あっての日本」「世界あっての中国」として、国際社会の信頼にもつながると考えるからだ。

 日本の言論NPOと中国国際出版集団が17年末に実施した共同世論調査の結果も、そうした流れを裏付けている。

 現在の両国関係について、日本人の9割弱、中国人の7割弱は依然、相手国に対する印象を「良くない」と答えている。

 その一方で、両国民の約7割が「日中関係」を重要だと考え、日本人の約6割、中国人の約7割は「安定した平和な秩序のため新たな協力関係を構築すべきだ」としている。

 再開した佐官級交流事業は、国の防衛の将来を担う中堅幹部の相互理解促進に向けて、笹川平和財団が防衛省や中国中央軍事委員会国際軍事合作弁公室、中国国際戦略学会の協力を得て、01年にスタートした。

 ≪国際社会の要請にもかなう≫
 今月中旬には人民解放軍佐官団25人が来日し、8日間にわたって、防衛省や陸海空の自衛隊基地や駐屯地を訪問し、交流を重ねた。団長の慈国巍・同国際軍事合作弁公室副主任(少将)は、「友人は付き合えば付き合うほど近くなり、交われば交わるほど親しくなる」と、今後に向けた期待を語った。

 災害派遣は2月、筆者が北京の同国際軍事合作弁公室と交流事業再開の詰めの協議をした際、初めて持ち出した。胡昌明主任(少将)もこれに大いに興味を示し、自らも双方の文化交流について提案した。

 自衛隊には多くの災害派遣で蓄積した豊富な経験と技術がある。四川大地震(08年5月)では、遺体に黙祷(もくとう)する日本救援隊の姿が中国国民の感動を呼んだ。近年、スーパー台風など災害の巨大化が目立ち、合同救援隊の派遣は国際社会の要請にもかなう。

 日中関係改善の流れは、民間が一足、先行している。07年に94万人と韓国、台湾に次いで3位だった中国人の訪日観光客は、昨年トップの735万人になった。日本語学科を持つ中国の大学も15年、503大学に上り、62万5000人の学生が日本語を学ぶ。平和国家、日本の姿を知る中国人は確実に増えている。

 ≪相互協力へ前向きな検討を≫
 最先端技術の交流も徐々に拡大している。日中医学協会が日本財団、中国国家衛生・計画生育委員会と進める笹川医学奨学金制度も今年度から、双方の専門家が世界レベルの研究に共同で取り組むコースが新たにスタートした。

 同奨学金制度のOB、2250人でつくる進修生同学会は全体で100万人を超す中国医学界の中でも質の高さを誇り、四川大地震の際の支援活動が大きく評価された。災害防衛交流の中でも活躍が期待できる。

 グローバル化、情報革命の進行で国際社会は生き残りに向けた駆け引きが激しさを増し、戦後秩序にも陰りがみられる。混迷を深める国際情勢に対応するには、何よりも幅広い選択肢を持つことが必要だ。

 その大きな軸に日中関係があり、わが国は日米同盟を堅持しつつ、膨張する中国と真剣に向き合っていく必要がある。

 先に閣僚級の日中ハイレベル経済対話が8年ぶりに開かれ、中国の王毅外相が来日した。5月に予定される日中韓首脳会談には李克強首相の初来日が見込まれ、秋には習近平国家主席と安倍晋三首相の会談も予定されている。

 日中関係の改善はアジアの安定、ひいては世界の平和にもつながる。その動きを加速させるためにも、両国のハイレベル協議で、自衛隊と人民解放軍の相互交流や災害時の双方の協力による国際貢献のあり方をぜひ、前向きに検討してほしいと思う。
(ささかわ ようへい)


産経新聞【正論】北極海問題で日本の存在感示せ [2018年04月11日(Wed)]
北極海問題で日本の存在感示せ

産経新聞【正論】
2018年3月16日

 ≪10年後の夏場は氷が姿を消す≫
 北極海の温暖化が他地域の2倍の速さで進んでおり、10年後には夏場の氷が完全に姿を消す可能性が高くなった。海氷が融解し北極海航路が実用化されれば、アジアとヨーロッパの距離はマラッカ海峡・スエズ運河を経由する南回り航路に比べ30%以上短縮され、北極海に眠る石油、天然ガスの活用も現実化する。

 一方で温暖化に伴う海水温上昇や酸性化、グリーンランドなどの氷床融解に伴う海面上昇など地球環境全体、とりわけ人類の生存基盤である海の危機も深刻化する。

 わが国は国立極地研究所などの各国に先駆けた研究観測で、国際的にも高い評価を得てきた。法が支配する適正な北極海の利活用に向けたルール作り、地球環境全体に大きな影響を与える北極海の気象予測など幅広い国際貢献を一層、強化する必要がある。

 北極に関しては1996年、ロシア、カナダなど北極圏8カ国が北極評議会(AC)を設立、持続可能な開発や環境保護などを話し合い、非北極圏国13カ国がそのオブザーバー国となっている。わが国も2013年、中国、韓国とともにオブザーバー国に選ばれている。

 同じ年、8カ国の1つアイスランドのグリムソン前大統領の呼び掛けで各国の北極担当者や研究者、ビジネス関係者らが集まる北極サークルも立ち上がり、昨秋の第5回サークルには50を超す国から2千人以上が参加、北極に対する関心の高さをうかがわせた。

 北極には南極のように平和利用を定めた個別の法的枠組みや国際条約はなく、ACも軍事・安全保障に関する事項は扱わないのを原則としている。しかし新たな航路、膨大な資源が持つ戦略的・経済的価値は大きく、各国の動きも激しさを増している。

 こうした中、日本財団も一昨年、笹川平和財団海洋政策研究所、政策研究大学院大学と北極の未来に関する研究会を立ち上げ、2月上旬、AC諸国やオブザーバー国から100人を超す関係者を集め「北極ガバナンスに関する国際ワークショップ」を開催した。

 ≪「一帯一路」に結び付ける中国≫
 グリムソン氏も基調講演のため初来日し、筆者との対談では、北極海に対する中国の積極的な姿勢を話題にした上で、日本の一層前向きの対応を求められた。

 中国は今年1月、初の北極政策白書を発表、北極政策の目標と基本原則を打ち出すとともに北極海を通る航路を「氷上のシルクロード」として中国の広域経済圏構想「一帯一路」と結び付ける考えを示し、世界の注目を集めている。

 これに比べると日本の取り組みは確かに弱い。南極に比べ北極に対する関心の低さを指摘する声もある。科学的な調査研究で先行しながら、中韓両国が既に配備し2隻目を建造中の北極観測用砕氷船もいまだに所有できていない。

 筆者は1993年から6年間、海洋政策研究財団(現・海洋政策研究所)がロシア、ノルウェーの研究機関と進めた国際共同研究プロジェクトの委員長として、北極海の通年運航は技術的には可能との研究成果をまとめた。

 当時は北極海航路の実現を2050年前後と予測したが、温暖化の速度は予想をはるかに上回り、政府の取り組み強化は待ったなしの情勢だ。北極の未来に関する研究会でも1月、日本が取り組むべき課題と施策を提言にまとめ内閣府に提出した。

 ≪海洋国家としての総合戦略を≫
 北極政策は外交、安全保障から環境、資源まで幅広く、関係省庁が分散している現状では統一した国の政策を打ち出すのは難しい。提言では内閣府の総合海洋政策推進事務局を司令塔に関係省庁と総合調整を図るよう求め、併せて20年代前半までに砕氷機能を持つ独自の北極域研究船を建造し、わが国の強みである科学技術を生かした積極的な国際協力を推進するよう提案した。

 日本はアジア地域では最も北極に近く北極海航路が本格化した場合、北海道を中心とした地域活性化が期待できる半面、対馬、津軽、宗谷の3海峡に外国船舶が輻輳(ふくそう)し海難事故や海洋環境が悪化することも予想される。

 それ以上に、北極海の温暖化が現在の速度で進めば海水温度の上昇や酸性化で海の危機は深まり、膨大な氷床融解による海面上昇など、北極域の生態系だけでなく地球環境全体にも極めて大きな影響が出るのは避けられない。

 北極海の中央部分はどの国にも属さない公海に当たり、この海域をどう公正に管理していくか、日本には海洋国家としてそのルール作りの一翼を担う責任もある。

 政府は現在、18年から5年間の第3期海洋基本計画の策定を進めている。日中韓3国のハイレベル対話で科学面の共同研究を進める方針も確認された。

 わが国は海に守られ発展してきた。今こそ世界の先頭に立って海を守るべき立場にある。基本計画では国際社会が納得する存在感のある総合戦略が打ち出されるよう期待する。
(ささかわ ようへい)


「宿命の戦記」―朝日・産経新聞書評― [2018年02月19日(Mon)]
「宿命の戦記」
―朝日・産経新聞書評―


宿命の戦記(笹川陽平、ハンセン病制圧の記録)高山文彦著 小学館 2052円
の書評が朝日新聞と産経新聞に掲載されましたので、概略をご理解いただくため転載しました。

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NEWSポスト セブン
日本近代史家・渡辺京二氏が「奇人であり聖者」と評す人物は


故・笹川良一氏の三男、笹川陽平・日本財団会長のハンセン病制圧の旅に7年にわたって同行取材した作家・高山文彦氏の『宿命の戦記 笹川陽平、ハンセン病制圧の記録』。熊本日日新聞(2018年1月28日付)掲載の、渡辺京二氏(日本近代史家)による書評を全文掲載する。

 * * *
◆ハンセン病制圧への情熱

 著者は2010年から、日本財団理事長笹川陽平に同行して、世界中のハンセン病患者の実情を視て廻るようになった。足跡はインド、アフリカ、中東、ブラジルなど20カ国に及ぶ。

 著者を動かしたのは、笹川陽平という男は一体何なのだろうという驚嘆の思いである。陽平がハンセン病制圧に関わり始めたのは1974年。2014年までにWHOを通じて202億円を供与、特記すべきこととして、1981年に開発された特効薬MDTを無料配布した。

 しかも彼は世界中を飛び廻って、各国政府を説得し、ブラジル一国を除いて、WHO基準の「制圧」を実現せしめたのである。「制圧」とは「国民一万人あたりの患者数が一人を下まわった状態」をいう。

 これは偉大な事業ではあるが、著者が驚いたのは陽平の患者に対する態度であった。親愛の情をみなぎらせ、抱きしめ撫でさする。そして、ハンセン病は神罰でも業病でもなくて治る病気であり、みなさんの人権はすでに国連によって決議されており、堂々と生きる権利を主張してよいのだと語りかける。この愛情はどこから湧き出るのだろう。

 陽平は著者に、父良一がマスコミから、私利をむさぼる右翼の大立者のように誣(し)いられたことへの怒りが、差別される者への共感をはぐくんだと語る。それにしても、ハンセン病制圧への情熱とその行動力は、常人の規準を以ては計り難い。一種の奇人であり聖者というべきだろう。

「制圧」と言っても、悲惨な実態はまだまだ存在する。読者は著者の同行記によって、その現状をつぶさに知ることができる。しかし、少なくとも読後私に残るのは、ライ(あえてそう呼ぶ)という現象は人類史上、一体何であったかという、重いわだかまりである。

 著者は巻末に「ハンセン病と人間」という長文の一章を配して、委曲を尽くした考察を行っており、これを読むだけでも、本書を購(あがな)うに値する。北条民雄の一生を叙した『火花』の著者ならではの、重いしかも醒めた考察である。

◆わたなべ・きょうじ:1930年京都生まれ。大連一中、旧制第五高等学校文科を経て、法政大学社会学部卒業。日本近代史家。熊本市在住。『逝きし世の面影』で和辻哲郎文化賞、『黒船前夜』で大佛次郎賞を受賞。著書に『北一輝』『評伝 宮崎滔天』『もうひとつのこの世《石牟礼道子の宇宙》』『近代の呪い』『万象の訪れ《わが思索》』『幻影の明治』『無名の人生』『気になる人』など多数。最新刊は『バテレンの世紀』
(新潮社刊)

産経新聞【正論】多様な人材活用で働き方改革を [2018年01月31日(Wed)]
多様な人材活用で働き方改革を


産経新聞【正論】
2018年1月22日

 「ダイバーシティー」(多様性)や「インクルージョン」(多様性の受容)という言葉がある。障害の有無に関わらず、誰もが人格と個性を尊重し合って生きる共生社会に向けたメッセージと理解する。

 日本財団でも2015年、「はたらくNIPPON計画」を立ち上げ、障害者の就労促進に向け全国100カ所にモデル事業所づくりを進め、反響の大きさに意を強くしている。

 ≪生活保護からの脱却を視野に≫
 世界保健機関(WHO)によると、何らかの障害を抱える人は世界の人口の10%、約7億人に上る。日本は約850万人。内訳は身体障害者393万人、知的障害者74万人、精神障害者392万人(17年・障害者白書)。高齢化の進行とともに新たな障害を抱える人も確実に増える。

 障害者の就労支援事業としては、一般企業への就職を目指して職業訓練を行う就労移行支援のほか、一般企業への就職が難しい障害者に就労の場を提供する就労継続支援A型と同B型があり、15年現在、65歳未満の障害者28万7000人が働いている。

 うちB型事業には重度の障害者を中心に約20万人が就労する。最低賃金制の適用はなく、「工賃」と呼ばれる支払いは月平均1万5000円。菓子の袋詰めなど軽作業が多いが、月20日近く働き1万5000円というのはどう考えても低い。月7万円前後の障害年金を合わせても自立は難しく、多くが生活保護に頼る現実がある。

 工賃は事業の売り上げから必要経費を除き残額を分配する形で支払われるが、一方で事業者には、A、B型とも収益とは無関係に、障害者1人を受け入れるごとに月12万〜18万円の給付金(支援報酬)が支給される。この点が事業者の収益意識が希薄な一因と指摘されてきた。
 「就業は訓練の場で収益とは無関係」「軽作業が中心で工賃が低いのは当然」といった雰囲気もあり、厚生労働省は賃金や工賃のアップ、障害者の一般企業への移行実績に応じて給付金を上乗せする成果主義を導入する構えだ。

 ≪潜在労働力の活用が先決だ≫
 はたらくNIPPON計画の事業は全国約40カ所で進行しており、早い段階で工賃3倍アップが見込める事業所も出ている。仮に工賃が月5万円を超えれば障害年金を合わせ月収は10万円を超し生活保護からの脱却も視野に入る。

 将来は国家財政に依存する立場から貢献する立場に変わることも期待でき、本人の自信ばかりか新たな労働力の確保、膨張する社会費用の削減にもつながる。

 あえて詳細に紹介したのは、障害者対策が健常者と区別する形で進められた結果、「障害のある人も、ない人も共に生きる社会」とは程遠い現実があることを知ってもらうのと、障害者以外にも多くの人が就労を通じて社会参加するために、本格的な働き方改革を待っている点だ。

 国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、65年の日本の人口は8800万人。65歳以上が全体の38%を占め、15歳以上の労働力人口は4000万人と現在より40%も減り、将来の労働力不足を懸念する声も強い。

 その一方で、難病患者50万人、ひきこもり70万人、若年無業者60万人など、多くの人が就労意欲を持ちながら職に就けていない現実があり、16年現在、45万人の高齢者がハローワークに登録しながら7万人余りしか就業できていないことを示すデータもある。多くの女性が育児などで職場進出を制約されているのは言うまでもない。

 ≪ダイバーシティー就労の整備を≫
 労働力人口確保に向け移民受け入れの是非が議論されているが、こうした点を踏まえれば、国内の潜在労働力の活用と環境の整備こそ先決である。たとえば手話言語法が制定されると、全国で36万人に上る聴覚障害者の職場進出にも弾みがつく。

 途上国の急速な経済発展で、外国人労働者に過度な期待をするのは早晩、難しくなる気もする。

 AI(人工知能)やロボットの普及が労働の一部を代替する時代が来るのは間違いないと思うが、労働の主体が人間であることに代わりはなく、活用できる範囲には限界があるのではないか。

 職場の確保、働き方改革には何よりも企業の参加が不可欠で、4月には企業の障害者法定雇用率が現在の2%から2.2%に引き上げられる。今後、特例子会社や、施設でも企業でもない新しい労働の形「ソーシャルファーム」などを活用した企業の雇用枠拡大も進もう。

 労働力減少社会に対応し、働きづらさに直面してきた障害者らが「当たり前」で「普通」に働ける社会を実現するには、多様な人材を柔軟に受け入れるダイバーシティー就労といった新しい労働環境の整備こそ必要と考える。

 これを可能にする知恵や潜在労働力は国内に十分あり、その活用に向けた地道な努力が1億総活躍社会、ひいては少子高齢化時代の新しい社会の実現につながる。
(ささかわ ようへい)


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