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新元号「令和」に予想以上の好感度―出典 初めて国書から― [2019年04月05日(Fri)]
新元号「令和」に予想以上の好感度
―出典 初めて国書から―


今年に入ってから新元号問題が俄然、大きな話題となり、メディアも国民もフィーバーした。

1月3日付の産経新聞「正論」欄に「中国古典にとらわれず新元号を」を投稿したところ、多くの方々から「意表をつかれた」といったご意見とともに、多数の賛否両論をいただいた。

結果は、ご承知の通り初めて国書からの採用となり、「令和」の新元号が多くの国民の支持を得ました。新しい御代を迎えるに当たり喜ばしい限りです。

ここに今一度、新元号の在り方に問題を提起した1月3日付の正論と、決定直後の4月2日付正論「国書による初元号に大きな意義」を掲載させていただきます。

**************

産経新聞【新春正論】
2019年1月3日

ー中国古典にとらわれず新元号をー


 天皇陛下の退位に伴い「平成」が4月30日で終わり、4月1日には新元号(年号)が公表される。元号制度は紀元前の中国・前漢時代に始まり、日本は現在も公的に使用する唯一の国とされている。

 ≪漢籍に典拠を有する二文字熟語≫
 飛鳥時代の「大化」に始まり、現在の「平成」は247番目。歴史的に中国の漢籍に典拠を有する二文字熟語が使われてきた。しかし日本には優れた造語の歴史があり、特に明治以降は約1千語もの和製漢語が中国に導入され現在も広く使用されている。

 新元号は中国の古典からの引用をやめ、わが国独自の自由な発想で定めてほしく思う。それが新しい時代の元号の在り方であり、国民の親しみにもつながる。

 改元の定め方は時代とともに変わり、明治以降は一人の天皇に元号を一つに限る「一世一元」の制度が取り入れられた。

 現在は昭和54(1979)年6月に制定された元号法で「元号は政令で定める」「皇位の継承があった場合に限り改める」とされ、その手順は元号選定手続要綱に定められている。

 まず首相が複数の有識者に新しい元号にふさわしい候補名を委嘱し、提出された候補名を官房長官が中心となって複数案に絞り首相に報告、衆参両院の正副議長の意見も聴いた上、全閣僚会議の協議を経て閣議で決定される。

 ≪多くの造語が近代化に貢献した≫
 中国古典の引用を近年で見ると、「明治」は「易経」の「聖人南面して天下を聴き、『明』に嚮(むか)ひて『治』む」が由来。「聖人が北極星のように顔を南に向けて政治を聴けば、天下は明るい方向に向かって治まる」の意味で、明治天皇がいくつかの年号候補から選出したといわれている。

 「大正」はやはり「易経」の「『大』いに亨(とほ)りて以(もっ)て『正』しきは、天の道なり」が由来。意味は「天が民の言葉を嘉納し、まつりごと(政治)が正しく行われる」。「昭和」は四書五経の一つ「書経尭典」の「百姓(ひゃくせい)『昭』明にして萬邦(ばんぽう)を協『和』す」が由来。国民や世界各国の平和や共存共栄を願って付けられた。

 そして「平成」は「史記」五帝本紀の「内『平』外『成』」(内平らかに外成る)と「書経」大禹謨(たいうぼ)の「地『平』天『成』」(地平らかに天成る)が由来。国の内外、天地とも平和が達成される、の意味である。「修文」「正化」も候補に残ったが、アルファベット表記がともに昭和と同じ「S」で始まるため外された。

 元号の条件は「国民の理想としてふさわしい意味を持つ」「漢字二文字」「書きやすい」「読みやすい」など6項目で、それ以上の縛りはなく、中国の古典に典拠を求める規定もない。

 加えて日本には江戸中期、幕政を補佐した儒学者の新井白石や江戸後期の蘭学者・宇田川榕菴(ようあん)らで知られる卓越した造語の歴史がある。特に明治維新後、積極的に行われた欧米の出版物の翻訳では、原文に当時の日本にはない言葉が多く、福沢諭吉や西周らが精力的に造語をした。

 「文化、法律、民族、宗教、経済」といった社会用語、「時間、空間、質量、団体、理論」といった科学用語、「主観、意識、理性」といった哲学用語など、現在も日常的に使われている多くの言葉がこの時代につくられ、日本の近代化に大きく貢献した。

 ≪希望を託せるよう求めたい≫
 清時代末期から昭和初期にかけ中国では日本留学がブームとなり、6万人を超す中国の若者が日本を訪れ、和製漢語をそのまま取り入れ日本の書物を中国語に翻訳、祖国に西洋文明を紹介した。中国、朝鮮に広く普及し、現代の中国語はこれらの日本語なしに社会的な文章は成り立たないともいわれている。

 中国共産党が使う「共産党、階級、組織、幹部、思想、資本、労働、企業、経営、利益」なども、すべて明治時代につくられた和製漢語とされている。上海外国語大学の陳生保・元教授は「中国語の中の日本語」の論文で、「経済、社会、哲学などの日本語訳は、とっくに現代中国語の中に住みつき帰化している。それが日本語だということを、ほとんどの中国人はもう知らない」と指摘している。筆者も中国を訪問、大学で講演するたびに、漢字を通じた長年の両国の交流を紹介してきた。

 昨年11月末、中国共産党の聖地、陝西省延安の大学を訪れた際もこの話に触れ、学生たちも静かに耳を傾けてくれた。互いに影響し合いながら独自に発展する姿こそ文化の在り方であり、今回あえて中国古典にとらわれることなく独自の手法で新元号を定めるよう求める所以(ゆえん)もこの点にある。

 皇太子の即位に伴い5月から新しい元号が始まる。国際社会は対立と緊張感を深め、少子高齢化に伴う縮小社会の到来で国内も課題が山積している。新たな手法で、明るい希望を託せる新元号が定められるよう求めてやまない
(ささかわ ようへい)


**************

産経新聞【正論】
2019年4月2日

−国書による初元号に大きな意義−


 5月に改元される新元号が「令和」に決まった。出典は万葉集。645年の「大化」から現在の「平成」まで計247の元号すべてが中国の古典(漢籍)を典拠としてきた元号の歴史に、初めて日本の古書(国書)由来の元号が登場することになった意義は大きく、心から歓迎したい。

 ≪投稿の反響に関心の高さ実感≫
 奈良時代に編纂されたわが国最古の歌集である万葉集には、天皇や皇族、貴族のほか、防人や農民まで幅広い階層の人々が詠んだ歌が納められている。

 安倍晋三首相は談話で、万葉集を「わが国の豊かな国民文化と長い伝統を象徴する国書」とした上で、「明日への希望とともに、それぞれが大きな花を咲かせることができる。そうした日本でありたい」と新元号にかける思いを述べた。「令和」の新時代が、夢多き時代となるよう祈りたい。

 憲政史上初の退位に伴う今回の元号選定は、新しい元号名とともに、典拠を何に求めるか注目された。こうした中で筆者は1月3日付の本欄に「中国古典にとらわれず新元号を」を投稿した。時代とともに価値観も元号の使われ方も変わってきており、新時代にふさわしい元号論議を求めるのが目的だった。

 投稿掲載後、漢籍を典拠としてきた伝統を厳格に守るべきだとする意見から、古事記や日本書紀など国書を典拠とする新しい「和風元号」を求める声まで、多くの意見をいただいた。多数のメディアの取材も受け、正直、反響の大きさに驚くとともに、新元号に対する関心の高さを実感した。

 昭和54年(1979年)成立した元号法は「元号は政令で定める」とするとともに、「元号選定手続について」で候補名を検討・整理する際の留意事項として、「国民の理想としてふさわしい良い意味を持つ」、「漢字2文字」など6項目を明示。候補名には「その意味、典拠等の説明を付す」としている。

 ≪国民の親近感がいっそう増す≫
 わが国には1500年近い漢字の歴史があり、世界に誇る古書も多数ある。世界で唯一、日本に残る文化を守って行くためにも、過去、247の元号に用いられた72の漢字や、過去に採用を見送られてきた元号案の中の元号にふさわしい漢字などを活用すれば、この国の将来にふさわしい元号を制定することは十分、可能との思いもあった。

 現実には政府が3月14日、国文学、漢文学、日本史学、東洋史学に見識を持つ学識者に、それぞれ2〜5案の作成を委嘱。最終的に候補を絞り、学識者による「元号に関する懇談会」、衆参両院の正副議長からの意見聴取、全閣僚会議の協議を経て、閣議で改元の政令が決定された。

 全体に平成改元時の手続きを踏襲するとしながらも、9人の懇談会メンバーに、ノーベル賞受賞者の山中伸弥京大教授を登用するなど、新しい息吹も感じられた。長い間、特に万葉集に典拠を求めたことで元号に対する国民の親近感も増すと思われる。

 ≪新たな漢字文化の気配も≫
 今回は天皇陛下の生前退位決定から時間があったこともあって、国民の間にも、かつてない広範な議論が生まれた。インターネット社会を反映してスマホや新聞、雑誌などに関連記事があふれ、ゲーム感覚で新元号を楽しむ動きも目立った。

 これまでの元号論議は「元号不要論」も含め、硬さが目立った。手前みそながら、筆者の提案を機会に元号論議の幅が広がったと自負するとともに、この点に何よりの意味があったと自負している。

 日本社会の数字表記は戦後、グラムやメートルなどが定着し大きく様変わりした。そうした中、年号に関しては西暦とともに元号が広く使われてきた。時代の空気やイメージを伝えるには、やはり西暦より元号が勝ると思う。

 各種世論調査結果を見ると世代により差はあるものの、多くの人が元号を使っている現実がある。西暦から元号、あるいはその逆に換算する煩わしさはあるが、元号は日本の文化として社会に確実に根付いている。新聞各紙の題字周りや欄外に西暦と元号が併記されているのも、その表れだ。

 今回ほど多くの人が新元号をめぐる議論に参加したことは過去になかった。元号に対する親しみが増し、日本文化の奥深さが再確認されたばかりか、活発な元号予想を通じて、新たな漢字文化が生まれてくる気配さえ感じる。

 あくまで個人が判断する事項だが、筆者としては元号と西暦が共存し併用される姿こそ望ましいと考える。懇談会メンバーの山中教授は「令和」の新元号について「新しいものにチャレンジしていく、日本のこれからの姿にぴったり」との感想を漏らした。

 率直に言って、元号論議がこれほど盛り上がるとは思っていなかった。テレビ中継で「令和」の発表に歓声を上げる人々を見ながら、元号が日本の貴重な文化であるとの思いを改めて強くしている。
(ささかわ ようへい)


産経新聞【正論】医大入試の男女別枠は是か非か [2019年03月13日(Wed)]
一医大入試の男女別枠は是か非か―


産経新聞【正論】
2019年2月21日


 医学部不正入試をめぐり昨年12月、個人ブログに「天下の暴論か?」と題して各大学医学部の定員をあらかじめ「男子〇名、女子〇名」と決め、それぞれ成績順に合格者を決めたらどうか、私見を記したところ、賛成、反対を含め多数の意見をいただいた。

 皮膚科や眼科に偏る女性医師
 合否判定が募集要項に即して厳正に行われるべきは言うまでもなく、女子や浪人生を不利に扱った各大学の対応を肯定するつもりはない。しかし、急速な高齢化で医師不足が深刻化する中、女性医師が皮膚科や眼科などに偏る現実を前にすると、外科や救急などハードな医療を維持していくには、どうしても多くを男性医師に頼らざるを得ない現実がある。

 厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師調査」によると、2016年の日本の医師数は約31万9500人。女性医師は約6万7500人で全体の21.1%に上る。全国の病院で働く医師の性別を診療科別に見ると、女性医師のトップは皮膚科が54.3%。産婦人科、眼科、産科などが40%台前半で続き、外科は乳腺外科など一部を除き1桁台。男性医師に比べ診療科の広がりが欠ける傾向にある。

 医師不足が進む地域医療が、医師の献身的な努力でようやく成り立っている現実が指摘されて久しい。昨年6月に成立した働き方改革関連法では医師の残業規制が適用除外となり、厚労省はその後、地域医療に携わる勤務医の残業上限時間を年1900〜2千時間とする案を示している。一般労働者の2倍を超す数字で、もともと地域医療への女性医師の進出は少なく、当面、地域医療の多くは男性医師頼みの状況にある。

 こうした現実を受け、「試験結果だけで判定すると女性医師ばかりが増え、地域医療や救急医療が崩壊しかねない」と危惧する医療関係者の声も耳にした。男性より女性が成績上位を占める傾向は医学部に限らず一般企業の入社試験でも顕著、小論文や面接で加点して男性社員の採用を増やすケースが多いと聞く。「医学部入試でも同様の対応がなされ、医学部関係者にとって不正入試は、ある意味で常識だった」との声もある。

 「地域枠」は地元出身を優遇
 それならば、当面は男性医師に多くを頼らざるを得ない医療現場の実態を広く説明した上で、最初から男性の定員枠を女性より多めに設定する方法もあるのではないか。筆者の提案は深刻な医師不足を前にした応急策≠フ色合いが強いが、医療の現状を前にすれば国民の理解を得られる余地も大きいと考える。

 地域の医師不足解消に向け1997年に札幌医科大、兵庫医科大で始まった「地域枠」も、地域医療に従事する意思のある地元出身者を優遇する点で、形の上では「機会均等」「公平性」を欠く。一般入試に比べ入試偏差値もやや低い傾向にあるようで、国家試験合格後、9年間、地元の医療機関で働けば奨学金の返済を免除するなどの優遇措置も採られている。

 2017年度には71大学、全医学部定員の18%、1674人分までに広がり、札幌医科大のように定員110人のうち90人を地域枠が占める大学もある。政府の後押しもあるが、特段の批判が出ないのは、それだけ地元住民が地域医療の確保を強く求めている、と言って過言ではない。

 日本の女性医師の比率は経済協力開発機構(OECD)加盟36カ国の中でも最低水準にあるが、2000年以降16年までに比率は6.7ポイント、人数も3万人以上増えた。医師国家試験の合格率も、18年は男性の89.1%に対し女性は92.2%と女性が男性を2〜3%上回る傾向が続いている。女性医師は今後も確実に増える。

 問題とすべきは将来の医療確保
 要は20年、30年後に医療を少しでも健全な形で引き継ぐには何が必要か、換言すれば、人口が減少する縮小社会の中で高齢者を中心に急増する医療需要にどう応えていくか、という問題である。院内保育や短時間勤務制度など女性医師が子育てを両立できる職場環境や男性が育児や介護、家事に参加する社会環境の整備が進めば、多くの女性医師が30歳代で離職する事態も緩和される。

 外科や内科などへの女性医師の進出も間違いなく増え、多くの診療科で男性医師と女性医師のバランスが取れるようになれば、男女平等の本来の入学試験に戻れば済む。

 繰り返して言えば、入試要項で男女平等を謳(うた)いながら、現実の入試で差別をした各大学の姿勢が厳しい批判にさらされ私学助成金のカットを招いたのはやむを得ない。メディアの報道も不正入試を追及するあまり、医療の課題や将来に向けた問題提起が二の次になった感が否めない。

 少子高齢化の中で国民の医療をどう育んでいくか、世界共通の課題である。最先端を行く日本が医師の育成を含め、今後の医療にどう取り組んでいくか、世界が注目している。報道関係者には新しい時代の国民医療の在り方について実のある提案を望みたい。
(ささかわ ようへい)


産経新聞【正論】年頭にあたり 中国古典にとらわれず新元号を [2019年01月09日(Wed)]
一年頭にあたり 中国古典にとらわれず新元号を―

産経新聞【正論】
2019年1月3日

 天皇陛下の退位に伴い「平成」が4月30日で終わり、4月1日には新元号(年号)が公表される。元号制度は紀元前の中国・前漢時代に始まり、日本は現在も公的に使用する唯一の国とされている。

 ≪漢籍に典拠を有する二文字熟語≫
 飛鳥時代の「大化」に始まり、現在の「平成」は247番目。歴史的に中国の漢籍に典拠を有する二文字熟語が使われてきた。しかし日本には優れた造語の歴史があり、特に明治以降は約1千語もの和製漢語が中国に導入され現在も広く使用されている。

 新元号は中国の古典からの引用をやめ、わが国独自の自由な発想で定めてほしく思う。それが新しい時代の元号の在り方であり、国民の親しみにもつながる。

 改元の定め方は時代とともに変わり、明治以降は一人の天皇に元号を一つに限る「一世一元」の制度が取り入れられた。

 現在は昭和54(1979)年6月に制定された元号法で「元号は政令で定める」「皇位の継承があった場合に限り改める」とされ、その手順は元号選定手続要綱に定められている。

 まず首相が複数の有識者に新しい元号にふさわしい候補名を委嘱し、提出された候補名を官房長官が中心となって複数案に絞り首相に報告、衆参両院の正副議長の意見も聴いた上、全閣僚会議の協議を経て閣議で決定される。

 ≪多くの造語が近代化に貢献した≫
 中国古典の引用を近年で見ると、「明治」は「易経」の「聖人南面して天下を聴き、『明』に嚮(むか)ひて『治』む」が由来。「聖人が北極星のように顔を南に向けて政治を聴けば、天下は明るい方向に向かって治まる」の意味で、明治天皇がいくつかの年号候補から選出したといわれている。

 「大正」はやはり「易経」の「『大』いに亨(とほ)りて以(もっ)て『正』しきは、天の道なり」が由来。意味は「天が民の言葉を嘉納し、まつりごと(政治)が正しく行われる」。「昭和」は四書五経の一つ「書経尭典」の「百姓(ひゃくせい)『昭』明にして萬邦(ばんぽう)を協『和』す」が由来。国民や世界各国の平和や共存共栄を願って付けられた。

 そして「平成」は「史記」五帝本紀の「内『平』外『成』」(内平らかに外成る)と「書経」大禹謨(たいうぼ)の「地『平』天『成』」(地平らかに天成る)が由来。国の内外、天地とも平和が達成される、の意味である。「修文」「正化」も候補に残ったが、アルファベット表記がともに昭和と同じ「S」で始まるため外された。

 元号の条件は「国民の理想としてふさわしい意味を持つ」「漢字二文字」「書きやすい」「読みやすい」など6項目で、それ以上の縛りはなく、中国の古典に典拠を求める規定もない。

 加えて日本には江戸中期、幕政を補佐した儒学者の新井白石や江戸後期の蘭学者・宇田川榕菴(ようあん)らで知られる卓越した造語の歴史がある。特に明治維新後、積極的に行われた欧米の出版物の翻訳では、原文に当時の日本にはない言葉が多く、福沢諭吉や西周らが精力的に造語をした。

 「文化、法律、民族、宗教、経済」といった社会用語、「時間、空間、質量、団体、理論」といった科学用語、「主観、意識、理性」といった哲学用語など、現在も日常的に使われている多くの言葉がこの時代につくられ、日本の近代化に大きく貢献した。

 ≪希望を託せるよう求めたい≫
 清時代末期から昭和初期にかけ中国では日本留学がブームとなり、6万人を超す中国の若者が日本を訪れ、和製漢語をそのまま取り入れ日本の書物を中国語に翻訳、祖国に西洋文明を紹介した。中国、朝鮮に広く普及し、現代の中国語はこれらの日本語なしに社会的な文章は成り立たないともいわれている。

 中国共産党が使う「共産党、階級、組織、幹部、思想、資本、労働、企業、経営、利益」なども、すべて明治時代につくられた和製漢語とされている。上海外国語大学の陳生保・元教授は「中国語の中の日本語」の論文で、「経済、社会、哲学などの日本語訳は、とっくに現代中国語の中に住みつき帰化している。それが日本語だということを、ほとんどの中国人はもう知らない」と指摘している。筆者も中国を訪問、大学で講演するたびに、漢字を通じた長年の両国の交流を紹介してきた。

 昨年11月末、中国共産党の聖地、陝西省延安の大学を訪れた際もこの話に触れ、学生たちも静かに耳を傾けてくれた。互いに影響し合いながら独自に発展する姿こそ文化の在り方であり、今回あえて中国古典にとらわれることなく独自の手法で新元号を定めるよう求める所以(ゆえん)もこの点にある。

 皇太子の即位に伴い5月から新しい元号が始まる。国際社会は対立と緊張感を深め、少子高齢化に伴う縮小社会の到来で国内も課題が山積している。新たな手法で、明るい希望を託せる新元号が定められるよう求めてやまない
(ささかわ ようへい)


産経新聞【正論】一億総活躍時代の具体的姿示せ [2018年12月25日(Tue)]
一一億総活躍時代の具体的姿示せ―

産経新聞【正論】
2018年12月12日

 少子高齢化で深刻化する労働力不足を前に、外国人労働者の受け入れの是非が論議を呼んでいる。9月5日付の本欄で筆者は、わが国には「働きづらさ」を抱え就労できていない障害者やひきこもりなど1600万人近い潜在労働力があり、一億総活躍社会を実現する上でも、これら多様な人々が働く社会の実現が急務と指摘した。

 ≪労働力不足は600万人に≫
 労働力の不足は、政府が今後5年間に最大34万人の外国人労働者の受け入れを計画する介護、建設業など14業種に限っても130万〜135万人に上り、多くの調査が2025年には全体の労働力不足が600万人に達すると予測している。

 働きづらさを抱える人は、ほかにも薬物経験者やがん患者、貧困母子世帯など幅広い。背景には「社会的支援が必要な人」と決め付け、社会参加の道を閉ざしてきた歴史がある。健常者中心の考えに風穴を開けるため学者や前、元厚生労働省事務次官ら幅広い識者に参加してもらい11月、「日本財団 WORK!DIVERSITY」プロジェクトを立ち上げた。

 全国各地の支援組織のネットワーク化や東京都渋谷区はじめ札幌市、大阪市など全国20地域でのモデル事業の実施、全国8千カ所に整備された障害者就労支援事業所の活用などを通じ5年がかりで、働きづらさを抱える人が就労できるモデルづくりを進める計画。全体委員会会長を務める清家篤・慶応義塾大前塾長は「人手不足と高齢化は、働きづらさを抱え就労が難しかった人々が職場に進出する絶好の機会」と語っている。

 プロジェクトでは1600万人から障害と難病の重複者や物理的に就労が難しい重度の障害者らを除き500万〜600万人が週20時間程度、働くことができるモデルの確立を目指し、5年後には一つでも多くのモデル事業を実際に展開し、政府にも必要な取り組みを提言したいと思う。

 もちろん容易な話ではない。しかし、重度の障害者を対象にした各地の就労継続支援B型事業で「工賃3倍アップ」を目指した結果、多くの事業所で月1万5千円前後にすぎなかった工賃の3倍増が実現。障害者が生活保護から脱却するケースも出ており、不可能な目標とは思わない。

 ≪大きな助けとなる分身ロボット≫
 関連して11月末、東京・赤坂の日本財団ビルに分身ロボットを活用した模擬カフェを開設した。「オリヒメ」と名付けられたロボットは株式会社オリィ研究所(東京都港区)との共同開発。高さ120センチ、カメラやマイク、スピーカーを装備し、前進、後退、旋回のほか腕や首も動く。インターネット端末で遠隔操作され、障害のある人にとって文字通りもうひとりの自分≠ニなる。

 カフェでは岐阜県や北海道など遠隔地に住むALS(筋萎縮性側索硬化症)や脊髄損傷などで寝たきりの人たちが、自宅から音声や目線などを使ってロボットを遠隔操作して接客、飲み物をテーブルに運んだ。最初に開発された高さ22センチの小型オリヒメは既に東京都内や島根県で遠隔教育に使われ、難病や不登校の子供がオリヒメを通じて授業に参加している。

 今後、改良が進めば用途は確実に広がり、ロボットをさまざまな場所に移動させることで、身体的障害だけでなく子育てや介護、入院などで行きたいところへ行けない人も、自宅に居ながら必要な作業や会議に参加できる。加齢とともに体力が急速に衰える高齢者にとっても分身ロボットは大きな助けとなる。

 ≪日本の試みに注目が集まる≫
 総務省統計局などの試算では、働く意欲がありながら就労できない65〜74歳は約320万人に上る。分身ロボットが普及すれば、豊富な知識や経験を生かして社会に貢献することも可能になる。プロジェクトにはAVATAR(分身)研究に取り組むANAホールディングス(本部・東京)も参加しており、東京五輪・パラリンピックが開かれる20年には常設カフェの開店も計画している。

 そんな期待もあって、模擬カフェを開店した10日間、用意した約100席が連日満席となり、政治家や厚労省など省庁関係者の姿も多く見られた。初日には障害児を持つ野田聖子衆議院議員も来賓として出席、「障害児を持つ親にとって親亡き後が一番の心配。オリヒメを通じて自立できる姿こそ望ましい」と分身ロボットの今後に期待を寄せた。

 高齢化社会の労働力不足解消には外国人労働者の受け入れ、女性の就労率アップ、定年延長、ロボットの活用など幅広い取り組みが必要となる。分身ロボットの活用ひとつをとっても、働きづらさを抱えてきた人たちの就労は十分、実現可能と考える。

 実現した時、健常者中心の社会はDiversity(多様性)を持った社会に変わり、世界も高齢化の先端を行くわが国の試みに注目している。その成否は一億総活躍社会の将来、18年度33兆円にまで膨張した社会保障費、さらに働き方改革の行方も左右する。
(ささかわ ようへい)



産経新聞【正論】内部留保を「CSR」に活用せよ [2018年11月05日(Mon)]
一内部留保を「CSR」に活用せよ―

産経新聞【正論】
2018年10月23日

 財務省が先に公表した法人企業統計によると、2017年度の日本企業の内部留保は446兆円と6年連続で過去最高を更新し、企業が利益を抱え込む構造が依然続いている。

 欧米各国に比べ労働分配率(賃上げ)や株主への配当率、国内投資も低く、個人消費が低調で「経済の好循環」が実現しない一因ともみられ、企業に賃上げや設備投資を促す方策として「内部留保課税」を検討する動きも出ている。

 ≪日本経済の活性化を奪う≫
 しかし、内部留保は課税後に積み立てた利益剰余金であり、「二重課税に当たる」とする反対論も根強い。そんな中、ハンセン病制圧活動で毎年、訪れるインドでは、企業にCSR(企業の社会的責任)活動を義務付ける世界でも珍しい法律が施行されている。内部留保を有効活用する妙案として、わが国でも検討に値すると考える。

 内部留保は途上国経済の減速を懸念して欧米各国でも増加傾向にある。しかし、わが国の場合は企業投資も国内より海外に偏る傾向にあり、賃金も上昇しているものの企業が生み出した付加価値に占める割合を示す労働分配率でみると、17年度は66.2%と43年前の水準に逆戻りしている。

 企業の国際競争力維持に向けた法人税率の引き下げも加わり内部留保が一層膨張し、現預金に限っても国内総生産(GDP)の約40%にも相当する222兆円に上る。先進7カ国(G7)でも例を見ない数字で、企業が過剰な現預金を抱える現状が日本経済の活性化を奪っているとの指摘も多い。

 経済界からは「内部留保は経営に自由度を与える源泉」(16年、日本商工会議所・三村明夫会頭)といった反論も出ているが、「そんなにためて何に使うのか」「企業収益が上がるのは良いことだが、設備投資や賃金が上がらないと消費につながらない」(麻生太郎副総理兼財務相)といったいらだちも聞こえる。

 ≪インドは利益の2%義務付け≫
 これに対しインドでは、13年に改正された新会社法で、「純資産が50億ルピー以上」「総売上高が100億ルピー以上」「純利益が5000万ルピー以上」の3要件のうち1つ以上を満たす会社に上場、非上場を問わず過去3年の平均純利益の2%以上をCSR活動に費やすよう義務付けている。

 「飢餓および貧困の根絶」「子供の死亡率減少」などCSR活動の具体的内容も定められ、現地日系企業も含め16年時点で約1500社が計約830億ルピーを医療や衛生など幅広い分野に費やしている。為替レートで換算すると、5000万ルピーは7700万円、830億ルピーは1278億円となるが、インド経済の躍進で対象企業は急速に広がる気配だ。

 わが国が経済の好循環を達成するためにも膨大な内部留保はまず賃上げや配当、投資に充てられるべきであろう。その上でインドと同じ2%をCSR活動に回すことができれば、現預金に絞っても5兆円近い額になり、山積する社会課題の解決に大きく貢献できる。国の借金が1000兆円を超すわが国は今後の公的財政投資に限界があり、なおさら効果は大きい。

 ≪求められる「社格、社徳」≫
 インドの企業がCSR活動に前向きな背景には「自分の資産などを貧しい人々やお寺などに寄付すれば幸福になれる」とするヒンズー教の教えがあり、タタ財閥などでは新会社法の制定以前から慈善活動や社会貢献活動に熱心に取り組んできた伝統があるという。

 米国にも「Give Five」の掛け声の下、企業が税引き前利益の5%を公益的な寄付に拠出する取り組みがあり、筆者は1989年、新聞投稿で米国の取り組みを紹介、企業に積極的な公益的寄付を呼び掛けたことがある。

 これに対し経団連は翌年、「1%(ワンパーセント)クラブ」を設立。現在、法人226社、個人850人が会員となり、それぞれ経常利益や可処分所得の1%以上を社会貢献活動に拠出している。

企業は積極的に寄附を.jpg
1989年の新聞投稿記事


 現時点では十分、期待に応えているとは言い難いが、わが国には江戸初期から続く近江商人の「三方良し」(売り手良し、買い手良し、世間良し)に代表される社会貢献に熱心な企業風土がある。CSR元年と呼ばれた2003年から15年と欧米に比べ歴史は浅いが株主利益最優先の欧米系企業と違い、従業員や顧客、地域社会まで幅広いステークホルダー(利害関係者)を大切にする伝統もある。

 国の財政が逼迫(ひっぱく)する中、企業には税金を納めるだけでなく深刻化する少子高齢化や地方創生、障害者雇用、里親制度の拡充など社会課題解決への積極的な取り組みが求められている。人に人格、人徳があるように企業にも一層の「社格」や「社徳」が求められる時代となった。

 内部留保をどう使うか、最終的な判断は企業の決断に委ねられるが、CSR活動への積極的な取り組みは間違いなく企業に対する国民のイメージを好転させ、企業・経済界の発展、ひいては景気の上昇にもつながる。

(ささかわ ようへい)

産経新聞【正論】一億総活躍の取り組みこそ先 [2018年09月26日(Wed)]
一億総活躍の取り組みこそ先―

産経新聞【正論】
2018年9月5日

 政府は6月に閣議決定した「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針)で、これまで原則禁止としてきた「単純労働」分野での外国人就労を受け入れる方針を打ち出した。

 建設や介護分野などの人手不足は深刻で、新方針を否定するつもりはない。しかし、外国人労働者の受け入れだけで急速な少子高齢化・人口減少に対応するのは不可能。政府が掲げる「一億総活躍社会」こそ、この国が目指す新しい社会の姿であり、実現に向けた取り組みが急務である。

 ≪多くを期待できない外国人就労≫
 安倍晋三首相はその姿を「若者も高齢者も、女性も男性も、障害や難病のある方々も、一度失敗を経験した人も、みんなが包摂され活躍できる社会」と説明している。外国人労働者の受け入れも、その一環として位置付けられるべきで、拙速な対応は「その場しのぎ」「付け焼き刃」になりかねない。

 日本財団では2015年、「はたらくNIPPON!計画」を立ち上げ、誰もが参加し活躍できる多様性のある社会のモデルづくりを目指してきた。関連して学識者らが行った試算では、障害や難病、ひきこもりなどが原因で「働きづらさ」を抱え、就業を希望しながら職を得ていない人は、15〜64歳の生産年齢人口に絞っても1600万人を超す。

 労働力は国の要であり、国の安定的発展を図る上でも、こうした潜在労働力の有効活用は何にもまして必要である。骨太方針では、最長5年の技能実習訓練を終えた外国人がさらに5年間、日本で働ける新たな在留資格を来春までに設け、25年までに人手不足が特に深刻な建設など5分野で50万人超の外国人労働者を受け入れるとしている。

 日本で働く外国人は昨年10月時点で約128万人。10年間で2.6倍に増え、産業界の需要も高い。しかし、労働力不足は不法移民問題で揺れる欧州連合(EU)も含め先進国共通の課題で、言語や生活習慣の違いなど他の先進国に比べ日本のハードルは高い。技能訓練生の多くを期待する東南アジア各国も高度成長に伴う国内の労働需要の高まりで早晩、外国への労働力供給は難しくなる。

 わが国の生産年齢人口は今年1月時点で7484万人と初めて全人口の60%を切り、国立社会保障・人口問題研究所によると、高齢人口がピークとなる40年には5787万人とさらに20%以上減る。5分野以外の食品加工や水産、物流分野などでも人手不足が進み、「2025年には583万人が不足する」(パーソル総合研究所)といった分析もある。

 ≪1600万人を超す潜在労働力≫
 一億総活躍社会の実現こそ抜本的な解決策につながる。前述した1600万人には障害者や難病患者のほか、職を持たない若者や2年以上の失業者など幅広い層が含まれる。今や国民の4人に1人を占め、近年、健康寿命が延びている高齢人口を例にとると、70%が定年後の就労を希望しているのに対し現実に職を得ているのは6人に1人に留(とど)まり大きな余力がある。

 現在、150万人が働く看護の世界も、職を離れている潜在看護師が約60万人存在する。今後、人工知能(AI)ロボットや遠隔操作で動く分身ロボットが発達すれば、寝たきりの患者や育児や介護で自宅を離れられない主婦らが就労する道は広まる。

 NIPPON計画では「身体」「知的」「精神」を合わせ約860万人に上る障害者の就労支援に取り組んできた。障害者総合支援法に基づき全国で約26万人が働く就労継続支援事業は、労働契約を結んで働くA型事業所が約3600カ所、障害の程度が重いB型が約1万700カ所整備され、現時点では、働く意欲を持つ人々の就労を促進する上で最も充実した受け皿となっている。

 A型の月平均賃金が7万3000円、最低賃金制の適用を受けないB型の工賃が同1万5000円と、その低さが問題となっていたが、高単価の事業の発掘を中心にモデル事業所づくりを進めた結果、賃金や工賃が増え、生活保護から脱却、自立する障害者も出始めている。

 ≪人口減少社会の世界モデルに≫
 計画では、障害者支援事業を参考に、より多くの人が働ける就労モデルの確立に向け、今秋にも学識者や経済界、厚生労働省の協力を得て、その在り方を研究するプラットホームを立ち上げる予定だ。試算では、少なくとも対象者の30%、500万人近い新たな労働力が期待できるという。

 最終的には、より広範な人々の就労−社会参加を実現する「ダイバーシティ就労促進法」(仮称)の制定が目標となる。こうした活動が「働き方改革」につながり、多くの人が生活保護から脱却すれば社会負担の抑制も期待でき、タックスイーターから一転してタックスペイヤーになる人も出よう。

 多くの国が日本と同様、高齢化と人口減少を迎える。一億総活躍社会が実現すれば、間違いなく新たな世界モデルとなる。
(ささかわ ようへい)


産経新聞【正論】二階幹事長殿 海の日の固定を [2018年07月25日(Wed)]
二階幹事長殿 海の日の固定を 

産経新聞【正論】
2018年7月19日

 ≪祝日には託された意味がある≫
 7月16日に今年の「海の日」を迎えた。秋にかけ全国で約1500に上る関連企画や催しが開催され、青少年を中心に延べ200万人以上が参加する。全国47都道府県の地方テレビ局にも取り上げられる予定で、文字通り全国的な一大イベントとなる。

 海の日は平成8(1996)年、国民の祝日として7月20日に固定された。明治天皇が地方巡幸を終え横浜港に帰着された日に由来し、祝日化を求め2276自治体(当時)が意見書を採択し、1038万人の署名も集まった。

 しかし土曜、日曜日に月曜日を加え3連休とするハッピーマンデー制度の導入に伴い15年から「7月の第3月曜日」となった。現在、海の日のほか、成人の日、敬老の日、体育の日がこの制度の対象となっているが、毎年、日にちが変わるこの制度には、どうしても違和感がある。国民の祝日は、その日を固定してこそ、託された意味が国民に共有されるからだ。

 ハッピーマンデー制度の創設には、全国旅行業協会(ANTA)の会長でもある自民党の二階俊博幹事長が尽力された。“失われた20年”で経済が低迷するなか、3連休が観光振興、ひいては地方創生に成果を挙げたのは否定しないし、その功績に敬意も表する。

 しかし6月の記者会見で早々に、海の日固定に反対する考えを表明されたのは感心しない。政権政党の幹事長の立場にあるとはいえ、海の日の扱いは総合海洋政策本部のテーマであり、その本部長は安倍晋三首相だからだ。

 しかも海の日をめぐっては、2つの議論が並行して進んでいる。ひとつは日本旅行業協会(JATA)、日本ホテル協会など観光業界の動きだ。関係7団体でつくる「働き方改革など休暇制度を考える会議」は4月、ハッピーマンデー制度の維持を決議し、3連休に伴う経済効果を前面に打ち出している。

 もうひとつは200人を超す超党派の国会議員でつくる「海事振興連盟」(衛藤征士郎会長)の活動だ。ハッピーマンデー制度では海の日の趣旨が損なわれるとして再固定化に向け、秋以降、祝日法改正案の国会提出を目指している。6月、自民党内閣第一部会で行われたヒアリングでは海の日固定を求める議員が圧倒的多数を占めた。

 ≪環境や防災面からも急を要する≫
 筆者が海の日固定にこだわる一番の理由は、海の劣化が一刻の猶予もならない深刻な段階に来ている点にある。先月、本欄に投稿した「海洋の危機に国際的統合機関を」でも触れたように、海は現在、人口が76億人に達した人類の社会・経済活動に伴い漁業資源の枯渇、海の温暖化・酸性化やプラスチックごみの流入が進み、このまま放置すれば早晩、人類の生存にも影響する状態にある。

 さらに防災面からも海の日の固定は急を要する。今回の西日本豪雨災害を見るまでもなく異常気象に伴う災害の巨大化が目立ち、南海トラフ地震など大型地震の発生も懸念されている。防災強化には、異常気象や大地震、さらに大地震の際に予想される大津波など海底を中心にした構造解析が必要となる。

 次いで資源面だ。わが国は総面積で世界6位となる領海、排他的経済水域(EEZ)を持ち、そこにはメタンハイドレートやマンガン団塊、レアアースなど豊富な資源の存在が確認されている。資源小国である日本の将来はこうした資源の活用にかかり、海底調査や技術開発など海の研究が欠かせない。

 観光業界は海の日の3連休に伴う経済効果を約400億円と見込んでいるが、日本近海に眠る資源は数兆円に上ると推計され、資源開発に向け新しい産業の創出も期待できる。

 ≪海洋国家として存在感を示せ≫
 海に関しては国連が6月8日を「世界海洋デー」(World Oceans Day)と定め、国際海事機関(IMO)も9月最終週の1日を「世界海事日」(World Maritime Day)とし、米国や中国にも海の日がある。

 こうした中、唯一、祝日とする日本の海の日には、海の恵みを受け、海に守られてきた海洋国家として、国際社会の先頭に立って海の危機に取り組む決意が込められている。

 “待ったなし”の海の危機に対し、国際社会はなお陸中心の発想が強く、国連中心に海を守る動きがようやく始まったとはいえ、全体の危機感はなお希薄である。誰かが世界の先頭に立って行動を起こす必要があり、その可能性を持つのが日本である。行動することが国際社会での日本のプレゼンスにもつながる。

 こうした点を総合的に踏まえれば、国民、何よりも次代を担う青少年に海の大切さを伝えるためにも、海の日の再固定化が急務である。海にどう向き合うか、それこそが国家の大計である。二階幹事長には大所高所からこの問題に対処し、今以上の名幹事長になっていただきたく思う。
(ささかわ ようへい)




「支援金と義援金・救援金との違い」―寄付先の選定について― [2018年07月18日(Wed)]
「支援金と義援金・救援金との違い」
―寄付先の選定について―


私は、東日本大震災の時に支援金と義援金・救援金の相違点を指摘し、日本財団への支援金のご寄付をお願いした。

近頃は支援金、義援金、救援金の他に、単に募金募集とか、志ある寄付者には判断がつきにくい言葉もある。要は、支援金はいち早く現場で活動するNPO、ボランティアの必要資金のことである。

それ以外の寄付金は、集まった募金を検討委員会にかけ、それぞれの自治体に一括寄付したり奨学金を設置したり、東日本大震災の例のごとく、決定して配布されるまで6ヵ月以上、一年近く時間がかかるものまである。

日本財団は支援金募集である。どうぞ、ご寄付の意思のある方は、透明性と説明責任を大切にしている日本財団の下記をご利用願います。

なお「支援金と義援金の相違」ついては、こちらをクリックしてください。

*平成30年7月豪雨
銀行振り込み先:三菱UFJ銀行
支店名 :きよなみ支店
預金種別:普通
口座番号:2443179
口座名(漢字):公益財団法人日本財団
口座名(カナ):ザイ)ニッポンザイダン

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改めて支援金の重要性を訴える


産経新聞【正論】
2016年4月21日

 災害寄付には「義援金」と「支援金」という、ふたつの形がある。連日の激しい揺れで日を追うごとに被害が拡大する熊本地震を前に、どちらにするか迷っている方が多いかもしれない。義援金は大災害での被災者にお悔やみや応援の気持ちを込めて贈られる見舞金を指し、支援金は被災地で活動する民間非営利団体(NPO)や災害ボランティアを支えるために寄付される浄財をいう。 

 ≪ニーズに応じ柔軟、迅速に≫
 どちらも重要である点に変わりはないが、義援金は公平・平等を検討した上、被害の特定を待って配分額を決定するため、過去の例では被災者の手元に届くのに10カ月以上かかる。大災害の発生当初や熊本地震のように現在進行形の災害では、現地のニーズに柔軟、迅速に対応できる支援金がまずは必要ということになろう。

 しかるに日本では、義援金が圧倒的に多く、支援金は全体の1割程度にとどまる。熊本地震の被災地復興活動が本格的に始まるのを前に、改めて支援金の重要性を訴えたい。

 大災害では、被災者の救出や水道、道路など基幹インフラの復旧を国や自衛隊、自治体など「公」が担い、食料や飲料、生理用品など被災者が必要とする物資の募集や仕分け、全半壊した家屋の片付けなどを「民」が担う役割分担が定着しつつある。

 寄付文化が未成熟といわれた日本でも1995年の阪神淡路大震災以後、民間から寄せられる浄財は増加傾向にあり、東日本大震災の寄付額は海外も含め6000億円を超えた。しかし大半は義援金で、支援金は700億円前後にとどまったとされる。

 民が果たす役割の大きさに比べ、バランスを欠くともいえるが、ひとたび大災害が発生すれば、支援金の拡大こそ不可欠で、それが被災地の復興をいち早く軌道に乗せることにもなる。

 熊本地震では14日の前震発生以降も連日、最大震度5強の揺れが続き、10万人近くが現在も自宅に戻れないでいる。食料や水はようやく届き始めたものの高齢者や障害者に対する専門的ケアや、大きな余震を恐れて狭い車中泊を続け、体調を崩すエコノミー症候群に対するケアも手付かずに近い状態にある。

 強い揺れで災害ボランティアセンターの開設が遅れていることもあって、各地から駆け付けたNPOは一部を除き県外で待機状態となっているが、余震が終息すれば活動も本格化する。被災地の必要物資を再点検して全国から募り、各被災地に的確に届けられる態勢や、NPO団体が効率的に活動できる拠点施設の整備も急務となる。

 ≪民の活動へ多くの善意を≫
 強い揺れが何度も重なった被災地では、熊本県だけで倒壊家屋が3000棟を超えたと報じられているが、家屋の片付けや泥土の排出・清掃などは自衛隊や警察、消防の活動対象外。NPOや災害ボランティアに頼るしかない。そうした民の活動を支えるのが支援金であり、熊本地震で民の活動が本格化する今こそ、多くの人の善意を支援金に寄せてほしいと思う。

 日本財団は東日本大震災でNPOなど計695団体に7億円を支援し、被災地の復興に一役買った。熊本地震でも1団体当たり100万円を上限に活動資金を支援する方針だ。

 寄せられた支援金はすべてNPOや災害ボランティアの活動資金に充て、不足した場合は、将来の災害に備えて2013年に独自に立ち上げた災害復興特別基金を充てる考えでいる。

 支援金は「赤い羽根」で知られる中央共同募金会などにも受付窓口が設けられているが、歴史的に言えば義援金に比べ明らかに後発で、いまひとつ国民に浸透していない現実もある。NPO活動を活発化させる一方、支援金の使途に対する説明責任を徹底し、活動実績のない名ばかりのNPOが多数存在する現状を早急に見直し、NPOに対する信頼を高める工夫や、寄付金を希望する団体が、義援金、支援金のどちらを求めるのか、あらかじめ明示するような方法も検討する必要があろう。

 ≪国民へいっそうの浸透を図れ≫
 わが国は災害復興も官と民が共同して進める時代を迎えている。支援金は寄付を通じて国民が復興に参加する形とも言え、民の活動を活発化させる上でも、その存在はもっと重視されていい。近年は専門知識を身に付けたNPOも多く、国や自治体との連携を進めることで、新しい社会を切り開く力も増す。

 ただし、民の活動を活性化するには、資材や備品からメンバーの生活を支える手当まで豊富な資金が欠かせない。義援金に偏った現状は、被災者個人に対する支援と被災地全体の復興を両立させる上でも、やはりバランスを欠く。

 少なくとも義援金と支援金が同等の重みを持って社会に迎えられることが必要と考える。そうした認識が広く国民に共有されたとき、わが国の災害対策にも新たな可能性が出てくる。
(ささかわ ようへい)

「ちょっといい話」その99―両陛下のハンセン病療養所訪問― [2018年07月11日(Wed)]
「ちょっといい話」その99
―両陛下のハンセン病療養所訪問―


2018年6月22日付毎日新聞に、以下のような記事が掲載された。

「一つ、心残りです」。天皇陛下は日本財団会長、笹川陽平さん(79)にそう語られた。2015年1月13日、皇居・御所の一室でのこと。笹川さんが、ハンセン病への差別撤廃を訴える「グローバル・アピール」の東京開催を前に、ハンセン病を巡る各国の事情を説明していた時だった。「一つ」とは、国内に14ある国立と私立のハンセン病療養所のうち、唯一、大島青松園(高松市)への訪問が実現していないことを指す。
 陛下は皇太子時代の1968年4月、鹿児島県の奄美大島にある療養所「奄美和光園」を訪ねた。以降、地方の行事出席の機会を利用するなどして13カ所の療養所に出向いた。療養所ではいつも患者たちの手を取り、語りかけた。皇后さまも常に一緒だった。
 社会の強い差別意識を背景に、療養所の多くは集落を離れた場所に建てられた。大島青松園は瀬戸内海の大島にある。04年、全国豊かな海づくり大会が香川県で開かれた機会に、陛下は同園の訪問を望んだという。だが移動に使われた大型船は小さな島の港に入港できないなどの事情があり、かなわなかった。入所者たちが島から高松市街に出向き、陛下と面会した。
 全ての療養所の入所者との面会は実現した。しかし訪問していない施設がある。それを「心残り」と話した陛下は、笹川さんとの面会の中で治療薬や療養所の現状も話題にした。笹川さんは理解と関心の深さに驚いたという。「グローバル・アピールに参加した各国の元患者たちに面会していただけませんか」。笹川さんの願い出にも陛下は応じた。
 2週間後の1月28日、元患者たちが御所に招かれた。その中に、04年に高松市街で陛下と面会した大島青松園の入所者、森和男さん(78)がいた。陛下と思い出を語り合ったという森さんは「家族や社会から追いやられた入所者を気に掛け、会いたいと思ってくださることがうれしかった」と振り返る。

※正しくは、両陛下に世界のハンセン病の情況説明をさせていただいた中で、両陛下は「香川県の大島青松園を訪問の折は海が荒れて着岸できず、船から出迎えの皆さんに手を振って挨拶しました」とのご発言でした。

両陛下.png

◇ハンセン病
 らい菌による感染症。国の隔離政策が1907(明治40)年に始まった。戦後は完治する病気になったが、96年のらい予防法廃止まで強制隔離は続き、患者への偏見や差別を助長した。日本財団は2006年から毎年、差別撤廃を訴える声明「グローバル・アピール」を発表。関連行事を開いている。

産経新聞【正論】海洋の危機に国際的統合機関を [2018年06月25日(Mon)]
海洋の危機に国際的統合機関を


6月20日、日本経済新聞の夕刊は、一面トップでプラスチックゴミによる海洋汚染が深刻で、欧州連合(EU)は今後、使い捨てのプラスチック容器などの使用を禁じる方針であり、地球環境を脅かすプラスチックゴミの削減へ「海洋大国日本も積極的な対応が閉迫られる」とした上で、6月中旬にカナダで開かれたG7首脳会議で、「カナダ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアは海洋プラスチック憲章を採択したが、日本は人口一人当たりのプラスチック包装によるゴミ発生量がアメリカに次いで多いにも関わらず、アメリカと共に署名しなかった」と報じた。

以下は海洋危機に対する正論での私の意見である。

産経新聞【正論】
2018年6月13日


≪これ以上の負荷に耐えられない≫
 海洋環境の悪化が急速に進んでいる。漁業資源の枯渇、海の温暖化、酸性化、プラスチックごみの流入−。どれも人口が急膨張した人類の社会・経済活動が原因である。海はこれ以上の負荷に耐えられず、このままでは早晩、人類の生存が危ぶまれる事態となる。にもかかわらず国際社会の危機感はなお希薄で、肥大化した国際機関も十分に対応できていない。

 海には毎年1000万〜2000万トンのごみが投棄され、80%をプラスチックごみが占める。世界のプラスチック生産量は2014年時点で3億1100万トン、50年前の20倍を超す。海を漂ううちに紫外線や波の力で5ミリ以下のマイクロプラスチックとなり、食物連鎖を通じて小型魚から大型魚さらに人間の体内にも取り込まれる。

 汚染は地球規模に広がり、欧州連合(EU)は5月、ストローなどプラスチック製品の製造禁止と25年までにプラスチックボトルの90%を回収する方針を加盟各国や欧州議会に提案した。国連も今年1月、代替品の開発などを検討する専門家グループの設置を決め、わが国もプラスチックの大量削減に向けプラスチック資源循環戦略の策定に乗り出した。

 ようやく取り組みが始まった形だが、一方で途上国を中心に現在も年間800万トンを超すプラスチックごみが海に流れ込んでおり、持続可能な海を保つために一刻の猶予も許されない状況にある。

 漁業資源も然りだ。この半世紀で世界の人口、1人当たりの魚介類消費量とも2倍以上伸び、結果、世界の魚介類消費量は50年前の5倍に膨らんだ。世界人口は60年には100億人に達すると推計され、魚介類の消費量は途上国を中心にさらに増える。

 ≪ばらばらで実効性乏しい組織≫
 世界の海洋生物はこの40年間で50%も減少したといわれ、国連食糧農業機関(FAO)によると、わが国の周辺海域を含む北西太平洋海域では既に24%の魚介類が生物学的に持続不可能な状態となっている。資源の減少が高値を呼び、違法操業が増える悪循環も深刻化している。

 温暖化に伴う海面上昇も深刻である。太平洋の島嶼(とうしょ)国キリバス共和国では水没の危機が叫ばれ、キリバス政府は将来の国民の海外移住を視野に、同じ島嶼国のフィジーに広大な農地を購入している。現在のペースで温暖化が続くと今世紀末までに海面が約1メートル上昇するとの研究報告もある。

 1994年に発効し、現在、世界168カ国・地域が批准する海の憲法・国連海洋法条約は、海の3分の2を占める公海を「人類の共同財産」としている。しかし、新たに発見された海洋資源をめぐり各国の利害が衝突し、どう管理していくか、有効な知恵はいまだに出されていない。

 国連にはFAOや国際海事機関(IMO)、国連環境計画(UNEP)など海洋に関する9機関があり、それぞれが条約や協定、議定書を管理している。だが採択されても条約や行動規範に強制力や実行の担保はなく、違法操業などに効果的な対応を取れていない。

 多省庁にまたがり縦割りの弊害が指摘されている日本の海洋政策と同様、各機関が独立・分散している現状にも問題がある。このため筆者は昨年6月、海をテーマに初めて開催された国連海洋会議で海洋問題を国際的に総合管理する政府間パネルの設立を提案し、具体化に向け多くの国の賛同を得た。

 ≪1万年先を見据えた保存活動を≫
 海は地球の70%を占める。しかし人類は太古から陸を中心に生活を築いてきたが故に、海に対する関心は低い。海の危機は、17世紀オランダの法学者グロチウスの「自由海論」そのままに海を野放図に使ってきた結果である。

 海洋資源の活用が現実化するにつれ激しさを増す領海や排他的経済水域(EEZ)をめぐる紛争を前にすると、国際社会にはなお、海を無限と見る風潮が根強く残っているような気がしてならない。海の再生が二の次となる事態を憂慮する。

 スウェーデンの港町マルメにある世界海事大学(WMU)では途上国の海事関係の人材育成に取り組み、日本財団も運営に協力。これまでに140カ国、1200人を超す海洋専門家を育て、今回、新たな付属機関として「笹川海洋研究所」を設立することになった。

 5月、その開所式に当たり、昨年秋に死去した伝説的なアメリカン・インディアンの指導者デニス・バンクス氏の「われわれは7代先の子どもたちのために今何をしなければならないかを決めている」との言葉を借り、1000年、1万年先を見据えた海の保存を訴えた。

 健全な海を後世に引き継ぐのは人類共通の責務である。国際社会は“母なる海”の厳しい現実を直視する必要がある。その上で海洋保全に向けた新たな国際的統合機関の設置を、各国に強く訴えたい。海に守られてきた海洋国家・日本が、その先頭に立つべきは言うまでもない。
(ささかわ ようへい)

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