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産経新聞【正論】年頭にあたり 大いなる楽観が国の将来を開く [2017年01月11日(Wed)]
年頭にあたり 大いなる楽観が国の将来を開く


産経新聞【正論】
2017年1月6日


 ≪確実に増える未来志向の若者≫
 私はかねて、日本の現状や将来を悲観的に見る知識人の考えに疑問を持ってきた。多くの課題を抱えているとはいえ、日本は世界で最も豊かで安定した国であり、何よりも素晴らしい未来志向を持った若者が確実に増えてきているからだ。

 確かに現状では、将来を悲観的に見る若者の方が圧倒的に多い。内閣府が2013年、日本を含めた7カ国の13〜29歳の男女を対象に行った意識調査でも、自分の将来に「希望がある」と答えた日本の若者はわずかに12.2%。2番目に低かったフランスの半分、最も高かった米国の4分の1以下で、「どちらかといえば希望がある」を加えた数字も各国と20〜30ポイントの開きがあった。

 背景には少子高齢化や地方の過疎化、国債や借入金など国内総生産(GDP)の約2倍、1050兆円にも上る国の借金など不安要因の増加がある。毎年1兆円近い社会保障費の膨張が年金や医療制度の将来に不安を投げ掛けている点も見逃せない。

 世界の富の半分をわずか1%の富裕層が独占するとされる中、「平等社会」といわれた日本でも格差は拡大傾向にあり、われわれが行った調査では子供の6人に1人が貧困状態にあり、このまま放置した場合、生涯の社会的損失は42兆円に上ると推計されている。

 しかし事態は、先の見えない混乱が続く中東は別にしても、移民問題などで「極右」勢力が台頭する欧州連合(EU)や大統領選で世論が大きく割れた米国などの方がはるかに深刻である。

 ≪内向きと決めつけるのは早い≫
 だから日本の未来の方が明るいと言うのではない。私が、わが国の未来に希望を持つのは、近年の若者世代の新たな変化に期待してのことだ。厚生労働省の調査によると、大卒者の就労3年以内の離職率は3割にも上っている。

 仕事で全国各地を回り、ボランティア活動などに取り組む若者と話すと「普通に生活できるのであれば、社会に役立っていると実感できる仕事にかわりたい」と語る若者が驚くほど増えているのを実感する。「一流大学を出て一流会社に就職する」といった若者の価値観は確実に変化し始めている。

 昨年9月に都内で開催した「ソーシャルイノベーションフォーラム」にも全国から2千人を超す若者が詰め掛け、人口減少など、この国の将来について3日間にわたり熱い議論を行った。

 自民党青年局長を務めた小泉進次郎衆院議員も出席、「悲観的な考えしか持てない人口1億2千万人の国より、将来を楽観し自信に満ちた人口6千万人の国の方が、成功事例を生み出せるのではないか」と語り、会場から拍手が起きた。

 わが国は戦後、一貫して行政主導で発展してきた。しかし社会が複雑多様化する中、国や自治体だけであらゆる課題に対応するのはもはや、不可能。行政の側にも若者を中心とした「民」との協力を模索する動きが強まっている。

 こうした新しい動きが若者の社会参加を促し、社会づくりに向けた若者の意欲・責任感も一層高まる。国の将来にとってこれに勝る力はない。海外への留学生の減少といった一事で「若者は内向き」と決め付けるのは早計である。

 ≪日本が変わる好機ととらえよ≫
 わが国には総額340兆円、連続25年間、世界一を記録する対外純資産もあり、国債残高もギリシャなどと違い90%以上を国内の投資家が保有する。失業率も3%台と各国に比べて低く、豊かな自然、治安の良さ、先端的な省エネ技術など新しい時代を切り開く知恵も豊富にある。

 加えて世界有数の災害多発国として育まれた安全意識や思いやり、協調性、親切心といった世界でも稀(まれ)な特性がある。地震や台風など大災害で助け合い、協力して復興を目指す日本人の姿こそ社会づくりの基本となる。

 近年、CSR(企業の社会的責任)に代わる企業の社会貢献策として注目されるCSV(共通価値の創造)も、江戸時代に近江商人が確立した経営哲学「三方よし」(売り手よし、買い手よし、世間よし)が、その精神を先取りしている。株主の利益を第一とする外国企業と違い、日本企業の多くは300年を経た現在も定款で「社会貢献」をうたっており、CSVの受け皿は十分、整っている。

 「悲観論者はあらゆる好機の中に困難を見つけ、楽観論者はあらゆる困難の中に好機を見つける」(ウィンストン・チャーチル英元首相)という。新たな秩序確立に向け国際社会が激動する中、日本が大きく変わる好機である。

 恵まれたこの国の特性や、次代を担う若者の意識の高まりを前にすれば、日本の将来を悲観する必要は全くない。

 大いなる楽観こそ、この国の将来を切り開く、と確信する。高齢者も含め、皆が明るい希望を持って努力すべきときである。

(ささかわ ようへい)


産経新聞【正論】日本流国際支援に誇りと自信を [2016年12月19日(Mon)]
日本流国際支援に誇りと自信を


産経新聞【正論】
2016年12月2日


 国際社会が大きく揺れ、日本外交も難しい局面を迎えている。その中で1991年から10年間、世界1位の座にあった日本の政府開発援助(ODA)は現在、世界5位に後退している。

 しかし、覇権や反対給付を求めず相手国の目線に立って支援する日本の国際貢献に、途上国の評価、期待は逆に高まっている。

 1千兆円を超す借金を抱え、少子高齢化の進行で経済が停滞する中で、日本が国際社会で安定した地位を確保していくためにも、引き続き質の高い支援を継続・発展させる必要がある。

 ≪高いアフリカ諸国の期待感≫
 政府主催の第6回アフリカ開発会議(TICAD)が8月、ケニアの首都ナイロビで開催され、日本は民間投資も含め総額300億ドルの援助を打ち出した。

 中国が昨年の第6回中国アフリカ協力フォーラム(FOCAC)で打ち出した支援額の半分にとどまるが、産業や経済、公衆衛生分野などの人材育成を中心に「1千万人の人づくり」を柱に据え、インフラ重視の中国ODAとの差別化を図っている。

 会議には70社に上る日本企業の経営幹部も参加、国際協力機構(JICA)や各企業の出展ブースも用意され、2日間で1万人を超す人が会場を訪れた。

 TICADは93年以来、5年ごとに日本で開催されてきたが、アフリカ連合(AU、54カ国・地域)の強い要請で6回目の今回からアフリカと日本で3年ごとに開催することになった。大統領13人を含む各国の首脳も多数参加し、アフリカ諸国の対日期待感の高さをうかがわせた。

 今年は、笹川アフリカ協会(SAA)の設立30周年にも当たり、期間中、同じ会場で記念シンポジウムを開催した。SAAは84年、エチオピアを中心にアフリカを襲った大飢饉(ききん)に対する食料援助をきっかけに、ジミー・カーター米元大統領や緑の革命でノーベル平和賞を受賞した故ノーマン・ボーローグ博士の協力を得て発足した。

 食料支援は一時的に空腹を満たすことができるが、食料問題を解決するには農業増産こそ欠かせない。SAAでは「魚を与えるより釣り方を教えよ」の考えの下、計14カ国で約6千人の農業普及員を育成し、農業の普及に向け文字通り第一線で活躍している。

 ≪「最も信頼できる国」のトップ≫
 国の発展には道路や港湾などインフラの整備はもちろん欠かせない。しかし国の将来を切り開いていくのはやはり人である。われわれの取り組みに限らず、JICAの専門家研修や文部科学省の官費留学、青年海外協力隊など、日本が取り組む人材育成支援はアフリカでも高い評価を得ている。

 仕事で世界各国を回るうち、日本の人材育成制度で学んだ経験を持つ大臣や高級官僚に出会う機会が増えた。日本での研修に誇りを持つ彼らの姿を見るにつけ、こうした人材ネットワークが日本外交の大きな力になると実感する。

 成長著しい東南アジア諸国連合(ASEAN)各国のうち7カ国を対象に日本政府が2年前に行った世論調査では、90%の人が「日本政府の経済・技術協力が自国の発展に役立っている」と答え、これらの国に支援実績を持つ11カ国に対する評価でも、日本は「最も信頼できる国」のトップに挙げられている。

 BBCが2005年から行っている「世界の貢献度調査」でも日本は計3回、肯定的な評価を受ける国のトップに選ばれており、今年9月には青年海外協力隊がアジアのノーベル賞といわれるラモン・マグサイサイ賞をフィリピンの財団から授与された。

 ≪国民の強い支持が不可欠だ≫
 少数民族の和解に向け、筆者が日本政府代表を務めるミャンマーでも経済や教育、医療、農業などあらゆる分野の人材育成、技術供与に協力する日本への期待は極めて大きい。

 日本は貿易依存国であり、海外から資源や食料を安定的に確保するためにも、途上国との信頼関係は欠かせない。欧米先進国と違い、歴史的にも宗教的にも多くの途上国と中立の立場で付き合える強みもある。

 問題はそうした国際貢献を国民がどこまで支えるかにかかる。各種調査によると、肯定的に評価する声は30〜40%台にとどまり、あまりの数字の低さに戸惑いさえ覚える。

 かつて知日家の英国人陶芸家バーナード・リーチは「日本にはあらゆるものがあるが、日本がない。今、世界でもっとも反日なのは日本人だ」との言葉を残したと聞く。リーチの死後、30年以上たった現在も、この国は自己否定、自虐思想から抜け出せずにいることになる。国民の支持なしに外交は成り立たない。日本が引き続き国際社会に貢献していくためには国民の強い支持が不可欠だ。

 世界はドナルド・トランプ米次期大統領の登場で間違いなく流動性を増す。国民の誇りと自信を背景に日本流の支援を強化・発展させることが、国際社会での日本のプレゼンスを確立する。

(ささかわ ようへい)



産経新聞【正論】工賃3倍増で障害者対策強化を [2016年11月04日(Fri)]
工賃3倍増で障害者対策強化を


産経新聞【正論】
2016年10月28日


≪生活保護に頼る現状から脱却≫
 日本には働いても月1万数千円の収入しか得られない人たちがいるのをご存じだろうか。障害の程度などから一般事業所での雇用が困難とされ「就労継続支援事業」で就職に必要な知識や能力の向上を目指す障害者のうち、特に雇用契約が難しいとされるB型事業で働く人たちだ。

 全国で約1万事業所、20万人に上り、国も工賃倍増計画を打ち出しているが、「障害の有無にかかわらず、すべての国民が共生する社会」を目指す障害者総合支援法(2012年公布)の理念には程遠い現状にある。

 障害のある人は全国で790万人。全体の社会参加、生活アップを促進するには、まずはボトムにある20万人の工賃アップこそ先決と考える。仮に3倍に底上げできれば、障害者手当を含めた月収は10万円を超え、生活保護に頼る現状から脱却する道も開かれ、社会保障費の抑制だけでなく、障害のある人の自信にもつながる。

 障害者総合支援法に基づく就労支援施設には、全国約3000カ所、約5万5000人が働く就労継続支援A型の事業所とB型事業所の2つのタイプがある。

 ともに一般企業への就職は難しいとされているが、A型は雇用契約を結び都道府県が定める最低賃金以上が支払われ、月平均賃金は12年現在約6万8700円。これに対しB型は障害の程度が比較的重い人たちが対象で雇用契約はない。最低賃金を大幅に下回るため支払いも工賃と呼ばれ、額も月平均約1万4800円にとどまる。

 この結果、月6万〜7万円の障害基礎年金を受給しても生活を維持するのは難しく、多くが生活保護に頼る現実がある。地域にもよるが、障害者1人が最低限の生活を維持するのに必要な収入は月10万円前後とされ、仮に工賃が現在の3倍の4万5000円前後になれば、この数字は達成でき生活保護に依存する必要もなくなる。

 実現すればA型事業所で働く障害者の賃金だけでなく、就労支援施策の対象となる18〜64歳の障害者320万人の待遇改善にもつながるはずだ。

 ≪必要な事業者の意欲刺激策≫
 しかし就労不可能な重度の障害者も多く、国が10年前にスタートした工賃倍増計画も思うように進んでいないのが実態だ。日本財団が全国2000カ所以上で取り組んできた古民家改修などによる障害者の就労場所の整備も、働き場所の拡大にはなったが賃金アップにはつながらなかった。

 背景には、就労作業が長年、障害を理由に工賃の低い軽作業を中心に用意されてきた歴史がある。従って今、何よりも求められるのは、障害者を「社会的弱者」として「保護」の目線で見てきた行政や事業者の意識改革である。

 近年、障害のある人が働く食品工場やレストラン、喫茶店やパン工房など、成功事例が全国的にも増えており、事業者には障害者の工賃・賃金アップに向けた新たな顧客獲得や個々の障害者に合わせた付加価値の高い仕事の開拓が求められる。

 その上で、就労継続支援事業制度の一定の見直しも必要と考える。現行では就労支援事業の指定を受けた事業者には、障害者1人当たり月14万〜15万円の基本報酬が、事業に伴う利益の有無や多寡と関係なく給付される。

 これでは事業者の意欲を高めるのは難しいし、障害者の支援よりも、事業者の報酬確保が優先される結果になりかねない。事業者の前向きの取り組みを期待するには、やはり事業者の意欲を刺激する工夫が必要と考える。

 利益が増えれば、まずは障害者の工賃アップに反映させるのは当然として、事業者の報酬にも何らかの上乗せができるような仕組みが検討されてもいいのではないか。そうなれば事業者にも新たな企業チャンスとなり、双方が「ウィンウィン」の関係になる道も開ける。

 ≪1億総活躍社会にもつながる≫
 われわれも「民」の立場で、障害がある人の働く場所づくりに向けた就労支援プロジェクトを新たにスタートさせた。多くの事業を成功させた高知の関係者を組織に招き、協同で地方創生に取り組む鳥取県では工賃3倍、その他地域でも高賃金の障害者就労モデルを、全国の100カ所を目標に整備したいと思う。

 あわせて障害者就労の専門家の育成などを進め、ささやかでも「みんながみんなを支える社会」の創造に貢献したいと考える。

 パラリンピックの盛り上がりを見るまでもなく、障害者を健常者と区別する社会の目線は確実に姿を消しつつある。今後は少子高齢化に伴い労働力不足が深刻化する半面、障害のある高齢者は確実に増加する。

 B型事業所で働く人も含め、1人でも多くの障害者が普通に働ける職場を開拓することが、障害者の社会参加の機会を増やすだけでなく、安倍晋三内閣の「1億総活躍社会」、誰もが参加できるインクルーシブな社会、ひいては地域の活性化につながると確信する。
(ささかわ ようへい)  
   

産経新聞【正論】休眠預金活用に最大限の協力を [2016年10月31日(Mon)]
休眠預金活用に最大限の協力を


産経新聞【正論】
2016年9月27日


 金融機関に預けたまま10年以上、出し入れのない預金を活用する「休眠預金法案」(休眠預金等に係る移管及び管理並びに活用に関する法律案)が26日に開会した臨時国会中に可決成立するかが注目を集めている。

 2012年から翌年にかけ本欄で3回にわたり休眠預金の活用を提案した立場からも、法案が早期に成立し、休眠預金の移管・管理・活用態勢が整備され、一日も早く貧困世帯や障害者支援、地域課題の解決などに休眠預金が活用されるよう望みたい。

 ≪預金獲得運動で12億口座に≫
 日本の休眠預金問題の背景には、日本の銀行口座数が11年現在で国民1人当たり10口座、全体で12億口座に達し、1人当たり2〜3口座が普通の先進各国に比べて、異常に多い現実がある。かつて銀行業界が進めた預金獲得運動の結果で、この過程で膨大な仮名・偽名口座も生まれた。

 仮名・偽名口座は、マネーロンダリングを規制する国際的な政府間機関・金融活動作業部会(FATF)の勧告で03年以降は認められなくなり、以後、仮名・偽名口座を持つ預金者は、それが自分の口座であることを証明する手立てを失うことになった。

 金融庁によると、現在、年間に発生する休眠預金は1300万口座で約850億円。単純計算すると1口座当たり約6500円、90%以上が1万円以下の小口預金とみられるが、少額のため煩雑な払い戻し手続きを嫌い放置している人のほかに、仮名・偽名故に払い戻しを請求できない口座も相当な数に上るとみられる。

 こうした経過を踏まえれば、銀行業界は仮名・偽名口座の実態や、休眠預金を理由に利益計上された仮名・偽名口座の預金総額を明らかにする責任がある。金融が国の要であり、金融危機に際し公的資金を投入して金融システムの安定が図られた経過を見れば、余計その思いを強くする。

 しかし、法案成立に向けて過去を問わない方向で調整が進められてきた経過もある。それならば銀行業界にはこれに対する反省も踏まえて、休眠預金の活用に可能な限りの協力と努力を求めたい。それが銀行業界の責任の取り方であり、CSR(企業の社会的責任)強化、銀行の社会貢献活動の象徴にもなる。現実に実務面で銀行業界の協力は欠かせない。

 ≪「民」の公益活動を支援≫
 8年前に休眠預金を社会福祉事業に利用する「請求基金」を立ち上げた英国では、これまでに約720億円の基金のほかに、4大銀行が360億円を出資し、基金を側面から支援している。

 09年に休眠預金管理財団を発足させた韓国でも、銀行や郵便局の休眠預金や払い戻されない保険金など約100億円を財団にプールし、預金者が休眠預金口座の有無や金額を検索するシステムの構築・運用を銀行業界が人的・技術両面でサポートしている。

 法案は超党派の「休眠預金活用推進議員連盟」(塩崎恭久会長)がまとめ、5月に衆議院の財務金融委員会で審議を開始、先の通常国会では継続審議となった。

 臨時国会で可決成立すれば、休眠預金を預金保険機構へ移管、新たに指定活用団体を設立するほか、地域ごとの資金分配団体を決め、2、3年先には公益活動を行うNPOなどに対する助成、貸付制度が具体的に動き出す段取りのようだ。

 休眠預金の半額程度は、預金者の払い戻し請求に応じるため預金保険機構にプールされるようだが、国や自治体の財政難が深刻化する中で400億〜500億円が活用されることの意味は大きい。

 ≪寄付文化が育つきっかけにも≫
 現行のままでは休眠預金は金融機関の利益となり、国庫に入れば一般予算の中に埋没する。地域の民間団体の支援・活動強化に役立て、実効が上がれば社会保障費など公的な財政支出の削減にもつながる。そうなれば民間資金の参入も期待でき、そうした好循環が社会づくりの新たなシステムに成長する可能性も出てくる。

 日本ファンドレイジング協会がまとめた寄付白書によると、14年の日本の個人寄付は7400億円、これに対し米国は27兆3500億円と30倍を超す。税制など文化の違いもあるが、その差はあまりに大きく、今後どのように日本の寄付文化を育てていくか、今後の社会づくりを進める上でも大きな課題となる。

 休眠預金の活用は、個人に帰属する預金を使って社会課題の解決を図る点で、預金者から見れば寄付と同じ意味を持つ。払い戻されない宝くじ当せん券や生命保険、株主配当など休眠預金と同様に当事者が権利を行使しないまま眠っているお金は他にも多くあり、これらを活用すれば寄付文化が大きく育つきっかけにもなる。

 そのためにも、まずは関係者の幅広い努力と国民の理解・協力で休眠預金の活用を成功させる必要がある。休眠預金の活用が軌道に乗ったとき、地方の活性化、地方創生に向けた新たな可能性も視野に入ってくる。
(ささかわ ようへい)  
    

産経新聞【正論】国際協力で世界の海底地形図を [2016年10月21日(Fri)]
国際協力で世界の海底地形図を


産経新聞【正論】
2016年8月23日


 「母なる海」の危機が進行している。人類は海を自由に利用することで発展してきた。海が死ねば人類も滅びる。よく耳にする「健全な海を次世代に」ではなく、今こそ数百年、数千年先を睨(にら)んだ本格的な取り組みに着手しなければならない。

 ≪2030年までに完全解明を≫
 そんな思いで6月、モナコ公国で大洋水深総図(GEBCO)指導委員会と日本財団が共催した国際フォーラムで、2030年までに海底地形の100%解明を目指す新規事業の立ち上げを提案し賛同を得た。

 地表の7割を占める海には、マリアナ海溝のように水深が1万メートルを超し光が全く届かない深海も多く、人類が形状を把握している海底は全体の15%にとどまる。保有データを公開していない国や海底資源開発に取り組む研究機関や企業の未公開データを合わせても、せいぜい18%というのが大方の見方だ。

 全体の3分の2を占め、どの国も管轄権を持たない公海、特にインド洋や大西洋の赤道以南の海域にいたっては、船舶の航行も少なく測量データもほとんど存在しない。大接近したときでも地球から5000万キロメートル以上のかなたにある火星の表面の方が、人工衛星や米航空宇宙局(NASA)の探査車から送られてくる膨大な写真データによって、はるかに解明が進んでいるというから驚きだ。

 海底地形図の必要性は、20世紀初頭にモナコ公国のアルベール1世が提唱し、現在は国際水路機関(IHO)と国連教育科学文化機関(UNESCO)の政府間海洋学委員会(IOC)が共同で作成作業に取り組んでいる。

 国際フォーラムにはNASAや国際自然保護連合(IUCN)など国際機関、各国政府、企業関係者らも出席、筆者の提案に対し、政府間、産業間の協力が得られれば30年までに海底地形図を100%完成させるのは十分可能ということで意見が一致した。

 各国政府に未公表データの提供を呼び掛けるとともに船舶会社や水産会社に航行海域の深度観測など協力を求め、1キロメートル四方に1点程度の深度データを蓄積、人工衛星画像を利用した深海情報なども活用して順次、海底図の作成を進めることになる。

 04年からGEBCO指導委員会と日本財団が共同で取り組んでいる人材育成事業で既に33カ国で70人を超す海底地形図作成の専門家が育っており態勢も整いつつある。

 ≪海に対する希薄な危機感≫
 人類は長い間、野放図な海の利用を続けてきた。背景には17世紀のオランダの国際法学者グロチウスが唱えた「自由海論」に基づく「海の資源や浄化能力は無限」とする誤った考えがあった。同じ資源枯渇や環境破壊であっても、陸に比べ海に対する危機感は現在も希薄である。

 人類が深刻な海の現実に気付かぬまま、乱獲による漁業資源の枯渇や工場排水やゴミによる環境汚染、大気中の二酸化炭素濃度上昇に伴う海洋の酸性化などが進行し、世界の人口増で需要が高まる漁獲量は今世紀半ばまでに半減すると予測されている。

 酸性化に伴いサンゴの白化現象が進み、太平洋の島嶼(とうしょ)国キリバスのように温暖化による海面上昇で水没の危機が現実化しつつある国もある。海底情報は、国際社会がこうした海の危機に対応するための基本情報となる。

 船舶の安全航行や東日本大震災のような大地震発生時の津波や大型化が目立つ台風の進路予測、海水温上昇で変化する魚介類の生息分布を占う上でも大きな力となる。

 地球人口は今世紀半ばに90億人に達する。陸の資源の枯渇を前に、人類は食料も鉱物資源も海への依存を高めざるを得ない。

 ≪日本は主導的役割を果たせ≫
 四方を海に囲まれ、世界6位の排他的経済水域(EEZ)を持つ日本は、周辺海域に天然ガスの主成分となるメタンハイドレートや金や銀が堆積する熱水鉱床、レアアースを含む泥など豊富な資源の存在が確認されつつある。

 今春完成した海底広域研究船「かいめい」など本格的な調査船、海底映像や鉱物資源をサンプル採取する無人探査機などを備え、海底地形調査、海底地形図作成でも世界最先進国の立場にある。筆者はこれまで「海に守られた日本から海を守る日本」を提唱してきた。これからは「世界の海を守る日本」として主導的役割を果たすことが、わが国の責務でもある。

 海底地形図の作成は、言うほど簡単ではない。ひとつでも多くの国が参加し、取り組むよう求めたい。国際的な共同作業が拡大すれば、各国が自国の利益にこだわってしのぎを削るのではなく、海の公平・公正な利用が広がる。

 海は世界をひとつにつなぐ人類の共有財産である。国際社会が一致して海の健全化に取り組む態勢が整った時、無限のフロンティアとしての新しい海の姿が見えてくる。
(ささかわ ようへい)




産経新聞【正論】子供の貧困解決が喫緊の課題だ [2016年07月08日(Fri)]
子供の貧困解決が喫緊の課題だ


産経新聞【正論】
2016年7月7日


 ≪放置すれば20兆円の負担増≫

 貧困家庭に育った子供が社会に出ても貧困となる「貧困の連鎖」が深刻度を増している。日本財団が民間の研究機関とともに行った調査では、このまま放置すると、将来の経済的損失は約50兆円、社会保障など国の財政負担は約20兆円増える。

 これでは子供の将来を奪うだけでなく国の将来も危うくなる。政府も昨年10月から官公民連携による「子供の未来応援国民運動」をスタートさせているが、事態の深刻さに対する国民の認識はいまひとつ希薄な気がする。

 今回の参院選でも各党がそれぞれの政策を打ち出しているが、子供の貧困は将来の日本社会、財政の在り方にもかかわる重要課題であり、文字通り国民が一体となって取り組むべきテーマである。不登校児や難病児の支援など、子供問題に幅広く取り組んでいた立場から、われわれも、ささやかでも問題解決に貢献したいと考える。

 そこで注目するのが、子供たちを地域ぐるみで健全に育ててきた日本の古き良き伝統だ。問題解決には、こうしたコミュニティー機能の復活こそ必要で、全国各地に「家でも学校でもない第3の居場所」のモデルを設け、地域社会が問題解決に一役買う事業に育てたいと思う。

 ≪第3の居場所で地域社会再生≫
 厚生労働省の国民生活基礎調査(2012年)によると、所得が平均的世帯の半分(122万円)に満たず、貧しい家庭で暮らす18歳未満の子供の割合を示す貧困率は過去最高の16.3%に上った。1980年代から上昇を続け、先進34カ国が加盟する経済協力開発機構(OECD)の中では高い方から10番目に位置する。

 18歳未満の子供の6人に1人、約330万人が貧困家庭で暮らしている計算で、1人親世帯に限ると貧困率は54.6%に上る。

 当財団では、15歳の子供120万人のうち、1人親家庭、児童養護施設入所者、生活保護世帯で暮らす18万人を対象に、今の状態が続いた場合の社会的損失を試算した。この結果、彼らが生涯に得る所得は、大学進学率などが一般並みに改善された場合に比べ2兆9000億円少なく、税や社会保障の負担額も改善モデルに比べ1兆1000億円少なかった。

 18歳未満の子供全体で見ると、所得は49兆円、税や社会保障の負担額は19兆円少ない計算となる。その分、国内市場の縮小、国の社会負担の増加につながる。

 高卒者全体の大学や専門学校等への進学率は70%を超えるのに対し、生活保護世帯の子供は31%と低く、経済格差が教育格差を生み、それが就業・収入格差、さらに次世代の貧しさにつながる貧困の連鎖も浮き彫りにされている。

 近年、学校と自宅以外に居場所がない「1人暮らし児童」「子供の孤食」といった問題も出ているが、子供の貧困は親の責任であっても子供に責任はない。

 政府も2015年秋、「子供の未来応援基金」を立ち上げ、日本財団も管理業務の一端を担っている。しかし、設立から半年、寄せられた基金は6億円余にとどまり、安倍晋三首相も発起人に名を連ね、子供の貧困対策の目玉としてスタートした事業にしてはあまりに動きが鈍い。

 そんな事情もあって、独自に第3の居場所の整備に乗り出すことになった。日本の地域社会には一昔前まで、皆が集う「場」があり、子供たちはそこで遊びや社会のルールを身に付け、病気などで親が不在の場合は全員で子供の食事の面倒もみた。

 核家族化の進行と地域社会の崩壊で、こうした場がなくなった結果、子供だけでなく高齢者も居場所がなくなった。

 ≪「社会の総合的豊かさ」目指せ≫
 最近、待機児童の解消に向けた保育園の建設をめぐり、周辺の高齢者が「子供の声が静かな住環境を壊す」と反対するケースが増えていると聞く。送迎の自転車や車の増加といった問題もあるようだが、子供の声が聞こえない街が健全だとはとても思えない。

 元気な高齢者や専門知識を持つ民間非営利団体(NPO)や自治体の協力を得ながら、全国100カ所に子供や高齢者が集う場所を整備したいと考えている。

 国立社会保障・人口問題研究所の社会支出集計によると、13年度、年金や介護、ホームヘルプサービスなど高齢者向け支出は国内総生産(GDP)比11.3%の54兆6200億円、これに対し家族手当など子育て(家族)向けは同1.2%の6兆500億円と大きな開きがある。

 高齢者向けサービスが必要なのは言うまでもない。しかし国の将来を担うのは子供であり、子供をどこまで自立した社会の担い手に育てることができるかが国の将来を左右する。

 近年、社会の豊かさをGDPや経済成長率ではなく、福利厚生度を中心にした「社会の総合的な豊かさ」で測る考えが国際的に強まっている。子供の貧困の解決こそ、今後の日本社会の豊かさにつながる喫緊の課題である。
(ささかわ ようへい)

産経新聞【正論】比残留2世の国籍取得に勇断を [2016年06月15日(Wed)]
比残留2世の国籍取得に勇断を


産経新聞【正論】
2016年6月2日


 フィリピン残留日系人2世(残留2世)の日本国籍取得を進める上で懸案となっていた面接調査への外務省職員の参加が5月、初めて実現した。

 フィリピン日系人連合会の会長らが昨年7月、2万8000人の署名を添えて安倍晋三首相に早期解決を陳情したのを受けた措置で、在フィリピン日本大使館の参事官が調査に立ち会い、自ら何点か確認、陳述書にも署名した。

 ≪外務省職員が初めて立ち会い≫
 面接調査の対象となったのは、戦前2万人を超す日本人が住んだミンダナオ島の港町ダバオやその周辺に住む残留2世10人。いずれも新たな戸籍を作って日本国籍を取得する就籍の申し立てを東京家庭裁判所に行い、却下された経過がある。

 調査では日本人の父親の身元判明に直接つながるような新事実は出なかったが、日本人の子として生まれたことを十分、裏付ける内容となっている。外務省の署名が加わったことで、これまでフィリピン日系人リーガルサポートセンター(PNLSC)と日系人連合会が日本財団などの支援で作成してきた陳述書の信用性が増し、就籍の審判での活用も期待される。

 フィリピンでは1956年の日本との国交回復後も長い間、反日感情が強く、残留2世は「敵性国民」として憎悪の的となり、多くが半世紀近くも「日本人の子」であることを隠して生きた。

 今回の面接調査でも「日本人の子であることを示す写真や資料を捨てた」「出生証明書の父親欄にフィリピン人の名を記入した」−などの陳述が目立ち、身元確認の難しさを改めて裏付ける結果となった。

 ≪中国残留孤児に比べ際立つ遅れ≫
 同様に戦争で両親と離れ離れになった中国残留孤児の場合は、国が日中国交回復後の1981年から訪日調査を開始する一方、中国政府が「日本人の子」と認めた孤児の名簿を作成。これを家庭裁判所が証拠採用することで、両親の身元が分からない孤児に関しても就籍の道が開け、既に約1250人が日本国籍を取得している。

 中国残留孤児が満蒙開拓団など国策で中国に渡った両親とも日本人の子であるのに対し、残留2世は仕事を求めて沖縄など全国各地からフィリピンに渡った日本人男性と現地女性の間に生まれた子で、その違いを指摘する向きもある。しかし当時の国籍法は日本、フィリピンとも父系主義で、父親が日本人である以上、双方の立場に何ら違いはない。

 残留2世の国籍取得がここまで遅れた背景には、90年代に外務省が調査に乗り出すまで、その存在がほとんど知られていなかった、という特殊な事情がある。

 PNLSCや日系人連合会が把握している残留2世の総数は3545人。父親の戸籍に自身の名前が登載されていることが確認された2世ら1020人が日本国籍を取得しているが、残りは父親の戸籍が見つかったものの自身の名前が登載されていない、あるいは父親の戸籍そのものが見つからない状態にある。

 就籍による国籍取得が始まったのも2004年と遅く、この手続きで日本国籍を取得した残留2世は172人にとどまり、中国残留孤児に比べ遅れが際立っている。

 ≪条件は十分に煮詰まっている≫
 特別立法による救済の必要性を指摘する声もあるが、国会の動きは鈍く、目下、残留2世が日本国籍を取得する手段は就籍手続きに限られる。日本国籍がないため今も無国籍状態にある残留2世は既に故人となった人を除いても約1200人に上り、今のままで全員が日本国籍を取得するのは極めて難しい情勢にある。

 これに対しフィリピン政府は近年、新しい証拠や証言が得られた残留2世に関しては、遅延登録の形で、出生証明書や婚姻証明書の補充・訂正を過去にさかのぼって認める異例の対応を打ち出している。戦後、孤児が置かれた苦しい立場に配慮した措置と感謝する。

 今回の外務省職員による面接調査への立ち会い、陳述書への署名も、就籍による日本国籍取得を促進する上で大きな意味がある。フィリピン政府や外務省の一連の対応により残留2世に関しても、中国残留孤児と同様、就籍の申し立てに迅速・柔軟に対応できる条件は十分に煮詰まってきているのではないか。

 安倍首相は昨年、陳情を受けた際、「日本人としてのアイデンティティーを取得したいという(残留2世の)思いは当然だ」と一行を励ました。今年1月、国交正常化60周年を記念してフィリピンを訪問された天皇、皇后両陛下は、日本国籍の有無とは関係なく残留2世に等しく接し激励された。

 残留2世は大半が70歳代後半に差し掛かり、既に半数近くが故人となっている。残留2世が「日本人の証し」を手にするために残された時間は少ない。

 戦後71年を経て、新たな証拠を残留2世に求めるのは不可能を強いるに等しい。まずは司法が勇断をもって残留2世の国籍取得を前に進めるよう切に要望する。

(ささかわ ようへい)

産経新聞【正論】ハンセン病の歴史を記憶遺産に [2016年05月20日(Fri)]
ハンセン病の歴史を記憶遺産に

産経新聞【正論】
2016年4月14日

人類とハンセン病の闘いに2つの新しい動きが出ている。第1は世界保健機関(WHO)が制圧の基準とする「人口1万人当たり患者1人未満」をすべての国が達成、人類の長いハンセン病との闘いがひとつの節目を迎える見通しとなった点だ。

第2は世界に12億人の信徒を持つカトリックの総本山・ローマ教皇庁が6月、バチカン市国で日本財団と共催する国際シンポジウム。カトリック以外の宗教関係者も出席し、ハンセン病患者・回復者に対する偏見・差別の撤廃を世界に訴える予定で、宗教・宗派の違いがさまざまな紛争を引き起こしている国際社会に与える影響も大きい。

≪すべての国が制圧基準達成へ≫
ハンセン病は1980年代に3つの薬を併用する治療法(MDT)が開発されたことで「治る病気」となった。しかし治癒後も「元患者」として引き続き深刻な偏見・差別にさらされ、他の病気では考えられない悲惨な歴史をたどってきた。

一方で新しい患者の発生がほとんど見られなくなった先進国ではハンセン病の記憶が希薄になりつつある。差別をなくすためにも「負の歴史」を後世に伝える必要があり、WHOのハンセン病制圧大使として、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の記憶遺産への登録を目指す決意でいる。

亡父・笹川良一は83年、当時の法王ヨハネ・パウロ2世の招待を受けバチカンを訪問、筆者も随行した。その際、法王が亡父を抱擁してハンセン病制圧への取り組みに感謝の言葉を述べたことに深く感銘したのを記憶している。

ハンセン病はMDTを半年から1年間、服用することで治癒する。画期的な治療法の確立で、当時、世界で毎年100万人もの患者が発生していたハンセン病の制圧は大きく前進。95年から5年間、日本財団が、その後はスイスに本拠を置く製薬会社が世界で無償配布を進め、これまでに1600万人が治癒し、85年当時に世界で122カ国を数えた未制圧国はブラジル1カ国となっている。

ブラジル保健省は既に基準達成を確認済みと伝えられ、リオデジャネイロ五輪後の今秋にも調査結果が公表されると期待する。ハンセン病は長い間、「呪われた病気」「遺伝病」として恐れられ、何よりも本人の苦痛が大きい。患者数の大幅減少はそれ自体が極めて大きな意味を持つ。

しかし現在もインド、ブラジル、インドネシアを中心に年間15万人を超す患者の発生が確認されており、国レベルで世界が基準を達成したとはいえ、依然、基準を上回る州や地域を抱える国もあり、引き続き医療面でのハンセン病との闘いが続く。

≪宗教の違い超えバチカンで訴え≫
一方の偏見・差別との闘いも途上にある。国連は2010年に「ハンセン病患者と回復者、その家族に対する差別撤廃決議」を総会で採択。各国政府が具体的に取り組むガイドラインも示され、その徹底に向けたフォローアップ作業が進められている。

ローマ教皇庁も毎年1月の「世界ハンセン病の日」に患者や回復者を励ますメッセージを出し、2009年には偏見・差別の撤廃に向け筆者が主催するグローバルアピールにも賛同署名している。

そんな経過もあり、今回は日本の一民間団体であるわれわれのシンポジウム共催の提案を快く受け入れていただいた。現法王フランシスコは13年の就任式で社会的弱者の救済と環境保護を提唱。式には正教会やユダヤ教、イスラム教などの指導者も参列した。

シンポジウムには、このほかヒンズー教や仏教の関係者も参加、宗教の違いを乗り越えて偏見・差別の撤廃を世界に呼び掛ける予定で、長年、ハンセン病と闘ってきた身としてありがたく、敬意を表したい。

≪世界平和を考える一助に≫
わが国では、ハンセン病患者の厳しい隔離政策を打ち出した「らい予防法」が1996年に廃止されるまで90年間、約2万7000人が社会から隔絶されて生きた。

日本財団が4月から管理運営を受託することになった国立ハンセン病資料館(東京都東村山市)や、全国のハンセン病療養所に付随する歴史館には、文芸作品から絵画、写真、工芸、日記、自治会史など苦難の歴史を記した世界でもまれな資料が豊富に残されている。これら資料を記憶遺産に登録することで、ハンセン病の教訓を後世に伝える道も広がる。

現在、世界で348件、日本関係では平安中期に栄華を極めた藤原道長の、わが国最古とされる自筆日記など5件が記憶遺産に登録されている。各国の申請に基づき2年ごとにユネスコが審査・登録する仕組みになっており、全国ハンセン病療養所入所者協議会(全療協)などと協力して対応を急ぎたいと考える。

歴史を見るまでもなく、偏見や差別は争いや紛争を誘発する温床となる。ハンセン病の歴史を冷静に見つめ直すことが、世界の平和を考える一助になると確信する。
(ささかわ ようへい)

「支援金と義援金の違い」―寄付先の選定について― [2016年04月25日(Mon)]
「支援金と義援金の違い」
―寄付先の選定について―


私は、東日本大震災の時に支援金と義援金の相違点を指摘し、日本財団への支援金のご寄付をお願いした。

近頃は支援金、義援金の他に、救援金とか単に募金募集とか、志ある寄付者には判断がつきにくい言葉もある。要は、支援金はいち早く現場で活動するNPO、ボランティアの必要資金のことである。

それ以外の寄付金は、集まった募金を検討委員会にかけ、それぞれの自治体に一括寄付したり奨学金を設置したり、東日本大震災の例のごとく、決定して配布されるまで6ヵ月以上、一年近く時間がかかるものまである。

日本財団は支援金募集である。勿論、募金収入がなくてもFAXやメールでNPOやボランティアグループに100万円を限度に支援することは東日本大震災の時と変わりはない。

どうぞ、ご寄付の意思のある方は、透明性と説明責任を大切にしている日本財団の下記をご利用願います。

なお「支援金と義援金の相違」ついては、こちらをクリックしてください。

熊本地震ボランティア活動資金
銀行振り込み先:三菱東京UFJ銀行
支店名 :きよなみ支店
預金種別:普通
口座番号:2443179
口座名(漢字):公益財団法人日本財団
口座名(カナ):ザイ)ニッポンザイダン

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改めて支援金の重要性を訴える


産経新聞【正論】
2016年4月21日


 災害寄付には「義援金」と「支援金」という、ふたつの形がある。連日の激しい揺れで日を追うごとに被害が拡大する熊本地震を前に、どちらにするか迷っている方が多いかもしれない。義援金は大災害での被災者にお悔やみや応援の気持ちを込めて贈られる見舞金を指し、支援金は被災地で活動する民間非営利団体(NPO)や災害ボランティアを支えるために寄付される浄財をいう。 

 ≪ニーズに応じ柔軟、迅速に≫
 どちらも重要である点に変わりはないが、義援金は公平・平等を検討した上、被害の特定を待って配分額を決定するため、過去の例では被災者の手元に届くのに10カ月以上かかる。大災害の発生当初や熊本地震のように現在進行形の災害では、現地のニーズに柔軟、迅速に対応できる支援金がまずは必要ということになろう。

 しかるに日本では、義援金が圧倒的に多く、支援金は全体の1割程度にとどまる。熊本地震の被災地復興活動が本格的に始まるのを前に、改めて支援金の重要性を訴えたい。

 大災害では、被災者の救出や水道、道路など基幹インフラの復旧を国や自衛隊、自治体など「公」が担い、食料や飲料、生理用品など被災者が必要とする物資の募集や仕分け、全半壊した家屋の片付けなどを「民」が担う役割分担が定着しつつある。

 寄付文化が未成熟といわれた日本でも1995年の阪神淡路大震災以後、民間から寄せられる浄財は増加傾向にあり、東日本大震災の寄付額は海外も含め6000億円を超えた。しかし大半は義援金で、支援金は700億円前後にとどまったとされる。

 民が果たす役割の大きさに比べ、バランスを欠くともいえるが、ひとたび大災害が発生すれば、支援金の拡大こそ不可欠で、それが被災地の復興をいち早く軌道に乗せることにもなる。

 熊本地震では14日の前震発生以降も連日、最大震度5強の揺れが続き、10万人近くが現在も自宅に戻れないでいる。食料や水はようやく届き始めたものの高齢者や障害者に対する専門的ケアや、大きな余震を恐れて狭い車中泊を続け、体調を崩すエコノミー症候群に対するケアも手付かずに近い状態にある。

 強い揺れで災害ボランティアセンターの開設が遅れていることもあって、各地から駆け付けたNPOは一部を除き県外で待機状態となっているが、余震が終息すれば活動も本格化する。被災地の必要物資を再点検して全国から募り、各被災地に的確に届けられる態勢や、NPO団体が効率的に活動できる拠点施設の整備も急務となる。

 ≪民の活動へ多くの善意を≫
 強い揺れが何度も重なった被災地では、熊本県だけで倒壊家屋が3000棟を超えたと報じられているが、家屋の片付けや泥土の排出・清掃などは自衛隊や警察、消防の活動対象外。NPOや災害ボランティアに頼るしかない。そうした民の活動を支えるのが支援金であり、熊本地震で民の活動が本格化する今こそ、多くの人の善意を支援金に寄せてほしいと思う。

 日本財団は東日本大震災でNPOなど計695団体に7億円を支援し、被災地の復興に一役買った。熊本地震でも1団体当たり100万円を上限に活動資金を支援する方針だ。

 寄せられた支援金はすべてNPOや災害ボランティアの活動資金に充て、不足した場合は、将来の災害に備えて2013年に独自に立ち上げた災害復興特別基金を充てる考えでいる。

 支援金は「赤い羽根」で知られる中央共同募金会などにも受付窓口が設けられているが、歴史的に言えば義援金に比べ明らかに後発で、いまひとつ国民に浸透していない現実もある。NPO活動を活発化させる一方、支援金の使途に対する説明責任を徹底し、活動実績のない名ばかりのNPOが多数存在する現状を早急に見直し、NPOに対する信頼を高める工夫や、寄付金を希望する団体が、義援金、支援金のどちらを求めるのか、あらかじめ明示するような方法も検討する必要があろう。

 ≪国民へいっそうの浸透を図れ≫
 わが国は災害復興も官と民が共同して進める時代を迎えている。支援金は寄付を通じて国民が復興に参加する形とも言え、民の活動を活発化させる上でも、その存在はもっと重視されていい。近年は専門知識を身に付けたNPOも多く、国や自治体との連携を進めることで、新しい社会を切り開く力も増す。

 ただし、民の活動を活性化するには、資材や備品からメンバーの生活を支える手当まで豊富な資金が欠かせない。義援金に偏った現状は、被災者個人に対する支援と被災地全体の復興を両立させる上でも、やはりバランスを欠く。

 少なくとも義援金と支援金が同等の重みを持って社会に迎えられることが必要と考える。そうした認識が広く国民に共有されたとき、わが国の災害対策にも新たな可能性が出てくる。

(ささかわ ようへい)

産経新聞【正論】震災から5年「民の力」活用して復興に活路を [2016年04月01日(Fri)]
震災から5年「民の力」活用して復興に活路を


産経新聞【正論】
2016年3月10日


 東日本大震災の被災地復興をお手伝いしながら阪神・淡路大震災(1995年)当時に比べ、現場に大きな変化が出てきているのを実感する。

 専門知識を備えたNPO(民間非営利団体)と行政の連携が進み、CSR(企業の社会的責任)から一歩踏み出し、CSV(社会との共有価値創造)の考えに立って復興支援を企業戦略に積極的に取り込む企業が増えてきた点だ。

 ≪行政主導には限界がある≫
 大都市に被害が集中した阪神・淡路大震災と違い、被害が広域に拡散した東日本大震災で、行政が復興を主導するのは限界がある。少子高齢化に伴う過疎や国、自治体の財政も悪化している。

 「民」の協力を抜きにした被災地復興はあり得ない。NPOや企業など民の力と行政をつなぎ、新たな活力を生み出す試みを全国に広げていくことが、日本の社会づくり、地方創生に活路を開くことになる。

 全国有数のサンマの水揚げで知られる宮城県女川町で新しい動きを見てみたい。大震災当時、人口約1万人の女川町は大津波で根こそぎ破壊され、人口比最大の8%、827人が犠牲となった。

 カタールから寄せられた支援金20億円を基に2012年秋、3階建ての多機能水産加工施設が完成、一昨年の水揚げ高は震災前を上回り、復興の兆しも見える。しかし人口は昨年10月時点で約6300人まで減り、被災地最大の37%の減少率を記録している。

 こうした中、町の若手事業者が「復幸まちづくり女川合同会社」(合同会社)を立ち上げ、町や民間団体、被災地で大規模な復興プロジェクトを展開するキリングループが連携して支援した。

 特産の水産加工品のブランド力を高め売れ行きを伸ばし、町の過半を占める水産関係者の収入と観光客増を図ることで人口流出に歯止めをかける、というのが合同会社の狙い。会社の形態を取っているが活動実態はNPOに近い。

 地元の方言をもじった「あがいん(AGAIN)女川」のブランド名も決まり、既に31商品を登録、加工・販売の一本化にも取り組んでいる。とかく一匹オオカミになりがちな漁師たちの連帯感も高まっているという。

 ≪積極的な企業のCSV≫
 キリングループは被災地のホップを使ったビールも製造、国内ではいち早くCSV本部を立ち上げ、被災地の人々を応援しながら企業としての収益・経済的価値を追う積極的な企業戦略を持つ。
 
 大手化粧品会社など数社が、こうした企業戦略を打ち出し、NPOや行政と連携することで復興の一翼を担っている。力を増したNPOの存在は阪神・淡路大震災の「ボランティア元年」に代わって「NPO元年」の到来さえ感じさせる。

 東北の被災地の現状に対し「復興遅れ」を指摘する声もある。しかし被災地はもともと深刻な過疎が進んでいた地域であり、大津波に襲われた土地のかさ上げといった特殊な事情もある。被災地が広い分、課題も多く時間もかかる。

 加えてインフラなど基幹施設の整備だけでなく、より難しい心の問題もある。大津波対策を徹底させた高台移転や巨大な防潮堤建設がいまひとつ不評な背景には、長年、この地で暮らしてきた人々の海に対する熱い思いがある。

 日本財団が取り組んだ地域伝統芸能復興事業でも、同様の印象を強く受けた。事業では大津波で流失した神社の社殿や神輿(みこし)、太鼓などを寄贈、各地の祭りの復活に一役買った。

 「祭りこそ他地域に避難した人々が帰るきっかけになる」「祭りがあるから地元に残る」といった若者の声に、地域との絆や帰属意識がいかに大切か、あらためて思い知らされた。

 ≪地方創生とテーマは同一だ≫
 復興の鍵のひとつは、住民の流出をいかに防ぐかにある。東日本大震災では現在も17万人が避難先で暮らし、総務省がさきに発表した国勢調査の速報値では、岩手、宮城、福島3県の人口は8年前に比べ30万人も減少している。

 自然減だけでなく、地域の将来像が見えないまま故郷に別れを告げる人が相当数に上っていると思う。どのようなコミュニティーを作っていくのか。人口が減少する縮小社会を迎え「解」を見つけるのは簡単ではない。

 「みんなが支え合う社会づくり」を目指す鳥取県と日本財団の共同プロジェクトが今月からスタートする。同県の人口は全国の都道府県で最も少ない58万人、中山間地の過疎も進んでいる。

 復興は地方創生と同一のテーマであり、東日本大震災の被災地の経験を生かし多角的な取り組みに挑戦したいと思う。専門家の知恵も取り込み、NPOや企業、行政のさまざまな組み合わせ、連携を模索する中から、被災地の復興、地方創生の新たなモデルが見えてくるのではないか。そんな思いを強くしている。
(ささかわ ようへい)

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