東京に五色の五輪の旗がなびく日は来るのか?
「たばこの話」その3
―2020年オリンピック東京招致失敗か―
3月3日付東京新聞は「2020年夏季オリンピック招致を目指す5都市が提出した申請ファイルで、地元住人の開催支持率が65.2%で最低であった」と報じた。
バクー(アゼルバイジャン) 90%
イスタンブール(トルコ) 87.1%
ドーハ(カタール) 82%
マドリード(スペイン) 75.3%
東京(日本) 65.2%
国全体では
アゼルバイジャン 95%
スペイン 84%
トルコ 83.3%
日本 65.7%
カタール 記述なし
となっており、日本はさらに政府、オリンピック委員会、東京都の一段の努力が必要であることはいうまでもない。
一つ、日本ではあまり論争もなく問題にもなっていないが、無視できないのは「たばこ」と「オリンピック」の問題である。「オリンピック」の問題は、後段のワシントンタイムズをお読み願いたい。
世界中の大都市は「たばこ」問題に神経質で、公共施設の禁煙は当然で、たばこ会社の広告規制も強化されているが、日本の政府のたばこ規制は国際的には全く遅れており、無関心といってもよいほどである。
昨年前半、国際機関が集まるジュネーヴ(スイス)では、「たばこは殺人だ」と述べたブルントラント元WHO事務局長の伝統が今も続いている。そのWHOの本部近くにJT(日本たばこ)がビル建設を計画していると、真偽のほどは定かでないが、ジュネーブ雀の話題となり、筆者は肩身の狭い思いをしたものだ。計画は中止になったそうだが、火のないところに煙はたたずで、世界のたばこ業界の中でJTのノー天気振りはひときわ目立つ存在である。
下記の記事は2011年12月1日付のワシントンタイムズにクリストファー・ジョンソン氏が書いたものである(日本語訳 松崎道幸氏)。
バレーボールワールドカップのJTマネーで2020年五輪の東京招致に暗雲
―国連、市民団体、医師らがJTのスポンサー活動中止を求める―
日本は、日本たばこ産業(JT)が多くの女性と女子生徒に人気のあるワールドカップバレーボールのスポンサーとなっていることに国内からも国際的にも非難が高まっているため、2020年のオリンピック招致が失敗する危険を抱えている。
国連機関、NGO国際組織、日本国内の禁煙推進市民団体の医師と多くの活動家は、世界第三位のタバコ会社JTがワールドカップの後援を中止するよう求めている。このイベントには、スポーツイベントに対するタバコ会社の後援を禁止している米国などの国々の選手も参加している。
日本の2500名の医師が参加する団体は、JTのスポーツイベント後援活動が2020年のオリンピック招致を台無しにする恐れがあると主張している。
JTは国内法を適切に守っており、12月4日までの1か月間おこなわれるバレーボールトーナメントでは、タバコでなくJTの嗜好飲料部門のプロモーションを行うものであると述べている。
日本のバレーボールリーグでは、JTがJTサンダーズ(男子)と日本のトッププレーヤー・タケシタ・ヨシエを擁するJTマーベラス(女子)のスポンサーとなっている。
世界保健機構(WHO)のタバコ・フリー・イニシアティヴ・プログラム・マネージャーのアルマンド・ペルガ氏は、WHOが国際バレーボール連盟にコンタクトして、「連盟がこのような事態を許していることに失望の意を伝え、2002年に連盟がタバコと無縁のバレーボールを推進することを宣言したことを実践するよう申し入れる」と述べている。
WHOは、日本政府には2004年に他の173か国とともに批准したたばこ規制枠組み条約(FCTC)を誠実に順守する義務があると述べている。WHOの報道担当Timothy O’Leary氏は、この条約はスポーツイベントを含むあらゆる場におけるタバコ産業の宣伝と後援を禁止していると語っている。
日本の医師団体は、JTが「条約に違反して」日本代表選手のユニフォームとコート周囲のデジタル広告ボード、テレビCM、会場の代々木体育館の女子生徒、母親、子どもたちなど入場者への「景品」にJTのロゴを表示していると非難している。
2004年のFCTCは「国際法上の義務である」とペルガ氏は電子メールで言明している。
「我々は日本政府が、速やかに国際的約束を遵守して、今回のバレーボールトーナメントに見られる事態を是正するよう望む」
国際バレーボール連盟の広報担当者ヒロシ・タケウチ氏は先週本誌に対して、お茶やコーヒー飲料も販売しているJTは、連盟における「嗜好飲料部門」のスポンサーであると述べた。
JTは、バレーボールトーナメントの後援は「国内のすべての法律と自主規制コードに合致している」と述べている。
「バレーボール試合では、わが社の紙巻きタバコ銘柄の広告宣伝は全く行っていない」とJTは電子メールで回答している。
日本禁煙学会理事長作田学氏は、このJTの主張を「まったくナンセンス」と言い切る。
「JTは缶入りコーヒーも売っているが、最大の事業はタバコを売ることであり、収益の90%以上は紙巻きタバコによるものだ。そのような言い訳は通じない。」
作田氏が理事長をつとめる団体には2500名の医師が参加しており、JTの社長と、JTの株の51%を持つ財務大臣に対して、「条約違反」のJTによるバレーボールワールドカップの後援を中止するよう申し入れを行うことになっている。
作田氏は、日本政府が何もしなければ、2020年オリンピック招致は危うくなるだろうと述べている。
「この問題は日本にとって障害となる。オリンピック会場周辺は禁煙としなければならない。ワールドカップバレーボールで彼らが行っているのは、選手のユニフォームや会場内にJTのマークを表示させていることである。これはオリンピックでは完全に禁止されていることだ。日本へのオリンピック招致にマイナスとなろう。」
国際オリンピック委員会は2020年開催都市を2013年に選ぶ予定である。
先週の水曜日に東京都はオリンピックキャンペーン用の桜の花をあしらったロゴを発表した。野田佳彦首相は、先週、彼が「最高顧問」として2020年の夏季オリンピックを日本で開催するために個人的に支援したいと述べた。
1977年以降、日本はこのワールドカップを主催してきたが、この国際イベントは、JTの広告に取り囲まれて試合を行う世界各国の選手の映像を世界に放映してきた。心ある市民団体や評論家は、スポーツという健康なライフスタイルを喫煙と結びつけることに反対するプレーヤーにこの大会のボイコットを呼びかけてきた。
杏林大学の神経内科学教授でもある作田博士は、現在、禁煙学会所属の12名の弁護士がバレーボールワールドカップにおけるタバコの広告を即座に中止させ、JTとワールドカップ主催者に罰金を科す裁判所命令を請求する検討を行っているところだと語っている。
WHOは、禁煙が毎年、60万人の非喫煙者を含む600万人の人命を奪っていると述べている。EUは1991年にテレビを通じた、そして2005年には国際スポーツイベントにおけるタバコのCMを禁止している。
JTは電子メールで、「関連団体と協力しつつ、未成年喫煙防止活動を続けてゆく。こどもはタバコを吸ってはいけないからだ」と述べている。また「未成年喫煙防止協議会を組織して、警察、地域の諸団体と連携してさまざまな啓発キャンペーンを行っている」とも述べている。
しかし、このようなJTの反論が国際的に通用するとはとても思えない。たばこ規制の強化とJTのバレーボールからの撤退がなければ、東京へのオリンピック招致に大きな影響が出る恐れは充分にある。