「ちょっといい話」その114―笹川医学奨学生― [2019年08月14日(Wed)]
「ちょっといい話」その114 ―笹川医学奨学生― 日本財団では、姉妹財団の東京財団政策研究所を通じて世界43カ国69大学の修士・博士課程の学生に奨学金を提供。開始以来30年が経過し、世界で1万6000人の卒業生が活躍している。 1990年代の中国は貧しく、10大学(北京、南京、復旦、中山、雲南、貴州、重慶、蘭州、内モンゴル、吉林)にこの制度を適用し、世界の卒業生の半分、約9000人はこれら10大学の卒業生である。今年は設置25周年で、新疆(しんきょう)大学と内モンゴル大学で式典を行ってきた。 新疆は人口約2000万人。面積は日本より広く、高台からの眺めは素晴らしく、かつて前会長の曽野綾子先生とシルクロードを車で旅したときに目にした山頂に雪の残る天山山脈を遠望することができた。新疆は1つの省でありながらカザフスタン、キルギスタン、モンゴル、アフガニスタン、パキスタン、インド、ロシアと、7カ国と国境を接する省である。 新疆大学のある地域はウィグル族が多数住む所で、最近は緊張地帯になっており、我々一行も5人しか参加の許可が出なかった。報道で知るウィグル族への弾圧は、首都であるウルムチ市では知ることができず、当然ではあるが、心残りではあった。大学当局が上部への忖度から神経質になったものであろう。 空港には日中医学協会を通じて支援しているもう一つの奨学金事業、日中笹川医学奨学金制度の奨学生であった李南方先生が出迎えてくれた。30年振りの邂逅(かいこう)である。日本での研修を終えた笹川医学奨学生は、今日まで2300名を越え、優秀な医者として中国国内で活躍している。李南方先生は確か、第2期生であったが、来日した際の歓迎会では、原稿なしで敬語を使用した感動的なスピーチをされたので、私の記憶に明確に残っていた。 どこで流暢な日本語を勉強されたのかとの問いに、日本の短波放送だけで勉強したと聞き、二度びっくり。当時、新疆自治区からの笹川医学奨学生の候補者は50名。その中でたった1人、李南方先生が選ばれたそうで、新疆から北京まで2日半の列車の旅だったそうだ。現在では飛行機で4時間である。 海を見たのも初めてで、1年間の笹川医学奨学生の生活は、自らの人生にとって忘れられない出来事であったという。その後、成績優秀で再度京都大学で学んで博士号を取得された。現在では中国で最も有名な「高血圧」の専門家として後進の指導に当られている。 |