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産経新聞『正論』新しい北極海、急ぎ国家戦略を [2012年11月19日(Mon)]

【正論】日本財団会長・笹川陽平
新しい北極海、急ぎ国家戦略を


2012年10月19日
産経新聞 東京朝刊


 北極海に対する関心が高まっている。夏場の海氷面積は20世紀後半の半分にまで減り、航路だけでなく海底に眠る膨大な原油・天然ガス開発も動き出し、米国、ロシアなど沿岸国は、「北極海は通航不可能」を前提としてきた従来の軍事戦略の見直しに入った。

 ≪シーレーン防衛、新課題に≫ 
 これに対し、日本は学術研究こそ先行したが、航路や資源確保に向けた取り組みは後発の中国、韓国にも大きな後れを取る。尖閣諸島や竹島問題に関心が集まっているが、北極利用が高まれば、新たなシーレーン(海上交通路)の防衛や国際海峡である津軽海峡の管理など新たな課題も出てくる。

 関係省庁が国土交通や外務、総務、防衛など10を超す縦割り行政で国として北極海戦略の大綱を打ち出すのは難しい。海洋基本法成立(2007年)に伴い官邸に設けられた「総合海洋政策本部」こそ司令塔となるべきだ。本部長の野田佳彦首相が先頭に立って新しい北極海に向き合うよう望む。

 この夏、北極海の氷面積は341万平方キロと過去30年間で最小を記録し、20〜30年後の夏場にはすべて姿を消すとの見方が強い。古い氷が硬く積み重なった多年氷に代わって、砕きやすい一年氷が増え、砕氷船が先導すれば通年の航行も可能となる。

 北極航路は15世紀の大航海時代から夢の航路として注目され、北東アジアと欧州の距離はスエズ運河、マラッカ海峡を通る南回り航路に比べ40%も短い。ソマリア沖の海賊問題のような不安定要素も少なく、原油や天然ガスの推定埋蔵量も世界の20%を超える。日本にとって南回り航路の代替路だけでなく、エネルギー資源の大半を中東に依存する不安定な状況を解消する重要な海域ともなる。

 平和利用を定めた南極条約のような国際的な取り決めはなく、米国、ロシア、カナダ、デンマーク、ノルウェーの沿岸5カ国にアイスランド、フィンランド、スウェーデンを加えた8カ国が直接利害国として、「北極評議会」を構成、北極海管理のルール作りを進め、英国、ドイツ、フランスなど6カ国も常任オブザーバーとして参加が認められている。日本も09年にオブザーバー参加を申請したが、イタリア、中国、韓国などとともに、評議会がOKを出した会議にしか参加できないアド・ホック・オブザーバーの立場にとどまり、正式なオブザーバー資格取得が急がれる。

 中国や韓国は、大学や研究機関の調査・観測活動こそ日本に遅れたものの、その後の対応ははるかに前向きだ。特に中国は8月、砕氷船で北極海を初横断、帰路はロシア沖を通る北東航路、カナダ沖の北西航路とも異なる第3の中央航路の通過に成功した。アイスランドやグリーンランドへの外交攻勢、研究所建設など国家意思の強さには目を見張るものがある。

 ≪砕氷能力調査船、中韓は保有≫ 
 オブザーバーになるためにも、日本は国際的な調査活動を強化すべきだった。私自身も1993年から6年間、海洋政策研究財団がロシア、ノルウェーの研究所と共同で進めた「国際北極海航路開発計画」の委員長を務め、横浜からノルウェー最北部のキルケネスまで実験航海も実施。99年のオスロの国際フォーラムで「夏季はもちろん冬季でも砕氷船の助けがあれば通航可能」とする報告書を公表し、学術的にも高い評価を得た。


1995年夏、日本財団の姉妹財団である海洋政策研究財団は
調査船「カンダラクシャ号」をチャーターし
ノルウェーのフリチョフ・ナンセン研究所、ロシアの中央船舶海洋設計研究所と共に
北極海の海を試験航行した
カンダラクシャ号.jpg
カンダラクシャ号

砕氷船とカンダラクシャ号.jpg
砕氷船とカンダラクシャ号



 訪日したノルウェー外相から北極海の共同開発研究の申し入れを受けたのがきっかけで、“チャレンジングな夢の企画”とロシアにも協力を求め3カ国で実施した。現在の日本には、中韓両国が配備する砕氷能力付きの調査船もない。なぜ、これほどまでに遅れたのか、残念でならない。

 政府は8月、国交省内に北極航路の利用に向けた検討会を立ち上げた。ハブ港や氷海航行用船舶の整備、専門技術を持つ船員の育成など課題も山積している。政治、経済が低迷しているとはいえ、選択肢がないわけではない。要はやる気の問題だ。砕氷調査船にしても、当面は、南極観測船「しらせ」を北極海調査にも活用できるよう運用目的を変更すれば済む。

 ≪何よりも対露関係の重視を≫ 
 むしろ、北東アジアで北極海に最も近い場所に位置する国として安全保障の検討こそ急務である。ロシアは原子力潜水艦や砕氷船の建造を急ぎ、米国も「融氷した北極海における海軍作戦」の立案を急ぐなど各国の動きも慌ただしさを増している。日本だけが傍観しているわけにはいかない。

 同じ東アジアの中国、韓国との協調、新たな秩序作りが欠かせないが、何よりも重視すべきは北極海最大の沿岸国であるロシアとの関係である。ロシアにとって前庭ともいえる北極海の航路、資源の確保は国の生命線であり、日本が前向きに取り組めばロシアの利害とも噛み合う。

 日本は伝統的に北の海に対する関心が低いと言われるが、国民の意識は政治の在りようで変わる。したたかな外交こそ難航する北方四島問題を前進させる手掛かりともなる。(ささかわ ようへい)

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