産経新聞【金曜討論】―休眠口座預金― [2012年04月13日(Fri)]
【金曜討論】 ―休眠口座預金― 笹川陽平 VS 須田慎一郎 2012年4月6日 産経新聞 東京朝刊 13億口座もある膨大な休眠口座預金の取り扱いについては、国民の意見が分かれているというより、その真相が国民に正確に伝わっていないところが問題で、このまま金融業界に「知らぬ顔の半兵衛」のまま推移させないためにも読者の友人・知人に、是非、話題を広げてもらいたいのです。 以下、産経新聞よりの引用です。 ***************** 金融機関で10年以上、お金の出し入れがない休眠口座預金について、政府は経済の成長戦略などに活用する検討を始めました。「まさに『国民の埋蔵金』であり、社会貢献活動などに活用すべきだ」という日本財団の笹川陽平会長と、「『預金は預金者のもの』という銀行側の反発は強く、実現は難しい」と見る経済ジャーナリストの須田慎一郎さんに聞いた。(喜多由浩) ◇ ≪笹川陽平氏≫ ■合意形成し活用すべきだ ○「国民の埋蔵金」だ −−国に預金を取られる、と心配する声がある 「まったくの誤解だ。制度が変わっても預金者の権利は保護されるべきだ。ただ、現実には預金者に銀行からの通知が届かなかったり、預金が少額のため、交通費や面倒な手続きを考えて払い戻さないで放置されたお金がたくさんある。特に亡くなった両親や祖父母の預金はそうだ。郵便貯金分を含めた金融機関の総計では恐らく1兆円を下らないだろう。これこそ『国民の埋蔵金』ではないか。広く国民の合意を形成した上で社会貢献活動などに活用すべきだ」 −−銀行側は反対している 「金融機関は『休眠預金』を過去3年間だけで、払い戻し要求があった分を除いても1500億円以上を利益として計上している。銀行側は『(当局の)指導でそうした』などと説明しているようだが、国会議員の質問主意書への政府の答弁書によれば、あくまで銀行業界で決めた内規にすぎない。金融機関は国民の預金といいながら実際は多額の利益としている。こうしたお金の透明性と説明責任を確保して国民のために使いましょうよ、と提案しているのだ」 −−休眠預金の口座維持にもコストがかかっているとしているが 「全金融機関の口座数は約12億もある。かつて銀行が預金を増やすために率先して顧客に口座を作らせ、仮名での口座開設も認めていたからだ。それを今になって『コストがかかる』というのはおかしいではないか。しかも、休眠預金のうち、連絡がつかず、返せないお金の多くは仮名口座のものなのだ。銀行側は“過去の行状”について反省も足りなければ説明責任も果たしていない。政府と金融機関はまず、休眠預金に関する正確なデータを公表すべきだ」 ○国民全体でアイデアを −−活用する場合、「受け皿」組織はどこが主体となるべきか 「一番良いのは、金融業界自身が社会貢献活動として自主的に休眠預金を提供・活用するシステムを作ることではないか。そうすれば金融機関に対する国民の信頼も一挙に高まるだろう。この問題で、国家の力を借りて政治の介入を受けるのは、あるべき姿ではない。休眠預金を国庫に吸い上げて、そこに“シロアリのごとく”官僚がむらがればコストが高くついてしまうからだ。『国民のお金(休眠預金)』の使い道について、国民全体が関心を持ち、みんなで知恵を出し合えばいい」 −−応援する「国民会議」も発足した 「関心は非常に高い。金融機関とともにより良い方法を考えたい。貧しい人々への少額融資制度や障害者起業家への融資など、望まれればアイデアも出したい」 ◇ ≪須田慎一郎氏≫ ■活用すれば逆に「損失」も −−政府が休眠預金活用の検討を始めたが 「銀行など金融機関側の反発は相当に強い。一つは、消費税増税問題で窮地に陥り、国民の支持を失いつつある民主党政権が自身への批判をそらすため、この問題を利用して“銀行たたき”をしている節があることだ。『休眠預金を銀行が自分の懐に入れている』とアピールし、銀行を非難すれば、確かに世論は拍手喝采するだろう。もう一つは、銀行にとって『預金』を大切にすることは、企業としての社会的使命やカルチャーにかかわる重要な問題という意識が強いからだ」 ●多大なコスト −−「預金は預金者のもの」という発言もあった 「一口に『休眠預金』というが、金融機関は、連絡が取れなくなった預金者を捜すために、必死になって転居先などを突き止めるなど、ありとあらゆる手を尽くしており、作業には多大なコストもかかっている。それでも分からなかった預金については一定のルールに基づいて、納税後にいったん利益として計上しているが、その後も要求があれば、払い戻しに応じている。国が“召し上げる”といっても、簡単に『はい、分かりました』とはいえないだろう」 −−しかし、休眠預金の原因の一つは、かつて銀行側も認めていた「仮名口座」がある。コストの件でも、情報開示は十分とはいえないのではないか 「私見だが、休眠預金は『仮名口座』よりも、タンスの引き出しに通帳をしまったまま、忘れてしまったような少額の預金が多いと思う。情報開示には、預金者のプライバシーの問題もからんでくるが、今後、法整備など正式な手続きを踏んでからではないか」 −−ただ、現実問題として毎年、帳簿上は多額のお金が金融機関に入っている 「法人税の支払いなどを除いて実際に活用できるのは年間300億円程度だろう。だが、これは全金融機関を合算した額であり、一金融機関にしてみれば、それほど大きな利益にはならない。しかも、休眠預金の口座の維持や追跡作業には多大なコストがかかっている。こうしたコストはコンピューター全盛時代になっても、さほど変わりがない。むしろ、休眠預金を活用することで、“大義名分”ができ、金融機関が連絡先不明者の追跡作業を行わなくなる恐れがある。その『損失』の方がよほど大きいのではないか」 ●政治的意図見える −−実現は難しいと見るか 「制度が整い法律までできるようなら、金融機関も応じるだろう。だが今回は政権側の政治的意図が見え隠れしており、国民の支持も得られないのではないか」 ◇ 【プロフィル】笹川陽平 ささかわ・ようへい 昭和14年、東京都生まれ。73歳。明治大学政経学部卒。WHO(世界保健機関)ハンセン病制圧特別大使。「民」の立場から「公」への貢献をモットーに内外の現場で公益活動を実践している。近著に「紳士の『品格』」(PHP研究所)がある。 ◇ 【プロフィル】須田慎一郎 すだ・しんいちろう 昭和36年、東京都生まれ。50歳。日本大学経済学部卒。金融専門紙、経済誌記者などを経て、フリーに。銀行業界をはじめ、財務省、金融庁など金融関係を中心に幅広く執筆活動を行っている。著書に「サラ金殲滅」(宝島社)、「国債クラッシュ」(新潮社)など。 |